モスラ+1.0   作:沼の人

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※後半、女性同士の性的描写があります


1969年10月(2)

「これは……素晴らしい、素晴らしいぞ安東君! よくやった」

 友兼(ともかね)常務は、安東が持参した因羽島の写真の数々と、遺跡の遺物である鉱物で作られた土偶にご満悦だった。

「安東君、これは活かせるぞ。私は歴史に明るくないが、これは明らかに大発見だ。君に調査に行かせた私の判断は正しかったわけだな、ハッハッハ」

 友兼は、安東を褒めているのか自画自賛しているのか混同しながらも、とにかく原田歴史研究所と共に調査をした安東を労うように肩を叩いた。安東は恐縮しながら低頭した。

「しかし常務、これをどう活かすおつもりですか?」

「うむ。まずは重機を用意して、もっとこの遺跡を掘り起こそう。もしかしたらより多くの出土品が出るかもしれん。それに何より、この巨大な玉のようなものが気になるな。これを完全に掘り起こしたらどうなるか、君も気にならないかね」

「それは、もちろん……」

「そうだろうそうだろう。もし無事に掘り起こせたら、私はこれを万博に出したいと思う」

「はっ⁉ ば、万博ですか? ですがもう、すでにほとんどのパビリオンは完成してるでしょうし、それに……これはただの、大昔の産物です。最先端技術を披露する万博で、通用するでしょうか」

 安東は友兼の構想に同意しかねた。しかし友兼はまったく意に介さず、持論を展開した。

「いいかね安東君、万国博覧会というのは何も新しいものだけを発表する場所ではないよ。その国がどういう国なのかを紹介する場所でもある。見たまえよ、こんな遺跡はかつて見たことがない。いや仮にあったとしてもだ、ここまで完全な形で錆ひとつ残さずに残っているなんて奇跡じゃないか。いいかね安東君、これは我が国が古くから栄えた歴史を証明する証拠品だよ。ただの遺物ではない。さっそく大阪大学の歴史学者に連絡を取りたまえ。それと報道にも触れ回るんだ、これまで存在が知られていなかった未知の遺跡を発見、とな」

「え、ちょっとお待ちください。それでは原田さんとの契約は」

「むろん解約だ。そもそも金が安く済むと踏んであそこに頼んだに過ぎん。小手調(こてしら)べというやつだよ。今後は大学の権威にあやかって、この遺跡の価値を存分に高める。そしてその上で、この土偶や遺跡の一部を万博に出品する。根回しなら任せたまえよ、君も知っているだろうが私は政界にコネが多い。いいかね、これは命令だよ安東君。すみやかに取り掛かりなさい。健男(たけお)……君のお父さんも、さぞ喜ぶに違いないよ」

 亡き父の名前を出されて、安東は黙った。安東の父と友兼は竹馬の友で、大学も入社した会社も同じだった。それゆえ安東は常務の友兼に目をかけられていた。安東健男は15年前、名古屋で商談中にゴジラ災害に巻き込まれ、一片の骨も残さずにこの世を去った。

「安東君、これは傾いてる我が社を救うきっかけになるやもしれんのだよ。二人で力を合わせて、頑張ろうじゃないか」

 友兼は手を差し伸べてきた。

 安東は、その手を握り返した。腹をくくった。

「わかりました常務、やります。やらせてください」

 安東の返答に、友兼は大黒様のように笑いながら安東の肩を何度も叩いた。

 

「未知の鉱物、ですか?」

 神戸にある原田歴史研究所で、例の遺跡について考察をしていた真矢は原田の言葉を反芻した。

「うん。詳しい知り合いに調べてもらったら、どうもねぇ、該当する金属や鉱物はないらしいわ。まだ未発見のものか、あるいは……」

「宇宙からの飛来物」

 鋭いなぁと思いながら、原田は苦笑した。

「まぁ、あくまで可能性だがね。君も感じてるところやろうけど、あの遺跡はどうも妙だわ。今まで発見された遺跡とは、なんかが違う気がしてならん。この土偶ぐらいか、せいぜい日本の遺跡との関連は」

