丁度昼休憩の時間。
駐パーパルディア皇国大使、ムー国大使ムーゲは、何かがおかしいと考えていた。
見た目的には何も変わっていない、いや、国民の表情や性格が以前より穏やかになった事くらいだろうか。
しかし以前に比べて変わったところも大きくあった。まずパーパルディア人の持つ固有の差別的意識がこの一年を通して無くなった。
以前ならば道端の生活者など見掛けよう物なら、侮蔑の言葉と共に唾を吐きかけていただろう。
そういった野蛮な行為を行わなくなったばかりか、パンやお菓子を差し出し助けるようになったのだ。
場合によってだが役所まで連れて行き働き口の斡旋までするように。
言葉遣いも誰に対しても丁寧に成り、暴言的な発言を見掛ける機会が少なくなった。
まず文明圏外国人に対しての態度が大きく変化している。まるで正反対のように同じ人間を相手とするよう務めだしたのだ。
あの文明圏外国人をゴミのように見下して来ていたパーパールディアがである。
「あの日からですか……このおかしな状態になったのは」
砲艦外交の前に変わりすぎだろ
約一年ほど前、ムーゲは緊急と言うことでパーパルディア皇国第一外務局へと呼び出された。自分だけでは無い他の列強、レイフォルや、エモール、ミリシアルの大使の姿もあった。
列強の大使が雁首並べることはまず無い。これはパーパルディア国内で何か大きな事が起こる予兆か。
そして一国また一国と、局長の面会室に通された、列強大使たちは皆揃ってため息を吐くのだ。厄介だと。
自身もまた通された。部屋には外務局監査官の皇族レミール殿下がいたので少し驚きはしたが、常の平静を装って挨拶をすると呼び出した要件を聞き出した。
するとある意味当然で、ある意味ようやくかという話の内容が飛び出したのだ。
曰く、一週間前後を目処にパーパルディア皇国で軍事クーデターが起きる。先導者は我が従妹と私自身で、愚かにも周辺国に火種をまき散らし、虐殺の限りを尽くしてきた愚帝ルディアスを排除する事を決めた。付いては各国の方々には観光客も含めて全て我が国よりお引き上げ願いたい。
随分勝手な言い分だが騒乱、内戦が起こるのであれば仕方が無い。一週間もあれば一人残らず回収できるし、他国の人間が間に合わなければ他国の人間も共に連れて帰って良いだろう。
暫く前からレミールと皇帝の仲が嫌悪化していることは知っていた。なんでもレミールが文明圏外国の人間と親しくし始めたことに、皇帝が嫌悪感を抱いたらしい。愛情よりも嫌悪が勝り、嫌悪が頂点に達すると興味その物を失う。
あのルディアスらしい在り方だが、結果それが騒乱への引き金を引くことになるとは思わなかったのだろう。
そうして一ヶ月ほどが過ぎた頃。世界のニュースでパーパルディア皇国の騒乱が落ち着き、勝敗はレミールと彼女の従妹セレミア皇女達自称融和派に上がり、皇帝の位から追い落とされたルディアスと一党は公開処刑されたらしい。
そのあたりは野蛮だなと思うも、パーパルディア皇国が次代へと変わった事を示す証として必要だったのかも知れない。やがてそれから暫く、各国の大使館員や観光客。
エストシラントに居を構えていた商人等が戻る頃、すっかり争乱の収まったエストシラントには、あちらこちらに弾痕や、大槌でもぶつけられたのかえぐれた後が見られたが、住民の顔には生気が戻り始めていた。
『これからは北側諸国と共に──』
『日本と──』
聞き慣れない単語を話す彼らに、内戦のショックかとも考えていたが、どうもそうではないらしい。
ではいったい何が原因で住人は何かをブツブツと喋っているのだろう。特に意味が分からなかったのは、他国人の前ではその訳の分からない単語を一切出さないよう国民全体が務めていること。
まるで皇帝の勅命でも受けているかのようで、実に不気味だった。後、大きな事と言えば、近く800艦もある戦列艦を処分していくという。
何をとち狂ったのかと思えば、財政の悪化もその一因にあるようだった。
「確かにこの国は軍事偏重主義だったからな」
周辺国を威圧し、侵略を続け、フィルアデス大陸南部全域を領土とするに至った大国には、軍事費の圧迫という隠れた問題もあったのだ。
「当然と言えば当然か」
そう考えていた。その当時は。
だが違う。やはり違うのだ。今のパーパルディア皇国はパーパルディア皇国であって別の国。
