砲艦外交の前に   作:休日

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12砲艦外交じゃなくてそれぞれ感じたこと

 

 

 

 その日のブルーアイの日記より

 

 

 観戦武官としての任務。北側諸国、ひいては大日本帝国とそれら国々の強力により、パーパルディア皇国は国力・軍事力共に一年と少し以前と比較して。

 

 比べものに成らないほど強化されたという噂が、この大東洋諸国圏で流れている。パーパルディア皇国の力を見極めんが為。という使命も、私には有った。しかしなんということだろうか、私は確かに戦いをこの目で見た。

 

 だが、それは戦場の上空20,000mという途方も無い場所からだったのだ。浮遊航空艦。伝説の魔帝が保有していたと伝承で残る空飛ぶ戦艦の上から私は、スクリーン。画面と呼ばれる。麻信に色がついたその場の絵を連動して動かす様な通信装置を通して戦いを見た。

 

 だが引き換え、パーパルディア皇国の海軍艦隊司令は恐らくだが、海戦そのものを直接は見ていない。私たちが見たのは3㎞以上離れた場所からによる砲撃。

 

 続き高速で飛び回るセントウキという鉄竜による一方的なワイバーン狩り。

 

 そして最後に信じられない物を視た。パーパルディア皇国軍の3㎞離れた軍艦が、水平線の向こうより現れた更に巨大な軍艦と入れ替わるように、等間隔で並ぶと。

 

 見たことも無い巨大な砲。前甲板には1基につき3門が2基搭載されており、1隻6門4隻で24門の砲口がロウリア艦隊6,000余隻に向けられたかと思うと。青白い電気を帯電させながら一斉砲撃。

 

 海を割り裂き、小島を粉砕し、ロウリア艦隊を消し飛ばしてしまったのだ。辻閣下に確認すると、その砲の飛距離もとてつもなく、実に300㎞にも及ぶという。

 

 終わった時、粉々になったロウリア王国軍の船の残骸だけが海を漂っていただけだ。

 

 見ていたから分かる、人知を越えた超砲撃。パーパルディア皇国は砲艦を処分したと言うが、あんなものが(戦艦)があれば砲艦なんて必要ない。

 

 ただでさえ鋼鉄の巨大艦を40隻以上保有し、ロウリアのワイバーンを全滅させた鉄竜は2,000騎を超えているのだ。今のパーパルディア皇国ならばやるつもりさえあれば第三文明圏全土を征服できるだろう。

 

 特に辻卿の話しによればパーパルディア皇国の巨大艦。パールネウス型は燃料・エネルギーが無限で、あの砲撃を何発でも撃てるらしい。反則なんて言葉では言い表せない。あの威力ならば陸地をも割り裂くだろう。

 

 北側諸国も恐ろしい力をパーパルディア皇国に与えた物だ。第三文明圏の守りの要にするという話しだが、どちらにしろあの戦力では足りない相手も居るだろう。とてもいそうに思えないがこの世に絶対は無いからだ。

 

 結局は我々も出張ることがあるかも知れない。

 

 そんな辻卿の言葉が私には恐ろしく聞こえた。そんな巨大な敵がこの先現れるかも知れないという可能性についてまで見据えている、北側諸国の在り方に。

 

 結果的にだが、ロウリア王国はワイバーン800騎、軍船6,000余隻を粉砕され、パーパルディア皇国の損害は0。無線という魔信のように遠くの者と話せる機械によれば、アルカオン提督の言として。重巡洋艦フィシャヌスの塗装が鏃を受けた分ちょっと剥げたということらしかった。

 

 駆逐艦と呼ばれるこれもまた大きな船が、波間に浮かぶ多数のロウリア人を救助する作業を行っていたようだが、確かに以前までのパーパルディア皇国とは変わったようだとの確信を得た。

 

 以前のパーパルディア皇国ならそのまま殺していただろうし、無視してさっさと帰投していただろう。救助という行為は近年の彼らが初めて行った行為かもしれない。

 

 しかしいくらパーパルディア皇国の船――巡洋艦、戦艦が大きくてもたったの8隻で、しかも1回の戦いで、ごく短時間でのこの完全勝利は、前代未聞である。

 

