ワカメに成りまして
「今日からお前の
留学から帰ってきて数日後、突然父親から目の前の気弱そうなほんのり
Fate/stay night、魔術、聖杯戦争、令呪、英霊、サーヴァント、遠坂、衛宮、アインツベルン等など……。そのどれもが今の自分は知りもしない筈なのに知っている情報だった。そして思い当たる。あの作品には“間桐慎二”ってキャラクターが居たよな?それ、俺の名前だよな?今、目の前に居るのは“間桐桜”と呼ばれるラスボス系ヒロインだったよな?と。
そこまで考えた所で俺は、二次元のキャラクターに自分は成り代わったのだと気付いてしまった。いかにも不満がありますという顔で一向に挨拶をしない俺に父は訝しげにしていた。早く挨拶しろと促してくるが、俺はそれどころではなかった。脳裏に流れる大量の情報や人一人分の余剰な記憶、そして非現実的な現象に遭遇してしまったという事実に頭がパンクしそうになっていたからだ。
「ァ……」
「慎二!?」
「ほぅ……?」
流石に齢二桁にも満たぬ身体に膨大な知識を詰め込むのは無理があったのか、俺は高熱を出して義妹の目の前で気を失ってしまったのだった。気を失う直前、俺の何かの変化に気付いた
ーーーーーーー
「…………夢、じゃなかった」
新しく入った記憶に無い作りの部屋とベッド、小さくなってしまった手指を見て、ポツリと呟く。気を失う直前にあのクソジジィがやけにニヤニヤしていたことが物凄く気になるが、今はそれよりも状況を整理しておこう。
まず、“今の”俺の名前は間桐慎二だ。そして俺は数日前までは国外に留学という形で避難させられていた。それで戻って来たのは良いが、突然父から義妹だと言われ紹介されたのが後に聖杯の器となり、ルートによってはラスボス系ヒロインと呼ばれるようになる遠坂家の次女の“遠坂桜”だ。これらの知識は所謂前世の知識から来ている。これまた摩訶不思議ではあるが、己がゲームのキャラクターとして登場しているのだ。それもルートによっては死亡するキャラクターだ。そのキャラに俺は成り代わっている。
冗談じゃない。高校生で死ぬことがほぼほぼ確定しているだって?もう一度言う。冗談じゃない!俺はそんな早死になんてしたくないんだ。何としてでも彼が生き残れる唯一のルート、UBWへ行ってやるさ!本当は聖杯の器にされて痛い思いをするのは御免被りたいが、生き残れるのなら背に腹は代えられない。とにかく原作の彼を反面教師に、自身の生存確率をあげよう。原作崩壊なんて知るかよ。誰だって自分の命が一番だろうが。
まずは彼のように魔術に対する執着を無くして桜との確執を……と、考えた所で部屋の扉が開いた。開いた扉の方へ目線を向けるとそこにはあのジジィが居たのだった。
「お爺さま……?」
「おぉ起きて居ったか、慎二。心配したぞ?
嘘付け。と、欠片も心配を感じさせぬ声でそういうジジィに僅かばかりの殺意が湧いたが、彼が知るのはあくまでも子どもの慎二である為、ここはとりあえず謝罪を述べることで上手いこと本音を隠して誤魔化す。
「心配かけてごめんなさい、お爺さま」
「良い良い。留学している内に義妹が出来ていた事はお前にとってはいきなりで理解が追いつかなかったのだろうて」
「そう、ですね……」
本当はもっと別のことで脳がキャパオーバーした訳なのだが、俺が話しでもしない限り知りもしないだろう。むしろ今の所、いきなり義妹が出来たことに対する困惑からの発熱だと思っているようなので利用させてもらおう。
「カカカッ!だが、その発熱がキッカケで
「良いもの、ですか?」
何だかとてつもない嫌な予感がするのだが……。このジジィ、一体何を言うつもりだ?
