「ヴィドメニールを愛したヴィダの話」「故郷」の2編を追加。(2024.7)
「サプライズパーティー」を追加。(2024.8)

「ヴィドメニール~」は読んでわかるとおり、惑星ヴィヌドーの話。「故郷」は家族でフロルの生まれ故郷を訪れた時の話です。
「サプライズパーティー」はガンガの思い出話です。

「クローン」はタダとフロルが自身のクローンを作った時の2人のエピソード。

「相談」は夏休みに入った時にタダが子供たちからある相談を持ちかけられる話。

読んで楽しんでいただければ幸いです。

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XXY,「笑顔の記憶」に続くエピソードです。



スケッチブック

 

サプライズパーティー

 

 ある日タダとフロルがサロンに行くと、いつもガンガと一緒にいるガンガの彼女のヴィリーが1人座って本を読んでいた。

「あれ、ガンガは?」

「研究室でトラブルがあってね。学生がぶつかって試剤が置いてある棚が倒れて……。片付けてから来るから遅くなるって」

「ふうん」

「それでね」ヴィリーは本を閉じるといたずらっぽく笑って続けた。「ガンガがいないからちょうどいいわ。実は来月の10日がガンガの誕生日なのよ」

「へええ」

 

 意外かもしれないが、誕生日というのは子供のもののように思われるかもしれないが学生達の間では結構重要なイベントだった。何しろ学生達は200以上のもの星から集まってきている。宇宙大学のあるこの星でも、他の星同様春分や秋分、夏至や冬至といった季節上の行事や宇宙大学の建学記念日、またテラ系であるためテラ総合連邦開設記念日などといった祝日はある。またテラ由来のクリスマスや、サバ由来のハリュエストなども盛んに行われている。しかしごくわずかだ。学生達はそれぞれ自分の星では祭りや記念日があり、大学は学生達が自主的になんらかのお祭りをやりたいと申し出れば特に問題がない限り許可を出していた。だから小さな「お祭り」はしょっちゅう開かれていたが、どれも小規模であまり盛り上がらなかった。ところがほとんどの学生達が共通に持つ記念日が誕生日なのだ。

 もちろんそれぞれの星によって恒星を回る周期はバラバラだし、宇宙大学の1年とも異なる。しかしそこは簡単な計算で算出できるため、出身星とその星での生年月日を入力すれば、宇宙大学(でもどの星でも)暦に読み替えてくれる無料アプリは数多く出回っていた。

 

「でね」ヴィリーは笑顔で続けた。「サプライズパーティーをやりたいと思って」

「サプライズパーティーか。いいね」フロルがにっこりする。

「へえ、誕生日にサプライズ、いいね!」面白そうな事にはいつも賛成するアマゾンも割って入って言った。

「サプライズパーティー?」とタダが聞く。

「え、おまえ、知らないの?誕生日とか本人には黙っておいて、みんなでこっそり用意して、当日みんなで集まってハッピーバースデーって言って驚かすヤツ」

「そりゃ知ってるさ。……小説なんかで読んだことあるよ。でもさ、あんな事、本当にできるのかい?」

「できるのかって、ガンガに黙って準備するだけじゃん」

「いやさ、そんなのずっと本人に感づかれずに秘密にできるのかい?」

「え?黙ってればいいだけじゃん」そこまで言ってフロルは「あーー!」と声をあげた。

「またタダの弱み発見したよ!おまえってさ、とにかく隠し事はできないし、嘘ついた事がないから嘘はつけないし。あ~あ、勘のいいヤツばかりの星で育った弊害だね!」

「まあまあ」とヴィリーが割って入った。

「おもだった計画は私がたてるから、協力してくれるだけでいいわ」

「へえ、じゃ、この星じゃ本当にできるんだ、サプライズパーティー!」タダが嬉しそうに言う。「シベリースじゃ考えもしなかったよ!絶対に本人が勘付いて最後まで秘密になんかできないんだ」

「おまえ、本当に変なヤツだよ」フロルがため息交じりに言った。

 

 計画は着々と進んだ。計画に一番乗り気だったのはこの星ならサプライズパーティーができると知ったタダだった。途中、タダはサロンでガンガに会った時になぜか顔を赤らめて、言葉につまったりして、ガンガに「おまえ、何かあったのか?」などと言われたこともあったが、フロルや他のメンバーがうまくごまかした。

「あ~あ、おまえって本当にもうちょっとうまく立ち回れないのかよ!」フロルがため息をついた。

 そして当日。みんなはガンガの留守に彼の部屋に集合した。今ではヴィリーはガンガと同棲しているので都合がよい。手分けしてハッピーバースデーと書いたバナーやガーランドやバルーンを部屋に飾り付けた。

「あ、ガンガから連絡があったわ。今実験が終わって、これから帰るって」

「完璧なタイミングだな!」

「でも急いでね。あの人、歩くのは結構速いのよ」

 みんなは大急ぎで仕上げを終えると、思い思いにソファーの裏や本棚の横などに身を潜め、ヴィリーは明かりを消した。

 

