モスラ+1.0   作:沼の人

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※後半、女性同士の性描写があります


1969年12月

 1969年12月

 

「じゃっじゃーん! どう? 似合うー?」

 敷島明子(しきしま あきこ)は水色の長袖ミニワンピースを着て、ツバがターコイズブルーの白い帽子をかぶり、畳の上では履けない白いブーツの代わりに白ハイソックスを穿いた姿を、敷島家の居間で披露した。

「うぉー! すっごい似合ってるぞ明ちゃんよぉ! こりゃあパビリオンガールに受かって当然だなぁ、なぁ敷島!」

 歓声をあげた秋津淸治(あきつ せいじ)は、家主である敷島浩一(しきしま こういち)にそう言った。

「ええ。とても似合ってるよ、明子」

「いやぁ素敵ですねぇ、よかったら一枚いいかな?」

 野田が愛用するカメラを構えると、明子はモデルのようにポーズを取りながらレンズの被写体に収まった。

「本当に似合ってるわね明子、素敵よ」

 母親の典子(のりこ)も、娘の晴れ姿に笑みがこぼれていた。

「うふふ、ありがとうお母さん。……あーあ、水島さんにも見てほしかったのになぁ」

「あらダメだよぉ明ちゃん、あの海兵さんはもう所帯持ちなんだから。変な気起こしちゃダメだよ」

 敷島家の隣に住む太田澄子(おおた すみこ)がたしなめるように言うと、明子は「そんなんじゃないもーん」とすねた。水島は五年ほど前に妻帯し、子供もいる。今は広島県の呉地方隊に所属し、若き水兵たちの指導を行っている。

「これでもう男やもめは、学者だけってわけだなぁ」

「あー、絶対言うと思った。長さん人が悪いから」

「うるせぇ。ていうかよぉ、オマエ本当にこのまま独身でいる気かぁ? いいぞぉ女房がいるってのはよぉ。なぁ敷島」

「そりゃもう……ね?」

 敷島は野田に申し訳ない気持ちになってしまい、思わず典子に助けを求めた。典子も気恥ずかしそうに「う、うん」と微笑して頷いた。

「僕はいいんですよ、一生を研究に捧げます。僕は巨生研(きょせいけん)という研究所と結婚してるんですよ」

「はぁ、なんだそりゃ? ただの負け惜しみじゃねぇか。ゴジラの死骸と結婚すんのかオマエ」

「ゴジラの細胞は、まだまだ謎が多いんです。染色体にしても、既存の生物のものとはまるで違う。そもそも奴の原型は太古から生き延びた恐竜です。恐竜の遺伝子自体が残ってないんですから、調べようがないんです。それにゴジラは核実験の影響で驚異的な進化を遂げたわけですから、全容解明にはまだまだ時間が……」

「はーいはいはい! もうゴジラの話はおしまい! 今日は私の制服お披露目会なんだからね、野田のおじさん」

 野田の発言を明子は手を叩きながら止めさせた。野田は苦笑しながら「いや、申し訳ない」と後頭部を掻きながら釈明した。ゴジラの事となると、つい熱くなってしまう。我ながら悪癖だと感じていた。

