女神の使徒になった概念的TSは色々と目に毒である(異論は認める)   作:葛城

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第10話: ???「シリアスな空気なので黙っておきますね、賢者ですから」

 

 

 

 ……用意してもらった家がまあ、現代基準でも豪邸としてカウントされるレベルだった。

 

 

 正直、思っていたよりも凄まじく格上な家というか、案内された豪邸に、内心ビビった。

 

 彼女が色々と想定していたのは、こう、日当たりが良く庭が有って……家賃が高めな一軒家が立ち並ぶ中の一つ……そんな感じであった。

 

 実際、これまで見て来たこの世界の家々は、彼女が想像していたファンタジーの一軒家っぽい感じが多く、高くとも3,4階建ての建物しかなかった。

 

 だから、彼女が想像していた家は、そんなレベルの家に、庭が付いている……良くも悪くも、その程度の想像でしかなかった。

 

 

 しかし、実際に用意されたのは、だ。

 

 

 言葉を選ばずぶっちゃけるならば、普通にデカい。あと、見た目からして豪奢で金が掛かっていて、豪邸の前には噴水が設置された庭が広がっていた。

 

 

 ……なんだろう、思っていたのと違う。そう、彼女は思った。

 

 

 彼女が想定していた庭は、こう、洗濯物とかが干されている横で、軽作業が出来る……みたいな感じだ。

 

 でも、これは……逆の意味で軽作業が出来ない。

 

 庭は庭だけど、これは庭というより……こう、執事とか庭師とかが手入れをしていて、時期によっては花が咲き誇っているような、そんな感じの庭だった。

 

 今は時期が時期なので、薄らと雪が積もっているだけだが……それでも、通路に当たる部分はしっかり雪かきが成されているあたり、そういう意味でも金が掛かっているのが見て取れる。

 

 ちなみに、まだ豪邸の中に入ってすらいないが、金が掛かっているのは他にもある。

 

 たとえば、敷地をグルリと鉄格子(しかも、返し付き)。そりゃあ、これだけの豪邸なのだから、セキュリティは考えているはずだ。

 

 

 次に、正門(裏門が有るかは知らない)傍には守衛室があって、守衛が居る。

 

 まあ、守衛とは言っても、お爺ちゃんだ。

 

 このファンタジー世界に見合う、けっこう体格の良いお爺ちゃん。視線を向ければ、実に手慣れた様子で被っている帽子を外して頭を下げ……うん。

 

 

 そうして、ようやく豪邸に目を向ければ……これがまた、デカい。何度も言うが、本当にデカい。

 

 

 短期間借りるだけの話なのに、なんてデカさだ。

 

 それに、綺麗だ。何処も彼処もちゃんと手入れが行き届いているようで、取り残しの落ち葉すらも雪の上には見られない。

 

 外壁もちゃんと掃除しているのかピカピカで、設置されている窓ガラスも例外なくツルツルだ。この寒空の中、外側も掃除したのだろうか。

 

 

(……う~ん、頼んだ側で申し訳ないけど、場違いにも程がある)

 

 

 案内されるがまま、中に入れば……うん、まるで夢の国、ミュージカルでも始まるのかと思ってしまうぐらいに、ファンタジー的な豪奢な内装だ。

 

 加えて、パッと見た限りでも、部屋数(つまり、扉の数)が多いのが分かる。

 

 気になって尋ねれば、ベッドルームが18部屋に来客用の部屋が15部屋あって、他にも色々と……なんでそんなにあるのかと聞けば、住み込みで働いている者が居るから、とのこと。

 

 なんでも、この家をいざ使うという時に、この家の設備に慣れている者が一定数必要だから……らしく、あとはまあ、家を維持するための人員なんだとか。

 

 どうやら、この世界にも『人が住まなくなった家は早く朽ちる』という考えがあるらしく、この世界では『人の気配が途絶えた家は妖精の遊び場になる』と、言うのだとか。

 

 なので、ある程度大きな家には、最低でも数人は住み込みで雇われているのが普通だとかで、この家にも相応の人員が雇われているとのことだ。

 

 

 ……言い換えれば、だ。

 

 