 第二列強ムーや列強一位の神聖ミリシアル帝国でさえ無理では無かろうか。

 

 祖国の危機が遠のいたことは真に喜ばしく、私は今喜ぶべきであるが、パーパルディア皇国にこれだけの力を簡単に与えてしまえる北側諸国の軍事力の常識を覆すだろう圧倒的強さに、恐怖を感じずにはいられない。

 

 政府への報告書も頭を痛める。誰も信じないような報告書を政府に上げる必要があり、胃に穴が空きそうだ。一年前、北側諸国の使節を乗せたという巨大船を臨検したピーマの船長も、あるいは北側諸国の第二位の超大国日本を訪れたという使節団の面々も、同じ苦しみを味わったに違いない。

 

 北側諸国は敵に回してはいけない。この一年何度となく聞かされ、実感してきたが、今回の戦を見て改めて感じた。列強とかそんな常識で図れない超大国で構成された国々が友好国であるということに、私は改めて安堵する。

 

 

 

 パーパルディア皇国南方防衛海軍 旗艦パールネウスにて

 

 

 パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハル

 

 パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは、甲板に上がり呆然としていた。

 

 この戦艦クーズからは遠目にだがあちらさんの様子とその瞬間が運良く見れた。

 

 突如前方に展開していた重巡洋艦部隊が道を分けるように左右へと大きく後退を始め、クーズ含む、旗艦パールネウス、アルーク、カースの4隻が、先の重巡洋艦部隊の位置と直列するような位置へと等間隔に並んだのだ。

 

 ここから砲撃するつもりか。他の艦を見ればここからの砲撃でも余裕を持って当てられることは分かっているが、相手は6,000隻を超えて余る大艦隊。如何に巨砲とは言え数隻纏めて吹き飛ばしていたくらいでは、あの艦隊は何れここへと辿り着く。

 

 この艦に備えられた全砲を撃ちまくれば、木造船相手に負けないだろうが、時間は掛かるだろう。そう考えている時だった。クーズの前甲板に備え付けられた2基6門の巨砲が旋回を始め、水平真っ直ぐに向けられたのだ。

 

 甲板からは退避を言い渡されていたために、図々しくも艦橋に逃げ込んだがそこは観戦武官の肩書きを上手く使った。何をするのだろう。普通に水平砲撃を始めるのか?

 

 そう思ったとき。艦首が青白く光り始め。バチバチと雷のような帯電音を鳴らし始めた。左右を見てみると他の艦も同様に青白く光り始めていた。何が起きるのだろうか? 瞬間だった。

 

 

 ドッ――!

 

 

 青白い光が解き放たれ耳をつんざく雷の音が聞こえたのだ。

 

 あたりは一瞬青白い雷の光に包まれていたかのように見えたが、正直何が起きたのか良く分からない。

 

 前方を見ると海が裂き割れ、海に穴をうがつような24の線が直進し、ロウリア艦隊のいた場所を突き抜けていた。

 

 舞い上がる海の水のしぶきが視界を隠す。あれだけの砲撃だ。しぶきもあがろう。海を割るほどの砲撃が発射されるなんて誰にも想像が付かない。

 

 アルカオン提督を見ると、額に汗しつつも冷静だった。つまりこうなるだろうことを予め予期していたのだ。

 

 船の揺れが収まりしぶきが消えた頃、前方を見遣ると。ロウリア艦隊は消えていた。

 

 嘘だろう?! 海を埋め尽くすほどの、6,000余隻の艦隊がたった24門の巨砲の一斉射撃を受けて消し飛んだのだ。

 

 ワイバーンについてもそうだったが、ここまで一方的になるとは考えても見なかった。北側は『結果の見えている勝負に武官を送り込むほど暇じゃ無いんです。何なら変わります? 書類仕事』と、観戦武官を送ってこなかったが、これを知っていたら武官を送る必要は無い。

 

 青い顔をしているアルカオン提督に今のは何ですか、と、問い質すと。

 