 原田はそう言いながら、真矢が持ち出した未知の鉱物で出来た土偶を持ってしげしげと見つめた。

「君は以前言ってたね、土偶とは女性偶像の象徴的なものであって、子宝を祈願するものではないかと」

「ええ。日本全国で見つかっている土偶のほとんどは、乳房があって明らかに女性を象っています。乳房のないものもありますが、現状ではかなり女性を象ったものとされるものが多いです。古代人は、子供を宿す女性に対し神秘的な印象を持っていたのではないか。その力を敬おうとしたか、無事な出産を願ったものなのか……というのが私の説です」

「これにも立派なのがついとるもんねぇ……君のと負けんぐらいのが」

 原田は手に持つ土偶の胸部をツンツンと小突いた。

「ぶん殴りますよ?」

「ああ、こりゃ失敬。……話を戻すが、君が見たという、その二人の少女のことも気がかりや。私は見てないが、君が変な嘘を言うような人でないことぐらいは知っとるよ。だから……ますますわからん。そもそもあの遺跡はずっと地中に埋まっていたわけで、その子たちはまず現代人ではないわけや。しかも君が見た限りでは、髪がまっしろで耳が尖ってて白人よりもかなり色白、どうも地球人とは違うのかもしれんね」

「……宇宙人。いや、異星人と言う方が正しいでしょうか」

「まぁねぇ。だとしたら……だとしたらよ? なぜ異星人が日本の遺跡でも見つかってるような土偶を持っていたんか。そこの共通点がどうもわからん。まぁ、あくまでその子たちとこの子が、地球以外から来たと仮定してだけどね」

 〝この子〟と呼んだ土偶を机に置いて、原田は頬杖をついた。

「もう一度、あの遺跡を調査する必要がありますね。それにまだ、あの斜面から露出していた球体の調査もまだまだ出来てませんし」

「そうだねぇ。近いうちに調査出来るよう連絡しないと……」

 そのとき黒電話が鳴り出して、真矢が受話器を手に取った。少し応対して、受話器を原田に渡した。

「噂をすればですね、丸菱の安東さんからです」

 真矢から受話器を受け取った原田は、安東と通話を始めた。

「あ、どうもどうも安東さん、その節はどうも……はっ? ちょっと待っておくんなはれ、何でそんな急に……はぁっ⁉ 何を言うとるんや君は、アホか! あれは考古学的にも貴重なものであって、見世物やないわ! とにかくそういうことって……あっおい!」

 一方的に通話を切られた原田はしばらく受話器を握り締めたまま立ち尽くし、我に返るなり「このアホンダラ!」と叫びながら受話器を乱暴に戻した。

「……どうしたんですか?」

「どうもこうもないわ。丸菱の奴ら、もう契約は解除や言うてきた」

「はぁっ⁉ だ、だってまだ一度しか島に行ってないんですよ? それに、何ですか見世物って?」

「あいつらほんまにアホやわ。日本一のアホや。あの遺跡そっくり掘り返して、あの土偶も一緒に万博に飾る言うてたわ。はぁっ! 日本人もとことん堕ちたわ。何が経済大国や、何にしても金金金、金のことばっか考えくさりやがって。あれがどんなに貴重なもんか、まるで理解してへん。はぁ……」

 原田はうなだれて、沈み込むように椅子に座り込んだ。真矢もまた呆然として、元々蔵に置かれていた茶箱の上に座り込んだ。しばらく沈黙が流れた。

「……研究。研究はもうしないんですか、あの遺跡の」

「それは大阪大学に任せるそうや。君の古巣やなぁ。まったく、だったら最初からそこに頼めばええ話やったんよ。どうせ箔付けしたいだけやろ、大学のブランドっちゅうもんをな。まったくなぁ、せっかく大発見のチャンスやったのに、大学さんにぜーんぶ持ってかれるわ」

