勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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二十三話 乾杯

「アナタ、アスリヤさんでしょ? 最近この店に何度か来てる」

 

「ええ、まあ」

 

「みんな良く話題にしてるわ。勇者一行、ってだけで目立つのに、こんなに可愛らしいんだから当然よね」

 

「……」

 

 何が可笑しいのかにこにこと笑みを浮かべ、上機嫌に話を続けるレリア。流れるように自分の対面へと腰を下ろした相手に、アスリヤは困惑していた。

 

「知ってる? 話題になるだけじゃなくて、傭兵連中から結構人気あるのよ? アナタ」

 

「そうですか、喜ばしいことです。それで……私に何の用ですか? レリアさん」

 

「レリアって呼んで? で、そのついでに私もアスリヤって呼んでいーい?」

 

「質問に答えてください、レリアさん」

 

「アスリヤノリ悪ぅ。あ、ちょっと待ってて。お酒持ってくるから」

 

「あ、ちょっ」

 

 返答を聞かず厨房へと向かい、酒と杯を手に戻って来るレリア。この時点でアスリヤはレリアが放つ雰囲気に呑まれていた。

 

「口を軽くするならこれよね。早速飲んじゃお」

 

「……私を茶化すのが目的ですか?」

 

「いや? 最初に言った通り休憩したいってのはホント。で、ちょうど良く席が空いてて、話し相手として面白そうだなーって思ったのがアナタってワケ。あと女の子だし」

 

「……」

 

「そんな邪険にしないでよ。──話し相手が出来るって、アナタにとっても嬉しいんじゃない? 悩んでるんでしょ、色々と」

 

「何の話ですか」

 

「丸わかりよ。全然楽しそうじゃないし、アナタの周りだけ空気が淀んでる感じ」

 

「そ、それは言い過ぎでしょう」

 

「お、トゲが取れてきた。いーじゃんいーじゃん、大して知らない相手だからこそ気楽に話せるってもんでしょ」

 

 レリアの緩い声音と口調に、アスリヤは自身でも知らずの内に警戒を緩め始めていた。他者へと胸の内を吐き出す。その提案が、魅力的に思えるほどには。

 

「──なるほど、ね。暗い顔してたのも分かるかな。ようするにいっぱいいっぱいなのよ、今のアナタは。自覚はあるでしょ?」

 

「……はい」

 

「自分が抱えられる許容量以上の荷物を持っちゃってる。そういう時には潰れる前に整理しなきゃね。まず勇者ちゃんが居なくなったって話だけど、それ深く考える必要ある?」

 

「え?」

 

「なんで勇者ちゃんが居なくなったのか、なんで何人もの兵士が死んだのか。両方とも勇者ちゃんに直接聞けば分かる話じゃない。モチロン、どうやって探すのかを悩むのは必要だけど、そこについて今悩む必要無いでしょ。考えても無駄」

 

「そ、それは……そうかも、しれません」

 

「はい、一個荷物が減ったわね」

 

 手を軽く振るような仕草をするレリア。自分の悩みがばっさりと切り捨てられるのに対し、実際にアスリヤは心が軽くなったような感覚を味わっていた。

 

「次は今朝の事件の話ね。これは単純明快。誰だってそうなるわ。怒ってるんでしょ? その子を殺されたことに。これはさっきの話と違って、アナタは犯人も動機も知ってるみたいだしね。私には話してくれなかったけど」

 

「……」

 

「で、重要なのはその気持ちを溜め込んでること。そういうのは発散しないと。その犯人の悪口でも言ってみたら? それか、直接会いに行って引っ叩くとか」

 

「出来ませんよ、そんなこと」

 

「なんで?」

 

「彼は然るべき罰を社会から受けるからです。私が私怨をぶつける余地は、そこにはありません」

 

「アナタの部下が殺されたんだからそんな事は無いんじゃない? ……まあ、無理ならしょうがないか。それに発散する方法は他にもあるし」

 

 そう語り、レリアはアスリヤの杯に酒を注ぎ始めた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「んー? お酒ダメだった?」

 

「いえ、飲めます。飲めますが……明日からまた動かなければいけません。なのに酔いを残しては」

 

「そういうのがダメなのよ。というか一日くらい休んだら? そんなんじゃ、いつまでたっても重い荷物を抱えたままよ?」

 

「……」

 

 注がれた水面を、アスリヤは少しの間見つめる。普段ではあり得ない逡巡。それを経て、ゆっくりと杯へと手を伸ばし、口元へと運んだ。

 

「おおー」

 

「……、貴女は正しい。今の私は、僅かでもいつもの自分を捨てるべきなのでしょう」

 

「全然減ってないけど」

 

「あまり強くないんです! ペースは私は決めます!」

 

「あは、そうそう。そうやって自分を甘やかさなきゃ。……やりたいようにやるのが一番よ。だから今はただ、一緒に酔いましょう」

 

 誘うような笑みと共に掲げられる杯。良く言えば遠慮がちに、率直に言えば不慣れな様子で、アスリヤはそれに答えた。

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