蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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凍らせた心で暖かな幻想をする。

いつか冬が過ぎて、新しい春になったら

────(四人)で桜を見に行こう。




君の為の正義

 

Side:衛宮士郎

 

 セイバーの身体が闇に溶け込むのを見届けた後に聖骸布も巻いた俺は、壁に身体を預けているランサーの元へ近づいた。

 

「先に行ってる。動けるようになったら来てくれ」

 

「ハハ……随分と人使いが荒い奴だったんだな、お前さん」

 

「そうだな。またな、ランサー」

 

「おう」

 

 苦笑いしながら言うランサーに肯定しながら、俺は先を目指した。

 

 トンネルのようになっている道を暫く歩くと、セイバーと対峙した場所に似た開けた場所に辿り着いた。殆ど一本道のようになっているそこには今居る位置よりも少し高い場所に桜が居り、更にその先には大聖杯があると思われる光の柱が見えた。アレを破壊しなければ、多くの人が犠牲となってしまうのだろうと考えながらもう少し進むと、大量の血を流しながら遠坂が倒れているのを見つけてしまった。

 

「っ!遠坂……!」

 

 俺は怪我の度合いを見る為に急いで遠坂の元へと走った。幸い、深刻そうに見えた怪我はそこまで酷いものでは無く、軽い止血はなされているようだった。息もちゃんとある。俺はその事に安心し、ホッと息をつく。

 

「…………

 

 その時、小さな声で啜り泣く桜の声が聞こえてきた。

 

「…………し、ちゃった……。私、姉さんを……。負けるなって、ずっと言ってくれてたのに……!もう、止めなくちゃ……」

 

 そう言って膝をついて後悔し続ける桜の様子に俺は、『あぁ、遠坂はちゃんと勝ったんだな』と思った。後悔して、涙を流し続ける桜の瞳には、もうあの日のような、ほの暗い色は見られなかったからだ。

 

「桜!遠坂はまだ生きてる!」

 

「え……?」

 

 だから俺はしっかり桜に遠坂は生きている、殺してなんていないのだと伝える。これ以上彼女が罪の意識に苛まれて押し潰されてしまわないように。

 

「まだ助かる。俺とお前とで助けるんだ!」

 

「先輩───きゃっ……!?」

 

 俺の言葉に桜が嬉しそうな顔を浮かべた時、俺達のやりとりを見た大聖杯の中に居るヤツ(アンリマユ)が動き始めた。

 

「駄目……!逃げて!先輩!!」

 

「っ゙!!?」

 

 桜の意思に反して大量の触手のような帯を操り、一斉にこちらに伸ばしてきたのだ。俺は咄嗟にアーチャーの腕でガードする。桜に辿り着く前に流血沙汰になる事を覚悟していたのだが、驚く事に帯に触れた箇所からは金属同士が接触する音がした。腕を下ろして確認してみると、服が破れただけで、出血は無かった。

 

「ぃや……、違っ……私……!」

 

「大丈夫だ、桜。分かってる。往生際が悪いガキの仕業だ」

 

 自分の意思ではないのだと必死に否定する桜に俺は大丈夫だと言い、犯人である桜と未だ繫がっているヤツを睨み付ける。するとヤツは俺が桜の契約を破る手段を持っていると悟ってか、桜の元へと繋がる道を帯を用いて切り離し始めた。

 

「っ!先輩!!姉さんを連れて逃げて……!!」

 

 桜はそう言うが、今更俺は桜を置いて逃げるだなんて選択は取りたくなかった。ふと遠坂の様子が気になり、後ろを見る。するとそのタイミングで遠坂は目を覚まし、こちらを見て微笑んだ。言葉にされずとも分かる。これは『行け』という合図だ。俺は遠坂の意思をしっかり汲み取って頷く。そして、桜を助ける為に俺は駆け出した。走りながら、桜の様子を見る。

 

「駄目……っ、抑え、きれない……!逃げて、先輩……」

 

 桜は俺を来させまいと足掻くアンリマユを抑えるのに必死なようであった。その様子にすぐにでも助けたいと躍起になっていると、先の地面から帯が生えて行く手を阻んで来た。一直線に様々な方向から邪魔をしてくるそれらを見極め、時には飛んだり左腕で弾きながら避ける。

 

「やめてください、先輩……。私……、一人で死にますから……。一人でもちゃんと、死にますから……!!」

 

 桜の悲痛な叫びに、俺は絶対に救ってやるのだと決心する。

 

