勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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二十四話 悪戯

「んっ……んっ……ふう……」

 

「おー、良い飲みっぷりねぇ」

 

「まだまだ、いけますよぉ」

 

「じゃあ次、これいきましょう。香りが独特で面白いの」

 

 レリアがアスリヤに声をかけ、強引に相席を申し出てから一時間程度が経ち、テーブルは空になった何本もの杯で埋まっていた。

 

 そのほとんどがレリアによるものだが、それに付いて行こうとしたアスリヤの顔色は朱に染まり、呂律は明らかに怪しい。しかし、直前までの淀んだ雰囲気は確かに消えていた。

 

「……レリア、さん」

 

「なあに?」

 

「さっきから、お酒ばっかりじゃないれすかぁ……まだ荷物が残ってますよ……」

 

「ああ、カイナのことね」

 

 対照的に、レリアは変わらない緩やかな笑みのまま応じる。

 

「アナタはカイナをエルシャの軍に勧誘したい」

 

「はあい……」

 

「なぜなら仕事で共闘した際、彼の強さを見てしまったから。最近起こった問題のこともあって、アナタは確かな戦力が欲しかった」

 

「そう! そうなんれすよ!」

 

「でも彼は乗り気じゃない。だからアナタは彼が首を縦に振るまで説得しようとしている」

 

「そう……」

 

「理屈は通ってるわね。でもアナタはそんな自分の行動を自分らしくない、と思ってしまった」

 

「……」

 

「そうよね。たしかにカイナは強い。私は話で聞くだけだけど、ここの傭兵は大なり小なりみんなカイナを認めてる。そんな人他に居ないわ。それだけ純粋に、腕っぷしが強いんでしょう。──でも、そこまでする価値はある?」

 

「価値……」

 

「価値っていうのはカイナの能力の話だけじゃない。彼を勧誘するのに必要な労力も含まれてる。そもそも乗り気じゃない彼を、アナタが時間を作ってわざわざ何度も……普段のアナタはこんなことをするのかしら」

 

「……」

 

「こうして話してみて思ったけど、普段ならきっぱりと諦めそうよ、アナタ。だってカイナを戦力として使いたいならこの前みたいに仕事を依頼すればいいじゃない。もちろん、兵士として手元に置いておくよりは色々と制限はあるだろうけど、妥協点としては悪くない筈よ。これ、思いつかなかったわけないでしょ?」

 

 一定の速さで、それでいて責め立てるような苛烈さは無い。ゆっくりと指先から順に触れるように、レリアはアスリヤを解きほぐしていく。

 

「そして何より、アナタ自身が違和感を抱いてる。これはもう、単純な損得から来る行動じゃないわね」

 

「じゃあなんなんだって言うんれすかぁ……私には、それが──」

 

「え、恋じゃない?」

 

「……へ?」

 

 恐らく誰も見た事がないだろう表情で、アスリヤは間抜けた声を漏らした。

 

「恋よ。こ、い。だってそうじゃない? 自分でも理由が分からない他人への執着って、それ以外に例えられなくない?」

 

「それは……乱暴じゃ……」

 

「んー、後は復讐とか? でもこれは理由がはっきりしてるしね。……というか、アスリヤってさ」

 

「な、なんれすか」

 

「……まあ聞くまでもないか。どう見ても処女だし」

 

「しょっ……!?」

 

「あー落ち着いて落ち着いて。……そうそう、別に悪いことじゃないんだから。私が言いたいのはさ、そういう経験が無いなら尚更その気持ちが恋なのか分からないわよねってこと。だって経験したこと無いんだもの。アナタだって明確に否定は──」

 

「ありえませんよ。だって私は……」

 

 レリアの表情に小さく驚きが浮かぶ。明らかに判断能力が鈍っているこの状態で、これほど強く否定されたことに。そして確信する。この否定の理由こそ、この女の()であると。

 

 ──しかし、レリアはそこで手を止める。彼女の目的はアスリヤを解き明かすことではなかった。

 

「そうね、違うかもしれない。でも経験したことが無いのなら、本当に違うかは行動を起こさないと分からないわ。恋か、気の迷いか、あるいは別のナニカか……それをすれば判別できるかもね」

 

「そんなことが……? 何をすれば」

 

「良く聞いてくれたわ。それはズバリ──アナタ、一回抱かれてきなさい?」

 

 言葉と共に突き付けられた人差し指。酒気が回り、着実に正常な思考を失っていく中。

 

「へぇ?」

 

 アスリヤはもう一度、そして先程よりも間の抜けた声を漏らした。

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