『レールガン、超電磁砲とかいうものがこの主砲の真骨頂らしい。口径は46㎝、弾速は7,200㎞、射程は300㎞だそうだ。はは、そんな物を24門斉射すれば海も割れるよ』

 

 カラカラと乾いた笑いを上げながら倒れそうになっていた。

 

 ああ、そうか、ようやくわかった。この一年戦列艦を処分して行っている意味が。こんな鋼鉄の艦隊があれば、戦列艦1,000隻など物の役にも立たないだろう。

 

 砲撃は鋼に跳ね返され、それ以前に砲撃の届かない場所から、こんな馬鹿みたいな砲撃の波状攻撃を食らえば、戦列艦隊1,000隻なんて一時間保たない。

 

 船速も30ノットを平気で超えている。全艦がだ。北側諸国とくに大日本帝国はこれを“おもちゃ”といってパーパルディア皇国にプレゼントしてくれたそうだ。

 

 無償供与、北側諸国総意の元で。つまり北側諸国はこれくらいのものはいつでも作れるし、いつでも使い潰せる、子供のおもちゃとみているのだ。

 

 私にはそれが何よりも恐ろしかった。

 

 

 

 

 

 砲艦外交じゃなくてそれぞれ感じたこと

 

 

 

 

 

 ロウリア王国 王都防衛騎士団 総司令部

 

 

 敵主力艦隊発見の報を受け、その攻撃に飛び立ったのだろう800騎の。彼らの悲鳴とともに魔信が途絶して3時間が経過した。

 

 司令部に重苦しい沈黙が流れる。

 

 合流の報告も無く、帰投時間になっても1騎たりとも帰ってこない竜騎士たち。司令部は焦燥に包まれていた。

 

「何故帰ってこないのだ?」

 

 顔を青くするパタジンの問いに、答える者はいない。

 

(まさか……全滅……そんな馬鹿な!? 800騎だぞッ!? 800騎の大軍だぞ!?)

 

 信じられなかった。それが全滅するだなどと。だが現実に帰ってきた騎は1騎たりともいないのだ。

 

 1,000騎用意したからまだ200騎あるでは済まされない。

 

 800騎で無理だったものが200騎でどうにかなるものか。

 

 ロデニウス大陸の歴史において、ワイバーンは最強の生物である。しかし貴重な種なので、数がなかなか揃えられない。

 

 ロウリア王国の当初保有していた500騎というのは、ロデニウス大陸統一を前提に、昨年までパーパルディア皇国から軍事援助を得て、6年かけてようやく達した大部隊。

 

 一年と少し前、そのパーパルディア皇国から軍事援助が途絶えた後は、国庫の全てを投入し、無理に無理を重ねて倍の1,000騎にまで奇跡的に増やせたのだ。

 

 この圧倒的な戦力で、武装解除したパーパルディア皇国を蹂躙するはずであった。

 

 海軍の支援として飛び立った800騎は、歴史に残る大戦果を挙げて帰ってくるはずだった。

 

 しかし、現実にはそうではなかった。

 

 考えたくない。考えたくないが、全滅したのだろう。

 

 パーパルディア皇国軍がまさかの大艦隊を繰り出していたのだとしても、普通に考えて800騎のワイバーンを全滅できるとは考えられない。まさかパーパルディア皇国は伝説の神竜バハムートでも使役しているのだろうか?

 

 ロウリア王になんと報告したらいいのか。

 

「残り全騎の竜騎士に通達、以後本陣の防備に入れ」

 

 

 

 戦場上空10,000m パーパルディア皇国浮遊航空艦デュロ

 

 

「な、なん、なのだ、あれ、は?」

 

 私は私の身体を支えてくれている泰司に聞いていた。

 

「レミール皇女、以前お話致しました、あれが現時点でのパーパルディア皇国最強兵器、18インチ超電磁砲です」

 

 泰司は先ほどから私の背中をドレス越しにポンポンと叩いたり、髪を梳いてくれては、私のことを落ち着かせようとしてくれている。泰司の行為も、好意も両方嬉しいものだが。

 

 興奮を通り越して恐怖の域にまで達した感情のざわめきは、中々に収まらない。昨夜、泰司と『レミール皇女ッ!』『泰司……!』名を呼び合い、時を忘れて愛し合った悦びの気持ちが吹き飛んでしまった。

