砲艦外交の前に   作:休日

1 / 36

転移前はこんな世界です
【挿絵表示】



あらすじ:これは一つのルートであります。世界は幾つもの枝に分かれております。

 南天条約機構の北侵により中立国「ジルクスタン」「中華連邦」は遺跡を目的とした侵略戦争によって3000万の膨大な兵力とKMF、浮遊航空艦隊、30個から成る空母戦闘群を送り込まれ、大打撃を受けて荒廃。
 事ここに至りもはや過去の蟠りに気を取られているわけには行けないと天子の忠実な臣下は、大日本帝国に救援を要請。

 大日本帝国も中華連邦が南天の勢力圏に取り込まれるのは危険に過ぎると、時の帝の過去にこだわっている時ではないという国民への鼓舞と共に、対南天で中華連邦側で参戦。

 この動きにブリタニアも反応し、日本の背を守るのはわが国である。そして悪しき神の自由にさせてはならないと、南天最高指導者創造主クリエイター=Lを名指しで批判。

 南天に与していていたこの世界で初めてN号兵器を使用した高麗共和国と、高麗に巻き込まれるような形で大清連邦は帝国陸海空海兵隊四軍1,200万の軍勢に三日で踏みつぶされ、高麗共和国大統領、李・承朝はN号兵器使用の大量殺人によりA級戦犯として死刑に。清国の宦官たちや高麗共和国高官たちも逃亡か死刑かの道をたどっていった。

 そんな中、中華戦線でも“浄化”という大量殺戮が行われており、大戦全体では8000万人の命が失われていた。AEUオスマントルコ戦線では神聖ブリタニア帝国のチェ・ゲバラ伯爵の活躍などもあり、南天軍が大きく浸透してくることはなかった。

 しかし、中華連邦は国土の実に40%を蹂躙されジルクスタンは全土を蹂躙。大量の死者を出し、復興には長い年月がかかるものと考えられていた。

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・AEU・中華連邦・ジルクスタン・大清連邦・抗t¥来共和国、そして南天条約機構。
 世界のほぼ全域が参戦した第一次世界大戦は大きな爪痕を残し終結を見た。


 ようやく平和が訪れる。だれもがそれを望んでいる中、突如として北側諸国は異世界へと転移してしまうことに。

 異世界についたころ、日本とシーランド王国の位置だけが何故か欧州よりも北西へと転移するという不可思議な現象が起きる。そして、日本の聖地である神根島でもある異変が起きていた。


1砲艦外交の前に

 

 

 

「……これが、トウキョウ疎開と同じ都市、ですか。まるで違う、違います造りも何もかも。それにこの人口の多さは何? 明らかにペンドラゴンの人口を超えております」

 

 桃色髪をポニーテールに結わえ、タイトな白いスカートに身を包む少女は。

 

 同じくして桃色髪をポニーテールに結わえ、タイトな白いスカートと、薄紅色のひらひらとした羽が舞う、腰半分を覆うスカートを身に着けた女性に対してつぶやいた。

 

「いやはや全くだねえ。口伝で耳にしてはいたけれど、これほどの、こんなとてつもない大都市だとはよもや計算外だった。600,700,800,900mのハイパートールが当たり前のように林立し、太陽の光を遮り、同じくらいの高さの超高効率な太陽光発電のパネルがそこかしこと…………。私の判断はどうやら最善だったようだ。このような大都市を創造するような国と戦争になっていたら、滅ぶのは我が国だった」

 

 突如何の前触れもなく神根島近辺に湧き上がってきた巨大なる雲。直径は10kmを優に超え、海中は3km、空には20kmと伸びた、まるで積乱雲を大型化したような白い雲は、流れる事も無くその場に留まり。

 

 何も得ぬままに数日が過ぎた時間の回収をするかの如く夢幻会の会合は雲の向こうがどうなっているのかを枢木内閣に調査させ、万が一に備えて自爆装置付きの無人機を20機ほど、雲の向こう側へと向かわせた。

 

 そこで知る。荒廃した日本の存在を。一部の転生者だけが識るエリア11となった原作の世界を。

 

 早速帝国政府とブリタニア政府はAEUにも連絡を取り、対南天の為の軍事演習をしていたところに現れた雲へと問題無しとし。

 

 大和級戦艦2

 

 戦艦ペンドラゴン級4

 

 グロイスドイッチェラント級戦艦4

 

 巡洋艦150

 

 駆逐艦320

 

 130,000t改大鳳型航空母艦8

 

 浮遊航空艦120

 

 紀伊型強襲揚陸艦10

 

 通常型揚陸艦230

 

 VTOL1,200

 

 第6世代統合打撃戦闘機630機

 

 第7世代KMFウィンダム670騎

 

 第8.5世代KMFヴィンセント・カスタム250騎

 

 第9世代KMFラウンズ機8騎

 

 同じく第9世代KMF蜃気楼弍式20騎

 

 紅蓮聖天八極式量産型57騎

 

 現在最強のKMF第9.5世代機フリーダム・フローレンスの出撃こそ見送られたが、グレートブリタニアの中で待機状態に置かれた。デヴァイサーのモニカ・クルシェフスキーは夫である嶋田繁太郎の守護として戦艦大和の甲板に乗っている。

 

 フレイヤ搭載の戦略F型潜水艦100隻以上を送り出した。

 

 この大規模戦力。大国一つでもなぎ払える戦力を送ったのは、無用な戦闘を避けるためである。

 

 実は少し前。北側諸国も異常事態に見舞われており、北側諸国に属する国家の全域が、異星へと転移する災害に見舞われていた。

 

 この際、穏当な接触を計ったロウリア王国には“大東洋の東の果てより訪れた蛮族の国々”という、失礼極まりないレッテルを貼られ、追い返されたのだ。

 

 無論、北側諸国には最小のシーランド王国でさえ、ロウリア王国を軽くひねり潰す国力がある。ベェーツ国王等は。

 

「我々が片付けましょうか?」

 

 と、意欲満々で。

 

「あなた、粗暴ですわよ。北側諸国会議の最中に」

 

 と、王妃に窘められるという一幕があった。

 

 本当にシーランドだけで可能なのだ。シーランドには現在大軍拡中であった兵器の数々があるも、まだ完成していないので、水上戦力としては心許ない、駆逐艦16隻、巡洋艦6隻、しかなかったが、これで充分なのである。

 

 その上でシーランドは長年ユーロユニバースと対立してきた経験があり、水中用KMF,KGFの種類が充実しているのだ。

 

 既に調査済みのロウリア如き中世以下の帆船4,400隻の海軍など、いや水軍など。膨大な数だが物の相手ではない。

 

 だが、ここは戦争は控えるべきだという意見が重視され、ロウリアについては暫くその動静を静観するという形で落ち着いた。

 

 同じくして穏当な接触を計った、クワ・トイネ公国、クイラ王国とは上手く事が運び外交関係・国交締結に取り付けた。

 

 この二国にはあまり価値がないと思っていたら、まさかのサクラダイト鉱山を発見し、重要度が一気に高まったのだが本当に寝耳に水。

 

 著名な地質調査専門家であるジョゼフ・フェネット氏が、是非にというので、未開の未知の鉱物に触れたいという彼の探究心に負け、ブリタニア政府は護衛を付けて向かわせた矢先の素晴らしい成果だった。

 

 娘であるシャーリー・フェネットが在籍しているアッシュフォード学院の大学にまでマスゴミが殺到して、学院の委員長ルーベン・K・アッシュフォード駐日総領事の孫娘で、公爵令嬢であるミレイが追い返すと行った場面も見られたが、それはまた別の話。

 

 一方のクワ・トイネ。こちらは価値ある穀物が腐るほど手に入るという恩恵が受けられ、転移後の食糧事情の心配がより大きくなり、安価で食料を買えるようになる為に、庶民の台所は大助かりだ。

 

 北側諸国同盟(今では誰も使わない呼称=北天条約機構)全体が転移したとは言え、食料はあって困らない、これを一気に解決した。

 

 この事から北側諸国は、現地人のよりの情報で危険度の高いと呼ばれる国に対しては砲艦外交を行う事に舵を切り替えたのである。

 

 ロウリアの二の舞はご免だったのだが、現代になってまで砲艦外交とは倫理観が欠如しているとしか言えない有様だった。

 

 

 

 砲艦外交しかねーだろ・改

 

 

 

 幸いにもこの世界、小国シーランド王国でさえも大国・列強クラスとなってしまう程に文明水準が低く、北側諸国に取っては世界全体を相手取っても全く問題の無い世界であった。別に進んで戦争などという非効率極まりない事を行うつもりは無かったが、南天のような国が無いとは言い切れない以上は常に注意はして置くに越したことは無い。

 

 そんな中、次に接触したのは、試しとばかりに第三文明圏の覇者とか呼ばれている、北側諸国水準での超弱小国に該当するパーパルディア皇国。

 

