勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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六十話 愛

 ──私にとって恋とは、一夜の熱情だった。

 

 相手への理解を深める程に高まる支配欲、優越感。それこそが恋だと思っていた。初めての夜でピークに達して、相手が次をせがむ頃にはもう白けている。そういう刹那的なモノだと。

 

 カイナへの感情は、今まで何度もしてきたそれとは全く違った。

 

 どうあがいても相手を理解出来ないし、相手が自分をどう思ってるのかすら読み取れない。身体を重ねた次の日にあの幼い女の顔が見えて、強烈な苦味のような感覚を味わう事があった。

 

 今まで味わった事のない感覚。ふとした時に相手のことを考えていて、無性に相手に会いたくなって、自分に夢中になってほしいなんて自分勝手で他責じみた欲望が湧いてくる──執着だった。

 

『──ははっ』

 

 ある時ふと、何度目かの食事の最中にカイナが笑った事があった。

 

 それ自体は珍しい事じゃない。皮肉的、あるいは自虐的に笑う事はあった。

 

 でもその時のカイナは、下らない話にただ笑っていた。まだ幼さの残る少し子供っぽい顔で。

 

 その瞬間は、彼の心を覆う煙すら晴れていたような気がしたけど、実際は分からない。だって私はギフトを使っていなかったから。

 

 彼という人間を理解出来た気はしない。その笑みがどういうモノかも分からない。それなのに私は、彼のその表情に釘付けになって。

 

 ああ、これが恋か。

 

 なんて、それまでの価値観が簡単に塗り変わっていくのを感じた。

 

 

 ☆

 

 

 結局、カイナが本当の意味で私に振り向いてくれたことなんて無かったんだと思う。私では彼の心を晴らしきる事は出来なかった。

 

「やっと……向き合うって決めたのね……アナタが思い悩んでいた何かに……」

 

 だから助言じみたことをしてみたり、嫉妬してくれないかなってあてつけで他の男に手を出してみたり、彼に近づこうとする女に嫌がらせをしてみたり。 

 

 奔放で掴みどころの無い女。そんな人物像を演じることで自分を守っていたのかもしれない。愚直で直球な想いをぶつけて、それでも否定されたらきっと耐えられないから。内心では子供みたいに彼をねだってた癖に。

 

「やきもき、してたのよ……いつまでうじうじしてるんだって……やりたいことがあるんでしょって……だから、祝福するわ……アナタが本当の自分を取り戻すことを……」

 

 でも……そこまで悪い人生じゃなかったと思う。私はギフトのせいでどこか冷めた気持ちで人との交流をこなしていた。でもカイナにはそうはいかなかった。

 

 彼と関わり合う度に、嫉妬して、喜んで、悔しがって、期待して、苦しんで……心が動くのを感じてた。

 

 今ではそれ自体が、尊いモノだったように思う。

 

「……あのね、こんなこと言ったら、アナタは笑うかもしれないけど」

 

 心残り自体は沢山ある。その中でも一番は、晴れ渡った心の彼を見られなかったこと。

 

 でもきっとそれはすぐに叶う。それが私の手によってではないことは、やっぱり悔しいけれど。

 

「愛してる」

 

 ──ねえ、本当のアナタは、一体どんな心をしているのかしらね?

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