砲艦外交の前に   作:休日

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22戦列艦 売りますけど後のこと考えてます?

 

 

 

 もう要らないからと、各基地より集めてきていた戦列艦群230隻。

 

 230隻と言っても、230艦といっても侮ることなかれ。この230艦でロウリアを滅ぼすことも可能なのだ。

 

 それだけの力がパーパルディア皇国魔導戦列艦にはあった。この内の50艦でも差し向ければ中小国など相手にもならぬとレミール皇女は自負しているが、その自負に間違いは無いのである。

 

 その壮観たる姿を見た、耳の尖った少し長髪の美青年、クワ・トイネ公国首相カナタは、その光景に思わず声を漏らしていた。

 

「おお……、これは、素晴らしい……っ!」

 

 立場上、砲艦という物は見たことがある。但し、大凡が50門級や70門級の、更に二線級の物ばかり。

 

 此処に停泊している物は、今まで目にしてきた二線級の物では無い。同じ50門級砲艦でも一線級の物。射程距離は優に2㎞に到達する物ばかりだ。

 

 しかも信じられないことに100門級、150門級戦列艦超フィシャヌス級も存在している。他にも強力な物としては120門級戦列艦であろうか?

 

「どうでしょう。我が国の魔導戦列艦は? 中々の物でしょう? これだけあれば、いえ80艦もあればロウリアの武装帆船恐るるにたりずですよはっはっは!」

 

 ここまで案内してくれた人物の一人、パーパルディア皇国軍最高司令官アルデが胸を張りながら述べる。

 

「私が言うのも自画自賛となってしまいますが、こと戦列艦については列強第五位のレイフォルを大きく引き離しているとの自負があります」

 

 ふんす。

 

 鼻息荒く言うアルデに。共に付いてきていた人物が注意を入れた。

 

「無意味だなアルデよ」

 

 頭には金のサークレットを戴き、宮廷服飾職人が仕立てた茶と黒の色が綺麗に折り合いを付けて彩られているドレスを着た、膝下にまで届く長い銀髪を海風に晒し靡かせながら、黒いスーツに黒縁眼鏡を掛けた七三分けの髪型の三十代ほどの黒髪の男性に手を引かれながらやって来た、二十代後半ほどの女性。

 

 パーパルディア皇国皇族レミール皇女は、アルデを叱責するでも無く、列強などという区別にこれといった価値はないと言い放った。

 

 確信めいたその言葉にカナタも、列強第四位の大国パーパルディア皇国の皇女が自らをしてそこまで言い切られるかと思った。

 

「アルデも、そこなカナタ首相閣下も既に存じていよう。この地域の狭さを。そしてこの“星の”広大さを」

 

 知っている。彼女の言葉の通り、パーパルディア皇国を含めた大東洋諸国圏に属する人間で、ある程度教養がある物は皆知っていた。

 

 この世界は丸く、地平など無く、何処までも陸と海が広がり行き、この場から旅をして、障害がなければ再びこの場へと戻ってくる。

 

 その直径は実に31,890㎞。これは直径にしての話だ。赤道直径としては10万㎞を超え、表面積に至っては32億㎢以上という途方も無い面積を誇る。

 

 この巨大に過ぎる惑星の、極々限られた場所で、列強、列強と争っていて何の意味があるというのか? 実に無意味だ、馬鹿馬鹿しい。

 

 星の裏側や未開の地を全て切り開いて列強と言っているのか? 否、他の星を、この無限に広がる宇宙の他の星全てを視て強い弱いを叫んでいるのだろうか?

 

 現に、大東洋に他の星からやって来た国家群が有り、彼の国家群は最も小さな国でさえも、この狭き地域の列強第一位の神聖ミリシアル帝国を超えて居るぞ?