 この国は力こそが全ての覇権国家で、汚職も著しいと潜入した工作員が調べ上げており、そこで夢幻会での会合と、北側各国の会談に於いて、無用な戦闘を避ける為と国交樹立に向け、これから送り込む事となる平行世界のブリタニアへの砲艦外交と近いクラスの規模の艦隊を送り込み、国交開設を迫る方針が決定した。

 

 それまでの繋ぎとして外務省の朝田泰司という外交官を送り込み、パーパルディアの外務局監査官レミール皇女のご機嫌取りに徹させていたのだ。

 

 おかげで朝田はレミールとの個人的な友誼を取り付けるに至り、話がうまく回り出す。朝田がレミールにプレゼントをする数々の科学技術的な品々、骨董品が。

 

 第二列強の機械国家ムーですら創り出すことが出来ない物と知り、ムー国大使ムーゲに問い質したところ。

 

「レ、レミール皇女っ! こ、この様な物をどうやって、どこで手に入れられたのかっ!」

 

 と、唾を飛ばされ、逆質問を受ける立場になってしまった。

 

 この出来事から、レミールの外務局監査室と第一外務局は、ムーを遙かに超える機械文明国家という日本の正体に感づき始め、やがて情報は第二、第三外務局とも共有されていくに至る。

 

 しかしこの外務局の、特に外務局監査官レミールの行動を、見せかけだけの張りぼて蛮族を恐れている臆病なる行為。

 

 そう断じた皇帝ルディアスの意向と怒りに触れ、皇族レミールはルディアスより遠ざけられてしまったのだ。

 

 それまでルディアスに少なからず想いを寄せていたレミールにとってのこの仕打ち。最早裏切り行為としか考えられず、愛情の裏返しは無関心にまで到達。レミールのルディアスへの感情は薄れていった。

 

 この不満や愚痴、悲しみの捌け口を朝田に求めたレミールに、朝田はある贈り物をする。それは通信関係の品物。ただし、パーパルディアが使う様な魔信とは別の物で、出力はかなり高く、なんと世界中どこでも通話が可能な衛星電話とカメラ、及びそれを扱うノートPCなのだという。

 

 驚くレミールであったが彼女は衛星という単語に「はて?」と思い、衛星についてを朝田に質問した。衛星の事を質問するレミールに、まずはこれを使ってみましょうと促され従う彼女。

 

 懐疑的だったレミールに予め500kmほど離れた位置とテレビ中継で結んだ映像をノートPCで見せたところ、その映像その物に驚きを隠さない彼女に、電話の入り状況を聞かせ見せ、披露してあげた。

 

 彼女は大層びっくりしていたが、それは皇国が使用している魔信等とは比べものにならない性能を誇っており、本来見せてはならない物なのではないか? 見せるのならば何かがある。何か目的がと感付いた。

 

 何のためにこの様な物を私に見せるのか? と当然の事を問い掛ける。これらの機械――ノートPCや長距離無線などという原理も概念も分からない重要な物を見せて、何をと。

 

 その返答として返ってきたのは、数日中に日本軍とブリタニア軍、北側諸国軍がパーパルディアを来訪するのですよという物であった。

 

 そうして朝田より『別冊宝大陸』なる本の、大陸共通言語版を読まされた。

 

 皇歴2022年度版の各国軍軍事力比較というタイトル。

 

「音の速度を超える兵器……。音の速度を超える航空機……。探知不可能な戦闘機っ。射程1000kmの60cm三連装砲を三基九門搭載した168,800t級の戦艦っ、海を進む潜水艦という船は射程数千㎞のミサイルという兵器を100基以上搭載?! ミサイルは全てが極超音速で音の速度の5~25倍!? こ、この様なっ、この様な物があるっ、この様な物が存在するというのかっっ!?」」

 

 驚愕よ続けとばかりに先に起きた世界大戦【GREAT WAR】の映像も見せつけられ、パーパルディア皇国へと派遣される軍の概要を知らされる。

 

 鉄のゴーレムKMF、130,000t級竜母ならぬ航空母艦。50,000級の強襲揚陸艦に、それらの護衛艦たる300隻単位の150~250mの艦艇群。数百隻の通常揚陸艦。燃料気化爆弾、地中貫通爆弾。極めつけは空を飛ぶ200~300m級の浮遊航空艦なる戦艦54隻と、そして――F号兵器と呼ばれる最終兵器。

 

「き、貴公等の国はよもや古の魔法帝国では?!」

 

 最早ぐうの音も出無いレミール。カラー写真付きで書いてあり、詳細な映像も見せつけられた。朝田との友誼があるが故に本物だと思われるこれらの情報に怖れを成したレミールは、日本および北側諸国群を古の魔法帝国、神にさえ弓引いたとされる伝説の国なのではないかと疑う。

 

 これに朝田は、ギアス、コード、魔法のような力はあるが、魔法は無いとこれを否定。そんな訳の分からない恐ろしい国と一緒にされて貰っては困ると。ただ古の魔法帝国よりも恐ろしい国家群だとは、朝田も、レミールも想定外だったが。

 

 北側国家群はやろうと思えば古の魔法帝国ラヴァーナル帝国を一時間で滅亡させられるのだ。否、一時間もいらないかも知れない。F号兵器──フレイヤ弾道弾数千発を一気にたたき込めば、それこそ大陸ごと消し飛ばせるのだから。

 

「こ、このような神話の様な大戦力を引き連れてきて貴公らは何をしようとっ」

 

 狼狽えるレミール。これまでパーパルディアが砲艦外交を行った事はあっても、逆は初めての事だからだ。

 

 パーパルディア皇国を滅ぼすのかとまで疑われ始める始末。

 

「いやいやその様なこと……。特になにも致しませんよ。ただ国交を結びに来ただけです。力を見せなくてはいけないのでしょう? 我々の世界にも居たのですよ。露骨に力を見せ付けるばかりか、その力を使って覇権主義に走っていた狂信者の国がね。ですから我々も力を見せ付けて長く半世紀以上対立を続けてきたのです。ですから分かるのですよ。力には力をと言うあなた方の考え方も」

 

「で、ではこの無線機やカメラ、ノートPCやらは……」

 

「貴国、パーパルディア皇国の皇都500㎞圏内に、我が艦隊が入ったという事を知らせる為だけの物です。どうかレミール皇女殿下に置かれましては不要な戦闘の誘発をおとどめいただけるよう、動いて頂きたいのです」

 

 皇族に対する要望。この国では処刑物ながら朝田は別だった、日本の関係者であり、何より個人的友誼を結んでいる間柄。朝田のその要望に下手な対応をすればパーパルディアの数時間内の滅亡もあり得るという意図に、レミールはあい分かったとだけ告げ、まずは機械類の使い方を朝田より学ぶのであった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 迎えた日本軍・ブリタニア軍・北側諸国軍の来訪の時。無線機では500㎞圏内に入ったと連絡が入り、これより来訪したる艦隊は我が国と国交を開設しに参った艦隊。

 

 よって、あり得ぬだろう不思議な物を目にしても、一切の手を出すなとだけ全軍に周知通達。アルデやエルト、カイオスとも情報共有していたため、北側諸国の受け入れは上手く事が運んだ。

 

「し、しかしとても信じられませぬ。あの全長300mを優に超えている鋼鉄戦艦。あの竜母」

 

「空母だ」

 

 レミールは驚くカイオスの間違いを先に知っているからこその優越感で否定する。

 

「あの空母という船には竜は乗って居らぬ。ムーのマリンを150年以上は進化させた飛行機が載って居るのだ。戦艦はヤマトとムサシといって搭載している砲は射程1000㎞の60㎝超電磁砲だぞ。極超音速砲だ。極超音速とは音速の五倍以上の速度らしい」

 

「お、音速っ、お、音の速さの五倍以上ですか?!」

 

「そうだ。そして、空に浮かぶはイカルガ級、ログレス級、カールレオン級、アヴァロン級と呼ばれる浮遊航空艦という空飛ぶ軍艦だ。ハドロン重砲・ハドロン砲なる私達の知らない未知なる砲を搭載しておる」

 

「そ、空飛ぶ軍艦など、魔法帝国のような」

 

「否、彼の国々は魔法帝国を越えていると私は見ている。なにせ、私が仕入れた情報には最大で半径350㎞を消し飛ばしてしまう、F号兵器なる兵器すらも日本だけで100,000発以上保有しているらしいのだからな。あの北側諸国と戦争になれば一国に対する攻撃を、全ての国に対する攻撃として扱われ、北側諸国の中核、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・AEUによる一斉攻撃を受けることとなろう」

 

「さ、350㎞を消し飛ばす兵器?! 伝説に残る古の魔法帝国のコア魔法よりも遙かに強力では無いですか?!」

 

「だから申したであろう。古の魔法帝国を軽く超えて居ると。故に一切攻撃をしてはならぬのだ」

 

