蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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次期当主

 

「ァ゙…………ぐッ」

 

『起きタ』『王さま、オキた?』『ダイジョウブ?』『まだイタイ?』『心配シタ』

 

 とんでもない激痛から開放され、目を開けるとそこは自分の部屋のベッド……ということはなく、薄気味悪い蟲蔵だった。開口一番に蟲共の声を聞くことになるとは……やはり夢ではなかったようである。全部夢だったらどれだけ楽だったか……

 

「あー……魔術回路は、増えたのか……?」

 

 沈んだ気分を俺は無理矢理切り替える。いっそのこと理不尽さを叫んでやりたかったが、どうせ虚しくなるだけなのでやめておく。それよりも、前世今世含め魔術の事にはてんで関わりが無かった為、魔術回路が増えたかとか魔術の行使はどうするのだとかが全く分からない。ここは今のうちに素直に()()に聞くのが丁度良いだろう。

 

『増えたフエた』『バッチし!』『十本にナッタ!』

 

「そう……か」

 

 数は少ないが元々全く無かった状態からあの激痛を乗り越え、平均の半分程度にまで伸ばしたんだ。成績は上々だろう。……何処までもあの陰険ジジィの手の内な気がしてならないが。まぁ、ジジィもまさかこの俺が蟲達の王で気に入られるとは予測はしていなかっただろうがな。

 

「あぁー、クソだりぃ……」

 

 身体を仰向けにして戯れてくる蟲達を手で軽く振り払いながら、蟲達以外に聞くものが居ない事を良いことに俺は独りごちる。

 

「何だよ桜を見て前世思い出すって。こんな死亡フラグ満載の世界に転生とか巫山戯てんのかよ。しかもワカメって。もっとマシなキャラが良かったわ。流石に主人公とは言わねぇからさ、そこら辺のモブとかに転生させてくれません?てか何で前世思い出したら魔術回路が発現するんだよ。おかしいだろ。巫山戯んなよ。原作のワカメは全く持って無かったじゃねぇか。おかげさまで蟲蔵行きじゃねぇかよ。冗談じゃねぇわ。それに蟲達の声が聞こえるだなんて知りたくなかったわ。要らねえよ!んな特殊能力!!そもそも何なんだよ、王さまって。設定盛りすぎなんだっつうの!!」

 

 我慢出来なかったわ。一つ出せば出るわ出るわ不満の数々。その殆どが知らないヤツが聞けば電波じみた言葉の羅列なのは納得いかねぇが。

 

『王さま?』『設定ッテ何?』『怒ってル?』『ゴメンなさい』『ボク達悪いコ?』

 

「あー……、いや、お前らは悪くねぇ、筈。ただの俺の愚痴だよ。気にするな」

 

 さて。クソジジィの目的は早々に達成したわけだし、そろそろ迎えに来てくれねぇかなぁ……。正直暇なんだよ。コイツら、なんか知らねぇが俺のこと王さまと慕って桜達みたいに凌辱してくる訳じゃねぇし。増々訳が分からない。見た目キモい癖に何でこんな純粋さを感じる返答ばっかりしてくるんだよ。

 

 って、ちょっと待て。それ以上顔に群がるな。息出来ねえって!てかそもそも寄るな!気色悪い!あぁー!もう、拗ねるな。悪かったって!別にキモくねぇから。ちょ、だから寄り過ぎるなっての!分かった、分かったから!落ち着けお前らぁ!!

