蟲使いの間桐君   作:寝仔猫

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一回はやってみたかった女体化ネタです。だいぶ前に書いてて、今日まで眠ってました☆

作者は一応女性のクセに服のセンスは皆無でございますので、描写はしましたが気に入らなければ読者様自身での脳内補完をお願いします。
あと、書いててかなり楽しかったんで、盛りに盛って九千字近くあります。(下手すりゃ本編より文字数ある番外編とは……)



女体化慎二君?!

 

 聖杯戦争が終わってそれなりの月日が経過した。未だアレを破壊した(呑み込んだ)事による後始末に多少追われているが、俺はなんてこと無い日々を過ごしている。

 

────筈だった。

 

「……………………は?」

 

 妙な気怠さを感じながらも、朝一番に顔を洗いに洗面台の鏡を見て、俺は固まる。そこに写っていたのは、ウェーブ掛かったセミロングヘアで胸が桜とまではいかないだろうが、そこそこにはある()が写っていたからだ。心做しか漏れ出た声もいつもより高い気もする。

 

「おはようマスター!今日も元気そ…………う?」

 

 そんな突然の事態に困惑していた時、いつものように扉を開けてオベロンが入って来た。そして、俺の姿を見た途端に石像のように固まってしまったのだった。

 

「あー……、オベロン?おーい、ちょっと?」

 

 固まってしまったオベロンの目の前で手を振るのだが、全く反応が無い。どうしたものかと思っていると、俺の影が不自然に揺れ動いた。

 

「よう!オニィサマ。何か面白そうな事になってんね?オネェサマって言った方が良いか?」

 

 そこから出てきたのはクスクスとこちらを他人事のように嗤うアンリマユだ。

 

「馬鹿言うな。俺は男だぞ。それは俺の影法師みたくなってるお前が証明してるだろうが」

 

「アハハ!確かにそうだわな。アンタの言う通り、オレはこの通りアンタの姿が変わる前のままだ」

 

 ケラケラと他人事だからと嗤うアンリマユにイラッとしながらも、変わったのは身体だけで魂は未だ俺なんだなと冷静に分析する。つまりは外部からの何かしらの攻撃、みたいなものと今後は見当をつけて犯人を探すべきか。

 

「え……と、マスター?なんだよね?」

 

 そう考え始めた辺りで漸くフリーズから戻って来たのか、オベロンは不安そうに尋ねてきた。

 

「何だよ。テメェの眼はこんな姿になっても俺だって気が付けないくらいに節穴にでもなったのか?ヒデェ奴だなぁ……」

 

 しくしくとアンリマユを見習って嘘泣きの仕草をしていると、オベロンから『ぐぅっ……!!?』と何か喉から出掛かったモノを必死に堪えたかのような声が聞こえてきた。チラリと覗き見ると、珍しくオベロンの顔が真っ赤になっていた。

 

「おー?ナニナニ?もしかしてオネェサマに見惚れちゃった?キャ〜!アンタにも可愛い所があったのね〜?」

 

「おいアンリマユ。テメェが口を開くと面倒臭くなるから、今回の件の犯人じゃねぇなら暫く黙ってろ。あと、二度とお姉様って言うな」

 

「うへーい……」

 

 そんなオベロンの周りをクルクルと回りながら煽るアンリマユの首根っこを捕まえながら、俺の影の中に強制帰還させる。捕まえる時に、男女の身長差なのか若干掴みにくかったのはなんか癪に障った。

 

「ねぇ、マスター。一応聞くけど、心当たりは?」

 

「全くと言って良いくらいに無いな」

 

「そっか……。アンリマユも違うんだね?」

 

「多分そうなんじゃね?アイツならもっと質の悪いイタズラをやりそうだしな」

 

『ぇ゙?!オレ、オニィサマにそんな事思われてたの?!』

 

 そりゃヒデェよ!オニィサマ!!と、ギャイギャイと態とらしく驚きの声をあげるアンリマユの声が聞こえてきたが『お前は面白そうと思えば、そう言うのを好んでやる質だろ』と思いながら無視を決め込んだ。

 

「とりあえず、どうするの?マスター。認識阻害の魔術でも掛けとく?」

 

「あー……、そうだな。アイツらに見つかったら面倒だし、一応そうしてくれ。それと、後で服毒の可能性を考えて薬も作ってみるか……」

 

「一体何が原因なんだろうね……?」

 

「そりゃ、俺が一番知りてぇよ……」

 

