蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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〜今回のあらすじ〜
蟲爺が死んだ事で言峰綺礼の協力が得られなくなったから、慎二君が代役としてイリヤ救出に向かう事になったよ!


誰の為の正義か

 

 カチ、カチと時計の針が動く音だけが聞こえる静かな部屋の中、俺は衛宮が目覚めるのを簡易的な錬金術で戦闘時に必要となりそうな道具などを作製しながら待っていた。正直、叩き起こしてやってもいいかと思ったのだが、何か気が向かなかったのでこのまま放置する事にしている。

 

 それに、これからイリヤを救出に向かうのならば、体力を温存する事だって大切だ。いくら先を知っているとは言え、言峰の代理を俺が務める事になったんだ。何か別のイレギュラーが起きてもおかしくないしな。まぁ、その代わりだいぶ時間が経ってしまったけれどもな。窓からは夕日が差し込んでいる。

 

「ん…………、ここ、は?」

 

「よう、寝坊助。ようやっと起きたのかよ」

 

 そんな事を考えながら色々と錬成している内に、どうやら漸く衛宮が目覚めたらしい。起きてすぐにキョロキョロと辺りを見回して場所の確認を行っていた。

 

「慎二?という事はここは慎二の家なのか?」

 

「違えよ。ここは教会。お前、遠坂の治療を頼んだ後に気絶したらしいからな。神父がお前をこの部屋に運んだんだよ」

 

 衛宮は、見覚えない景色で俺が側に居たが為に、この場所が俺の家の一室だと勘違いしてしまったようだ。俺はすぐに否定し、言峰がこの部屋に運んだ事を説明する。

 

「そうだったのか……。え、じゃあ慎二は何故ここに?」

 

「あるサーヴァントに呼ばれてね。ここに来させられたんだよ」

 

「サーヴァント?まさか、まだ生き残りが居たのか?」

 

「そゆこと。ま、碌な用事じゃなかったがな」

 

 現にやった事と言えば、衛宮に対する協力の要請や蟲爺の死と治療の有無、そしてランサーのマスター権の譲渡についての話だ。その殆どが実現せずに終わったのだから、碌なモノではなかったと言っても変わり無いだろう。

 

「でもならどうしてこの部屋に?用事は済んだんだろ?」

 

「お前が起きたら暴走するだろうと思ってな。俺はブレーキ役として付き添いをしてやりに来たんだよ」

 

「俺が暴走?それはどういう?」

 

「イリヤスフィールの救出。どうせお前、一人でやるつもりだっただろ」

 

「っ!!」

 

 衛宮の目が驚きに見開かれた。どうやら図星だったらしい。何とも分かりやすくて単純な奴だ。

 

「今回きりだ、協力してやるよ。俺としても桜に大聖杯を開かれるのは困るんでな」

 

「え……?あぁ、助かるよ」

 

 俺の協力するという発言に、一瞬衛宮はキョトンとした表情を浮かべたが、すぐに凛とした顔つきになった。

 

「……ふーん?やる気はバッチリってか?んじゃ、外に出るぞ」

 

「ちょっ……今からか?」

 

「アホ。寧ろ今じゃなくていつ行くってんだよ。そもそも急がねぇと手遅れになるぞ」

 

 寝起きだからか寝惚けた事を言う衛宮に一発デコピンをかまして、俺は外へ向かう。衛宮も俺の後を付いて行く形で部屋を出て行ったのだった。

 

 それから、教会の門の前付近にまで移動してオベロンを呼び出す。車などの移動手段を持たない為、彼に抱えてもらってアインツベルンの城辺りまで行こうと考えたからだ。

 

「ルーラー。俺達を抱えてアインツベルンの城辺りまで行けるか?」

 

「マスター達を抱えて行くのは問題無いよ。でも、アインツベルンの城辺りまで行くのは難しいだろうね。僕は近付けばすぐに気付かれる可能性が高いから」

 

「なら何処まで行ける?」

 

「森の入口辺りまでが限界だね。それ以上は多分気付かれる」

 

「いや、十分だ。行くぞ、衛宮」

 

「おう!」

 

 気合いの入った衛宮の返事を聞き、俺達は目的地を目指した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「さて、僕が送れるのはここまでだね」

 

 風のように空を駆け、目的地である森の入口辺りまで辿り着いた。夕日はすっかり沈み込み、辺りは闇に包まれていた。

 

「助かったよ、ルーラー」

 

 オベロンに降ろされながら、律儀にも衛宮は礼を述べていた。

 

「僕はサーヴァントだからね。この程度は何とも無いさ。本当はもっと近くまで送りたかったんだけど……」

 