「ただいま!」というガンガの声がした。「あれ、真っ暗だな。ヴィリー、いないのか?」

ガンガが壁のスイッチを押し部屋がぱっと明るくなると同時にみんなが隠れていた場所から躍り出て「ハッピーバースデー、ガンガ!」と叫んだ。クラッカーがいくつもポンポンと鳴り、壁に取り付けたイルミネーションライトが輝いた。

「うわ、わ、わ、わ!」ガンガは驚いて尻もちをつき、それを見てみんなは大笑いした。

「え?なんなんだ?」とガンガは床に腰をおろしたまま聞いた。

「今日はあなたの誕生日でしょ?」とヴィリー。

「あ、そうなのか……」ガンガは落としたカバンを拾い上げるとソファーに腰を下ろした。

「はは、ありがとう、そうか俺の誕生日か‥しかし……誕生日を祝わなくなって何年になるのかな……」ガンガは遠くを見るような目でつぶやいた。

みんなはどう反応してよいかわからず、顔を見合わせた。

「……そうだな。俺にとっての記念日はあいつにとっても記念日なんだな……」

「双子?」タダが驚いたように聞いた。

「そう」ガンガはふいに非常に優しい表情になった。「タダ、おまえは相変わらず勘が鋭いな。……そう、双子の妹がいたんだよ」

予想外の答えに全員が凍り付いた。

「オレら、もしかしたらとんでもないことしたんじゃね?」フロルがみんなが思った事を口に出した。

「いや、そんな事ないさ、ありがとう、祝ってくれて嬉しいよ」ガンガはあわてて言った。

「そうだな。……いい機会だからみんなに話しを聞いてもらおうか」彼は上着を脱ぐと座り直し、テーブルの上に置いてあった誕生日のカードを手に取って話し始めた。

 

「みんなも知ってるように双子ってのは一卵性と二卵性がある。一卵性は受精卵が分裂したもので遺伝子は全く同じだ。二卵性は卵子が2個排出されて受精したもの。男女の双子は必ず二卵性だ。まあだから二卵性の双子は単に兄妹が同時に生まれてくるようなものだ。

 

 しかし兄妹と言っても同じ時期に同じ母親のお腹ん中にいたって事は普通の兄妹とは違う。特に俺は、頑丈なのが取り柄だが、お腹の中にいたときからもう頑丈だったんだな。栄養も免疫も妹の分までもらってしまったらしい。とにかく生まれて来たとき、すでに一回り大きかったそうだ。

 

 ……俺は生まれてからこの方、病気らしい病気はしたことがないんだが、妹は小さい頃から病弱だった。風邪が流行ると必ず寝込んだよ。

 それでも小学校は一緒に通った。妹は弱くてスクールバスを降りて教室に行くまでの距離もカバンを持つのが大変だったんだ。俺は毎日カバンを2つ抱えて妹の手を引いて登校していた。親には妹が病弱なのはおまえが免疫を全部持っていってしまったからだと小さい頃から言われてたからね。子供心に責任は感じてたよ。

 

 小学校も何年かすると妹は欠席の方が多いくらいになってきた。俺は授業はものすごく真剣に聞いたよ。そして学校が終わるとまっすぐに病院に行って、その日の授業を妹のために再現した。病室で先生の説明はもちろん冗談からクラスメートの反応まで1人でやってのけた。妹は俺の授業を毎日楽しみにしていたよ。まあ当然成績はよかった。でも勉強が好きだったんじゃなくて、妹に教えるために必一生懸命勉強しただけなんだ。

 ケンカはまるでしなかったな。だいたいケンカってのは自分と同じか自分より強いヤツとやって勝つのが楽しいもんで、弱い相手とはやる気にはならないからな。

 

 そうこうしているうちに、親父が俺にクロレラ培養の被験者にならないかという話を持ってきた。親父は生物学者でトレドレーガの住民の寿命を延ばすため長年クロレラ培養の研究をしていたんだ。最初は自分に培養するつもりだったが、やはり年を取り過ぎていた。成長期にある子供がいいって事で、それで俺に話がまわってきたんだ。研究仲間で何人か候補はあったんだが、俺が一番免疫細胞を多く持ってるって事で俺に白羽の矢が立てられた。

 

 当時俺は9歳だった。正直クロレラ培養についてよくわからなかったし、自分が受けていいのかどうかもわからなかった。

 そのとき妹が言ったんだ。「お兄ちゃんはクロレラ培養をしなきゃだめ」って。妹ももちろん当時9歳で、ほとんど病室で過ごしていて、世の中の事を知る機会もなかったのに、なんであんなにはっきりと「しなきゃだめ」って言い切ったんだろう。

 で俺はクロレラ培養を受けた。免疫細胞を人一倍持っていたせいか、拒絶反応はすさまじかった。生涯でこの時だけだな、妹が俺よりも元気だったのは。

 

 俺は妹と同じ病院に入院した。妹は毎日見舞いに来て俺の手を握りいつか良くなるから絶対に諦めないでって何度も繰り返した。

 拒絶反応はほぼ一年続いたよ。吐き気がして熱が下がらなかった。何度もこのままもっとひどくなって死ぬんじゃないかと思った。

 永遠に苦しみは終わらないんじゃないかと思ったけど、一年を過ぎた頃から少しずつ拒絶反応が薄らいでいった。やっと身体が適応したんだな。やがて普通の生活に戻って学校にもまた行けるようになった。