「で、ではもしも、もしも我がパーパルディアが彼の国々を僅かでも攻撃したならば」

 

「ふん、無論滅亡に決まって居ろう。彼処に居る艦隊に対して、我が国の戦列艦隊800隻、隠しだねの200隻を足して一千艦のなんと頼りなきことか。ヤマト1艦に傷一つ付けられぬのよな。ワイバーンロードもワイバーンオーバーロードも彼の国々の戦闘機群、KMF群、対空ミサイル群、浮遊航空艦隊を前にしては大型のドラゴンを前にした蟻も同然だ」

 

 滔滔と語るレミールはさすが皇族だ。どっしりと冷静に構えている。そう考え。

 

「レミール様はさすがですな。冷静さを失って居られませぬ。私などいつあの大艦隊がエストシラント、いや我が国全土を攻撃するか心配で、焦りを禁じ得──」

 

 そこまで言ったとき。

 

「ふっ、冷静で居られると思うか?」

 

 レミールの身体が震えていることにカイオスは気付くのだった。

 

「私とて怖い物は怖い……」

 

 

 ※

 

 

 始まった日本代表辻政信、ブリタニア代表シュナイゼル・エル・ブリタニア、AEU代表アドルフ・ヒトラー、パーパルディア皇国代表外務局監査官皇族レミールの四者会談。

 

 北側諸国の代表として集まった三者に対して、二十代後半の小娘でしか無いレミールはその傍に朝田に控えて貰うことで、心を落ち着かせ、会談に臨んだ。

 

 日本側は辻政信がまず。

 

「私と致しましてはパーパルディアとの間に対等な国交を樹立すること。この一択以外に特段要望はありません。失礼ですが貴国で扱っている文物は我が国では200~300年前の骨董品でしてね。扱うにしても好事家のコレクションとなる程度でして」

 

「我が国も同様です」

 

 ブリタニア代表のシュナイゼルが言う。

 

「貴国の取り扱う品々、確かに古き良き物が多く、現代人にとっては物珍しく。文化の観点では近い我がブリタニアでは間違いなく売れるでしょう。そう言った意味では日本ほど辛辣ではありません。そして対等なる国交の樹立を」

 

 最後にAEU代表のアドルフ・ヒトラーが怒鳴るように喋る。

 

「貴国に芸術品は多くあるかね? 特に絵だっ、絵画だっ、喪われた時代の絵画ほど貴重な物は無いっっ! 在れば全て我がAEUが、いや私個人が買い取ろうっっ!!」

 

 絵に対して物凄い執着を見せるヒトラーに、辻とシュナイゼルはあきれ顔になる。

 

「まあまあヒトラー宰相閣下ここはそういう話をする場では」

 

「何を言うシュナイゼル宰相っ! 絵画というものはだなあっっ!」

 

 三者三様ながら物凄い圧を放ち続けている三人に終始固まっていたレミールは。

 

「ほら、レミール皇女」

 

 と、朝田にぼつと囁かれて促され、勇気を出して話し始める。

 

「わ、我が国としては、貴国等を含む北側諸国と国交を結ぶのはやぶさかでは無い。少なくとも私個人は賛成だ。隣の部屋にて会談を見守っている第三外務局長カイオス、第二外務局長リウス、第一外務局長エルト、軍司令官のアルデも同意見だ」

 

 其処まで聞いて辻が意見を差し挟む。

 

「他の大臣などは?」

 

 外務省だけで物事が決まるわけでは無い。そう考え尋ねた辻だが。

 

「お、概ね賛成だ。一部の皇帝派以外は」

 

 以外、というか。事前に朝田よりもたらされていた、パーパルディア外務局と皇帝ルディアスは険悪な仲という情報通りだと。丸眼鏡をくいっと上げる仕草をする。

 

「ほう」

 

 とシュナイゼル。こちらにも朝田から情報は入っていた。何時いかなる時も崩さない微笑みは、この様なときでも崩れない。

 

「では貴国皇帝陛下はこの国交開設・樹立には反対だと」

 

「残念ながら」

 

 そこまで言ったところでヒトラーがぼそっと呟いた。

 

「潰すかね?」

 

 それはシュナイゼルにも辻にもレミールにも朝田にも。この卓に付く全員に聞こえていた。他の誰にも聞こえていない。

 

「我々なら100年ほど前の骨董兵器ならば貴国、いやレミール皇女殿下になら貸与できよう。どうかねお二方」

 

 ヒトラーは大きな声で言う。宣告だ。宣戦布告だ皇帝派に対する。ハッキリ言えば数時間で終わらせられる。今すぐにでも。

 

 辻はふむと少し考えて。

 

「まあ100年前の骨董品で良ければ」

 

 シュナイゼルもこくんと頷く。

 

「そんな物で宜しければ幾らでも貸与。供与致しましょう。我々には必要の無い物ですからね」

 

 それは遠回しにだがレミールに皇帝の座に就かないかと進言しているのだ。

 

 だがレミールはこれを断る。

 

「わ、私としてはこの国を出て見聞を広めたく思う。お三方の申し出は嬉しく皇国軍の強化のためにも是非お願いしたい。それとあなた方が意図していらっしゃる事については暫しのお時間を頂きたい。次代を推挙するにも選別をしなければならぬ故。選別が終わり次第──決行しよう」

 

 レミールに伝わっていた意図を、彼女は彼女なりにかみ砕いて応えた。パラディス城上空に数十隻と数百騎滞空している浮遊航空艦とKMFに城は大騒動となり、騒動の中、空を見たルディアスは身を隠したという。

 

 私に散々蛮族との交渉に臨むそうだなレミールよ。余はそなたを買い被りすぎていたようだ、見下げ果てたぞ。蛮人とも仲良くして居るそうでは無いか。実に汚らわしい。

 

 あんなに偉そうに言っておきながら自分はこれか。貴様こそこの国の皇帝たる資格は無しだな。といって私が皇帝に就くつもりも毛頭無い。朝田に教えられた世界の広さを私は知りたいのだ。

 

「色々と回りくどいですが本国の方からも‟モノ”を持って来なければならない以上はまあ少し時間も掛かりましょうか。宜しい。我ら北側諸国はレミール皇女殿下達の派閥を援助していきましょう。軍は?」

 

 尋ねてくる辻に、レミールも率直に応える。

 

「実行までには9割は抑えられる物との確信と感触を得て居る。皆ルディアス皇帝陛下に辟易してきて居るのだ。此度の醜態で9割9分抑えられるかも知れぬ」

 

 これを聞いたヒトラーが人好きのする笑みを浮かべた。

 

「ほう。ほぼ全軍では無いかね? 臆病・能なし・現実を見る勇気も無し、三拍子揃って居っては見放されもするか。私としてはその様な無能は直ぐにでも処分するがね。してレミール皇女はどうなされるのだ」

 

「私は朝田のような外交官となってみたく」

 

 この一言に辻は眼鏡の奥の瞳を細める。

 

「ほう、外交官に。ならばパーパルディアから位置的に最も近い我が国の大使兼外交官を務められては如何ですか? 求める物、視たい物が、手に入りまた観られると思いますよ。これより先の北側諸国とパーパルディア皇国の良き関係を願っております」

 

 辻、シュナイゼル、ヒトラーが席を立ち。レミールもまた席を立つ。

 

 そして四人が握手をしたところで朝田はレミールから離れ、歴史的国交樹立の瞬間を写真に収めるのだった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 話は冒頭に戻る。この雲――仮称ゲートの向こう側には確かにエリア11が広がっており、エリア11は荒廃していた。このことに怒り心頭とならないか。向こう側のブリタニアやユーロユニバースを消滅させてしまうのでは。

 

 危惧したシュナイゼルは向こう側と接触するのはどうせ時間の問題。ゲートが開き固定化されている以上は向こう側も早晩気付く。ならば此方側より先に接触してみてはどうか。という折衷案の元。

 

 ロウリア王国という前例も踏まえて、北側全体の問題と捉えて各国軍から大和級戦艦2(満載168,800t、戦艦ペンドラゴン級4(満載158,000t、グロイスドイッチェラント級戦艦4(142,500t。

 

 巡洋艦150、駆逐艦320、130,000t改大鳳型航空母艦8、浮遊航空艦120、紀伊型強襲揚陸艦10、通常型揚陸艦230、VTOL1,200、第6世代統合打撃戦闘機630機、第7世代KMFウィンダム第8.5世代KMFヴィンセント・カスタム。

 

 第9世代KMFラウンズ機、同じく第9世代KMF蜃気楼弍式、紅蓮聖天八極式量産型まで送り出し、現在最強のKMF第9.5世代機フリーダム・フローレンスの出撃こそ見送られたが、グレートブリタニアの中で待機状態に置かれた。

 

