今回は本編前のダイジェスト振り返りと慎二君の独白が中心の為、会話文は少なめです。読みづらかったらすみません……
一月も終わりに差し掛かり、部屋に掛けられたカレンダーの日付を確認した俺は小さく溜め息をついた。もうすぐ第五次聖杯戦争が始まる。俺の生き残りを賭けた衛宮士郎を主人公とする運命の夜戦。この溜め息は先に対するちょっとした不安を和らげる為のものだ。
ここで少し、これまでを振り返ろうかと思う。桜を紹介され、前世の記憶を思い出してしまった俺に待っていたのは、原作には無い魔術回路を持った蟲の王というあり得ない設定。それに加え主人公ではないにしろ物語に関わる主要人物に成ってしまった俺は、認めたくはなかったがどう足掻いても決してモブでいるという選択は取れないのだと嫌でも自覚させられた。
だが、自覚したからといってじゃあ物語通りに行動するかと言われれば半分は違う。目標のUBWルートに行く為に原作の彼の行動や言動を借りるつもりではあるが、魔術に関しては俺のオリジナルのルートを進ませてもらったからだ。
例えば短期間での魔術回路の増加。本当はあんな痛い思いを何度も繰り返すのは御免被りたかったが、生き抜く為にジジィにデカイ宣言をした手前、課題を達成せねば何をされるか分かったものじゃないので仕方なく増やす事になった。まぁ、魔術師として生き抜く道を選んだ以上、平均くらいの魔術回路はあって損はしないだろう。
因みに、ジジィは俺が課題を高校に進学するまでに達成させたこと、更には蟲の改造を仕出かした事に心底悔しそうに顔を歪めていた。ざまあみろ。元が慎二スペックだから魔術の才能は無くともその他の方面で何とかなるんだよ、バーカ。聖杯戦争中に絶対殺してやるから覚悟しておけ。
次に俺が扱う魔術なのだが、基本的には間桐の水属性と吸収を中心とした蟲を扱うものだ。ただし、ビジュに関しては先程言った改造で俺のオリジナルのものにさせてもらった。いくらなんでも規制音が入りそうな見た目のヤツやあからさまに使い魔と分かるあの見た目は普段使いとしては流石に無いと思ったからだ。蟲は蟲でも蝶や蜂などといった一般的に見られる昆虫の姿といった感じだ。
一応、俺自身も戦える程度には身体も鍛えている。どちらかと言うと使い魔を使役することに特化しているのであくまでも護身術程度にしかならないのだが、魔術回路と同じく身につけておいて損はないだろうというものだ。まぁ、正面からの闘いになってしまえば俺が負けるのは確実なんだけれどもな。
あと、最初に蟲蔵に放り込まれた時に蟲達が漏らした『王さま』についてだが、家にある蔵書を全て読み漁ったが特に成果は得られなかった。なので俺の独自の解釈にはなるのだが、蟲達の声を聞き分け、使役することに特出した魔術師の事を言うのではないだろうかと思う。
間桐の家は元々使役することに関してはエキスパートであるとも伝えられているのでその中で更に特出したのが俺だったというのが勝手な自己解釈だ。蟲の声を聞き分けられるってのもキーなのかもしれない。異論は認める。むしろ情報をくれ。アイツ等の言葉だけじゃ何も分からん。
それと魔術以外で意図的に変えたと言えば、桜に対する接し方か。原作と違って俺には魔術回路があるから劣等感なんて無いから桜を冷たく扱う必要なんてないし、何より俺がやりたくない。クソジジィにはなるべくバレたくないからツンデレみたく本心ではない事を言って冷たくあしらわないといけないのは非常に心が痛んだ。それでも原作よりはあまりビクビクしている様子は無いので、もしかしたら俺の真意に気付いてるのかもしれないな。女の勘は鋭いって聞くし。
主人公である衛宮士郎とは、最初は原作程絡むつもりなんて一切無かった。ちょっと親しいクラスメイトって立ち位置くらいになっておけば良いかと考えていた。だが、成り行きだったとしても看板作りを一人でせねばならなくなった彼を見た時、コイツは放っておいたら駄目だ、いつか潰れてしまう、と思ってしまったのだ。だってそうだろう?あの頃の衛宮の奉仕精神は知っていたとはいえ、端から見ても異常に見えてしまったんだからな。流石に優等生面を捨てて素で接したのは間違えたか?とは思ったが。そのせいかこちらが嫌味を言っても何か『俺は慎二のことちゃんと分かっているからな』みたいな目線を向けられるようになったのは誠に遺憾である。
そんな事を振り返っていた時、使い魔の蟲から
連絡の内容は桜がサーヴァントを召喚したというものだった。因みに令呪についてなのだが、魔術回路が発現したのでワンチャン自分にも出るのでは無いかと考えたが、そこは原作通りで桜に令呪が宿った。それを知った時のクソジジィの愉悦顔にはイライラさせられたが、どちらにしろ桜を庇う形で二人一組のマスターとして参加するつもりだったので良かったと考えよう。仮に俺がマスターになったのなら、どんなサーヴァントが召喚されたのかというのには興味が唆られるものはあるが、無い物ねだりはしない。
そんな風に今の俺の現状は原作通りとまではいかないが、かと言って完全に違うかと言われればそれもまた違うという中途半端な現状であった。本当に変えられたのは令呪以外の魔術に関する事だけだ。思っていた程の原作乖離の結果が得られず、心の隅で不安を抱えたが、まだ原作は始まっていないと無理矢理切り替えて桜が居るであろう彼女の部屋の扉を開けた。
