蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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お久しぶりですね。
今回はダイジェストIFルートではなく番外編となっております。本当は書くつもりは無かったけど、流石にきっかけは考えとくべきかなと書き起こしてみました。
※今回の話を書くにあたって、シレッと本編中のオベロンから慎二君への「君」呼びを「きみ」に変更してます。
※4/22:IFルート1-2の内容を若干変更しました。


終末装置の独白

 

Side:オベロン・ヴォーティガーン

 

 ゴミ同然の蟲共が蠢く海の中、全身が腐りきった、蛹の中の流体にも等しい状態で、ブリテン島の断末魔から(オベロン)は生まれた。いや、正確にはブリテン島を滅ぼす終末装置としては不完全な、心底吐き気を催す状態で勝手に生み落とされたと言う方が正しいだろう。

 

 何故ならば、呼吸するだけで死にそうになり、指先を動かすのすらままならないと言う状態だったからだ。それでいて最も吐き気を催したのは、生まれたばかりの(オベロン)には、瞼を閉じるという機能が無かった事。うじゃうじゃと自分の身を這う蟲共から半年も目を逸らす事が出来なかった事だ。

 

────気持ち悪い。

 

 流れものの弱者が、何の展望も無く希望に縋る光景が。

 

────気持ちわるい。

 

 他人に騙され続けて痩せ細った弱者に頼りにされる事が。

 

────きもちわるい。

 

 うじゃうじゃと蠢くだけのモノに王様扱いされる事が。

 

────キモチワルイ。

 

 そんなモノに縋られる最底辺の自分が、何よりも。

 

 そんな事、蟻に集られる蝶の死骸と同じではないか。ゴミ捨て場の底辺で起きたこの世の最底辺の出来事だ。そんなモノに成り果てる生を、自由に動けるようにまで、俺の意思なぞ関係無く、強制的にやらされた。だから要らないと思った。『この世の構造』そのものを。

 

 だけど、一度だけそれら全てを忘れさせてくれた“()”に出逢った。それは、そこにあるだけだった。太陽の様に強くこちらを照らす訳でも無く、月の様に自らを主張する為に光る訳でも無く、本当にただそこにポツンとあるだけだった。けれども目が離せなかった。離したくなかった。それだけは唯一、吐き気を催さなかった。自分に集る全てのモノが、それを見ている時だけは忘れられたから。

 

 だから、()()()()思ってしまった。()()()()()()()のだ。

 

「消え……、るな。そこに、あってくれ……!」

 

 俺の(希望)俺だけの光(ティターニア)。どうか、きみの元に行けるその日まで、そこに居てくれ。と。俺は自分の性質を知らぬまま、願ってしまったのだ。

 

 俺は終末装置(ヴォーティガーン)であると同時に、大嘘憑きのオベロンだ。口にした事は例え本心からであったとしても、一夜の狂騒として捻じ曲がる。

 

「ぁ……」

 

 故にそれは一夜だけの奇跡になってしまったのだ。あり続ける筈だった光は、もう俺の前には現れてくれなくなった。自分の性質を理解し、後悔した時には、もう手遅れだった。あれは、この世界には居ないものと扱われて(捻じ曲げられて)しまったのだ。

 

「嗚呼────!!」

 

 だから、諦めたのだ。あれは狂った自分が作り上げた幻影だと。オベロンにも終末装置にも成りきれない自分が作り上げた幻想だったのだと。

 

「……なんだこれ。なんだってこんなコトになっている……?ああ、そう。人理が安定するまでは嘘も嘘のまま通るってコト?はあ……いいよ、諦めた。そういう人間だもんな、きみは。僕の名はオベロン。喚ばれたからには力を貸すとも。心底、気持ち悪いけどね?」

 

 故に、今回も当たり前のように思ってもいない言葉を吐き出す。本心も混ざってはいるが、ここは数多にある媒体(ゲーム)の中の世界の一つだ。どうせブリテン島での出来事と同じ様に決められた台本を読み上げているだけなのだろう。

 

────そう思って、忘れていた筈なのに。

 

《よっしゃぁぁ!!オベロン来た!》

 

「────!!」

 

 声が聞こえた。本来ならば壁を隔てている為に聞こえない筈の声が。薄っぺらな笑みを浮かべる為に閉じた目を見開く。その時にはもう、周りが暗くなり始めていたが、それでも声の主を視界に収めるのには充分な時間だった。