 それに反して妹はだんだんと弱っていった。俺が拒絶反応で入院してたころ同じ病院内だけど毎日歩いて見舞いに来てずっと手を握るだけでも妹には負担だったんだろうな。俺はまた学校の授業を妹のために再現して見せたけど、先生も知らない人に変わってしまったし、そもそも妹は一時間ずっと俺の授業を聞くのも難しくなっていた。

 俺は以前のように学校が終わると病院に行って妹に会った。あのころからだな、妹が大学の事を言い出したのは。

 

『お兄ちゃんは遠くの星の大学に行って勉強するの。そしてトレドレーガに戻ってきて、多くの人を助けるの』って何度も繰り返してた。そんな時あいつはどこか遠くを見ているような目をしていた。……あの時あいつには何が見えていたんだろう。

 

 結局妹は14歳で亡くなった。それまで俺たちは誕生日は一緒に祝ってきた。最初は家で、そして妹が入院してからは病室にケーキを持ち込んでね。でも実は14歳の誕生日の時に俺にはわかってた。こうして一緒に誕生日を祝うのはこれが最後だろうって」

 

 ガンガはそこで口をつぐむと胸ポケットから折りたたみ式のタブレットを取り出し、テーブルの上でパタパタと広げた。

「これがそのときの写真だよ」

タブレットはみんなにまわされた。そこにはがっしりした体型の少年と一回りも小さくきゃしゃな少女がケーキの前に並んで座り微笑んでいた。

 

「わ、かわいい!」フロルが言った。

「かわいいだろ?俺にまるで似てなくて」ガンガが笑いながら言った。

「いや、目元とか口元とかやっぱり似てるよ」とタダ。

「この頃あの子はどんどんやせていった。ほとんど食事が取れなくなってしまったんだ」またガンガが話し始めた。

「俺は毎日見舞いに行ってたけど、この頃は何度も未来の話を繰り返していたよ。『お兄ちゃんは遠くの大学に行くの。難しい大学だから合格するためにしっかり勉強してね。でも大学はとっても楽しくてお友達もたくさんできるわよ。そして卒業したらトレドレーガに帰ってきて、大勢の人のために働くの』って。

 

 俺は妹と同じ母親の腹の中にいて、栄養と免疫を多くもらってしまった。妹はその代わりに何を与えられたんだろう。

 

 あいつは死ぬことをまるで恐れていなかった。そうだな、自分がもうすぐ死ぬことは自然な事だ、みたいに言っていた。

 彼女が死んだとき、親父とお袋は号泣したよ。でも俺はなぜか泣けなかった。病気で長い間苦しんでいたのを見てきたからね。俺は死後の世界なんざ信じちゃいないが、このときは妹が自由になったような気がした。それになぜか妹の気配を時々感じたんだよ。だから悲しくはなかった。不思議だけどね」

 

 ガンガは自分の手を見つめた。

「こう言うと気持ち悪いと思われるかもしれないけど、遠く離れたこの星でもときどきふとあいつの気配を感じる事があるんだよ」

「え?こわくない?」とフロルが聞いた。

「妹だよ。こわいよりも、今でも俺と一緒にいてくれるような気がして嬉しいよ」ガンガは微笑んで言った。

 

 みんなは黙りこんでいた。ガンガはテーブルの上のケーキの箱の蓋を取った。

「お、おいしそうなケーキじゃないか。長い話を聞いてくれてありがとう。さあ、みんなで食べようか」

「あ、今、紅茶入れるわね!」ヴィリーがはじかれたように立ち上がった。

ケーキがふるまわれるとみんなは突然賑やかになり、それぞれプレゼントを差し出し、ガンガは一つ一つ開けてはにこにこしてお礼を言っていた。

 

 やがて楽しかったサプライズパーティーもお開きになり、学生達はそれぞれ別れを告げて自分のアパートに向かった。

「ガンガは本当に妹を可愛がってたんだな。‥死んでしまったのはかわいそうだけど、少し羨ましいな」タダがぽつんと言った。

「そっか。おまえ、ずっと長老と2人暮らしだったんだよな。オレは兄も姉も山ほどいたけど、あんなに仲は良くなかったよ。ケンカばかりしてた」

タダはくすっと笑うとフロルの頭に手を置いた。

 

 (かなりオリジナルで突っ走っていますが、これでも本編をベースに考えています。

「11人いる!」のガンガの個人情報(?)はわずかです。風土病に悩まされる平均寿命30代のトレドレーガ出身。頑丈なのがとりえ。9歳でクロレラ培養を受ける。など。

まずなぜガンガは9歳という若さでクロレラ培養を受けることになったのか。まあ人生100年の9歳と人生30年の9歳とでは大いに違っていて彼は今の9歳よりは大人びていたはずです。(でも小学生) さらに彼は頑丈で死亡率93%のデル赤斑病に実験の際感染し、死ななかったばかりかその病気を「外に出ていない」状態で自己治癒力で治してしまいます。おそらく免疫機能が恐ろしく高かったと思われます。しかしそれはなぜなのか……

てなことを頭の中で組み合わせながらオリジナル設定を作ってみました。

読んで楽しんでいただければ幸いです。)

 

 

 

 

 

 

ヴェドメニールを愛したヴィダの話

 

