勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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二十九話 接敵

「ニタ、ギフトを使え」

 

「はいっス。……ダメっスね。反応はあるけど多分木っス」

 

「分かった。またギフトが使えるようになったら言えよ。アスリヤ、ついてきてるか」

 

「問題ありません」

 

 俺、ニタ、アスリヤの並びで、俺達は入り乱れる白の世界を突き進んでいく。既に出発から一時間は経とうとしていたが、未だにめぼしい発見は無い。

 

 降雪も出発時より勢いを増している。最低限、視界の確保のために露出している目元からは十分に寒さが伝わってくる。そしてどこまでいっても大した変化のない景色。

 

 人間が長居出来るような場所ではないと、俺達は早々に身を以て体感していた。

 

「……あの、二人に聞きたいことがあるのですが」

 

「必要な話か?」

 

「いえ、雑談のようなものです。気を紛らわせたいので……」

 

「アタシは良いっスよ。というか同じようなこと考えてたっス」

 

「……無駄な体力消費にならない程度にしろよ」

 

「はい。お互いに慣れ親しんだ感じがするのですが、二人は知り合いなんですか?」

 

「同じ依頼を何度か受けただけだ。知り合いといえば知り合いだな」

 

「アタシ、いっつもキツイ依頼ばっかり受けてる上に弱いから、腕利きで荒事担当のカイナくんと一緒なことが多いんスよねえ。カイナくんが居るといつもより安心出来るから、アタシとしてはありがたい話っス」

 

「その割には随分と気安い感じですが……」

 

「傭兵はみんなこんなもんスよ? 立場とか年齢を気にする人が少ない分、最初は堅苦しさがあってもすぐ無くなるっス。そんなことに気を取られてたら死んじゃうからってのもあるんスけどね」

 

「なるほど……ちなみになんですが、ニタさんは何歳なんですか?」

 

「んー、二十くらいなんじゃないっスかねえ。正確には数えてないっス。まあ、気にすることないっスよ。だからアスリヤちゃんが私より年下だとしても、そこまで丁寧な口調じゃなくていいっスよ」

 

「私は今年で十七になります。といっても私は誰に対してもこんな感じなので、ニタさんこそお気になさらず」

 

「それはそれで凄いっスねえ。アタシらと一緒で生き方に染みついてる感じっス」

 

「……それとあの、カイナさんは何歳なのでしょうか」

 

「知らん、数えてない。というかお前ら喋りすぎだろ。体力無駄に使うなって話、聞いてたか?」

 

「雑談だからこんなもんスよ。それにちゃんと気の紛らわせにはなってるっス。ここ、ボーっとしてるとヤバそうで……あ、ギフト使えるようになったっス」

 

「使え」

 

「はいっス。まあさっきと同じで何も……いや、動いてる──魔物っス!」

 

 確実に伝達する為の声量でニタが叫ぶ。その瞬間、俺達はニタを中心に囲みその場に構えた。

 

「アスリヤ、分かってるな」

 

「はい。ニタさんを死守します」

 

「そいつは戦闘に関しては基本期待出来ない。それなりに動けはする子供とでも思え。それと、普段とは環境も違う。いつも通りに戦えると思うな」

 

「はい!」

 

「それなりに動けはする子供でゴメンなさいっス!」

 

「来るぞ!」

 

 風音に混じる咆哮。動物のそれとは違う、邪悪さを感じずにはいられない叫びをあげながら、そいつはこちらへと突進してくる。

 

()だ!」

 

 小柄な人間ほどはある体躯だった。景色と同化する白い体毛に、威容に長い手足──その姿に最も近いのは猿であり、そんな一匹の魔物が明らかな敵意と共に手足を動かしていた。

 

「俺だけで対応する! ……ありがたいな」

 

 この劣悪な環境下で、最も厄介なのは音も無く静かに接近されることだった。

 

 ニタのギフトは連発が出来ない。一度捕捉した後、次の使用までにジリジリと接近される、というのは対応が難しい。

 

 十分な距離がある中、実直に来てくれる時点で勝ちだ。俺は穴から(はがね)を取り出し、迎撃すべくその場から踏み出す。

 

 ──足元が柔い。

 

「ちっ!」

 

 踏み込みが想定から狂い、縦に振り下ろした鋼は狙いの頭ではなくヤツの左肩へと逸れた。当たりはしたが感触がヌルい。大したダメージにはなっていない。

 

 痛みからか猿叫と共によろけた後、ヤツはすぐさま無事な右腕で反撃してくる。鋭利な爪での引っ搔き。

 

 ──だがもう分かった。コイツは大した相手じゃない。引っ搔きをその場でしゃがむことで躱し、立ち上がる勢いのままヤツの脇腹に向かって鋼を振りかぶる。肉と骨がひしゃげる感触がした。

 

「ふう……じゃあな」

 

 苦悶の声と共に転げまわる猿の頭を同じように潰す。戦闘終了──とはいかなかった。

 

「もう一匹……いや二匹! 来てるっぽいっス!」

 

 ニタの甲高い声が届く。恐らくギリギリギフトの範囲に居なかったヤツだろう。それが二匹。

 

 先んじて敵を潰す為に前に飛び出した今の俺は、アイツらから距離が離れている。すぐに戻る必要がある。そう判断し、さっきと同じく前に飛び出そうとして直前の失敗が頭を過った。

 

「──いや、こうすればいいのか」

 

 飛び出す前に足元の雪を力強く踏み、固める。単純だがこれで良い。安定感の増した雪をしっかりと踏み締め、俺は今度こそ想定通りに飛び出す。

 

「ヤバイっスぅぅ!!」

 

 合流の際、飛び上がり空中からニタを襲おうとする猿が目に入る。アスリヤはもう片方の猿に対応している。間に合わない。

 

 そう判断し、咄嗟に手元の鋼を投擲する。雪を切り裂き、目論見通りに鋼は猿を空中で弾き飛ばした。

 

「ひいい!」

 

「大丈夫だ! 立て! そんで足元の雪を踏み固めてろ!」

 

「は、はいっス!」

 

「アスリヤ! まだ持つか!」

 

「もう限界です!」

 

 アスリヤの巨大な【光壁】によって押し留められているもう一匹。だが余裕はないようだった。

 

「消えるタイミングを教えろ!」

 

「……! 三! 二!」

 

 カウントダウンに合わせ、俺はニタが踏み固めた雪を足場に飛び出す。

 

「今です!」

 

 壁が消え、何とか壁を壊そうとがむしゃらに腕を振り回していた猿の攻撃が空振り、よろめく。十分な隙だ。そこに差し込む形で、俺は穴から取り出していた二本目の鋼を縦に振り下ろす。殺った。

 

「そっちのヤツはまだ生きてるぞ!」

 

「はいっス!」

 

「分かってます!」

 

 ニタを背にしたアスリヤにより再び【光壁】が展開され、残った猿は通行止めをくらってるようだった。

 

「──ギフトに引っかかる範囲にはもう居ないっス! そいつで最後っスよ!」

 

 ギフトを使ったのだろうニタの報告が届き、俺は手袋越しの鋼の感触を確かめながら最後の一匹の元へ向かう。

 

 そいつを潰すのに、特別な行動は必要なかった。

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