最強の落ちこぼれ王女イザベラ   作:ソロモンは燃えている

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8 ガリア解放戦 終章

 

 

 

 これは、シャルロットにとって賭けだった。

 ジョゼフはイザベラに無関心で親子の関係は上手くいってないと噂されていた。

 実際に父親が殺される前ですら、彼らが家族として接している姿を見たことはなかった。

 

「そうですぞ、弟を殺して王位を奪うような非道な男が玉座に座り続けていることだけは許せません」

 

「我らも女王となったイザベラ様の沙汰に従います。

 なにとぞ、ジョゼフだけは討たせてもらいたい」

 

「邪魔になればシャルル様を殺すような冷酷な男です。

 イザベラ様とて、いつ殺されるか分かったものではありません。

 イザベラ様にとっても悪い話ではないでしょう」

 

 オルレアン公派の貴族達もシャルロットの言葉に追従する。

 彼らは、イザベラにも利があると本気で思っている。

 

 ジョゼフの政権下でのイザベラの立場は不確かなものだと思っていた。

 事実、ジョゼフは後継者を指名していない。

 イザベラは、ジョゼフの唯一の娘でありながら王位を継ぎ女王になると決まっていないのだ。

 婿として迎えた男を彼女の息子が王位を継ぐまでの繋ぎとして王にする可能性もある。

 

 だからこそ、この機にジョゼフを排除して女王となるという誘いに乗ってくる可能性もあると判断した。

 立場を盤石に出来る上に自分達の支持も得られる。

 それは、彼らが自分の見たいものしか見ない故の幻想であったが…

 

「……だまれ」

 

 オルレアン公派を冷たい殺気が貫く。

 

「シャルロット……やっぱり、お前は何も分かっていない。

 私もお前の仇の一人なんだよ」

 

「…どういうこと?」

 

「おじ様を殺したのはお父様だけど、おじ様を社会的に殺したのは私だ。

 おじ様が王位継承争いにおいて、裏金を使って多数派工作をしていたことを当時の陛下、お祖父様に報告したのは私なのだから」

 

「えっ……うそ」

 

 思いがけない話に呆然とするシャルロット。

 

 一方、オルレアン公派の貴族達は……

 

「出鱈目を言うな!

 シャルル様がそんな後ろ暗いことをするわけがない!」

 

 敬愛するオルレアン公の名誉を貶めるような話に否定の言葉が次々と上がる。

 

「事実だよ。

 長男が王位を継ぐべしと考える伝統派だけでなく、無能王子なら傀儡として扱いやすいだろうと考える貴族達もお父様を支持していた。

 だから、お父様の派閥もそれなりの規模があった。

 なのに、扱いやすい王を求めていたはずの貴族達が突然おじ様の支持に回りだした。

 北花壇騎士団長として彼らの真意を探っていると不自然な金の流れに気付いたのよ」

 

 その金の流れをたどっていくと……

 

「…お父様にたどり着いた」

 

「そう言うことさ。

 利用しようとした貴族達の弱みを握り、逆に従えようと動いていたお父様と違って、貴族に弱みを見せたおじ様には王位を継がせることは出来ないと判断されて、王位継承争いから脱落した」

 

 動揺するシャルロットに追い打ちを掛けるように続ける。

 

「それで終わればよかったけどね」

 

「まだあるの?」

 

「お父様が王位を継承したことで窮地に陥った貴族達が巻き返しを図っていた。

 8割近い貴族達による反乱。

 国が荒れるし、その後に立つ王権は貴族に弱みを握られた王だ。

 反乱の旗頭とされたおじ様を排除するのは王族としての義務だった。

 お父様が手を下さなければ私が殺していた」

 

 それが、ガリア王家の裏の顔を掌握する北花壇騎士団長としての務め。

 イザベラには、シャルロットにはない王族としての信念と誇りがあった。

 

 からん

 

 シャルロットの手から形見の杖が落ちる。

 

 ここでシャルロットの心は完全に折れた。

 ずっと、父は権力を望むジョゼフに理不尽に命を奪われた被害者だと思ってきた。

 でも、実際は討たれるだけの理由があったのだ。

 

 最初から反乱を起こすことが当然だと言うオルレアン公派の態度に引っかかるものを感じていたシャルロットは、イザベラの話を否定できなかった。

 

「ううっ…」

 

 膝をつき、涙するシャルロット。

 

「……タバサ」

 

 そんなシャルロットの肩に手を置き、寄り添うキュルケ。

 その周りには、どうにか助けられないかと悩むルイズやサイトの姿がある。

 

 シャルロット、あんたは周りの人に恵まれていたんだ。

 おば様だって、心を取り戻してトリスティンに亡命した。

 復讐を捨て、周りを見れば、そこに幸せはあったんだよ。

 

