勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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六十一話 秘密

 二人が遭遇したのは、全くと言っていいほどの偶然によるものだった。

 

「カイナさん!?」

 

 瞳に生々しく映る破壊の跡。その中央を悠然と歩く後ろ姿は、アスリヤにとって見過ごせない光景だった。

 

「……お前か」

 

「ここで一体何を……いや、あの依頼を受けたんですね」

 

 勘違いは正されないまま、矢継ぎ早にアスリヤは言葉を続ける。

 

「もう儀式への参加なんて考えている暇はありません。この惨状はここだけじゃなく、王都のあちこちで広がっています。……賢者様の懸念は遠からず当たっていたんです。あの人はもう、勇者なんかじゃない」

 

 そう呟くアスリヤは気勢こそ保っているものの、表情には明らかな消耗が見えた。そこにカイナとの別れ際に見せたような晴れやかさは無い。

 

「私はこれから彼らのような生き残った人々を出来る限り集めて、折を見て王都から脱出します」

 

 背後に立つ十数人の生き残り。彼らは総じて不安と怯えに支配された表情でアスリヤの背を見つめている。

 

 勇者が真意を語りその場を去った後、アスリヤはそれこそが今自分がすべきことだと定め、半ば無理矢理に意志と身体を働かせた。

 

 これまで貫いてきた気高い生き方に身を任せる。そうしなければ、膝をついたまま動けないと。

 

「だから、どうかカイナさんも来てください。この辺りがいつまでも安全だとは限りません。それに貴方が居れば、負傷者の救出もスムーズになる」

 

「それは……依頼か?」

 

「え? い、いえ、そういう訳では無くてですね、貴方自身の為にも私達と共に動いた方が……」

 

「──はっ」

 

 何故カイナが笑ったのか、アスリヤには理解できなかった。それだけではない。少し言葉を交わしただけで漂う奇妙な雰囲気。

 

 普通であれば、依頼で訪れた先でこの状況に遭遇すればどんな人間であろうと負の感情、もしくは警戒心を抱き、それは所作や行動から滲み出て来る。だが目の前の男は違う。

 

 この状況に危機意識を持っていない。驚くほどに、自然体だった。

 

「生憎だがそれは無理だ。俺はここに用がある」

 

「用……?」

 

「じゃあな」

 

「っ……待ってください!!」

 

 力強く、アスリヤはその手を握っていた。握った本人ですら驚くほどに、行かせてはならないという意思を込めて。

 

「ダメなんです……! もし勇者様と……彼女と遭遇してしまえば、たとえ貴方でも殺される! どんな目的であったとしても諦めてください。……依頼じゃありません。力を貸せないというのならそれでも良い。ただ私と一緒に、逃げてください」

 

 言葉を繋ぐほどに力が籠った。女が絞り出した、心の底からの懇願。

 

 しかし。

 

「アスリヤ、お前に言っておかなければならないことがある。──馬車で移動中だった勇者を襲撃したのは、俺だ」

 

 それを見下ろす男は──瞳に一切の揺らぎを作らないまま、ここまで黙していた秘密を語り始めた。

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