「いや、森の入口辺りまで来れたのならば十分だ。お前はここで霊体化して待機していろ。イリヤスフィールを救出して近くにまで来たら、念話で合図を送る」

 

「了解。気を付けてね、マスター」

 

「俺を誰だと思っているんだ。この程度、すぐに終わらせる」

 

 救出は別にマスターがやる事じゃないでしょー?と、オベロンにツッコまれながら俺達は森の中へ進んで行った。

 

 森の中を歩きながら、俺はある事を衛宮に尋ねた。

 

「衛宮、これから聞く質問に嘘偽り無く答えろ」

 

「あぁ、分かった」

 

「桜はもう、人喰いだ。無自覚にも、自覚した今でも多くの人間を殺してる。それでもお前は桜を擁護するか?」

 

 俺の問いに衛宮は答えはしなかったが、首を緩やかに左右に振ることで否定の意思を示した。

 

「被害者にとって、桜が死ぬ事で贖罪になると考える奴も居るだろう。被害者遺族にとって、そいつらにとって、桜は殺してやった方が償いになると、お前は思うか?」

 

「違う、それは償いなんかじゃない。生きていたって償う事は出来る筈だ」

 

「そうか……。なら、最後の質問だ」

 

 アインツベルンの城が見える開けた場所で、俺は一度立ち止まって、衛宮に問う。

 

「お前は、万人の正義の味方か?それとも、一人の、桜だけの正義の味方か?」

 

「俺は……」

 

 衛宮の瞳が一瞬伏せられる。しかしそれはあの時のような迷った瞳ではなく、覚悟の色を孕んだ瞳だった。少しの沈黙の後に衛宮はこちらを真っ直ぐ見つめながら、

 

()()()()()()()()()になるんだ。桜にこれ以上、罪を重ねさせはしない」

 

 今までの薄っぺらい理想ではない、確かな信念を持った宣言をしたのだった。

 

「そうか。お前は、自分の理想を裏切るってワケなんだな。その答えが聞けて良かったぜ。()()

 

「───!!」

 

 その答えを聞いて俺は、士郎にならば桜を任せられると安心した。それと同時に、この出来事を通して衛宮士郎(ロボット)は真に人間になろうとしているとも分かった。この調子ならば、士郎はアーチャー(エミヤシロウ)になることはないだろう。

 

 そんな予感を抱きながら、漸くアインツベルンの城に到着した。セイバーとバーサーカーとの戦闘で崩れ落ちている箇所が多くあったが、窓には明かりがチラホラと見られた。イリヤの居るだろう場所はあの辺りだろうなと記憶を探りながら見当を付けている時、

 

「調べてみる」

 

 と言って、士郎は壁に手を添えた。

 

「……同調、開始」

 

 士郎がそう言うと彼の右腕から壁に向かって青白い光の回路のようなものが流れ始める。

 

「基本骨子、解明……構成材質、解明……。三階の、左端の部屋だ。…………桜」

 

 士郎が更に同調を進めた時、アーチャーの腕がピクリと反応を示し始めた。それを見て俺は、イリヤの居るだろう場所が分かったのだから、これ以上の同調は必要無いだろうと考え、肩に手を置いて止めに入る。

 

「そこまでだ、士郎。優先順位を間違えんじゃねぇよ」

 

「……分かってる」

 

 渋々といった様子に俺は、本当か?と言いたくなったが、その言葉は飲み込んで言峰も言っていたあの事を尋ねる。

 

「そうか……なら、士郎。登山の経験はあるか?」

 

「え?登山?なんでさ」

 

「目的の三階までその身一つで登るからに決まってんだろ」

 

「えぇぇぇ?!!」

 

 俺の言葉に士郎は少々大袈裟な驚きの声をあげてきた。

 

「五月蝿え。城の奴らにバレるだろうが」

 

「あ、ごめ……じゃなくて!登る?本気で言ってんのか?!」

 

「別に出来ねぇなら俺が魔術使って窓に突撃するだけだが?」

 

「それはもっと駄目だろ!?」

 

 何だよ……文句の多い奴だなぁ。そもそもこんな時に手段なんて選んで居られねぇだろうが。といった意味合いで士郎を睨み付けるのだが、

 

「と、とにかく!ちゃんと登るから、そんな乱暴な真似はするなよ!」

 

 と言って士郎はまるで子どもに言い聞かせるみたいに指示して来て、片腕のみで壁を登ろうとしていた。だがやはり片腕のみでは無理があるようで、登る速度はゆっくりだ。あと、見ていて凄くみすぼらしい。

 

「ダァァァ!!もう!トロいし、みすぼらしい!!士郎!テメェ、頭抑えてろ!армирование(強化)!」

 

「へ?え、ちょ……、おわぁぁぁぁ?!!!」

 