「うおぉぉぉ……!!」

 

 追いかけ続けてくる帯を避け、走り幅跳びの要領で壁から氷柱のように突き抜けている岩を渡り進んで行く。

 

「どうしてですか……?私は助かりません。……いいえ、助かっちゃいけないんですっ……!!」

 

 そして最後の柱が崩されたタイミングでこれ以上ないくらいに踏み込みをして、被弾覚悟で飛び込む。そして、俺の決心を桜に伝わる様に全力で叫ぶ。

 

「絶対に助ける!!!」

 

「────!」

 

 そうして運良く頬が少し切られた程度で、受け身を取りながら桜の居る場所に辿り着く事が出来た。

 

「…………桜」

 

 俺の呼び掛けに、桜は反応しない。しかし、それでいて拒絶しないといけないと思って居るのか、弱々しい一撃が腹に当たった。そこに手をやりながら、ゆっくりと桜を見る。

 

「ほら……先輩。私は、こういう人間なんです。だから……」

 

 そういう彼女の身体は弱々しく震えていた。言葉では何と言えども、怖がっているのが丸わかりである。身体を小さく縮こませながら居る桜を安心させたくて、俺は一歩、また一歩と距離を詰めて行く。

 

「私は、沢山の人間を殺しました……」

 

 そんな俺を見て桜は、自身の罪を小さく呟く。

 

「感情の赴くままにお爺さまも殺して……そして、姉さんを傷付けて……、それから……先輩や、兄さんだって傷つけました……。償えない事を沢山してきたんです。それなのに、それなのに先輩は、生きて行けって言うんですか!!」

 

「そうだ!!!当然だろ!奪ったからには、責任を果たせ!!」

 

 慎二から預かった『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を取り出しながら、俺は桜に生きろと訴える。

 

「───!!せん、ぱい……」

 

 アンリマユが切り札の存在を察知してか、物陰や桜の影から帯が現れる。そして、ソレを振り落とす為に攻撃をし始めた。

 

「っ゙……!」

 

 帯に抵抗する為、左腕を伸ばして接触させる。するとやはり始めに見たように金属同士がぶつかり合うかのような音を立てて帯を全て弾く事が出来た。だが、腕は何とも無くとも聖骸布の方は保たなかったようで、一部が剥がれ落ちる。その瞬間、激痛が走り、右半身から剣が生え始めた。

 

「っ!?」

 

 その様子を見てしまった桜の目が驚きと絶望で見開かれた。だがしかし、今更剣が生え始めた事は些細な事だと歩みを止めない。

 

「罪の所在も、罰の重さも、俺には分からない。けど、守る!これから、桜に問われる全ての事から……桜を守る!!例え、それが偽善であったとしても。親友との約束と、好きな相手の為に、必ず守り通す!」

 

 その言葉を聞いた桜の瞳から涙が溢れ出した。

 

「……お仕置きだ。キツいの行くから、覚悟しておけ!」

 

「っ……!─────はい」

 

 『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を構えてそう言う俺に、桜は両腕を広げて受け入れる姿勢を取った。俺はいち早く桜をアンリマユとの契約から開放する為、駆け出した。そんな俺を妨害する為、アンリマユが再び帯を動かして俺の後を追って来た。正面にあった筈のモノは桜が抑え込んでいるのか、動く様子は無かった。

 

 

────帰ろう、桜。そんな奴とは縁を切れ。

 

 

 勝負の結果は俺の勝ちだった。アンリマユの妨害が届く前に、俺は桜に『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を使用する事が出来たからだ。剣を刺した箇所から淡い光が漏れ出し、桜を蝕んでいた赤い痣や黒いワンピースの様な服が溶けるように消えて行く。そして、淡い光が桜の身体を全て包んだ後、残っていた服が全て弾け飛び、そこから桜が現れた。

 

 まさか服も込みでアンリマユを孕んでいたのかと驚いたが、とにかく桜は無事なようで何よりである。俺は目一杯桜を抱きしめ、気を失っている桜に『おかえり』という意味を込めて顔を擦り寄せる。

 

 あぁ……本当に良かった。こんな直前まで決めきれなかった俺でも親友の信頼に応え、好きな相手を救うことが出来た。切嗣のような万人の正義の味方には成れないが、一人の、手の内の人を救う味方には成れた筈だ。慎二達は何て言ってくれるだろうか。

 

 そんな事を考えた時、地面が大幅に揺れた。もしかして桜との契約が切れた事で大聖杯の機能が停止したのか?と上を見上げるのだが、

 

「止まらない……か」

 

 そこには未だ変わらず黒い太陽のような穴が存在し続けている。そこへと流れる光の柱の太さが変わっただけで、完全には停止していないようだ。ならば、止めに行かなければ。でも桜を裸のまま置いておく事なんて出来ない。ではどうすれば?

