砲艦外交の前に   作:休日

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休日編でも異世界編でも通用するのでこちらに。

CP玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア

 玉城真一郎×オルドリン・ジヴォン

 朝田泰司×レミール

 R15-16


小ネタ 南天という世界の闇

 

 

 異世界編

 

 休日世界編

 

 両世界で通用するお話です。

 

 

 

 

 

 南天条約機構。

 

 それは日本・ブリタニア太平洋戦争の際に、東南アジアの一部、南太平洋のほぼ全域と、自国の領域を拡大していった合衆国オセアニアが作り出した集団安全保障体制にして、集団攻勢保証体制。

 

 日ブ太平洋戦争に着いていける唯一の国と考えられていた合衆国オセアニアは、戦争その物には直接介入はせず、裏口から戦争への介入を図り、見事日本勢力圏、ブリタニア勢力圏より領土を掠め取っていった。

 

 正確には、当時の東南アジアは日本の裏庭に数えられ、当時の大洋州連合はブリタニアの裏庭の一つとみられていた。これらの一部と全域を掠め取ったオセアニアの策謀は上手くいったが。

 

 その危険性を熟知し始めた日ブ両国は、戦争終結後、悪化した国民感情を鎮めていき、対オセアニアで一致した行動を取ろうと、日ブ相互安全保障条約を早々に締結。後に北側と呼ばれる諸国を率いるオセアニアとの冷戦が始まった。

 

 一方のオセアニアは太平洋戦争へ裏口参加し、唯一の戦勝国となったものの、予想以上の早い太平洋戦争の終結(一年戦争)に、いらだちを隠せないでいた。本来ならば東南アジア全域、南ブリタニア全域への侵攻を予定し、あまつさえ疲弊した日本・ブリタニア両国の併呑をまでをももくろんでいたところ、宛てが外れたからだ。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は、見事手の平の上で転がってくれた。誤算だったのは転がっていたボールの止まりが予想以上に早いこと。

 

 いずれにせよ計画は頓挫。両国が余力を残した状態で北側へと攻め入るのはリスクが高すぎた。当時はまだ手足となる兵の数も武装勢力も、コングロマリットも無く手詰まりの状態だったのだ。

 

 この状況下で日ブは同盟を絡め、オセアニアにとり脅威となるもの『F号兵器』と呼ばれる、広範囲消滅兵器を作り出し、その実験に成功した。

 

 太平洋を赤桃色へと染めあげた巨大な光源はオセアニアからも見えており、オセアニア自身理論上、いや盟主が知識として識っていた兵器の70年もの早きに渡る誕生に、盟主本人の嗤いも止まったとさえ噂されている。

 

 無論、オセアニア人や、当時のオセアニアの衛星国の人間は、誰一人として盟主の顔など見たことは無いが為、噂の域を出なければ、そんな怪人がいることさえも懐疑的だったが。

 

 しかしこの日ブのF号兵器の開発実験成功は、事実上日本主導で行われていたため、オセアニアの世論は日本憎しで固まっていき、翌年には最悪の結果を生み出すことに。

 

 出力は日ブが生み出したそれよりも低かったものの、盟主主導の元、国家一丸となり動き出した、一体化したオセアニアの脅威が白日の下にさらけ出された。

 

 それはある晴れた日のこと、南天の空を赤桃色の光が包み込んだのだ。場所は南太平洋の無人地帯。宙よりコレを捉えた日ブはある事態の始まりを確信した。

 

 北南冷戦である。お互いが究極兵器F号を開発してしまったために、お互いに手を出せなくなった。容易なる手出しは即ち破滅を意味し、何もかもが消滅する憂き目に遭ってしまう。

 

 そして、オセアニアは予てより計画していた体制の構築に動き出すことになる。集団安全保障体制にして集団攻勢保証体制。一国が攻撃を受けたなら、同時に全ての国が攻撃を受けたと見なし、総反撃に出、一国が戦争を始めたならば同時に全ての国が参戦する異色の集団行動体制の構築を急いだ。

 

 まずは、旧大洋州連合を入れ、本土を入れ、日本との間の盾とした衛星国南ニューギニアを組み込む。次いで自治州と化していたマダガスカル(旧メリナ)を組み込み、アフリカ大陸に入り、高度に成長していた合衆国東アフリカを組み込んだ。

 

 この後、東アフリカの属国。国家間としては平等である中東のイエメンを組み込み、初期の体制は確立された。南太平洋からインド洋にかけてぐるりと取り囲むこの広大なる安全保障地域は南の天を支配するもの――南天条約機構と名付けられ日ブ同盟との対立を深めていった。 

 

 やがてこの安全保障機構にイラク社会主義共和国が、民主共和制原理主義に帰依するのではなく、共産主義のままオブザーバーとして加わり、中東戦争を引き起こす。戦争は激化を極め、イラクは独力で北サウジ、ヨルダン西部をもぎ取ったことで南天諸国に認められることに。

 

 この間の各国の動きとして、日ブ同盟もまた自国の勢力圏を広げようとする動きを見せた。地域的に、日本は東南アジア諸国とその近辺。ブリタニアは南ブリタニア諸国とその島嶼群。

 

 両国共に警戒された。日本は異常なる成長を遂げ、過去に大規模戦争を繰り返し、敵国を過度に壊滅させてきた恐ろしき国として。

 

 ブリタニアは過去二度に渡る大規模な侵略戦争と、北南戦争という内戦まで起こした国として。

 

 基本、平和的に生きてきた中小国家群から見れば、日本もブリタニアも危険な大国、今やオセアニア同様世界を支配せんとする危険な超大国としてみられていたのだ。

 

 そして、ことは動いた。まず、先を読み取ったかのように中東の小国クウェート、ヨーロッパの小国シーランド王国が待遇的なものもあり日ブ同盟の傘下に加わった。

 

 以前より日本の傘下に加わっていたナウルはわかる。太平洋戦争の激戦の中生き残りをかけた戦略だったのだろう。事実大洋州連合はオセアニアに呑み込まれた。

 

 当時世界はこの動きに懐疑的だった。独立したばかりの国と、独立国。態々その二つが属国として歩み出したのだから。シーランドは分からないでも無い。周りが敵国であるE.U.ユーロピア共和国連合なのだからいつ圧殺されるかわからない。

 

 だがクウェートは意味不明だった。共産イラクという危険な覇権国家が存在するにせよ、たかが石油如きのために日本が助けに来るとでも本気で考えているのか? そう周囲の中東諸国に馬鹿にされた。

 

 しかし、1995年3月、事態は一変し出す。合衆国オセアニアの属国にして南天条約機構構成国の一国、ニューギニア民主共和国が突如として北進を始めたのだ。南ニューギニアによるニューギニアの原理主義的統一を掲げて。

 

 猛反発したパプアニューギニアは南ニューギニアとの国境線に大量の兵を送り、両国は衝突。遂にはオセアニア本国までが動き出しソロモンに駐留していたメタトロン級空母戦闘群2個群まで送り出してきたのだ。

 

 当然こうなるとパプアニューギニアには勝ち目はない。以前からオセアニアは地域大国インドネシアや小国ティモールを小突き回し、日本の反応を伺っていたが、日本動く事なしの確証を得て此度は軍を動かしたのだ。

 

 ブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島をオセアニアに占領され、マダン・ウェワクといった都市部への空爆まで受けたパプアニューギニア政府は、所詮小国が列強国と戦っても勝てないのだという事を悟る。列強には列強をぶつけるしかない。この意思で予てより『技術の日本』の二つ名を持つ超大国であり、列強でもあった日本に対して助けを求めるメッセージを送ったのだ。

 

 この動きに、当時、中立を保っていた東南アジア諸国は荒れた。勝手に列強の、ましてや日中戦争、日欧戦争、太平洋戦争と大きな戦争ばかり繰り返してきた日本を呼び込むとは、植民地化されると。

 

 だがパプアニューギニア政府は、ならば貴様らがオセアニアと戦ってみよ! オセアニアの空母戦闘群1個群だけでも国を滅ぼされるぞ。と返されては、どの国も何も言えなかった。

 

 今回の戦争でオセアニアは動いたが、南天は動いていない。南天条約機構無しのオセアニアが相手ならば日本も動いてくれるかもしれない。一縷の望みをかけたパプアニューギニア政府は──賭けに勝った。

 

 日本はトラック諸島に駐留させていた鳳凰空母戦闘群を始めとした空母戦闘群4個群を動かして、オセアニアの占領下にあったブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島を急襲解放、続きビスマルク海戦では、オセアニア空母メタトロンとサディケルを半身不随にまで追い込み、護衛艦艇のおよそ6割を撃沈・撤退に追い込んでいる。

 

 これに対して、日本側はイージス巡洋艦六甲と生駒が大破し、駆逐艦1隻が撃沈された以外は、小中破に留まり目立った被害はなく、鳳凰級空母4艦全艦無傷という、完勝に近い勝利を得た。これは、艦艇や航空機の性能は勿論、采配を採った司令官、山本五十六海軍大将の指揮能力の高さを物語っていた。山本は後年この時の戦争を振り返り、格下相手に負けておっては帝国海軍軍人の名折れであると言明し、奥方の神聖ブリタニア帝国リーライナ・ヴェルガモン伯爵と共によくこの話を強要されていたという。

 