 自分にもヴラドやビビアンがいてくれた。

 シャルロットがすべきことは、オルレアン公派や教皇の誘いに乗ることではなく、彼らと誠実に向き合い、共に生きることだった。

 

「陛下、反乱の鎮圧は完了しました」

 

 戦闘は終わり、シャルロット達には、これ以上抵抗する意思もない。

 後は、国王による沙汰が下されるのみ。

 

「うむ、よくやった。

 イザベラよ、此度の反逆者に対する沙汰も任せる。

 見事、裁いてみせよ」

 

 思いがけない言葉に驚き、ジョゼフの顔を見るが、相変わらず表情から真意は読めない。

 

 私にシャルロットを裁けということか。

 

 お父様らしくないな。

 確かに幼いときは妹のように可愛がっていたシャルロットを処断することに良い気はしない。

 だけど、シャルロットは王族として超えてはいけない一線を超えてしまった。

 これでお父様に反意を抱くようなことはない。

 それくらい分かっているはず。

 

 いずれにせよ王からの命が下された。

 イザベラが彼らへの処分を言い渡す。

 

「今回の戦争に加担した貴族達は、反逆罪として処刑。

 シャルロットも、その首謀者として処刑する」

 

「そんなっ!」

 

「首謀者は我らです。

 シャルロット様には、どうか寛大な処置を!」

 

「うるさい、黙れ!

 お前達は過去から何も学んでいないようだな。

 おじ様はお前達が勝手に動いたことの尻拭いをさせられたのだ。

 シャルロットも同じこと。

 下の者の行いの責任を取る。

 それが王族というものだ!」

 

「なあ、どうにかタバサだけでも許してもらえないか?

 タバサはずっと辛い思いをしてきたんだ。

 あんたにとっても従姉妹だろ」

 

 現代日本の価値観を持つサイトは、父を殺され、母の心を壊されて人質にされたシャルロットの境遇に同情していた。

 

 確かに個人として見れば同情の余地がある。

 

 父の死も、母が人質にされたこともオルレアン公派の動きを抑えるためのもの。

 今回の争いの原因は、だいたい好き勝手に動く貴族のせいと言える。

 

 それでもシャルロットは明確な悪なのだ。

 王族の血を引くが故に…

 王族にとって、自らの派閥を押さえられないことそのものが罪となる。

 

「国家反逆罪は、どこの国でも極刑と決まっている。

 ましてや、シャルロットはその旗頭になった。

 その責任を負う覚悟がなければ、誘いに乗るべきではなかったのさ」

 

 イザベラは、サイトの懇願をバッサリと切って捨てる。

 

「お前は、自分の心配をした方がいい。

 お前達は捕虜だ。

 それぞれの国に身代金と引き換えに引き渡すことになるが、もしそれを出し渋るようなら未来は暗いものになるぞ」

 

 身代金が支払われない捕虜は、労働奴隷とされるのが通例だ。

 貴族ならばよっぽどのことがない限り身代金は支払われる。

 だが、平民のために身代金が支払われることはまれだ。

 貴族に比べて平民の身代金などたかが知れている。

 それでも、平民のために金を出した例はほとんどない。

 

 まあ、ルイズの使い魔としてヴァリエール家が出すだろうが。

 

 シャルロット達は拘束され、牢に連行されていった。

 

 

 

 玉座の間には、ジョゼフとイザベラ達だけが残る。

 

「見事な裁きだった。

 褒美をやらねばならぬな」

 

 イザベラがジョゼフの前に跪き、その後ろにヴラド達が控える。

 

 王は、手柄を立てた者を公正に評価して、その功に報いなければならない。

 今、連合軍を追撃しているガリア軍も、後日、論功行賞が行われる。

 

「まずはイザベラよ。

 これからは魔法の訓練を控えよ」

 

「なっ、なぜですか!」

 

「そなたの魔法の師から嘆願がきておる。

 どうか無茶な魔法の訓練を止めさせてほしいとな…」

 

 その言葉に押し黙るイザベラ。

 幼く、なんの力もなかった自分を唯一まともに見てくれた師の言葉。

 師だけではない。

 信頼する部下やビビアン達からも同じことを言われてきた。

 それでも止まれないのだ。

 

「努力せずにはいられない。

 立ち止まることは、自分を否定することになると思っているのだな」

 

 その言葉にイザベラは驚いていた。

 自分に無関心だと思っていた父親が、存外自分のことをしっかりと見ていたようだ。

 

「努力を止めよとは言わぬ。

 これからは別のことに努力を費やせということだ」

 

「……別のこととは?」

 

「イザベラよ、そなたを正式に余の皇太女とする。

 今更、反対する者はおるまい。

 いずれ余の後を継ぎガリアの女王となるのだ。

 これからは公務や公式行事にも参加してもらう。

 魔法ではなく、為政者として、良き女王となるために努力せよ」

 

 そこで、イザベラは気付く。

 いつからかは分からない。

 それでも、ジョゼフはイザベラを見ていた。

 