 

「一年と少し前、僅かな時ではあるが、あの頃の私は愚かだった。列強パーパルディア。何れ世界の覇者となり、世界の大母とならんなどと馬鹿な野心を抱いていたところに、現実という物を教えられたのだからな」

 

 ルディアスの甘い言葉に踊らされるばかりの愚かな女だったと自身を恥じ入るばかり。あの無為と過ぎ去らせてしまった時間は実に惜しい。あの時間を使いもっと勉学に励むべきであった。二十代前半の大切な時間を愚かの一言に集約してしまえる使い方をしてしまった。

 

 レミールは一度うつむく、彼女の長い銀色の髪が風にそよいでいる。そして顔を上げると、隣に立つ自身の夫、朝田泰司を見て微笑み、朝田もまたレミールに微笑み返す。

 

 だが、そのおかげで泰司と出逢えた…………朝田泰司――我が愛する夫と出逢い結ばれたのだ。それを思えば無為ばかりでは無かったのかもしれない。

 

「まあ、終わったことを掘り返しても仕方が無い。過ぎたことは過ぎたこと、取り返しなど付かぬ故な」

 

 そうだ。これからだ。これからどうしていくかが肝心なのだ。幸いにもパーパルディア皇国は北側諸国第17番目の国として加盟し、大東洋諸国圏の防衛の一助を担うという重要な立場に立っている。

 

 だからこそ、次の会議を考えレミールは少々お腹が痛く、正露丸を飲んでいたりするのだが。これが苦くてたまらない。良薬口に苦しという言葉も覚えたレミールは、朝田が「ご無理をなさらないようにしてください」という気遣ってくれる言葉が一番の良薬になっていると気が付いては居るのだが、ついつい正露丸を飲んでしまうのだ。

 

「それではカナタ首相閣下、ご選定願おうか。ここには100門、120門、150門と皇国が作り上げた最高峰の魔導戦列艦が揃っている。1艦100パソの出血大サービスだ。維持費については貴国に持って貰うこととなるが」

 

「ええ、ええ、勿論ですとも。これだけの物、我が国ならば貴国や北側諸国と直接取引をしておりますので余裕で維持費を捻出できます」

 

 カナタはうきうきで観覧していくが、何せ戦列艦など持ったことが無い。どれがどういった物なのかは分からない。

 

「レミール皇女? お聞きしても」

 

「え? あ、ああ、済まぬ。私はパーパルディア本国勤務時代は外務担当者だったのでな。故にそこなアルデの方が詳しかろう。アルデ、案内して差し上げよ」

 

「はっ、では首相閣下こちらへ」

 

「ああ、これはすみません」

 

 そうして艦内へと入っていく二人。艦について語り合っているのだろう。

 

 なにせ皇帝はクワ・トイネ公国に80艦もの戦列艦を売却すると言ったのだ。たった80艦されど80艦。今この時、北側諸国を除けばクワ・トイネ公国こそが大東洋諸国圏第二位の国となったのだ。最も、レミールの見立てではクワ・トイネ公国には、パーパルディア皇国ほどでは無くとも、パーパルディア同様北側諸国の、大日本帝国と神聖ブリタニア帝国、そしてAEUの手が入ろう。

 

 それほどに重要な国でもある北側に取ってだけでは無く、大東洋にとって。穀物とは無くてはならぬ物。生物が生きていくために必要とする物だ。それを山のように持つクワ・トイネ公国。重要で無いはずが無い。北側諸国が放置するはずが無かろう。故に必ずやパーパルディアとクワ・トイネは要の役目を持つこととなる。その為には北側諸国は出し惜しまない。我が国へのそれの様に。

 

 ともあれ、カナタには一日をパラディス城で宿泊戴き、翌日になって改めて残っている戦列艦の案内に、となった訳だが。

 

 カナタは予めセレミア皇帝と朝の挨拶を交した際に、8千パソという、子供の誕生日に少し高めのおもちゃでも買ってやるか程度の買取額を支払い、レミールと朝田、アルデの三人を引き連れて意気揚々と選定に出かけたのである。

 

「しかし、そうか。見慣れた戦列艦や砲艦の時代もこれでおしまいか」

 