 とりあえずこの伸びた髪を切って、その後に体型を誤魔化せる服を探すか……と、近くにたまたまあったハサミを手に取ってカットしようとした時、オベロンに乱暴に腕を掴まれた。

 

「ちょちょちょ、ちょっと?!!何するつもりだい?!」

 

「何って……髪を切るつもりだが?」

 

 それが何か問題あるのだろうか?と首を傾げると、オベロンは目を丸くし、信じられないと言いたげな瞳でこちらを見た。

 

「何言ってるの?!髪は女の子の命なんだよ?!!切るのなんて勿体無い!綺麗なんだからそのままにしてなよ!!」

 

「はぁぁぁ?!テメェの方が何言ってんだ!俺は男だぞ?!ンな事気にする必要無ぇだろうが!」

 

「それでも今は女の子の身体だろう?!大事にしなよ!」

 

「うるっっっせぇよ!!俺は端から男だし、女の身体だろうがなんだろうが、俺の身体なんだから好きにさせろ!!」

 

 ここに来てまさかのオベロンがそんな事を言い出すとは思っていなくて、ここが魔術障壁による防音も何もしていない部屋である事を失念していた俺は、大声でオベロンに言い返していた。

 

「兄さん?そんなに大声を出してどうしたんですか?」

 

「「あ……」」

 

「え……?兄、さん?」

 

 そう。内容は分からなくとも怒鳴っている事が駄々漏れであるが故に、部屋の外に居た桜に気付かれてしまったのだ。扉を開けられ、俺達は間抜けにも『あ……』と揃えて声を出す。そんな俺達の様子を見た桜はと言うと、目をパチクリとさせて俺の事を見ていた。具体的には変化が分かりやすい髪と、服の上からでも存在を主張している胸を、だが。

 

「あー……うん。そうだ、俺だ」

 

「何が、あったんですか?」

 

「いや、それがなぁ……さっぱり分からねぇんだよ。こんな姿になってんのだって、さっき鏡を見て気が付いたぐらいだしな」

 

 俺は両手をあげ、お手上げのポーズを取る。

 

「じゃあ、いつ戻るかも分からない感じですか……?」

 

「まぁ、少なくとも今の所はな。正直面倒くさい事この上ないから、とっとと原因を突き止めたいんだが……」

 

 あとこれ、ホントに邪魔くさいから切りたいんだがなぁ……。そんな事を考えながら伸びた髪を適当に指にくるくると絡ませ、溜息をつく。

 

「では、それまでの服や下着等はどうするのですか?」

 

「服は適当にパーカーとかで良いだろ。別にこのままって訳じゃないし。てか、俺がずっと女の身体なのは耐えられん。下着はー……どうすっかな。まぁ、保りゅ────」

 

「今すぐ買いに行きましょう!!外に出る為の下着は私のを貸しますから!」

 

「えぇ……?いや、そこまでする必要は……」

 

「 あ り ま す よ ? 」

 

「ア、ハイ」

 

 食い気味に買いに行こうと宣言する桜に困惑し、断ろうとしたのだが、あまりの気迫で言われてしまったので、思わず『ハイ』と返事をしてしまった。というかコレ、逆らっちゃいけないヤツなんだわ。完全に黒桜になってたし。

 

「その前に朝食の方が良いんじゃない?君も、まだ食事は取ってないんだろう?」

 

「あ、確かにオベロンさんの言う通りですね。兄さん、私は下着を持っていますので、顔を洗ったら部屋に戻っててください」

 

「お、おう……」

 

 服を取りに戻った桜を唖然としたまま見送り、声が聞こえないであろう所まで行ったのを確認して、頭を抱えた。

 

「どーするんだよコレ!!!精神的には男なのに、身体が女だからって、女物の服を俺に着ろと?!ハァァァァ?!巫山戯んじゃねぇよ!!絶っっっっっ対に嫌なんだが?!!」

 

「ちょっとマスター、落ち着いてよ!そんなに興奮して動かれると、その……」

 

「あ゙?」

 

 慌てる様子を見せながら変にこちらから目線を反らそうとするオベロンに、俺は不審感を抱いた。コイツ、何でそんな言い辛そうに言葉を濁して目線を反らしてんだ?