 

 彼らに王と慕われながらもいまいち扱いきれない現状に苦戦していると、蟲蔵の扉が開く音がした。

 

「何じゃ、肥やしにならなかったか」

 

「うるせーです、お爺さま」

 

 目線を扉に向けると案の定、そこには相変わらずニヤニヤと薄気味悪い笑みでこちらを見るクソジジィの姿があった。てか、何でこの距離で会話出来てるんだよ、俺。

 

「クカカッ、口調が乱れておるぞ、慎二よ」

 

「こんな所にブチ込まれた時点で敬う気が無くなりましたのでね。お爺さまと呼んでいる事と敬語は使っているので見逃してください」

 

 本当は敬語なんか使いたくもないんだが、今のうちは使うしか無い。どうせ逆らえないし。だったらコイツからとことん魔術に関する知識を吸収していつかぶっ殺す。絶対にだ。敬語なんて、中学に上がったくらいで外せば良いだろ。

 

「カカッ。生意気になりおってからに」

 

「…………何かどうでもよくなっちゃいまして。それで、お爺さま?生き残りましたのでこの僕に魔術について教えてはいただけませんでしょうか?」

 

「良いぞ良いぞ。だが、その前に風呂じゃな」

 

「それもそうですね」

 

 あまりに意識していなかったが、そう言えばコイツらの体液と汗で全身がベタベタになっていたことを思い出す。服を着たままだったので肌に直接というわけではないが、服が無い所はベタベタだったし、汗で服も濡れたので風呂に入れさせてもらえるのはありがたい。魔術をすぐにでも学びたいという気はあったが、優先順位は風呂の方が先だ。

 

 そう考えながら俺は仰向けの状態から起き上がる。群がって居た蟲が落ち、何の傷も凌辱の跡も無い俺の姿にジジィは何か言いたげに顔を歪めたが、知らぬ顔をする。どうせ魔術回路は増えた筈なのに何故犯されてないのかとでも思ってんだろ。無視だ無視。辺りから『待っテ』だとか『行かナイデ』だとか言う蟲達にも聞こえぬフリをする。何だか蟲の声が聞こえるってのはこのジジィには教えてはならない気がしたからだ。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「はぁぁぁぁ…………」

 

 シャワーを浴びながら、俺は特大の溜め息をつく。

 

「成り代わってすぐの情報量が多過ぎる……」

 

 そもそも二次元のキャラクターに転生(?)したという事実が重たいんだよ。何で型月世界なんだよ。何で間桐慎二なんだよ。ルートによっては死ぬじゃん。てか、殆ど死んでいるじゃねぇか。冗談じゃねぇよ。いや、これはもう蟲蔵で叫んだな。別の事を考えよう。そう考えて、シャワーを止め湯船に浸かる。

 

 まずこれからどうするかだが……。一番初めに立てた魔術に対する執着を無くすというものだが、それは真っ先に砕け散った。何の因果か俺は前世を思い出した途端、魔術回路が発現した。というわけで魔術に関わらないというルートは無くなったというわけだ。んで次はどうするか、だが……正直決めてない。というか決められねぇ。決めた瞬間に砕け散ったんだ。どうせ次を決めても壊れるに決まってる。

 

 まぁだが大元の方針は変わらねぇ。原作崩壊してでもとにかく生きる。これは譲らねぇ。何せ慎二はルートをミスれば成人せずに死ぬからな。アイツの行動が悪かったからとはいえ、その立場に俺が成り代わったからには二十歳にならずに死亡は回避したいのだ。とにかく最優先はこの増えた魔術回路を最大限に活かす為に魔術の知識を吸収せねば。あとは義妹の桜についてだが、これはそのうち何とかなるだろ。彼女のメンタルは未来の正義の味方が救うし、俺はクズな行動を取らなければ良いだけだ。蟲蔵入りはまぁ、申し訳ないが今は耐えてもらうしかないだろう。蟲達の使役は出来るかもしれねぇが、今やればジジィに怪しまれる。いざというときの隠し玉としてとっておきたい。ごめんな、桜。

 

「てか、こんなに考えなきゃ死ぬって、この世界はハードモード過ぎるよな……」

 

 そんな俺の呟きが風呂場に虚しく溶けていった。

 

「慎二よ」

 

 風呂からあがり髪の毛を乾かしていると、ジジィから声を掛けられた。

 

「何ですか、お爺さま」

 