「そういやぁ、明ちゃん就職先決まったんだって?」

 秋津が話題を明るくしようと話を振った。明子は笑顔で頷いた。

「大学の病院だけどね、もう内定はもらったの。万博が終わったら大学院辞めて、すぐに働き始める予定なの」

「よかったよぉ本当に。ねぇ典子さん」

 澄子が声をかけると、典子も同意して頷いた。

「あとは良い男と出会うだけってわけだなぁ、俺みたいな」

「それを自分で言いますか普通。だいたい長さんは晩婚もいいところでしょうに」

「うるせぇやもめのくせに。お前も早くしないと、一人でくたばっちまうぞ」

「だからぁ、僕はもうそういうのはいいんですって」

「野田のおじさんって、よく小澤総理と会ってるんだよね?」

 明子の問いかけに、野田は素直に「ええ、まぁ」と応じた。

「どうなの? ねぇねぇ」

「ど、どうって?」

「え? ……えぇっ⁉ お前、まさか首相と出来てんのかぁ?」

 一同の顔が野田に向けられた。野田は狼狽した。

「そそそ、そんなわけないでしょうが! 何を言ってるんですか!」

「えー、何か怪しいー。もう長いお付き合いなんでしょー?」

 明子が意地悪な口調で言ってきた。誰に似たのか……それは育ての親的な存在でもある澄子に違いなかった。

「あれまぁ、これはとんだ大スキャンダルねぇ。そこんところどうなのさ、野田さん」

「だから、違いますって。そんなわけがないでしょう」

「でもお似合いだと思うけどなぁ。小澤総理って頼り甲斐があって、ほら、あの人に似てるじゃん。ジェニーさんに」

 今はホノルルで、同性相手とひとつ屋根の下に住んでいるジェニー……ジェニス・クロフォードのことを思い浮かべて、野田は何とも言えない気分になった。

「本当ねぇ、あの人が同性愛者じゃなかったら、今頃はアンタのお嫁さんになってくれたかもしれないのにねぇ」

 澄子が追い打ちをかけるように言ってきたので、野田はますます言葉に窮した。15年前、横浜の埠頭でジェニスに告白をしようとしたことは、この場にいる全員がよく覚えていた。そしてその直前に、大戸島出身の女性である山本加代(やまもと かよ)が現れて、ジェニスと加代は熱い口づけをし、野田の中ですべてが崩れ去った。

「……決めました。僕は結婚なんていたしません。ここに誓います」

「何の誓いだよ。まぁいいけどよぉ、お前の人生なんだしな」

「いや、だから散々そう言ってるでしょう。皆さんが勝手にあることないこと言うもんだから……敷さんだけだよ味方なのは、あと典子さん」

「そうですよ。野田さんは野田さんの人生を歩めばいいんですから」

 敷島の慰めに、野田は心底感謝した。

「……まぁいいや。とにかくみんな万博に来てよね。私も頑張るんだから、日本のためにね」

「おー、かっこいいぞぉ明ちゃん。さすがゴジラを二度も倒した男の娘だ」

 秋津が言った〝ゴジラを二度倒した男〟は、敷島の異名だった。オペレーション・デストロイ後、敷島は海神作戦後の時のように大々的に報道され、さらに国から勲章も授与されたことで、その名声は確固たるものとなった。だがそれで彼の生活が一変するようなことはなく、今なお中学校の教員として真面目に勤めている。せいぜい教頭に昇進したことぐらいしか、彼には特別な変化はなかった。

「必ず行くよ明子、約束だからな」

 父の言葉を聞いて、明子はとても嬉しそうに笑った。敷島は妻に顔を向けると、典子もまた同意するように微笑んで頷いた。

 

 *

 

「……()んねぇ、あの子たちは」

 原田は机に頬杖をつきながら呟いた。あれからというものの、あの謎の少女たちは原田と真矢の前に姿を見せていない。因羽島の遺跡の謎を紐解く突破口は彼女たちしかいないというのに。

「まぁ、仕方ありませんよ。こちらから見つけることは無理ですよ、体を透明にさせられては」

「うん……一体全体どういう仕組みになっとるんだか。大学の方はどうだい、君のスパイから新しい情報はあったかい?」

「いえ、特には。遺跡の表面に刻まれた模様や絵に関することばかりです」

「うーん、万事休すか。はてさてどうしたもんかぁ……」

 原田は腕を組んで目をつぶった。

「……所長、今日はもう帰ってもいいですか? ちょっと用事がありまして」

「うん、構へんよ。何だい、コレかい?」

 原田は右手の小指を立てて見せると、真矢はクスっと笑いながら頷いた。

「ハハハ、ああ行きなさい行きなさい。こんな(よわい)六十過ぎのおっさんといるより、恋人と一緒にいた方が良いに決まっとるわ。いつか紹介してくれたまえよ、仲人くらい引き受けるわ」