 

『オニィサマ、オニィサマ。そんなに興奮しなさんなって。アンタのたわわな胸が暴れてんのよ。だからそこの王子様は目のやり場に困ってるってワケ』

 

「は?胸だぁ?」

 

 そんな、俺の胸なんか見ても何の興奮材料にもなりゃしねぇだろ。と思っていると、オベロンとアンリマユが同時に溜息をつきやがった。失礼な奴らだなぁ……と思ったが、どうせ女の身体ならばそれらしくしろ、と言われるだけだろうから睨みつけるだけで特に言う事はしなかった。

 

 そうして思い出したかのように顔を洗って部屋に戻る。桜の事だから、下着どころか『ついでに服も持って来ちゃいました。なので来てください』とか言って来そうだ。そんなのは御免である。スカートやワンピースなんざ、絶対に履くものか。ズボンで良いんだよ。上は適度にパーカーで体型を誤魔化せば多分どうにでもなるんだから。着飾る必要なんて無ぇ。

 

「…………マジかよ」

 

 と、思ったのだがここでちょっとした問題が発生した。尻がつっかえてズボンが履けないのである。胸はともかく、桜と比べると痩せ型に見えたのでいけるかと思ったが、現実は非情である。いや、厳密には履けるのだが、凄くパツパツなのだ。つまり、いつまでこの状態か分からない以上、服を買わなければならない事が確定した瞬間だった。

 

 その後、ブラジャーに対する桜との攻防で少しだけバタバタしたが、結局俺が折れるという形で終着し、朝食を取った後にショッピングモールへとやって来た。

 

()()()なら、きっと似合いますって!」

 

「嫌だよ!()は絶対にスカートなんて履かないから!!」

 

 今度は外である為に声の大きさや口調に気を付けて私・姉さん呼びをしながら、スカートに対する本日二回目の攻防を行う。恐らく、事情を知らぬ者からすれば可愛らしい妹とお洒落に頓着が無い姉との微笑ましい光景に見えたのだろう。心做しか店員の目が生暖かいモノに感じられた。

 

「大体、どれだけ買うつもり?服なんて着回しで何とかなるんだから、それ以上要らないってば!」

 

「着回しは確かにそうですけれども!でも三着だけなんて少なすぎです!!それもシャツだったりの男物に近くて単色な地味なモノばかり!そんなの勿体無いですよ!」

 

「勿体無いって何だよ!大体私は────」

 

「桜?」

 

 背後から聞こえた声に俺は、面倒な奴と遭遇してしまった……とナイーブな気持ちになった。ほんの少しの期待を胸に違う奴であってくれと願うのだが……

 

「あ、姉さん!」

 

 だが本当に現実は非情である。桜が他に姉さんと呼ぶ相手は俺が知る限り一人しか居ないので、背後にいる相手は遠坂である事が確定してしまった。やべぇ……本気で振り向きたくないぞ。どうにかしてこの場から抜け出すか。と思ったが、それを察知した桜が俺の腕を思いっきり掴み、離してくれなかった。

 

「桜も服を買いに?」

 

「えぇ、そうなんです。ただ、買うのは私のじゃなくて……」

 

 桜の目線が遠坂からこちらに向き、遠坂の注目を浴びる事になった。

 

「…………よう。遠坂」

 

 そこまで来て漸く俺は勘弁して、振り返って遠坂に挨拶をしたのだった。

 

「え、嘘?!慎二なの?!」

 

「ちょ、声がデケェって……!」

 

 俺の姿に驚いた遠坂が、目を見開いて大声をあげる。流石にこんな場所でそこまで大声をあげられると迷惑極まりないので、俺は眉をひそめながら遠坂を咎めた。

 

「あ……、ごめんなさい。で、でも!何があったの?貴方がそんな事になるなんて……」

 

「それがさーっぱり分からねぇんだよ。今朝起きたらこの身体になっててな」

 

「じゃあ、元の身体にいつ戻るのかも分からないって事?」

 

「あー……まぁ、そうだな。今の所は見当も付かん。ま、どうせ一日二日、長くても一週間もあれば戻る見当も付くだろうよ」

 

「へぇ……?」

 

 溜息混じりにそう言う俺を見て、遠坂は何故か何かを企むかのような笑みを浮かべる。俺はそれを見て背筋がゾワッと冷たくなる感触に陥った。ヤバいぞ、コレ。多分今すぐ逃げねぇと碌でも無い事になるぞ……

 

「何処に行くつもりですか?兄さん」

 

 笑っている筈なのに威圧感を感じさせる声と顔で桜に呼び止められ、大袈裟に身体がビクついた。

 