 

「あれが、我が皇国の18インチ、レール、ガン……」

 

 辻卿よりお伺いしていた。おもちゃには隠し武器。これがロマンでしてね。まあこの子たちの場合(パールネウス型4隻)隠れてはおりませんが。

 

 辻卿の仰っていた隠れてもいない隠し武器とはコレのことだったのか。

 

 ふと泰司が私の身体を抱き寄せる。倒れないようにと支えてくれるだけでは危ないと思ったのか。身体がふらふらしているのが自分でも分かる。

 

 あの瞬間が目に映る。デュロのメインスクリーン、艦橋正面の大きな窓に映る映像の中にアップにされた戦場が映し出され。始まりから終わりまでを見ていた。

 

 それはまるで以前見た、日中戦争や日欧戦の焼き増しにも見えた。規模は彼の両戦争よりも遙かに小さいが、圧倒的戦力差という意味では同じ。

 

 始まりは警告。我が皇国領海内への領海侵犯についての警告だ。あの時点でロウリア軍が引き返すなら皇国はなにもしない。しかし、ロウリア軍は引き返さずに進軍を続け、皇国を侵略した。

 

 平和主義には成り、侵略戦争を止めた皇国だが、だが敵であるならば別だ。それなりの対応を取らせて貰う。

 

 私は今、政治には携わっていない。駐日パーパルディア皇国大使という肩書きを持ちながらも、一外交官として泰司と共に世界を飛び回っている。

 

 今は第三文明圏と大東洋諸国圏、そして北側諸国の存在する大東洋圏を飛び回っているが、何れは第一、第二文明圏や、南方世界にまで足を運ぶこともあろう。

 

 ともあれ、警告から始まった戦争は。重巡洋艦フィシャヌスがロウリア軍の攻撃を受けた瞬間、開戦となった。

 

 まずパール型重巡洋艦が距離3㎞から砲撃を始め、ロウリア軍の木造船を次々に破砕していった。しかし数が数。6,000余隻という膨大な数の前を葬ろうにも時間が掛かり、皇国の領海内に入った船が狼藉を働かぬとも限らぬ。

 

 そして船では分が悪いと考えたのか、ロウリア軍はワイバーンを800騎と大軍で仕掛けてきた。これに皇国軍はゼロ式艦上戦闘機52型と、精鋭の震電改で応じた。

 

 その様を見続けていたがまるでトカゲ狩りだった。遠方よりのロケット弾攻撃から始まり、爆散していくトカゲの群れ数十匹。次々に飛び込んでくる皇国軍のロケット弾にロウリア軍の竜騎士隊は数を減らしていった。

 

 続いて震電改が飛び込んできて、30㎜機関砲という信じられない高速大口径の銃を乱射していき200、300、500、700、とトカゲ狩りをしていく。圧巻だった。まるで勝負になっていない。最後に残った一匹までもを狩り尽くすと、ゼロ戦隊と震電隊は航空母艦ヴェロニア型のもとに帰投していったのだろう。

 

 北の彼方に消えていった。そして重巡洋艦フィシャヌス型が並んでおった海域に、より巨大で堅牢な艦船が4隻、姿を見せた。満載排水量76,800tの巨大艦。我がパーパルディア皇国最大の戦艦パールネウス型。

 

 日本より戴いたものだから自慢は出来ぬが、いまやパーパルディア皇国の誇りでもある。戦争が始まる前、パーパルディア皇国領の自治都市クーズに住まうハキとイキアが、皇都エストシラントを訪れており。

 

 私が帰国中だと知るや外務省に乗り込んできて。

 

『レミールよォ、ロウリアと戦争するんだろ? あの戦艦クーズに俺とイキアを乗艦させてくれ! 皇族権限ってやつでさ!』

 

『し、しかし戦争だぞ? 遊びでは無いのだ。ハキもイキアも死ぬかもしれぬぞ?! 私は友となったお前達を喪いたくは無い!』

 

