統制機構諜報部のハザマさん   作:作者さん

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すてーじ3

 こんにちは、統制機構以下略のハザマです。今回は任務のためにイカルガへやって来ました。

 イカルガでの戦争は終わりかけていて、来るまでには捕虜の兵士も大分疲労しています。相手連邦の代表者は降伏しようとしてるらしいのですが、統制機構は『え、なにそれ聞こえない』と言って戦争を続行してます。

 あー、いわゆる新しい術式の実験台ですね。戦闘で実際に術式を使えるのなら、それほど有意義な実験は無いでしょう。兵士は溜まった物ではありませんが。

 まあそれはさておき。な、なんとですよ? 今回任務成功の暁に大尉へと昇格させて貰えるんですよ!

 大尉、それは私有権限の上昇。大尉、それは新任部下の配置。大尉、それは私がレッツ書類ワーキングと友人作りの大一歩!

 つ・ま・り、来た! 私の時代来ました! これで部下が貰える! 仕事仲間が増える!……そう思っていた時期が私にもありました。あれ? なんでしょうこのデジャヴュ。

 命令 テンジョウの身柄の確保。

 いやいやいやいや、ああ久しぶりにテルミさん抜きに言いたいことが有ります。せーの、上の方々馬っっ鹿じゃないですかぁああああ!?

 諜報員一人で戦争の主犯扱いの人を捕まえられるなら戦争なんて起こりませんから!瀕死体のイカルガなんてどうせ、諜報員何人か飛ばしとけば確保できるんじゃねーの? とか上の人達絶対そんなノリですよ! いつの時代のカミカゼですかもう!というか帝もこんな命令にサインしないで下さい!

 『この辺の書類にサインしておいてくださいねー』『ん』みたいなノリで書かれませんよねこれ。忍者(本職)の里の城に簡単に入れたらこちらと苦労しませんから!

 と、内面では興奮していた私ですが、なんでも新しいタイプの隠密の術式が含まれた魔導具が完成したらしく、私はその適性があったらしいのですね。

 つまりその隠密の魔導具を使うことで、簡単に侵入する事が可能になった、というわけです。

おお、素晴らしい。意外と下の人に対しての考えがあったんですか。

 

「いや、ない…ですね。あったな、ら人にこんなこ、と、やらせません」

 

 こんなこと、……現在私、ナイフとワイヤーだけで城壁ロッククライミングに挑戦中です。

 私の武器は基本ナイフの投合とワイヤーを使った暗殺なんかの戦い方がメインなんです。ちょっとワイヤーに術式をかけて、これまたナイフに術式をかけて壁に投合し、ワイヤーの伸縮を使って高速移動したり高いところに登れたりするんですよ。

 気分はピーター・パン、実態はターザンのそれは、実に便利なんですよね。

 ……今回のように術式を使いすぎれば隠密効果が無くなって、射られた矢で針ネズミにされるような状況じゃなければ。

 

「いい、加減……笑えないん……ですけど」

 

 ええ、この魔導具、マントの形状をしているのですが、やけに重いんです。多分30キロぐらいですか。某猫耳ロボットの透明マントを想像していただければわかります。あんなふわふわしていませんが。何の材質なのでしょうかこのマント。首が攣りそうです。

 おまけに命令で、試作品だから壊すなって貴方……

 水の張った外堀でマジで溺死しかけたのは良い思い出です……というか大部分の体力はそれで削られました。だというのにあと登る城壁は60メートルもあるのですが。憂鬱になります。

 テルミさーん交替してくださいよー。私知ってるんですよ? 貴方が移動とか面倒くさいから私にいつもこうやって任せてるの。変な命令なんかだと私に書類を処理させてるんですし、少しぐらいは面倒なこともしてくださいよー。

 …………反応有りません。しまいには泣きますよマジで。

 周りからの話ですと、テルミさん私と物腰変わらないらしいですけど…絶対性格悪いですね。

 で、命綱は無しのために安全第一で登ること数十分。

 途中罠があって壁を押した際に矢が飛んできたり、水が吹き出たりしたのはビビりました。

 落ちたら死にはしませんが術式が解けて『くせ者ォーっ!』の叫び声と共に針ネズミにされてたかもしれません。

 

「……………」

 

 すみません、何も言う気になれない程疲労が溜まりました。何とか足場が有る場所まで来れた時、四つん這いになって呼吸を整えてました。

 外堀では体力を、ロッククライミングでは筋肉を酷使したせいで、正直動きたくありません。

 魔導具のおかげで隣を走る忍者等には全く気がつかれてませんけど、生きた心地はしませんし……というかこれなら正門から堂々と入ればよかったです。

 罠と格闘する方がよっぽど楽ですよ。先程からこの魔導具を脱ぎたい衝動が溢れています。

 

「……さて、いつまでもこうしてる訳には行きませんか」

 

 呼吸を整え辺りを見渡して私は立ち上がりました。

 ここの領主テンジョウさんは武道の達人らしい、つまり私が敵うかどうかと聞かれれば難しいです。

 それなら降伏をはっきりとさせて油断した瞬間を狙う。もしくは他の人がここまで攻めてきたのを諜報部だと言って確保する。

 ……よし、さっそく行動しましょ……

 

 ………あーあーあーちょっとー。テルミさーん? 今はまずいですってば! というかロッククライミング中に起きてたなら交代してくれればいいじゃないですか……いやそれはいいんですけど…やめて! 貴方命令書読んであるんですか!? 魔導具イカレますから術式やたらめったら使わないでくださいよーっ!