開けた扉の先に居たのは蟲蔵から帰ってきたばかりなのであろう大きなタオル一枚を身体に巻いたのみの桜。それとその側に寄り添うように立つ背の高い、目元を隠すバイザーをした黒いボディコンのような服を着ている髪の長い女性が居た。桜の側に居る女性は十中八九、原作でも召喚されていたライダーだろう。
桜の目のやり場に困る姿に一瞬ギョッとしたが、すぐさまライダーの方へと目を向けた。正直どっこいどっこいではあったが服を着てる分、こちらの方がまだマシだろう。流石にタオル一枚のままで長く過ごさせるのは風邪を引くだろうと考え、俺は話を手短に済ませることにした。
「召喚したサーヴァントのクラスは何だ?」
「ライダーです。兄さん」
やはりライダーで間違いなかったようである。原作通りであることに安心と少しの不安を覚えたが、それを表には出さないように話を続ける。
「そうか、ライダーを召喚したのか」
「はい、真名は───」
「いや、言うな」
「え……?」
俺の真名開示拒否に桜は困惑の表情をした。側で聞いていたライダーもバイザーで目は見えないが訝しげな雰囲気を出している事は感じられた。確かにサーヴァントの真名を知っておくのはマスターとしては当たり前だろうが、俺は彼女の真名は前世の知識というズルで元から知っている。それに、俺はあくまでも陽動としてこの聖杯戦争で動くつもりであるから別に必要無いと判断しての事だ。その旨を困惑している二人に伝える。
「あくまでもマスターは桜だ。俺は陽動。だから真名はマスターであるお前だけが知っていればいい。呼び名はライダーだけで事足りるしな。この聖杯戦争、表向きは俺が動く。お前は他の奴らにマスターだとバレない努力をしろ。万が一バレでもしたら承知しないからな」
「え……。あ、分かりました……」
「話はそれだけだ。さっさと服を着ろ。それ以上、その見苦しい姿を俺の前に晒すな」
「はい……すみません、兄さん」
俺の指摘に下を俯き力無く返事をする桜にいつもの如く胸が痛んだが、それを無視して俺は部屋を後にした。
「……待ってください」
桜の部屋を離れて自分の部屋の扉を開けようとした時、ライダーから声を掛けられた。声を掛ける直前まで霊体化をしていた影響か、気配を全く感じられなかったので少しビックリした。そもそもここから桜の部屋まで距離があった筈だ。一体いつから後ろを付けていた?そんな疑問が湧いて出るが、素直にそういった感情を表出させるのはサーヴァントに舐められると思った俺はそれを出さぬように対応した。
「何だ、ライダー」
「何故、私の真名を知ろうとしないのですか」
「はぁ……」
ライダーの質問に、これは桜が何か変な事を言ったなと思った。が、これはあくまでも推論に過ぎないし、妹を疑うのもどうかと思いこの考えはすぐさま振り払った。そして返答についてだが、お前の真名は既に知っている、というわけにもいかないので、もう一度念を押すように桜に言ったことを繰り返す。
「いいか、ライダー。さっきも言ったように俺は陽動としてこの聖杯戦争では動く。だから他のマスターが居る前では陽動の為にお前は俺の指示には従ってもらうが、あくまでもお前の第一優先はマスターである桜だ」
「ですがそれでは貴方が……」
「言っておくが、俺はあのグズな妹とは違って自分で自分の身を守れるくらいには魔術に精通している。使うのは癪だが、クソジジィから貰ったお前らサーヴァントを従わせられる程度の“偽臣の書”なんてものもあるからな。分かったら使い魔風情がこの俺の方針に口を出すな。とっととマスターである桜の元へ行け」
俺の方針にライダーは何故か庇う様子を見せたが、あまりに親しみを抱かれると陽動として動く意味がなくなってしまうだろうと考えている俺は、彼女の発言を無理矢理遮らせて貰った。
「……分かりました」
「フン……。最初からそうしておけっての」
不満気ではあるがとりあえずは理解を得られたようなので、ライダーに背を向けドアノブに手を掛けた。
「待ってください」
「っ!おい、離せ……!何だよ、まだ文句あるのか?」
部屋に入る前と同じ言葉で、しかし今度は手首を掴むようにしてライダーに制止されてしまった。思わぬ行動にビックリし、思っていたより強めに手を振り払ってしまった。
「貴方の名前を教えてくれませんか?」
「は?」
そんな俺の拒絶を気にすることなく俺の名前を聞いてきたライダーに驚きの声が漏れた。原作では恐らく無かったであろうやりとりに困惑する。何で今の流れで俺の名前を聞きたがるようになったんだ。そこはマスターである桜だけ知っておけば良いだろうに。
「…………慎二。間桐慎二だ」
「シンジ…………良い名ですね。私の名はメドゥーサです。これからよろしくお願いします、
「ハァ!??なっ、おま……」
ライダーの意図が分からずぶっきらぼうに言い放つが、そんな俺の様子を見た彼女はほんの少し笑みを浮べて、俺の名を口ずさむとこちらの意図をガン無視して自らの真名を明かしたのだった。ライダーの突然の態度の軟化に加え、いきなりの真名開示と俺の事をマスターと呼んだという怒涛のイレギュラーな事態に思わず素で動揺してしまった。
何故だ?!何処にそんなイベントが起こる要素があったのかてんで分からない!!さっきは憶測だからと一度はこの発想は振り払ったが、桜は一体、ライダーに何を吹き込んだんだ?!
