Side:間桐桜
私にとって兄さんは一言では表せないくらいに素敵な人です。それこそ私なんかがあの人の寵愛を受けるだなんて烏滸がましいと思ってしまった程に。
だってそうでしょう?いきなり他所から来た血の繋がりの無い女。何もかもを諦めた瞳をした生気のない子ども。問い掛けども『はい』『分かりました』『すみません』などの決まった言葉ぐらいしか答えもしない子。普通ならば嫌悪して当たり前です。当時は十にも満たない年齢だった筈です。理解が及ばなくて接触を極力避けるなんて当たり前の行動だったんです。実際、兄さんの父親の鶴野さんはそういった対応でした。
ですが兄さんはそんな様子を一切見せませんでした。それどころか兄さんは、ずっと不器用ながらに私に気を遣ってくれていたんです。
「動きが鈍いな。まさか体調でも崩したのか?」
この日はタイミングが悪く、胎内に潜む蟲達が魔力を求めて暴れ回り、全身が火照るような熱がありました。悪く言えば強制的に発情させられていました。当時の私はそんな様子を兄さんに知られたくなくて黙ることを選択しました。
「・・・・・。」
「おい。俺の目を見てハッキリと答えろ。まさか俺に察しろだなんて言うつもりか?」
しかし兄さんはそれを許さず、読んでいた筈の魔術に関する本を置き、普段は控えるようにしている一人称を使ってでも私に吐かせようとしてきました。ですが何を思ったのか私は頑なに言おうとしなかったのです。
「…………なんでもありません」
「は?…………チッ。なら今日は部屋から一歩も出るな」
「で、ですが家事などが……」
「お前、生意気にも兄貴に逆らうってのか?」
そんな私に怒りが込み上げてきたのか、いつもは気怠げに伏せられている兄さんの瞳がギラリと光った気がした。
「っ……!いえっ!そんなつもりは……!」
「なら俺の言う通り今日一日中は部屋に居ろ。熱か何かは知らないが、何も出来ない奴にウロウロされちゃ、作業効率落ちるし、不快だし、何より邪魔だ。それに、俺の気も散る」
「…………はい。分かりました、兄さん……」
気遣いの感じられない冷たい言葉。けれど長年彼と過ごしてきた今の私には分かる。これは兄さんなりの気遣いだったのだ。本当に私に気が無いのならば無視し続けて本を読んでいれば良い。本当に私に興味が無いのならば動きが鈍くなっている事にも気が付かない筈なのだから。好きの反対は無関心。よく言うモノである。
ですが、のろまで愚かな当時の私には兄さんの気遣いは一ミリも分からなかったのです。言われた事をただ真に受けるだけだった私には表面上の言葉しか読み取れませんでした。
そんな私でも兄さんの本当の優しさに直に触れ、普段の言葉の真意を知った日がありました。それは兄さんが本格的に後継者候補として魔術の修行に力を入れ始めたある日の事でした。
「っ!?桜!!」
薄暗い蟲蔵の底で、蟲達の責め苦を少しでも和らげる為意識を飛ばしていた時、外に出ていて今日は帰りが遅くなる筈の兄さんの声が聞こえてきました。
「に、ぃ……さ……?」
「あのクソジジィ……!人が居ない時にこんな事しやがって……いつか必ずぶっ殺す!」
お爺さまが居ないことを良いことに殺害予告をすると、兄さんは『お前ら俺の妹から離れろ!』と蟲達に言い放ち、私に群がる蟲を追い払い、蟲の体液でベタベタの私を抱えてくれました。
「兄さん……汚れちゃいます……」
「ハッ!これくらい構うもんか」
ぶっきらぼうな言葉遣いをしていながらも私の身体を決して離さぬように強く抱きしめてくれた腕はとても暖かな安心出来るような優しいものでした。そこまでしてもらって、私はやっと
その日から私は兄さんの沢山の一面を見るようになりました。
「あのさ、指示待ちするんじゃなくて自分で考えてくれない?」
冷たい言葉はお爺さまに私を気遣っていることを簡単には悟られないようにする為に。
「兄さん、部活とかクラスの方と遊びに行ったりはしないのですか?」
「そんな事にうつつを抜かしている暇は無い」
遊びたい盛りの筈なのに高校に上がるまでは学友との必要最低限以上の接触は避け、さらには部活に所属せずいつも本の虫のように魔術に関する本を読んでいるのは、いち早く魔術の知識を蓄える為に。
「ゲホッ……!!」
「兄さん?!!」