「お主、自覚が無かったのか」
「えっと、何が……ですか?」
「お主が倒れる直前、ほんの一瞬ではあるがお主の魔術回路が反応していた」
「え……」
やっぱりろくな事じゃ無かった。てか、待てよ。魔術回路だと?俺の代で完全に無くなったんじゃなかったのか?予想もしなかった方面からの原作崩壊に思わず唖然としてしまう。そんな唖然とする俺を他所にジジィは軽快に笑うと、とんでもない事を言い放った。
「喜べ
「ぇ、あ……ま、魔術……ですか?」
俺の問い掛けにニヤリと歪んだ笑みを浮かべるクソジジィ。魔術に関わらないという戦略が一瞬にして崩れ去った瞬間だった。良からぬ予感からか、計画が早速破綻したことによる困惑からか、冷や汗が止まらなかった。何とか顔に出ていないことを祈るが、妙にテンションが高いジジィには俺の反応なんぞ気にはしないだろう。
「何じゃ。嬉しくないのか、慎二よ」
嬉しい訳無いだろ、クソジジィ。冗談じゃない……冗談じゃない、冗談じゃない!冗談じゃない!!冗談じゃないぞ!!!
「あ、えと……いきなりで理解が及ばなくて……。その、魔術?などと言われましても……」
とは言うが前文のように、思わず英霊召喚のパロディみたく冗談じゃないを連呼したくなるくらいに内心穏やかじゃなかった。何故魔術回路が無い筈の間桐慎二に魔術を教えるとこのジイさんは言っている?俺に魔術回路の反応があった?桜はどうするつもりなんだ?疑問はひたすらに湧いてくるが、とにかく今は前世の知識でボロを出さぬように知らない体で情報を得ることに意識を向けることにする。困惑は続くが、余裕が出来た時にまた整理すればいいんだ。今は何としてでも情報を聞きながら心を落ち着かせるんだ。
「それはまた追々教えてやろう」
いや今教えろよ!!!俺はお前の説明を聞いている内に心を落ち着かせたかったんだよ!!今教えなくていつ教えるんだよ、このクソジジィ!そんな心を落ち着かせられずブチギレ寸前の俺の気持ちなんて知りもせず、ジジィは俺の手を引いて何処かへ連れて行こうとしていた。
「あ、あの!お爺さま、一体何処へ行こうと言うのですか!」
「すぐに分かるわい」
分っっっかりたくねぇよ!!いや、知識持ってる俺は知ってるけど、お前蟲蔵に連れてく気満々だろ?!やめろよ!死ぬって!魔術回路が本当にある確信なんてないだろうがよ!
「ぇ、あ……、と、父さ……」
クソジジィに連れて行かれる中、僅かな希望とばかりにすれ違った父親に助けを求めたが、虚しくも目線を逸らされてしまったのだった。ガチで絶望した。
あぁぁぁぁ!!!マジでここにはクズしか居ねぇぇ……!!!そりゃこんな環境でスレたらあの間桐慎二が生まれるわなぁ!今、俺がその慎二に成っちまってるわけなんだが、すげぇ納得したよチキショウ……!!
そうして辿り着いてしまった蟲蔵。まだ中に入っても、扉を開けてすらないのに感じる禍々しい嫌な気配に背筋がゾッとする。それに合わせて第六感でヒシヒシ感じる危機感からか、先程から身体が小刻みに震えている。心の中ではボロクソに罵倒しているが、今は何としてでも何かに縋り付きたくてクソジジィの裾を指先が真っ白になるまで強く握り締めた。
「この先でお主に間桐の魔術を教えてやろう」
ガタガタ怯える俺を嘲笑いながら
「ぃ、嫌です……、お、お爺さま……。また、別の……別の日にできません、か……?」
「カカカッ、何を言うか。こういうのは早い方が良かろうて。早う先に行け」
「ひッ……」
俺の抵抗虚しく、ジジィは見た目に似合わぬ力強さで背中を押してくる。マジかよコイツ。本気でさっき魔術回路に目覚めたばっかりの孫を蟲蔵に突っ込もうとしてやがる。どれだけクズに成り下がってやがるんだよ。あぁ、クソッ!結局は言いなりにしかなれねぇ俺が情け無ぇ……ッ!