 あからさまに何かを企んでいる声色に正直気分が悪くなったが、下手に機嫌を損ねない為に、嫌悪感の声色は隠さずに敬語で応答する。

 

「そう嫌悪するでない。お主にとっても良いことであったろう?」

 

「申し訳ございませんが、本気でそう思われているならば一度病院にでも行かれては如何でしょうか」

 

 馬鹿なこと言うなよクソジジィ。俺にとって良いこと?全っっっっ然良くありませんでしたが?性格だけでなく頭まで腐りやがったか?そういった嫌悪をオブラートに包んでそう言うとジジィは負け犬の遠吠えを見ているかのように、

 

「カカカッ。そこまでは老い耄れて居らぬわい」

 

 と言って俺の額を杖で小突いてきた。クソジジィ……舐めやがって。いつか絶対に見返してやるからな。覚悟しやがれよ。

 

「そうですか。残念です」

 

「いくら孫と言えども儂に逆らえばどうなるか、分からんでもあるまい?」

 

「勿論ですとも。ですがお爺さま、よろしいので?」

 

「何がだ」

 

「確かに力のない僕を葬るのはお爺さまにとっては簡単でしょう。ですが、仮にも僕はお爺さまの血を引いている身です。他所から来た桜よりも間桐の魔術とは馴染むのは容易でしょう。そんな逸材を今ここで葬るのは痛手になると思いません?」

 

 これは賭けだ。俺がこの世界で生き残る為の第一歩。自分が生きる為ならばいくらでも危険な橋を渡ってやるさ。やらずに後悔するよりもやる後悔を俺は選ぶ。

 

「ハハハハッ!小僧の癖に自らを逸材と言うか。デカく出たのう?」

 

「えぇ、これから貴方様に対して交渉しようとしているのですから、これくらいはデカく出ないといけませんでしょう?」

 

「交渉だと?小僧がこの儂にか?」

 

「えぇ、そうですお爺さま」

 

 強気な姿勢を崩さない俺にジジィは訝しげな表情を浮かべたが、所詮は子どもの戯言だと考えたのかすぐさまいつもの何かを企んでいるかのような笑みを浮かべた。

 

「まぁ、よい。たまには孫のワガママを聞いてやるのも爺の務めじゃろうて」

 

「ありがとうございます、お爺さま」

 

 よくもまぁ思ってもないことを口に出せるな、このジジィ。まぁ良いさ。その余裕顔、すぐに歪めてやるよ。

 

「それで、お主は何を儂に対して要求するつもりだ?」

 

「僕に魔術についての全ての知識を教え、僕を間桐の()()()()に据えてください」

 

「本気か、慎二」

 

「えぇ、本気ですとも。お爺さま」

 

 これは、原作の彼が決して辿り着けないであろう俺だけのルート。魔術回路を持った間桐慎二が間桐家当主になるルートだ。

 

「カカカッ!面白い事を言うようになったではないか慎二よ。それで?仮に儂が受け入れるとして、お主は一体何を儂に対価として差し出す?」

 

「衰退した間桐家の復興と次の聖杯を間桐の手に」

 

 俺がそう言うとジジィは腹を抱えて笑い出した。

 

「ハハハハハハハハッ!たかが魔術回路が発現した程度でそこまで吐かすか!面白い、面白いぞ小僧。まだ十にも満たぬ年齢で間桐の復活と聖杯戦争の勝利を確約するつもりか!ハハハッ!夢物語も大概にしておけ。お主程度の魔術回路量では間桐の復興も叶わぬし、聖杯戦争は早期敗退が目に見えておるわ」

 

「では交渉は決裂と……」

 

「まだ気が早いわい。儂はそうは言うとらん」

 

「はい?ですが、今のはそういう意味では?」

 

「だから気が早いと言うておる。それだけの大きい対価を掲げるならばそれ相応の態度と成果を見せよ、と儂は言うつもりだったんじゃ」

 

