勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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二十話 捕捉

 「ニオイ、ですか?」

 

「ああ。それを辿ってここまで来た。今の時点でかなり近づいている筈だ」

 

 なぜ俺がここまで来れたのか。その理由を説明するとアスリヤはかなり面を食らっていた。が、以前の依頼で実力を示したのもあってか、受け入れるのは早かった。

 

「……こうして私と鉢合わせたのが何よりの答え、ですか。分かりました。貴方の感覚を信じましょう」

 

「そうしてくれ。ここからは俺が先頭を歩く。お前は後ろで警戒を」

 

「分かりました。……すんすん」

 

「お前には特に気になるニオイは無かったよ」

 

「あ、そうですか……って嗅いだんですか!?」

 

「さっさと行くぞ」

 

 小うるさいのを背にしつつ前進する。協力なんて持ち掛けなければ良かったかと一瞬思ったが、あのしつこい勧誘が鳴りを潜めてるだけマシだと考えることにした。

 

 ──しばらく路地を進んだ後、鼻に異常が引っかかった。追跡対象の一つである浮浪者のようなニオイ。それを強く感じる。

 

 が、そこからは血のニオイも香水のニオイもしない。目当てではないだろうとは思いつつ、アスリヤにも注意を促し先に進む。

 

 その先に居たのは、路地の片隅に座り込んだ人影だった。ボロボロの布にくるまり、その場から微動だにしない。腐敗臭はないが生きているのかすらも怪しい風貌だった。

 

「ただの浮浪者だ。俺達が追ってるヤツじゃない。無視して先に進むぞ」

 

「待ってください」

 

「あ? って……」

 

 返事を聞く前に既にアスリヤは動いていた。浮浪者の前に行き何やら話しかけた後、ギフトの行使を示す光を放ち、その足元に小袋を置き、こちらへと戻って来る。

 

「お待たせしました。さあ、行きましょう」

 

「……お前、いつもあんなことしてんのか」

 

「お金に関しては誰にでも渡しているワケではありません。ギフトは私が多少疲れるだけなので、よく使ってはいますが」

 

「徒労だな。あの程度で人生が好転するならアイツはあんな場所には居ない。精々、死ぬまでの時間が多少伸びた程度だ」

 

「そうかもしれません」

 

 施しを与えた直後のアスリヤはいつも通りだった。人としてやるべきことをした。そうとでも言いたげな毅然とした表情。恐らく、俺がコイツを苦手だと感じる原因だ。

 

「しかし何もしないというわけにはいきません。人々の前に立つ者として、出来ることはしたいんです」

 

「そうか」

 

「……貴方だって、同じことが出来る筈なんですよ」

 

「俺に治癒は出来ん。金を他人にくれてやる気も無い」

 

「行為そのものではありません。人々を、世界を慮る意志の話です。貴方には純粋な、それ故に多くの人が持ちえない()があります。使い方次第でいくらでも他者を助けることが出来る」

 

「……」

 

「貴方にだって、一度くらいはそんな生き方が過ったことがあるのでは?」

 

「ちっ、また勧誘かよ……」

 

「諦めたつもりはありません。今はそれよりも優先すべきことがあるので、これ以上は何も言いませんが」

 

「自分の部下に……イバラに、それを否定されてもか?」

 

「!」

 

 表情は見えないが、その名前を出した瞬間アスリヤは動揺したようだった。

 

「アイツは殺される直前に店で俺と会ってたんだよ。勧誘の件で俺に難癖を付ける為にな」

 

「……」

 

「だが話は通じるヤツだった。事情を理解した後は、お前の一方的な勧誘には終始否定的だったよ。……お前が内心で何を考えているのかは知らんが、少しは客観的に自分を見てみることだな」

 

「……私はただ案じているだけです。人々と、世界と……あな──」

 

「止まれ」

 

 会話を即座に打ち切る。……本命が、引っかかった。

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