 見た目こそ豪奢なこの豪邸……お屋敷は、普段から使っていないというわけだが……宝の持ち腐れかなと思った。

 

 

 とはいえ、豪奢な建物だけあって、良いところを探せばいくらでも見つかる。

 

 

 たとえば、日当たりは普通に良い。周りも、なんかお屋敷といった感じの建物ばかりで、お高い空気が漂っている。

 

 実に落ち着いた感じだ。先日町の中を見回ったが、ここだけはまるで別世界であるかのように、穏やかだ。

 

 1人で住むにはあまりに広々とし過ぎていて、逆に不便を覚えるかもしれないが……とりあえず、とても良い家であるのは確かであった。

 

 

「そうであろう、そうであろう。こういう時のための別荘じゃからな、自分の家とでも思って寛いでもらってかまわんぞ」

 

 

 ただ、その家が、エヴァ・スイートの別宅である点は……さすがに、現代知識を持つ彼女ですらも想定の外であった。

 

 

「ん? ああ、気にするでない。この屋敷とて、ワシが他所へ行かないよう引き留めるためのモノだからな。ぶっちゃけ、ワシもこの家に何を置いていたのか覚えておらんぐらいだ」

 

 

 ジトッとした眼差しを向けると、何を勘違いしたのか、エヴァはケラケラと笑うばかりで……いや、これは気付いたうえでやっているな。

 

 

 ……まあ、いいか。

 

 

 彼女は零れ出ようとしている溜息を内心に推し留めながら、曖昧に笑った。

 

 

 ──考えてみれば、宿は嫌だと注文したのは彼女自身で、彼女から提案した条件を、この豪邸は全てクリアしている。

 

 

 つまり、向こうはちゃんとした。

 

 ならば、こちらもちゃんとしなければならない。

 

 誠意を示されたのだから、こちらもその誠意を受け止める。世界が変わろうとも、当たり前な話である。

 

 結局は、言葉足らずな己が悪かっただけだと納得した彼女は、エヴァに促されるがまま……曰く、『一番豪華な部屋』へと通された。

 

 中はまあ、家主が言うだけあって、とても豪奢であった。

 

 彼女としては、どこもかしこも豪奢だから、他と何がどう違うのかがよく分からなかった……で、ふかふかのソファーに腰を下ろして、すぐ。

 

 

 ──失礼します。

 

 

 部屋に、それはそれは美しい風貌のメイドが入って来た。

 

 それはもう、ファンタジーではある種の御馴染み、メイドらしい恰好をしたメイドだ。御馴染みじゃないのは、顔だけでも食べていけるぐらいに容姿が整っている、という点だろうか。

 

 ポット&ティーカップ&その他という、見るだけで視線が吸い寄せられるモノばかりが乗せられたワゴンカートを押して来たメイドは、静かに一礼すると……手早く、準備を進めていく。

 

 

 ──御用があれば、お申し付けください。

 

 

 そうして、ものの5分と経たないうちに全ての準備を終えたメイドは、その言葉と共に小さなベルをテーブルの片隅に置くと……一礼し、ワゴンを押して部屋を出て行った。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とりあえず、遠慮するなと促されたので、紅茶……なのかは分からないが、見た目も匂いもそっくりなソレを、一口。

 

 

「美味しい」

 

 

 思わず、感想が零れ出た。

 

 

「そうじゃろう、あの子は見た目だけではない。ワシが雇っているメイドの中で、一番上手に茶を入れるからのう……本宅から呼び寄せるだけの理由じゃな」

 

 

 それを聞いたエヴァは、ニッコリと嬉しそうに微笑むと、同じくカップに口づけ……ふう、と息を吐いて、ソーサーに置いた。

 

 

「──さて、ナナリー殿。ワシはこう見えて忙しい身でな、あまりお前さんに構ってはやれん。とはいえ、放置するわけにもいかん」

 

 

 一つ、頷く。

 

 

「基本的に自由にしてもらって構わんのだが、差し支えなければこちらから呼び出しが来るまでの間、どうやって過ごすつもりか教えてもらえるか?」

「……そうですね」

 

 

 問われて、彼女は……どうしようかと今更ながらに考える。

 