 真矢は微笑して頷いて、原田歴史研究所を辞した。

 原田には、雅美のことは話していない。というより、誰にも言っていない。同性愛への偏見は、世間的に根深いからだ。

 神戸駅に着くと、駅前の喫茶店でサンタの格好をしたウェイトレスが給仕をしているのが目についた。明日はクリスマスイブ、そして明後日がクリスマス、そして今日は天皇誕生日の祝日だった。だからだろう、平日の火曜日にも関わらず、神戸駅前には子連れやアベックの姿がいつもより多かった。

 

 祝日だろうと何だろうと、国防を(つかさど)る自衛隊に休日はない。

 呉地方隊所属の護衛艦『まきなみ』乗組員の立花泰三(たちばな たいぞう)もまた、来月上旬の洋上演習に備え、艦内で寝泊まりをしていた。

 提出する書類を携え、彼は船務長室のドアをノックした。「おーう」という間延びした返事のあと、「立花一曹、入りますっ」と気合の入った声で言ってドアを開けた。

「おう、立花か。どうした」

 副長兼船務長の水島四郎(みずしま しろう)二等海佐は、温顔で部下の立花を迎えた。

「本日の日誌を提出に参りました」

「おおそうか、それはご苦労」

 水島は立花から渡された日誌に目を通し始めた。その間、立花は水島のデスクに飾られた数々の写真に目がいった。家族の集合写真のようなものもあれば、若い頃の水島が少女と写ったものもあり、さらに女性一人が写ったものもあった。綺麗な、女性だった。

「何だ、気になるか」

 水島は写真を見つめていた立花に気づき、声をかけた。立花は慌てて「申し訳ございません」と頭を下げた。

「別にいいよ。まぁ、そうだよなぁ。家族写真を飾っておくのが普通なのに、ほぼ全員他人だからなこれは」

「そうなのですか?」

「これ何かはほら、お前も知ってるだろ。ゴジラを倒した男、敷島が写ってる」

 手渡された写真立てには、家族のような集合写真が収められている。確かに前列のところに、あの〝ゴジラを二度倒した男〟として有名な敷島浩一の姿があった。水島はその後列に立っていた。

「15年前に撮ったやつだ。オペレーション・デストロイの前にな」

「そうだったんですね……あの、そちらの女性は」

「ん? ああ、これか。これはなぁ……俺の大事な妹みたいな子だよ。名前は敷島明子、敷島の娘だ」

 立花が持っていた写真と取り替えるように渡されたその写真には、大学生くらいの若い女性が写っていた。袖のないミニワンピースを着ていて、とても愛らしい微笑を浮かべていた。立花は思った、やっぱり綺麗な人だなぁと。

「何だ、興味あるか? 何なら紹介してやってもいいぞ」

「えっ⁉ あ、いやその、自分はそういうつもりでは……」

「ははは、狼狽してるのは好きな証拠だな貴様。まぁ機会を見て会わせてやるよ。そうだ、おまえ来年の三月、有給取って万博行ってこいよ。明ちゃん、パビリオンガールなんだよ」

「そ、そうなんですか……はぁ」

「たしか、リコー館の担当だったな。いいか忘れるなよ、リコー館の敷島明子だ。水島の部下だって言えばすぐに分かるさ。これは命令だぞ、立花一曹」

 命令と言われて、立花は反射的に敬礼をした。水島も笑顔で敬礼を返した。

「お前は純粋で真面目だからな、きっと明ちゃんも惚れるさ。はっはっは」

 海神作戦、そしてオペレーション・デストロイにも参加した経歴の持ち主である水島は、部下の立花をそう激励した。立花は苦笑するばかりだったが、やはり心の中で、敷島明子という女性に強く興味を抱いていたことを実感していた。叶うなら、会ってみたい、話してみたい、と。

 

「じゃーん! どうかな真矢ちゃん」

 木津川沿いにあるアパートの一室で雅美が披露したのは、何とも奇抜な服だった。

 赤色のタートルネックミニワンピースに、白と黒のコントラストが映えるビニール製のベストを着ている。足には本来黒いブーツを履くが、家の中でそれは出来ないので黒ハイソックスで代用していた。

