蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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※登場人物達(男性陣)の距離が近くなってますが、BLではありません。


エピローグ

 

 第五次聖杯戦争が終結してから凡そ一年の月日が経過していた。十にも満たぬ歳の間桐慎二に成った事を自覚してから当初の目的であった聖杯戦争を生き残ると言う事は達成したのだが、その後がかなり問題だった。

 

 大聖杯は一応俺が破壊したのだと遠坂や士郎に伝えたのは良いのだが、厳密には未だオベロンの体内に存在している状態である。つまりは大聖杯からの魔力供給は止まっていないので、未だ現界し続けるランサーやオベロンについてどうやって説明するかなどの様々な問題が出て来ていたのだ。

 

 とりあえず、ランサーは一時的とは言え聖杯と繋がってしまったが為に“あちら側(別の世界線)”から一方的な魔力供給を受けてしまっている桜と契約を結ぶ事で彼女の使い魔という形で現界している、という事になっていた。実際、桜のこの状況を放置しているといずれ魔力暴走をしかねなかったのでこういう対応になったのだ。所謂、原作ライダーのポジションがランサーに置き換わった感じだな。士郎にも時折、過剰な魔力を受け渡したりしているようだ。

 

 次点でオベロンの事なのだが……これがまぁ、大変だった。まず、彼は大聖杯を宝具を以って呑み込んだ。これが問題を引っ提げて来て、彼本体の性質が終わりの無い空洞だったとしてもいくらかは大聖杯からの影響を間近に受ける事になったのだ。機能自体を停止させた訳じゃないからな。当たり前の事だとも言える。

 

 ではオベロンの身に何が起きたのか。それは膨大な魔力供給源を得た結果、受肉したと言う事だ。しかもそれはただの受肉ではない。普通、受肉すればサーヴァントの時のように霊体化する事は出来ないのだが、彼は違っていた。オベロンはサーヴァントとして現界しているが、同時に受肉も果たしていると言う何とも摩訶不思議な事態になっていたのだ。これには本人も相当驚いていたし、俺も流石にそこまでは見通しが出来なくて頭を抱えたくなった。

 

 他にも聖杯戦争を終わらした直後は、目覚めた士郎や治療を終えた遠坂に諸々の説明をする事で一悶着があっただとか、魔術教会に目を付けられ掛けただとかで非日常的な出来事でてんやわんやしていたのだが、過ぎた話だ。約一年も月日が流れれば対応にも慣れてくると言うものである。なんだかんだ誤魔化しの技術はオベロンも俺も持ってたからそれ程苦労はしてないようにも思う。多分。まぁ、その誤魔化しもそろそろバレそうでどうにかせねばならないなとは感じているが……。

 

 その辺りの諸問題は俺が招いた結果である為、あまり文句を言うつもりは無い。言うつもりは無いのだが、日常的な面で言いたい事はいくつかあった。それは────

 

「よ!坊主♪」

 

「ランサー……、何故俺の家に居る。今日は士郎の所へ行っているんじゃなかったのか?」

 

「衛宮の坊主に、お前さんを呼んでくれって頼まれたからな。迎えだよ、迎え」

 

「はぁ…………」

 

 桜の使い魔となった事で俺とのマスター主従契約は切れた筈なのに、ランサーが頻繁に俺の元へ訪ねる事が多い事だ。今日は士郎に俺を呼べと言われて来たらしいが、この前は趣味の釣りで釣った魚の差し入れだとか言って押し入って来た事もあった。

 

「そんな溜め息ばっかつくなって。幸せが逃げちまうぞ?」

 

「何処で覚えていたんだそんな事……。この一年ですっかり日本に染まりきってんじゃねぇかお前」

 

「いやぁ〜、色んなバイトしてると人付き合いが増えっからよ。日本にゃ、親切なお嬢様方が居るもんだし。コミュニケーションを積極的に取れば自然と覚えてくもんだ。こういう事は」

 

「またそんな歯の浮くような事を……」

 