 

 大学で、当時いつ頃からか忘れたが僕たちの間では週末の夕べに皆で集まる時、順番に自分の星の話をするようになっていた。

 何人かが話し、その週末はヌーの番だった。

 いつものように夕方にサロンに行くと、彼は部屋の真ん中に彼の星から持ち込んだ独特な模様の小さな絨毯を広げ、その上にガラス製の管やランプのついた器具を置いていた。ヴィヌドーのお茶を入れてくれるらしい。

 みんなは周りのソファーや絨毯の縁に思い思いに座った。やがてヌーが美しい透明な水指を持って入ってきた。彼はゆったりとした淡い青白色の長い衣をまとっていた。僧侶の仕事を果たすときの正装だ。

 

 ヌーはあぐらをかいて座り込むと、手慣れた優雅な手つきでランプに火をともしガラスのケトルを暖め始めた。湯が沸くと茶葉を慎重に投入し、湯は鮮やかな琥珀色に染まった。蒸気がお茶を押しだし、琥珀色の液体が複雑な形のガラスのチューブに伸びていった。彼は小さな茶碗に次々とお茶を注ぎ、皆にふるまった。

「さて」と一通りお茶が行き渡るとヌーは話し始めた。

「今晩は私の星で200年ほど前に起きた事についてお話ししたいと思います」

 

「惑星ヴィヌドーは両性種の星で、住民はメニールという男女未分化の状態で極寒の冬に生まれます。親たちは皆、冬の初めに亡くなっているので、幼いメニール達は集められて、私たちのような未分化のまま成長したヴィドメニール達が世話をします。彼らは集団生活の中で育つのです。

 

 あるとき、非常に仲の良い二人のメニールがいました。名前をフォリーとユーラと言いました。二人はいつも一緒で、外に出かける時はいつも手を取り合って一緒に歩き、食べ物やお菓子があれば必ず二人で分け合い、決してけんかもせず、いつも必ず一緒にいました。世話係のヴィドメニール達はそんな二人を微笑ましく見守っておりました。

 

 やがて春が訪れました。幼いメニール達は一律に成長しほとんどの者が男性あるいは女性のヴィダと呼ばれる状態に変化します。メニールの時期に仲が良かった者達は、全員ではありませんが多くが男女のカップルとなってそのまま結婚することが多いです。もちろん時には男性同士女性同士になることもあります。そしてそのまま同性で結婚する者や、他に相手を探す者もいました。

 さてその春ユーラは美しい女性に変化しました。ところがフォリーは一向に変化する兆しが見えませんでした。時々こういう未分化のまま夏を過ごす者もいます。私も同様で春に変化せず、自動的にヴィドメニールとなりました。フォリーも私のようなヴイドメニールになったのです。

 

 春が来るとヴィドメニールとヴィダの生活は全く別の物になります。ヴィダ達はあっというまに恋をして相手を見つけ、それぞれ一夏の愛を育みます。一方ヴィドメニールはメニール達の世話から解放され、星を守るためその適性によって仕事を割り当てられます。農作物を作る者、建築物を作る者、研究者に医者、さらには国を統治する者と多岐にわたります。それでもヴィドメニールの数は少なく、常にどこの職種も人手不足なのです。

 

 さてフォリーにも仕事が割り当てられましたが、彼は地元で働くことを強く望みました。ヴィドメニールとして働くが、ユーラのそばにいたいというのです。

 一方ユーラはヴィダ達の住む地域に小さな住居を与えられました。美しいユーラは春が始まった途端に多くの男性からプロポーズされていました。ところがユーラはそういったヴィダの男性達には目もくれず、フォリーが働く工場へやってきて、昼休みの短い時間にフォリーと話すのでした。

 

 ヴィドメニール達は会議を開き、特例としてフォリーから仕事を取り上げユーラと一緒に暮らせるように決めました。しかし二人をどこへ住まわせようかと彼らは悩みました。ヴィダ達はほとんどの者達はうまく相手を見つけますが、中には三角関係や片思いなどのトラブルも当然存在します。意中の人に振られた男性がユーラを口説きに来る可能性は大いにありました。中には相手を不幸な事故や病気で失い、夏の初めごろに相手を探すヴィダもいたのです。

 

 そこでトラブルを避けるため、彼らはフォリーとユーラを近くの山の高地にある小さな牧場に送りました。そこは昔一度放棄された牧場で、彼らはそこで家畜を飼い、小さな畑を作って自給自足の生活をすることになったのです。

 

 二人は喜んでこの提案を受け入れ、山の牧場に移り住みました。畑で取れた作物や森で取ってきた果実や木の実を食べ、乳をしぼり卵を集めて生活を始めたのです。

 ヴィヌドーもそこそこ機械化されていますが、二人の山間での生活は厳しいものでした。ときおり担当のヴィドメニールが山羊の背に必要な物資を乗せて二人を訪れます。そして二人はわずかに余った卵や乳製品を代わりに渡すのでした。町に住むヴィダ達はそんな人里離れた山奥に女性のヴィダが住んでいるとは夢にも思わず、二人は静かに暮らし続けました。

 