 モニカ・クルシェフスキーは夫である嶋田繁太郎の守護として戦艦大和の甲板に乗っている。無論海中にはフレイヤ搭載の戦略F型潜水艦100隻が隠れ潜み。万が一の時はブリタニア大陸の破壊を行える体制を整えていた。

 

 この艦隊だけでゲート向こうの世界を滅ぼせる力を持つ巨大艦隊の編成。通称パーパルディアモデルである。パーパルディア皇国と穏当な接触が出来たのも圧倒的戦力の裏付けがあったればこそ。これを踏まえたやり方だったのだ。

 

 ゲート向こうのブリタニアなど一部ではパーパルディア並に腐敗しているのだから当然の措置、過激なAEUヒトラー宰相などは、転移によって今や必要の無くなった、対南天防衛用に存在していたかつての戦力をも全軍投入して、向こうの世界を支配してしまえば良いとさえ言っている。

 

「なんとも恐ろしき大艦隊よな。これですらも北側の一部なのであろう?」

 

 朝田の自宅の液晶ディスプレイから流れてくるニュース映像に映る、並行世界派遣艦隊を目にしながら長い銀髪の美女、パーパルディア皇国駐日大使レミール皇女は呟いた。

 

 艦隊の規模は間違いなくパーパルディア派遣艦隊よりも大きい。これでさえ一部。

 

 朝田はディスプレイを観るレミールに紅茶を差し出しながら。

 

「それ、世界滅ぼせる艦隊ですよ」

 

 と苦笑い。

 

「な、なんと。真か泰司よ?!」

 

 身を乗り出すレミール。大きな胸が零れそうになっていて目の遣り処に朝田は困る。

 

「レ、レミール皇女っ、はしたないですよ皇女殿下が胸が見えそうになってますっ!」

 

 ここ一年一緒に暮らしている二人。お互いに遠慮が無くなってきている間柄だった。

 

 レミールも今では朝田のノートPCを勝手にいじくり回して、使い方を覚えてしまっている。

 

 最近の彼女はゆーちゅーぶに嵌まって、夜遅くまで見ている。一緒の布団一つの枕で仲良く眠る二人なので朝田が。

 

『夜遅くまでPCをしてるとお肌が荒れますよ』

 

 と言ってやめさせるのだが。

 

「ふん、泰司よ今更であろう? それよりもあの艦隊だ。世界を滅ぼすことが出来るというのは本当なのか?」

 

「え、ええ本当です。戦略潜水艦も派遣されてるって報道されてるでしょう? それに例のF号兵器が大量に搭載されています。なんでもヒトラー宰相が無理に組み込ませたとか。向こうの世界のブリタニアが話を聞かないならば滅ぼしてしまえと」

 

「はああ……下に恐ろしき物よな。北側諸国。とくにヒトラー宰相閣下は過激だ」

 

「でも普通に付き合ったら皆気の良い国ばかりだったでしょう? ヒトラー閣下はまあ民族浄化さえいとわない無茶苦茶やるお人ですから」

 

「た、確かに。しかし怒らせると待つのは滅びか」

 

 とにかく穏当なる接触のために編成された艦隊は雲の中へと入り、丁度エリア11に滞在中だったゲート向こうのシュナイゼル指揮の下、こちらの艦隊には絶対に手を出すな、手を出せばやられるのはこちら側だと冷静な判断を下し、交流を深めていった。

 

 こうして原作に限りなく近いであろう世界と繋がったわけだが、ゲート向こうのユーフェミアは、此方の世界の北側諸国の現状を知り、武力では無い第三の選択によってエリア11を初めとし、各エリアの自治国化、ブリタニアの連邦制国家化を目指していくこととなる。

 

 その為の勉強として、本日は向こうの世界よりゲートを通じて、此方の世界を訪れていたのだ。そして彼らは此方の世界が地球よりも遙かに巨大な星へと転移していた事実も此処で知った。だからといってどうだという話でも無い。

 

 此方側の北側戦力が世界を10度滅ぼしても尚余りある強大に過ぎる戦力を持っているのは確かなのだから。

 

 精々が向こう側の世界で北側諸国に対し馬鹿な行動に出るような国が無い事を、祈ってあげるだけである。

 

 

 

 ※

 

 

 

「あちらのビルは最近できた新しいビルで、大日本帝国のビルとしては高さが第一位。世界で見ても一位。1,050mの高さを超えていらっしゃいます。別に珍しいことではありませんのよ。ここ東京はペンドラゴンと並ぶ世界最大の都市です。800、900mのビルやマンションもほら、そこら中に」

 

 この二人、二人で同じ格好をして外を歩いているので一卵性の双子とみられて危なっかしい。

 

 ブリタニア第三皇女が双子だったと知られれば、いつどこから南天のテロリストに狙われるか分かったものではないからだ。

 

 転移現象に他国の国民も紛れていたように、南天のテロリストや工作員が紛れていないという保証はどこにもない。

 

 南天の思想に染まっている者は『全天に美しき世界の実現の為に』を合い言葉に、自爆テロでも何でもやる。

 

 それは転移現象に巻き込まれてこちらの異世界の巨星に辿り着いてからも変わらずに。

 

 おかげで対テロ部隊グリンダ騎士団にはあちこちで派遣要請がかかり大忙し。グリンダ騎士団団長のマリーベル・メル・ブリタニア皇女はとあるニートを引き抜いて、旗艦ネッサローズにて執事をさせている。

 

 これにとある暗殺者が大いに怒り、ネッサローズに乗り込もうとしていたところをV.V.皇兄殿下が押さえつけて宥めるという一幕があった。

 

『あの馬鹿は確かにマリーに攫われたような物だけれど、帰ってきた頃には一枚剥けて成長しているから。それにマリーの方が馬鹿に会える機会や時間が少ないんだ。今くらいは甘えさせてあげなよ、ね』

 

 それでギアス嚮団で1,2を争う腕を持つ暗殺者クララが諦めたのかは分からない。ブリタニア皇室でも有名なのだ。ニートを巡るマリーベル・メル・ブリタニア皇女とクララ・ランフランクこと、クララ・ジ・ブリタニア皇兄女の争いは。

 

 特に、マリーベル・メル・ブリタニア皇女が勝てば、何の知識も無い三流高校卒の阿呆が、ブリタニア皇室に入ることとなる。

 

 マリーベル皇女はそれはこよなくニートこと玉城真一郎を愛しており、彼女の寝室のベッドの枕の周りには玉城君ぬいぐるみが所狭しと並べられているほどだ。

 

 クララ・ランフランクはヤンデレだが、マリーベル・メル・ブリタニアも充分ヤンデレの素質があるのだ。

 

 そんなこんなでKMFの操縦も可能な玉城にはなんとヴィンセント・カスタム・グリンダ玉城専用機で、エナジーウィング搭載機が与えられたりしている。特注のスーパーヴァリス搭載型という贅沢極まりない代物を。

 

 信じられないことにV.V.のところでデヴァイサーのバイトもしている間に、本人の実力もそれ相応の物となり、第8.5世代機を乗りこなせるようになっていたのだ。

 

 8.5世代機の特徴はエナジーウィング機初期量産機である事。大日本帝国が開発した物だがこの技術をブリタニアが受け継いでヴィンセント・カスタムが量産されているのだが。

 

 よりによって玉城真一郎、アホの玉城がこのエナジーウィング機を乗りこなしてしまった。マリーベルは大喜びで彼に抱き着き。オルドリンはアホのくせになんでと驚く。

 

 ソキアはアホと天才は紙一重ってねと格言を持ち出し、レオンハルトとマリーカは、玉城さん凄いと褒めそやす。

 

 ティンク・ロックハート、シュバルツァー将軍は流石は姫様の見初めた男だと賛美。

 

 完全否定したのはとにかくエナジーウィング機を簡単に乗りこなし『おりゃー天才だからよォ』と宣った玉城に蹴りを入れたオルドリンだけであった。

 

 マリーベルは『いずれは兄さまをわたくしの騎士に』と頬を染めて聖女のように両手を組んでいたのが印象的であった。

 

 とにかく南天のテロリストはいつ何処に潜んでいるか分からない。

 

 故に、警戒しすぎるに越したことは無かった。ゲート向こうのユーフェミアも、こちらのユーフェミアも大切な守るべき対象。

 

 特にゲート向こうのブリタニアとは同盟を結んだばかり。下手は打てない。もしもゲート向こうのユーフェミアが狙撃されるようなことがあれば、折角穏当に接触したのが全て台無しになる

 

 そしてこちらのユーフェミアは、なんと夢幻会長老格会合メンバーの嶋田繁太郎の婦人の一人でもあるのだ。

 

 嶋田はモニカ・クルシェフスキー、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女二人の女性を娶っていた。日本はブリタニアの貴族階級のように一夫多妻ではないのだが。

 

 共に嶋田を愛する二人のどちらかを選べなかった嶋田に、だったらお二人とも娶ってしまいたまえと、伏見宮博恭王と、今上帝陛下、上帝陛下が特例として認めたのだ

 