『おおッ、狂犬と呼ばれたレミール皇女様がずいぶんと弱気じゃないか! 安心しろよクーズは絶対沈まねえ! あんな巨大な戦艦がたかがロウリアの木造艦隊なんかに負けてたまるかッ!』

 

『し、しかし……』

 

『頼むよレミール。皇族で友達はお前しかいないんだよ』

 

 そうして無理矢理皇族権限を使わされ乗艦を許可してしまった戦艦クーズも。その4隻の中に含まれていた。

 

 4隻は等間隔に横並び一線。1艦ずつの距離は500m~1㎞といったところ。

 

 その1艦1艦の巨大な砲、前部2基6門がゆっくりと前方を向き、ロウリア艦隊と対峙する。

 

 訪れる僅かな静寂。静まりかえるエストシラント沖の海域。始まりと終わりは同時だった。

 

 戦艦パールネウス、戦艦クーズ、戦艦カース、戦艦アルーク。4隻の戦艦の前部の巨砲に、青白い光が集まり、帯電を始めた。あれは電気だという。電気文明の発展した北側諸国では珍しくも無い現象。

 

 私も日々普通に生活をする中、あの青白い光に触れたことがある。あの時は手が痛かった。スタンガンだ。防犯グッズの。泰司の家に暴漢対策用に設置されている。私と二人暮らしになった頃から設置したのだ。

 

 そのスタンガンの電気は青白いほど熱が高い。つまりあの4隻の砲口が青白いと言うことは高熱を意味し。あの砲の中は今、超高熱となっていることだろう。甲板員も皆艦内に避難している。

 

 誰も居ない甲板で、青白い光だけが巨大に膨れ上がっていき。

 

 そして、次の瞬間、それは24つという数の分だけ一斉に解き放たれた。

 

 

 ズドォォォォォォッ――

 

 

 轟音とともに撃ち出された24本の光の帯が、海を割り、小島を粉砕し、ロウリア軍6,000余隻に襲いかかったのだ。

 

 その様はまるで大嵐に吹き飛ばされる小舟のように、24本の光の帯は一瞬にして全ての艦船を薙ぎ払っていった。

 

 戦友と友に戦いに出た。家族に帰ると告げて出征に出た。出世して給金を増やしてと野望を抱いて戦いに臨んだ。

 

 そんな全てが一瞬にして、ゴミのように処分されたのだ。

 

 24本の超電磁砲の軌跡は300㎞の間をひたすら海を削り割って消えていった。

 

 なまじ、浮遊航空艦からの映像だから、戦場カメラマンの映像のようによく見えた。音もしっかりと拾って。

 

「た、泰司、もう一度聞く。辻卿のお言葉、あれはおもちゃというお言葉は本当なのだな?」

 

 私を抱き締めてくれている泰司。黒を基調としたドレス故にわかりにくいが、私のドレスの中は正直恐怖に汗ばんでいる。映像では色々と見てきたこの一年と少し。

 

 だが、直接見るのはコレが初めて。故に私は怖かった。

 

「ええ、間違いありません。辻閣下の仰ったとおり、あれはおもちゃです。我が国や神聖ブリタニア帝国、AEU他、一部の大国にとっては」

 

 これを聞いた恐怖に、私は泰司にしがみついた。

 

「た、泰司っ! 私を、私を抱き締めていてくれっ!」

 

「れ、レミール皇女、如何なされたのですかっ!?」

 

「い、いいから抱き締めて、泰司」

 

 艦橋でこの様に抱き締め合うのは不謹慎であると知りながら。それをせずにはいられなかった。

 

 私は未だ北側諸国の真の恐ろしさを知らない小娘だったのだ。

 

 

 この戦争が終わった後、しばらくの休暇を戴いていて良かった。日本に駐日大使として派遣されてからこの一年。なぜか辻卿より大量の書類が送られてきて、処理するよう要請されるが。

 

 なぜパーパルディア皇国大使館なのだろうと思い聞いてみると、『貴国がこれまで迷惑を掛けてきた国々の苦情の書類です』とのこと。

 

 これはセレミア皇帝も同じように第三文明圏の国々から苦情の書類の処理が来ているとか、私が担当しているのは大東洋諸国圏のもの。

 