「あら、すごく良いじゃない。よく似合ってる」

「でしょー? 何かこう未来的だよねー。ペプシ館担当になって本当ラッキーだった」

 すると真矢は体を密着させてきて、口づけをしながらその手を雅美の臀部に向け、スカートをめくり上げて引き締まった雅美の尻を揉んだ。

「……服が汚れるといけないから、脱ぐね」

「じゃあ私が脱がせてあげるわよ。その方が興奮するでしょ?」

 そう言って真矢はパビリオンの制服を脱がしにかかり、雅美を下着姿に変えた。

「じゃあ、真矢ちゃんの服も脱がせてあげる……」

 雅美もまた真矢と同じことをして、二人は上下の肌着と靴下のみ身につけた姿になって、そのまま布団の敷かれた部屋へと向かった。

 

 真矢と雅美がコトに励んでいる時、大阪大学の研究室にいた中條は研究レポートをまとめるために一人で励んでいた。

 例の遺跡については実際のところ、ほとんど何も分かっていない。金属の種類は依然として不明のままで、海外の研究機関にもサンプルを送ったが、結果は「unknown(不明)」と(むな)しい回答が来た。遺跡に刻まれた文様や絵に関しては、既存の文明との類似点もあれば、理解不能なものもあった。それはやはり、蝶やカマキリといった虫の絵だ。しかもそれは、ヒトよりもかなり大きく描かれており、まるでそう、巨大生物のような……。

「何なんだろうなぁ、一体あれは」

 独り言ちた中條は、コーヒーを淹れたくなって研究室の隅にある給湯室に向かった。

 ふと、真矢が言っていたことを思い出した。あのドームに存在する棺から、二人の少女が姿を現した、という怪奇現象を。にわかには信じがたいことだが、仮にもし、真矢の言っていたことが真実ならば、これはもうただの遺跡ではない。タイムカプセルに近いものではないか、中條はそう考えていた。だがもちろん、このことは深澤には話していないし、話せない。深澤は超常現象的なものを毛嫌いしているし、何より情報元が藤戸真矢と知れたら、どんな嫌味を言われるか想像に難くない。

 コーヒーの入ったカップを持って、中條は研究室の机に戻った。

 そして、あることに気づいた。ノートがない。さっきまで研究内容を記していたノートが。

「あれ、どこいった?」

 中條は辺りを見回したが、どこにもノートはなかった。おかしい、確かに机の上に置いていたはずだし、研究室には自分しかいない。今日は天皇誕生日の祝日なので、ほとんどの研究員たちは休みを取っていた。深澤は丸菱観光社で話し合いに出かけていて、そのまま直帰する。だからこの部屋には、自分しかいない。なのにノートがない。なぜ?

 その時、部屋のどこからか物音がした。

「誰か、いるんですか?」

 中條は声をかけたが、答える者はいなかった。念のため給湯室にもういちど行ってみたりしたが、やはり誰もいない。中條は少し怯えながら、再び自分の机に戻った。

 そこには、ノートが置かれていた。

 中條はしばらく、その場に呆然と立ち尽くした。訳が分からない。自分は……疲れてるのか? そう思って目をつぶって目頭を指で強く押した。再び目を開けると、机を挟んだ向かい側に二人の人影があって、中條は驚きの声をあげて尻もちをついた。その外見は、真矢から聞いていたそれとまるで酷似していた。

「き、君たち……」

 中條が声をかけた直後、二人の異様な少女はスゥっと透明になって、消えた。

 中條は、しばらく立ち上がれなかった。完全に腰を抜かし、茫然自失として宙を見つめていた。

「……本当に、いた……藤戸君、藤戸君に知らせておかなきゃ」

 中條はゆっくりと立ち上がってから、研究室に設置されている黒電話を使って藤戸の家に電話をかけた。だが出ることはなく、二回試して断念した中條は、静かに受話器を元に戻した。