 少し寂しそうにレミールは呟く1千艦などという馬鹿みたいな数は、正気に戻った今は税金の無駄遣い以外の何物でも無いと分かっているが、この戦列艦が早晩全て無くなってしまうことに一抹の寂しさを覚えたのだ。

 

「記念艦として1艦だけ残されては? 我が国にも三笠という日欧戦争時に活躍した記念艦が残されております」

 

「うむ。見た、荘厳なる鋼鉄艦であった。我が国のパールネウスよりも大きな艦が100年も前の代物だとは思いもしなかったが」

 

 レミールは割と空き時間を使い帝都の散策を朝田と共に、夫婦水入らずで行う。各名所や要所を見て回り、名物を共に食す。

 

 それだけの時間ではあったが、その中に三笠記念公園という物が在り、新造艦であるパールネウスよりも大きな軍艦の存在に驚いた物だ。それも100年も前の代物だというのだから尚更に。

 

 やはり大日本帝国は桁が違う、この国に学び、この国の技術を吸収し、やがては自前で8万t級の戦艦や空母を建造し、ジェット戦闘機を建造しなければならない、近年中にも。

 

 そんな思いを強くした。

 

 そんなレミールに、その記念艦を1艦残してはと提案されるも、レミールは左右に首を振るう。銀色の長い髪が首の動きに合わせてさらさらと宙を舞い。朝田はその髪に手指を差し入れながら、静かに梳いて、彼女の言葉を待った。

 

「これらがあるとな。ルディアス時代を思い出すのだ。パーパルディア皇国人の皆がな。あの暗黒時代など誰も思い出したくは無かろう」

 

 ルディアス時代。恐怖統治の暗黒時代。刃向かえば処刑、手向かえば一族郎党処刑。血で血を洗う最悪の歴史はつい昨年まで現実の物として存在していたのだ。

 

 自身もまたその血の臭いに酔い、ルディアスに心酔し、言われるがままに身の毛もよだつ属領統治をしていた一人。ケダモノだった。

 

 だからこそもうその記憶は葬り去らねばならない。新しき時代にルディアスの残り香は不要なのだ。

 

 自分自身の存在もまたルディアス時代の残り香なのだが、幸いにも、幸福なことにも、自分自身は許して頂けた。罪を憎んで人を憎まずと。あんたにゃあんたのやるべきことがある。

 

 あんたもまたルディアスの被害者の一人だよ。そう、臣民の一人は仰ってくれ、軽いげんこつをされただけだった。

 

 とにかく、できる限りルディアス時代の残り香は排除したい。

 

「そう、だな、寧ろ、寧ろ記念艦とすべきはパールネウス型の何れかだ」

 

 戦艦パールネウス型。

 

 パーパルディア皇国が造った物では無いが、大日本帝国が建造した彼の国曰く『おもちゃ』だが。ロウリアという侵略国を打ち払った、新たな時代を切り開いた紛う事なき皇国の船。

 

「残すとしても1艦のみとなろう。ハキとイキアがうるさそうだ。あの二人は戦艦クーズを推すだろうからな。本来ならばネームシップで有り聖都の名を冠するパールネウスを残すべきなのだが」

 

「まあ、そこは要相談でしょうハキさんとイキアさんはレミール皇女の御友人とはいえ平民ですし。軍や皇族・貴族の意見が推されるでしょう。申し訳ありませんが私もパールネウスを推薦します」

 

「ふッ、そうか。ならばますます文句を言われそうだ」

 

 朝田の言うとおり、レミールとハキとイキアは階級差を超えた友人である。だが、こと政治的な話となれば素人の、まして平民の二人に口を出す権利は無い。

 

「あの二人のことだから平民と結婚してるくせに何だよその言い草はァ!! とか、文句を言ってきそうだな」

 

「ま、私が平民なのは事実ですがね。単なる日本の平民、一外交官ですから」

 

 朝田が微笑むと。

 

「私もパーパルディア皇国皇女と大使という身分を外せばお前と同じ一外交官だ……泰司」

 

 レミールも微笑み。

 

 レミールの腰を朝田が引き寄せ。

 

 二人は優しく。

 

「ん――」

 

 口付けを交わした。

 

 

 

 

 戦列艦 売りますけど後のこと考えてます?

