メカバンギラスのキグルミを着て撮影に挑む女性。
ところが、ひょんなことからメカバンギラスそのものになっちゃった!?

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【リク作品】ガシャンと発進、メカバンギ!?

「んもー、こんな物着るなんて! 私じゃなくてもいいじゃない、これだったら!」

 役者志望、新進気鋭のカナエの目の前には大きな着ぐるみ。

 やけにメタリックで、大きくて……

「第一、メカバンギラスとか流行ったの何年前だっつーの」

 思わず蹴ってしまいそうになるが、これは商売道具。

 自分一人の感情で色々していいものではない。

 一流の役者になるのを目指し、ポケウッドに来たまでは良かったのだが――

 まだまだ経験が無いのもあり、どうしても『誰だっていい』ような役。

 それでも、自分の顔が出るのならまだ売り出すチャンスと捉えることはできる。

 しかし、しかしである。

「怪獣、ねぇ……」

 大昔の映画、『大怪獣』。

 その中で現れ、街を破壊したのがメカバンギラスなのだ。

 とは言え、今回は別にそのリメイク映画というわけではない。

 よくある、無関係ながらもちょい役で出すことで『におわせ』のようなことをする――おまけのようなものである。

 なので、女性には大変なほど大柄な着ぐるみを使う、にも関わらず出番は数秒。

 セリフも特別な動きもなく、後ろをノシノシと歩いているだけの出演なのであった。

「ま、断ったら干されるだけなんだからやるしか無いんだけどねー」

 ため息を付きつつ、渋々メカバンギラス着ぐるみを着込んでいく。

 メタリックとは言え、本当に金属質ではない。

 だからといって軽いわけでもなく、負荷はそこそこあるわけなのだが。

「あー、重いよ~」

 中で文句を言うと、狭い中で反響しくぐもって聞こえる。

「別にマイクに拾われるわけでもなし、文句言いまくりながら演技しちゃおうかしら」

 いくらなんでも、態度が悪すぎる。

 輝かしい未来を夢見ている彼女には辛い仕事ではあるのだが……こういうのをしっかりとやるのが、何よりも大切であり。

「おまけにどっち向いてるのかよくわかんないのよねこれ、ええっとぉ」

 アテンドが来ていないにも関わらず、なんとか動こうとしてしまう。

 身長が高くなっていることがすっぽ抜けていたせいで何かにぶつかり、バランスを崩し。

「あっ、きゃっ!?」

 メカバンギラスの姿のまま、激しく転倒してしまう。

 その弾みに目を回してしまい、気が遠くなり……

 

「おい、おい、君!」

 頬を叩かれる感覚。

「あ、う、うぅうん……」

 目を開けると、広がる視界。

「そろそろ出番だから、準備頼むよ。……にしても誰だよ、着ぐるみ勝手に改造したバカは」

 監督らしき人物が舌打ちをしながら、メガホンを持っている。

「あれ、私……着ぐるみ、脱いじゃったギラス? ……ん!?」

 くぐもっていない声、何かをまとっている感覚の消失。

 気を失った後、誰かに助けてもらったのかと思っていたが違和感に気づく。

「か、監督、私、どうなってるギラス!?」

 自分の口から変な言葉が漏れ、少し慌ててしまう。

「おいおい、セリフはないって言っただろ? そこまでなりきらなくっていいって」

「え、え?」

 そう言えば、監督は自分より背が高かった気がするのだが……?