 というか俺が言いたいのはそういう事じゃないんだが、と言うのは口にするのも野暮な気がして止めておいた。それにこのまま話していればランサーの調子に乗せられて、また士郎の元へ行く羽目になると思ったからだ。

 

 因みにいくつか言いたい事があると言った項目の二つ目が、この士郎の家や外出などに招かれる回数の増加だ。桜と恋仲に成ったのだから二人で仲良くしてれば良いものを、何故かアイツらは事ある毎に俺も含めようとしてくるのだ。初めはいつぞやのように部活引退後の朝の登校を共にするようになる事が増えた程度のものだったのだが、最近は日々の夕食や泊まり、はたまたデートであろう外出にまで俺を誘って来るようになったのだ。

 

 仮に前者二つは百歩、いや、一万歩譲って許すが、流石に後者は駄目だろ。おかしいだろ。恥ずかしがれよ。デートだぞ?デート。意味分かってるのか?

 

「なーにまた、そんなに悩んでんだよ。そんな気にするこたぁ無いだろ?な?」

 

「ぃ゙っ……!?あのさぁ、普通は気にするんだっつつの。おかしいんだよ、この関係は……」

 

 俺がアイツらのおかしさにウンウン唸っていると、ランサーが肩をバシンッと叩いて気にするなと言ってきた。不意打ちだったのに加えて、かなり強めだったのでわりと痛みを感じた。

 

「ちょっと?あまりマスターを困らせないでくれるかな?あと、それ以上近付くな」

 

「……オベロン」

 

 肩の痛みに少々唸っていると、背後からオベロンの声が聞こえてきて、そのままこちらに体重を掛けるかのように両手を回される。先程まで気配らしきものが無かった事から凡そ、また霊体化もどきで俺の影にでも潜んでいたのだろう。ここ数ヶ月のこの当たり前のようにされるモンペ行為にもすっかり慣れきってしまっている自分に呆れを感じた。

 

「なぁに?マスター(慎二)

 

 以前とはすっかり変わってしまったあまりにも甘い色を含んだ声に目が眩みそうになったが、何とか心を強く持ち、首に回された手を振り払うようにしながら彼を睨み付ける。

 

「うっとおしいから、いつもいつも引っ付くなって言ってんだろうが」

 

「えー?良いじゃないか、マスター。別に困るものでも無いだろう?」

 

「だーかーらー!!うっとおしいっつうの!そもそも、何でそんな引っ付くんだよ。必要無ぇだろうが!」

 

「必要あるからこうしてるんじゃないか」

 

「はぁ?そんなワケ───」

 

「そうだぜ〜?()()()()()はすぐに人たらしするからな~。オウジサマにとっては気が気じゃないのさ」

 

 オベロンの言い分に反論しようとした時、俺の影がゴポリと揺れ動き、そこから大聖杯に居る筈の()()()()()が現れた。頭痛の種二号の登場に、俺は頭を抱えたくなった。因みに一号は最近過保護気味なオベロンの事である。

 

「げ……真っ黒黒助じゃねぇか」

 

 現れたアンリマユを見て、ランサーは心底嫌そうな顔をしてアンリマユの事を真っ黒黒助と呼んだ。頭痛の種の原因はコレで、アンリマユは何故か俺のサーヴァントとして現界しているようなのだ。更には、俺以外には原因不明の視覚異常で相変わらず真っ黒でよく分からないヤツにしか見えていないらしい。オベロンでさえ、身体の全体像を捉えるので限界のようだ。因みに俺には、初めて対面したあの時とは違って、きっちり瓜二つで色違いの自分に見えるものだから余計に質が悪い。

 

 尤も、一番質が悪いのはコイツの存在を認知出来るのは俺と契約した事のあるサーヴァントにしか見えないという事。つまり、コイツが俺の姿で何かをしても士郎らには全く分からないという事なのだ。隠す事をせずに居られるのは良いが、それとコレとは話が別なので、頭痛の種となっている訳だ。

 

「んだよー。そんなに嫌な顔する必要無いだろ?オレっち、何もしてないぜ?」

 