 やがて秋がきました。出産をしなかったユーラは他の女性ヴィダよりは長生きをするはずでしたが、山の厳しい寒さのため、秋の初めにその人生を終えました。フォリーは彼女の亡骸を二人が夏を過ごした山小屋の裏手に埋め、小さな墓を建てました。

 そしてフォリーはヴィドメニールとして冬中仲間達と一緒に新たに生まれた幼いメニール達の世話にいそしみました。

 

 そして次の春。フォリーはヴィダに変化しました。皮肉な事に彼は男性に変化したのです。運命のいたずらですね。一夏早く変化していれば二人そろって幸せに暮らせたのに。

 ところが彼は他のヴィダ達と共にヴィダが暮らす地域に移り住むことをこばみました。そして彼はユーラと一夏を過ごした山の牧場に住むと言い張ったのです。ヴィドメニールたちは彼の望みが非常に強いことを知り、それを許可しました。彼は以前の牧場に今度は一人で暮らし始めました。

 

 前の夏と同様、時々担当のヴィドメニールが彼を訪れていました。たった一人で畑仕事や家畜の世話をしながらも彼はいつも幸せそうだったといいます。

 そして秋が深まったある日、担当の者が訪れるとフォリーはベッドに横たわって息絶えていました。担当のヴィドメニールは彼を小屋の裏のユーラの墓の横にフォリーの墓を建てました。

 

 牧場を閉鎖するために数人のヴィドメニールが牧場を訪れました。小屋の中を整理していた彼らは、膨大な数の手書きのノートの束に気付きました。持ち帰って読んだところ、それはほとんどフォリーが書いたもので、ごく一部はユーラの筆跡もありました。長いふた夏の間、フォリーはユーラとのやりとりを克明にノートに記していました。最初の夏はユーラの仕草や感情、表情などがわからないと書き込み、二人の交わした会話も克明に記録されていました。そして二度目の夏、彼はヴィダとなり1人で暮らしながら、前の夏のユーラとの会話や彼女の仕草を鮮明に思い出し、ヴィドメニールの時には理解できなかったが今は理解できるようになった事柄を克明に綴っていました。

 時には彼は前の夏にノートに記さなかったような100年以上も前のユーラの言葉や仕草を克明に覚えていたのです。

 

 ヴィヌドーではヴィドメニールは幼いメニール達の世話はしますが、一旦彼らがヴィダに変化すると、ヴィダ達はヴィダの暮らす地域に移り住み、ほとんど接点はありません。長く生きているヴィドメニールでさえ、ヴィダの心情や悩みについては情報がないためうといのです。

 このフォリーが記した膨大なノートはヴィダの心の動きや仕草や考え方について非常に参考になりました。ヴィヌドーにも心理学を志す者が少なからずおりますが、ヴィダ達を心理的に理解することはほとんどなされていませんでした。このフォリーとユーラの一件以来、ヴィダの心理に関心を持つ者が増え、またそういうヴィドメニールの中には自分がヴィダに変化したときに、自分の心情を書き留めた者もいました。しかしフォリーの記録に勝る者はありません。フォリーとユーラは私たちから見れば不幸なカップルでした。でも彼らによってヴィドメニール達のヴィダへの理解は格段に深まったのです。

 

 今では春が近づくとメニールの世話係のヴィドメニール達は、彼らがヴィダになった時どんな変化が起こるか、あらかじめ話すのが普通になりました。

 2人の件は不幸なできごとでしたが、2人によってヴィダとヴィドメニールの理解は深まっていったのです」

 

 サロンでのお話し会も終わり、タダとフロルは連れ立って自分たちの部屋に帰って行った。

「毎回思うけど、本当にいろんな星でいろんな人生があるんだなあ」タダがぽつんと言った。

「あのさ」フロルが不意に真剣な表情で口を開いた。

「何?」

「オレは絶対ヴィドメニールみたいにはならないから。オレたちの種族は大人になっても変化しないヤツはないんだ。そんなヤツがいたって話しは聞いた試しがないよ」

タダは微笑み「それはよかった」と言うとフロルの肩を抱いてキスをした。

 

 

 

 

 

故 郷

 

 それはタダとフロルの2人の子供たちが小学校に上がる直前の事だった。2人は子供たちを連れてヴェネを訪れた。目的はフロルの母に初めて2人の子供たちを会わせる事だったが、子供たちにとってはそれは生まれて初めての宇宙旅行となった。

 

 タダとフロルは子供たちを全寮制の小学校に入れた後はそろって惑星開発専門のパイロットとして仕事に復帰する予定だった。それもあってヴェネへの旅の一部は2人が操縦する小型探査船フロル号での移動となった。要請のあった星へ、彼らの所有する小型探査船を運ぶ仕事だ。子供達は小型探査船の後ろの狭い座席で、父と母が協力してあざやかに宇宙船を操縦する様子を固唾を飲んで見守っていた。タダは操縦士で横に座ったフロルは航海士だ。

「フロル、高度!」

「3500!」

「オッケー、3000でコール!」

「ラジャー!」

しばらくして「3000!」とフロルが知らせた。

「フロル、カウントダウン!」

「ラジャー!」

フロルは目まぐるしく機械を操作した。やがて

「カウントダウン…..。3‥‥2‥‥1‥‥Go!」

そして2人はフロルのGo!というかけ声と共に同時に幾つかのレバーを操作した。宇宙船はゆるやかに高度を下げ一直線に宙港へと降下して行った。それはまるで2人ではなく1人の人間が操縦しているかと思えるほどピタリと息が合っていた。