 オセアニア海軍の敗退を目にしたパプアニューギニア政府は、日本が完全にわが国の味方に付いた!と、勢いづき、軍の士気は大いに向上。一時期は完全にニューギニア島全土は白化すると考えられていたところから、一気に国境線まで南ニューギニア軍を押し返し、膠着状態へと戻すことに成功。

 

 オセアニアの当時の国防長官は、全空母戦闘群を以てすれば東南アジア全土など容易く抑えられると豪語したが、その様なことを実行に移せば日本との本格的な戦争は避けられなくなり、F号兵器の撃ち合いを招くと総代行主に却下されている。

 

 この時も神は、盟主は嗤っていたと伝えられているが、誰が神か、神の姿を知る者はいない為に分からずじまい。だが、この敗戦を機に、南天条約機構は次第にその形を作り始めていく。神への絶対なる忠誠。全天に美しき世界の実現の為に。教化と浄化。この三本柱を持ち。国民皆兵制度を取り入れて行く事となるその始まりの戦争でもあった。

 

 守られた側のパプアニューギニア政府だったが、国土は荒廃し、各都市をがれきにされ、復興には時間がかかるとされたが、ここでも日本の先進技術および強大な工業・建築が役に立ち、早期復興、奇跡の復興を成し遂げた。同時にパプアニューギニア政府は自らひざを折った。日本の衛星国としてこの先を生き抜いていく覚悟を決めたのである。

 

 この戦争を見守っていたティモール、インドネシア、フィリピン、インドシナなど、東南アジアの国々が、日本は必ず助けてくれる、圧制を敷いたりおかしな思想を持ち込むことも無いと確信。次々と日本の庇護下に入っていったのもこの時期の事だった。

 

 これにより大日本帝国は大量の衛星国を手に入れるが、同時にオセアニアと言う国を正式に南天へと変質させるきっかけを作ったとも言えよう。

 

 次に大きな話としてブリタニア五・六事変が挙げられる。世間的にはよくある皇族や貴族の反乱とみられているが、この事件、南天の神が関わっている可能性も指摘されていた。

 

 何故かと言えば、誰も何も覚えていない『空白の三十分事件』と言う謎の怪事件が発生し、当時最強を誇ったラウンズマリアンヌが何者かに重傷を負わされ、多くのロイヤルガードが死んでいるからだ。皇帝シャルルも多くを語ることは無く『さあ、選択の時だ』とだけ声が聴こえたと語る。

 

 大勢の死傷者を出し、ブリタニア最高の頭脳の一人、悪魔伯爵と呼ばれる男の脱獄もあって大混乱に陥ったクーデター事件。しかし、それを、その戦いを陰より支えていた日本の仲間たちがシャルルには居たとされ。彼は孤独に戦っていたのではなく、多くの皇族・貴族、日本の仲間たちに支えられながら、事件を戦い抜き、皇帝の座をつかんだと言われている。

 

 次に歴史の針が大きく動いたのは、皇歴2010年のこと。南ブリタニアにおけるユーロユニバースの友好国であったラプラタ東方共和国を、民主共和性原理主義者ジェファーソン・デイビスが、ラプラタ民主連合共和国へと白化させようとした事件。

 

 これは南ブリタニアに大きな戦乱を呼び込むこととなる。当時すでに中央アフリカ以南が次々に白化されており、秘密裏に民主共和性原理主義国家が増えていく中。遂にその足音は南ブリタニアにまで迫ってきたのだ。

 

 新たなる、唯一神を仰ぎしラプラタを作ろうとしたデイビスは、白化の危険性を熟知していた南ブリタニア五ヵ国よりの経済制裁を受ける。

 

 この返答として返したのは、アラウカニア=パタゴニアの都市ブエノスアイレスへの空爆だった。この凶行に南ブリタニア諸国は連名でラプラタとデイビスを討つことを宣言するも。

 

 ラプラタの凶行は止まず、各国に送り込んでいた原理主義者による自爆テロを敢行してきたのだ。まさか自爆テロにまで及ぶような凶行までに走るとも思って居なかった各国軍は、全力を挙げてラプラタを攻撃した。最早この国を残しておくわけには行かないと。

 

 だが、これをこそ待っていたのだ。デイビスはここまでの動きをすれば、盟主が何らかのアクションを起こして下さると信じていた。盟主を、唯一神を妄信するデイビスにとって、死は救済である。怖くはない。だが足跡を残し神と共に聖戦=ラグナロクを戦い抜きたいとも考える彼は。

 

 神の動きを待った。はたして神は動いた。空母5隻からなる戦闘群を、南ブリタニア両岸に張り付けたのだ。南天条約機構こそ動かされなかったが充分だった。南ブリタニア諸国をどうにかするには。そう、神聖ブリタニア帝国、大日本帝国が動かなければ。

 

 このタイミングで彼の国々もまた動いたのだ。当時を振り返りシュナイゼル宰相は語る。我々が介入しなければ、南ブリタニア諸国は白化されていた、神を妄信し、神の為に死を選ぶ恐ろしき民に思考を改造されていたでしょう。

 

 この時すでに南天条約機構は動員可能だった2010年当時の最大戦力は50,000,000人とみられている。七天もまだ存在していなかったとも。確かな事は分かっていないが、皇歴2015年以降の完全なる全にして個と化した強大なる南天条約機構軍はまだ完成していなかったとみるべきだろう。

 

 そうして難を逃れた南ブリタニア諸国は、長年のわだかまりを捨て、ブリタニアの手を取るに至った。その後、衛星国となった国々を、日ブはそれぞれに集団安全保障体制へと組み込んでいき、2020年より数年後には欧州解放戦争によって消滅したユーロユニバースに変わって出来上がったAEU諸国も組み込み、北側諸国同盟を完成させるに至る。

 

 同じころ、南側も中央アフリカ以南を正式に民主共和性原理主義国家として南側に組み込んでいき、最大動員80,000,000人、戦車200,000両以上、作戦機20,000機以上、主力水上艦艇千数百隻以上、KMF23,000騎以上、浮遊航空艦艇500艦以上、更に2年後には空母戦闘群30個群体制にまで膨れ上がった南天条約機構は一応の完成を見る。

 

 北側と南側は表裏一体。一方が動けば一方が動く、ここに『技術の日本』『力のブリタニア』『数の南天』(最早南天はこの時点で一つの国家としてみられている)が揃ったのだ。

 

 以降も三勢力は軍拡を強行していき2022年度段階で三勢力合わせ300,000発のF号兵器の保有にいたり、世界を10回以上に渡り消滅させられるほどの力を持つに至る。

 

 南天の危険性を識るのは、かつてのユーロユニバース、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国率いる北側諸国のみ。AEUですらその本当の危険性については気付いていない。

 

 世界中に1,700,000,000の信徒を持ち、勢力としては1,000,000,000ほどの人口を持ち、テロ組織・コングロマリットとしては100,000,000の構成員を持ち、宗教としては1,200,000,000の人数を持つ。その全てが全天に美しき世界の実現の為にという一つの目的のために蠢く集合体なのだ。

 

 とくに80,000,000の南天軍や、民主共和制原理主義者の一部は死兵と呼ばれる感情無きキリングマシーンともなれる。教化か浄化の二択を強要し教化を選ばなければ浄化=処刑する。それは国家単位ですら行われる為、ジェノサイドすらも容易に行うのだ。

 

 また死に対する一切の恐怖を持たず、神に帰依するという幸せなる未来のみを見て生きている。根本的に民主主義とは相容れない民主主義教の勢力。それが南天なのだ。ユーロユニバースはその恐ろしさを知りながらも同じ民主主義の人間として、いつも笑顔な彼らの顔を信じている。

 

 中華連邦やジルクスタンはその危険性に気付きながらも、自分たちが侵略される事は無いだろうと半分の人間は考えている。中東はそも侵略されていたというのに気付いていなかった。相手がイラクだったと言うこともあって。

 

 しかし彼らは根本的なところで勘違いをしている。南天に与する人間は皆口を揃えて言う。笑顔の仮面を張り付けて。

 

 

 

 

 

 ―――“全天”に美しき世界の実現のために―――

 

 

 

 

 

 南天という世界の闇

 

 

 

 

 

「なに読んでんの?」

 

「うわおッ!」

 

 怖い本を読んでいた。そんなときに肩越しから声を掛けられたら誰でもびっくりする。この時の玉城真一郎もそうであった。

 

 右肩越しを振り向くと、其処には長いウェーブがかった金髪を、二つ結びにした女性の姿。オルドリン・ジヴォン。間もなく23歳とならん女性でその胸は大きく成長――こほん。その身体は大人らしく成長してきていた。

 

 肩越しに甘い香りが漂ってくる。彼女は性格はがさつだが、女性としてみれば相当な美女である。彼女クラスとなればこのグリンダ騎士団には『麗しの姫君しかいない』無論、こんなことをそこらで話せばひんしゅくモノだが。

 

 リドールナイツの中にも美女・美少女は多い、ソキアも充分美女だ、というかグリンダ騎士団以前に、玉城真一郎の周囲は男女問わず顔面偏差値が高すぎる。唯一玉城一人が落第点なのだから、彼が誰をどうこうとは言っては成らないのである。

 

「なによ。そんなお化けでも見たみたいな反応して」

 

「いや、お前、普通に美女なんだからいきなり声かけてくんなよ」

 

「び、びじょッ!?」

 