「だとしても真っ黒で表情すら読めねぇヤツの言葉をどう信用しろってんだよ」

 

「アハハッ!そりゃそうだわな」

 

 ランサーの言い分にケラケラと笑って肯定するアンリマユ。ランサーやオベロンには分からない、俺のしないであろう歪んだ笑みに俺は何の拷問だと言いたくなった。

 

「信用云々もそうだけれど、マスターの事をその“オニィサマ”って呼ぶの止めてくれない?」

 

「えー?良いじゃん別にぃ?俺の今の姿はオニィサマを参考にしてるし、オニィサマの慈悲でオレはここに存在している訳ですし?尊敬の念として呼ぶのは当たり前では?」

 

「尊敬の念を持っているなら、そもそも表に出て来ないで欲しいんだが?大聖杯の中で大人しくしてろよ」

 

「やぁ~だ♡」

 

 うっっわ。俺の顔で語尾にハートが付くような甘い声で言われるものだから凄い鳥肌が立った。側に居たランサーも同じ気持ちになったのか、腕を擦る動作をしていた。オベロンに至っては白い姿の筈なのに黒いオーラが溢れ始めていた。

 

「うっっっっわ、きっも……」

 

 内心でも考えていたが、思わず声にも漏れた。鳥肌も酷くなっている。

 

「ヒデェよ!オニィサマ!そこまで言わなくったって良いじゃんかよ!」

 

「いや無理。気色悪い。自分の顔だぞ?俺はナルシストじゃねぇんだ。気持ち悪くて吐きたくなるわ」

 

「えーん!オレの味方が誰も居なーい。あの時の優しさは何処に行ったんだよぉ……。もう知らね!引き籠もるし!」

 

 あからさまな嘘泣きと引き籠もる宣言をして、アンリマユは俺の影に逃げて行った。

 

「何しに来たんだよ、アイツ……」

 

「ホントな……」

 

 ランサーの呟きに心から全力同意した。本当に何がしたいんだか未だに分からん。

 

「ま、邪魔は入っちまったが、とっとと行こうぜ。坊主」

 

 頭痛を感じ始めた頭を抱えていると、ランサーが俺の手を引いて勝手に連れて行こうとしてきた。

 

「ちょ、離せよ!俺は一度も行くだなんて言ってねぇ!」

 

「そうだよ。マスターは今日は僕と過ごす予定なんだよ。ぽっと出の存在で邪魔しないでよ」

 

 はぁ?それも初耳なんだが?と思う俺の意思を無視してオベロンとランサーが俺を挟んで睨み合いの喧嘩をしている。それに加えて左右両方から腕を引っ張られる形にされている為、俺はヒロインに取り合いをされるギャルゲーの主人公か!!とツッコミたくなった。

 

「「マスターはどっちなんだい?/坊主はどっちなんだ?」」

 

「うるせぇぇぇ!!どっちもお断りだっつうの!俺は今日は一人で過ごす!!!」

 

「それは駄目だぞ。ちゃんと約束したじゃないか慎二」

 

 声のした方に振り向くとそこには、ランサーに俺を呼んで来いと頼んでいた筈の士郎が居た。

 

「な……!?何でお前がここに……?」

 

 まさか士郎がここに来るとは思わなくて驚きの声をあげると、士郎はきょとんとした顔で、

 

「何でって……最近ボーっとしてる事の多い慎二の事だから、ランサーに呼びに行ってもらっても、今日の約束の事忘れてるんじゃないかと思ってな。一応来てみたんだよ。そしたらやっぱり案の定だったな」

 

 至極当然とでも言うかのようにそう言って来た。コイツのこの聖杯戦争前から変わらない『慎二の事、分かってます』感を醸し出す士郎にイラッと来たが、怒ってばかりも疲れるのでとりあえずは覚えの無い約束の話をする事にした。

 

「ボーっとしてるは余計だ。というか約束って、そんなもんした覚え無ぇぞ」

 

「あー、やっぱり忘れてるな?つい一週間前に話しただろ?皆で、花見に行こうぜって」

 

