勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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十話 思考

「……潮時か」

 

 俺の方に向かってきた猪のような魔物の突進を正面から打ち返しながら、俺は頭の中を切り替える。

 

 俺が斬り込んだことによる魔物共の混乱が収まってきている。好き勝手やれる時間は終わった。というより、必要が無くなったと言うべきか。背後で本格的な戦いが始まった気配がある。

 

「このまま後退……いや、一旦横だな」

 

 直前の高揚感を覚ましつつ、俺は魔物の大群を横切ることに決めた。基本はそこに居る魔物を足場に次々と跳び渡り、時々襲ってくるヤツは殴り飛ばす。ガタイの良い安定しそうなヤツを選ぶのがコツだ。

 

 そうして戦場を脱し、なだらかな丘のようになっている場所へ向かう。わざわざ追ってきたヤツを何匹か蹴り殺し、そこにあった丁度良い木を登り上から見下ろす。全体図、とは言い難いがある程度戦場の様子を俯瞰することが出来た。

 

 そして、その中でも一際目立つ()()()

 

「あれが【光壁】か」

 

 縦幅は家屋二つ分ほど。横に至っては形容出来ない。それほどの規模の壁が、押し寄せる魔物達を強制的に押し留めていた。遠目に見てもそれが破壊される様子は無い。

 

【光壁】。名前の通り光の壁を出現させるギフト。持ち主はアスリヤであり、この戦いの要となるギフトでもある。

 

「成程な……単純だが、これをされたらどうしようもないな」

 

 しばらく魔物共を押し留めていた【光壁】だが、ある一瞬を境に消失する。しかしその後、溜まった鬱憤を魔物共が晴らせることは無かった。

 

 壁が消えると同時に間髪入れず、空から無数の炎球や岩球が降り注いだからだ。

 

「壁で魔物共の足を強制的に止め、密集させた上で範囲攻撃でまとめて叩く。自分とこの兵を側に置きたがる訳だ」

 

 壁を消すタイミングと攻撃を撃つタイミング。そのズレが無いほど、そして互いの攻撃同士で邪魔されない為の事前の擦り合わせが上手くいっている程、コレの効果はデカい。綿密な連携あっての策だ。

 

「そして傭兵共の出番か」

 

 大規模な【光壁】ではあるが、戦列全てをカバー出来るほどの規模ではない。つまり中央を押し留めた場合、両端の範囲外の魔物はそのままだ。

 

 更に範囲攻撃で取りこぼしたヤツ、生き残ったヤツが何匹か向かってきている。大規模な【光壁】を連続して出すことは出来ない。つまりこの時間はヤツらの動きを止められない。

 

 だが、両端には傭兵共が居る。整った戦い方をするアスリヤとその兵とでは上品さは比べるべくも無いが、あれでも実力者揃いだ。

 

 中央の数を大幅に削られ、乱れた足並みのまま愚直に突進してくる魔物の処理。それを各々が好きに、様々なギフトを用いて対応している。

 

 そして中央の生き残りは範囲攻撃に参加しなかったアスリヤの兵と中央に近い傭兵が臨機応変に対応。そしてまた【光壁】。

 

 ──すこぶる順調な戦いだ。その順調さはやはり勇者一行の一人、アスリヤが操る強力なギフトに依存している。

 

 予定外の大群による一斉攻撃ですらこれだ。防衛を考えなければ自分達だけでも何とかなると言っていただけはある。

 

 そして敵は所詮数だけの、考える頭の無い魔物共。このままこれを繰り返せば魔物の数は目減りしていく。

 

 あの調子なら壁では対応出来ない空を飛ぶ魔物や地中に潜む魔物の警戒も怠ってないだろうな。ある程度まで行けば残った魔物を掃討して終わりだ。

 

「案外、あっけなかったな……」

 

 ギルドからの指名依頼、依頼者側が懸念していた予定外の戦力低下、そしてこの急襲。だがフタを開けてみればこれだ。

 