 オルドリンの顔が赤くなる。オルドリンの家の爵位は低いが、長年ブリタニアの闇を司ってきた一家としてそれなりの名家なのだ。そのお嬢様に気軽に声を掛ける男も少なく、オルドリン自身家に決められた婚約者はまだいない。そんな中、歯に衣着せぬ、オルドリンにさえ平然と接する年上の男からの、美女宣言。

 

 普段言われ慣れていないせいもあってか胸が無駄に高鳴ってしまった。

 

「どしたよ?」

 

「あ、あうううう」

 

「だからどしたよ」

 

「た、玉城のくせに生意気なのよ!」

 

 照れ隠しで玉城の肩を叩くも、いつものように思うように力が入らず、へちょ~っとしたような叩き具合となってしまい、余計に玉城に心地良さを与えるだけだった。

 

「と、とにかく本よ本。漫画じゃ無くて図書室できちんとした歴史関係の本を読むなんて、あんたにしちゃ殊勝じゃない。ちょっと肩揉んだげる」

 

 気分の良いオルドリン。美女と正面切って言われたら女性ならそれは気分が良いだろう。

 

「おお、お前の肩揉み上手いんだよなあ。誰かがやると肩折れるんだが」

 

「それ、本人の前で言わない方が良いわよ? 確実に肩砕かれるから、まあ砕かれても、いまの日本やブリタニアの医療なら簡単に治せるのがまた怖いところなんだけれどねー。発展しすぎって言うか、私らの国って何処を目指してるんだろうってさ」

 

「そりゃおめー宇宙じゃねえの?未発達、未開発、どこまでも続く果てしない空間。そこにロマンを感じるもんだよ。せせこましい一つの星の上でぎゃーぎゃーやってんのなんざ、本来バカらしいことなんだがな」

 

「…………き、今日のあんた無駄に格好いい」

 

「お? イケてるか俺? イケちゃってます?」

 

「すぐ調子に乗る。そういうところがマイナス点なのよ。っていうかあんたグリンダの艦隊勤務の女の子や女性に結構モテてるんだから、多少は自覚持ってしゃんとしなさいしゃんと。私だって時々格好いいなって思うことあるんだから」

 

「おお、嬉しいことを言ってくれるねえ。今日はどしたよ」

 

「だからあ、殊勝にも勉学の為の本を読んでること」

 

 玉城はそこで黙った。冷や汗を流していた。

 

「そりゃ、自分の命が狙われたら調べたくも成るだろうぜ」

 

 そうだ。命が掛かっているのだ。冗談では無い、遊びでも無い、真剣な話しだ。グリンダへ来たのだってこれと無関係では無い。グリンダの艦隊勤務は基本空を回る。地上に降りたりもするが世界中を飛び回っている為に一か所に留まることが少ない。そこに玉城の安全性が担保されていると言えよう。最も、玉城をこよなく愛している皇女様の好意を何処かに向けなければ根本的解決には至らない。といって玉城は自分を、自分みたいなダメニートを好いてくれる彼女を無碍にはできない。で堂々巡りが続いているのだ。

 

「そう言えばあんた」

 

「思い出したくないから止めてくれ。どっちが死んでも後悔しか残らねえ最悪な状況だったんだ。あんな警戒網すり抜けてくるとか誰が考えるよ」

 

「あんた狙ってたの北側諸国で“無貌”って呼ばれてる南天の大物でしょ? 無理も無いわよそんなのに狙われたら」

 

 オルドリンは肩越しに彼を抱き締めた。楽天家でバカでアホで間抜け、でも幼いマリーに道を与え、クララ皇兄女、クララさんを完全なる闇に落とさせず。いつも光を用意し、日本とブリタニアの高官達に時に笑いをもたらしてきた男。

 

 V.V.皇兄殿下もなにかと認めているところもある、色んな意味で変な奴が狙われたのはそう、マリーとの再会の日。最も重要で、最も優しくて、最も祝われるべき日に、“四人”は狙われた。無貌の差し向けた刺客の凶弾によって。アレは間違いなく真正面からの宣戦布告だった。

 

 あの時のシマダ卿の顔を忘れられない、無言で純粋な怒りに満ち、それでいて凪のように静か。ツナミが来る前のように。誰かが言った、シマダ卿は怒らせてはならない方だと。

 

 オルドリンはあの現場に居合わせ、無貌よりも凶弾よりも、母や伯父よりも恐ろしい方の存在を識ったのだ。シマダシゲタロウ卿。ツジマサノブ卿あの方々をこそ真に恐ろしい存在というのでは無いだろうか。

 

 あの静かな怒りの中、確かに感じた数百数千、数万、数十万、数百万数千万、億の血の臭い。どこであの臭いは身に付けられてきたモノなのだろうか。あの方々はあの臭いを持ちながら何故平然としていられるのか。

 

 猛烈な吐き気に襲われた。以前、ブラッドリー卿に窺っていたのはコレだったのだと理解した。初めて見たとき、まだ小さな頃だったが恐怖を感じた。見た目は普通なのにとてつもなく巨大な存在に見えたと。

 

 いずれにせよ、それはまた、いつか語るべき時が来よう。今は玉城のことだ。オルドリンは優しく抱き締めて、その恐怖を癒やしてあげることに専念し、肩越しに彼の読んでいた本のタイトルを見た。

 

『南天という世界の闇』

 

 その本の内容、確かかなり不正確だったはずだ。南天が完全なる形を為したのはかなり古く、1960年代にはもう完成を見ていた。当時既にユーロユニバースは南天に怖れを成して土下座外交をしていたはず。

 

 中東はイラクと南天を警戒し、ジルクと中華も南天を警戒していたはずだ。南天の国力は既にこれら全ての国を足しても尚余りあるほど強大のものになっていたから。

 

 ではなぜ、オセアニアは日本に負け、南ブリタニアには手を出せなかったのか? それは日ブの持つ最終兵器F号兵器が関係している。

 

 一度発動すれば世界を消滅させ尽くすとも言われる恐ろしい兵器。これを日ブもオセアニアも共に実践配備していたから、一度火が付けばどちらかが滅びるまで終わらなくなる。そして、この時。南天条約機構の発動体制が整っていなかったのも幸いした。この当時で50,000,000と言われていた南天条約機構軍は、その巨大さ故に動くのに時間が掛かる。

 

 少なくともラプラタ戦争、南ブリタニア紛争の時点ではそうだったのだろう。これが近年は改善され、更に強大に膨れ上がり、最早日本、ブリタニア一国とならば互角に戦えるだけの力を身に付けてきた。故に北側諸国も集団安全保障体制を構築した。

 

 日本とブリタニアの衛星国をそれぞれ北側諸国同盟として再編していったのだ。南天と同じく一国への攻撃を全ての国への攻撃と見なす体制の構築を。既に始まっていた北南冷戦はもう60年以上続いているが、終わる気配が無い。南天の戦力は加速度的に増大の一途を辿り、日本・ブリタニアの戦力も対抗して増大の一途を辿っている。

 

 どこまでいくのか分からない。そして北側諸国の大方の予想通り、南天は北側南側何処の勢力にも属さずの空白地帯だった中東へと攻め込み、僅か二週間で併呑すると、矢継ぎ早にジルクスタンと中華連邦へ同時侵攻した。兵力数は3000万。更に追加派兵で2000万が待機状態にあったため、5000万という史上最大の軍隊が動き出したのだ。動かす気ならば更に3000万、計8000万という信じられないほど膨大な軍を動かせる南天、この進軍を二国は止められまい。

 

 ならば二国を助けるか? ここで脚を縛っていたのが日本の旧敵国条項。中華連邦およびユーロユニバースに適応されており、この二国に一定以上の被害のあるであろう紛争に対し助力しないとする条項だ。

 

 最早100年以上も昔の寂れた条項ながら、約束や契約を重んじる国、日本では現在でも守られ続けていた。なにより国民感情がなぜ中華のために日本人が血を流さなければならないとなっていたのも大きい。

 

 しかし、これを動かしたのは意外にも我が国だった。日本と中華連邦との間の仲介に立ち、両国間の仲を皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの名で繋いだのだ。南天の脅威の前に過去のわだかまりに拘っている時などでは無いと。日本の上帝陛下もこれに加わった。古びた条約と南天の脅威、優先すべきはどちらでしょうか、と。

 

 相手は5000万という史上最大の蠢く死兵の群れ、これをはじき返すために必要ならば日本と我が神聖ブリタニア帝国は中華連邦の側に立とう。と。

 

 そして南天の走狗となっていた大清連邦と高麗共和国を大日本帝国の当時で24個あった空母戦闘群、同じく24個の遠征打撃群のうち12個群ずつを出撃させ僅か3日で清国と高麗を踏み潰し、失地回復のためにと極東の地にまで遠征に来ていたAEU軍600万とシベリアの地で握手をし。

 

 返す刀で、24個・24個の巨大空母。巨大揚陸艦。600艦からなる浮遊航空艦隊12,000,000の軍を大陸へと派遣、中華連邦を縦走しながら南天侵攻域までの強行軍を果たし、大日本帝国軍と南天軍は激突、追ってブリタニア軍も16,000,000の軍とそれに付随する戦力をジルクスタン・中華連邦の南天侵攻域に送り込み南天軍と衝突した。陸で、海で、空で、宙で、熾烈を極めた戦いは続いた。

 

「まあ、これが大凡の真実って処ね。私も全てを識っているわけじゃ無いから分からないけれど。でも凄いのは、日本もブリタニアも南天も、戦争の途上にありながら戦力が増え続けていることなのよ」