「……マジかよ」

 研究室にたった一人だけの中條は、そう呟くのがやっとという状態だった。

 

 中條が途方に暮れていた頃、真矢は絶頂に達していた。

「うふふ、可愛い声出すじゃない真矢ちゃん。ほら、もっともっといくよ」

 テンションがかなり(たかぶ)っていた雅美は、押し倒したままの真矢を見下ろしながら、真矢の右足を肩にかけて腰を揺すった。その度に真矢が穿く灰色の靴下がゆらゆらと揺れて、口からは喘ぎが止まらなかった。

「ちょ、ちょっと……んぁっ……」

「はぁ、はぁ…………んはぁっ!」

 雅美もまた絶頂を迎えて、真矢の横に寝転んだ。二人とも全速力で走り抜けた時のように息を荒げていた。

「まったく、アンタってさぁ……しつこい、よね、ヤリ方が」

「ふふ、でも真矢ちゃんだって、嫌がらないじゃない」

「こんなんじゃ、いつまで経ってもお嫁になんかいけないわよ?」

「いいもん、私はずっと真矢ちゃんといる。……それとも、嫌?」

「いや、そういうんじゃなくて……まぁいいわよもう」

 真矢はもう話し合うのが面倒になって、雅美を抱き寄せた。靴下しか身につけていない二人の女は、お互いの体を愛撫しあった。

「あと三ヵ月だね、万博まで。絶対来てよね?」

「うん、行くわ。あの遺跡を間近でまた見たいし」

「え、私に会いに来るんじゃなくて?」

 雅美は露骨に不機嫌な顔をして、真矢の体をまさぐる手の動きを止めた。

「じゃあいい、来なくていいもん」

「悪かったわよ、ごめんね」

 素直に謝った真矢に、雅美はクスっと笑いながら返した。

「仕事も大事だけど、私も大事にしてね。私と真矢ちゃんは二人で一つなんだから」

「何よその映画みたいな台詞。まぁ、悪い気はしないけど」

「ふふ。そうだ、万博終わったら私、別の会社に転職しようと思ってるの。仕事が別に嫌とかじゃないんだけど……同期の人にしつこく言い寄られててさ、面倒くさいの」

「まぁ、雅美は綺麗だもんね」

「ありがと。その人さぁ、会社の常務とすごくつるんでて、何か急に課長に昇進しちゃってんの。ただの平だったのに。この前もさぁ、クリスマスに一緒に夜景の見えるレストランでーとか言われちゃった。もちろん断ったけど、あの人すごくしつこい」

「殴っちゃえばいいじゃない。私ならそれで黙らすわ」

「ボクシングやってたからでしょ、それは。私にはそういうの無理だもん」

「……じゃあ、今度そいつに誘われたら、もう婚約者がいるって言っちゃいなさいよ。そうすればいい加減やめるでしょ、そういうこと」

「えっ? 結婚してくれるの?」

「出来るわけないでしょ、法律で決まってるんだから。でも、その……一緒に暮らすとかは、別に私たちの勝手でしょ?」

 その言葉を聞いた雅美は、満面の笑みを浮かべながら真矢を抱き寄せた。真矢も強く雅美を抱いて、二人は熱い抱擁をいつまでも続けた。

 

 *

 

 年の暮れが迫った或る日の深夜、淡路島付近を震源とする最大震度3の地震が発生した。

 人的被害は発生しなかったが、地盤の(もろ)い因羽島ではまた崖崩れが起きた。それは島最大の標高を誇る大山(おおやま)とは反対の小山(こやま)で起きた。そこでも深澤教授を調査団長とした大阪大学の研究チームが発掘をしていたが、特にめぼしいものは見つからず、発掘作業はすでに終了していた。

 この日の地震によって、その発掘現場を含む一帯が崩れ落ち、傾斜40度近い土の斜面が出現した。

 その斜面に、直径わずか1センチほど、あの遺跡の一部が露出していた。

 大半は土に埋まったままだが、それは確実に土の中で眠っていた。

 そのことを誰も知らないまま、1969年は幕を閉じた。

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