「なりきるって、え、私、別にそんな」

「どうした、どうした? メカバンギラスとして、堂々と数歩歩いてもらうだけで良いんだぞ。それとも、あれか? そのおっぱいが気になるか?」

「おっぱい?」

「ん? 付いてるじゃないか、おっぱい。そこの鏡で見てみろよ」

「え、あ、分かったギラス……」

 言われるがままに、役者用の姿見の前に立つ。

「え゛」

 そこに映っていたのは、まごうことなきメカバンギラス……のような何か。

 なぜだか髪は生えているし、胸部には立派な乳房のような膨らみが。

「な、なにこれ、何が起きてるギラス!?」

「ようし、シーン82! メカバンギラス、準備して!」

「あ、あ、あ」

 戸惑っている猶予すら与えられず、撮影スタジオに入る。

「えぇ……待って、着ぐるみ、のはずギラスよね? なんでこの足、感覚あるギラス……?」

 ドス、ドスと怪獣歩き。

 意識せずともそういう歩き方になってしまっているのだ。

 自分の体格がまるっきり、メカバンギラスになってしまったかのようで。

「はーい、では……」

 監督の声が聞こえる。

 何が起きているのか全くわからないが、今はできることをするしか無い。

 カメラが回り、撮影が始まり。

 怪獣らしく、迫力が出るよう、意識して歩く。

 わずか数秒、されど数秒。

 自分のせいでリテイクは出したくない……という集中力が、今の自分への疑問を吹き飛ばす。

「はい、カットー!」

 監督の声。

「ふぅ、大丈夫だったバンギ……?」

「そこのメカバンギラス!」

「あ、は、はい!?」

 大声が飛んでくる。

「すごかったよー! まるで本物かと思うくらいだ!」

 褒められてしまった。

 そんなに期待していなかった役ではあるものの、いざこうなるとなんだかんだで嬉しいものだ。

 思わずガッツポースが飛び出し、嬉しくなり。

 後は脱がせてもらうだけ、のはずだったのだが。

「あれぇ、すいませんちょっとこれ」

「どうしたの?」

「え、ここのはずですよね開く所?」

「ん、無いの?」

「無い……っていうか、そもそもこれどうなってるんです?」

「あれっ? ちょっと他の人呼んでくるね」

 背中から、妙な会話が聞こえてきた。

「ど、どうしたギラス?」

「あ、ううん、なんでもないなんでもない」

 どう聞いても、慌てている声だ。

 なんでもない事は無いだろう。

 とは言え、何が起きているのかは全く把握できていない。

「ほら、ここ……」

「うっそぉ、じゃあこれ……」

「というかなんで胸あるの、このメカバンギラス?」

「えぇ? 隠れてるだけじゃない?」

 様々な声が聞こえた後、強引に背中をいじられる感覚。

「あ、イタタタタ!」

「えっ、痛いの!?」

「い、痛いギラス! なんか刺さったギラス!」

「え、今ので!?」

「じゃ、じゃあ、これは?」

 背中を撫でられる感覚。

「ええっと、触られているギラス」

「えっ、今触ってるの、着ぐるみのはずなんだけど」

「えっ」

 たちまち、大騒ぎになってしまう現場。

 そして、数時間後。

「つまり……私、転送事故でメカバンギラスそのものになった、って事ギラス?」

「うん、しかも髪があるし、胸もあるメカバンギラス」

「戻れるギラス?」

「いやー、原因調査中だから……すぐは無理かも……」

 運悪く、カナエがぶつかって転倒した先には転送機があったのである。

 ひょんなタイミングで、ひょんな弾みに転送が起こってしまい。

 そのせいなのか、カナエは着ていた着ぐるみと融合!

 カナエの特徴を持つメカバンギラスとして、再構成されてしまったというわけなのだ。

「じゃ、じゃあ、私、戻れるまでこのままギラス~!?」

 いくらなんでも、酷い話である。

 ガシャンガシャン、と大きな音を立てて地団駄を踏んで。

「わ、わ、わ、落ち着いて落ち着いて!」

「落ち着けるわけ、ないギラス~!!!」

 ビーム機能まで再現されていたなら、今頃撮影所は完全に破壊されてしまっていたであろう。

 そのくらい、カナエは荒れに荒れ。

 しかしながら、世の中……一体何がどうなるか、わからないものである。

 

「え、え? 私の映画、ギラス?」

 今にも壊れそうな椅子にどっしりと座り、目を丸くするメカバンギラスカナエ。

「そうなんだよ。撮影したカットを色んな人に見せていたら、何て言うんだ、そういうの好きな人にウケそうって話が出てね」

「そ、そういうの……」

「世の中、趣味は色々あるからな。でも、君も事故でそうなっちゃったわけだろう? いつか戻るだろうし、その姿はあんまり気に入ってないって聞くから無理強いはしないんだが」

「で、でも、主役、ギラスよね?」

「そう、そう。おっぱいのあるメカバンギラスが大暴れする映画……まぁ、最初はマニア向けって感じでVシネになると思うけどな。人気があったらどんどん撮りたいって言ってるヤツが……」

 話を聞けば聞くほど、カナエは興味が湧いてくる。

 

 正直、この姿になってからは散々であった。

 まず、服が全部着られなくなったわけで。

 当然、メカバンギラス向けの服などこの世にあるはずもない。

 ましてや、立派なおっぱいがあるわけで……

 買い物に行こうにも、周囲の目を引いてしまう。

 全裸でノシノシ、大股歩き。

 子供に至っては、「かいじゅうだー!」と思いっきり叫んできたり。

 女優になろうと頑張ってきたのに、メカ怪獣になってしまった事実を突きつけられてしまうのだ。

 一番困ったのは、彼氏との付き合いである。

 嫌がってくれたほうがまだマシ……というと、言い過ぎなのかもしれないが。

「えっ、すっげぇ! まじでメカバンギラスじゃん!」

「へー、ここってこうなってるんだ!」

「あれなのか? 映画でもやった、形態変形とかできるわけ?」

 憧れのメカ怪獣が目の前にいる、興奮を隠しもせず、メカバンギラスカナエの体を片っ端から調べてくるのだ。

「も、もう、心配くらいしてくれても良いギラス!?」

 思わず声を荒らげて怒るのだが……

「ごめん、ごめん。でも、まさかカナエがメカバンギラスになるなんてさ……! なぁなぁ、ビームとか出るのか?」

「んもう!!!」

 デリカシーの無さに限界が来て、ついつい目を光らせて怒鳴ってしまい。

 

 そんな一ヶ月を過ごしてげんなりしていた所に、この話。

 正直な所、見世物になるようなものである。

 だがしかし、主演、主演なのだ!