「相応の態度と成果、ですか……」

 

 明らかな含みを隠しもしない言い方に、思わず訝しげな顔を浮かべてしまう。一応病み上がりの孫にコイツは一体何を求めるつもりだ?このジジィ。

 

「そうじゃ。まずお主の要求だが、前半は受け入れよう。魔術の素養が見込めた以上、当たり前の事じゃからな」

 

「ありがとうございます。では、後半については?」

 

「儂からの課題を達成出来たのならば考えてやらぬこともない」

 

「……そう、ですか。因みに、その課題っていうのは……」

 

 ジジィからの思わぬ提案に少々困惑する。ジジィの意図が全く読めない。本当に何を求めているんだ。

 

「そう身構えるでない。簡単な事じゃ。第五次聖杯戦争までにお主の魔術回路を一般魔術師の平均かそれ以上にまで伸ばしてみせよ。間桐の復活と聖杯戦争の勝利を確約しようとした気概じゃ、出来るであろう?」

 

「なっ……?!」

 

 まさかの課題に俺は言葉を失った。魔術回路を今の倍に増やすだって?はぁ?!どれだけ無茶苦茶な事を言っているのか分かっているのか?!この耄碌ジジィは!

 

「カカカッ!無理というのならば諦めても良いぞ?時間は掛かろうが、こちらには桜に当主の座を渡すという選択権が残っているわけじゃからのう?」

 

 余裕の笑みを浮べてジジィは言葉を失ったこちらを『出来ぬであろう?』とでも言うかのように嘲笑う。態度や言葉から察するに無茶苦茶な事を言っているのは理解した上でのことなのだろう。

 

「いえ。受けて立ちましょう」

 

 ならばこちらは正面から立ち向かってやる。テメェの思い通りになんてなってやらねぇ。むしろそれで本当に魔術回路が増えるのなら万々歳だ。十年くらいあれば何とかなるだろ。

 

「ほう?」

 

「次の聖杯戦争がいつになるのかは知りませんが、必ずや間桐の魔術の知識を吸収し、魔術回路を増やしてみせましょう」

 

「カカカッ!そうかそうか。期待しておるぞ、慎二」

 

 俺の返答に少しは満足したのか、ジジィは上機嫌に洗面所を後にしようとしていた。

 

「あ、少しお待ち下さい、お爺さま」

 

 それを声を掛けることで阻止する。そして俺は先程の事とは別の()()()を要求する。

 

「何じゃ」

 

「まだ確定ではないとは言え、いずれは僕が間桐を継ぐのですから、桜の魔術訓練は今後は必要ありませんよね?」

 

「何を言うか。間桐の血を引かぬ以上、これは必要な事じゃよ」

 

 チッ……融通効かねぇな……。魔術師は一子相伝じゃなかったのかよ。

 

「じゃが、まぁ良い。お主の覚悟を汲んで頻度と規模は減らしてやろう」

 

「ありがとうございます、お爺さま」

 

 俺の不満そうな態度を察してかは知らないが、どうやら桜が蟲蔵に放り込まれる頻度は減らしてもらえるようだ。

 

「カカッ。ではな、慎二」

 

 そう言ってジジィは上機嫌に、今度こそ洗面所を後にしたのだった。

 

 本当は蟲蔵に放り込まれる事すら無くしたかったが、桜の負担が減っただけ良しと考えよう。俺が有言実行してしまえば良い話だ。本当は間桐を復興させることも聖杯戦争に勝つのも考えてはいないが、ジジィの目をこちらに向けさせられるのならばいくらでも嘘を吐いてやろう。

 

「俺は、何が何でも生き抜いてやる」

 

 魔術回路が急増したことの代償と言わんばかりに少し白髪混じりになってしまった己の髪を睨みつけながら、俺は決意を新たにした。





とりあえず今出来てるプロローグ的な所まで投稿。続きは気が向いた時かもう一つのシリーズに余裕が出来たら書きますねー。
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