 効率悪く、みすぼらしい姿にイライラした俺は士郎の首根っこを掴み、自身に強化の魔術を施して目的の部屋の窓に向けて放り投げた。放り投げられた士郎は情けない声をあげると、背中から目的の部屋の窓に突撃していったのだった。俺も後に付いて窓辺に跳ぶ。

 

「ぃ゙……たぁぁ……。おい、慎二!!窓に直接投げる奴があるかよ!!」

 

「ハァ?テメェが片腕だけで壁にへばり付いてちまちまと登ってるのがみすぼらしいからだろうがよ」

 

「だからって……」

 

 俺の発言に痛む首を擦りながら、士郎は何か言いたげな視線を向けて来た。

 

「何なんですか!貴方達は!」

 

「曲者……?」

 

「あ、いや!違う!俺達は……」

 

 そんな時、窓から飛び込んで来た俺達を警戒してセラが声を荒げると、士郎は必死に弁明しようとしていた。その時、

 

「シロウ?」

 

 イリヤが士郎の名を呼んだ。その声に反応して振り向き、士郎は笑顔を見せたが、

 

「イリヤ───」

 

「何で来たの。帰りなさい」

 

 士郎の言葉を遮ってイリヤは冷たく言い放ち、彼を拒絶した。

 

「もう貴方の出番は無いの。桜の事は私に任せれば良い」

 

 今はイリヤと士郎のやり取りを邪魔する訳にはいかない為、俺は窓の側に立って背景に徹した。

 

「これは、私の役目よ」

 

「…………馬鹿イリヤ」

 

 冷たい態度を取り続けるイリヤに、士郎は肩を震わせながらポツリと罵倒する。そして、顔を伏せながらイリヤの元へと近付いて行く。

 

「……何よ」

 

 急に黙り込んだ士郎を不審に思ってか、イリヤの顔が強張る。

 

「…………どうでもいい」

 

 そんなイリヤにお構いなく、士郎は側に居るイリヤでさえ聞こえるか分からないくらいにブツブツと言葉を発する。そしてその後、大きく息を吸うと、

 

「イリヤの役割なんて知らない!イリヤが強がってどんなに平気なフリをしても、騙されてなんてやらないからな!!」

 

「な……!」

 

 大声でイリヤの役割なんて知った事じゃない、と吐き捨てたのである。これには平静を装っていたイリヤの目が驚きに見開かれた。

 

「強がってるって何よ!私は聖杯だから────」

 

「それを強がっているっていうんだ馬鹿!イリヤはイリヤだろう!!」

 

「───!!」

 

 驚いては居たが、流石にこの言い方には頭に来たのかムッとして言い返そうとしていた。しかし、今の士郎は躍起になっているのか、反論の余地を与える事無く論破する。

 

「自分以外の誰かの為に、自分を犠牲にするな!!」

 

 ハァァァ??お前がそれ言う?士郎のブーメラン発言に思わずツッコミたくなった。しかし、今はまだ手出しするべきではないと踏み留まり、心の中だけでツッコミを入れた。

 

 多分顔には思いっ切り出ていると思うのだが、見ているのは扉の前で待機しているホムンクルスの二人だけだろう。俺自身が空気を読んで背景に徹しているのと、士郎とイリヤの二人は二人だけの空間に浸っているからだ。

 

「っ!自分を……棚に上げて……」

 

 どうやらイリヤも同じ事を思ったらしい。だが、そう言ってもらえたことは嬉しかったのか、頬を少し赤らめていた。

 

「イリヤ」

 

 そんなイリヤに士郎は穏やかな笑みを浮かべ、手を差し伸べていた。士郎の行動に戸惑う様子を見せ、イリヤはその手を取りかねていた。

 

「何、悠長にやってやがんだ。これ以上の長居は桜にバレる。早く森を抜けるぞ」

 

 このままイリヤが手を取るまで待っていたいのは山々だったが、今回は救出がメインである為、横槍でイリヤを抱えさせてもらった。

 

「うわっ!?ちょっと……!こらっ!離しなさい!!」

 

「おいコラ、暴れるなっての!」

 

 イリヤは俺に抱えられるのは不服なようで、手足を全力でバタバタ暴れさせて抵抗してきた。

 

「行くぞ、士郎」

 

「っ、でも……」

 

 イリヤと同じ部屋に居た二人を心配してか、士郎はすぐにこちらに来ようとはせず、二人の方を見る。

 

「ここは我らの城です。ご心配なく」

 

「イリヤをよろしく」

 

 そんな士郎を気遣い、二人はカーテシーをして俺達を見送る様子を見せる。その様子を見て、士郎は漸く動く気になったようだ。イリヤをなるべく負担が少ない様に抱え直し、魔術を用いて窓から飛び降りる。