「あー……そう言えばそんな話したっけか。今日だったか?」

 

「そうだぞ。桜なんて今日の為に朝から張り切って弁当を作ってくれてるんだぞ?なのに忘れるだなんて酷いじゃないか」

 

「それは……その、悪かったな」

 

 俺の記憶ではもっと先の予定のつもりだったので、どうやらすっかり勘違いしてしまっていたようだ。流石にこれは俺の方が悪いと思い、素直に謝る事にした。

 

「良いぜ、別に気にしてないし。それに約束自体は覚えててくれたんだろ?なら文句は無いさ。誰にだって間違いはあるしな」

 

 士郎は約束を違えていた事に不満は無いようなのだが、どうにも対応が何か甘い気がする。今後はこの辺の意識改革も必要か?と考えていると、

 

「なるほどなぁ。それで朝から忙しそうに台所で嬢ちゃん達が働いてたのか。なぁなぁ、坊主!それは俺も行って良いのか?」

 

 ランサーが何処か納得した様子を見せた後に、喜々とした目で士郎に参加の是非を尋ねていた。

 

「勿論だ。桜もそのつもりで準備してるって言ってたぜ」

 

「やりぃ!よし!そうなりゃ酒持ってこなきゃな」

 

 参加しても良いと聞いたランサーはその場でガッツポーズをすると、上機嫌な様子で酒を持ってくるとか言って何処かへ買いに行ってしまった。

 

 自由な奴だな、ホント。てか、花見すると聞いて真っ先に酒を持ってこようなんて言う思考回路になるとかどんだけ世俗に塗れてんだか。

 

「アイツ、参加して良いって聞いた途端にアレかよ……」

 

「まぁ、アレはアレでランサーらしいんじゃないか?」

 

「…………それもそうだな。それで?場所は何処で何時からだ?」

 

「あれ?言ってなかったか?」

 

「生憎、俺が聞いたのは花見をするってだけだな」

 

 『あれ?』と首を傾げる士郎に、俺はロボットから人間らしさを取り戻した途端にこれかよ……。と、溜め息をつきたくなった。

 

「ごめん!すっかり忘れてた」

 

「オイ、テメェも人の事言えねぇじゃんかよ」

 

「それはごめんって。んじゃ、一緒に行こうぜ?」

 

 両手を顔の前に持ってきて謝る仕草をした後に士郎は俺の前に手を差し伸べてきた。サラッとこういう行動を俺にまで取るものだから、人の事は言えないが『この天然人たらし野郎め』と、心の中で毒づいた。

 

「アホ。俺は幼稚園児かっての。手は要らねぇし、テメェが前に出て案内するだけで良いんだよ」

 

「あ、それもそっか。こっちだ、慎二。桜達は先に現地で待ってるんだ。早く行こう」

 

「へいへい。分かったっつうの。予定変更だ、花見に行くぞオベロン」

 

「了解、マスター」

 

 何とまぁ俺が来る事が嬉しいと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら、士郎は花見の場所へ案内し始めた。その様子に、大袈裟な奴だなと思いながらも、俺はその後について行った。

 

 そうして士郎の案内の下、花見の会場に辿り着く事が出来た。

 

「あ、おーい。士郎〜、こっちこっちー!」

 

 少し高い所にある大きな桜の木の下辺りを陣取っていたらしく、そこからこちらに気が付いた藤村先生が大声で呼び掛けながら大きく手を振っていた。どうやら桜や遠坂以外にも人が居たようで側には美綴や一成、それにイリヤまでもが居た。

 

「なんか、随分と大所帯だな」

 

「だろ?こうして集まれるのもきっと今後は少なくなるだろうからーって、藤ねぇの提案でこうなったんだ」

 

「……なるほどな」

 

 確かに、高校を卒業したら頻繁に会うだなんて関係は結構稀有だろう。現に士郎や遠坂は聖杯戦争後の魔女裁判などをきっかけに時計塔に行くようだし、こういった計らいはかなり有り難いものだろう。