 

「ティター、ニア……?」

 

 本心からとまではいかないが、本来ならばありえない存在を口にする。だが、それは不思議なくらいに俺の胸にストンと落ちた。声なんて聞いた事も、姿を見た事も無い。けれども俺の心は、本能は、この暗がりの向こうに居る存在が、あの時捻じ曲がってしまった俺の(希望)だと告げている。

 

────逢いたい。

 

 こんな壁越しじゃなくて、直接逢って、きみの名を呼びたい。そんな思いが胸の中をはちきれんばかりに溢れた。何を見ても嫌悪と吐き気しか感じなかった筈の俺が唯一、好意を抱けた存在。それが、この壁の向こう側に居る。

 

 しかし現実とは残酷なもので、召喚されたあの日以降、きみの声を聞く事も姿を見る事も出来なかったし、アヴァロン・ル・フェのように動く事すらも出来なかった。

 

 もどかしかった。恨めしかった。終末装置であると同時に、オベロンとして生み落とされたが故に、役に縛られるしかない己が。この壁を隔てた先にきみが居ると分かっているのに、動けない事が。

 

 しかし、転機は訪れた。まずは一つ目の聖杯を与えられた時。それまで縛られていた筈の行動が嘘のように自由になった。例えば周回と呼ばれる作業をしている時。固定されていた視点を動かせるようになったのだ。身体全てではないが、きみを自由に見る事が出来るだけでもどかしさも恨めしさも少しだけ薄れた。

 

 次の転機は五つ目の聖杯を取り込んだ時。きみに壁を隔てながらも触れられていると分かるようになった。マイルームとやらに居る時にふと、自分以外の体温を感じたのだ。きみが居ると言う実感を得られるようになったのは嬉しかったが、こちらから干渉出来ない事に寂しさが募った。

 

 最後の転機はカルデアの夢火を与えられた時。

 

《よっし。これでオベロンの絆上限突破だな!まだまだ先は長ぇからな。目指せ絆マってな!》

 

「っ!!」

 

 きみの声が聞こえた。いつもの口の動きだけで想像した声じゃない。きみ自身の声。それ以外にも声は聞こえてきたり、相変わらずこちらの声は届かないが、全て些細な事だ。今は漸く声が聞こえるようになった事の方が大切なのだから。

 

《別に主人公になりてぇワケじゃ無ぇけど、一度は使ってみたいよなー、魔術》

 

《分かるわ〜。あのThe・厨二病って感じは男の憧れで、一度は経験してみたいよな》

 

《そうそう。んで、俺強え〜展開とかやってみてぇよな》

 

《うっわ、やりてぇ〜!まぁ、そんな事すれば慢心で死にそうだけどな》

 

《おいコラ、それ完全に何処ぞの王様じゃねぇか》

 

《アッハハ★》

 

 それから俺は暇さえあればずっときみの声に耳を傾けていた。そうしてきみは、藤丸立香(■■■■)のように非日常に身を投じる事は決して無い事や、きみの世界では魔術はおとぎ話にしか過ぎない事を知った。

 

 けれども俺には分かった。その世界では必要無いから使わないだけで、きみには魔術回路がちゃんとある。それは、きみがあそこに居た確かな証明。姿が違おうとも、存在を捻じ曲げられてしまったとしても、きみはきみ(俺の星)という変わらぬ証明だった。

 

 だから、その証明と今までの転機を利用して俺は、きみにちょっとした加護(呪い)を掛けた。別にそんな大したモノじゃないさ。きみの人生にささやかな幸せが訪れますように、と言う俺の性質上、口には出来ない事を加護(呪い)として、きみに触れられているのが分かる時にちょっとね?まぁ、それと同時に何処に居てもきみが分かるように同じ位の祝福(マーキング)はしたけれどな。

 

 そうして壁越しとは言えどもきみに会える日々に、らしくもなく浮かれていた時、ソレ(別れ)は何の前触れも無く訪れた。

 

《まさか息子さんが通り魔事件に巻き込まれて亡くなるなんて、お母様は気の毒よね》

 

《そうよねぇ……。犯人はまだ捕まっていないのでしょう?怖いわよねぇ》

 

「は……?」

 

 突然の事に俺は唖然とさせられた。いや、予兆はあったのだ。

 