 

 初日はドタバタ、次の日は町を見回って時間を潰した。

 

 いちおう、まだ見ていない部分はいっぱいあるけど……正直、そこまで興味は無い。

 

 例えるなら、めぼしい観光スポットを回りきった後で、現地の住宅街や古びた図書館などをわざわざ覗きに行くか……といった感じだ。

 

 そういうのが良いと思う者も大勢居るし、彼女も……気が向いたら覗きに行こうかとは思うが、今はまだそんな気持ちにはなっていない。

 

 

(仕事……う~ん、そうだね、何時までも無一文の素寒貧というのはなんだし、そろそろ現金収入を得ておきたいな)

 

 

 しばし、考えていた彼女は、思いついたままをエヴァに話した。

 

 特に隠す理由は無いし、右も左も分からない今の己に対して、なにかアドバイスを貰えたな~……という下心もあった。

 

 

「ん? 金が欲しいのであれば、いくらか支給するが?」

「そこまでは……自分の食い扶持は自分で稼ぎたいのです」

「ふむ、中々に生真面目なやつじゃのう。ワシなら貰うだけ貰って、ダラダラぐうたら生活を送るというのに」

 

 ──まあ、その心意気は好ましい限りじゃな。

 

 

 そう、笑みを浮かべたエヴァは、テーブルに置かれたベルを手に取り、ちりんちりん、と鳴らした。

 

 

 ──直後、先ほど部屋を出たメイドが一礼しながら入って来た。

 

 

 先ほどとは違いワゴンを押してはいない。

 

 だから、静々と足音を立てずに歩く様は実に美しく、所作の一つ一つがとても洗練されているのが素人目にも分かる。

 

 エヴァが自慢する理由の一端を改めて垣間見た彼女は、(美しいモノって、所作も含めているのかな?)と、エヴァの微笑みを閉じた眼で見やりながら、そう思った。

 

 

「推薦状一式をここへ」

「畏まりました」

 

 

 一礼したメイドは、入って来た時よりも速く……なのに、それをまるで感じさせない穏やかな動きで、部屋を出て行った。

 

 

「ギルドへの推薦状を認める。それを持って行けば、つまらん輩には絡まれんだろうし、絡まれてもギルドが味方になってくれる」

「そこまでしていただかなくとも……」

「いいから、素直に貰っておけ。コネを使う、それ自体を恥じ入る必要はないのじゃ」

 

 

 恐縮する彼女に、エヴァは苦笑した。

 

 

「それに、おまえのような特上の魔法使いを、その他一般の駆け出しと同等に扱う事になりかねない、ギルドの気持ちも汲んでやれ」

「はあ……?」

「こいつ、魔法以外はからっきしか?」

 

 

 いまいち分かっていない様子が見て取れる彼女に、エヴァは更に苦笑を零すと……ふと、カップに口付けようとしていた手を止めた。

 

 

「そういえば、ちゃんと自己紹介をしておらんかったな。ワシは『エヴァ・スイート』。本名はもっと長ったらしいのじゃが、言うのが面倒なので縮めておる。エヴァと呼んでくれ」

「あ、これはご丁寧に……私は、ナナリーです」

 

 

 言われて、そういえばそうだったなと思い出した彼女も名乗る。ついで、彼女は……聞こうかどうか迷っていた事を、聞いてみた。

 

 

「ところで、不躾だとは思いますが……その、エヴァさんは、いったいお幾つなのでしょうか?」

「ん? なんじゃ、いきなり?」

「その、口調というか、態度というか……どうにも、見た目不相応に思えて……」

「ああ、なるほど。そうじゃな、お前さんは、そこらへんに疎かったから知らんでも不思議ではないか」

 

 

 首を傾げるエヴァだったが、その言葉に納得したのか、あっさり教えてくれた。

 

 

「不相応に見えて当たり前じゃ。ワシはこう見えて350歳ぐらいじゃからな、見た目はこれでも、中身は立派な婆じゃ」

「え……本当、ですか?」

 

 

 思わず、彼女は手からカップを落としそうになった。

 

 