 

 しかし宙港に着いた後で、初めて両親の操縦を見た 子供達が、素晴らしかったと興奮気味にフロルに言った時、フロルはいたずらっぽい顔であっさりとこう答えた。

「あれさ、本当はコンピュータに任せておけば無茶苦茶簡単なんだよ。でもタダは今回は手動でやりたいって言って譲らなかったんだ。子供達の前で良い格好したかったんだよ」そう言ってフロルは大笑いした。

 

 依頼のあった惑星に探査船を届けた後は通常の大型宇宙船に乗り換えヴェネに向かった。そこからさらに飛行機に乗り換えてフロルの実家を目指す。

 

 ヴェネのほとんどの家庭は一夫多妻制でなおかつ長子の男性による家父長制だ。フロルの実家も同様で、フロルの父とフロルの母を含む5人の妻、そしてこの家の跡取りとなる第一婦人の長子とその4人の妻と子供たちが、大きな家に一緒にがやがやと暮らしていた。他の成人した子供達——フロルの兄や姉達や腹違いの兄や姉——は結婚に伴って次々と家を出て行ったため、大きな家に大勢が住んでいるもののフロルの血縁は父親と腹違いの長兄を除けば、母親1人だけだった。

 

 フロルは正門ではなく裏手の扉にまわりノックをした。しばらくして年配の女性が現れた。フロルにそっくりな髪と目をした彼女はフロルを見るなり「フロル!」と叫んで抱きしめた。フロルも母親を抱きしめた。しばらくして手を離すとフロルは「オレたちの子供だよ」と2人の子供を紹介した。子供達はフロルが教えた訛りのないヴェネ語で挨拶の言葉を述べた。

「おばあさま、こんにちは。はじめまして」

「ああ、あなた達なのね!よく来てくれたわね!会いたかったのよ!」フロルの母は感極まった声で2人の子供を抱きしめた。

「2人とも両性種なんだ」フロルが説明する。母親はいささか驚いた様子でタダを見上げた。

「僕は単性ですが2人で話し合って人工授精で両性種の子供を持つ事にしました」タダが説明した。「年頃になったら彼ら自身に男女どちらになるか選択してもらうつもりです」

「ああ、そうなの‥‥それはよかったわ」 母親は自分に言い聞かせるように何度もよかったと繰り返した。

 

 フロルは母に久しぶりに会って話したい事が山のようにあった。気づくと彼女はタダや子供たちの事を忘れて大学入学以来の事をあれこれと話していた。

「フロル、僕は子供達を連れて近所を散歩してくるから」タダは苦笑して、いささか退屈しかけた子供達を連れて出て行った。

 

 前回訪れた時は隣の領主とのトラブルもあり、のんびりと風景を楽しむ暇もなかった。見るとフロルの実家の裏には小高い丘があり、春という季節柄、地面には一面に小さな白や淡い空色の花がびっしりと咲いていた。フロルがヴェネについて話す時に彼女の脳裏にいつも浮かぶ風景がこれだ。タダはこれがフロルの好きだった丘の小径だと確信し、子供達の手を引いて丘を上って行った。

「すごい!一面に花が咲いてるね!」

「シベリースと全然違うね。涼しい。寒いくらい。でもとってもきれい!」

「おばあさま、優しそうな人だったね!」

 

 のんびりと丘を探索していると、フロルが迎えに来た。母親と充分に話したせいか、満足げな表情だ。

「あっちの小川の方に行ってみようよ」

4人は風景を楽しみながら散策を続けた。

「……本当に何もないところだろ?」

「でも……きれいだよ。とっても」子供達は口々に言った。

「そう?」フロルはまんざらでもない表情を見せた。

「ヴェネでは春には『昼は野に空と雲あり、空に花あり、夜は野に星あり、空に花あり』って言うんだよ」確かにびっしりと白い花と淡い空色の花の咲き誇る野原は青い空と白い雲のように見えた。

 

 家に帰ると小さな部屋に案内され、タダとフロルと子供達だけで食事を取った。その後フロルは言いにくそうに言った。

「今晩は離れに泊まれって」

 

 離れは家のそばにある小さな建物、というより小屋だった。中は小さな部屋が二つ。小さなキッチンとシャワールーム。ベッドがかろうじて4つ置いてあった。洗ったシーツが敷いてあるものの、いささかカビくさかった。

 

 夜更け、フロルは眠れなくて起き出し、外へ出て行った。月明かりと星明かりが一面の花畑をぼんやりと照らしている。春の夜にしか見られない美しい光景だが、フロルは丘の斜面に座ると考え込んだ。

「久しぶりに故郷に帰った気分はどう?」寝る前にタダが言った言葉だ。そのときフロルは何も答えなかった。

――故郷?

 確かにここは自分が生まれ育った星だ。しかし故郷(ホーム)と呼ぶには何か抵抗があった。

――確かにここで生まれたから、帰ってきて懐かしくは思うけど、それ以上ではない。だいたい、もうここに住みたいなんてまるで思わない。

 それは故郷という言葉が意味する物とはかけ離れているように思えた。

――じゃ、オレにとって故郷はどこ? 

