これは俺がまだ王都に来る前、つまりは生まれ育った村での話だ。
その村は取り立てて言う事も無いよくある村だった。当時は既に魔王が復活した影響で魔物は増え始めてた頃だが、今と比べればまだまだ呑気なもんだったよ。
そんな村のガキンチョ共の中に俺は居たわけだが、明確に一人嫌いなヤツが居た。
ソイツは村長の息子だった。いつもそれを笠に着て威張ってるようなヤツだった。ただ、威張ってるだけかと言われればそうでもない。
村の側に魔物が出たなんて噂が流れた時にはガキ共を束ねて不用意な行動をしないようにしてたし、遊んでる時も自分だけは周りを気にしてるような素振りを見せた。
まあなんだ、偉いヤツの責任みたいなのをガキなりに果たそうとしてたんだろうな。それはそれとしてクソ野郎だったが。
しかも、そんなクソ野郎はなんとギフトを三つも貰っちまった。トリプルってヤツだ。
そっからは更に威張るようになったよ。ギフトって分かりやすい力を持ったのもあったんだろうな。だからあんなことになったんだ。
ウチの村が勇者の故郷ってのは知ってるよな。そうそう、今行方不明だってウワサの。
だからさ、神託ってのがあったんだよ。この村から勇者が生まれますって事前のな。それに反応したのがそのクソ野郎だった。
勇者は大体ギフトをより多く持ってるヤツがなるもんだ。だからソイツは宣言したんだ。俺が勇者だってな。
確かに村にはソイツ以上にギフトを持ってるヤツは居なかった。俺だって面白くないとは思いつつも、コイツの言う通りなんだろうなあって思ってたくらいだ。
――ただ現実はお前も知っての通りだ。勇者は
で、ソイツは勇者が誰なのか分かったその日に騒ぎを起こして、村から出て行ったんだ。それっきり話は聞かねえ。
清々しただろうな、って思ったか?そりゃしたさ。散々威張ってたヤツの鼻がポッキリ折れてどっかに行ったんだからな。ざまあみろって思ったね。
ただな、別にそればっかりじゃなかったんだ。自分が勇者だって宣言した後のアイツは毎日毎日魔王と戦う為の訓練をしてた。俺が村を、世界を守るってな。
多分それは本当だったんだ。口だけのヤツじゃなかった。実際、村に来た魔物と戦ったことだってあった。そん時はバカなガキの一人が反骨心と興味本位でその魔物に近づいてな。
危うく死にかけたとこを駆け付けて、ソイツを守りながら魔物を倒しちまった。ギフトがあるとはいえ、まだ毛も生え揃ってないようなガキがだぞ?
クソ野郎ではあった。だが勇者になるって気持ちも力も本物だった筈だ。……じゃなきゃ俺は、今頃ここにはいねえ。
だから思うんだ。ソイツが勇者でも良かったんじゃないかって。まあ、こんな風に感じてるのは俺だけだろう。すげえ人気だもんな、実際の勇者は。お前も好きなんだろ?
滅茶苦茶強いし、魔物退治にも意欲的。国のお偉いさんとも上手くやってるんだろうし、それでいて庶民にも気さくだ。
街で兵士と歩いてるのを見かけて、声をかけてみたら反応して貰えたって、お前この前言ってたよな。そりゃあ人気も出るもんだ。理想の勇者、なんだろうな。アイツは。
――だがな、俺は怖いんだよ。魔物退治に意欲的?庶民にも気さく?誰だそれは。アイツはそんなんじゃなかった。常に受け身で協調性なんて無くて、何を考えてるのか何をしたいのか良く分からんヤツだった。
……実はな、最初に話した勇者になれなかった野郎と、勇者になったあの女は仲が良かったんだよ。いや、あれを仲が良かったというのは違うかもしれねえ。
あの女はいつもアイツの傍らに居た。アイツもそれを当たり前のように受け入れてた。アイツが前を歩いてあの女がその後ろを付いて行く。
アイツが何かを言ってあの女がそれに従う。いつの間にかそうなってた。思えば、あの野郎の偉ぶりが増していったのは、アイツらが二人で動くようになった時くらいだった気がするな。
……ともかく、あの女が自分から何かをしたり言ったことなんて見たことなかった。
そんな女が、まるで人が変わったように理想の勇者をやってやがる。いつからそうなったのか知らねえ。勇者になった直後あの女は王都に連れていかれたし、俺が王都に来たのはそれから時間が経ってからだからな。
……そうだな、確かに人は変わる。勇者になったってんであの女は変わったのかもしれない。所詮ガキの頃の話だ。王都に来て色んな人間と関わって、あの野郎のことなんてもう忘れててもおかしくない。
ただ……思うんだよな。アイツらは妙な関係だった。でも奇麗に収まってはいたんだ。そんでそれは、あの野郎が勇者だったなら今もそのままだったように感じるんだよ。あの野郎が勇者でも良かったって思うのはそれも原因だ。そっとしとけば何事も無く済んだ流れが、明確に逸れちまったような。
……勇者が行方不明だって聞いてから、ずっとそんな感じがしてならねえ。何かが起こる、もしくはもうとっくの昔に起こってるんじゃないかってな。
――そうだな。杞憂であることを祈ろう。全ては俺の考えすぎだったで、終わるように。