ついに俺は抵抗を諦め、一歩ずつおぞましい蟲が居るであろう蟲蔵の底へ続く階段を下っていく。下っていくに連れて、真っ暗な底の方からキィキィと甲高いナニカの声が聞こえてくる。言わずもがなクソジジィが使役している蟲どもの声だろう。この後、自分に降り掛かるであろう不幸を想像して吐き気が込み上げてくる。まぁ、吐き気よりかは身体の震えの方がかなり酷いのだが。
そんな風に時折現実逃避をしながら俺は、全ての階段を下りきってしまった。
「そのまま部屋の中央まで向え。慎二」
「っ……はい、お爺さま」
明らかに扉の前で感じていた気配よりも遥かに濃くなった異様な気配に今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られたが、後ろにはニヤニヤと笑みを浮かべるジジィが待機している為にそれは出来なかった。大人しく言われた通りに中央まで歩いていく。コツンコツン、と俺の靴が鳴らす音だけがやけに響いている。降りて来る時に聞こえてきた筈の蟲の声は不気味な程に聞こえなかった。
そうして部屋の中央まで辿り着いた時、バタリと扉が閉じる音が聞こえてきた。
「っ!?」
まさかと思いバッと後ろを振り返るが、後ろに居たはずのジジィの姿は見つけられなかった。ヤツはこちらが移動している間に扉の前まで移動していたようだ。
クソ……、どうする?あの扉は明らかに外からしか開けられない仕組みになっていた。恐らくはこの蟲蔵に入れた獲物や後継者が途中で逃亡するのを阻止する為だろう。それが閉じられたということは少なくとも俺に逃亡の手段は無くなったという訳だ。頭では冷静にこんなことを推察するが、心の中はそれどころではなく、身体の震えは一層増すばかりだった。
「ひっ……!」
足元で何がカサカサと蠢く音が聞こえ、恐怖に声が引き攣った。こんな音を立てるモノは一つしか思い当たらない。そしてここは間桐の蟲蔵。即ち足元でカサカサ蠢くモノの正体は蟲しか居ないのだ。
「く……来るな……!離れっ、ろ……!」
恐怖に後ずさるが、足元で鳴るグチャッという音に逃げ場はもう無いことを嫌という程自覚させられる。言葉が通じる筈も無いのにただひたすらに『来るな』『近寄るな』『離れろ』と連呼する。足元から這い上がる蟲を震える手で振り払うが、多勢に無勢でどんどんと蟲達が数を増やして近寄ってくる。胴体中程まで蟲が登りつめ、俺の命はここで尽きるのかと覚悟した時、“あり得ない筈の声”が聞こえてきた。
────『ヤット逢えた』『マッテタ』『怖がらナイデ』『
「は…………?」
とうとう恐怖で自分は狂ったのかと思った。だが、唖然とし正気となった今も片言の何者かの声がずっと聞こえてくる。どうやら俺の気が狂ったが故に聞こえてくる幻聴ではないらしい。そして、そのどれもが先程聞いた四つの言葉を繰り返しているもので馬鹿の一つ覚えかのように感じた。それに、蟲蔵入りした以上は桜や間桐雁夜のように蟲共に蹂躙される様を想像していたのだが、そんな様子は一向に見られなかった。蟲共の出す体液でベタベタにはなっているが、むしろその程度に収まっている。まるで俺に蟲共が戯れているかのようだった。
「な、何なんだよ、この声。まさか、お前ら……なのか?」
『そうだヨ』『キヅイテくれた』『王さま、気付いてクレタ』『嬉シイ』
本当に幻聴なんかじゃなかった……。嘘、だろ?何でこんな短期間にあり得ない事ばかり起きているんだ。魔術回路しかり、蟲の声らしきものが聞こえるとか……本当にあり得ない。でも現実なんだ。現に、胴体中程まで辿り着いた蟲共は何をするでもなくただただ意識してもらえたのが嬉しいとでも言うようにキィキィと上機嫌に鳴いている。
「……なぁ。王さまって、何の事だ?それにお前らの声はあのクソジジィにも聞こえるのか?」
『王さまハ王さまだよ』『蟲のコエを聞ける、ボクらの王』『それ以上ハ知ラない』『ゾウケンには聞こえナイよ』『ダッテ、王さまジャナイもん』
多種多様な声で俺の疑問に対する答えが一気に聞こえてきた。俺は聖徳太子でもなんでもないので、普通ならば聞き分けられる筈がないのだが、何故かすんなりと聞き分けることが出来た。その中で引っ掛かりを覚えた事を誰も居ないことを良いことに質問する。自分でもビックリするのだが、蟲達に対する嫌悪感は何故かこの頃にはすっかり無くなっていた。