 

「……ん?お前は……」

 

 そんな時、岩の物陰からぴょこっと小さな人影のようなモノが現れた。ソイツはこちらが自分の存在に気が付いた事を確認すると、小さく飛び跳ねた後に桜の身体を覆い、服代わりになったのであった。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 これで少なくとも桜はぱっと見は裸でなくなるだろう。何も着させてやる物を持って無かった俺には有り難い行為だ。そういった意味でソイツに感謝を述べると、桜の胸元辺りに発生した小さな光の粒のようなものがパチパチと点滅した。言葉は発していないが、それが何となく『どういたしまして』と似たような態度を表しているように感じた。

 

「よう。やり遂げたみたいだな、坊主」

 

 そんなやりとりをしている時、横から声を掛けられた。声のした方に振り向くとそこには、ランサーが居た。

 

「ぁ、あぁ……アンタか。助かった。桜と遠坂を連れて外に出られるか?その、ラ────」

 

 

────あれ……?コイツの名前、何だったっけ?

 

 

 目の前に居る男の名前を呼ぼうとして、俺は背筋が冷たくなる感触を覚えた。知っている筈なのに何故か、彼の名前が出て来ないのである。少なくとも、振り向いた直後ではまだ覚えていた筈。なのに、今になってど忘れなんかじゃ済まされない、突然記憶が無くなったと言えるような出来事が俺に起きているのだ。

 

「ラ……、えっと……」

 

 何とか思い出そうと脳内で色んな名前を出すのだが、どうしても彼の名前に辿り着かない。それどころか、思い出そうとすればする程、悪化しているようにも思う。

 

「……なるほど。そういう事か」

 

「え?」

 

 そんな俺の焦る様子を見て、彼は何かに気が付いたようで、一人で何故か納得しているようであった。

 

「いや、こっちの話だ。気にすんな。それよりも、坊主の頼みだ。聞いてやるよ。ほら、その嬢ちゃんを渡しな」

 

「わ、分かった……」

 

 だがしかし俺の疑問には答えてくれず、俺は流されるがままに桜を彼に手渡した。名前が分からないのに桜を引き渡すのはどうなんだとも思ったが、微かに残る記憶からでは彼からの悪意は感じなかったので、きっと大丈夫だろう。そんな思いの下、俺は桜を預けて、大聖杯の元へと向かおうとした……

 

「…………ぁ、コレを桜に渡してくれないか?」

 

 のだが、俺はやり残していた事を思い出し、彼に桜に渡す予定だった家の鍵を手渡す。

 

「それは、直接お前さんが渡した方が良いんじゃないか?」

 

 鍵を受け取りながら言う彼の言い分は尤もだ。けれども、俺は分かっていた。

 

「いいや、きっとそれは無理だと思う。もう、俺は()()()()()から」

 

 自分の身体の限界点。封印の為の聖骸布が少し解けただけで現れた刀身。そして急激な記憶の欠如からも分かる事だ。そんな俺の雰囲気を察してか彼は、少し目を見開いた後に小さく溜め息をついて、

 

「仕方ねぇな。後で俺が渡してやるよ」

 

 と言ってくれたのだった。

 

「ありがとう」

 

「応よ。じゃあな、坊主。()()()()()()

 

 にこやかな笑顔で『また』と言った事に少し違和感を覚えたが、きっとあれは彼なりの気遣いの言葉だったのかなと解釈する事にして、俺は今度こそ大聖杯を目指して歩き出した。

 

 そうして大聖杯へ続く道を登りきった時、その手前で岩に座る人影が見えた。擦り切れ始めた記憶の中からソイツの名前を探す。確か、名前は……

 

「言峰、綺礼……?」

 

「まだ、辛うじて生き延びているようだな。衛宮士郎」

 

 どうやら合っていたようだ。それにしてもまさか、言峰がこの場に居ることには驚かされた。監督役とは言えどもここまで付き合う必要があるのだろうか?その疑問を解消する為、俺は彼に質問を投げ掛けた。

 

「お前、どうしてここに……」

 