 

 

 

 

 特に啄みもしなければ深い口付けにも移行しない、唇を重ね合わせるだけの口付け。

 

 日頃から熱い間柄で知られている事実上の新婚夫婦なレミールと朝田。

 

 パーパルディア皇国の、正確にはレミール皇女の御召艦である浮遊航空艦デュロの二人の居室からは、二人が熱く愛し合う声も聞かれたりしている。

 

 何せ実質的には新婚夫婦。外交官はあちこち飛び回るお仕事でストレスも溜まるのだ。交渉相手国の見下した態度然り、罵声然り。

 

 だから必然的に愛し合う回数も増えてしまう。レミールも潜在的敵国のリーム王国と交渉した時は荒れに荒れた、生来彼女は気が荒い方だから余計に。

 

 その日は、朝田に夜通し抱かれたレミールは、翌日息も絶え絶えになりながら更にもう三度抱かれ朝田の腕の中で果てて怒りも何もかもを強制的に沈められて冷め止んだ。

 

 朝田はレミールを愛するとき、それはもうレミールへの愛を囁きに囁く。

 

「レミール皇女……、愛しておりますレミール皇女っ、私のレミール皇女ッ!」

 

 レミールに愛を伝えることで、自分も愛を高め、幾度もの愛へと繋げていくのだ。

 

 朝田はレミールが果てても止めない、愛に果てなど無い。精神的にも肉体的にも疲れる外交官という仕事。疲れた果てに朝田もレミールを求めるのだ。

 

 求められるレミールも。

 

「あっ、っああ泰司っ、……私の泰司っ、私をっもっと、愛ッ、してっ……私を私を愛してぇっっあああ!!」

 

 叫ぶように声を上げ朝田の愛を求め、身体の中に解き放たれる朝田の愛を一滴たりと残さず受け入れるのだ。

 

 二人は互いを求め、果ての無い愛の螺旋に迷い込み、愛し合い続ける。朝早く起きて愛し合った末に、朝田は交合に乱れたレミール皇女の膝下にまで届く真っ直ぐな長い髪を梳いて梳かし、金のサークレットを髪に結わえて彼女のドレスの着付けを行う。

 

 序で自身のスーツを着て、七三の髪型にピシッと決めて、黒縁眼鏡を掛け、レミールと朝田は朝食を摂り二人揃って出勤。それが二人のいつも。

 

 そのくらい普段より熱いレミールと朝田だが、場所くらいは考える。この場所は日本の助力で大拡張された埠頭の先端。

 

 左右には戦列艦が並び、遠目には満載排水量76,800tの巨艦群の姿や、空にはゼロ戦、メッサーシュミット、震電改などの猛禽の群れの編隊飛行が見える。

 

 こんな場所で軽い口付け以上を出来るか? 出来るわけも無し。大勢に見られ、噂になってしまう。

 

 噂以前に結婚予定なのだからレミール皇女が朝田外交官の子をお産みになられるのはいつ頃になるかなあ。などと言った話で持ちきりなのだが。

 

 と、そんなところへ――。

 

 

 ――おーい!!

 

 

 ばっと唇を離すレミールと朝田、遠くから、埠頭の向こうの護岸の方から数人の人物が手を振っている。

 

 誰に? 決まっている。レミール皇女にである。

 

「マール王国の大使殿ではないか、マオ王国、アワン王国、フェンにシオス、アルタラス、トーパ王国まで」

 

 これに先を越されたとばかりにクイラ王国やガハラ神国までが加わっての揉め合いが始まってしまったのだ。

 

「レミール皇女っ! 我がマール王国は貴国の西側の隣国。大東洋を防衛するとあらば何よりも真っ先に我が国に声を掛けるべきですぞっ」

 

 戦列艦売却についてである。100パソと噂を聞いて皆群がってきたのだ。

 