その前兆はあった。この目で見ていた。それは一年前いつもの様にレミールが引き連れていた文明圏外国の、アサダタイジという年の頃は三十前後の男から貢ぎ物としてプレゼントされたという物を、パーパルディアの騒乱前に見たときのこと。
「デンシケイサンキッ!?」
十桁の計算を手の平サイズの物体で可能とし、筐体は薄っぺらい物で軽く、上部には黒いパネルと大きな窓が付いている意味不明な物だった。実際に触らせて貰ったが、確かに十桁の計算が出来た。
更にはこの黒いパネルが電池で光を吸収することで電気に変えているという。こんな物、我が機械先進国の列強第二位であるこのムーですら開発不可能……。
「レ、レミール皇女っ! こ、この様な物どうやって、どこで手に入れたのかっ!」
場所も弁えず大声で怒鳴る私に、レミールも驚いていた。電子腕時計という不思議な時計も見せられたが、こちらもデンシケイサンキ同様原理は不明。
「いったい斯様な魔法を使えばこの様な物を作れるのかお教え願いたいッ!」
レミールの傍に侍るアサダに願い出るも。『困りましたね~』と心底困ったような表情を浮かべるだけで答えを教えてくれなかった。
その後の場は、こちらも大いに焦りだしたレミールの一言で仕切られ解散となったのだが、丁度レミールが毎日のように焦りだし、かと思えば一定期間後には落ち着きを取り戻したのもあの頃だった。
そしてあの退去命令。
あの時起きた内戦期間にパーパルディア皇国内部では何かが起きていたのだ。尋常ならざる何かが。
当然我が国は調べ上げた。真っ正直にして真っ直ぐな我が国なれど、諜報機関くらいは流石にある。そこら中から吸収されてくる情報を纏めると。
どうやらダイニッポン帝国なる文明圏外国と、こちらも神聖ブリタニア帝国なる文明圏外国。さらにエーイーユーなる文明圏外国を中心とした国家連合が、パーパルディアの政変に関与していたらしいことが分かってきた。
信じられないことに、それらの国家連合は遙かなる東の海。世界の果てとさえ呼ばれる程遠い、大東洋に存在するらしくその最も西側にある国がダイニッポン帝国らしかった。その国の最西端の島がエストシラントの1,000㎞東に存在し。そこから100㎞ほど後方には彼の国家連合の一国シーランド王国が存在しているらしい。
待て、待ってくれ。待って欲しい。全く意味が分からない。大東洋は何処までも続く巨大な大海。そこに国家連合が存在しているなど聞いたことも無い。ましてやその遠方の国がパーパルディアの政変に関わり、この国を良き方向へと変えただと?
私は情報を集め精査して、第一外務局に向かいレミール皇女に全てを問い質すべく動いたが。
「レミール皇女殿下は一外交官として見聞を広めるためと、第三文明圏の国々と、大東洋諸国会議に参加されている東の国々を周っている最中にあります。駐日パーパルディア皇国大使館員の一人として。日本の朝田外交官と共に」
出た。ここでも出たダイニッポン帝国の名が。ましてやあのプライドの塊みたいなレミール皇女がそのニッポンの外交官アサダ氏と公私を共にし、男女の関係に至っている可能性が高いという。
平民とパーパルディアの皇女が恋愛関係を築いているだと??! それだけでも驚き物だ。ニッポンとはいったい……。
「エルト殿。そのダイニッポン帝国のことだがお教え願いたい」
意気込んで申し出たところ、以外にもエルト殿はあっさりと教えてくれた。
「まず、ダイニッポン帝国とは大陸共通言語で大日本帝国と書きます。その最西端は海南島といって約30,000km²の島で、皇都エストシラントよりおよそ1,000㎞東に離れたところに存在します。なお本土は更に離れており台湾島を中間点に挟む形で2,000㎞東に離れておりますね。そこから更に本土は北に延び、グラメウス大陸方面に伸びているそうです」
良し! これで地理は知れたぞ。後は!
意気込む私をエルト殿は冷徹に斬り捨てた。
「以上です」
「い、以上、とは?」
「大日本帝国に付いての情報は以上です。これ以上は情報開示が出来ません。彼の国々との約束ですので。まあ、これ以上で話せるとするのならば」
良く見ると気が付いたが、エルト殿の額には緊張からか冷や汗が浮かんでいた。
「シーランド王国ですが、場所は海南島の少し後方の海域ですね。こちらはとても小さな人工島国家なのですが、手を出さないことをおすすめ致します」
小さな、かなり小さな国のようだが、何を恐れているのか?