 

…………………

 

 クッ、お勤めご苦労さん。

 こんなクソ重てぇ魔導具背負うとか馬鹿やってんなぁーアイツもよぉ。まあ、穏便にって考えなら間違いじゃねぇから問題ナシなんだが。

 さーてそろそろキサラギ少佐がお出でになる頃だ。そん時の為に保険をかけに行くとしますかねぇ。

 

『!! くせm』ザクッ

 

「ピーピーうっせぇなぁイカルガの連中は」

 

 お、ナイフ喉に当たった50点。

 

『者d』ザクッ『何m』ザクッ『出t』ザクッ

 

 目、額、心臓と突き刺さって合計は450点となりまぁーす。

 っとまあ遊んでばかりいられねぇよなぁ。ほっといたらゴキブリのように湧くコイツらを片付けるだけの力は今は無ぇしな。

 

「んじゃまっ、行かせてもらうぜ」

 

 物質強化、伸縮の術式っと……ナイフを投げて、即席ウロボロスってか?

 

 さーて、領主サマに会いに行きますか!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 太陽がさんさんと降り注ぐその場所に私は居ました。

 喉がカラカラになりながら、砂に足を搦め捕られ歩いています。

 そこは砂漠で暑い日差しが身体を焼き、私は苦しそうにしていました。

 ……と、そこで気がつきました。

 これはれっきとした夢、ただの夢です。

 そうと分かれば起きることは容易く、私は意識を無理矢理押し上げるように目を開けると……

 

「へ、部屋が燃えてるーっ!?」

 

 前回は燃え尽きた後で、今回は現在進行形で火が辺りを燃やしています。

 ……って、命令は!? テンジョウさんは!? 新型試作の魔導具は!? 前も教会燃やしてましたしどんだけ火災が好きなんですかテルミさんは!?

 魔導具については術式を使うとイカれるので、使わないように言って有りますけど今は装着していないようです。

 私は少し辺りを見渡して…

 

「って、魔導具が炭になってるーっ!?」

 

 ちょっとぉおおおおおおおお!? 魔導具壊すなって命令で言われてたじゃないですか! だから命令書を確認しろと言った(思った)んですけど!?

 素材が布じゃないマント型の魔導具ですから火は大丈夫かと思いきや、プテラノトンの手の化石のように外殻だけになって燃え尽きていました。

 …ん? ちょっと待って下さい。今気がついたのですけど、ここは敵陣のど真ん中であって、今まで私が隠れていたのは魔導具のお蔭様だったのですが……

 

ガラッ『居たぞォー!此処だァー!!』

 

 ……ええまあ、反射的に私は足を踏み出して部屋から飛び出てました。

 ダッシュで駆け抜ける私、大地で大量の動物が駆け抜けたように廊下へ響く足音。

 それと同調して響く怒声と私の悲鳴。

 

『アイツだっ! 絶対に逃がすな!』

 

『アイツに仲間はやられたんだ!』

 

『バング様の仇ーっ!』

 

 テルミさぁああああああんんんっ!? だからアンタは何してくれてるんですかもう!?諜報員が率先して人殺してどうするんですか!? 私非戦闘員、非戦闘員ですからー!!

 映画のスパイじゃないんですから、戦いなんて前線の衛士に任せておいてくださいよ! ってそれだけ殺したって事は絶対に術式使いましたよね!?

 減っている昨日磨いたお気に入りのナイフ、何故かこちらに飛んで来る釘、上から落ちて来る釣り天井、おまけに言うなら消える床という名の落とし穴。

 予想外でした。罠に引っ掛かりたく無いからロッククライミングした筈なのに、どうして罠と格闘しながら忍者とレースしているんでしょうか? どうしてこうなった。

 向こう側に見える壁にワイヤー付きナイフを投げ、伸縮の術式で一気に距離を稼ぎワイヤーを切るの繰り返し、なのに忍者はそれの速度について来ます。速く駆け抜けてくるその光景は、獣兵衛様の姿を思い出して薄ら寒いモノがありました。

 ようやく見えた窓から外へと脱出、……出てきたのは地上40m上空。近くに高い松の木が無かったら、もう一度城内へナイフを投げてリターンしなければいけませんでした。いや、よかった。

 帰りの便では下が大洪水しかけている事に気が付きましたが、トイレの中で思ったことは、生きてて良かった、でした。

 ああ、それだけ苦労したのに報告書には失敗の二文字を書かなければいけないと考えると憂鬱といわざるを得ません。

 

 それでも生きているだけマシですね、と。私は帰りがけに自分へのお土産を買って帰りました。

 


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