 

「ま、マジか」

 

「ええ、ブリタニア名、第一次ラグナロク作戦と命名されたこの作戦、世間的には大ユーラシア大戦、第一次北南戦争。より分かりやすくは世界大戦とした方が通ってるかしら? で日本もブリタニアも南天も本土では兵器の大増産を図っていてね、戦後の方が戦力増えちゃってんの」

 

「い、イカレテやがるな。戦時増産した分の方が消耗分を上回っているとか」

 

「各国のKMFの世代も一気に進んだわ。戦争がテクノロジーを上昇させるってのは昔の話しだと思っていたんだけれどね。空母戦闘群だけで言えば日本は改大鳳型が多く建造されて100,000t級~130,000t強空母戦闘群30個群になっちゃってるし、うちは100,000t級~130,000t弱級空母と戦闘群で56個群、オセアニアがごちゃ混ぜで42個群にまで膨らんで維持可能だからそのままの体制に。中華連邦やジルクスタン、AEU、北側諸国は皆この三国に着いていくのは不可能って言ってさじを投げてるわ。まあそうよね、異常だもの」

 

「そりゃ無理だろ。脳みその容量が2Bitしかないと自称してる俺でさえ分かるわ。おかしいんじゃねえのか?」

 

「ねー、これが通常運転だから尚のことおかしいのよ。当然だけど、次というか、決着を付けるべき第二次北南大戦、第二次世界大戦は互いの全戦力をぶつけ合うわけだからコレよりもっと酷いことになるわよ?」

 

 背後から玉城を抱き締めたまま、オルドリンは語り続ける。

 

「おかしいと言えば。うちの騎士団もおかしいのよ。分かる?」

 

「お、分かる分かる。この騎士団って確か、立ち上げた頃は300人ちょっとだったんだよな?」

 

「へー、よく識ってんじゃない。それ僅かな期間だったからほとんどの人が知らないのに」

 

「いや、俺も自分の所属する騎士団のことくらいは調べるっての。で、確か初代グランベリーの1艦体制だったんだよな」

 

「そうそう、懐かしいわー初代グランベリー。愛着があったから変えるのは嫌だったんだけど。それで立ち上げ後すぐに半個師団に増やされて地上部隊が創設されたのよね-」

 

 6,000人体制。正確には7,200人体制となったのだ。これは浮遊航空艦が個から艦隊となったことでそうなった。

 

 グランベリーだけだったところへローズベリーとブラッドベリー、後にネッサローズ初代が追加されたのだ。もうこの時点で対テロ即応部隊の規模を超えていた。

 

「い、いきなし半個師団だもんな。地上部隊なんかも作られて訳分かんねーだろうな。なんての。お、大所帯になりすぎ」

 

 姿勢を崩したままで立っているのも疲れてきたオルドリンは、玉城の右肩に顎を乗せた。依然背後から彼を抱き締めたまま。さすがの玉城もここまで接近されると来る物がある。

 

 なにせ、暖かくて柔らかいものが二つくっついてくるからだ。この椅子の背もたれは低い。低いからこそ柔らかいものはむにゅむにゅと押し付けられる。

 

 おまけに二つ結びにしているオルドリンの髪の一房が、玉城の頬を撫でていて、さらさら擦れる髪の毛の感触、香しいその香りにどぎまぎとさせられていたのだ。

 

 幾ら年下は守備範囲外といったところで、大人の女性にここまで接近されて無反応でいられるほどに玉城も男として終わってはいない。

 

「な、なによあんたいきなり声を上擦らせたりなんかして、」

 

「い、いや、なんでも、」

 

「あ、わかった! またギャンブルしてるんでしょう? マリーに言いつけてあげようかしら?」

 

「い、いや、だから違ッ」

 

 おめーの柔らかくて大きなおっぱいが二つとも背中に当たってるんだよ。あと、さらさらの髪が頬に擦れて香しさもあって、き、気持ちいいんだよッ!

 

 と、言ったらぶっ飛ばされそうなので、玉城はこの気持ちの良い時間を自ら受け入れることにした。そう自らの意思で受け入れることにしたのだ。

 

 “彼女”というものがありながら、というのが一般説的には唱えられるだろう言葉。だが、何度も論っているように彼女は玉城の守備範囲外。正確にはオルドリンも。ここで要約してみると、オルドリンは玉城のことを好きでも嫌いでもない。

 

 だからこそオルドリンは安心して玉城に引っ付いたのだ。年下の自分に対してエロいことを考えない男として。もちろんそこはオルドリンも女。恥ずかしいし羞恥心もある。

 

 ただ、怖がっているというか、びびっている玉城を放っておくのも、それはそれで違う気がしたのだ。故に抱き締めて安心させてあげた。不思議なことに、男の人というのは、女性から抱き締められると安心し落ち着く物であるらしい。

 

 今更な話しだが玉城も随分と落ち着いてきたようだし。こちらはこちらで途中から姿勢的に疲れてきたので、そのまま彼の肩の上に顎まで載せてしまったのはやり過ぎのような気がしないでも無かったが、どうせここまで来たら今更だと、そのままにしたのだ。

 

「ねえねえ、いいから話しの続きをしようよ。それでグリンダ騎士団は4艦半個師団体制に成りながら、南ブリタニア大陸を縦横無尽に走り回るのよね。テロ掃討要請が多く出ていたのが当時南ブリタニア大陸諸国からだったから」

 

「そ、そうらしいな、グリンダ騎士団がジェファーソン・デイビス以外の主要な国際テロ組織ペンタゴンの幹部陣を討ち取ったのは、この頃だったとか聞いたぜ? 確かオルドリンが№2を討ち取ったんだろ? おめーすげーな!」

 

「ふふん、もっと褒めなさい。褒めても何も出ないけれど私の気分が良くなって、これからは玉城に優しくしてあげることも増えるかもだから。そのときなのよねー私のグレイルが活躍したの。でもあの時一番活躍したのって実は私じゃ無いのよ?」

 

 ぐっと、また強く胸が押し付けられる(あ~っ、おっぱいや~らけ~っ)余りエッチな方では無い玉城。どちらかといえば出世街道を目指すただのアホといった方が正しい。そんな彼でも女の色香に全く無反応でいられるかといえば、前述のようにNOだ。

 

 玉城だって男だ。口ではちびっ子だの。ちっせーんだよなにもかもといいながらも、きっちりとクララの女としての色香に反応していたように。別に年下の女だから何も反応しないなんてことは無い。反応しなかったらしなかったで今度は病気である。

 

 今のオルドリンのように、クララもよくぺたぺたと玉城にくっついていたが、玉城は男としてきっちり反応していた。男が女に反応する。極々自然なありふれたこと。

 

(あ、横顔結構かっこいい、かも。は、え? わ、私何考えてんのよっ! 相手は玉城じゃない、玉城なのよ玉城っ、そ、そんな感情を抱くはずが無いでしょーが!クララさん――クララ皇兄女殿下やマリーじゃあるまいし)

 

 女であるオルドリンが男である玉城に反応する。こちらも自然なことだ。ともあれ、異性同士が過度にくっつくと無感情ではいられない。何らかの感情なり、情動なりが働いたりする。今の二人はそんな状況下にあった。

 

「で、で? 一番活躍したのって誰だ?」

 

「え、あ、ああ、マリーよ」

 

 マリーと聞いてドキンとする玉城。悪いことはしていないはずなのに何か悪いことをしているような気分。いわゆる旦那が妻に内緒で他の女と会っている的な気分だ。

 

 別にマリーは妻では無い。マリーベル・メル・ブリタニア皇女は神聖ブリタニア帝国の皇女様であって、日本の一平民如きがお付き合い可能な相手でもない。ので、今のこのオルドリンとの接触はノーカウントである。

 

 そんな発想を抱きつつも、マリーとはそれこそよくキスをしている。夜はマリーの部屋にて同じ布団で寝ながらディープなキッスまで交してしまっている。しかも一回は本気で致してしまった……だが、もちろん恋人ではないのだ。

 

 玉城とマリーの関係は、お兄様と妹分的関係と玉城は今でも考えている。

 

 皇歴2012年のくそ暑い初夏。共に座っていたベンチの端と端。びーびー煩い糞ガキが泣いていたあの頃から何も変わってはいないものと。

 

(あの頃、あのガキは12歳だった。俺は19大人手前だった。そんなあのガキが今ではあの頃の俺よりも年上だ。だが、俺ン中じゃガキのままなんだよ。夢を語り合って金平糖握らせて別れたガキだ、今更どうしようってんだ)

 

 気が付けば彼女ももう大人。皇室の人間ならそろそろお相手探しを始める時期だ。長寿の種族の日本人とブリタニア人の結婚適齢期はかなり長い。とくにいまの世代だと外見年齢も相当遅く進行していくため、諸外国の二十代後半の外見年齢で六十~八十も普通にいる。

 

 なにせ平均寿命が二百年もあるのだ。当然だが外見年齢の進みも遅くなろう。この長寿種族化、医療、バイオ、サイバネティクスの三分野の異常進化がもたらした副産物で、主に日本人、ブリタニア人、南天人、シーランド人にその長寿化傾向は見られる。

 

「なあ、オルドリン、おまえさあ、何歳くらいに結婚とか考えてる訳よ?」

 

「な、なによ急に、」

 

「いいから、貴族様ってのは何歳くらいまでで結婚するんだ」

 