 

 そう思いながら藤村先生達の元へと向かっていると、その手前、白線辺りで満開の桜を見上げている桜が居た。

 

「桜……?」

 

 それに気づいた士郎が、桜の元へと駆け寄った。声は聞こえないが、動く口元から察するに何かを話しているようだ。気になったが、そう言えはここは映画の最後の場面であった、二人で線を乗り越える描写の場面ではないか?と思い当たり、様子を見ることにした。

 

 が、どうやら微妙に違っていたらしく、手を繋ぐと言う所までは行ったクセにその先へ中々行こうとしない二人にヤキモキした俺は二人を後ろから白線の向こうへ押し出した。

 

「「おわっ……!?/きゃっ……!?」」

 

「ちょ、慎二!!何するんだ!危ないだろ?!」

 

「うるせ。いつまでそこに突っ立ってるつもりだ?テメェは馬鹿正直に桜の前を進んでりゃ良いんだよ」

 

 そう言うと俺の言葉に何故か鳩が豆鉄砲をくらったかような間抜け面を浮かべる士郎。何を考えたのかは知らないが、どうせまた碌でもない事だろうと直感した俺は士郎にデコピンをかます。

 

「ぃ゙でっ!何でいっつも慎二はそこばっかり狙うんだよ」

 

「テメェが隙だらけなのが悪ぃんだよ、マヌケ」

 

「はぁ?!そんな訳無いだろ!」

 

「いいやマヌケだね。事ある毎にぽかんとしたような顔しやがって。隙ありまくりだろうが」

 

「それは慎二が……!」

 

「───ふふ」

 

「「っ!!」」

 

 ギャイギャイといつもの様に士郎と言い合って居るとふと、桜がクスリと小さく笑い声を漏らした。その声にハッとして毒気を抜かれた俺達は言い合いを止め、大人しく会場へ向かったのだった。

 

「もう!士郎遅〜い!!」

 

「ごめんって、藤ねぇ。慎二を呼びに行ったらつい遅れた」

 

「オイ、俺のせいかよ」

 

 会場について早々、士郎は藤村先生に怒られていた。ザマァと思ったがシレッと俺のせいにしようとしていたので、ムカついた俺は士郎を肘で突付いた。

 

「ちょ、慎二!事実だろ?いちいちそうやってくるの止めろよ」

 

「そんなワケあるか。桜と手を繋いだは良いがそのまま突っ立ってただろうがよ。それが無けりゃもっと早く着いただろうが」

 

「え〜?何々〜?士郎ってば、私達の居ない所で桜ちゃんとイチャイチャしてたの?男だねぇ〜」

 

「ハァ?!いちゃっ……!?そんなつもりは全然無いぞ?!!」

 

「またまたぁ〜、そんな事言っちゃって。アンタ達が付き合ってるのはもう知ってるんだから、そんなに恥ずかしがらなくったって良いのに〜」

 

「藤ねぇ……!」

 

 ケラケラと酒が入っている為か上機嫌な藤村先生のからかいの言葉に律儀に違うと否定する士郎を横目に、俺はちょっとだけ離れた場所に移動する。良い感じに士郎達からは少し隠れる場所で、太い木の幹に背を凭れる。そして、心地良く吹く春の風を感じながら物思いにふける。

 

「兄さん」

 

 つもりだったのだが、その前にレジャーシートの上でせっせと花見の準備をしていた筈の桜に声を掛けられた。

 

「どうした?桜」

 

「・・・・・。」

 

 そちらから声を掛けたにも関わらず、桜は何故か黙ったままだった。桜のおかしな行動に俺は妹が何がしたいのか読み取ることが出来ず、首を傾げる。

 

「おい、桜。言いたい事があるのならはっきりと──」

 

「ありがとうございます、兄さん」

 

「は?」

 

 いきなりの感謝に困惑した。桜は一体何に感謝してるんだ?そんな疑問に答えるかのように桜は続きを口にした。

 

