勇者になったアイツと、なれなかった俺   作:ジョク・カノサ

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六十五話 vs サフィ・リゴール

「じゃ、やるか」

 

 戦いは始まった。しかし両者共に、その場から動く事は無い。

 

 宣言後も悠長と言えるほどに身体を解し続けるカイナ。対して、サフィが立ち止まっていたのは混沌とした思考によるものだった。

 

(戦う? 私と、カイくんが?)

 

 無理矢理に始まった、始まってしまった()()。相手を打ち倒し、殺傷する為の行為。

 

 サフィにとってそれ自体は慣れ親しんだモノだった。魔物に、そして人に。

 

 勇者としての人生の中で、戦いと呼べる程に拮抗しあった経験は少なくとも、他者への殺傷行為を躊躇うような初心(うぶ)さは既に無い。

 

(カイくんが望むなら従う。従うけど……戦うって、何? どうやって?)

 

 しかし、その力をカイナに向けるというこれまでに無い状況が、どうしようもなくサフィという存在を鈍らせていた。

 

「……あっ、あのね、カイく──」

 

 何かの冗談ではないか。縋るようなその問いかけは、無言の視線によって途切れた。

 

 冗談ではない。サフィは改めて理解する。そして……答えを出した。

 

「……【廻天】【ベレ】!」

 

 サフィは後方へ宙を踏み、カイナとの距離を取りつつ、その間へと小さなヒトガタを出現させた。

 

 半透明の翼を持ち、彫刻のように真白い身体の顔の無い十三体の赤子。ギフトによって出現させたサフィの従僕だった。

 

「うん……うん、これで良い……良いよね」

 

 探るように、実感の伴い声音でサフィは呟く。自らがカイナと戦う。その状況を前にサフィは答えを出した。

 

 ギフトによる従僕も自身の力の内であり、カイナの命令には沿っている。

 

 自らが直接カイナと戦う事に対する生理的とも言える拒否感が、この判断を生んだ要因の一つだった。

 

「……それが、お前のギフトの一つか」

 

 距離を詰めるでもなくその場を漂い続ける赤子達に対し、カイナの表情は変わらない。

 

 魔物の一匹や二匹ではどうにも出来ない。一体一体がそれ程の外見にそぐわない危険度を持っている。それが十三体。そう直感しつつも。

 

「ふぅ──」

 

 カイナを深く息を吐き、赤子の先に立つサフィへと再び視線を移す。

 

 生理的な拒否感。それがサフィにこの選択を取らせた要因である。

 

 そしてもう一つ。サフィの中で無意識下に育まれていた認識。サフィ自身でさえ気づかず、見つめ直そうとすら至らなかった認識。

 

「お前、俺の事舐めてんだろ」

 

 一体の赤子が弾け飛んだ。それに呼応するかのように周囲の赤子が反応し、一箇所へと密集するが──既にそこには誰も居ない。

 

「……え?」

 

 従僕の消滅は連鎖する。殴り潰され、蹴り潰され、踏み潰され、赤子達は数を減らしていく。たった一人の肉体によるその蹂躙を、カイナの言葉を、サフィは受け止められていなかった。

 

 ──勇者一行の一人、アスリヤはサフィの力を絶対視している。それはサフィへの信頼を失った今であっても変わらない。

 

 エルシャ最強、ともすれば世界最強。過去に前例の無いギフト所持数とそれらを使いこなす本人の器量。最も神に愛された勇者。敵うとすれば魔王のみ。それ以外に匹敵するであろう相手など、どこにも居ない。

 

 自分であろうが、誰であろうが、サフィから確かな敵意を向けられれば敗北……死以外の結果は無いと。

 

 そしてそれは、程度の差はあれどサフィを知る者であれば誰もが同じような認識を抱いていた。

 

 敵うとすれば魔王のみ。それ以外に匹敵するであろう相手など、どこにも居ない。

 

 ──本当に? 

 

「聞こえなかったか? ならもう一度言う」

 

 最後の赤子を踏み潰しながら、その目は女を射抜く。

 

「舐めてんだろ、俺を」

 

 その瞳は冷たくも、確かに燃え盛っていた。

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