 確かに私は、私たちパーパルディア皇国は迷惑ばかり侵略ばかりの日々だった。そのツケとしては安いものでしょうという辻卿の言に、私は何も言えなかった。

 

 その書類仕事もようやく終わる目処が付いてきた。どれだけ迷惑ばかり掛けてきたのだろうか我が皇国は。

 

 他にも書類の中には新しい国家と国交を結んだことに対するものも含まれており、家にまで持ち帰って泰司に手伝って貰いながら書類仕事をしたのも懐かしい。

 

 とくに恐ろしくも楽しかったのが北側諸国とのやり取りを行った書類関係だろうか。平和主義ながら怒らせれば世界を滅ぼす力を発揮する国々との。

 

 まだ一年なのだな。一年、学んだつもりが、まだまだケツの青い小娘だったのだと、今日思い知らされた。

 

 

 ぷちゅん

 

 

 泰司に抱き締められて安心していたところ、メインスクリーンの映像が付いた。映っていたのはいま話題に出していた辻卿だった。

 

「つ、つつつつ、辻卿!」

 

「か、閣下っ、こ、これはそのっ、レミール皇女が戦場の気配に恐怖なされておりましたので抱き締めて差し上げていただいていたのでございまして、けして不埒なことをしていた訳では――」

 

『ああ、ああ、構いませんよ。アレを。あのおもちゃの威力を初めて見たらこの惑星の人なら皆、レミール皇女殿下のようになります。デュロのオペレーターはまだパーパルディア人ではありませんから平然としているだけで。ま、下の艦隊でも一部の方は喜んだりしているかも知れませんが』

 

 辻卿は深い瞳に笑顔を浮かべて私と泰司を見ていた。

 

「つ、辻卿はどちらに?」

 

『あなたがたの浮遊航空艦デュロの上空10,000mです。どうですレミール皇女殿下。これが本物の戦争です。映像で見るのと現場で味わう空気とではまったく違うでしょう? 強かろう弱かろう関係なく、一切合切を呑み込む。この度はパーパルディア皇国が圧倒的に強かった。それだけの話しです。個人の事情も、野心も、生活も、全て奪い消し去る。その上で生き残った者はその命の分だけしっかりと生きていく。ま、説教じみたことを言いましたが大勝利おめでとうございます』

 

 ロウリアもこれだけ喪えばもう何も出来ないだろう。まだ何かしようとするならばただの馬鹿です。まあ馬鹿ほど行動的なので何をするか分かりませんが、パーパルディア皇国にはもう侵攻できないでしょう。そういう辻卿。

 

『場合によってはパーパルディア皇国からロウリア王国にやってみます? 砲艦外交』

 

 私はぶんぶんと首を振って否定した。私の首の動きに合わせて波打つ私自身の長い膝下へと流れる銀色の髪を、私を抱き締めてくれている泰司が逐一撫でて綺麗にしてくれているが、私は、我が国はそんな思い上がりをたった一年と少しで持つほど愚かではないつもりだ。

 

 北側諸国にオブザーバーとして参加させて頂いて良く分かった。パーパルディア皇国など所詮は井の中の蛙、超弱小国なのだと。150年前の大日本帝国と戦っても大敗を喫するほどの弱小国家なのだと。北側諸国とともにであれば参加させて頂きたいものだが。

 

『その艦、軽斑鳩級デュロですが、もし良ければレミール皇女と朝田さんの長距離移動専用に為さっては如何です? この惑星は非常に広いですからね』

 

 思わぬ提案が飛び出した。辻卿が言うには。私も学んだが、この世界は惑星という星で、北側諸国がいたという地球という惑星と比較して非常に大きく、赤道直径が100,000㎞を超えるという。移動手段の限られる文明圏同士の行き来が難しかろうとのこと。

 

 この為、フレイヤ炉と呼ばれる永久機関を搭載した浮遊航空艦デュロで行き来すれば時間短縮にも繋がり、移動手段としては良いのではという話しだった。

 

「よ、よろしいのでしょうか辻卿。このデュロは日本の――」

 