「っ!い、いや?別にぃ?ちょっとトイレにでも行こうかなーと、あは、あはははは……」

 

「へぇ……?」

 

「そうですか……」

 

 俺は咄嗟に乾いた笑いで誤魔化そうとした。だが、咄嗟の誤魔化しの技術が下手なのに加えて、この二人は妙に勘がいいので誤魔化されてはくれず、寧ろこちらの背筋が凍えそうなくらいに綺麗な笑みを浮かべられた。

 

「えっと……、そのぉ……」

 

 ジリジリと距離を詰められ、恐怖から一歩退く。けれども後ろは更衣室の壁で、逃げ場なんて無かった。俺はとうとう腕を掴まれてしまった。

 

「桜、今買ってるのはさっき言ってた服だけかしら?」

 

「はい、今の所は」

 

「そう。ならまだまだ買う物はいっぱいあるわよね?」

 

「勿論です、姉さん」

 

 何か、猛烈に嫌な予感がするのだが……

 

「ねぇ、慎二?まさか貴方、服を数着買っただけで終わりだなんて思ってないわよね?」

 

 ニコリ、と口では笑っているようで目は笑っては居ない遠坂の問い掛けに、俺は分かりやすく冷や汗をかく。

 

「は、はは……。も、勿論だとも。男と違って、色々と見て回るのも女の買い物だもんな?」

 

「あら?よく分かっているじゃない。なら、私が言わんとしてる事も当然分かるわよね」

 

「いやぁ……ちょっと分からないかなぁ……」

 

 と言うか、分かりたくもない。一応、嫌に勘は良いので既に察しはついてる。でも、それを実行されるのは嫌なのだ。だからここではあえて目線を反らしながら惚ける手段を取った。

 

「……兄さん。申し訳無いのですが、これはもう決定事項ですので、諦めた方が早いかと」

 

 未だに足掻き続ける俺に桜が諦めるように促してくるが、ここで折れてしまえば遠坂にナメられると思った俺は、断固として認めない姿勢を取った。

 

「馬鹿言うな!俺の性自認は男だし、今後変化する事も無ぇし、今日以外で外になんか出ねぇんだから良いんだよ!!」

 

「へぇ……そう。でも貴方、こんな面白……大変な事を私が放置するとでも思って?」

 

「っ?!!」

 

 だがそれは悪手だったらしく、遠坂の赤い悪魔スイッチを押してしまったようだった。そのついでに、ポロっと本音が漏れていた。てか、他人事だからって面白いとか思いやがって。こちとら洒落にならない状況なんだぞ?

 

「ぉ、おい……桜!」

 

「ごめんなさい、兄さん。流石に私もこればっかりは譲れなくて……」

 

 口ではこんな風に謝って申し訳無さそうな雰囲気を出しているが、長年付き合いがあると、これは本気で謝っていない事が嫌でも分かった。というか、黒桜の片鱗を見せたあの時から引かないというのは丸わかりだったからだ。

 

「ウフフ……。さっさと観念した方が早いわよ?慎二」

 

「い、嫌に決まってんだろ……?」

 

 何とか現状を打破出来ないのかと辺りを見回すが、後ろは壁、前にはこちらを獲物を見つけたとばかりにロックオンする遠坂と桜。完全に逃げ道は無かった。ここまで来て、漸く俺はもう諦めて彼女らの人形になるしかないと諦める事にした。

 

「やっぱりね!貴方、スカートをやたら嫌うからこのタイプならどうかと思ったけど、全然いけるじゃない!」

 

「姉さん。次はコレを着てもらいましょう。きっと合います♪」

 

「あら、良いわね桜!それと、これも合わせましょうか♪」

 

「・・・・・。」

 

 散々スカートは嫌だと言ったからか、何とかそれだけは避けられているが、その代わりと言わんばかりに裾が広くて足を閉じていればスカートのように見えるスカートパンツや、似た系統のワイドパンツ等など履かされた。それに加えて、『せめてブラウスくらいは可愛げのある物を着ないとね!』と遠坂の猛プッシュでフリルが多く付いたタイプやリボンがあしらわれたこれぞThe、女子と言える服を何度も着せられた。

 

『あっはははははははは!!すんげぇ、似合ってるぜ。オネェサマ?あはははは!!』

 

───コイツ後で半殺しにする。いや、九分殺しだな。

 

