勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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三十話 光明

「二人共、問題ないな」

 

 一連の戦闘が終わり、集合した俺達は互いの無事を確認する。今ので傷を負ったヤツはいない。

 

 いたとしてもアスリヤのギフトで対処できるが、負わないに越したことはない。

 

「死ぬかと思ったけど大丈夫っス」

 

「私も問題ありません」

 

「なら良い、探索を再開するぞ」

 

 そうしてその場から歩き出して間もなく、足音が一つ減った。立ち止まり振り返ればアスリヤが膝をついている。

 

「あれ……?」

 

「どうした」

 

「……疲労感があります」

 

「さっきの戦闘でか? 確かにギフトは何度か使っていたが、あの程度でへばるヤツじゃないだろうお前は」

 

 先の依頼では魔物の大群を相手に大規模かつ連続で使いつつも、致命的な疲労を見せなかった。

 

 ただ我慢していただけというのもコイツの性格的にありそうだが、それにしても不自然だ。

 

「私自身もそう思います。ですが、何というか、ギフトを使う際の体力の消費が多い気が……」

 

「それ、アタシも感じるかもっス」

 

「この環境下での探索だ。ただ歩くだけでも体力の消費が激しいのは当然としてある。だが……この場所自体に何かがあるのか」

 

 俺自身も覚えが無いワケじゃない。ここには入る際、それを躊躇う()()()のようなモノがあった。勘や危機意識が働く感覚。

 

 どう考えても危険な場所である分、それが働くのは自然だと思い特に気にしていなかったが、そもそもが謎の場所だ。俺達に直接影響を及ぼすような何かがあったとしてもおかしくはない。

 

「──どうする、依頼人。今ならまだ容易に引き返せるぞ」

 

 舐めていたつもりは無かったが、やはりここは未知で危険な場所だ。そしてこの依頼の判断をすべきはアスリヤ(依頼人)自身。だからこそ早々にしたその問いに、アスリヤは立ち上がることで答えた。

 

「続行です。疲労は感じますが、まだまだ動けないというほどではありません。行きましょう」

 

「了解っス」

 

「……分かった。だが体力の消費が想定よりも多いのは危険視すべき要素だ。動けなくなる前、限界が来る前にそれを自己申告しろ。どちらか片方なら俺が背負うか担ぐかして運べる」

 

「あの、それだとカイナさんの負担が……カイナさんだって疲れてる筈です」

 

「俺はまだまだ平気だ。荷物が増えても何とかなる」

 

「ひええ、流石の体力オバケっス。やっぱり常時使用の身体能力強化ギフトってとんでもないんスねえ。心強いっス」

 

「……分かりました、言います」

 

「遠慮はするなよ。かえって面倒だ」

 

「善処します」

 

「アタシは遠慮なく言えるっスよ! カイナくんに身も心も預けて運んで貰うっス!」

 

「お前は引きずることにする。さあ、さっさと行くぞ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 猿の魔物との戦闘から体感で三時間ほどが経った。未だに景色に変化は無く、降雪の勢いは衰えない。ここの天気は降雪の勢いが強いか弱いかの違いしかないのだろう。ニタのギフトにも目ぼしいものは引っかかってない。

 

 俺達はただひたすらに、前へ進んでいた。

 

「そういえばさっきの戦闘は反省点が多かったな」

 

「ああ……そうっスね……」

 

「足元に不安があるのは分かりきっていた筈だった。だが咄嗟にいつもと同じように動いてしまうのは、経験不足としか言いようがない。足場を踏み固める重要性を分かっていなかったのもな。お前らは、ここと似たような環境で戦ったことがないのか?」

 

「無いっス……というか雪なんて初めて見たっス……はは、最初はちょっと感動してたのも、随分昔のことに思えるっス……」

 

「……」

 

 既に意識を保つ為の会話を俺主導でやってる始末だ。ニタの方はまだ余裕があるが、アスリヤの方は返事が来ず、傍から見ても限界が近い。休む時間も場所も無いこの探索では、必然と言ってもいい状況。

 

 俺はこいつらに比べればまだまだ余裕がある。想定通り、限界が近いアスリヤを抱えて進むことは出来るだろう。

 

 だがニタも危ういのは話が別だ。コイツがギフトを使えなければ探索の効率は一気に落ちる。マズイ状況だった。

 

「……緊急手段を取るべきか」

 

 こういう状況になった時の緊急手段は事前に決めていた。足元の雪を掘り返し集めて硬め、雪洞を作りそこを拠点にする。遠い雪国育ちの傭兵から聞いていた手段。

 

 三人が入れるだけの雪洞を作るのはかなり骨だろうが、今なら最低限の余裕はある。遺跡を探すのを一時諦め、その手段を取るとしたらこのタイミングだろう。俺はその場で止まり、振り返る。

 

「おい、お前ら二人共限界だろ。事前に決めていたアレをやる。上手く作れるかは分からない上に、作れたとしてもどこまで有効かは謎だが、とにかくやってみるしか──」

 

「ギフト……あ、あ、ああ! ()()! 反応あったっス! デカいっスよこれ!」

 

 それを切り出そうとした瞬間、自主的にギフトを使ったのだろうニタから、いつぶりかの威勢のいい声が飛んで来た。その報告が意味するのは。

 

「方向は?」

 

「あっち! あっちっス! 距離もそこまで遠くない! ちょっと歩けば着くっスよ!」

 

「待て! 慌てるな!」

 

 今にも駆け出しそうなニタを抑えながら、アスリヤに視線を移す。

 

「とりあえずコイツの言う場所まで行くぞ。気張れよ」

 

「……はい!」

 

 黙々と歩くだけで変化の無かった表情に、活力が宿った。

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