『パーパルディア皇国に差し上げたものですのでご自由にお使いください。使い道に関してとやかく言いませんよ。分解して壊したらしりませんが。居住性もよろしいでしょう。是非お仕事用にでもお使いください。ブレイズルミナスというシールドも搭載されております。単装リニア砲も搭載されております。序でを言うと、無頼やグラスゴー最初期型12騎から14騎は搭載できますので紛争にも使えます。安全面もそこそこ高いので使い勝手もいいですよ。ただ呉々も皇帝陛下のご許可は戴くように。まあくれるでしょうが』

 

 こ、これ、本当にKMFを搭載できるのか?! 辻卿のお言葉、日本で読んだ図鑑やネット情報からも知っていたが。

 

 あの強力な人型装甲騎を10騎以上搭載できるなんて。山岳地帯や都市部、砂漠地帯などで大きな力を発揮するKMF。

 

 私も乗ってみたいと思っていたし、……だが、軍の了解を取らねば。

 

『レミール皇女殿下に14騎追加で無頼と14機追加でVTOLを差し上げますので余計な事を考えなくてもよろしいですよ。どうせ乗りかかった船ですから。ただし力を得るということは時に責任も伴うとだけは覚えて置いてください。あとオペレーターや乗組員の人はパーパルディア人から選別して訓練して置いてください。いつまでも日本のオペレーターや乗組員を貸し出せませんので』

 

「う、うむ、確かに辻卿の仰るとおりだな。デュロの乗組員は日本の方々の訓練を受け次第、順次我がパーパルディア皇国皇民の中より選抜させて頂く」

 

 あっさりと裁可くださる辻卿。日本にとってはKMFとはいえ最初期型の無頼ならば辻卿の個人裁量で動かせてしまえるものなのか。それとも、辻卿とあの方々の権力が強大に過ぎるのか。

 

 うーむしかし確かに人員はパーパルディア皇国人から選ばねばならぬ。ならばハキとイキアに相談をしてみるか。クーズの都市民はいまやる気に満ちていると聞くからな。

 

 ふふ、ハキとイキアなら自らが喜んで乗り込みそうだ。クーズの都市民からオペレーターも乗組員も全員まかなえそうな気もするが、どうだろうか。

 

 だが、ハキとイキアが戦艦クーズの方に乗りたいと言い出した場合はどうしようか。気心の知れた友人が他にもいないわけではないが。

 

 いっそ、カイオスでも連れてきてやろうか?

 

「泰司」

 

 私は未だ抱き合ったままの姿勢でいる泰司に声を掛けた。思えば辻卿とのやり取りも泰司と抱き合ったまま行っているのだ。様にならぬな。

 

「如何しました?」

 

「泰司はKMFには乗れるのだろうか」

 

「まあ操縦程度は出来ますよ。伊達に外交官をやってません。危険な任務の時には無頼改を軍からお借りして任務に向かいますので」

 

「そうか……泰司が、私の騎士になってくれたら……」

 

「なんです?」

 

「あ、ああ、いやなんでもない! 忘れてくれ気の迷いだ!」

 

 そこで辻卿が割って入る。

 

『レミール皇女殿下と朝田さんは同僚の外交官にして恋人同士。騎士の選定にも向いているかと愚行致しますけれどね』

 

「つ、辻卿?!」

 

「辻閣下っ?!」

 

 にっこりと笑う辻卿に、いきなり何を言い出すのだこの御方はと、私と泰司は大慌てでその場をやり過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦 デュロ

 

 使用国:パーパルディア皇国

 

 全長:191m

 

 時速巡航:450㎞

 

 最高速度:1000㎞

 

 ブースター装着時:マッハ2~3

 

 乗員:230名

 

 充足時:340名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離:∞

 

 兵装:単装砲(リニア砲)5門

 

   :ミサイル発射機2基搭載

 

   :スラッシュハーケン(近接用武装)

 

   :ブレイズルミナス

 

 

(どんな傾向かを知りたいのもありまして

  • ミリシアル好き
  • ミリシアル嫌い
  • グラ・バルカス好き
  • グラ・バルカス嫌い
  • ロウリアは徹底的にやっちまうべき
  • ロウリアにも救いを
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