「そんな……そんなことさせないっ。特にアイツにだけは!」

 真矢は怒りに燃えて立ち上がったが、原田はまだ気力を取り戻せていなかった。

「そう言ってもなぁ、相手は大学教授やぞぉ? こんなチンケな()まい研究所じゃ勝ち目ないて。もうやめよ、やめや」

 完全にやる気を失くしていた原田は、力なくそう言った。その態度に真矢は幻滅し、唯一の協力者がいなくなったことで一気に力が抜けてしまった。

「……今日は、もう帰ります。あと、その土偶私が預かってもいいですか?」

「ええよ、君が第一発見者なんやしな。僕が持っててもお乳触るだけやもん」

 真矢は奪うように土偶を持ち、自身のショルダーバッグに入れてそのまま研究所を出て行った。

 しばらくして、原田の妻であるミチ子が割烹着姿で入って来た。

「あれ、真矢ちゃんもう帰ったん? せっかくお昼ご飯用意したのに」

「うん……」

「どうしたん、そんな辛気臭い顔して。あっ、なんか真矢ちゃんに変なこと言うたんでしょ。まったくアンタって人は」

「うん……お乳触るだけやもん言うて、出て行った」

「はぁっ⁉」

 そのあと原田が思いきり細君にぶたれたことを、神戸駅に向かっていた真矢は知らない。

 

手塚(てづか)さん」

 会社の廊下で声をかけられた手塚雅美(てづか まさみ)は振り返った。そこには別部署の同期である安東が立っていた。

「はい、何ですか?」

「あの……よかったらこのあと、食事でもどうですか?」

 急な誘いに雅美は当惑した。安東はさらに「ミナミにいい店を知ってるんです」とたたみかけてきた。かなり真剣な目をして。

 逡巡した末、雅美は返答した。

「ごめんなさい、今日はちょっと用があるので……」

「あ、そうですか……そうですよね、急に言われても、ねぇ……困りますもんね。すいませんでした」

「いえ。では、失礼しますね」

 雅美は礼儀正しく一礼して、安東と別れた。

 今日こそは、今日こそは誘える自信があったんだが……安東は落胆した。懇意にしている友兼常務からの特命で、今後はあの遺跡に関するプロジェクトの中核を担うこととなり、これを乗り越えれば出世も夢ではないという期待も持てた。それが彼の片思いを行動に移したが、結果は玉砕だった。仕事と恋愛は違うなと再認識して、彼はとぼとぼと職場に戻った。

 夕方、退勤時間になって安東は土佐堀川沿いにある会社ビルを出て、家路につこうとした。

「おい」

 無為に前を向いて歩いていたため、最初はその声をかけてきた主が誰か気づかなかった。そして誰かを確認する前に、安東は路地裏に引きずり込まれた。

「痛い痛い痛いっ、ったく何なんですか……あっ」

 やっと手を放されて前を見ると、見覚えのあるベージュ色の作業着姿の女がそこに立っていた。

「何なんですかはこっちの台詞(せりふ)よ。どういうつもり? あの遺跡を万博に出すなんて、馬鹿げてるわ」

「……そ、それは僕ではなくて、常務が決めたことですから」

「そんなの私には関係ない。アンタも一味なのは一緒でしょ」

「一味ってそんな、まるで悪い人みたいに……」

「へぇ~、じゃあ善人だとでも言いたいの? 今まで未発見だった貴重な遺跡を無理やり掘り返して、挙句に万博で晒しものにして一儲け? へぇ、それが善人のすることなのね。それは知らなかったわ、教えてくれてありがとうっ!」

 そして間髪入れず、真矢は安東の顔面に拳を打ち込んだ。大学の部活で少しだけボクシングをかじった経験が今になってモノを言わせた。安東は呻きながらその場に崩れ落ちた。

「ちょ……待って、やめてください。僕だって最初は懐疑的でしたけど、あれは我が国が誇る貴重な文化財ですよ。それに万博は、何も目新しいものを披露するだけの場所じゃありません。その国がどういう歴史を持つ国なのかを証明する機会でもあるんです。だからこそ、あの遺跡を展示することは、日本という国が悠久の歴史を誇る国であることを世界に……」

