勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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四十三話 約束

 ギルド。そこはムラクの中心と言っても良い場所だ。ここで傭兵として生きていくなら避けては通れない。だからこそ昼夜を問わず騒がしく、人気は絶えない。

 

 そんな場所が今、静寂に満ちている。寂れた店のような雰囲気はどこか落ち着きを覚える。

 

「……ふう」

 

 食事の後味を水で流し込めば、自然と息が漏れ出た。暇な傭兵の大抵はもう王都へ向かっただろう。もう到着してるヤツも居るんだろうな。

 

 帰って来たという勇者。神に祈る為の大がかりな儀式。集められたギフト持ち。邪推はいくらでも出来る。賢者の話を信じるなら尚更だ。

 

 ランドから話を聞いてから数日、何度かこの依頼について思い起こしている。今は休みたいと結論付けたのにも関わらず。

 

 いや、あの時休みたかったのは本当だ。現に身体の調子は悪くなく、休息を選んだことに後悔はない。

 

 ──なら、今は? 今の俺は何がしたい。

 

 ……思えば、あの日からだ。こんな風に頭を使うようになったのは。あの日以前の俺はもっと単純に生きていた。

 

 何も考えなければあの日の出来事が頭を過る。もう関係は無いといくら言い聞かせても。

 

 流儀。生き方。俺のやり方。もしかすれば、そんなものは所詮──。

 

「……レリアか」

 

 突如塞がれた視界、場所、そして意識せずとも届いて来る微かな甘い匂い。誰が後ろに居るのかは明確だった。

 

「張り合いが無いわね。もっと取り乱してくれても良いのに」

 

 目元を微かに撫でながら、するりと手が退かされ視界が晴れる。そこから流れるように、レリアは俺の対面に座った。

 

「久しぶりね。あの子について話してた日以来かしら」

 

「そう久しくもないだろ」

 

「まあね。……どうだった? あの子と冒険してきたんでしょ。何かあったりした?」

 

「何も。お前が喜びそうな話は持ち合わせてない」

 

「ええー」

 

 駄々をこねる子供のような声を上げ、レリアは自らの髪をくるくると弄る。

 

「まっ、残念だけど黙して秘めるべき話もあるわよね。それはあの子と貴方だけの話なんだから。……ねえ、貴方は例の依頼、受けないの?」

 

 話題を切り替えた先は、丁度直前まで思考していた内容だった。それ故に、肯定も否定も返せずただ黙るしかない。

 

 そんな俺を咎めるように、レリアはぺらぺらと口を動かす。

 

「みんな飛びついちゃって、お陰で仕事は暇でいいんだけどね。やっぱり聞きなれた喧噪が無いのは寂しいわ。しょうもない言い争いも、何回も聞いたような武勇伝も、しつこい誘いも、無いなら無いで物足りないの。そういう空気が好きなんでしょうね、私は」

 

「……」

 

「──貴方は迷ってるつもりなのかもしれない。何本も枝分かれした道があって、そこで立ち尽くしていると。でもいつだって、進む先なんて一つしかないって思わない? 進んで、立ち止まって。それを迷っていると感じてるだけなんだわ」

 

「何が言いたい」

 

「結局は進むしかないってこと。頭の中でいくら理屈をこねても、道の先に何があるかを知る事はできない。見て、聞いて、感じて。やっと相手のことが分かる。自分のことも。自分が何をやりたいのかも」

 

 俺はレリア(コイツ)が嫌いというわけではない。だが微かな苦手意識はあった。こうして他人を見透かしたような言動を取ってくるのがまさにそうだった。

 

 そして、それが不快というわけではないのがコイツの質の悪いところだ。図星を突かれたように感じ、嫌いでも不快でもなく、思わず一歩後ずさりたくなるような。それがレリアという女だった。

 

「貴方は今、行きたいんじゃない? 王都に。なら行けばいい。理由なんて所詮後付け。そこに何を求めてるのかは、それこそ行けば分かるかもね。ちなみに私も、これに乗じて行ってみようと思ってるわ」

 

「……何でだ?」

 

「旅行がしたいから。ここに居てもつまんないしね」

 

「──は」

 

 あまりに単純な答えに、なぜか笑いが漏れる。そんな俺をレリアは何が面白いのか微笑みながら見つめていた。

 

「私は先に行ってるわ。貴方も気が向いたら来れば良い。もしあっちで会えたら……デート、しましょう?」

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