フロルは自問した。

――シベリース? 

 確かに自分たちの家はあそこにある。あそこで結婚し、以前タダと長老が住んでいた家を住みやすくリフォームして暮らしている。宇宙飛行士としてのミッションが終わればいつもあの家に戻る。そしてそこで子供を産み育てた。故郷、しかし第二の故郷だ。

じゃ、宇宙大学?あそこでの何年かは最高に楽しかった。毎日新しい発見があった。タダとも毎日あきれるぐらい多く話した。でも……断じて故郷ではない。

 

 タダはふと目を覚まし、隣のベッドが空なのに気付いて起きあがり上着を羽織って外に出て行った。月明かりに丘の中腹に座っているフロルが見える。

 

「夜中は冷えるな。寒いだろ」タダは上着を脱ぐとフロルを抱き寄せ、2人の背中に上着をかけた。フロルの目に涙が浮かんだ。

「タダ、ごめん」

「なんだよ?」

「あの離れ。うちには立派な客用寝室が4つもあるのに。それから今日夕飯を食べたあの部屋。本当は子供や召使い用の食堂なんだ」

 フロルの家は大家族で、食堂も2つある。メインの大食堂は一家の主とその妻達や成人した子供達が食事を取るところで、装飾の施された豪華な部屋だ。もう一つは未分化の子供達が一緒に食事をとる部屋。しかし今日タダ達にあてがわれた部屋は、臨時に使用人達が食事をする部屋だった。また離れは物置小屋を改造したもので、やはり使用人などが本家に部屋がない場合に使用する小屋だった。

 

「なんだ、そんな事、気にしてたのかい?」タダはこともなげに言った。「僕は最初からこの家では歓迎されないとわかっていたよ」

「え?」

「そうだろ?だって君は宇宙大学に合格して性別自己決定権を得た。君のお父さんは君が男性になって卒業して帰ってきたらお嫁さんを何人か世話して、めったにない権利を得た自慢の息子としてあちこち連れ回すつもりだったんだろ?ところが性ホルモンを取りに帰ってきたと思ったら、女性になって、よその星のどこの馬の骨ともわからない男と結婚すると言う。そりゃ歓迎される訳がないさ」タダはくすくすと笑った。

「それに今回訪問することは、お父さんには内緒なんだろ?」

フロルはタダの胸に顔を埋めて泣き出した。タダは優しくフロルの背中をなでた。

 

「夜もきれいだな。本当に野に星ありって感じだ」タダがぽつんと言った。フロルはタダに身を寄せたまま黙ってうなずいた。確かに月明かりのもと白い小さな花がそこかしこに淡く輝き星のように見えた。

 

――暖かい。心も身体も。こうしていると。

フロルはタダの肩に頭を持たせかけて目を閉じた。

――ここが‥‥オレの故郷だ。タダのいるところが。ずっとオレの心のある場所が。

 

 

 

 

 

 

クローン

 

 その日僕とフロルはシベリースのクローン研究所にやってきた。僕たちのクローンができあがったという知らせを受けたからだ。宇宙飛行士、特に惑星開発専門の宇宙飛行士は危険を伴う職業であるため、クローンを持つ権利が与えられる。無論自己負担も大きいが、僕達はクローンを作る事に決めて申請をした。

 

 クローン研究所は僕らの細胞を取り出し培養し、成長促進剤を投与し肉体の年齢を僕らの実年齢に合わせて調整した。約1年かかってそれが完成したので記憶を登録に来るようにと連絡があったのだ。とは言ってもクローンは完成した時点で冷凍睡眠の状態にされ、記憶は研究所のコンピュータに電子信号として保存される。

 僕らはヘッドセットをつけられ、その装置が僕らの記憶を電子信号化していった。一時間ほどかかった。その後スタッフは僕らのクローンの画像を見せてくれた。一面に霜で覆われた僕とフロルそっくりのクローンが2体映っていた。

 

 僕は正直ほっとした。日頃危険な仕事に携わっているが、僕に万一の事があったらクローンが解凍され僕の記憶が注入される。僕のクローンは僕同様、僕の代わりにフロルを愛して助けてくれるだろう。

 横を見るとフロルが黙って複雑な表情でクローンを見つめていた。

「フロル、これでいい。僕に万一の事があったら遠慮なくクローンを再生するんだ」僕は明るい声で言った。しかしフロルはそれを聞いて凍り付いたような表情をみせ、目に涙があふれ出した。

「フロル?」

 

 クローンを再生するかどうかは、優先順位によって決められる。第1は本人の遺言。第2は配偶者の意向だ。記憶を注入した時点でクローンに関して遺言を残して記録するよう言われる。僕はフロルの意向を一番にするようにとの遺言を登録した。

 

「タダ」フロルがゆっくりと口を開いた。

「オレが死んだら、おまえ、オレのクローンを再生する?」

今度は僕が凍り付く番だった。

「せっかく……おまえが苦労して登録してクローンを作ったけど……オレ、クローンを再生するかどうか……わからない」また新たに涙があふれたがフロルは微笑んだ。

「おまえ……変わらないな。いっつも自分の考えで突っ走るんだよ。おまえがオレの事考えてクローンを登録したの、わかるよ。……でも再生するかどうか、本当にわからない。おまえはおまえ1人だよ」