 真矢は安東の胸ぐらを掴んでお題目を黙らせた。

「バーカ。あの遺跡はねぇ、地球の外から来た可能性があるのよ。あの遺跡から採取した鉱物を分析したら、まだ未発見の物質だということがわかったのよ。それにあの女の子たち……あんな地中に埋まった空間で生き延びられる生物なんていない。ミミズやモグラならまだしもね。けどアレはハッキリとヒトの姿をしてたわ。地球外から来たなら納得できる、何せ何もわかってないんだから。何が起こったとしても不思議じゃない」

「そ、それはあなたの妄想でしょう……原田さんだって、遺跡の中には誰もいないって言ってたし……あなたの幻覚ですよ」

 そう言われた真矢は(しゃく)(さわ)り、もういちど鉄拳をお見舞いした。安東は口を切って出血した。

「いい? 私は見たのよ、この目でちゃんと。もういちど幻覚だ妄想だって言ってごらんなさい、目が見えなくなるぐらいボコボコにするわよ?」

 安東はもう降参とばかりに首を横に振った。目には涙が溜まっていた。

「ところで、あの土偶はどこ? 会社にあるの?」

「い、いえ……今日の午後、大阪大学の深澤(ふかざわ)教授に渡しました……あの方は、考古学の権威ですから」

 その名前を聞いてさらに虫唾(むしず)が走り、もういちど安東を殴ろうとしたが、やめた。この(こぶし)はいずれ深澤に取っておくことにした。

「いいこと、とにかく万博に出品なんて馬鹿げたことはやめなさい。あれは見世物なんかじゃない、もっと専門的に研究する必要があるのよ。まったく、この金の亡者(もうじゃ)がっ」

 そう言って安東を突き飛ばし、真矢はその場を去って行った。一人残された安東は、しばらく痛みに悶えながらその場に倒れ込んでいた。

 

 その様子を、姿なき者たちが見ていた。

(痛そうね)

(うん、とても)

(可哀想に)

(うん、可哀想。でもしょうがないわ)

(そうね、この男は悪い奴だから)

(あの人、追いかける?)

(そうね、アレを持ってるし)

(行こう)

 

 阪神野田駅から歩いて10分の所にある二階建てアパート円谷荘(つぶらやそう)

 そこの一階一室が真矢の住まいだった。風呂はなく玄関は共有、台所とトイレが個室それぞれにあるだけ上等だった。近所には銭湯があるので不便はない。共有玄関でブーツを脱ぎ、自分用の下駄箱に置こうとした時、その上に見覚えのある黒いパンプスがちょこんと置かれていたことに気づいた。廊下を歩いて角部屋である自室に入ると、台所で手塚雅美が野菜を切っている最中だった。

「あ、お帰り真矢ちゃん」

「何よ、来るなんて聞いてなかった」

「うん、言ってなかった。ビックリさせようと思って」

 雅美の人懐っこい笑顔を見て、真矢は心がほぐれた。つい今しがた人を殴ってきたことなど忘れてしまった。

「近くの八百屋さんで白菜が安かったから、豚肉とお醤油で美味しいの作るからね」

「助かるわ、ありがとう。今日はもう手が痛いから包丁も持てないわ私」

「えっ、どうしたの? ケガ?」

「違う違う、軽くぶつけただけよ。大したことないわ」

 心配する雅美をよそに、真矢は後ろから抱きついた。耳を甘噛みすると、雅美は色っぽい声を漏らした。

「ちょっと待って、包丁持ってるし……それは、後でね」

「それが目的で来たんでしょ、どうせ」

「ま、真矢ちゃんに言われたくないわ。真矢ちゃんだって私の家に急に来て、必ずする(・・)じゃない」

「うん、性欲がものすごく溜まってたから」

 雅美は呆れた顔をしたが、とはいえ自分もまた、真矢と同じ目的で押しかけに来たのは事実だった。二人の関係は、もうかれこれ十年になる。

 