「いえ、パーパルディアとは真向かい同士の我がアルタラスにこそ大東洋を封鎖するという意味で戦力は必要かと」

 

 優しい声で言うアルタラスの女性大使だが、その本音は我が国にこそ戦列艦をであった。

 

「我がフェンの水軍は真に貧弱。せめて貴国の戦列艦10艦でもあれば超強化できるのだがっ」

 

 いや、我が、我が、我らの国こそが。

 

 ぎゅうぎゅうと押し合いになる。その中心にはあのパーパルディア皇国皇族レミール皇女が居る。つい一年前では考えられないことだ。

 

 人間種が居て、獣人種が居て、エルフが居て、ドワーフも居る。そこに差別も区別も無い。平等こそがある。

 

 かつてならばレミールにこの様な行為を為そうならば処刑だっただろう。

 

 教育という名の虐殺も待っていた。

 

 だが、今は違う。今のレミールはその様な冷たい人間でも、冷酷な人間でも無い。とても平凡な、平凡で有りながら高貴な人間であった。

 

「待て待て待てっっ!!」

 

 レミールは叫び、朝田としっかり抱き合ったままお互いを離さず、この難を乗り切った。

 

「まず、皆の、貴国らの意思は分かった。だが今はまず真っ先に購入を決定したクワ・トイネ公国のカナタ首相閣下に優先権がある。いま内装を調べ、装備を見て貰っている、内見しているところだ。まだ暫く時間も掛かろう。各国とも、元首とは連絡を取った上で購入希望をしておるのか? それと予め申しつけて置くが、無計画に大量買いなどを致せば後で痛い目を見るぞ?」

 

 痛い目?

 

 何のことだ? パーパルディア皇国の一線級の戦列艦。しかも中には100門級を超える超級の艦まで有り、その全てが1艦たったの100パソ。子供のお小遣いで買えるのだ。痛い目など見るはずも無い。

 

 むしろ、今買わずにいつ買うというのだ。中には信じられないことに150門級の巨大艦があるというではないか。無論。

 

 皆の視線が反対側の護岸に向かう。

 

 アレには勝てないが。アレはもう別次元だ。

 

 そこに見えるは満載排水量76,800tの怪物達である。

 

 随伴艦なども鋼鉄の艦ばかりで、手に入れた戦列艦であんなのと戦う事はまず想定には入れていない。

 

 それに先ほどより大空を舞う鉄竜の群れ。クワ・トイネ公国の話では日本やブリタニアのソレと比べれば、話にならないほどに遅いというが、この目で見る限り、パーパルディアが以前保有していたワイバーンロードの倍か3倍近い速度が出ている。

 

 あれらの実態を何一つ知らずに戦おうというのだから、ロウリアは馬鹿の集まり、ロウリア王国大王ハーク・ロウリア34世は単なる馬鹿の首魁としか思えない。

 

 パーパルディア皇国が軍縮をした? とんでもない。パーパルディア皇国は過去に類を見ないほどの大軍拡を成し遂げている。ルディアス時代が赤ん坊に見えるほどの超軍拡だ。

 

 ただそれがまだ実体を伴って見えていないだけなのだ。竜母もヴェロニア型巨大鉄竜空母へと進化している。排水量4万tというのだからどれほどの鉄竜を積み込めるのか分からない。

 

 艦も全ての艦が戦列艦のような木造艦ではなく、鋼鉄艦になっている。工業都市デュロを初めとした重工業の盛んな大都市圏には既に自力で6万,7万t級の艦艇を建造できる設備が整備され始めているし、一部稼働もしている。これには北側諸国の膨大な援助があったとか。

 

 ロウリアやリーム王国と言った、大東洋諸国圏を侵略、敵対視している国家を除き、ネット回線を通じて情報共有をしている国々では、パーパルディア皇国がロウリア艦隊6千余隻とワイバーン800騎ほど殲滅したことを知っている。

 