 そのため、二人を警護するSP達も気が気でなく、脂汗を搔きながらの警護に当たっていた。

 

 ふと付近を見渡していた時。遠くのマンション300m、400m付近から光るものが反射した。

 

 二人を警護していたSPはすぐさま拳銃を抜き警戒に当たったが、この距離を撃ち抜けるものはあいにくといなかった。

 

 

 

 と、そこで。

 

 

 

「まちな。サンピン共」

 

 

 

 声を上げたのはSPたちの後ろ後方。こちらもSPたちに囲まれていた少し天然パーマの入った男で、べらんめえ口調が特徴的な、不良をそのまま壮齢にしたかのような男性であった。

 

 男は肩に抱えていた、使い込まれたライフルを掲げ差し出し持つ。スコープすらついていない。

 

「いくらパーパルディアの皇女様、うちの皇族方やブリタニアの皇族方と便宜上対等な関係っつったってよ、そういうオイタはするもんじゃねーぜ」

 

 まるでこの距離をスコープなしで見えているかのようにしゃべった男は。

 

 

 ドゥンッ

 

 

 一発の鈍い銃声を響かせながら、目標物をしっかりと打ち抜きニヤッとニヒルに笑うとライフルを下す。

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 ガンッ

 

 

 

「いっでええ!」

 

 

 

 男の脛を小柄な女性の靴が蹴った。小突いただけなのだがクリーンヒット。

 

 男の脛を蹴った女性は身の丈よりも長い金色の美しい髪を、地面に付かないようにと細く黒いリボンでツインテールに結わえながら、真っ赤なバラを思わせるドレスを着こなしていた。

 

 社交界では薔薇乙女と呼ばれている女性、淑やかな淑女ながら彼女は、ライフルの男にはいつも容赦がない。

 

 当然だろう。夫婦仲に容赦などいらないのだから。

 

「リョウタロウ、お茶の時間は守りなさいといつも言っているはずよ」

 

「あ、アホかおめえ!! 今はユーフェミア両殿下を御案内中だろうが。お茶もクソもねーんだよ」

 

「関係ないのだわ。私にはお茶の時間のほうが大事ですもの。殿下方の御案内と同じくらいに」

 

「あのなあ、この仕事は辻のおじきに貰ってる大切な仕事なんだよッッ。女が口出しすんじゃねーッッ」

 

 

 ガンッ

 

 

 身の丈よりも長い金髪の女性の脛蹴りがもう一発。金色の長いツインテールが大きく揺れた。因みに彼女の髪を梳き結っているのは良太郎であったりする。まさに僕。

 

 普段から僕。何かと命令されては、それを実行させられている。言うことを聞かなければ脛蹴りが待っているのだ。

 

 彼女、神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家第五女──シンク・ローゼンクロイツに、容赦の二文字はない。彼女は金色の懐中時計を取り出して、今一度時間を確かめると。

 

「五分過ぎてしまっているわ……。さあ、ユーフェミア両殿下」

 

「はははッ、はい何でしょうか?!」

 

「な、なにかご用ですか?」

 

「薔薇のお茶会、お付き合いくださいますでしょう?」

 

 伯爵家五女の気品と、凄みに押し切られてしまった二人のユーフェミアは。突然の宣言のお茶会に否とは言うことができなかった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 一方、700m離れた100階ほど、約300mと少しの階に住む。膝下まで届くほどの長く美しい銀髪の女性は、豪奢なドレス姿のままに床に尻餅をついていた。長い銀髪が床にとぐろを巻いている。

 

 その様子を少しかわいいなと感じた朝田だったが、朝田泰司はパーパルディア皇国皇女レミールのあられもない姿に、彼女のそばに駆け寄りながら彼女を抱きしめて注意した。

 

「ですから申し上げましたでしょう。ブリタニアの皇女殿下方や、ブリタニアのローゼンクロイツ伯爵家のシンク様を双眼鏡でのぞき見をしてはいけないと、レミール皇女」

 

 覗き見、良太郎がオイタと言ったのはレミール皇女の覗き見のことだった。如何に対等な国交を結んだパーパルディア皇国の皇女とは言え、覗き見は許さない。良太郎のスナイパーとしての心情と、悪戯だからまあこんなもんかという甘いお仕置きが重なった結果だった。

 

 なによりシンクが一緒の時、彼女を覗き見する輩を老若男女問わず良太郎は許さない。シンクは美しい女性だ。その美しさは良太郎が独り占めしたいのだ。あの戦場で身じろぎもせず紅茶を飲んでいた強い女を。

 

 それに美しさならばレミールも負けては居ない。鏡でも見ていれば良いのだが、レミールは別にナルシストでは無いので、その様なことはしない。

 

 ただ、朝田泰司にレミール皇女はお美しいですよと言われると、とても嬉しく、胸がドキドキするのだ。

 

 

 それは置くとして。

 

 

「し、しかし、相手も私と同じ皇女という身分なのだ。平行世界のユーフェミア皇女がどういったお姿なのか気になるではないか」

 

 レミールは自身の長い銀髪をいじりながら朝田の胸に抱き着いて、上目遣いに文句を言う。

 

 こちらの世界のユーフェミア皇女の事は良く存じ上げている。社交界でも逢えば、個人面談もした。それは他国の皇女同士仲良くやっていこうという、ユーフェミア皇女の好意からだった。

 

 超々大国、レミールは大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・AEUの三国をそう呼ぶようになっていた。そんな国の皇女殿下より、国は違えど同じ皇女なのだから仲良くしましょうと仰られれば、それは嬉しくもなろう。

 

 レミールが先頭に立ち、ルディアスを退位・逮捕のち処刑に追い込んで数ヶ月。次期パーパルディア皇帝はレミールの従姉妹で決定した。その時、レミール軍が使っていたのは戦闘機などの航空機だ。ただし90~100年前の日本・ブリタニア・AEUの。

 

 ルディアス軍は数は少なかったが最新式の兵器で抵抗してきた。それが全くの無意味となるほどに、北側諸国の古き兵器は圧倒的な性能だった。パーパルディアは現在列強2位のムーを抜いている。だが真なる超大国や大国群を知るレミールは、そんな列強の順位は無意味だと知る。

 

 現在のパーパルディア皇国は日本・ブリタニア・AEUの支援もあって戦列艦800隻(これは処分予定)。太平洋戦争時と呼ばれる大戦より少し前の40,000t級空母4隻、同時級の巡洋艦4隻、駆逐艦16隻、プロペラ戦闘機600機を備える正真正銘の列強2位、下手をすれば1位の実力を備えていたが、本当にだからソレがなんだと言うのか。

 

 北側諸国の最も小さき国シーランド王国からしても吹けば飛ぶような戦力。いまのレミールにかつてのような驕りや慢心はない。上には上がいくつもあると知ったから。最近開いたゲートのことはレミールも知っていた。ゲートの向こうにもこちらのブリタニアほど強大では無いが、ブリタニアが存在すると。

 

 そのブリタニアの皇女もなんとレミールの知り合いであるユーフェミア皇女と同じであるというのだ。気にならないという方が無理だろう。よって、先日ネットで買った高倍率双眼鏡で覗いていたのだ。

 

 インターネットは良い。何でも手に入る。思わず高級品をクレジット払いで買いすぎて泰司に怒られたりしたが、実に便利。今日使っていた高倍率双眼鏡もネットで買った物なのだ。

 

 レミールはインターネットの便利さや、ネトゲー、ガチャにも嵌まっているため金がどんどん減る。もちろん超高給取り中の彼女にとっては払えない額では無かったが、泰司に怒られるのだ。

 

 そんなものにお金を使うくらいなら貯金をしなさい貯金をと。貯金もしているというと。

 

『あー言えばこう言うはお止めください。仮にもレミール皇女はパールディア皇国の皇女殿下なのですよ、それがガチャに嵌まってお金を使うとか、情けない。どこの皇女殿下がガチャしてるんですか』

 

『ここ』

 

 そう返すと呆れられた。今もまた呆れられた。

 

「わ、私はパーパルディア皇国の皇女なのだぞっ?」

 

「ええ、ですから真正面から小国とはいえこの世界では大国の皇女殿下としてレミール様も赴かれれば良いのです。そうすれば麻生閣下のお遊びをされることもないでしょうに。大体皇女殿下が皇女殿下を覗き見とか恥ずかしくないのですか?」

 

「そ、それは、むう、し、しかし、相手は超々大国の皇女殿下。私とは立場が違うのだぞ? 私など所詮は日本から、ブリタニアから見れば超弱小国の皇女に過ぎぬ」

 

「違いませんよ。同じです。パーパルディア皇国皇女も神聖ブリタニア帝国皇女も、立場上は同じなのです。少なくともそれが我々の常識です」

 