 大阪大学考古学部教授の深澤は、丸菱観光株式会社から預かった土偶をずっと見つめていた。古今東西あらゆる古代遺跡の遺物を見てきたが、このようにまばゆい輝きを持つものはそうはなかった。しかも成分を調査した結果、この土偶を構成する鉱物は地球上に存在しない可能性が出て来ている。一体どういう由来の土偶なのか、深澤は頭を悩ませた。そもそも土製ではないため、呼称も鉄偶(てつぐう)と仮称する必要もある。明日には因羽島に行って、この鉄偶が見つかった遺跡を実際に調べるが、島にはさらに謎の巨大な球体があるという。その写真も見せられたが、深澤には何とも返答のしようがなかった。

「教授、先に帰らさせていただきます」

 助手の中條(ちゅうじょう)が声をかけたが、深澤は返事をしなかった。中條は、黙って頭を下げて研究室を辞した。深澤の頭の中は、この鉄偶と因羽島の遺跡のことでいっぱいだった。一度何かに熱中するとまわりが見えなくなる、それは深澤の癖だった。そのことにしか熱中しなくなるため、ある意味では研究者向けの癖とも言えた。一方で興味のないことにはとことん無頓着で、大阪万博の開催日、隣人の名前、今日の朝に何を食べたかさえ記憶にない。その反面、興味のある分野の知識量は半端ではなく、だからこそ彼は日本考古学界において一定の名声を得ていた。

 その深澤をしても、この謎の遺物に関しては、何も推論が立てられずにいた。

「……お前さんは、どこから来たんだ?」

 物言わぬ鉄偶に向けて、深澤は呟いた。

 

「んっ……あっ……」

 真矢に乳房を吸われて、雅美は甘い吐息を漏らしていた。真矢の手は、雅美の下腹部に触れていた。

「ぐちょぐちょ」

 真矢は雅美の耳元で意地悪くそう(ささや)いた。雅美は体を震わせながら笑みを浮かべた。

「真矢ちゃんだって、そうでしょ?」

「どうかしら。試してみたら?」

「じゃあ、今度は私の番」

 攻守交代と言わんばかりに雅美は真矢を押し倒し、二人はまず濃厚な口づけを交わし、お互いの胸を(こす)り合わせた。そして雅美の下腹部に左手を差し向け、右手で真矢の左手と指を絡めた。

「ほら、真矢ちゃんだって濡れてる」

「んぁ……そ、そりゃそうなるでしょ…」

「強がりさんなのは昔から変わらないわね。もっと良い声を聞かせて」

 指が入ると、真矢は全身がぞくっとして、息遣いが荒くなり始めた。

 二人は同じ女子高校で出逢い、十七の時から性の壁を超えた感情が芽生えるようになって、その年の夏休みに初めてキスをした。大学も同じ大阪大学に進み、学部は違えど同棲を始めて、その行為はさらにエスカレートした。今しているコト(・・)のように。

「……真矢ちゃんは、万博来る? 来てくれるよね、私のこと見たいでしょ」

 雅美は、来年三月に開催される万国博覧会のパビリオンガールとして出向することが決まっている。丸菱観光が万博協賛企業のひとつだったからだ。

「……わかんない」

「来てよ、すごくオシャレな制服なんだから。コシノジュンコっていうデザイナーさんが考えたやつ」

「ふーん……」

「……来てくれないなら、こうしちゃう」

 雅美は体を起こして、自分と真矢の陰部同士を擦り合わせ始めた。真矢は我慢できず、喘ぎ声を連発した。

「来る? ねぇ来るでしょ? 来てよ真矢ちゃん」

「……か、考えとくわ」

 真矢はぞくぞくと感じる快感に悶えながらも体を起こし、自分からも腰を動かし始めた。今度は雅美が攻められて、喘ぎ声をあげた。

「さぁどっちが先に音を上げるかしら」

「……真矢ちゃんの方」

 雅美は不敵な笑みを浮かべながら、片手を真矢の乳房にあてがってまさぐり始めた。真矢も負けじとやり返し、二人は無我夢中でコトに励んだ。

 

 その様子を、窓の外から見ている者がいた。

(……あれは何? 何をしているの?)