「と、とくに結婚年齢は決まってないけれど、婚約者候補が見つかったら、余程のことが無い限りほぼ内定みたいなもの。貴族ってね血を大事にするから家格の高い相手や、名家と結婚したりするのよ。私も何れはそうなるかな。うちは婿を取る側だけれどね」

 

「ほえー、あのよぉ、口出ししてわりーけどさあ、そんなんでいいわけ? 惚れた腫れたのとか、恋愛結婚とかは?」

 

「ああ、ほぼ無理よそれ。レオンとこみたいな例は珍しいの。まあ、あんたの周囲もそういう意味では珍しい方達ばかりだけれど、みんな恋愛結婚なんだもん」

 

「そいやレオンとこってどうなってんだ? レオンはシュタイナー家の嫡男で跡継ぎなのにマリーカんとこに婿入りしちまってるし。どうなってんだ?」

 

 レオンハルト・シュタイナー。シュタイナー家の嫡男で当然にして貴族。だが、彼は家を継ぎながらも、ソレイシィ辺境伯家へ入り婿として入っている。

 

 そんな形が不思議に感じた玉城は、同じく貴族であるオルドリンに聞いてみた。

 

「マリーカさんていうか、ソレイシィ卿の方が家格が大分上だからね、当然レオンの方が入り婿となる訳。日本でもそうでしょう?例えば普通の華族伯爵家であるヤマモト卿が、上位伯爵家であるウィスコンシンの領主ヴェルガモン卿の家へ婿入り為された。同じ伯爵家の中でも家格が別れてるのよ。そういうのと同じ。で、シュタイナー家としてはきちんとレオンが当主として収まってる。当主不在という形でね。だから代わりに当主代行の家宰が全てを取り仕切ることになる訳なの」

 

「現代日本とブリタニアの貴族事情ってわけか、じゃあ皇室は?」

 

 気になっていたことを聞いてみた玉城。クララは皇室の籍を抜かれているから民間人という。だが、ジ家に跡取りが生まれないときはクララの皇籍が復帰される。

 

 マリーベルは言うに及ばず皇女様だ。思いっきり皇族の人間だ。玉城のことを好きと言い、本当にアプローチまでしてくる女性がそうなのだから、玉城としては頭が痛い。

 

「皇室はもっと厳格。ブリタニアの皇室の場合日本から婚姻相手を貰う場合、日本の皇室の人間か、華族伯爵位を持つ人間以上となる。ブリタニア人からなら伯爵位を持つ人間以上の家格の相手としか婚姻は認められないわね基本的に。例外的に名家の場合は爵位が低くとも皇室へと上がれることもあるって感じかしら」

 

「因みに聞くけどよ、平民は?」

 

「ほぼ無い。たまに認められるケースがあるんだけれどよほどのことがないと……って、玉城、あんたマリーからあれだけ逃げておいて今更その気になったの?」

 

「ねーよねーよ、なんであんな泣き虫のガキゴリラを嫁にせにゃならんのだってーのよ。あの手で肩握られたらごきって骨折れたんだけど」

 

「あ、あんたねーそのうち皇族侮辱罪か不敬罪で処刑されるわ――?!」

 

 貴族への不敬ならオルドリンにしまくりの玉城。もしオルドリンが不敬罪に処すと決めた場合、その場で処罰することも可能なのだ。

 

 もちろんオルドリンがその様なことをするはずもない。彼女の性格上蹴りかパンチ一発で終わりにするだろう。

 

 時に、こうして玉城を優しく抱き締めて、その胸を当てたり、顎を彼の肩に置いたり、髪の毛で頬を擦らせたりと男女を気にしながらも、優しくそして気安く接するのだ。

 

「ウフフフ、仲よさそうですわね兄さま、オルドリン? ねえ、オルドリン。あなたはいつから兄さまのお身体を気安く抱き締めたり為さるような関係となったのでしょうか?」

 

 だが、それが時に悪いものを引き寄せてしまう。図書室に静か―に入ってきた、嫉妬に狂った鬼である。

 

 その鬼、薄い紅色の腰下まで届く長い髪をし、深い青色の瞳を持ち、桃色を基調としたロングスカートを穿き、背中には天使の翼のような真っ白な羽マントを広げた美女、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女は怒り狂っていた。

 

 よりによって信じている親友に兄さまを奪われんとしていた、愛の行為をしていた、肌を擦らせ遭っていた、それが許せなかった。

 

「ねえ、兄さま。兄さまはわたくしが抱き着こうと致しましてもあんなにも嫌がりますのに、オルドリンに抱き着かれて、あまつさえその肩に顎をおかれて……頬を擦られてっっ!!!」

 

「ま、ままま、マリー違うわッ! 誤解ッ、誤解よッッ、玉城を抱き締めてたのは彼がちょっと不安そうにしていたからッ! そ、それと、きちんと正直に言うけれど殊勝にも玉城が歴史の本を読んでたから付き合ってあげていただけよ」

 

 オルドリンは鬼に淡々と事実のみを説明する。果たして鬼は。

 

「ほっ、なんだそうですの。それならば罰しません。兄さまを盗ろうとなさっていたのなら処罰していたところですが」

 

 平然とそう言う鬼に背筋が寒くなるオルドリンは、誤魔化しもあってその場に膝を突く。

 

「神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下、ようこそグランベリーへお越しくださいました。艦を代表し歓迎致します」

 

 実際、グランベリーの責任者はオルドリン・ジヴォンなのだ。艦を代表するのは当たり前、親友であっても主従関係なのだから。

 

「歓迎の儀ご苦労」

 

 リドールナイツが10人ほど出てきてマリーベルの両側に道を作るように並ぶ。

 

「艦員はそれぞれ休暇のためどうかご理解のほどを」

 

 本来は艦員総出で出迎えなければならないのだが、急な来訪のためと、本日グランベリーが休暇のために致し方の無い部分もあったのだ。

 

「差し許す。私も急な来訪のために多くを求めては居りません。普段のお勤めの分だけ、皆英気を養うように」

 

「勿体ないお言葉を頂戴し恐悦至極に存じ上げます」

 

 そんな感動的な主従のやり取りの中、すたすたと堂々と逃げようとしているバカ一人。

 

 リドールナイツの隊員の中には「あのマリーベル殿下を前にしても引かない強さが格好いいのよね♪」と惚気ているものが数名。

 

 そんなリドールナイツの隊員は主人の冷たい視線を浴びて直ぐさま凍り付くことになるが。

 

「兄さま~♪ 何処へ行こうと為さるのですか~」

 

 怒れば怒るほどに微笑む、マリーベルの本気の微笑みが炸裂していた。

 

「い、いやあ、君たちの感動の主従の挨拶に水を差すのは無粋だと思ってね、お邪魔虫は退散することにしたのだよ。ゆっくりと語り合ってくれたまえ」

 

「ウフフフ、そう仰らずに兄さまもこちらへいらしてもう一度お座りくださいな、今度はわたくしが丁寧に教えて差し上げますので。まさかっっ! オルドリンの教えはお受けになって、わたくしの教えはお受けにならないなんてこと……仰りませんわよね?」

 

 バカは逃げ場を喪った。最初からマリーベルが来訪した時点で逃げ場など無いのだ。なにせ、要所要所にリドールナイツが配置され『シン兄さまを絶対にこの艦より逃がさないように』と厳命を受けていたから。

 

 ぐいっと手を引っ張られて強制的に椅子に座らされるバカ。

 

 そのままオルドリンがしていたようにマリーベルは後ろから抱き着く。肩にも顎を乗せて頬擦りをするのだ。

 

 気持ちいい。良い香り。マリーベルの長い紅髪は、彼女の肩を跨いで玉城の肩を滑り落ちる。良い匂いに良い感触の筈なのにそれを楽しめないのは何故だろうか?

 

 なんだこの気持ち。浮気がバレた夫みたいな…………。

 

 マリーベルは自らの豊かな胸を玉城の背中に当てる、いや押し付ける。ふにゅんと感じるおっぱいの感触、実に気持ちが良い。頬ずりをされる。ああ実に気持ちいい。

 

 だが、やはり純粋にその空気を楽しめない。

 

「ウフフフ、先ほどオルドリンとこの様なことを為されていたのですねェ兄さまは」

 

 びくんっ!! 身体が震える、これはあれだ恐怖って奴だ。

 

「わたくしという者がありながらなぜオルドリンなのですか? 兄さまは年下には御興味が無いのでは? いつもわたくしに仰ってますわよねえ。どうですの?」

 

「な、ない、ないっ、ありませんっ」

 

 マリーベルを見る玉城。

 

「ひえっ!」

 

 深く蒼い綺麗な瞳はぐるぐると渦を巻いていた。

 

 こういうときの脱出方法を玉城ももちろん身に付けていた。少々罪悪感も感じるし、マリーベルを弄んでいるようで嫌なのだが、この方法が一番なのだ。

 

「マリーっちゅ!」

 

「んうっ?!」

 

 玉城命名キス一発である。神聖ブリタニア帝国皇女マリーベル・メル・ブリタニアに、このような行為。本来なら処刑物である。しかしそうはならないのは、マリーベルが玉城をこよなく愛しているが為。

 

 マリーベルが作り続けている玉城くん人形は、2048体に達してネッサローズの広い彼女の部屋を埋め尽くしている。

 

