彼はザムザという男でね。ギルドにも登録されている傭兵だった。
疑問かい? まあ、どう見ても女だしね。……そう、ギフトだよ。彼は【変身】というギフトを持っていた。名前の通り、様々な対象へと姿を変えることが出来るようだ。
当初彼はこのギフトを使って潜入や暗殺といったような依頼をこなしていた。実際、その手の後ろ暗いことをするにはうってつけのギフトだったのだろう。依頼の成功率は高かった。
だがある日から、彼はその手の依頼を受けなくなった。代わりに君のような武闘派が受けるような依頼を受けていたようだが、結果は散々だったようだ。
そりゃあそうだろう。彼は【変身】以外にギフトを持っていないようだし、目立った戦闘の技能も無い。多少ナイフの扱いは上手かったみたいだけどその程度だ。
そうして失敗続きの彼は、ついには依頼を受けなくなった。代わりに、酒場でギフトを使って芸のようなモノをやっていたらしい。
だがそれも長くは続かなかった。ネタが割れれば飽きられるからね。
それからの彼を知る者はあまり居ない。というより、認識されてなかったんだろう。
知らない内にころころ姿を変える人間なんだ。記憶の内に留めるのは難しい。ただ、それらしい奇行を行っている人物は何度か目撃されているようだったが。
……そして、彼は今回の殺人を思い立った。今この都市を騒がせている勇者とその噂。それに相乗りし、事件を起こしたんだ。
アスリヤ君の話によると本人と似ているのは雰囲気だけらしいが、これは噂を頼りに変身する姿を決めたからだろう。知人を騙せるだけの正確な勇者の情報が彼には無かったんだ。
──さて、なぜ彼はこんなことをしたのか。……まあ、もったいぶる程でもないか。
どうやら彼は
なぜ目立ちたかったのか。ギフトと彼が歩んできた人生が関係してるんだろうけど、それを考えるのすら馬鹿馬鹿しい、人騒がせな男だよ。
今回の事件は、ともすればウチとエルシャの関係に亀裂が入りかねないモノだった。だから早期に彼を捕えられたのは本当に助かった。結果的にはギルドの膿を発見出来たとも捉えられるし、これで十分に
それもこれも君のお陰だ。アスリヤ君の行動に対する臨機応変ぶりも流石だった。ギルドは今回の君の仕事ぶりを高く評価している。
もちろん、私も。以前の暗殺未遂に対する不安も完全に払拭出来たんじゃないかな。
約束通り報酬は弾ませてもらう。ギルドを代表して、感謝を。これからも手を取り合ってやっていこう。
☆
知るか、勝手にやってろ。
☆
「そういや例の殺し、解決したらしいな」
「噂はマジだったって騒いでたヤツが居たけど、結局勇者じゃなかったんだろ? 拍子抜けだな」
「お前、それがホントだったら世界の終わりってヤツなんだからよ、拍子抜けで良いじゃねえか」
「違いない。で、そいつはなんで殺したんだ?」
「さあ? どうでも良いだろ。勇者がやったって話以上に面白いオチはねえって」
「つーか殺しに関係ないなら、結局その勇者はどこいったんだよ」
事件解決の夜、酒場では一日の仕事を終えた傭兵達が腹を満たし、語らういつも通りの風景があった。
早期に解決したこともありギルドの報せを受けた後の事件の余波は小さく、各々の酒の肴として消費されていく。今日を生き延びた彼らの顔は明るかった。
その中に一人、場にそぐわない暗い表情で席につく女がいた。
「……」
女──アスリヤは食事をしつつもその手は遅く、表情は硬い。
それ自体は普段通りである。この場に居ない部下と食事をする時でさえ、私語は少なく実直な面持ちであることが常だった。
違うとすれば、その裏で行われている思案がとりとめのない渦のようなモノだったことだろう。
(このまま、引き続き勇者様の捜索をするべきか……一度エルシャへと戻るべきか。だけどエルシャからの通達は何も無い。向こうでも何か進展があったとは思えない)
理性がそれを正そうとする。勇者一行として、すべき行動をし続ける。その為の思考を。
(──なぜ、彼が死ななければならなかった)
しかし、裡から湧き上がる思いは止まらなかった。思い出すのは同年代でありながら部下であり、真っすぐな視線で自分に付いてきてくれた男。
(勇者様を護衛していた筈の彼らも、報告を受けて向かわせた彼らも。なぜ、誰に、殺されたのですか)
勇者一行ではあるとはいえ、まだ年若い自身を上司として慕い共に戦ってきた兵士達。
(勇者様、貴女は一体、今どこに居るのですか? 何をしているのですか?)
多くの謎を残し失踪した、自身が慕う勇者。
『だが話は通じるヤツだった。事情を理解した後は、お前の一方的な勧誘には終始否定的だったよ。……お前が内心で何を考えているのかは知らんが、少しは客観的に自分を見てみることだな』
(私は……単純に勇者一行の一人として彼を求めてるわけでも、更生させたいわけでもなく、私的な理由で拘っているのか?)
そして、張本人から突き付けられた言葉から発生した、自身への疑問。
自らの立場と解決の兆しを見せない問題、そして飲み下しようのない感情は、アスリヤの心の
(私は、何をどうすれば──)
「あら、全然手が進んでない。冷めちゃうわよ?」
「! ……貴女は?」
思案を遮ったのは甘い声。アスリヤが振り返れば、そこには女が居た。
着崩した給仕服をまとい、柔らかな所作で女──酒場の店員、レリアは微笑む。
「私、レリアって言うの。ちょうど休憩したいと思っててね。ご一緒していい?」