僕は目を閉じた。フロルが死んだら僕はフロルのクローンを再生するだろうか。

「……ああ、僕も……わからないな」

「……でも」フロルがまた口を開いた。

「まだ考えなくてもいいのかもしれない。そのとき考えればいいんだよ。そして……」フロルは僕をみて微笑んだ。

「今、とっても幸せなんだって気付いた。クローンじゃない本物のおまえが生きていて、オレの横にいてくれて」

「……そうだね」

僕たちはどちらからともなく肩を寄せあい唇を重ねた。

確かに明日はどうなるかわからない。だからと言って地上で安穏と暮らすのもいやだ。でも……。

「ねえ、今日一緒に生きてるって奇跡だよ」フロルがぽつんと言う。

「……うん」

明日の事は明日考えよう。今日は今日という日を大切にして精一杯生きよう。今日は2人が一緒にいられて幸せなのだから。

僕はフロルの肩を抱いた。

「さあ、今日はこれで帰ろうか」

「うん」

 

 

 

 

相 談

 

 

 

 

「あの子達、何か相談事があるみたい」

夕食の後、フロルが僕に言った。子供達は今日が学期の終わりで、明日からは夏休みだ。今日僕たちは学校の寮に子供たちを迎えに行き、久しぶりに家族揃ってちょっと豪華な夕食をとったところだ。

自分の部屋でパソコンでデータをまとめていると、ノックの音がした。

「お入り」と声をかけると2人の子供達が入ってきて、僕の両側に1人ずつ座った。

「ねえ、パパ、今日こんなのもらったよ」

見ると性自認チェックの結果だ。

――なるほどね。

学校では2年に一度、学期休みの前に性自認チェックを子供達に施す。心と身体の性が異なる子供や他の問題を抱える子を早めに見つけ出してカウンセリングをして必要なら長期休みの間に治療や手術をする。新学期に性別が変わる生徒がいる事はそんなに珍しい事ではなかった。

プリントを見ると、2人とも意識は男性女性まだどちらとも言えない、とある。僕たちの子供は2人とも両性種なのだから当然だ。

「どちらとも言えない、ってあるけど、君たちはまだ未分化なんだから当然だよ。気にすることはないよ」

もちろん学校には子供達の事は入学時にきちんと説明してある。

「……でも」

「問題があったら、僕かフロルが学校に呼ばれるはずだけど、僕たちは呼ばれてないよ。……君たちは両性種でこの星では珍しい存在で、今行ってる学校で両性種は君たちだけだ。だけどフロルの星ではそれが当たり前なんだ。まわりと違っていても問題はないよ」

「でも、他の子はどっちかはっきりしてるのに」

「そりゃ、他の子たちは生まれた時から男か女か決まってるからね。たまに心と体が一致しなくて手術して変える子もいるけど」

「ねえ、決まってなくて大丈夫なの?いつか、ちゃんとわかるの?」

「わかるよ。その時期はまだ先だ。あわてなくて大丈夫だよ」

「パパ、決めた!僕は男になるよ!」

――おや、この子は去年は「私は女になる」って言ってなかったっけ?

「ママは好きな人に会ってから決めても大丈夫だって言ってた。ママはパパに会って女性になるって決めたんでしょ?」

「…そう」

「ふーん」

「大丈夫。いつかその時が来たら、ちゃんとわかるから」

「本当?」

「フロルにも聞いてごらん。落ち着いて自分を見ていれば、いつかちゃんと自分の性別が決まって、一生変わらないってわかる時がくるから」

「じゃ、まだ決めなくていいの?」

「いいとも。その時が来たら自分でわかるはずだよ」

「ねえ、パパ、また相談に乗ってくれる?」

「もちろんだよ。いつでも、いくらでも」

「よかった!パパに話してほっとした」

「さて」と僕は続けた。「ところで明日の準備はできてるのかい?明日からキャンプだよ」

「そうだった!キャンプだった!」

2人はわあっと言って僕の腕にしがみついた。

「しっかり寝ておくんだよ」

「はい、パパ!お休みのキスして!」

僕は1人ずつキスをした。

「パパ、おやすみなさい!」

2人は口々に言うとあっという間に部屋を出て行った。

 子供達が学校がある間は、僕とフロルは宇宙船に乗って仕事をしている。フリーの宇宙船パイロットをしている一番のメリットは仕事のスケジュールを自分で決められる事で、僕たちは子供達の長期休暇は必ず家に戻って子供達と過ごすことにしてきた。だから日頃は全寮制の学校で過ごしている子供達にとって夏休みは学校がないだけでなく、両親と過ごせる時間で、二重の意味で楽しみにしている期間なのだ。

――さて、今年も一番楽しい一ヶ月が始まるんだな。

今年の夏は子供達と一緒に何を見てどんな事をして何を話すんだろう。夏休みは僕たちにとってもわくわくする時間なのだ。

 

 

 

 

 

 




今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
この先の構想はあるにはあるのですが、まだ下書きすら書いていません。
時間のあるときに随時打ち込んでいきたいと思っていますが、まだまだ時間はかかりそうです。

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