「そんな事を言って、私を辱めようとして居るのでは無いのか? 私は皇女だというのに泰司はいつも私に厳しいでは無いか、優しいときは、とても、優しいが……」

 

「クレカで馬鹿みたいに買い物されたり、ガチャされたら怒りますって!」

 

「お前のクレカでは無いぞ……最近は」

 

「初めは私のクレカだったでしょうがっ! 後ね、麻生閣下の銃の腕を馬鹿にしてはいけませんよ?」

 

 双眼鏡には傷一つついていない。傷がついていたのは双眼鏡のベルトのほんの端っこ。それだけで銃弾の音もなく衝撃だけが伝わってきたのだ。

 

「麻生閣下は1km離れた場所からでさえピンホールショットを可能とする銃の名手です。恐らく世界一の。レミール皇女の今の行動はそんな麻生閣下への悪戯になってしまったのですよ」

 

「せ、1000m離れたところからのピンホールショットだと?! そのようなことが出来る者がこの世に居ると言うのか?!」

 

「現に今レミール皇女がやられたでしょう」

 

 朝田は長すぎて床に渦を巻いているレミールの美しい銀髪を、何度も撫で、梳いて、彼女を落ち着かせながらまた彼女をやさしく抱きしめる。

 

「いい機会です。ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女両殿下とシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢、麻生良太郎外務大臣ににご挨拶に参りましょう。向こうの世界のユーフェミア皇女殿下には、パーパルディア皇国レミール皇女としてしっかりと覚えていただくために」

 

 パーパルディア皇国皇女レミールとして自己紹介に赴くのだ。同じ皇女という立場同士仲良くしましょうねと。

 

 レミールは外交官である、自分は泰司と同じ、だが一方でパーパルディア皇国皇女なのだと。

 

「だ、だが、私はなにを言ってしまうか。お前も知っているだろう。私の口の悪さは。年齢が年齢だ。今更矯正など出来ぬぞ?」

 

「大丈夫ですよそれでいいんです。普通に話せばいいだけです。常が多少高圧的な言動のレミール皇女ですが、あの方々を前にすればそんな言葉づかいは使えなくなりますよ」

 

「泰司……」

 

 それでも少し不安げなレミール。彼女は泰司と、呼び朝田を求める。自分が不安な時にはいつも傍に居てくれる仕事仲間の彼。ルディアスからのパーパルディア皇国解放紛争の時も、ずっと傍に居てくれた心優しい勇敢な男性。

 

「大丈夫です。レミール皇女には私が付いておりますから。私がレミール皇女のお傍より離れたことが御座いますか? おかげで私はパーパルディア皇国外務担当外交までやらされることになり、外交の現場でも大体一緒でしょう?」

 

 朝田泰司の仕事は外交官なので世界中を駆け回る。だがそれに朝田泰司担当にして、彼のもう一つの外交担当であるパーパルディア皇国の、パーパルディア皇女レミールもついて回るのだ。

 

 二人がこの一年で離れたことはほとんど無い。なにせレミールが大使公邸を作る金は国の復興に回せと良い、朝田の家を公邸代わりにし、一緒に住んでいるのだから。

 

 今や二人はお互いに気安く触れ合い、気安く話、食卓を共にしている。料理下手なレミールに朝田が教えてあげたりもするし。皇女だろうがクレカの使いすぎ、ガチャのやりすぎを見たら怒ることもある。

 

 お互いにそのくらい気の置ける間柄なのだ。今更泰司とレミールの間に遠慮は無い。レミールとしてはそれが何よりも嬉しい、泰司はいつも自分の傍に居てくれる、泰司は私を怒ってくれる、泰司と私は寝食を共にしている。

 

 泰司は湯浴み後の私を見て真っ赤になる、私も泰司のたくましい身体を見て乙女のように胸が高鳴る、私と泰司は身分の差を超えて対等なのだ。

 

「さあ、参りましょう。パーパルディア皇国皇女レミールをアピールするチャンスです。もちろん非礼の無きように」

 

「うう、本当に非礼を働けずに居られるだろうか。自分自身が心配だ……。なあ、泰司よ、私の傍をけして離れぬと誓うか? お前が居てくれたら私は自分を律せると思うのだ……」

 

 心からそう思う。泰司が居てくれたら怖い物も無いし、自分を律することも出来ると。レミールは思う朝田泰司とずっと一緒に居たいと。

 

「ええもちろん。私はレミール皇女の傍をけして離れませんよ。従者として隣に立っております。ですからレミール皇女も怖がらずに」

 

 心より、いつからかこの傲慢なる皇女様を放っておけなくなった。レミール皇女の傍から離れたくなくなった。いつまでもレミール皇女と一緒に世界中を外交で回りたい。もちろん疲れるだろうが、レミール皇女が傍に居てくれたらきっと大丈夫だ。朝田泰司は思うレミール皇女とずっと一緒に居たい。

 

「う、うむ」

 

 朝田はレミールの腰に手をまわして彼女を抱き起し。もう一度彼女の長い銀色の美しい髪を優しく撫でてあげた。指に絡まる銀色の髪。その長さは優に膝を超える、真っ直ぐな長い髪だ。

 

 初めの頃はレミール皇女の美貌と、女性との触れ合いに恥ずかしくて出来なかったこと。今ではこうして身体同士の触れ合いも出来るようになった。一年一緒に居た事実はとても大きくレミール皇女との関係性を前進させたのだろうと思う。はっきりと分かる、私はレミール皇女が好きなのだと。

 

 それはレミールも同じ泰司と一緒に歩み来た一年はとても短くも長かった。そして私は今や泰司の身体に触れる事が出来る。軽くを超え深く触れ合える。一年間とも行動してきた事による大きな変化。私は泰司が好きだ。

 

 両想いの二人、レミール皇女は決意した。この恋心。必ずや泰司に伝えると決めた。もう伝えずには居られないから。

 

 朝田は決意する、身分の差なんて無視して、自分の気持ちをレミール皇女に伝える。愛していると。伝えなくてはならないのだとそう感じるから、その想いのままに。

 

 もしかしたら、身分差を超えて愛し合い、結婚することも適うのでは無いかと二人は希望的観測を抱く。こんなにも心と心が触れ合い、一つになっているのだから。

 

 片や超大国の人間と言えども平民。片や弱小国と言えどもこの世界の大国の皇女。横たわる身分の差。だが、だからなんだ、愛を伝え合う事に身分の差など関係ない。

 

「た、泰司」

 

「は、はい」

 

「パーパルディア皇国皇女と、平民の身分のまま、結婚は適うと思うか?」

 

「そ、それは……、法が、許せば。大日本帝国の法は大丈夫ですが問題は──」

 

「パーパルディア皇国の法か……臣籍降下などは出来ぬ。これからのパーパルディアの為に私にはやるべき事がたくさんある、責任がある。ならば……ならば、法を変えて見せよう。あるいは乗り越えて見せよう。皇族の身分のまま平民と婚姻を結べるよう」

 

「そ、それ、は、なぜ、そのようなことを」

 

「分からぬか泰司。私は……私はお前を、お前に抱かれてしまったあの日から」

 

 

 

 朝田は一度、そうある外交先での夜まるで自然。それが在るままなように、レミールを抱いたことがある。

 

 男としての朝田のアピールをレミールもまた拒絶する事無く受け入れた。

 

 熱く、優しく、静かに。

 

『レミールっ、私のレミール皇女っ』

 

『ああっ…、あっ、ンンっ、たい、じ……、私のっ、泰司っっ』

 

 衣服を脱ぎ捨て、ベッドの上で、お互いの身体を抱き締め合い。

 

 夢に見るようなふわふわとした感覚と、熱い情熱の愛とに包まれて。

 

 朝田はレミール皇女を愛し。

 

 レミール皇女は朝田の愛を受け入れた

 

 朝田の愛のその果てを身体の奥にて受け止めた。

 

 熱い口付けから始まった止まらない思いの丈は、一時間ほど続き、居住まいを正して尚抱き締め合わずに居られない程。

 

 その日、二人は一緒に寝たただ寝るだけだが、互いの身体を抱き寄せ合って眠ったのだ。

 

 優しい、優しく熱っぽいままに二人は眠りに落ちた。

 

 翌日からも仕事の内容は変わらず、受け答えも変わらず、ながら確実に二人の距離は大きな歩みを見せていた。

 

 

「レミール皇女……」

 

 もう分かった。ここまで言葉で語られた。態度で示された。

 

「レミール皇女。私も、私も貴女を──」

 

 だから分かってしまった。互いの気持ちを。いいや、もっとずっと以前より分かっていた事をただ再確認し、受け入れただけの事。

 

 お互いを好き合う二人の甘い触れ合いは、やがて慌ただしい物へと変わる。

 

「あ、あの、レ、レミール皇女、ですがいまはそれどころでは」

 

 そうなのだ。たったいま彼女自身が口にしたパーパルディア皇国皇女としての仕事が待っている。お互いの気持ちはもう分かったのだから、続きは今夜にでも。

 