「どうかしましたか?シンジ」
いや、聞きたいのはこっちの方なんだが?!何でそんなグイグイ来るんだよ。放っておけよ。気に掛けるのは俺じゃなくて桜にしろっての……!
「っ……何でも無ぇよ!さっさと桜の元へ行けって!」
そんな思いをライダーに悟られないように冷たく言い放ち、部屋の扉を力強く閉めた。そして誰の気配も無い事を確認し、扉を背にズルズルと崩れ落ちる。
「な、何だったんだ……」
久方振りに経験させられた原作崩壊に心が落ち着かない。何故、今なんだ?俺が何としてでも変えたかった事は変えられなかった癖に、こういった描写されてない所でいきなり来るものだから未だに慣れないでいた。確かに俺が生き残れるのならば原作崩壊してやるとは息巻いた。覚悟もしていたさ。
でもだからってキャラから好かれたいとは一言も言っても思っても無ぇんだよなぁぁ……!何でなんだ?アレか?クソジジィに本心を悟られぬようにする為に作った俺が思う間桐慎二ムーブを中途半端に辞めれないでいるからか?あの中途半端なツンデレ発言を。だから変な方向で原作崩壊が起きてんのか?
いや、仕方無ぇじゃんか!真面目で素直な間桐慎二なんて何処の誰に需要があるってんだよ。その枠は柳洞一成で埋まってんだっての!元来の口の悪さを素として出せてるだけマシだったんだっての!何度も辞め時逃してたら、全部ひっくるめて俺になっちまったんだっつうの!!優等生ムーブの切り替えは出来ても、長年続いてしまった間桐慎二風ムーブを今更辞めて聖杯戦争に参加出来る訳無ぇんだよ!結局は原作頼りな所があるからさぁ……!
なんて愚痴を吐けどもそれでライダーのあの態度が説明出来るかと言われたらそうではない為、結局は分からずじまいなのであった。いや、他人の心を読み取る事なんて出来やしないんだ。何を吹き込まれたにしろ、きっと興味が唆られただけなのだろう。すぐに適切な距離になるだろうさ。
そこまで考えて、一度冷静になる。何でライダーの態度が軟化しただけでこんなに冷静さを欠いているんだ俺は……。原作壊してでも生き残るって決めただろうがよ。ビビるな、弱気になるな、確固たる己を保て、俺。これからまだ衛宮がセイバーを召喚する為に“やること”が───
「っ?!ヤベッ……遠坂にコナかけしてねぇ!今まで接触が無かったってのに!」
原作開始前に慎二は一度、偽臣の書を用いてマスターとなり、有頂天になった所で遠坂にコナかけしていた事をすっかり忘れていた。全く振り向かれないで断られる事は分かっているのだが、如何せん学校内で優等生ムーブをしていると遠坂との接点があまりにもなかった。この辺りで接点を作っておくのもありだろう。
問題はいつ何処で彼女にフってもらうかだが……。明日、適当に屋上にでも呼び出したりすればいいか。どうせフられることは確定してるんだ。そんなに気にしなくても何とかなるだろ。セイバー召喚までの猶予期間でやっておけば良いのだからな。
そう考えて俺は魔術修行の一環で日課となった錬金術の研究へと行動を移すことにしたのだった。
この時の俺は知らなかった。
ライダーが去った後、扉の向こうで俺の声を聞いている人物が居た事に。
それが巡り巡って
「……………………コナかけ?誰が、誰に……?」
お気に入りが三千人超えたぁ…。これ本当に現実??コメントもアンケート投票もいっぱい来るの嬉しすぎて、調子乗ってすぐに続き書いちゃった。なんか今のうちに書いとかねばならない気がして……
次次回辺りでそろそろ原作編に入れるかな?思ってたよりも長くなったな…
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