蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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喧嘩しようぜ(後編)

 

 二人同時に繰り出された拳は、見事なまでに同時に被弾した。結果だけ見れば引き分けとも言えよう。だが、そうして繰り出された拳がもたらした結果は僅かな差異を生み出していた。

 

 良くも悪くも真正面から俺の右ストレートに被弾した衛宮は、微小の刃がパラパラと生え、それと同時に切れた皮膚から血が垂れてきている。後は被弾による軽度の立ち眩みを起こしていると言った所だろうか。あ、さっきの衝撃で何処かの歯が抜け落ちたようだ。一丁前にその歯を地面に吐き捨てている。

 

 それに対して俺はと言うと、真正面からの被弾は避けたが、それでも当たりはした。だが、左頬は右ストレートによる衝撃で受けた傷が思ったよりも大きかった。衛宮の右手にはびっしりと剣が生えている為、打撃による負傷というよりは切り傷の方が多いのだ。それに加え、衛宮と違って剣で無理矢理の止血は出来ないので、血が止め処無く溢れてくる。但し、痛みはアンプルの摂取によってハイになっている為かあまり感じなかった。有り難い事ではあるけどな。

 

「……ケ。厄介な体質になりやがって」

 

「そう思うのなら降参してくれないか?」

 

「馬鹿言え。降参なんざ、ぜってぇ(絶対に)しねぇ───よ!!」

 

 衛宮の体質に苦言を漏らしながら、俺は次の攻撃に移る。右手は先の攻撃でほぼ使い物にならなくなっていた。厳密にはまだ動くが、頬と同じく切り傷が酷い。流石にアンプルを用いても血の量までは補えないのでなるべく出血は控えたい。そうした考えの下、優位を取る為に衛宮に掴み掛かる事を試みたのだ。

 

 まぁ、一度目は上手い事行かずに避けられたので蹴りを食らわせただけに留まったんだけどな。因みに今更だが、足は靴だけ当たったのであれば問題ないように仕込みはしてある。但し、そこ以外に直接は流石に剣が刺さるから歩けなくなるかもだがな。

 

「っ゙……!」

 

 そんなこんなで蹴りを食らった衛宮は一度目と同じく吐きそうにしていた。しかし、衛宮だってこれをやられて大人しくしている訳が無く、腹を庇いながらも踏ん張ると、俺の足を掴んで横へ投げ飛ばした。

 

「い"っ……。───っ!!」

 

 突然の事で受け身を取れず、背中から思い切り地面と激突してしまう。その衝撃に唸っていると、衛宮が上から覆いかぶさろうとしているのが見えた。俺は寸の所で右に転がる事で何とか避けた。そして、そのまま暫く形成を立て直す為に何回か転がり続け、程よい所で立ち上がって衛宮を睨む。

 

「……っ、テメェの自己犠牲の精神にはほとほと呆れる」

 

「そうは言われてもこれが俺だ」

 

「だから気に食わねぇんだよ。いつもいつも他人の事ばかり優先して、自分の事は後回し。他人の幸福はそんなに高貴なモノか?なぁ、衛宮。その精神で、テメェが助けた奴に裏切られた事が何度あった?一度や二度なんかじゃ済まないのはテメェにだって分かるだろ?それをこれからも続けていくってのか?」

 

「それは……」

 

 衛宮は俺の問いに言い淀んだ。こう迷う様になったのは比較的進歩したと言えようが、未だ悩み続けるアホさには溜め息をつきたくなるような気分にさせられた。

 

「なぁ、テメェにとって人助けは本当に自分の為になってんのか?ただ養父に言われたからやってるようなモンなんじゃねぇのか?」

 

「違う!そんな事は無い!!」

 

「だったら何故!テメェは他人の幸福をただ願うだけの機械と同じ生き方をしてやがるんだ!!」

 

「っ……!」

 

 喧嘩吹っ掛けている途中だとか、殴られるだとかそんなのは関係無く、とにかく衛宮に自覚させねばならぬという一心で、俺はヤツの胸倉を再び掴んでこちらに目線を向けさせる。

 

「自分の為の人助けならいくらでもしやがれ。その程度なら俺だってここまでは言わねぇ。だがな?義務のように、願うだけで、何一つ、自分に還元されねぇ人助けに何の意味があるんだ?なぁ!!」

 

 端から見れば脅迫にも近いだろう。だが、そうでもしないと気づけないのがこの鈍感男なのだ。寧ろこの距離で感情的になっておきながら、手を出さない俺に感謝してもらいたいね。他のヤツなら手を出してるぞ。

 

「それでも!!俺が抱くこの願いは、この感情は、きっと誰もが一度は抱く理想だ!だから決して───間違いなんかじゃない!!!

