勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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三十七話 神について

 不思議なほどに堅牢に作られた、石造りの地下道。賢者が示した()()とはそれを指していた。

 

 曰く、この地下道は永雪域全体に根を張るように広がっていて、俺達が遺跡と呼ぶ建物とその残骸に繋がるように作られているらしい。

 

「いやー、それにしても運が良かったっスよねえ」

 

 松明に照らされた道をひたすら歩く中、調子を取り戻したのが窺えるニタの気楽な声が響く。

 

「探していた相手が向こうから来てくれた上に、こんな便利な道の案内までしてくれるなんて。流石は賢者様っス」

 

「そうか」

 

 それに対し先頭の賢者は受け流すように応え、左右に分岐した道の内の右を選び、俺達を先導する。

 

 ──賢者と会うという目的を早々に果たした俺達が次に目指すべきは当然、帰還だった。これ以上永雪域(ここ)に用は無い。

 

 結果としてアスリヤは自分が望んでいたような話を聞けなかったのだろうが、だからといってここに留まっても意味はない。アスリヤがある程度復調してからすぐに帰還する。それで話はすぐにまとまった。

 

 そしてまとまった話の中には、()()()()()()()()()()というモノもあった。

 

『私の考えの証明と確信。その為に、失踪したという勇者を直接この目で見たい。出来れば対話も試みたい。私に勇者の現在地を聞くというアテが外れた以上、雇われだというそこの二人はともかくアスリヤ(お前)は地道に捜索を続けるしかないのだろう? それに同行させてくれ。少しは役に立てる。手始めに、地上を極力避けてここから出る手伝いをしよう』

 

 それを断る理由は無かった。賢者が居なくても地上を通らずに済む上俺達にはニタのギフトがあるとはいえ、俺達だけでは地下道の踏破は時間がかかるだろう。そうして双方の利を元に、俺達は今地下道を歩き帰還を目指している。

 

「……」

 

 ニタに比べ、復調した筈のアスリヤの口数は少ない。恐らく賢者の回答について考えているんだろう。

 

 ギフトの影響で、勇者(サフィ)は狂った。サフィに対し尊敬のようなものを抱いているらしいアスリヤからすれば、素直には受け入れがたい話だ。

 

 だがアスリヤの視点から見ればそれが正しいと思えるほどに状況が不自然だ。だからこその悩み。

 

 ──なら、俺の視点からは? 

 

 俺は見ている。アイツが自分を助ける為に集まった兵士達を皆殺しにしようとする様を。

 

 俺は聞いている。アイツの何か遠いモノを見て喋っているような不可解な言動を。

 

 それは、傍から見れば狂ったという答えを後押しする記憶だろう。だが俺にはそうは思えない。それ以前のアイツは変わっていなかった。マイペースで覇気の無い、過去の記憶通りのアイツだった。

 

 ……やはり俺は知るべきなのか。いや、知ろうとしたいのか? アイツのことを。

 

 ──いい加減、逃げるなよ。

 

 誰かがそう、嘲笑ったような気がした。

 

 

 ☆

 

 

「そういえば、さっきの賢者様の話で気になったことがあるんスけど」

 

「さっきの?」

 

「勇者が貰うギフトには思考誘導とかなんとかの話っス」

 

「ああ」

 

 地下道を歩く中、どこか気安い調子でニタが話題に出したのは【交信】に関する話だった。始めにこの話をしていた際はコイツは寝ていたが、起きた後に改めて賢者から話を聞いている。

 

 ニタとしては勇者云々に首を突っ込みたくないのか聞こうとはしていなかったが、アスリヤの希望で渋々頭に入れていた。アスリヤ曰く、今後もニタには仕事を依頼したいらしく、賢者の話は聞いておいて欲しいと言っていた。

 

 ここで断らなかったのはアスリヤが雇い主として優良だからだろう。金払いを惜しまない相手からの誘惑に耐えられなかったという訳だ。

 

「勇者が魔王討伐を嫌がった時とかの為にって話だったと思うんスけど、なんかやり方が回りくどくないっスか? 神様なんだから最初から絶対に裏切らない人を選ぶとか、神様自体が完全に勇者を操って魔王を倒させるとかの方が確実だと思うんスけど」

 

 軽い調子と反対に、その質問は賢者の自説に対する鋭い疑問のように思える。アスリヤも同じだったのか、小さく口を開けてニタの方を見ていた。

 

 アスリヤは【交信】の作用についてあるかないかで考えていたが、コイツはあったとした場合の疑問点、それも()に疑いを向けている。少し感心したような声音で、賢者は返答する。

 

「そもそもの話だな。逆に聞くが、お前達は神をどう捉えている」

 

「なんか凄い人……いや、神……?」

 

「お前は」

 

「……人間にギフトを与える何か」

 

「お前は」

 

「私達人間の繁栄を望む最上の存在。諸説ありますが、神殿ではそう説かれています。私はあまり信心深い方ではありませんが……」

 

「そんなものだろうな。お前達の認識は間違ってはいない。だがさっきの質問には明確な答えがある。()()()()んだ」

 

 大抵の人間が曖昧に捉えている神。それを切り捨てるような答えに、若干の緊張のようなものが場に流れた。

 

「裏切らない勇者を選べ、完全に操れ。ごもっともだが、そもそもの話というのならなぜ人間に戦わせる? 人間では及ぶべくもない上位の存在なら直接その手で魔王を倒せばいい。そうだろう?」

 

「それは、そうかもしれませんが」

 

「だがそれをしない。なら出来ないと捉えるべきだろう。同じく、思考誘導よりも確実に勇者を魔王と戦わせられるような方法も出来ないんだ。思考誘導は、神が出来る最高の干渉なんだよ。──私はな、神をそこまで絶対的な存在とは思っていない」

 

「わあ、神殿の神官が聞いたら卒倒しそうな考えっス」

 

「お前達は風に意志を感じたことはあるか? 流れる水に作為を覚えたことは? 時の経過に疑問を抱いたことは? ……神もそれと同じだ。この世界の当たり前を形作る法則(ルール)、それを運行する、あるいはそれそのもの。神とは(ことわり)だ」

 

「なんか難しいっス」

 

「そうだな……水車のようなものだと思えばいい。水の流れを受けてただひたすらに水をくみ上げる。そこに水車の意志はない。設計通りにただ正常に回り続ける。【交信】で聞こえる声も同じだ。声と表現するからそこに意志を感じてしまうが、言うなればあれは()()だろう。私が調べた限りでは、神とはそういうものだ」

 

「へえ、神様って水車だったんスね」

 

「そして、その回転を阻害するのが魔王、もしくは魔王の上に居る何かだと考えている。だからもし仮に、魔王がこの世を支配したとすれば」

 

「すれば?」

 

「──世界の姿は一変するだろう。水車の例で言えば、水の流れに対して本来とは()()()()()()()()ような。そんな不条理が起こる、かもしれない」




突然ですが、来週から完結までスパートをかける意味合いで毎日投稿をしていくつもりです。どこかしらで投稿されなかったりする日もあるかもしれませんが、それでも投稿頻度自体は格段に上がるかと思われます。
完結までの間どうか、本作にお付き合いください。
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