「私の目的は誕生する者を祝福し、それと共に私の長年抱き続けた疑問に対する答えを導き出す為だ」

 

「まさか、それだけの為にアレを生まれさせようとしているのか?!」

 

「私にとっては何よりも重要な事だ」

 

 至極当然の事だ、と言い切る言峰に俺は開いた口が塞がらない心地に陥らされた。コイツは、監督役でありながら自らの欲求を満たしたいが為に、ここに来たと言うのだ。いや、早合点はまだ駄目だ。もしかしたら犠牲が出る話をすれば考えを改めてくれるかもしれない。

 

「アレが誕生した瞬間に多くの人が犠牲になるのにか?!」

 

「関係無い。私には貴様のような大義名分は持ち得ていないのでね」

 

 だが、そんな儚い期待はすぐに崩れ去った。やはりこの男は自らの欲求を満たす為にここに来ていたのだ。

 

「言峰!!!」

 

 俺は桜の為の正義の味方になると誓ったが、それでもこれ以上犠牲が増えなくても良い筈の状況で、助かる筈の命を切り捨てるのを認める事は到底我慢出来なくなり、感情の赴くままに言峰に殴りかかろうとした。

 

「落ち着けよ、士郎。それに言峰も士郎を刺激するような言動は控えろ」

 

 しかし、聞き馴染みのある声がして、俺は殴りかかろうとしたのを止めた。

 

「ハハハ、なに。衛宮士郎の反応が少々面白くてな。つい、興が乗った」

 

「お前なぁ……」

 

「っ!?お前、は……」

 

「何だよ士郎。お前、言峰の事は覚えていたクセに、俺の事は忘れちまったってか?」

 

 何とそこに居たのはあの日、用があるから大聖杯の元に辿り着くか分からないと言っていた筈の慎二が居たのだ。

 

「そんな事は無い、けど……」

 

 確かに記憶は擦り切れ始めたが、言峰の名前はまだ覚えていたんだ。親友の名前をそんな簡単に忘れる訳が無い。けれども、あの日は分からないと言っていたのに、今ここに居るのは何故なのだろうか?それに、いつから言峰と一緒に行動を?何故言峰と親しげにしていたんだ?

 

 疑問は尽きなかったが、とりあえずはどうしてここに来たのか理由を尋ねよう。もしかしたら、大聖杯を一緒に破壊するのを手伝ってくれるかもしれない。そんな希望を胸に秘めながら、俺は慎二に尋ねた。

 

「慎二はどうしてここに?来れないんじゃなかったのか?」

 

「オイオイ、確かに大聖杯の元に来るのは間に合わないかもしれないとは言ったが、俺はここに来ないとは一度も言ってないぜ?」

 

 そう言われると確かに、『来ない』などとは一度も言っていなかった気がする。

 

「じゃあ、慎二は聖杯に叶えて欲しい願いがあってここに来たのか?」

 

「叶えて欲しい願いだぁ?ハハッ!あはははははは!」

 

 俺がそう尋ねると慎二は、腹を抱えながら大笑いした後に不敵な笑みを浮かべた。

 

「馬鹿だなぁ、士郎。俺はそんな動機で聖杯戦争には参加してねぇし、勝者の叶えたい願望を人を殺すという手段でしか叶えなくなった出来損ないの願望器には興味は無ぇよ」

 

「なら、どんな動機で参加したんだよ」

 

「俺の聖杯戦争に参加した動機は至極単純。()()()()だ」

 

「生きる為……?」

 

 生きていれば誰でも思う至極当然なその動機に俺は虚を突かれた気持ちになった。ポカンとする俺を見て慎二はクスクスと笑うと、その理由を話し始めたのだった。





連続投稿が出来る!凄いぞ自分!と自画自賛しながら書き終えました、衛宮士郎視点での桜ちゃん救出描写。ぶっちゃけほぼ変わらないし、前回頑張ったし、飛ばしても良いかなぁとは考えてました。ですが、原作主人公の格好いい所やせっかくアーチャーに投影させたルールブレイカーを使う描写無しは駄目だろ。元はあるんだし、参考にしながら書いとけ精神で書き上げました……。(こうして話数が増えていくのだ…)

終わり方がちょびっと不自然になったのは計画無しの書き上げによるプロット不足です……。というか、この先は本当は慎二君視点で書く予定だったんで、ズレ込んじゃってるんですよね…。続きは頑張ればまぁ、数日中には投稿出来るとは思います。……終盤だからと変に練らなければね。(一応目標は一週間以内)
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