勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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三十八話 帰還

 一連の賢者の話は一息に飲み込める気がしなかった。コイツの考え方は俺からすれば独特すぎる。

 

 アスリヤも同じような感じだったが、飲み込めないなりに疑問点があったようだった。

 

「……仮に神が貴女の言うようなモノなのだとすれば、ギフトとは何なのですか? なぜ神は人間に、それも限られた人間にのみ不可思議な力を与えるのでしょう。魔王を倒す為だけを考えれば、そこまで多くの人間にギフトを与える必要は無いと思うのですが」

 

「さあな。私は神の性質について語っただけだ。なぜそうなのか、そんなことをするのか。それを厳密に知りたいのであれば神の成立過程を知る必要がある」

 

「成立過程……そんなもの、調べられる余地があるのでしょうか」

 

「あるさ。だから私はここに留まっていた。永雪域(ここ)には何かある。──とはいえ調べたからといって全てが明らかになるとは限らない上に、そこまで悠長にしている暇は無い。現時点での結論なら今でも出せるが」

 

「教えてください。勇者様に繋がるかもしれない情報は、全て頭に入れておきたい」

 

「……なぜ神は多くの人間にギフトを与えるのか。私はこれを安定化の為だと考えている」

 

「安定化……?」

 

「神が運行する、もしくはそのものである(ことわり)を、だ。お前は盤上遊戯の類をやったことはあるか? お互いの駒を取り合ったり、陣地を取り合うモノだ」

 

「あります。あまり得意ではありませんが……」

 

「アタシは割と得意っスよ。その手のゲーム」

 

「それと同じだ。神を指し手、ギフト持ちを駒と考えろ。神は自らの存在の安定化、すなわち勝利を目指して世界という盤上に(ギフト持ち)を増やしたいんだ。こう考えれば同じように説明がつく存在があるだろう」

 

「……魔王と、魔物」

 

「そうだ。魔王は神の対戦相手であり、魔物は魔王にとっての駒。だから魔物は人間を襲う。盤上を魔王へと傾かせる為。その先にあるのは、さっきも言ったような魔王が支配する世界だ。──ギフト持ちは、神にとっての駒であり、世界への楔なんだ。そして中でも特に強力な駒が勝負を決める為の勇者(切札)に選ばれる」

 

「……」

 

「お前は駒を動かす際、その駒に感情を込めるか? 込めないだろう。冷徹に駒の能力を測りただ勝利の為に動かす筈だ。神も同じく、自身の安定化という勝利の為に人間にギフトを与えているんだ。これは神に意志は無いという話に繋がる。盤上遊戯に例えたのも、それが理由だ」

 

「賢者様の話を聞いてると、神様とか勇者とかに対する有難みみたいなのが消えていく気がするっス。アタシは元からそういうの薄い方だと思うっスけど」

 

「有難みなんて感じる必要はない。ギフトを与えられたことに対する感謝も、勇者に選ばれたことに対する名誉も、全て人間が勝手に特別だと捉え浸っている価値観でしかない。確かにこの二つは特別かもしれないが、否定したければ否定すればいいし、軽視したいのならすればいい」

 

「その二つに振り回されてる賢者様が言うと説得力があるっスね」

 

「だろう」

 

「アタシは自分のギフトに不満はないっスけど、くれるならくれるでもっと活かしやすい、ラクな生き方ができるギフトが良かったとは思うっス。アスリヤちゃんみたいな傷を癒せるギフトとか。アタシがこのギフトを貰ったのにも、神様からすれば何か理由があるんスかね?」

 

「与えられるギフトの数や性質が個々によって違うのは、それぞれの適正が──」

 

 三人が話を進める中、俺は賢者のギフト持ちと勇者に対する擦れた考え方に、ある種の痛快さを感じていた。過去の自分が拘っていた価値観。それを丸々切り捨てられたように思えたからだ。

 

 俺は傲慢だった。自分以外の全てを薄っすらと見下して、自分こそが特別だと信じていた。今はもうかけ離れてしまった、己の在り方。

 

 ──いつからそうだったのか。ふと生まれた疑問は、答えが出ることなく言葉の中に埋もれていった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 賢者の案内を受けながらの帰還は行きに比べれば天地の差だった。寒さも雪も魔物との遭遇もない。何事も無く、俺達は短時間でニタがマーキングしていた出発地点へと帰って来た。

 

 雪と剥き出しの地表の境目。人通りなど滅多に無い筈のそこにあったのは、人影。

 

「アスリヤ様っ! ご無事でしたか!」

 

「貴方は……」

 

 人影の正体は兵士だった。それも、どこか見覚えのある。

 

「自分はアスリヤ様の帰還を待つ為にこの周辺で待機していた次第です。こうしてすぐに合流出来たのは幸いでした。王都から貴女へ至急、至急伝えなければならない情報があるのです」

 

「分かりました。聞きましょう」

 

「勇者様が──王都に帰還しました!!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 始まるのか、再開なのか、終わるのか。正しい言い方は分からない。だがこの時にはもう、目の前に近づいてたんだ。

 

 アイツともう一度向き合う、その瞬間が。

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