 皆が皆、映像で見た。その上で各国の首脳達は悟ったのだ。ああ、これは戦列艦なんぞ要らんわと。ならその要らなくなった戦列艦を是非とも売却して欲しいと予てより交渉していたのだが、漸く実を結び、残り230艦の段階で全艦の売却が決定したのだ。

 

 どうせ吹っ掛けられるんだろうなと考えていた各国首脳であったが、先日パーパルディア皇国皇帝セレミアおよび皇族レミール皇女の連盟に於いて1艦100パソによる売却と決まったのである。

 

 これには各国首脳も耳を疑った。100パソ、日本円の価値にして100円である。そんな馬鹿なことがあってたまるか?! あれらを1艦建造するだけでも数百万~数千万パソ以上は掛かっていよう。舐めているのか?

 

 そこでパーパルディア皇国首脳部は、現在の皇国皇軍の実態を事細かに話、パーパルディア皇国にとって戦列艦には標的艦としての価値しか無いのだと周知させた。つまりは、要らない物だから100パソで売却しても儲けになるという話だ。

 

 これに各国は群がった。真っ先に動いていたクワ・トイネ公国のカナタ首相は値段を決める会談に同席していたおかげで、80艦という大量買い。真っ先の買い付けが出来、いいとこ取りしていたのだが。

 

 そこは人の良いカナタ首相。3艦しかない150門級戦列艦は1艦を購入するに留め、他、120門級、100門級と順番に買い付けていった。

 

 

 ※

 

 

「ふう~っ、中々の作業ですね。私一人で見て回るというのは。やはり軍務卿をつれてくるべきでした」

 

「まあ、専門的で無いカナタ首相閣下では致し方御座いませんよ。その分こちらは教え甲斐が御座いましたがね」

 

 最後に見た150門級戦列艦ディオスは非常に大きく、砲門数も桁違いであった。その他120門艦、100門艦も十二分処か、流石は列強第四位“だった”と言わざるを得ないほどの充実した装備に溢れていた。

 

 80門級などその他の戦列艦80艦。これだけあれば充分ロウリアの武装帆船を相手取って戦えると確信しながら、外に出ると。何やら埠頭でレミール皇女と各国の大使があーだこーだと話し合っていた。

 

「皆さん如何されましたか?」

 

「おお、これはカナタ首相閣下」

 

 策士的なところもあるフェン王国の駐パーパルディア大使が深い笑みを浮かべている。

 

「いま丁度レミール皇女殿下とパーパルディア皇国戦列艦売却の件で話し合っておったのですよ」

 

「話し合いも何も、私には権限が無い。貴公等にも権限が無い。一度話を国に持ち帰り国王陛下、または女王陛下、首相閣下に奏上し、改めて我が国の皇帝陛下に掛け合って貰いたい」

 

「しかし、そうしている間に他国にいいとこ取りをされては」

 

「そこまでは私も皇帝陛下も責任が持てぬっ」

 

 レミールが困っている。困るのも当たり前だ。レミールには権限が無い。軍艦の所有者は皇帝であってレミールでは無いのだから。

 

 朝田はそんなレミールを見て、レミールの、妻のために出来ることはと考えていると、今度はこちらにお鉢が回ってきた。

 

「朝田外交官殿。大日本帝国の意見として貴公はどう思われるか分配について」

 

「いや、それは私もレミール皇女の仰るとおり各々の国へ一度持ち帰るか。……ああ、そうだ。いい手がありますっ! 皆さんの大使館にPCがあるでしょう? 何の為のインターネットなんです? それでお国と御連絡を取って頂ければ」

 

 するとレミールに詰め寄っていた各国大使も。そーだそーだそれがあった! すっかり忘れていた、いや、使い始めてまだ一年も経っていないからなあ。と離れていく。

 

「ふう、偉い目に合ったが助かったぞ泰司」

 

「それはまあレミール皇女はパーパルディア皇国皇女殿下ですからこういうこともあるでしょう。それと、妻を守るのは夫の役目ですから」

 

「泰司……」

 

「レミール皇女……」

 