 

「ガフッ?!この、やろ゙ッ……!!」

 

「グぅ゙……!!?」

 

 衛宮の拳が、無防備であった俺の腹を直撃する。完全に不意打ちだったので、今度は俺が胃液を撒き散らしそうになったが、最後の意地でこれを耐えて衛宮に膝蹴りをかます。代わりに膝はボロボロになったが、まだ立てるから問題無い。腹を庇うように抱える衛宮に、今度は追い打ちとばかりに頭を殴る。これで意識を失ってくれれば助かるのだが、やはりそうはいかないようだ。

 

「がハッ……!ゲホッ、ゲホ……!!」

 

「はァ゙……っはァ……!ゔぇ゙……」

 

 衛宮は血を吐きながらも未だ闘志を失わぬ瞳でこちらを見ていた。負けじと俺も睨み付けるが、堪えた筈の胃液が込み上げてきて、吐きそうになっている。どうやらお互いにもう一発でも食らえば倒れそうな状態であるようだ。

 

「テ、メ……さっさと……諦め、やが……れ……」

 

「ゴホッ、ぃ゙……やだ、ね」

 

 あぁ、知ってるとも。テメェはどんな状況になったって諦めはしねぇ頑固者だっつう事はな。だから次で、決めよう。俺とお前の、最初で最後の喧嘩はこの一撃で終わらすんだ。

 

「ハッ……!な゙ら、次で……っ終わりに、しようぜ。()()

 

「あぁ゙……、そう、だな……慎二」

 

 互いに口の端から漏れ出した血液や胃液を乱雑に拭い取って、最後の一発を用意する。泣いても笑ってもこれで最後。この一撃で全てを決めるのだ。

 

「「うおぉぉぉぉぉ゙ぉ゙!!!!」」

 

 獣のような咆哮をあげながら、力強く地面を蹴って、拳を突き出す。そうして、あと一、二歩走れば拳が届くであろう距離で、

 

「フ────」

 

「っ!?」

 

 馬鹿正直に突っ込んで来る士郎の意表を突いて、俺はニヤリと笑みを浮かべて一度立ち止まる。俺のこの行動によって、俺に当たる筈だった士郎の拳が宙を切る。そして大きくバランスを崩した所に俺は、最後の一発を顔面にブチ当てた。

 

「俺の勝ちだ。士郎」

 

「そぅ……だ、な」

 

 心底悔しそうな顔をして後ろに倒れた士郎。これにてこの喧嘩は俺の勝ちという形で幕を閉じた。

 

 二つ目のアンプルを噛み砕いて、何度か深呼吸して息を整えた後にすぐにでも大聖杯の方へ取り掛かろうとしたのだが、その前に士郎のアーチャーの腕を使った事による副作用を治療せねば。と思い出し、仰向けで倒れ込む士郎の元へと近付く。

 

「……ルーラー」

 

「何だい?マスター」

 

 そうしてゼロ距離にまで近付いた所で、端から見ていたであろうオベロンを呼び出す。もうそろそろ聖杯戦争も終わらせるのだから別に真名がバレても良いだろうが、それは最後の楽しみとして取っておく事にした。呼び出されたオベロンはすぐさま俺の真横に現れて妖精王ムーブで問い掛けて来た。

 

「お前に預けておいたアレがあるだろ。持って来ているか?」

 

「勿論だとも。何ならすぐにでも使える様に蓋もとってあるよ」

 

「そうか、助かる」

 

 既に蓋が開けてある試験管をオベロンに手渡され、感謝の言葉を述べる。

 

「テメェはこの程度で死ぬ様な奴じゃねぇだろ?士郎」

 

─────桜の為に生き続けろ。

 

 そう言って俺は試験管の中にある透明な色をした液体を士郎にブッ掛けた。正直、士郎は気絶しているので聞こえているのかは分からないのだが、とりあえず言っておかねばと思った。本音が駄々漏れだとか、らしくないだとか、そんなのは関係無くとにかく言う必要がある、と直感的に思ったからだ。

 