私の知らない無理な方法で魔術回路を増やしては時折血を吐き、倒れそうになっても魔術の訓練を止めなかったのはお爺さまが出した課題を短期間の間に達成させる為に。
確かに魔術の素養が認められた以上、一家の恥にならないように取り組んでいくのは分かります。けれど、本当に自分の為だけに魔術師になろうとしているのならば血の繋がりが無い私なんて放っておけば良い筈です。
兄さんが魔術師が一生涯を掛けてする筈の鍛錬を短期間でする理由を私はつい最近まで知りもしませんでした。馬鹿な私はお爺さまが兄さんを間桐家当主として見据えたが故で、兄さんの代で間桐家を復興する為だと思っていました。けれどそれは見当違いも甚だしかったのです。
「え、兄さん……?」
「はぁ?!何でここに桜が……いや、あのクソジジィ、分かって入れやがったな」
「どうして、兄さんが蟲蔵に……?」
「…………魔術修行の一環だ。桜には関係は───」
「慎二は魔術回路を増やす為、そしてお主がここに来るのを減らす為にここに居るんじゃよ」
いつものように突き放そうとする兄さんの言葉を遮って、私達の前に現れたお爺さまは衝撃の事実を話しました。
「え……?」
「オイこら、クソジジィ。俺がここに居るのは、前者が理由で後者は
そう兄さんは否定していましたが、つまりは魔術修行の一環と偽って、私の代わりに蟲蔵へ行っていたのです。
この十数年で見た私しか知らない、色んな一面を持った
常人であれば課題を達成させるだけでも手一杯である筈なのに義妹である私の事まで気に掛けてくれる兄さんは、何も持っていない私にとっては高嶺の花とでも言えるかのような存在でした。勿論、いつも私に気を遣ってくれる先輩も似たような存在ではあります。
でも違うのです。先輩のは、極々当たり前の気遣いと言えるものでしょう。ですが、兄さんが与えてくれるものは、ゆっくりとこちらを蝕んでしまうような、毒のように中毒性のある、確かな
あの人に、兄さんに、身内だと、守るべき存在だと認められたが故に与えられた、ただ一つの私にだけに向けられる感情。一度向けられれば何度でも求めてしまうそんな感情。これを毒のようだと言わずして何と言うのでしょう。決して悪い意味ではありません。
私は愚かで貪欲な人間ですから求めてしまうのです。
「───桜」
無感情のようで優しさが見られるその声で、私の名前を呼んで欲しいのです。
「黙っていないで言え。察するだなんて言う無駄な労力を俺に使わすな」
いつもではなくても偶に気にかけてくれるだけで良いのです。兄さんが気が向いた時に私を見てくれるだけで、私は幸せ者だと思えるのです。
ですからどうか、どうかその感情を向けるのは私だけだと言ってください。私だけの兄さんであってください。先輩にも姉さんにもいずれ召喚するであろうサーヴァントにだって、この
兄さんの為ならば私は、どんなに辛い事だって耐えられる。我慢出来ると思えるのです。私の身勝手なワガママな事だってのは知っています。
ですがもしも、こんな私のワガママを聞いてもらえるのならば……
───私と同じ所まで堕ちてくれませんか?兄さん
あぁ……私は本当に、素敵な兄とは程遠い
何かビックリするくらい蟲蔵から桜ちゃんを救い出す場面があっさりしたものになっちゃった……。(ダイジェストにしたからだよ)
あと、辿り着くのいつか分からない言ったくせに一週間足らずで書いてるじゃねぇか(((
この世界の桜ちゃんは行動等の基準ベクトルが兄(成り主)側に偏ってるイメージで一応書く予定です。まぁ、かなり閉鎖的な空間で優しくしてくれる人が居るなら依存するよね!っていう適当なイメージをしてます。
次は衛宮士郎Sideの予定。
本編は、全く考えてないっす…………(;^ω^)
本編は何ルート?(あくまでも参考程度のアンケートです)
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八人目のマスタールート
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黒聖杯ルート
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共闘ルート
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敵対ルート