「あ、ま、待て髪型をロールに」

 

 真っ直ぐに降ろしている事を思いだしたレミールは、ヘアスタイルをロールにしようとするが。

 

「そのようなお時間はございませんよ。それに髪を下ろしているレミール様の方がお美しいのですから、あちらの心象もよくなります」

 

 綺麗な方が心象が良いと注意され、暫し考えた後。

 

「そ、そうか、泰司がそう言うならば、このままで向かおう。衣服はこれでも良いだろうか?」

 

「大丈夫ですよそちらも。いつものドレスなのですから、尊き身分の方々にお会いするには相応しい衣服です。まさかいつもの部屋着やパジャマで向かうわけでも無いのですからね」

 

 クスクス笑う泰司にレミールは。

 

「パ、パーパルディア皇国皇女レミールに向かって無礼ぞ! いくら泰司でも、その、あんまりではないか」

 

「あ、ああ、申し訳ありません、その、別に虐めているわけではないのですよ、軽いスキンシップのつもりで他意は」

 

「そ、それならば良いのだ……泰司」

 

 また朝田の胸に甘える様に頭を置くレミール。

 

「泰司の心音が聞こえるぞ。妙に早い」

 

「ま、私も緊張しておりますので。レミール皇女のような美しい女性と抱き締め合ったままこうしている時間と、ブリタニア皇女にお目に掛かるという二つの意味で」

 

 

「そ、そうか、私も泰司に抱き締められてドキドキするぞ。勇気も貰えた」

 

 こうしていつまでも抱き締め合っていたいなあとどちらも思う二人。だが事が事。そういうわけにもいかない。

 

「そ、それでは参りましょう」

 

 

「う、うむ行くぞ!」

 

 朝田泰司とレミールは居住まいをただしたのち、仲良く手を繋ぎながら、マンションの出口の扉へと向かうのだった。

 

 目指す先は700mほど先の公園。両ブリタニアの両ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女と、ブリタニアはローゼンクロイツ伯爵家第五女シンク・ローゼンクロイツ嬢。

 

 

 そして世界最強のスナイパーの名を持つ麻生良太郎外務大臣の待つ公園へ。

 

 

 

 

 

 

「あそこに一際高くそびえ立っている建物何かお分かりにないまして?」

 

 休日ユーフェミア質問し。

 

「知っておりますこの間泰司と上って参りました故に」

 

 レミールが応え

 

「な、なんあのですかあの天を突く高く巨大な鉄塔は!?」

 

 平行世界のユーフェミアが驚き。

 

 こちらのユーフェミアとレミールが顔を見合わせて答えようとしたところへ。

 

「東京スカイツリーよ。高さは2,023mでこの世で作られた人工物の中では世界最高の高さを誇っているわ。第四から第一まで四つの展望台が設けられていて一番上は地上1,900mの高さになるわね」

 

 空気を読まないシンクが全て答えてしまう。

 

 結果として薔薇のお茶会は初めの頃はレミールの緊張が伝わっていたが、皆がフォローし、仲良くお茶を飲めたという。

 

 そして話はそのスカイツリーにこれから行こうという話になった。

 

「朝田は一般人だから良いとして、ユーフェミア両殿下方、レミール皇女殿下、シンクに俺っち、この五人は一般人じゃねーからな。SPぞろぞろ引き連れて騒ぎンなっちめーぞ」

 

「あ、麻生閣下自分は遠慮しま──」

 

 レミール皇女以外のVIPばかりの中に居て、緊張で心臓がぶっ壊れそうな一般人の朝田泰司は断ろうとしたが。

 

「だ、駄目だお前も行くのだ泰司! 私の傍より離れぬと言った言葉を反故にするのは許さぬっ!」

 

 レミール皇女が朝田に抱き着いて無理矢理にでも連れて行くと宣言した事で。

 

「朝田よォ、オメーは決定な」

 

 そう麻生良太郎は人数勘定をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 その夜──

 

 

 

 

 

「はあッ、泰……司ッわ、わたし、は、お前をッ、愛しているッ……、愛して、いるのだッッ!」

 

 女は愛を語る。その身を奥まで最奥まで貫かれながら。その最奥に幾度もの愛の迸りを受けて。

 

「レミー、ル、皇女ッ、私もッ、わたしもッです、レミール皇女をッ、愛しておりますッッ! 貴女はッッ、私だけのも、のッ」

 

 男も愛を伝える。愛する女のその最奥までをしっかりと確実に貫きながら。女の最奥で愛を迸らせること幾度も。

 

 女の名はパーパルディア皇国皇女レミール。

 

 男の名は日本国外務省外交官朝田泰司。

 

 二人は一糸まとわぬ姿で愛し合っていた。確かな愛を語らっていた。愛の語らいは既に一時間は続いている。そして未だ尚続くだろう。

 

 お互いを愛するが故に、こよなく愛しているが故に、最早、我慢がならなかった。身体と身体を一つにして語らずには居られなかった。

 

 レミールの膝下へと伸びる程の長い銀色の髪が、朝田の胸や腰にまとわりつき。朝田のたくましい胸板に、レミールの豊かな双丘が触れ、抱き締め合うと押し潰れる。

 

 柔らかな感触。柔らかすぎる彼女の身体を、朝田は抱き続ける。この女を、彼女を私が抱いている。平民の私が。

 

 背徳感で一杯だった。パーパルディア皇国の皇女を、ただの外交官が抱いているのだ。だが抱かずに居られない。抱かずに居られる物か。

 

 自分の事を好きと言ってくれる女を。この一年間共に仕事をしてきた同僚を。抱かずに居られるほどクソッタレな男では無い。

 

「レミール皇女、美しい……大きな胸部、透き通る肌、膝下へ届く長い銀色の美しい髪……貴女のすべてが、美しい。レミール皇女……!」

 

「美しいから抱くのか? 私が醜い女だったならば……」

 

 美しいから抱くのか? 否、断じて否。美しいから抱くのでは無い。

 

「醜かろうが抱きますよ……、その時はその時、愛した女が醜かっただけの話……。それだけのこと……、ただ、レミール皇女は美しい……、これもまた、それだけの事なのです……」

 

 当然の事を告げる。極々自然な事を。美しいから醜いから、そんな事は二の次だ。ただ愛しているから。その女を、レミール皇女を愛しているから私は抱くのだ、抱いたのだ。

 

「うッ、ああッ、泰司ッッ、私だけのッ、私だけの泰司ッッ、あああッッ!!」

 

 ただただ純粋な愛を受けながらレミールは果てる。短くも長い時間。何度も何度も果てた。幾度も受け入れた。そしてこの瞬間も。

 

「ううッッくう」

 

 またも朝田は果て、レミールに愛しい彼女に全てを託す。自分の全身全霊と、自分自身の、己の全てをレミールに。

 

「はあッ、はあッ、はあッ、たい、じ……もう、後戻りは出来ぬぞ? はあッ、ふうッ、パー、パルディ,ア、皇国、の、皇女を、抱いたのだから、……な」

 

 二度目。二度目ながら今度が熱すぎる程に熱く濃厚で深い。もう、口先の誤魔化しは出来ない。深く最奥まで入り、その上で朝田は自分の全てをレミールに託したのだ。何度も、何度も。

 

「分かって、ますよ。ですけど私は平民」

 

 そうだ朝田は平民だ。超大国大日本帝国の外交官とは言え平民に過ぎないのだ。だがもう決めたのだ。この女を生涯愛するのだと。

 

「私は皇族のまま、私と泰司は結婚するのだ。泰司……、私は幸せだぞ……お前に見初められて」

 

 レミールはこの世界に於ける今や第2列強となるだろう大国の皇族。だが一般人の平民の朝田泰司を愛した。この愛は永遠なのだと信じて。

 

「逆ですよレミール皇女、私こそレミール皇女に見初められて幸せなのですよ……だから、必ずや貴女の事を幸せにしてご覧に入れます」

 

 朝田は自身の顔の周りに流れ落ちてきた銀色の長い髪を撫でる。レミール皇女の美しい銀色の髪。

 

「私を幸せにしてくれるのか? 泰司……」

 

 幸せにしてくれるか? ごくありふれた質問に

 

「もちろんです。男ですからね」

 

 ごくありふれた答えが返る。

 

「ああ、泰司。私は嬉しい……生まれてより二十と幾年……。これほどまでに幸せで嬉しかったことは無い……泰司──」

 

 まるでレースのように彼の顔の周りに流れ落ちる銀色の滝。その中心には愛する女の美しい顔。朝田はレミールの長い長い銀色の髪を何度も何度も撫でながら、彼女の唇に、自らの唇を落とし。

 

「あむ、んッちゅ──」

 

 熱い熱い口付けを繰り返すのであった。

 

「ん……これからもずっと一緒だぞ泰司」

 