 最早ただの着せ替え人形になり目が死んでいる俺を見て、アンリマユが腹を抱えて笑ってきやがった。コイツ、他人事だと思いやがって。コイツの姿も声も桜や遠坂には分からないものだから、好き勝手に笑い声をあげられるこの状況にイライラが募ったが、必死に抑え込んだ。あぁ、いや、殺意だけは漏れたな。

 

「よしっ!まだまだ足りないものはあるけれど、取り敢えずは今日はこのくらいかしら」

 

「そうですね!姉さん」

 

 そんなこんなで最初より何倍にも増えた紙袋を両手に抱えながら、満足気に遠坂が言う。隣に居る桜も同じ様に満足気な雰囲気で遠坂の言葉に同意していた。俺はと言うと、散々着せ替え人形にさせられ、身体的にも精神的にも疲れ切ってぐったりとしていた。

 

 さて。俺の今の服装はというと、九分丈のスカート風の緑のワイドパンツに、白のハイネックフリルブラウスで裾をパンツに入れ込んでいる所謂キレイめスタイルを目指したものであるらしい。シンプルではあるが、スカート風に見えるパンツであったり、襟元のフリルや袖口が大きなフリルになっている事で全体的にふわっとした印象を持つ事が出来る服装だ。靴は男の時よりもワンサイズ小さくなった黒のソフトローファーと言うものらしい。髪はハーフアップにされ、桜とお揃いの色のリボンまでつけられた。

 

 正直、靴なんかスニーカーで良かったし、フリルだとか裾がひらひらしたズボンだとかは落ち着かないのだが、これでもまだマシな方だったので仕方無くこうなった。スカート風やフリルだけで留まったのは俺の最後の足掻きである。遠坂達は『着飾らないなんて勿体無い』と心底残念そうに言っていたが、冗談じゃない。これ以上は俺の心の安寧が脅かされる。この際、馬鹿みたいに金が掛かった事実は不問としよう。心の安寧の方が大事だ。

 

「いっぱい買ったし、歩きもしたから二人共、喉乾いてたりしない?あそこにフードコートがあるし、何か一緒に買って飲みましょ?」

 

 そんな事を考えて一人黄昏れていると、遠坂から休憩でもどうかと提案された。

 

「そうですね。姉さんもどうですか?」

 

 桜はそれに同意した上で、俺を姉さん呼びしながら俺はどうするのかと聞いてきた。

 

「あー、そうだな……俺は良い。俺は向こう側辺りで席を確保しておくからお前は遠坂と買って来いよ」

 

「はい。分かりました」

 

「へぇ……?」

 

「何だよ」

 

 先の会話に何を思ったのか、遠坂が再びニヤリと笑みを浮かべていた。何を失礼な事でも考えているのかと尋ねると、

 

「いいえ?別に大した事ないのだけれども、随分と姉さん呼びに慣れているのね、と思っただけよ。桜の姉さん呼びは私だけだったものだから、私は思わず反応しちゃいそうになったのに」

 

 やはり、案の定であった。この顔は言葉では否定していても実は満更でもないんでしょ?とでも言うかのような顔だ。誠に遺憾である。

 

「アホか。慣れるワケ無ぇだろ。話の流れで読み取っただけで、それ以外なら反応出来ねぇよ。てか、反応したくもない」

 

「本当にぃ〜?それにしては今の立ち姿も、人目がある所での言葉遣いも随分、様になって居たじゃない」

 

「そりゃあ、間近に手本がいっぱいあるんだからそのくらい何とでもなる。俺をナメんなよ」

 

 ジロリと遠坂を睨む。

 

「あー、はいはい。そういう事にしておくわね。行きましょ、桜」

 

「はい姉さん」

 

 だが遠坂は態とらしく両手を挙げるだけで、怯む事なく桜と共にフードコートへ向かって行ったのだった。

 

 フードコートの店先からは少し離れた柱の陰になる四人座りのテーブルを確保し、隣の席に紙袋を乗せて乗り切らなかった二つは椅子の下辺りに置く。

 

「あれ?……慎二?」

 

「げ……」

 

 知り合いに会いたくはないし、少しでも人目を避けたいという意図で選んだ場所だったのだが、どうやらそれが裏目に出たようだ。何と、士郎に見つかったのである。何でテメェ、ここに居やがるんだ。つか、何で一発で分かりやがるんだ。気持ち悪過ぎだろ。

 

「た、多分勘違いだと思いますよ?あはは……」

 

 なんて思いでいっぱいになったが、こんな姿を士郎に認知される訳にはいかないので惚けさせてもらった。

 