 映画の主役になりたくて、ポケウッドにやってきて。

 苦節数年、とうとうこの時が来たわけで。

 ……そのきっかけが事故によるメカ怪獣化、というのは想定外だが。

「せ、折角ですし、お受けしたいギラス」

「おお、そうか! あいつも喜ぶぞぉ!」

「で、でも、お願いがあるギラス」

「なんだ、言ってみろ。可能な限りなんとかしてみるから。ギャラとかの話か?」

 キワモノだと、そういうトラブルは多いのだろうか。

 真っ先に相手が切り出したのはそこであった。

「い、いや、違うギラス。いつになるかは分からないけど……元に戻れる時が来たら戻りたいので、その時はいくら人気があってもおしまいにして欲しい、ギラス……」

「あ、あー」

 考えてなかった、といった感じのリアクション。

「そりゃ、もちろんそうだろう。裏ビデオじゃないんだからね、無理強いはできないし、一つ作って公開した後の周囲の反応もあるわけだろ? 撮らせろ! とはこっちも言えないからな」

「あー、良かったギラスゥ……」

 大きく息を吐き、ホッとするメカバンギラスカナエ。

 早く戻りたい、という思いは消えないものの……思いもよらない願いの叶い方に、どこかドキドキしてしまうのであった。

 

 

 

「今年のポケデミー大賞、女優賞は……カナエさんです!!!」

 割れんばかりの拍手。

 その中を、ドレスを着たカナエが歩いていく。

 壇上に登り、トロフィーを受け取り。

 喜びを表すかのようにそれを大きく掲げる彼女。

 そのメカメカしい手にあるトロフィーは、おもちゃのように小さく見えた。

 

 あれから五年。

 元に戻るどころか、カナエは未だメカバンギラスのような姿のまま。

 初主演作『メカバンギラス -メスメカの逆襲-』がまさかの大ヒット。

 Vシネマだと言うのに口コミで評判となり、見ていない人はいないと言ってもいいほどに。

『CG使っていないのに、怪獣の動きがリアル!』

『おっぱいがある怪獣ってこんなに興奮するんだって』

『ネタ映画かと思ったら、メカバンギラスの悲哀が演技で伝わってきて感動しました』

 メカバンギラスそのもの故にできる、怪獣としての動き。

 どうせやるなら全力でやりたい! という彼女の熱意が作品全体をブラッシュアップし、異例の評価を手に入れたのであった。

 すぐさま続編が作られたり、テレビドラマ版が放映されたり。

 一度、彼女を模した着ぐるみでの製作も試みられたのだが結果は惨敗。

 いくら精巧な出来でも、「中に人が入っているメカバンギラス」は「メカバンギラスそのもの」にはかなわないのである!

 彼女自身もヒットに喜んだのだが……それに合わせて周囲の反応が変わっていったのも、彼女を嬉しくさせた。

「大ファンです!」

「カナエさん、かっこいい!」

「頑張ってくださいね!」

 珍しいものを見る目は減っていき、代わりに声援が増え。

 最初は恥ずかしさからうんざりしていた外出も、まるで気にならなくなり。

 成功が重なってくると、専用の服を作らせてほしいという依頼も舞い込んでくる。

 カナエ自身も(こんなの、流石に需要ないんじゃ……)と思いつつ作られた、ファッショナブルなメカバンギラスカレンダー。

 空前絶後の大当たり商品となり、グラビアアイドルとしての活動も本格化していく。

 そんな大ヒットにも天狗になること無く、しっかりと稽古を欠かさないカナエ。

 少しでも怪獣らしく、迫力や雰囲気を壊さないよう、自分で研究を重ねていき……

 その結果が、今回の受賞に繋がったのであった。

「すごいじゃん、カナエ。かっこよかったぜ!」

「やだギラス、可愛いって言って欲しいギラス~!」

 相も変わらず付き合っている彼氏が、手を取りながら声をかけてくれる。

 なんだかんだでどんな時でも側にいてくれて、アドバイスもしてくれて。

 一度怪獣らしい動きが分からなくなりスランプになりかけた時も、持っている資料を全て使って研究に付き合ってくれて。

「まあ、授賞式おつかれさん」

「うん、ありがとギラス!」

「……でさ、ちょっとお願いがあるんだけどさ」

「あ、すっごく嫌な予感がするギラス。んもう、このドレス……結構高いギラス、あっ」

 デリカシーのなさに関しては相変わらず。

 カナエの返事も聞かず、体のレバーをぐいっと引かれて。

「変・形っ! バンギジェエーットォオオオ!!!」

 強制的に大声で叫んでしまい、ステルス戦闘機のような姿になってしまい。

「へへ、乗せて帰ってくれよ!」

「んもう、嫌って言っても乗るくせに! さっさと乗るギラス、早く帰るギラスよ!」

 狭いコクピットに彼氏を乗せ、飛行形態のカナエが離陸する。

 全く持ってトンチンカンな状況ではあるのだが……

 意外とこういう時間も、彼女は嫌いではないのであった。

 

 

 おしまい


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