勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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十六話 思いがけない時間

「カイナさん、貴方の実力を見込んでの話です。私と共に多くの人々を魔物から、魔王から守る為にエルシャに来てくれませんか?」

 

 注目されている。

 

「断る」

 

 注目されている。ここに居るヤツらみんながあの二人を見ている。男の方は知ってる。女の方は知らない。けど、自然と見てしまう目立つ見た目だった。

 

 ──いいなあ。

 

「依頼なら内容次第、条件次第で受けてやらんこともない。人手が欲しいなら相応の金を用意して、傭兵()のやり方でやれ」

 

 そんな風に見ていると、男の方が立ち上がる。人混みに道を譲らせて、みんなの視線を引き付けて。

 

 その姿をジッと見ている内に、気づけばこっちに歩いてきていて、壁にぶつかったみたいな感触と一緒に俺は倒れる。

 

「……」

 

 肩にぶつかって倒れた俺を、男は無表情で見下ろす。男が立ち止まっていた時間は本当に僅かだった。

 

 肩を払うような仕草をした後、すぐに俺から視線を外してその場を去って行った。

 

 だけどそんな一瞬の間に感じたのは、視線。

 

 みんなが俺を見ている。男にぶつかった相手というだけで、俺は今注目されている。

 

 特別な女。特別な男。

 

 ──俺は? 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「えっ、本当にアスリヤ様が躍起になってるだけなんですか!?」

 

 向かいに座り、口に運ぼうとした料理を途中で止めながらアスリヤの部下──イバラは大げさに驚いていた。当初の敵意が薄れ切った表情で。

 

「何度もそう言ってるだろ」

 

「じゃあ、待遇の吊り上げを狙って曖昧な言葉で交渉を長引かせたり、アスリヤ様の弱みを握って何かを企んでいたりとかは」

 

「俺が何かしていると考えるのは止めろ。しつこいのは向こうの方だ」

 

「……そう、なんですか」

 

 何度目かの確認をし、あからさまにホッとした様子で食器を置く。

 

 顔に出やすいヤツ。店に入ってここ十分程度の会話でそう思う程度には分かりやすい男だった。

 

「次はこっちから聞くが、そもそもなぜ俺がアスリヤに何かしているなんて話が兵士(お前ら)の間で広まっている。アスリヤからは何も聞いていないのか」

 

「戦力として欲しいから勧誘する、としか聞かされてないんですよ。だけどアスリヤ様がそんなことをするの自体初めてですし、隙間時間が出来る度に熱心にそちらに赴いてるようなので」

 

「勧誘以外の何かがあると踏んだのか」

 

「はい……あの、さっきは言わなかったんですけど。あ、逢引に行ってるんじゃないかって話も……」

 

「阿保らしい。こっちは朝っぱらから早く起きろと、戸を開けるまで外から語りかけられてるんだぞ」

 

「そんなこともしてるんですか。うーん……」

 

 どうやら、アスリヤを側で見てきたであろうコイツにとっても不可解ではあるらしい。コイツの視点から何か解決の糸口が見えれば良いが。

 

「……お前から見て、今のアスリヤの行動は奇異に映るのか?」

 

「らしくない、とは思います。とは言ってもいつも通りではあるんですよ。まず第一に平穏に暮らす人々の事を考えて行動する。それがあの人です。カイナさんの勧誘だってそこに繋がるからやってる筈なんです。だけど」

 

「妙にこだわっている」

 

「そうです。理由付きで何度も断られているのに諦めない、というのはあの人らしくないというか。規則を他人に求めるにしても、僕らのような兵士ですらないカイナさんに対して度が過ぎているというか。確かにちょっと頑固なところがある人なんですけど、ここまでは……」

 

「……」

 

「それだけカイナさんが戦力として欲しいということなんですかね。でも、それは分かるんですよ! 僕だってあの日のカイナさんの戦いっぷりを近くで見てたんですから! あんなの見た事ないです!」