 

「ッ゙?!!ぁ゙ぁ、ぐぅぅ……!!?」

 

 士郎も俺に続いて飛び降りたのだが、何を思ったのか魔術を用いないで飛び降りたので、衝撃をもろに食らって痛みに悶えていた。

 

「魔術を用いずにあの高さから生身で落下するとか、馬鹿か?ほら、立てるか」

 

「っ、平気だ」

 

 イリヤを抱えながら差し出した手は、少々乱暴に振り払われた。振り払ったのはあれだけ動かせないでいた筈の移植したアーチャーの腕だった。

 

「何か行けると思ったんだよ。って、あれ……?」

 

 どうやら振り払ったのは士郎の意思ではなかったらしく、振り払ったアーチャーの腕を見てキョトンとしていた。

 

「アーチャーに引っ張られているのね」

 

 そんな士郎の様子を見て、イリヤは三階から飛び降りても平気だと考えたのは、アーチャーに士郎の意識が引っ張られているからだと推察していた。その傍ら、士郎はキョトンとしながらも手をグーパーと動かして動きを確認していた。

 

 そんなやり取りをして、アインツベルンの城を後にしようとした時、

 

「来てくれたんですね?兄さん」

 

「っ!!?」

 

 耳元で桜に囁かれたような感触がし、背筋がゾッとした。声のした方向へ反射的に向くが、そこには誰も居なかった。だが、あれは間違いなく桜の声だった。つまり、桜が俺達が城に来た事に気付いたのだ。

 

「慎二?」

 

「今すぐここを離れるぞ士郎。桜に気が付かれた」

 

「な?!ちょ、慎二!?」

 

 戸惑う様子の士郎を置いて、俺はイリヤを抱えたまま森の中へ駆け出した。士郎は未だ戸惑っているようだが、冷静さを欠いた俺の行動に普通じゃないと気が付いたのか、すぐに俺の後に付いてきてくれた。

 

『オベロン!!予定変更だ!今すぐこっちに来い!!』

 

 道なき道を駆けながら、俺はオベロンに緊急の念話を繋ぐ。

 

『一体どうしたんだい?!マスター!』

 

『予定より早くに桜に気が付かれた。追っ手が来るかもしれねぇ。強化の魔術だけじゃ、距離を離し切れない。令呪はまだ温存したい。急いで来てくれ』

 

『了解!!』

 

「■■■■■■■■■■!!!!!!!」

 

 そんなやり取りをしてオベロンとの念話を切った瞬間、アインツベルンの城から爆発音がし、更にはバーサーカーの咆哮らしきものも聞こえてきた。

 

「「っ!!」」

 

「止まるな!止まったらすぐに捕まるぞ!!」

 

 その咆哮に士郎とイリヤの二人が同時に反応を示した。更に士郎は立ち止まって周りを確認しようとしていたので、俺は大声で怒鳴りつける。

 

 城に潜入した時と同じ方向にただひたすらと駆ける。そうして、セイバーの放った攻撃で抉れた地面の辺りまで走った時、視界の隅に黒い影が写った。アインツベルンの城との距離から考えて、バーサーカーがここに来たとは考え難い。であるのならばそれ以外の新しい追っ手だと考えるのが妥当だろう。では一体、それは誰であろうか?

 

 そんな俺の考えを読んだかのように、その影は姿を現した。

 

「なっ?!お前は……!」

 

 現れたソイツは黒いローブを身に纏い、特徴的な髑髏を模した白色の記憶にあるものよりも少し罅割れの入った仮面を装着している、桜が取り込んだと話していたサーヴァント。真アサシンのハサン・サッバーハであった。





えーん、終わりは見えてる筈なのにそこまでが伸びて行って先が遠いよぉ〜ってなってる作者でございます。映画を参考にした今回は書き上げは早かったんですけど、戦闘描写とオリジナルに入った途端に詰まるんですよ……。特に戦闘描写。めちゃくちゃ飛ばしてぇ……でも一応オリジナルの戦闘だし、書かないと駄目じゃん……格好良い所書きたいやろ……って無理矢理諦めてます。期待はしないでね。

あと、次回以降の進行予定なのですが、上手く行けば■■■■VSアサシン→会話(1)→会話(2)→Side衛宮士郎→最終決戦→エピローグの予定となっております。ただ、これはあくまでも目安なので、Side衛宮士郎以降は伸びる可能性があります。(現に会話パートは一つの予定だった)

わざわざ後書きに書いてどうするねん、と思われるかもしれませんが、皆様にも見える箇所に書くことで自己的な戒めとさせてもらっております。面倒かもしれませんが、どうかお付き合いよろしくお願い致します。
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