 ひしっと抱き締め合う二人。カナタとアルデがいるのでキスはしない。

 

 なるほど。どこがどれだけ購入するか? どの国がどの艦を購入するかで揉めていたのか。言わば早い者勝ちだからな。そう考えたカナタは一つ忠告をした。

 

「レミール皇女、失礼しても」

 

 抱き合う二人の邪魔をするのは憚られるなあ、と苦笑いしながら一言断るカナタ。

 

「う、うむ、どうか為されたか?」

 

「彼らに一言忠告を」

 

 言い置くと、カナタは大使館に走って行く大使や公使達を一度大声を上げて呼び戻した。

 

 レミールはまたもみくちゃにされないかと警戒するが、そこは夫として朝田がガードする。

 

「皆様、パーパルディア皇国の新鋭戦列艦が100パソで手に入ると舞い上がっているご様子ですが、その後を見据えたご購入を為された方がお国の為ですよ?」

 

 無茶買いは身を滅ぼすと、暗に告げたわけだが。

 

「カナタ首相閣下は上手くやりましたな。セレミア皇帝陛下やレミール皇女殿下とご相談為されて即決購入ですから、我らよりも良い物を手に入れられるは必定」

 

「然り然り」

 

 別に挑発する意味で忠告したわけでは無い。大量買いの後々の負担についてを話したに過ぎない。

 

 レミールも。

 

「ああ、皆それぞれの国が残りの戦列艦を購入するのは自由だが、後で色々と私や皇国に泣き疲れても困るぞ? ここに言い置いて置くからな?」

 

 そんなレミールにも。

 

「レミール皇女殿下はよろしいですなあ。鉄竜に鋼鉄の艦隊に空飛ぶ戦艦を手にされたのですから。羨ましいことです誠に以てっっ、よろしいですか? 我々も貴国パーパルディア皇国の開発なされた150門級超フィシャヌス級戦列艦という強力な兵器が欲しいのですよっ!」

 

 一部の小国の大使は何か妙な嫉妬心丸出しで素早く走って行くと、エストシラントの街中へと消えていった。

 

「行ってしまった……。……別に私はフェンが大量に買おうが、マールやトーパが大量買いしようが構わぬのだが、彼らは軍艦には維持費が掛かることを忘れてはいまいか? 我が国が手に入れた新たなる兵器にも維持費がかかっていること、よもや頭の中から抜けておるという事はあるまいな? その場合知らぬぞどうなっても」

 

 レミールはふうと息をつくとしゃがみ込む。

 

「我がクワ・トイネが80艦の大量買いをしたのは維持費の捻出が出来るからなのですが。彼らが同じペースで買い付けて果たして。まあ他国のことゆえに我らが口を出すことでもありませんが」

 

 望遠鏡でもあったら彼らの様子を見ていただろうカナタ首相は眺め見る。

 

「日本は超巨大な軍隊を持っているので言わせて貰いますが、維持費、掛かりますよ」

 

 言いながら愛するレミールの長い髪を、優しく撫で掬う朝田泰司。

 

「レミール様の御前で失礼かとは存じ上げますが、実は戦列艦1千艦の維持費、相当掛かっていたのですよね。あれと比べれば一艦一艦、一機一機の維持費は遙かに掛かりますが、日本より援助して頂いた兵器群の方が遙かに安いのですよ。いやァ魔導戦列艦はお金が掛かります」

 

 クワ・トイネ公国の様な豊穣の地ならともかく、小国が大量購入したところで維持できますまい。

 

 最後にレミールを前にしても怖じ気づかなくなったアルデが話を締め括り。

 

 それぞれの感想を述べ、去って行く各国大使達を見遣りながら、絶対値段に釣られて痛い目を見る国もあるだろうなあと思う四人であった。

 

(どんな傾向かを知りたいのもありまして

  • ミリシアル好き
  • ミリシアル嫌い
  • グラ・バルカス好き
  • グラ・バルカス嫌い
  • ロウリアは徹底的にやっちまうべき
  • ロウリアにも救いを
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