(わからない。オスとメスがやることに似てるけど)

(不思議)

(うん、不思議)

 

 コトが終わった二人は、裸のまま掛布団をかけてお互いを抱き締め合っていた。

「……結局、一緒だったね、イったの」

「いつもそうじゃない。それに毎回何度もヤるんだから、どっちに白星が多いとかもう覚えてないわよ」

「そだね……はぁ、女同士で結婚できたらいいのに」

「無理に決まってるわよそんなの、アメリカじゃあるまいし」

 アメリカは現在、同性婚の法的整備に向けて動いているという。もし成立すれば世界初の事となり、追随する国家が出てくるかもしれないが、日本はおそらく、難しいだろうと真矢は感じている。結婚とは男女でするものだという固定観念が根強いし、子孫をどうやって残すのかという民族的な問題もある。アメリカでもその点はかなり議論の的となっており、また宗教観念からも問題視する動きが盛んであり、本当に成立するかどうかはまだ不透明だった。

「もしアメリカで可能になるんだったら、一緒に行こうよ、アメリカに」

「仕事はどうすんのよ」

「そんなのいいもん。ウチの会社、最近業績悪いし。それに英語なら少し話せるもん。アメリカにだって、古代遺跡はあるでしょ?」

「そうだけど……私は日本の遺跡が好きなの。出土品が独創的で、当時の人のことを想うと、どんな気持ちでこの土器を作ったんだろうかとか想像するのが好きなの」

「私よりも?」

 雅美にそう問われた真矢は、その口を強引に唇でふさいだ。

「遺跡はどこにでもあるけど、雅美は一人だけじゃない。私の雅美は」

 その返答に満足した雅美は、嬉しそうに笑った。

「最近はどんな遺跡を調査したの?」

 雅美の問いかけに、真矢は少し逡巡しつつも正直に答えた。

「……因羽島」

「え、ウチの会社が持ってる島? ああ、何か変なのが見つかったっていうのは聞いてたけど、遺跡だったの?」

「うん……これを見て」

 真矢は腕を伸ばして、部屋の隅に放っていたショルダーバッグを掴み、そこに入れていた金属製の土偶を雅美に見せた。

「うわぁ……すごい、何これ?」

「未知の鉱物で出来た土偶。まぁ鉄偶と呼ぶべきなんだろうけどね」

「すごい。こんなのがあの島にあったんだ……」

「あなたの会社は、その遺跡をもっと掘り返して、遺跡ごと万博に飾るそうよ」

「えっ⁉ そうなの? 知らなかった……」

「多分そのことを知ってるのは、まだ一部の人だけよ。そのうち、報道とかも読んで大々的なニュースにするつもりよ。そうなれば会社の株もちょっとは上がるんじゃない?」

「……その調査とかに、真矢ちゃんも関わるの?」

「いいえ、いちど丸菱に頼まれて島に行って、それっきりよ。大学の研究者に任せるんだってさ。まぁその方が社会の印象も良いわよね、神戸のチンケな研究所より」

「……真矢ちゃん」

 雅美は、真矢の目に悲愴感が宿っていることに気づいた。

「……もういいのよ。どう抗っても、国立大相手じゃ太刀打ち出来ないことぐらいわかってる。でも私は、自分なりに研究を続けるわ。でないと気が済まない。それに……」

 真矢の脳裏に、あの楕円形の棺から起き上がってきた二人の少女の姿が思い起こされた。あの謎は、この鉄偶よりも深い。彼女たちは、一体何者だったのだろうか……。

「それに?」

 言葉を濁したままの真矢に、雅美が怪訝な顔をした。真矢は「ううん、何でもない」とはぐらかして、もう一戦を提案した。雅美は笑顔で頷き、二人は掛布団をはいで、またコトを始めた。

 

(あった)

(うん、やっぱりあった)

(どうする? アレは違うやつ)

(そうね。まぁ、まだ目覚めないから、いいわ)

(そうだね)

(行こう。またあの二人、変なこと始めたから)

 窓の外から真矢と雅美の様子を(うかが)っていた者たちは、静かにその場を去った。

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