 唇と唇の間を伸びる銀色の糸。熱い口付けの証。切ってはならない二人の絆たる唾液。

 

「この朝田泰司。レミール皇女のお側より離れる事は御座いません……レミール皇女」

 

 その唾液を辿り、再び朝田はレミール皇女の唇を塞ぐ。幾らしてもしたりない口付けと、甘い愛の時間。

 

「あ、んちゅう、んん」

 

 また始まる熱い口付け。愛の時間は長く深い。

 

 夜は未だ長く、朝は未だ遠い。朝田とレミール皇女の愛の時間は続くのだ。

 

 三時間、四時間と続き、二人は疲れ切るまで、愛の果てで、愛を語らい続けるのだった。

 

 

 

 

 幸せな時間を終えたその翌日。

 

 

「泰司、今日も出勤の時間だ」

 

「そうですねレミール皇女」

 

 レミールは駐日パーパルディア皇国大使館へ。

 

 朝田泰司は大日本帝国外務省へと一度出勤。

 

 その後、午前の間に合流した二人は、外交官として共に仕事の任へと就く。

 

 朝田泰司の出向先は駐日パーパルディア皇国大使館であり、大使兼外交官レミール皇女と共に、既存の、或いは未だ見ぬ国との国交開設交渉に向かう事が仕事。

 

 無論朝田泰司は大日本帝国外務省の外交官として、レミール皇女はパーパルディア皇国外交官として。行き先も仕事の現場も二人はワンセットであった。

 

 これまでの一年間も同じであったがこの日より違う事。それは夜を共に熱く静かに、静かで熱く、愛し合うようになった事であろう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「皇族の夫となるというのはとても大変なことなのですわよ」

 

 逆立てられた茶髪を優しく優しくいじりながら、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女は伝える。そのツンツン髪の顎髭男に。

 

「ああーそーでーすかー。俺にゃ関係ねーわな」

 

 逆立てられた茶髪に、顎髭を蓄えた、職業フリーターことニート。現在はグリンダ騎士団ネッサローズ指揮官。グリンダ騎士団総団長マリーベルの嘱託副官等という実に意味不明な職に就いている。

 

 玉城、玉城真一郎はマリーの細腕に抱かれながら、玉城にとっては実にどうでもいい話を聞かされていた。

 

「まず皇室に入ると言うことは教育から始まるのです」

 

「あっそ」

 

 そりゃ教育だろう。ブリタニアの皇室は2000年の伝統ある皇室。教育もなってない阿呆を入れる訳にゃいかねえ。だからなんだっつーのよと玉城は思う。

 

「行儀見習い、作法、言葉遣い全般を覚えて頂かなくてはなりません。他国などではまれに皇族と平民のままで結婚可能なケースもあるのですけれど」

 

「そーでえすかー」

 

 それはそんな国もあるだろう。こっちの星に北側が転移して一年と少し。国の数は元の星と同じくして相当数ある事が分かってきている。ならそんな国もあるだろう。平民と皇族がそのまま結婚できる国だって。

 

 鼻くそほじりながら適当に聞く玉城に対して、マリーは機嫌を悪くする。

 

「もう、シン兄さまお聞きでいらっしゃいますか? 兄さまにも無関係では無い事なのですよ?」

 

 無関係だろう。マリーがブリタニアの皇室、皇女様だってのはグリンダ騎士団に拉致されてから知った。だからといってなんで自分に関係があるのか分からない。

 

「だから、俺にゃ無関係だろーがよ。マリーが皇女様だってのは知った。グリンダ騎士団の役目はしってっし、そのために俺もヴィンセント・カスタム・グリンダっつーとんでもねー性能のKMFにだって乗りこなしてる」

 

 でもどうして皇室の、皇族の結婚話が日本の平民のオレ様に関係があるんだ? 

 

「関係大ありですわ! だって兄さまには近いうちにこのわたくし、マリーベル・メル・ブリタニアの夫となって頂きますもの!」

 

「ああーそーっすか、この俺がマリーベル・メル・ブリタニア皇女様の夫ねはいはい──ってなにいいいいいい?!」

 

「うふふふ」

 

 魔女は笑う。計画的に攫ったのだ。手の内に入れてしまえば既成事実を作ることは簡単だとして。

 

「俺がおめーの夫おおおお!? いやそんなん聞いてねーしッッ!!!」

 

「うふふ、だって、いま申し上げましたもの。このことは騎士団員の誰も知りません。わたくしと兄さまだけが知る事実」

 

 そう、誰も知る必要の無いわたくしだけの計画。

 

「んむうッ?!」

 

 マリーベルは心の中で微笑みながら未来を描きつつ、玉城の唇を自らの唇で塞いだ。

 

「あむ、ふううッ、ん」

 

 長い長い口付けだ。どこかの平民と皇女ほどでは無くとも、かなり長い口付けだった。

 

「ぷはッ……うふふふ、兄さまの唇は頂きましたわ。これで一つ既成事実が出来ましたわね……後は」

 

 

 此処はネッサローズ。マリーベルの部屋。遊ぼうと言われて誘われた玉城がホイホイついて行った部屋だった。

 

「お、お、お、お、おまおま、き、き、キスッ!?」

 

「うふふ、キスでおしまいだとは申し上げては居りませんわよ兄さま。夜は未だ長いのですもの。たっぷりと付き合って頂きますわ♪」

 

「ちょッ、まッ、やめッ、ズボン下ろすなあッ、服脱がせんなあッッ!!」

 

 魔女は微笑む。美しくも妖しく。

 

 

 魔女に見初められた玉城真一郎。彼がどうなったかは。彼自身と魔女の二人だけの秘密。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 この短編の状況

 

 

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国派遣艦隊

 

 

 

 

 

 大和級戦艦2艦

 

 戦艦ペンドラゴン級2艦

 

 グロイスドイッチェラント級戦艦2艦

 

 巡洋艦120艦

 

 駆逐艦220艦

 

 130,000t改大鳳型航空母艦6艦

 

 浮遊航空艦54艦

 

 紀伊型強襲揚陸艦8艦

 

 通常型揚陸艦120艦

 

 VTOL650機

 

 第6世代統合打撃戦闘機秋水440機

 

 第7世代KMFウィンダム530騎

 

 第8.5世代KMFヴィンセント・カスタム140騎

 

 第9世代KMFラウンズ機4騎

 

 同じく第9世代KMF蜃気楼弍式10騎

 

 紅蓮聖天八極式量産型34騎

 

 フレイヤ搭載の戦略潜水艦48隻

 

 攻撃型潜水艦56

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原作世界エリア11派遣艦隊

 

 

 

 大和級戦艦2艦

 

 戦艦ペンドラゴン級4艦

 

 グロイスドイッチェラント級戦艦4艦

 

 巡洋艦150艦

 

 駆逐艦320艦

 

 130,000t改大鳳型航空母艦8艦

 

 浮遊航空艦120艦

 

 紀伊型強襲揚陸艦10艦

 

 通常型揚陸艦230艦

 

 VTOL1,200機

 

 第6世代統合打撃戦闘機630機

 

 第7世代KMFウィンダム670騎

 

 第8.5世代KMFヴィンセント・カスタム250騎

 

 第9世代KMFラウンズ機8騎

 

 同じく第9世代KMF蜃気楼弍式20騎

 

 紅蓮聖天八極式量産型57騎

 

 現在最強のKMF第9.5世代機フリーダム・フローレンスの出撃こそ見送られたが、グレートブリタニアの中で待機状態に置かれた。デヴァイサーのモニカ・クルシェフスキーは夫である嶋田繁太郎の守護として戦艦大和の甲板に乗っている。

 

 フレイヤ搭載の戦略潜水艦100隻

 

 

 

 

 

 

 

 現在のパーパルディア皇国軍

 

 

 

 戦列艦800隻+200艦(全艦処分予定)

 

 40,000t級空母4隻(休日太平洋戦争より少し前のもの、史実太平洋戦争時より上)

 

 巡洋艦4隻(休日太平洋戦争より少し前のもの、史実太平洋戦争時より上)

 

 駆逐艦16隻(休日太平洋戦争より少し前のもの、史実太平洋戦争時より上)

 

 プロペラ戦闘機600機(休日太平洋戦争より少し前のもの、史実太平洋戦争時より上)

 

 

 

 玉城真一郎(マリーベルに無理矢理グリンダ騎士団に連れてこられた。旗艦ネッサローズ乗艦。事実上のマリーの騎士)

 

 ヴィンセント・カスタム・グリンダ玉城専用機で、エナジーウィング搭載機でスーパーヴァリス搭載機。

 

 

 

 

(どんな傾向かを知りたいのもありまして

  • ミリシアル好き
  • ミリシアル嫌い
  • グラ・バルカス好き
  • グラ・バルカス嫌い
  • ロウリアは徹底的にやっちまうべき
  • ロウリアにも救いを
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。