 

「……そうか」

 

 裏表のない賞賛はただただむず痒い。打算や思惑を感じない分、特に。

 

 ──だが、話し相手としてイバラ(コイツ)はそう悪く感じない。杯を傾けながら、何故かそんなことを思う。

 

「一兵士として、武芸を修める者として、憧れます。……悔しい思いもありますけどね。ああいうことを出来る人が必要とされている一方で、僕にはそこまで期待されてないんだろうなって思ってしまいますので」

 

「そういうのは明け透けに言う事じゃないだろ」

 

「はは、ですね。酔いが回ってるからかもしれません。ここのお酒、美味しいですから」

 

「それは……分からんでもない」

 

 そうして、いつしか当初のアスリヤの勧誘についての話から会話は横道にズレていく。他に客の居ない静かな店内で、久しぶりに長く言葉を交わした。

 

「アスリヤ様は本当に凄い人なんです。僕とそう変わらない歳なのに勇者一行に選ばれて、選ばれた後も舞い上がったりしないんです。前線に出て粛々とやるべきことをやり続けて、みんなの為に身を粉にすることを厭わず、多くの人を救っている。何というか、ああいう人を特別って言うんでしょうね」

 

「随分熱が入ってるな」

 

「あっ、いやあ……憧れの人なので……」

 

「仲は良いのか」

 

「軍に入ったのが同時期だったので、最初は同期だったんです。その縁で部下になった今でも良くしてもらってる方だと思います。そこ止まりですけど」

 

 気づけば、杯が空になっている。

 

「あの人は大義とか、正義の元に人々の前に立つんです。誰にだって出来ることじゃないですよ」

 

「お前だって兵士だろ。役割や地位の差はあってもやってることは同じじゃないのか」

 

「僕は所詮、僕自身の為に兵士をやってるだけですから。アスリヤ様の役に立ちたいとか、家族を守りたいとか……そういうのってなんというか、小さくまとまってるし自己満足の域を出ないというか。大きな責任も期待も無くて、どこまでいってもやりたいようにやってるだけだなって思うんです」

 

「……」

 

「力を持った特別な人達ってそうじゃないし、もっと大きなモノを背負ってるよなと……すいません、変な話しちゃって」

 

「いや、良い。……お前の考えはともかく、やりたいようにやれてるならそれで良いだろ」

 

「はい。僕なりの、僕らしい生き方は出来てると思います。カイナさんはどうですか?」

 

「今まさに、お前の上司に俺らしさを混ぜっ返されてるところだ」

 

「……なんというか、すいません。今度僕からもそれとなく話してみようと思います。カイナさんの意志は固いと」

 

「良いのか?」

 

「僕も疑問ですから。このまま平行線で進み続けても誰も得しません。それにアスリヤ様になんと言われようと、カイナさんがこれと決めた生き方があるなら、それを貫くべきだと思います。自分がやりたいように。僕なんかの月並みな言葉ですが」

 

「……そうか」

 

 苦みと共に喉を通る。俺の身体はそれ以上を酒から感じることは出来ない。たまに気分が向いた時に飲み、小さく落胆する。

 

 それが俺にとっての酒で、いつも二杯目は無かった。

 

「──追加だ。同じのを頼む」

 

「おお、いきますねえ。じゃあ僕ももう一杯! 流石にこれで最後にしないといけないですけど」

 

「明日くらい休めばいい。ここ数日、アスリヤに連れ回されてるんだろ」

 

「仕事なのでそうはいきませんよ。ああでも、傭兵ってそういうことが出来るんですね。まるっきり違う生き方だなあ」

 

 機嫌良くのんびりとしたような言動でイバラは笑う。

 

 不意に生じた、微かに心地好い時間。その注文は何となくじゃなく、それを引き延ばしたいが故だったのかもしれないと。

 

 後に、思う事になる。

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