「クソジジィが王さまじゃない?お前達を使役しているのにか?」
『ゾウケンはオレらを使役シテイルだけ』『ボクらは別にキキイレなくったってイイノ』『デモ餌が貰えなくナルのは困ル』『ダカラ従うノ』『でも使役サレルノなら王さまが良い』『アイツ嫌い』
「そう、か……」
とんでもねぇ事実が発覚しやがったよ……。何だよ王さまって。何だよ蟲は全部クソジジィが使役しているかと思ったら、こいつ等全員が自由意志持ってるんじゃねぇか……。しかも餌欲しさに従ってるだけかよ。なんかサラッと嫌われてやがるし。あまりの情報のカロリーに、俺は思わず頭を抱えた。ついでになんか胃痛もしてきたような……。
『アタマ痛いノ?』『大丈夫?』『心配ダよー』『ボクらを呑厶?』
「あぁ……大じょ……?!!ちょっと待て、今お前らを呑むだとか言ったか?」
『言っタ』『呑ンで?』『オレら、栄養にナル』『元気ニナルよ』『ついデニ魔術回路も増えル』『イッセキニチョー』
「いや、いやいやいやいや……!確かにこの現状に頭痛はするし、魔術回路が増えるのはまぁありがたいんだが、それとコレとは話が違────っ???!!」
こんな見た目の蟲共を呑むとか洒落にならないと言おうとしたのだが、何を勘違いしたのか蟲共は『ありがたい』の部分のみを拡大解釈して俺の口に群がってきたのだ。
「〜〜〜!!??!っ!!!?」
嫌悪感は無くなれども、蟲を呑むだなんていう馬鹿な事はしたくなくて両手を最大限に用いて振り払おうとするのだが、最初の時と同じく多勢に無勢で俺は敢え無く蟲を二、三匹呑み込む事になってしまった。
「っ……!!?ゲホッ!ぅ゙ぇ゙……、お前、ら……何しやがる」
蟲を呑んだ事による嫌悪感から喉奥に指を突っ込み、吐き出そうと試みるのだが、どういうわけか胃液や蟲が逆流してくる気配は無い。
『チリョウ!』『元気デタ?』『吐いチャダメ!』『もうチョットだかラ』『スグ馴染むヨ!』『入りたカッタ』
元気出る訳無ぇだろ、馬鹿野郎。むしろ気分が悪化したわ。これ以上入って来んな。等と話をろくに聞かない蟲共を罵倒してやりたかったが、それよりもどうにかして吐き出したかったので苦し紛れに睨みつける事しか出来なかった。
「クッソ…………、早く来やがれクソジジィ……」
王さまだとか本当に魔術回路が増えるのだとか気になることは沢山あるが、それよりもとにかくこの場から離れたかった。が、願いも虚しく扉が開く様子は全く無い。まぁどうせ俺の心がぶっ壊れるまで開けるつもりは無いのだろう。人の不幸は蜜の味を体現したような外道だ。助けを求めたって無駄だ無駄。ならいっそのことあのジジィの思惑通りに魔術回路を増やしてそして、あのクソを見返してやれば良いのか?
「そう言えば、お前らを呑めば魔術回路が増えるって言ったよな?一体いつ増え─────」
蟲共に魔術回路について尋ねようとした瞬間、身体に激痛が走った。
「ァ゙、がっ……な、何が起き……ぁあァ゙ァァァァァァ??!!?」
内臓を抉られでもしたかのような形容し難い痛みに俺は無様に服を握り締めながら床でのたうち回る。叫び声を上げた喉が張り裂けそうであったが、そんなのは構ってられなかった。全身が心臓にでもなったかのように脈打つのを感じる。明らかに上がった体温。のたうち回る俺を心配するかのように寄り添う蟲の体温の低さが心地よいと思ってしまう程だった。
「ハッ……ァ゙ぐッ……」
意地でなんとか叫び声を押し殺すが、その分呼吸をするのが苦しくなり、逆効果であった。けれどもクソジジィがこの叫び声を聞いている可能性を消す事は出来ず、結局押し殺す事を選択してしまう。そうして暑さと激痛と息苦しさの中、ついに俺は耐えきることが出来ず、本日二度目の気絶をすることになったのだった。
元は夢からなんで設定のガバは許してください……
短編集&不定期更新を予定してますので、もし仮に評判が良ければ更新頻度あがるかも。(同時並行更新は流石に無理があるので……)
第二話は三十分後にあげますよ〜