「いや、思いっきり『げ……』って言ったじゃないか。それに、顔だって俺を見た途端に嫌そうにしてたし。そんな顔をするのは一人くらいしか知らないぞ?」

 

 が、バレバレだったようだ。てか、そんなに俺は士郎の顔を見て嫌そうにしてたか?…………してるな。コイツに会う時は大抵誰かしらのパシリしてたし、呆れてそんな顔をしてた気がするわ。

 

「あっそ。よく見てる事で」

 

「まぁ、付き合いは長いしな」

 

 いや、そういう事じゃないんだが……。てか、もっと別に言う事あるだろ。何で普通にいつも通りに会話してやがんだ。なんて事が脳裏に過ぎるが、まぁ、コイツに何言っても無駄だ。そっぽ向いて遠坂らが帰ってくるのを待つとするか。

 

「それで?どうしてそんな事になってんだ?遠坂のうっかりの被害にでも?」

 

 そっぽ向いたのに士郎は何の気にする素振りも無く、俺の真正面に座って、現状の原因を聞いてきた。

 

「分からん。今朝起きたらこうなってたんだよ」

 

「本当に心当たり無いのか?」

 

「これが全くなんだよなぁ。直前で薬なんかを取り込んだ覚えは無いし、精神は変わらずに肉体だけ変わるとかそれこそ意味不明過ぎて、何処から手を付ければ良いのやらでお手上げ状態ってワケ」

 

「じゃあ、いつ戻るのかも分からないのか?」

 

「まぁ、少なくとも数日はな。だけど、それ以上は俺が耐えられんから薬でも魔術でも何でも使って意地でも元の身体に戻ってやる。というか、アイツらの人形にさせられるのはもう御免だしな」

 

「あはは……、確かにそれは辛いな」

 

 きっぱりそういう俺に士郎は、苦笑いしながらも同意してくれた。やはり同じ男として、分かってくれるのかと嬉しい気持ちになりそうになったが、

 

「でも、今の姿も俺は好きだけどな。慎二の良さが発揮されてる。可愛いぞ?」

 

「な……!??おまっ、な、何が『俺は好きだけどな』だ!馬鹿野郎!!そう言うのは桜に言えっての!!あと、可愛いは余計だっつうの!」

 

 次に発せられた余計な言葉に、そんな思いは吹き飛んだ。なんつう殺し文句を男の俺に吐いてんだコイツは?!人目が無ければ控えめに叫ぶのではなく大声で叫び散らかして殴りかかってた所だ。

 

「え、慎二?何でそんなに怒ってんだ?いや、まぁ確かに元は男に対して可愛いと言ったのは軽率だったかもだが……」

 

「はぁぁぁぁ…………」

 

 そしてこの男、本気でそう思っているのか俺の主張にポカンと首を傾げる始末。マジで俺はこの男の軽率な発言に頭痛を覚えて、頭を抱えたくなった。

 

「もう、良い。テメェはそんな奴だったな」

 

 俺にその言葉を言うんじゃなくて、桜に言えよ。とはっきり伝えたつもりだったのだが、目の前のコイツは俺が怒ったという事実だけに注目しているので、伝わる事は無さそうだ。俺はそう諦めて、座り直した。

 

 その後、飲み物を買って来た遠坂達とも無事に合流出来た。士郎はどうやら、この増えた荷物を持ってもらう為に呼ばれたようだ。遠坂達にとっては有り難い助っ人だろうが、俺にとっては最悪だった。なんせこの姿を見られたんだからな。

 

 あぁ、この状況をどうやって乗り切ろうか、と桜が俺のは要らないと言ったのに買ってきた飲み物を飲みながら物思いにふける。相変わらず桜や遠坂と語り合っている士郎だが、時折こちらを興味あり気に見てくる。その視線を感じる度に俺はくすぐったいようなウザったいような、何とも言えない気持ちを胸に抱く。

 

 そんな女々しい感情を一度でも抱いてしまったからだろうか。だから一過性だと思っていたこの現象に今後も見舞われるようになる事を、今の俺には知る由もなかった。





何やら不穏な終わり方をしましたが、続編はまだ書いてないのでこの現象に見舞われる事は暫くは無いと思うよ!良かったネ★慎二君!(((

IFルート3は過去一のスランプ状態で謎に続きが書けないんで、暫くは番外編とスレ風を行ったり来たりするかもです。
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