 士郎に使用した薬についてだが、それはすぐに思い通りの効果を発揮し、士郎の全身から生えていた剣をドロリと溶かした。そうして、何事も無かったかのように士郎の身体は元の身体へと戻ったのだ。ぶっつけ本番ではあったが、何事も無く効果を発揮したようでホッと一息をつく。

 

 そこで緊張が解けてしまい、アンプルを摂取したのにも関わらず、フラリと倒れそうになった。まぁ、それは側に居たオベロンがすぐに手を添えてくれた事で大事になる事は無かったのだが。

 

「もう……マスター。無理し過ぎだよ。いきなり計画に無い事をしでかすものだからどうしたものかと……」

 

「悪ぃ。やっぱりどうしてもあの大っ嫌いな自己犠牲の塊をどうにかしたくなってな」

 

「きみねぇ……。まぁ、良いよ。どうせ僕が何を言ったって、聞きやしないんだろう?」

 

「よく分かってるじゃねぇか」

 

 何の反省の色を見せない俺にオベロンの方が溜め息をつきながら折れた事によって、この件はお咎め無しとなった。まぁ、別件でグチグチ言われそうな雰囲気は出しているが、今は気にしない。面倒だしな。

 

「さて……。待たせたな、アンリマユ!テメェのこの巫山戯た茶番に引導を渡してやるよ!!」

 

 支えてくれたオベロンの手元から離れ、俺は目の前の元凶、アンリマユへ宣戦布告する。そうして手の甲に残る二画の令呪を使用しようとした時、

 

「待ちなさい。大聖杯を閉じるのは私の役目よ」

 

 後ろの方から制止の声が掛かった。声のした方に振り向くとそこには天のドレスを身に纏ったイリヤが居た。

 

「いいや。悪ぃがテメェにゃ、その役割は果たさせねぇよ」

 

「退きなさい。そこから先はアインツベルンの領域よ」

 

「断る。テメェに何と言われようとも俺は大聖杯を破壊する為に動くぞ」

 

 凍てつくような冷たい瞳でイリヤは俺に退けと指示してきた。そんな事を言われても俺は退くつもりなんか端から無かったので間髪入れずに断る。

 

「破壊するですって?使うのではなく?」

 

 冷たく、伽藍洞のように見えた瞳に一筋の光が宿る。どうやらイリヤは俺が本気で聖杯を使うつもりなのだと思ったらしい。人形のようだった顔に人間らしさが少し戻り、きょとんとしていた。

 

「お前まさか、俺と士郎との会話聞いたな?」

 

 そう言うとイリヤは少し身体をピクリと動かした。それはどう見ても妖精眼なんて無くても分かる反応だった。

 

「あー、悪ぃがアレは士郎を本気にする為の嘘だ。俺の目的は最初から聖杯の破壊だ」

 

「そう、なの……?で、でも!聖杯は万能の杯って言われているのよ?叶えたい願いとかは無いの?!」

 

「あのなぁ……お前、会話聞いてたんだろ?俺は最初から聖杯が本来の機能を全く果たさない穢れた杯になってたのは知ってるんだよ。だから別にそれ目的で参加してねぇし」

 

「え……、え?ほ、本当に?」

 

 俺が呆れながら言うと、イリヤは先の凍てつくような冷たい瞳は何処へやら、目をぱちくりさせながらあわあわとし、事態を飲み込めないでいるようだ。第二次成長期が来る前に成長が止まってしまった為か、その様子は年相応かそれ以下の子どものように見えた。

 

「あぁ、本当だ。そもそも俺は、この聖杯戦争を無事に生き残る事が出来ればそれで良かったんだよ。士郎と対立したのは俺がアイツの自己犠牲の精神を持ち続けるのが納得いかなかっただけで…………」

 

 そこまで言った所で俺はハッとした。これ、下手すれば俺が士郎の事好きだからわざわざこうしたんだって白状した事にならねぇか?だって、生き残るのが目的ならこんな事する必要全く無ぇもんな?俺、とんでもない墓穴掘ってないか?