 そんな彼女が彼を罰しない理由など決まりきっている。将来彼を婿に取ろうと考えている為なのだ。こんなことが地上にいる最強の暗殺者であるヤンデレラにバレたら『お兄ちゃんを盗られるくらいなら殺す』と追い掛けられること必然なのだが。

 

 とにかく玉城を愛する女性筆頭のマリーベル皇女とクララはヤンデレ気質で、クララに至ってはヤンデレラなので玉城も気が滅入って仕方が無い。俺に普通の年上の女との甘酸っぱい恋愛はと考えることはあるが。

 

 そんなことをしたら本当に殺されるのは玉城自身であると気付いていないあたり、やはり真性のアホなのである。

 

 玉城からの突然のキスを受けたマリーベルは目を見開いている。とにかく彼女、玉城からに限ってだが唐突な行動に弱い。

 

「んんっ、んちゅっ」

 

 玉城は玉城でマリーベルとキスしている内に、かなりキスが上手くなった。人間何事も続けていれば上達していくものである。キスその物は甘酸っぱくて気持ちが良い。マリーベルの瑞々しい唇の味は、多分どんな料理よりも美味い。七歳も年下とは思えない大人の味がするのだ。もちろん今現在マリーベルは大人なのだが。

 

 唇を啄み、鼻息の掛かる距離で顔を寄せ合う二人、幾度も、幾度も、口付けを繰り返す。コレを見ていたオルドリンはひゃあと恥ずかしくなると共に、胸にチクッと痛みを感じた。

 

 リドールナイツの女性数名も胸に痛みを感じているが、主人と玉城の関係には誰も踏み込めないのだ。

 

 そうして数分、玉城はマリーベルにキスをしていたわけだが。彼女の瞳を見ると、あのぐるぐると渦を巻いていた瞳では無く、普段の深い蒼に戻っていた。とろんとしているが。

 

 そして、ゆっくりと唇を離す。

 

「ん――……にい、さまぁ」

 

 マリーベルは椅子に座る玉城の背後から抱き着いて、全身を以てくっつきながら、すりすりと頬擦りを始めた。さすがのオルドリンもここまではしていなかった。

 

「お、おま、こら、勉強を教えてくれるんじゃねーのかよ」

 

 これは勘弁だった。周りにいる女性陣の目が痛いのだ。マリーベルは知ったことかと頬擦りを続けながら、話す。

 

「階級のことでしたらこれですわあ」

 

 彼女は端末を取り出してみせる。頬擦りは続けたまま。オルドリンもリドールナイツも何も言えずのままだった。なにせ皇女殿下が自らの意思でしていることなのだ。誰が何を言えようか?

 

 第1階位:Commoner:平民

 

 第2階位:Knight of honor:武勲侯

 

 第3階位:Knight:騎士

 

 第4階位:Baron:男爵

 

 第5階位:Viscount:子爵

 

 第6階位:Earl:伯爵

 

 第7階位:Margrave:辺境伯

 

 第8階位:Marqess:侯爵

 

 第9階位:Duke:公爵

 

 第10階位:Grand Duke:大公爵

 

 第11階位:Knight of Rounds:ナイトオブラウンズ

 

 第12階位:Imperial family:皇族

 

 第13階位:Emperor:皇帝

 

「下へ行くほど階級が上です。我が神聖ブリタニア帝国は絶対的階級制国家。大きく分けて全13階級から構成されております。本来ならば平民が男爵などに不敬を働いた場合、その場で処刑も出来てしまいますのよ?」

 

「…………俺何処?」

 

 表情筋を引き攣らせながら平民は決まり切ったことを態々問う。

 

「一番上ですわあ」

 

 嬉々として答える皇族。

 

「お前何処?」

 

「上から12番目ですわ。兄さまの普段からの不敬の数々。わたくしはこの場で兄さまを処刑してしまえるのですよ?ウフフフ♪」

 

 笑う美しい皇女様は、表情筋の引き攣る平民に、何度も優しーく頬擦りをする、飽くまでも優しーくだ。良い香りと良い感触なのだが、何故かとてつもなく怖く感じたのは、たぶん気のせいでは無いのだろう。何か猛獣に頬擦りされているような気が……。

 

「あ、あは、あは、あっはっはっは、冗談きついぜマリーちゃん」

 

 皇族を相手にキスで誤魔化すという許されない罪業を犯してまで機嫌を直せた訳だが、背中から汗が噴き出る。そして、絶対的階級差と言っても段階があることを皇族は教えてくれた。

 

「平民から騎士で一つの括りですわ。もちろん、平民が騎士爵に不敬を働いても無礼打ちは許されます。そして騎士までは一代限りの貴族です。ですが男爵からは基本的に永代貴族となります。また騎士爵と男爵では大きな力の差がありますの。次に子爵と伯爵です。子爵から下の貴族が下位貴族となり、伯爵より上が上位貴族となります。ここにまた一つの壁が存在することとなりますわね。またそれぞれの爵位の内部でも細かく分かれております、下位の男爵もいれば上位の男爵もおりますように。そして上位の伯爵からがいわゆる大諸侯と呼ばれる爵位と成り、領地持ちの上位伯爵以上ならば経済圏を抱えていたりも致します。このあたりでまた一段階壁が出来ておりますわね。伯爵・辺境伯・侯爵・公爵・大公と順に上位貴族は続いていきますがこの中で細かく分かれておりますの。そして一代限りの騎士の頂点、ナイトオブラウンズがここで入って参ります。その上に皇族が入る……わたくしはここに入りますの」

 

 皇族と上位貴族ヤヴァイ……この話が続くとヤバいことになりそうだと危機感を覚えた平民玉城は、ここで強引に話を打ち切った。

 

「アーッあーっ、そうそう、南ブリタニアでのペンタゴン掃討作戦で一番活躍したのはマリーなんだってなーっ、あーっ、やっぱすげーわマリーはっ、よっ、さっすがグリンダ騎士団総団長!! 戦姫マリーベル格好いいっ!」

 

 玉城のべた褒め。あからさまな逃げだが。

 

「そ、そんなこと、あ、ありませんわ、皆の力があってこそですもの、そ、それに総団長と呼ばれる前です」

 

 マリーベル皇女は簡単に引っ掛かった。玉城、シン兄さまからの手放しのお褒めは今の話題に勝り、彼女に取っては歓喜となるのだ。

 

 心が温かくなり、身の内より嬉しさが湧いてくる。それが玉城真一郎のマリーベルへの言葉の魔力。

 

 話しついでだからこのまま話そうと考えた玉城は、総団長と呼ばれる前だという処に注目、そこを突いた。序でに勉強勉強。

 

「なんだその総団長と呼ばれる前ってのは?」

 

「総団長と呼ばれるようになったのは、単純に騎士団の規模の巨大化です」

 

「あーそういやそんな話ししてたわ。最初は1艦320人体制だったけど創立直ぐに3艦半個師団体制になって、次に4艦半個師団体制に、そんでもって今は」

 

 13艦37,000人体制3個師団状態。

 

「お父様はまだ増勢させるおつもりのご様子で。次の増勢では30艦100,000人体制に為さるのだとか」

 

「お、おいおいマジか?! それもう対テロ即応部隊じゃねーぞ。対テロ即応軍だぞっ」

 

「わたくしとオルドリンの身を案じてのことなのでしょう。昔なにをしても生きて帰ってくれと“例えどのような状況下であろうとも命を捨てるな! 泥水を啜り這いつくばってでも生き延びろ! いいな二人ともっ、死ぬことだけは絶対に許さんぞっ!”と仰ってお出ででしたので、その為の増勢と、対テロでまだまだ手が足りないからという意味合いもあるものかと」

 

「あ、懐かしい。陛下に抱き着かれて仰られたのよね。あの時の陛下の温もり、今でも覚えているわ」

 

 マリーの昔を思い出す言葉に、ぼーっと立っていたオルドリンが反応した。懐かしいシャルルからの願いであった。

 

「そりゃ親父さんの気持ちも分からんでもねーけどどんだけ増やすんだよ」

 

「兄さまもそうお思いですわよね? 浮遊航空艦30艦、地上部隊100,000人体制。近くそうなるそうですが、きちんと指揮できるか不安ですわ」

 

「大グリンダ騎士団だなこりゃ。今でも充分大グリンダ騎士団だけどよお」

 

「ねー。今でも充分大グリンダ騎士団よねー。浮遊航空艦隊が30艦なら浮遊航空艦隊員だけで10,000人になっちゃうから、地上部隊と併せて110,000人なのよね」

 

「ヤベーなその人数。でもそんだけいりゃ年上美女――」

 

「兄さま?」

 

 マリーベルは笑顔で玉城を抱き締めると、再び玉城に頬を擦り寄せる。マリーベルの長い髪が一房、玉城の肩を跨ぎ流れ落ち、彼の頬を擦り付ける。

 

「兄さまはわたくしを裏切りませんわよね? たとえどの様な女性が勤務されることになろうとも、ね?」

 

 そのままの体勢でぎゅうううっと玉城を抱き締める手に力を入れ始めるマリーベル。

 

「ま、ま、マリーしゃん、裏切らない裏切らないっっ!! 裏切りませんっっ!!」

 

「本当に?」

 

 ニコニコ笑顔のマリーベル。この状態が一番怖い。オルドリンにヘルプの視線を送る玉城だが、私まで巻き込まないでと無視された。

 

「またオルドリンを見て……兄さまあっっ!!」

 