 その努力を認めてくれていたのだ。

 

「イザベラよ、そなたは余などより余程王に相応しい」

 

「いえ、そのようなことは…」

 

 あまりに手放しの賞賛に思わず否定の言葉が出る。

 イザベラの目は節穴ではない。

 王としてジョゼフが上げてきた功績を正しく評価している。

 

 ジョゼフが虚無の系統であることには気付いていたが、それ抜きにしてもジョゼフは希代の名君だった。

 

「余がシャルルを殺したのは国のためではなく、個人的な感情によるもの。

 そんな矮小な男が国王の器であるはずがない。

 そなたかシャルロットに殺されるのが相応しいと思っていた」

 

 ジョゼフが吐露する内心はイザベラの予想通りであったが…

 

 思っていた。

 

 過去形?

 

 それは、今はそう思ってないということ。

 

「ただひたすら前に進み続けるそなたの姿を見て、このままではいけないと思ったのだ」

 

 思わずジョゼフを見つめるイザベラ。

 そして、気付いた。

 ジョゼフの目の奥に、確かにイザベラへと向けられた優しさがあることに…

 

「今更、都合が良いことは分かっておる。

 だが、これからは余の後継者として支えてほしい」

 

 イザベラの目から涙が溢れる。

 報われた。

 幼少の頃より、努力の才能があると信じて自分をいじめ抜いてきた。

 辛くないわけではなかった。

 それでも、その唯一を否定すれば、自分には何も残らない。

 その恐怖からどうしても止まることが出来なかった。

 

 これからも努力は続けるだろう。

 それでも、周りの人が心配するような努力は止めよう。

 そう思えた。

 

 イザベラは国民の歓呼の声に迎えられて立太子された。

 後に女王として亜人との融和を掲げ、ガリアに華の如き繁栄をもたらす。

 

 

 

 後の歴史家は語る。

 ジョゼフ王とイザベラ女王の時代こそが歴史のターニングポイントだった。

 彼らによってガリアはハルケギニア唯一の超大国に押し上げられたのだと。

 

 

 

 

 

 

 後日談

 

 サイト達は、身代金が支払われて無事にトリスティンに戻ることが決まった。

 だが、彼らの顔は暗い。

 先日、シャルロットがオルレアン公派の貴族と共に処刑されてしまった。

 

 サイトは、自分の不甲斐なさを悔いていた。

 自分は虐げられた少女を救う英雄(ヒーロー)なのだと思っていた。

 でも、実際は助けることができずに死なせてしまった。

 

 向こうにもそうする理由があったと知っても、まだ何か出来ていたはずではないかと考えてしまう。

 

 何もできず、ただ友人を死なせてしまっただけ。

 自分達なら、どんなピンチも切り抜けられると思い上がった末の結末だ。

 これから先、ずっとこの苦い思いを抱えて生きていくことになる。

 

 そんなサイト達の前に見知らぬ少女が姿を見せる。

 平凡な顔の栗毛の少女。

 だけど、その小さな体が死んでしまった少女を思い出させる。

 

「私もみんなと一緒にトリスティンに行くことになった」

 

 そう言って、首に掛けていたネックレスを外すと姿が変化する。

 

「タバサ、貴女は処刑されたはずじゃ!?」

 

 そう、少女の正体はシャルロットだった。

 

 処刑されたのはスキルニルで用意した偽物。

 本物のシャルロットは、フェイスチェンジの魔法が込められたネックレスを一生着け続けることを条件に国外追放で済まされた。

 

 スキルニルもネックレスもジョゼフが用意したものだった。

 

 シャルルを殺した直後、シャルロットに自分への殺意を植え付けるために追い詰めた負い目があった。

 シャルロットに王族としての教育を施し、オルレアン公派に利用されないように育てる選択肢を取らなかったからだ。

 

 そして、幼い頃のイザベラがシャルロットを妹のように可愛がっていたことも覚えている。

 私情を抑えてシャルロットに処刑を宣告したことで次期女王としての資質を示したイザベラへの配慮でもあった。

 

 父親として何もしてやれなかった男のせめてもの償いでもあったのだろう。

 

「シャルロットは処刑されて死んだ。

 私はただの平民タバサ。

 もう二度とガリアに足を踏み入れることは出来ないけど、母様と生きていくことは許してもらえた」

 

「そうか、良かった。

 タバサが生きていて、本当に良かった」

 

 サイトはもちろん、ルイズやキュルケ達も涙してシャルロットの無事を喜んでくれた。

 こんな事に巻き込んでしまった自分をこんなにも心配してくれていた。

 

 私は何を見ていたのだろう。

 母様がいて、こんなにも温かい友達に囲まれていた。

 なのに復讐に囚われて、彼らを危険に晒してしまうなんて。

 もう間違えない。

 本当に大切なものにようやく気付けたのだから。

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