「生憎、覚えが無いな。俺はお前のようにゴチャゴチャと自分についてを考えたりはしない」
「……」
「ただ……お前には俺がそう見えている、という話で納得してやる。俺はそうは思わないが、お前にとって俺は同族なんだろう。好きに見れば良い」
「は……そうですね。結局、人の心の内は他人には見えません。私がそう思っているからそうだというのが、言葉の限界です。……少し気分が晴れました。こんな話をしたのは貴方が初めてです。貴方にはもう、晒せるだけの恥を晒したからかもしれません。とはいえ、ありがとうございました」
そう言い残し、アスリヤは背を向ける。だが俺にはまだ言いたいことがあった。
「お前の感覚を俺は理解できない。細かな点を上げれば人間なんてもんはそれぞれに違いしかない。そこに引っかかる感性が分からない」
「……」
「だがな、少なくともお前は客観的に見て良くやってる方だろ。仮にお前が死んだとすれば多くの人間がそれを惜しむ。自分に自信が持てないのは勝手だが、そういう周囲の評価は受け入れろ。それを力に変える心構えでいろ。依頼人のお前がここでいつまでもしょぼくれて精細を欠かれたら困るんだ、こっちは」
☆
その言葉には、何か特別な要素は無い筈だった。私の感覚を理解したのではなく、理解出来ないと突き放した上での賞賛。
『少なくともお前は客観的に見て良くやってる方だろ』
だけど、不思議と満足感がある。掛け違えたボタンを直すような。
──ああそうか。私は、私と同じような人間からの慰めが欲しかったのだ。
私の生き方の正しさを証明する。確かにそんな思惑もあったのだろう。だがそれ以上に、ただ認めて貰いたかった。
だって私と同じような人は、私に最も近いのだから。そんな人が
そんな人が、身近に欲しかっただけ。
──ああ、もしかして、この想いが。
☆
「カイナさん、私──」
背を向けていたアスリヤが振り返ろうとした瞬間、気配を感じた。俺はすぐさま立ち上がり、穴から武器を取り出す。感じた先は広間の奥。
「迷い込んだ、という体では無さそうだな。最近は来なくなったと思っていたが、人の悩みはそう簡単には尽きないモノか」
白い女だった。ランプのような道具から放たれる光が照らす、肌も服も髪も。そしてなにより、どう見てもその姿は子供のものだった。
そして、どこか空虚なその眼で俺達を見つめている。
「賢者を探しにきたのだろう。私がそうだ。……賢き者どころか、愚者そのものだがな」
☆
「過去の勇者が受けた助言が記録されているのと同じく、彼らが見た賢者の姿もまた、記録に残されています。その姿は一言で言えば白い子供です。髪や肌が白く、背丈は十歳程度で、一見するとまだ幼い女児に見える。そしてその記録は、どの勇者の記録でも一貫しています。賢者を探すにあたって、ひとまずはそれを情報源にすべきでしょう。永雪域に賢者以外の人間など、居るとは思えませんが」
☆
事前に共有していた特徴と見事に合致する。間違いなく、この女は俺達の目的だ。
「っ、貴方が……! まさかこうも早く出会えるなんて!」
起き上がったアスリヤが体調不良を忘れて感激している。コイツからすれば喜ぶべきことなのだろうが、警戒もクソもない。確かにこの女は俺達のお目当てであろう。だが不可解な点がある。
「待て。アンタ、どこから来た。この奥は行き止まりだった筈だ」
ここに来た時、ニタのギフトと俺自身の探索によって安全の確認を済ませた。ニタは何も言わなかった上、俺自身も人の気配を感じていない。ならコイツはどこから来た?
「気づいていなかったのか?
疑念に対し何の揺らぎも無く、賢者は淡々と答える。
地下。その可能性は考えてなかった。それに探索したとはいったが隅々までやったとは言えない。最低限の把握を済ませた後は、倒れたアスリヤと俺自身の疲労回復へ意識を向けていた。
ニタのギフトに地下が引っかからなかったのは疑問だが……ギフトの仕様で地面より下は反応しないのか、もしくはニタ自身が意識していなかったのが原因だろう。
何より、本当に地下があるかどうかはすぐにでも確認出来る。そんな脆い嘘をわざわざつかないだろう。俺はひとまず警戒を解いた。
「納得した。出来ればその小部屋を教えてくれると助かるが」
「カイナさん、流石に失礼なのでは……」
「知りたいのなら教えてやる。他にもな。それがお前達の目的だろう」
ぶっきらぼうとも言えるような口調でそう言い、賢者はその場に無造作に座り込んだ。長い髪が地面に垂れる。
「ギフトの使い方か? 魔王の倒し方か? 政治の話とか人間関係の話は面倒だから出来れば止めてくれ。ともかく、私に可能な範疇で答えてやる」
その言いぐさからは、俺達が事前に想像していたような超常的な存在の風格は無かった。
「あの、可能な範疇とはどの程度なのでしょうか」
「私が知り得るモノについて、だ。私を何もかもに精通していると思い込んでここに来た者も過去にはいたからな。……お前らもそのクチか? だとしたら残念だったな。万能の助言者など、どこにもいない。そんなものがいるなら私が頼りたいくらいだ」
賢者は自虐的に笑い、あっけないその真実を明かした、