 軍学校オールSの握力が玉城を抱き締めるその身体に加わり始めた。

 

「いだいっ! いだいいだいっ!! 良い匂いもするけど、おっぱいやーらけーけどいだいっ!!」

 

 この瞬間玉城は助かった。良い匂いというワードと、おっぱいやーらかいというワード。この二つの嫌らしく汚らわしく、平凡なワードに羞恥を覚えたマリーベルが力を緩めたのだ。

 

「兄さま、エッチ……」

 

 

 

 

 

 異世界編の場合。

 

 

「た、対テロ部隊で浮遊航空艦30艦、100,000人の軍、ま、マリーベル殿の仰っておられたように、ぶ、ブリタニア帝国とはその様なことが平気で可能なのか……。我がパーパルディア皇国や神聖ミリシアル帝国と規模が違いすぎる……改めて列強の意味とはを突きつけられている感じだ。最早列強に意味は無いな」

 

 膝下へと流れる真っ直ぐな銀色の髪が、黒を基調としたドレスの上を流れている。パーパルディア皇国皇族レミール皇女だった。彼女はブリタニアが簡単にやってのけるという“作業”を耳にして、マリーベルが去った後に、ひっくり返りそうになっていた。

 

 当然、彼女の傍に控えていた大日本帝国外務省外交官、朝田泰司によって抱きかかえられて転倒は防がれるものの、その驚異的なブリタニアの国力に目を剥く。

 

「なにを仰るのですかレミール皇女――…………んん」

 

「んっ――」

 

 レミールの唇を塞ぐ朝田。二人はパーパルディア皇国皇族と大日本帝国平民という立場ながら婚約者でもある。皇族と平民という身分の差をその愛情で周囲を変えさせ。

 

 レミール皇女と朝田泰司に限りパーパルディア皇国は身分の差の区別無く婚姻を認めるとさせ、また、日本側も17番目の北側諸国であるパーパルディア皇国の皇女との婚姻を平民である朝田に認めたのだ。

 

 日本もまた階級制国家。ブリタニア帝国や、パーパルディア皇国ほど厳格では無いが、平民が他国の皇女と婚姻関係を結ぶことに一部で問題ありという擬議があがっていたのだ。

 

 相手は吹けば飛ぶような小国に過ぎない。ながらも、この世界では列強として認められている、弱国ながら大国でもある国。

 

 そして、厳格なる階級制度がある。その様な相手の高位皇族に平民を婚姻相手として送るのは非礼では無いのかというものであった。

 

 けしてパーパルディア皇国を蔑んだものではなく、日パ両国のこれからの未来的関係などを考えるからこその真剣な擬議であった。

 

 これについて、パーパルディア皇国皇族レミール皇女は、『寧ろ朝田泰司とこそ私は婚姻を結びたい。朝田泰司以外の男性は考えられない』と主張したのだ。その上で大スキャンダルをぶちまけた。

 

『私とレミール皇女はそういう仲に既にあります』

 

『朝田泰司は優しく私を抱いてくれた』

 

 いつも嘘ばかり書く週刊誌が掴んだマジネタに、日パ双方の国民からはお祝いの言葉が上がった。

 

 日本と、あの大日本帝国と共にやっていけるチャンスだ。

 

 さすがはレミール皇女殿下。平民とはいえど日本の外交官の心を射止めるとは。

 

 パーパルディア皇国皇族レミール皇女と朝田泰司の婚姻は双方に益がある。

 

 新惑星の列強国の皇族と日本人が結婚した意味は大きい。

 

 平民と皇女様、身分を乗り越えた恋って素敵よね~。

 

 あんな美しい皇女様と婚姻とは、朝田のくせに生意気だぞ。

 

 パーパルディア皇国側は主に日本とお近づきになれたというお祭りモード。

 

 日本側は主に政治的な意味でこの婚姻には大きな益があると判断され、パーパルディア皇国皇族レミール皇女と朝田泰司の婚姻は、世間的に評価も良く、歓迎もされた。まあ結局の所、本人達が幸せならばそれでいいのだが。

 

 日本政府としては人口7000万人の市場に優先権を得られるといった下心も多少あった。この新惑星に転移して一年と少し、ようやく大きな市場が手に入るチャンスが巡ってきたのだ。

 

 それも外務省の一外交官がパーパルディア皇国皇女の心を射止めるという素晴らしい形で。この際、日本側も階級制を件の外交官に限り凍結して、件の朝田外交官とパーパルディア皇国皇族レミール皇女の恋の応援に回ることにしたのである。

 

 しかして二人の恋は上手く実り花を咲かせ、愛し合う日々へと至らせたらしい。らしいというのは個々人のプライバシーに両国政府が介入すべきでは無いという日パ両国の決め事が関係していた。

 

 恋人関係を通り越し、婚姻(現在は婚約だが世間的にも本人たちも婚姻関係にあると考えている)関係を結んだレミール皇女と朝田泰司。恋の行き先は二人に任せるものとしたのである。その方が上手くいくとも。

 

 

 ※

 

 

「ああっ!泰司、いかぬっ、このようなところ、でっっ!」

 

 朝田は口付け後、レミールの黒を基調とした、宮廷の服飾職人が作り上げた美しいドレスの中をまさぐり、大切なところを探り当てると、自らの腰を近づけレミールのドレスの中で己を解放。そのままレミールの中へと。

 

「っあああ! こ、こら泰司、ば、場所を、考えよ、ここはマリーベル殿の御召艦なるぞ?!」

 

 中を進み来て最奥まで届かせられたレミールは、びくびくと震えながら夫、泰司に抗議をする。マリーベル殿の御座艦でこの様なことをと。

 

「考えていますよさすがに、ここは食堂の外の廊下の端っこ、ただの一外交官なんて、誰にも目立ちませんし気にしません」

 

「そっ、そういう問題では、――っああ、あ、な、ない、……お、お前はよくて、も、っああ、わ、私、は、パーパルディアこうこ、くの、皇女、なのだぞっ、あっ……っあああ、あっ、あっ、はあ、っあ、っああ、た、たい、じっ、」

 

 本格的に始められた行為。レミール皇女は甘い声を上げながら抗議に至ることしか出来ない。パーパルディア皇国の皇族であり、代表としてここを訪れているレミールには失態は許されない。

 

 コレが失態かと言えば、どうにも悩む処ながら、失態と言えなくもないだろう。そのようなことは朝田も理解している。だが、レミールを愛する朝田の激情的愛情が止まることを許さなかったのだ。

 

「です、から、目立つレミール皇女をっ、壁際に、押し付けさせてっ、頂いてっ、いるのですっっ、こうすればっ、反対側からはっ、レミール皇女が見えませんっ」

 

「そ、そうではっ、な、いっ、す、こしっ、おさえ、ぬ、か、っあああ、あ、はああっ、……っあ」

 

「おさえ、られたら、苦労はっ、致しませんよっっ、レミール、皇女っ、くっ、」

 

 レミール皇女と朝田は日に五回は行う。日本で働き始めたレミール皇女は長寿化の始まりらしき兆候が見られた。このまま日本で大使として働いて生活を送っていれば、記念すべきパーパルディア皇国人初めての長寿化人となるだろう。

 

 レミールは別に永遠の命や長寿に興味は無い。以前の愚帝ルディアスに心酔していた頃ならばいざ知らず、ルディアスへの洗脳じみた思いのなくなった今の彼女は正常であり、人は普通に生き普通に死んでいくものだと考えている。

 

 だが、朝田と共に、愛する泰司と永き時、共に生きることを目指せるのならば、目指したい。だからこそ長寿化を目指しており、その影響は着々と現れ始めていた。まず、髪と肌の艶がよくなった、化粧品の影響でも、入浴剤の影響でも無い。

 

 刺激ある運動をしているでも無いというのに、体力があからさまに付いた。特別な勉学に励んでいるわけでもなく、思考速度が以前よりも速くなった。外見年齢こそ二十代後半のままのレミールだが、体力、思考力、髪や肌の艶、様々なものが十代後半の頃に戻ったかのようになったのだ。

 

『それ、長寿化の始まり、長寿化してきている証ですよ。おめでとうございます』

 

 レミール自身は日本では皇族として振る舞い、生きるのではなく。一般人として生きてみたいと、一般的な生活をしていたのだが、そのかかりつけ医はやんごとなき身分の者を見る医者で、医者はさすがに良い医者でとパーパルディア皇国皇族として通っていた。その医師から長寿化していることを告げられたのだ。

 

 一年日本で勤務しただけでこれだけ身体的に変わるものなのかと元気いっぱいのレミールは、だからこそ元気いっぱいで、激情家で、愛妻家な部分もある泰司からの愛の行為を受けたのである。

 

「あっ、っああ、に、にほん、も、可能っ、なの、かっっ……30、か、ん、じゅう、まん、にんの、対テロ、ぶたいの、そう、せつっ、わ、わずかなっ、き、かんっ、で、っああ!」

 

 擦れ合う中、聞こえる愛の水音。抱き合いながらも続く会話は、やはり恐るべき内容について。

 

「かのう、ですよ、……っ我が国、も、それくら、い、っ、はっ……ぞうさもっ、ありま、せん」

 

 自国、大日本帝国のことを話題に出されて嬉しくなった朝田は、奥まったところでレミールを愛する。それが彼女にはたまらない刺激となって全身を痺れが駆け抜けていく。

 