────急に世界が暗くなる事が増えた。

 

 偶々あちら側が忙しくなったからだろうと、軽く見ていた。現にきみは、課題が、試験が、と忙しそうに話していたのを聞いていたから。

 

────姿が見えなくなった。

 

 けれどもそれは、アプリとやらを起動しなくなって、マイルームで話す機会が無くなったからだと、甘く考えた。元々見えるのが奇跡のようなモノだったからだ。

 

────声が聞こえなくなった。

 

 ここで漸く妙だと思うようになった。けれども自分が出来る事は何も無いと分かっていたから、待つ事にした。

 

 その結果がコレだ。もっと早くから疑問に思ってたら。そう思っていればもっと祝福も加護も与えられて、きみがこんな目に遭うことは無かったのではないかと自分を責めた。そもそも自分はあの時に一度、きみの存在を捻じ曲げてしまったと言うのに何故慎重にならなかったのか。いや、そもそも死んだのは別の人の息子さんとやらで、きみではないのでは、と。身勝手で願望じみた妄想まで繰り広げようとした。

 

 でも現実は残酷で、何日経ってもきみの声を聞く事も、姿を見る事も無かった。そしてここは、ずっと前に電気が通わなくなった廃墟のような暗さだった。所詮は物語の登場人物でしかない俺が、壁を隔てた向こう側に干渉する事なんて出来なくて、ただじっと待つだけしか出来なかった。

 

 本当にこんな事を女々しく考えるのは俺らしくもないと思う。だけど、所詮俺はオベロンの役を羽織っただけの終末装置で、妖精王オベロンのように妻のティターニアが居る訳が無かったのだ。あれは一夜の狂想で、幻なのだから。ただ、あの日見た星を俺が勝手にティターニアだと思っただけだ。本当は、きみはあくまでも似ているだけで、あの星と同一ではない事は分かっていた。でも、己の本能が勘違いを起こす程に似ていたから。こんな何にでも嫌悪を抱いてしまう俺でも、何か一つ大切にしたいと思えたモノがきみだったのだって信じたかったのだ。

 

 だから、もっとらしくもなく必死にきみを探した。きみとの繋がりはまだ途切れていないのだと信じて。探し続ければ、何処かで再びきみに会えるのではないかと淡い希望を抱きながら。

 

『───閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

「っ!!この召喚は……」

 

 淡い希望も無くなり始め、本体に還ろうかと思った時、カルデア式の召喚ではない詠唱が聞こえた。一体何なんだと周りを見回すと、足元から青白い光が放たれ始めているのを確認した。

 

「別のカルデア……じゃ、ないな。これは個人での召喚の方が近いか?」

 

 軽く読み取った程度だが、俺がここに召喚された時の詠唱とは異なるのは分かった。それに加えて、カルデアのような組織を挟んでの召喚ではなく、一個人の、それも触媒を用いない召喚者自身の“縁”による召喚だ。

 

 しかし妙な話だ。俺は異聞帯出身のサーヴァントであるから、汎人類史の英霊ではない。今、ここにサーヴァントとして居るのは、カルデア式の召喚で人理が安定するまでは嘘も嘘のまま通ると言う異例の積み重ねがあったからだ。故に縁で召喚される事はあり得ない筈なのである。

 

────では誰が?自分に関わりがある奴は藤丸立香だけの筈。

 

 いいや、一人居ただろう?俺自ら縁を作った存在が。

 

「まさか、きみ……なのか?」

 

 俺の疑問に答えるかのように足元の青白い光は、魔法陣のような形を形成し始めた。そして、世界があちら側と繋がり始めたのか、あの日の召喚と同じ様に薄っすらと見える召喚者の姿を確認する。

 

「───!!■■■■(マスター)!」

 

 そこに居たのは姿形は違えども、その魂に絡みつく祝福(呪い)は、俺が■■■■に干渉して付けたものと同一の存在だった。つまり今、縁によって俺の召喚を試みているのは、俺の星(きみ)と言う事。その事実に俺は歓喜する。

 

『汝三大の、言霊を纏う七天、抑止の、っ゙……輪より来たれ、天秤の守り手よ────!!』

 

 歓喜のままに召喚が終わり、展開された魔法陣が眩い光を放つ。そして光が収まると同時に、倒れそうになっていたきみの身体を迷う事無く支えに行く。

 