「兄さんはいつも私を庇ってくれました。あんな事(人殺し)をしてしまった私を兄さんは一度も責めなかった。人でなくなった私を、殺すだなんて方法を取らずに、先輩を頼ってサポートをしてくれました。それに、今もこうして先輩が私達と過ごせているのは兄さんのお陰なんだと聞きました。兄さんの薬や機転が無ければ先輩は……」

 

「あのなぁ、桜。確かに後半は俺の自己満で目指したい未来の為に動いた事が大元を占めているから、俺のお陰だとは言えるだろうよ。だがな?前半は精神的に不安定なお前を下手に刺激すれば俺が死ぬから刺激しないでいようという何処までも身勝手な理由だ。感謝される言われはない」

 

 そう言うと桜は黙りこくってしまった。流石にちょっと言い過ぎかなとは思ったが、殆どが打算ありきの行動だったのでやはり言われる筋合いは無いと思う。まぁ、所々に桜を想っての行動もあるっちゃあるので、否定はしきれない。素直に認めるのは何か癪だがな。

 

「…………でも、やっぱり私はこんな生活が出来るようになったのは兄さんのお陰だと思います」

 

「あっそ。好きにすれば?」

 

 随分とまぁ、士郎と同じ様に考えるようになりやがって。いや、だから矢鱈と俺を誘いたがるのか?という考えが脳裏に過ったが、無視する事にした。あぁ、でもこれだけは聞いておかねば。

 

「────桜」

 

「何ですか?兄さん」

 

 俺が桜の名を呼ぶと、当たり前の事だろうに心底嬉しそうな顔をする妹に、俺は()()()()()を言う。

 

「お前今、幸せか?」

 

 俺の質問に桜はキョトンとする。そして質問の意味を理解するとクスリと笑って、

 

「兄さんも姉さんと同じ質問するんですね」

 

 と言った。やはりここに来る前に遠坂にも質問されていたようだ。まぁ、そうだわな。俺がそれをパクったんだし。でもま、心配する気持ちは一緒なんだわ。彼女が姉として幸せか、と聞いたのと同じ様に、俺は兄として妹に尋ねるのだ。お前は幸せか?と。

 

「勿論ですよ、兄さん。────私は幸せ者です」

 

 そう言って桜は花がほころぶかのような笑顔を浮かべた。満開の桜が映える景色の下、顔をほんのり赤らめながら笑う顔を見て俺は、間桐慎二と成ってから足掻き続けた結果がこれで本当に良かった、と心の底から思った。

 

 

 

 

〜 Happy End 八人目のマスター 〜





この話を以って、『蟲使いの間桐君』の八人目のマスタールートは完結となります。一部犠牲はありましたが、皆生存の万々歳ハッピーエンドです!!投稿を始めて凡そ四ヶ月になりましたが、漸く一段落付きました。思ってたより義務感を感じなくて、書いてて過去一楽しかった〜!

他ルートや番外編につきましては、投稿頻度はかなり落ちるでしょうが、のんびりと投稿したいかなとは思っております。FGOの世界線と絡んだらどうなるのかとか書いてみたいですしね。(ただし他ルートはダイジェスト版のみです)

いやぁ、まさか二度寝してた時に見ただけの夢が、こんな事になるなんて本当驚きですねぇ…。ホント、欲望のままに設定と一部場面のセリフを起きてからすぐに書き連ねた甲斐がありましたよ。日間ランキング一桁、コメントが三桁、UAが云十万、お気に入りが四桁、☆9評価二百人超えなんて夢のまた夢だなんて思っておりましたので未だにこの実績を見てニヤニヤしちゃってます。

最後に。ここまで続けられたのも、読んでくださる皆様のお陰です。本当にありがとうございました!番外編が投稿された時はまたよろしくお願いしますm(_ _)m

おまけに没表紙絵も公開しておきます。撮影場所(場所設定)は桜の部屋です。もう少し影やら光やらいれる予定でしたけど飽きちゃったので没。因みに表情は優等生モードなので、普段は別人かってくらいに気怠げさが満載の顔をしてます。

【挿絵表示】

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