 

 そんな疑問を胸に抱きながらオベロンの方を見ると、彼はめちゃくちゃ胡散臭い笑顔でバツのジェスチャーをしていた。よくよく見れば、こめかみ辺りに青筋が少し浮かんでいた。どうやら完全にアウトらしい。やっちまったな、とは思うがもうどうしようもないので、諦めてここは強引に話を続ける事にした。こうなりゃもう、ヤケクソだ。

 

「あー……まぁ、とりあえずだな。俺は元より聖杯を使うつもりは無いし、お前にゃ、生きてもらわねぇと困るんだよ。気合いを入れて来たつもりだろうが、もうここにはお前がすべき事は無い。とっとと帰って士郎と共に末永く一緒に暮らしやがれ」

 

 それでアイツの精神安定剤になってやれ。と言い放つと、イリヤは先程までの飲み込めないでいた様子は何処へやら、目を鋭くさせて俺を疑う様子を見せた。

 

「貴方、一体何が目的なの」

 

「ンなものは無い。この最終局面を迎えられた時点で俺の目的は達成されてるからな」

 

「だったら尚更、貴方が聖杯を壊す必要は無い筈よ。さっきも言ったけれど、これは私達アインツベルンの領域なの。貴方が手を出す必要は無いわ」

 

「まぁ、その意見はご尤もだわな。だからな?これはただ個人的なワガママなんだよ」

 

「ワガママ?」

 

 そう。ワガママ。血の繋がりは無いとは言えども、たった一人の妹に、間桐という闇に囚われざるを得なかった桜に、前世から好きだった士郎に、今世の親友に。生きて欲しい、幸せになる資格があるのだと。俺が勝手に抱いたささやかな祈り。それを実現する為に、俺はこの聖杯戦争の終結を、大聖杯の破壊を以って終わらすのだ。

 

「……そう。シロウは素敵な親友が居たのね。えぇ、分かったわ。大聖杯については貴方に託します」

 

「おう。元よりそのつもりだしな」

 

 そう説明するとイリヤは了承の言葉を口にした後に大人びた笑みを浮かべる。

 

「んじゃ、仕切り直しと行きますかね。イリヤは大聖杯から離れるか、そこの神父の側にでも居ろ。お前に何かあったら俺の行動の意味が無くなるしな」

 

 コクリと頷いてイリヤは言峰の側に寄って行った。正直な所は士郎の所にまで帰ってもらいたかったが、離れているだけマシだろう。

 

 そう考えながら俺はオベロンに向けて左手の甲に宿る令呪を掲げる。そして残る二画を用いて最後の仕事、大聖杯を破壊する為の命令を口にする。

 

「令呪を以って命ずる。()()()()、真の姿を以って聖杯を空間ごと呑み込め」

 

 俺の命令を受けてオベロンはニヤリと笑みを浮かべ、その身体を泥のように融解させた後に俺の影の中に消えて行った。その後、蟲蔵にて見せた登場と同じく様々な蟲達が蠢き、ひしめき合った後に真の姿を現した。

 

「重ねて令呪を以って命ずる。聖杯を取り込んだ後は、必ず俺の元に()()()()()。泥なんかに呑まれるなよ、()()

 

 そんなオベロンに俺は更に令呪を重ねて命令した。必ず俺の元へと戻って来い、と。大聖杯が無くなった後の奇跡を信じる俺の身勝手な祈りだ。

 

「っ!あぁ、勿論だ。俺のマスター(唯一無二の輝ける星)

 

 俺の言葉に少々驚いた様子を見せたオベロンだったが、すぐに表情を変えると妖精王オベロンでも終末装置ヴォーティガーンとも異なる、眩しい光を見るかのような笑みを浮かべた。そうしてクルリとこちらに背を向けると、宝具の詠唱を始めたのだった。

 

「夜のとばり、朝のひばり、腐るような夢の終わり。黄昏を喰らえ────『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』!!」

 

 刹那、オベロンの身体が闇に溶けると同時に、地面が振動する。アンリマユが帯を用いて経路を絶った時とは異なる、地を割くかのような揺れ方だ。そんな揺れが暫く続き、立っていた足元の地面が裂け始めた時、“ソレ”は姿を現した。

 

 遥か地の底、真っ赤に煮えたぎるマグマをも呑み込みながらソレは終わり無き空洞を以って大聖杯を呑み込まんが為に地の底より這い上がる。ソレの正体はブリテン異聞帯で終末装置として生まれ落ちたオベロン・ヴォーティガーンの真の姿。全てを呑み込む虚としての姿が彼の真の姿であり、宝具なのだ。

 

 あっという間にオベロンは俺の指示通りに地面ごと、もとい大聖杯が存在する空間ごと見事に大聖杯を宝具を以って呑み込んだ。後はオベロンがあの聖杯を上手く取り込んでくれれば大団円のハッピーエンドを迎えられる筈だ。