「はあっ、っああ、きもちっ、いいっ、あまり、っ、き、きもちっ、よくっ、しないでっく、くれっ、あっ、ああっ、声がっ、こえが、でて、っしま、う、っあああ」

 

 本心で言えば気持ち良くして貰いたい。だが場所が場所。ここであまり大きな声は出せない。本当に誰かに見つかってしまう。泰司は死角だというが本当に死角なのだろうか。

 

「わかり、ましたっ、少しっ、足りませんがっ、終わらせまっ、すッ、」

 

 朝田は大きく腰を動かし突き上げる。ドレスの下がどうなっているかは言うまい。彼の思いとしてはまだ、もっとレミールを愛したい。

 

 正直に言って足りない。もっとレミール皇女を愛したい。レミール皇女と愛し合いたいのだ。

 

 互いを蕩け合わさせ、レミール皇女を蕩けさせて彼女に気持ち良さを植え付け、種を植え付けながら、自分自身も気持ち良くなる。

 

 愛し合う事の幸せは他の全てに勝るもの。

 

 代えがたい行為であり。替えの効かないものだ。

 

 ここがパーパルディア皇国大使館内ならば、いっそ大使の執務室に鍵でも掛けて愛し合う。事実そうして行っているし、日本で勤務中は大使館さえ愛の巣の一つとなっているといえるだろう。

 

 別にレミール皇女は特別声が大きいわけでも無いので、場所が大使執務室であっても普通に抱き合えるというものだ。家なら帝都内の300階のマンションの100階にある自分とレミール皇女の部屋でならば、それこそ好きなだけ抱き合い、誰も何も気にせず二人だけの時間を過ごせるのだが。

 

 家での場合は、夜を跨いで愛し合い抱き合うことも多く、レミール皇女も自分も、共に互いを愛する愛しさを募らせる続けるものだが。

 

 ここはグリンダ騎士団の総団長、グリンダ艦隊旗艦ネッサローズの食堂外の廊下の端っこ。完全な死角となっている場所だが、行為をし続けるには適さない場所ではあるだろう。

 

 自分の顔など誰も知らないが、レミール皇女の顔ならば知っている者が多い。この一年と少し、日本で駐日パーパルディア皇国大使を務めながらも、皇族ということで皇族外交も行ってきたからだ。

 

 パーパルディア皇国の他の皇族方も、皇室外交を初めて日本やブリタニアを訪れているが、やはり一番知名度があるのはレミール皇女殿下だろう。そりゃまあ平民と結婚する皇女様なんて珍しいから。

 

 と、色々な思いを乗せながら、朝田泰司はレミール皇女に全てを解き放った。解き放たれた熱を感じ取って達するレミール皇女。

 

「っん、っんんっ、ッんああ!たい、じ、たい、じィ! はあああッああ──あああッッ あああっ! あああア──ッッッ!! っっっ―――ふぐうッ?!」

 

 達したレミールの口が朝田の口に塞がれた。声を出させないためだ。朝田はレミールに全てを解き放つと彼女を解放、自分自身を彼女から出て行かせた。

 

「はあッ、はあッ、泰司ッ、や、やはりッ、このようなッ、場所でッ、いた、すッ、のはッ、リスクがッ、おお、きいッ」

 

「はあ、ふう、たし、かに、リスクが大きい、ですね、ですが、それがまた、ぞくぞくしてッ、良いのではっ、ないですかっ」

 

「おま、え、おかしな、しゅみ、に、目覚めてはっ、いっ、いないっ、だろう、なっ?」

 

 少し心配だ、泰司は激情家なところがあるから勢いで何かして、おかしな趣味に目覚めていないか? 妻として心配だ。レミール皇女は朝田の趣味嗜好について口出しをするつもりなど無いが、妻としてはやはり夫のおかしな趣味について気になるもの。

 

 これまで健全にやってきた、行為も至極健全に。大使館の執務室で行うことには場所柄、多少の抵抗感はあれども、したいときには泰司は鍵を閉めて多少強引に私を抱く。私を抱きたいという気持ちを受けて、私もそのまま抱かれる。

 

 家でもそう、泰司の思いのままにこの身体を泰司に預け抱かれるのだ。私は泰司を愛している。心から愛している。故に愛されるときは大凡泰司の行為に合わせて愛されるよう心掛けている。

 

 しかし、そんな私の放任主義的抱き合い、抱かれ合いが、結果として、泰司におかしな趣味を目覚めさせてしまったのならば問題だ。同じ皇族とはいえマリーベル殿は超大国ブリタニアの姫君。弱小国パーパルディア皇国の皇女でしかない私とは立場そのものが異なる。

 

 そんなマリーベル皇女のお膝元でこの様に普段通りに抱き合うなど、泰司はおかしな趣味に目覚めたのか? 妻として止めるべきだろうか。泰司は策略的ながら激情型の人間でもある。なにか泰司の琴線に触れるものがこのネッサローズにあったのだろうか。

 

「た、泰司、ドレスを元に戻してくれ、な、中も……歩きにくくてかなわぬ」

 

「ええ、承知しておりますともレミール皇女」

 

 う、む、泰司の様子はいつもとかわらぬ、な。後で少し、聞き取り調査でもしてみよう。

 

 

 結局はこの件はレミール皇女の考えすぎで、泰司はただレミール皇女が愛おしく、手を出してしまっただけだったことが判明。二人の愛が深まっただけという。

 

 

 ◇

 

 

「ふう、しかし、同じ浮遊航空艦でも我がデュロとは違い過ぎるな何もかも」

 

 レミールはただただネッサローズに驚かされるばかりだ。

 

「とくにあのハドロン重砲という4門の強力な砲。あれの一斉射でデュロなど消し飛びかねない。パールネウス型戦艦とて撃沈されるだろう」

 

「それはまあこのネッサローズは軽斑鳩級より一ランク上の艦。それも最新型の艦ですからね。デュロは最旧型の艦ですから、そもそも装備も質もレベルが違うのですよ」

 

 居住まいを正した二人はネッサローズ艦内を見学していた。レミールは先に一度マリーベルより一通り案内されていたが、後学のために艦内探索をしていたのだ。

 

「このネッサローズと同級のアヴァロン級の浮遊航空艦グランベリーも似たような感じですね」

 

 レベルは落ちるが他の護衛艦カールレオン級も全て最新型。

 

「そうか。グリンダ艦隊13艦は全て最新型の艦なのか。ではこの艦隊の艦1艦が相手でも」

 

「パーパルディア皇国の3艦の浮遊航空艦は負けます。戦力差がありすぎますから比較になりません」

 

「ふ、辻卿におもちゃと言われる訳だな」

 

 レミールは悲観する。グリンダ騎士団の艦隊の1艦にすらパーパルディア浮遊航空艦隊は勝てないのだ。それどころか海軍や航空隊もかなわない。

 

「まあ、悲観することはありませんよ。デュロ他の艦も最旧型とは言え真っ新ですし、この星の文明圏の戦力としてはかなり高い方ですから。それにグリンダ騎士団は対テロ即応部隊の名を名乗っておりますが13艦37,000名の軍隊ですからね。それも最精鋭の。レミール皇女も既に質の何たるかはご存知でしょうが、その質が最上位の部隊の一つなのです。パーパルディアの質とは比べ物になりません」

 

「最精鋭の対テロ部隊、否、軍か、大日本帝国にせよ神聖ブリタニア帝国にせよ、やはり恐るべき国だな」

 

「パーパルディア皇国もすでにその恐るべき国々に仲間入りしている事をお忘れなきように」

 

「そ、そうであった、我が国も北側諸国17番目の加盟国であった、う、うむ、自覚を持つようにせねばな」

 

 朝田泰司とレミール皇女のネッサローズ見学は続く。

 

 

 

 

 

 ネッサローズ、マリーベルの部屋。

 

 

「ね、ねえ、兄さま、あ、朝田さんと、レミール皇女の、あ、あのお姿、ご、ご覧になりまして?」

 

 モニターには死角となっている場所のカメラ映像が映し出されていた。

 

 部屋の周りや枕元には、2048体の玉城くん人形が散りばめられている。いま2049体目をマリーベルは作りながら、ネッサローズの死角カメラを除いていたのだ。

 

 すると、なにやら朝田外交官がレミール皇女を廊下の端の端、隅っこに連れていき、なにかしていた。彼女たちは身分を超えた恋愛関係にある。なにかしているのではとカメラを拡大したのだ。すると。……そういうことだった。別にああいう目立たない場所であればしても許すが、よくあんな場所で出来るものだ。

 

 どうせ豪胆な朝田外交官が無理矢理始めたのだろうと考えられるが。しかし、男女の馴れ初めを見慣れていないマリーベルには刺激が強すぎた。

 

「わ、わたく、し、殿方と、女性が、あ、あの様に、愛を交わし合う姿を、ち、直接には、は、初めて照覧致しましたの……、に、兄さまは、レミール皇女と朝田さんのように、階級差、み、身分差の恋について、ど、どうお考えでしょうか? わ、わたくしは、それも一つの愛の在り方と――」

 

 愛する兄さまを振り向くマリーベル。

 

「んがーっ、んがーっ」

 

 バカは寝ていた。

 

「…………兄さま、兄さまにはまず先に教育の方が大切なご様子ですわね…………」

 

 皇女の手がごきんと鳴り、バカの両肩へと優しく置かれたのはバカが年上美女の夢を見ているその時であった。

 

 

 

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