「こんな嘘を付いてどうする。理由は面倒だから説明せぬが……知りたければ、目を開いて確認すれば良いぞ」

「いえ、その必要はありません」

 

 

 意味深に微笑むエヴァに、彼女は即答した。

 

 

「この目は、色々と見え過ぎてしまいます。必要ならばともかく、興味本位で目を開けるつもりはありません」

 

 

 これは、本心である。

 

 

 確かに、エヴァの言う通り、目を開けて見やれば全て分かる。

 

 しかし、この目は見え過ぎる。見える範囲が、人の身には有り余る。

 

 意図的に知りたい事だけを選別することは出来ず、見る時間が長ければ長いほど、はっきりと見つめれば見つめるほど、どんどん情報が入ってくる。

 

 それは、相手の秘所を覗き見るも同じ。知らなくても良い事すら知ってしまう、もろ刃の剣でもある。

 

 だから、危険性などの有無を確認するために『目』を使う事はあっても、それ以外では相当の理由が無い限り、『目』を開けるつもりはない。

 

 少なくとも、興味本位や好奇心を満たすために使うつもりは……あの男は、その例外である。

 

 エヴァの頭にたんこぶ(出来てはいなかったが)を作った際には薄目で確認したが、あれもまあ、万が一を考えてのことだし、すぐに目を閉じた。

 

 それが、己へのルールであり、戒めでもあった。

 

 

「……なるほど、分かった。すまぬな、試すような言い回しをしてしまった」

 

 

 気にするなと首を横に振れば、エヴァは……ふむ、と頷いた。

 

 

「ちなみに、口調が変なのは、一時期威厳を出そうと年寄り臭い話し方を練習したんじゃが……どう足掻いても見た目が見た目なので、逆効果になってな」

「えぇ……」

「それで、元に戻そうとしたわけじゃが……一生懸命頑張ったせいで、癖が付いてしまってな……今でも、半端に当時の喋り方が出てしまうのじゃ」

「それは……ご愁傷様です」

 

 

 座ったまま頭を下げれば、「本当に、おまえは生真面目なやつじゃな」再び苦笑を零したエヴァは……直後、真顔になった。

 

 

「一つだけ、教えてくれぬか」

「──なんでしょうか?」

 

 

 合わせて、そっと居住まいを正して背筋を伸ばした彼女を見やったエヴァは……そのまま、しばし視線をさ迷わせた後……ポツリと、尋ねてきた。

 

 

「おまえに秘薬を渡した男じゃが……最後に、何かを言い残しておったか?」

 

 

 それは、声色こそ変わっていないが……どうしてだろうか、彼女には……とても寂しそうというか、悲しみがこもっているように思えた。

 

 

「……いえ、なにも。ただ、薬を届けてほしい、と」

 

 

 けれども、彼女は……あえて、語らなかった。

 

 あの男の記憶には、エヴァの姿があった。

 

 今とは髪型や服装や化粧や立ち振る舞い……つまり、格好が違うから、初見の時には分からなかったが……今は、違う。

 

 それでもなお、彼女は語らない。

 

 何故なら、あの男が、そう望んでいたから。

 

 どんな事があっても、己の過去に繋がる事は絶対に話さないという、死を前にしてもなお変わらなかった強い意志が。

 

 それが、たとえ……エヴァが、あの男の師匠であり、様々な手解きを行った旧知の間柄だとしても……いや、だからこそ。

 

 

 そう、彼女は、分かっている。

 

 けれども、同時に、迷ってしまう。

 

 この場に来て、今さらながらに、迷ってしまっている。

 

 

 そうまで固く誓った覚悟を、もう死んでいるからといって蔑ろにして良いものか……彼女は、決断を下せなかった。

 

 何故なら、彼女は見てしまったから。

 

 彼が、どれだけの覚悟を持って、『エルフの秘薬』を求めたのか。

 

 その行動が、彼にとって大切な人たちを悲しませる結果になろうとも……それでもなお、彼は……己の心に従った。

 

 そんな彼の胸中を、彼女は見てしまった。

 

 

「そうか、ありがとう」

 

 

 だから、彼女は……少しばかり寂しそうに微笑んだエヴァの、その顔を見て……そっと、俯くのであった。

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