 

「一つ、聞いても良いかね?間桐慎二」

 

「何だ?」

 

 そう考えながらオベロンを待っていると、いつの間にか側に来ていた言峰に質問していいかと聞かれた。

 

「私の聞き間違いではなければ君は先のサーヴァントの事をオベロンと言ったかね?」

 

「あぁ、そう言ったが?何か気になる事でも?」

 

「記憶違いでなければオベロンとはシェイクスピアの『夏の夜の夢』の妖精王という登場人物であった筈だ。英霊とは過去に生きた英雄の生き写しのような物。だと言うのに空想上の人物がサーヴァントとして召喚されるのはおかしいのではないか?」

 

「そうだな。()()()()でアイツが召喚されるのは普通ならば()()()()()話だ」

 

 俺の言葉に言峰は眉をひそめた。大方、引っ掛かりでも覚えたのだろう。それは正解だ。未来視の話でも世界線の話でもない、本来ならばあり得ないと言うのが前提に来る話をしているからだ。

 

「だがな?何事にも例外っつうのはあるもんだ。オベロンは本来、英霊にはなり得ない。あくまでも創作上の人物の域を出ないからだ。人の想いが引き起こす奇跡はあれどもやはり難しい」

 

「ならば何故彼は英霊として召喚されたのだ?」

 

「それこそ例外っつうヤツだ。アイツは特殊でな?妖精王オベロンであってそうじゃない。ついでに言えばクラスでさえ偽りの姿だ」

 

「何だと?」

 

 どうせこれで最後なんだ。全部吐いちまえって事で俺は更に眉間にシワを寄せる言峰や、隣で驚いた顔をするイリヤに全てを打ち明かす事にした。

 

「アイツの真名はオベロン・ヴォーティガーン。この世界とは異なる世界で妖精王オベロンのカタチと役を羽織り、神秘の時代の終わりと共に、自らの破滅を望んだブリテン島の意思が具現化した星の終末装置。抑止力とは逆の、世界や人類史を成り立たせまいとする反作用がアイツだ。そんなアイツがルーラー(裁定者)なんて、とんだお笑い草だ。故に、クラスはプリテンダー(役を羽織る者)

 

「プリテンダー……。アヴェンジャーとルーラー以外のエクストラクラスがあったなんて……」

 

 真相を聞いたイリヤは唖然とした表情でポツリと呟いた。言峰も言葉にはしていないが、目は見開かれているので驚いているようだ。

 

「俺の言うどの世界線にも居ない魔力回路を持ち得た例外が、更に例外に例外を重ねるという奇跡を為し、縁召喚によって引いたたった一人の特別なサーヴァントがアイツだ。───そうだろう?オベロン」

 

 俺が名を呼ぶと、足元の影が不自然に波打ち始めた。それはゴポリ、ゴポリと大きな音を立てながら霧のようなモノが徐々に人の形を成す。そして霧散する様に霧が消えるとその中に居たのは、俺の命令通りに泥に呑まれる事無く、聖杯をその身にしっかり取り込んで戻って来たオベロンだった。

 

「全く……。ホント、相変わらずだね僕のマスターは……」

 

「ハハッ、そりゃお前が一番分かってた事だろ?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながらオベロンにそう言うと、彼は今にも溜め息をつきそうな顔をしていたが、すぐに『仕方ない』と言いたげな表情を浮かべられた。

 

 こうして理由も分からずこの世界の間桐慎二となり、原作には無い状況や能力に振り回されながらも足掻いた第五次聖杯戦争は、当初の目的通りの自身の生存とマキリ・ゾォルケンの死亡、大聖杯の破壊、もとい取り込みを以って終結した。奇跡的に主要人物の犠牲者は殆ど居ないと言う素晴らしい結末を迎えたのだ。

 

 まぁ、その後にもっと大変な事(面倒な事)が起きるのだが、今の俺には知らぬ話である。





はい!これで漸く一段落つきましたね!
次回はエピローグを公開予定で、このエピローグを以って『蟲使いの間桐君』は一応完結となる予定です。(期間は開きますが他ルートのダイジェスト、もしくは番外編の執筆はあるかも)

エピローグの公開時期は未定なのですが、投稿丁度四ヶ月目にあたる一週間後を目標として現在執筆中です。(過ぎたら申し訳ない…)
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