 そうして漸く実感するきみに触れる感覚。きみと交わる視線。きみの手に宿る令呪。その全てが嬉しかった。やっと、この手に触れる事が、きみと同じ世界に居る事が出来た事が何よりも幸福だと思えたから。

 

「っ!?お、前……は────」

 

 そんな胸の内を口に出さぬように細心の注意を払いながら、驚いて俺の真名を言おうとしたきみの口元に指を当てる。そうしながら、無闇に真名を明かすなと笑顔を以って牽制した。その意図を読み取ってくれたのか、マスター(・・・・)は村正そっくりな子に俺の事を尋ねられても答えることは無く、この場から一時退散する手を取ってくれた。

 

 その後、追手は来れないであろう大きな橋の近くにある公園にまで移動してから話していく内に、妖精眼でマスターは俺の事を覚えている事を知った。それについては嬉しかったし、言葉ではつっけんどんな態度だが、内心では恥ずかしがっている様子は見ていて更に愛おしく思えるモノだった。

 

 だがしかし、マスターは俺の事を覚えているという事に加えて、この世界の事も知っていた。つまりは、無理をする可能性がある、という事だ。現にマスターは顔色が悪いのにも関わらず、自宅に戻ろうとしていた。恐らくは俺の召喚に必死になった事で、マスターの知る筋書きからは外れたのだろう。だから、その後の物語の辻褄合わせをしようとして、自分の体調不良にすら気付いていないのだろう。

 

 そんな(きみ)にやれやれと思いつつ、バレないように宝具を使う。流石に目が覚めないと困るのでそこまで強い物は掛けずに、快眠出来る程度の物だ。

 

「っ!?お前────」

 

 『宝具を使いやがったな』と、言葉には出来ていなかったが、そう言っているのが俺には分かった。それに答えるように俺は、妖精王の姿から奈落の蟲としての姿に変え、倒れ込む身体を支えながら笑みを浮かべた。

 

「やっと逢えたな。俺のマスター(ティターニア)

 

 すぅすぅと静かな寝息を立てて眠るきみの髪を優しくかきあげ、そこへ口付けを落とす。以前の夜を落とし込んだかのような色とは異なる群青味の強い青藤色。色は異なれども、ほんの少しだけ髪がうねっている点は同じだった。そして何よりも、その魂にある祝福(呪い)が、紛れもなくきみであると主張してくれる。

 

 一度目は自分の過失。二度目もこの先も続くと思い込んだ不注意から。そうして訪れた三度目の正直。共に居る今度こそきみを支えてみせる。

 

 だってこの手に居るきみは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────もう、俺のモノだろう?





蛇足①:存在を捻じ曲げられた光≠ティターニア≒慎二君というかなり面倒くさい関係。だからこそ、ここまで歪んだ想いを抱くきっかけになってしまったよって言う話です。原作の言葉を借りるのならばこの作品のオベロン・ヴォーティガーンにだけある『春の記憶』です。

蛇足②:これだけ書いても作者はこれはBLではないと主張させていただきます。あくまでもオベロンの一方通行な想いなのです。両想いかつ、イチャイチャシーンいれるならBLに移行すると作者は考えてますので。慎二君がオベロンに向けてるのは純粋な信頼込みの好意までだと考えてます。(解釈違いはすみません)

そういった考え込みで今回の話は深夜テンション増々にしつつ、かなり湿度高めの話には出来たんじゃないかなって思ってます。あと二次創作だし、本家とは分かたれたオベロンが居ても居ても良くない?本編でも結構執着重めでも許されてたしなんとかなるっしょ!なんて開き直って書いてたので爆誕しました。反省はしますが、後悔はしません。多分((

こんな感じでも高評価だったりしたら、また続きが出るかもです。まぁ、だいぶ期間は空きますけどね。

最後に、支援絵のご紹介をさせてください!(ご本人様に掲載許可を取得済みでございます)
Tの決戦兵器様より黒聖杯慎二の支援絵を頂きました!!本当にありがとうございます!!!ビジュアルもそうなのですが、設定もとても良くて、私もまだまだだなと思わされました。いつかリベンジしたいと思います。↓

【挿絵表示】


蛇足③:拙い絵ですが、本編挿絵描いてみた↓

【挿絵表示】
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