 アスリヤが懸念していた奇襲や町への攻撃。その可能性を匂わすような動きは魔物共には無い。本当にただ、目の前に大量に現れた人間達へと敵意を向けて突撃しているだけだ。

 

「アイツらと合流して後は適当にやるか」

 

 俺の個人的な欲求は満たされ、鬱憤は晴れた……というわけはない。せいぜいマシになった程度だ。

 

 だがそれでも満足感はある。もうこの戦いにやる気を向けられないし、向ける必要も無い。

 

ランド(アイツ)に礼は……要らないな。礼なんて言ったら奢りを無かったことにしそうだ」

 

 俺は既に戦いが終わった後のことを考えた。疲労感とささやかな達成感を抱え、同行した傭兵共とメシを食い酒を飲む。煩わしく感じる時もある傭兵のお約束だが、今回は参加しても良い気分だった。

 

 ──そうだ、俺はもうこの戦いに興味を失くしている。なのに何だ。

 

 この違和感は。

 

「……初手の急襲、だろうな」

 

 アスリヤの話ではこれまで魔物の動きに統一感は無く、単独で、二匹で、数匹で。今まさに思い立ったから来た、とでも言いたげないかにも魔物らしい動きしかしてこなかったという。

 

 それが一転してこのオールインだ。しかもアスリヤが戦力を増強して間もない頃、恐らく最も隙があったタイミングでの。そして実際、こうして対応こそ成功しているものの、アスリヤは方針決定に手間取り初動で遅れを取った。

 

 これは偶然か? 何かの意思が裏にあり、こちらの混乱を狙って魔物共を動かした? 

 

 バカな話ではある。魔物に干渉、もしくは扇動出来るとしたらそれは同じ魔物か──魔物の発生源と言われている魔王だろう。

 

 だが後者は無い。魔王が魔物を明確な意思や意図を持って動かせるとすれば、今日に至るまでに何度も起こった魔王復活を経てなお、魔物には考える頭が無いなんて認識にはならない。

 

 裏で魔王が動かしてようが、それを表からしか見れない俺達にとっては()()()()()()()()()()()と認識するのが普通だからだ。

 

 魔王が今この瞬間になって魔物を意のままに操れるようになったという可能性もあるにはあるが……そんなもんは知らん。

 

 だから、あるとすれば前者。魔物には考える頭が無いとは言うが、個体差はある。本当に何も考えていないようなヤツから、互いの実力差を理解しているモノや、極めて単純ではあるが策のような動きを使うようなヤツまで。さっきの黒犬が良い例だ。

 

 その個体差が極端に振り切れたとすれば、どうだ? こちらの動きを察知し、ここが勝負所だと同胞を扇動する。これまでの統一性の無いように見えた攻撃すらも、アスリヤ達への威力偵察の意味があったとしたら。

 

「何を必死に考えてんだ、俺は。舞い上がって調子が狂ってるのか」

 

 戦場を眺めながら自嘲する。だがまあ……真偽はともかく、こうやって頭を回すのもたまには良い。これはこれで気も紛れる。

 

 ──この急襲を仕掛けた相手が俺の考え通り、それなりの頭を持っているとして、狙いはなんだ。

 

 現時点ではこの急襲は失敗だ。ただ向こうが損害を出し続けているだけだ。だがアスリヤ達を引きずり出すこと、釘付けにすることには成功していると言える。そして。

 

「頭の働くヤツならこの大群の中には居ないだろうな。自分だけ頭が良くても周囲はそうじゃない」

 

 扇動し、大群をけしかけ、その間何をする? 

 

 ──俺なら、奇襲を狙う。相手は目の前の大群に夢中で、しかも魔物(自分)の頭を侮っている。ならそれを逆手に取った大胆で致命的な打撃を与えられる動きをする。

 

 事前の何度かの仕掛けで最も存在が大きく、厄介な相手は見定めている。最低限ソイツを殺すのを目標に奇襲を狙う。

 

 そして、この場で最も存在が大きく、厄介な存在とは──。

 

「……とりあえず、さっさと合流するか」

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