「続いてAEUは大東洋、日本の南の海域に存在します。かなり大きな国で国内にはドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ポルトガル王国、スペイン王国、イタリア王国、マグレブ王国、ロシア帝国等々、複数の国家を内包した連合国家で。称してAEUと呼ぶそうです。なお国家元首は皇帝陛下。実務は宰相閣下が行っているそうです」
待て待て待て。そんな大きな国が大東洋にあるとは聞いたことが。
「その南にはクウェート王国と呼ばれる小さな国がありますが。こちらには日本の軍隊が駐留して守っているほか、クウェート軍という独自の軍も持つそうです。少数らしいですが強力とのこと」
小国が強力とは先ほども出たばかりだが。いったいどういう意味なのだろうか? まさか小国が列強を滅ぼせる等という冗談でも言いたいのだろうか?
「続いてそこより東、今ではインド洋と呼ばれる様になった海域の東には、インドネシア共和国、インドシナ連邦、ティモール国、パプアニューギニア共和国、フィリピン共和国が広がっております。この内大国はインドネシア共和国で地域のまとめ役らしいです。本来の彼らの盟主の一つである日本が今離れた場所にあるために。インドネシア共和国が纏めているそうです」
出てくる出てくる情報が。しかし余りにも遠くて接触のしようも無い情報ばかりだ。
「続いてその東にナウルという小国が有り、そこから数千㎞東へと進んだところに南ブリタニア大陸という大陸が有り。五つの国が存在します。一つ、ギアナ公国。一つ、エクアドル公国、一つ、ペルー王国、一つ、アラウカニア=パタゴニア王国、そして最後に南ブリタニア諸国のまとめ役アルガルヴェ連合帝国があります。何れの国も強大ですがこちら側からは距離がある為直接は行けません」
それもそうだ。大東洋の更に10,000㎞以上離れた場所。行く手段が無い。我が国の最新鋭旅客機ラ・カオスでも航続距離の問題で不可能だ。
「そして最後にその南ブリタニア大陸の北方、陸続きで存在する大陸国家が存在します。その名を神聖ブリタニア帝国。絶対君主制にして貴族制の国家で大日本帝国と共に2,000年以上の歴史を持つ通称「力のブリタニア」と呼ばれる超大国です。実質これらの大東洋国家群は「技術の日本」「力のブリタニア」「AEU」に率いられた国家群となります」
2,000年?! 2,000年だと?! そ、その様な長き歴史を持つ皇室が存在するはず……それも二国も。ま、まあいい考えたところで仕方が無い。今はパーパルディアが変わったという事実についてのみ探ろう。
「……うーむ。つまり貴国が変われたのは、失礼ながら貴国の腐敗が一掃された影にはこれらの国家群の存在があると」
「はい、断言致しますが、大東洋国家群……いえ、ここまでならば明かしても良いでしょう。北側諸国同盟の力が無ければ我が国は変わる事出来ぬまま、北側諸国同盟によって滅ぼされていたことでしょう」
滅ぼす? 仮にも列強国に数えられるパーパルディアがそのように簡単に滅びるだと。北側諸国とやらにはそれだけの力があるというのか? だが、しかし距離が。
「彼の国々に距離の差など意味がありません。なにせ航続距離が無限の軍艦が数多存在するのですから」
「こ、航続距離が無限ですと?! え、エルト殿ッ、それはどういう……ッ」
「申し訳ありませんが現段階ではここまでしか情報開示は出来ません。現在駐日パーパルディア皇国大使にして一外交官でもあらせられる、レミール皇女殿下がおもちゃをお持ち帰りの処ですので、それを見てからご判断くださいムーゲ様。いえ、丁度我が軍の廃艦処分を本日は皇都エストシラント沖で行う予定。こちらで見えるでしょう」
エルト殿が差し出してきたのは、平たい板。それを二つに割ると、一つにはテレビジョンのような画面が。まさかこれに映像が映し出されるとか言う冗談を言うつもりでは無いでしょうな。
そう思っていると。
ぷちゅん。
映像が映ってしまった。いやいや、ちょっと待ってくれ!
こ、これだけでどれだけの技術の塊か分かっているのかこの女性は!!
「これはノートPCという物なのですが、原理が分からないので解析は出来ません。貴国でも不可能ですよ」
非常にプライドを逆なでされる事を言われるも、私の目はそれどころでは無い物をノートPCとやらの画面に映し出していた。
何でもこれはあちら側と生中継で繋がっているそうだ、それにも驚愕させられたがそれどころでは無い。
「!??」
画面の中に映し出されていたのはラ・カサミと同等の船体はあろうかという巨艦。それも4艦だ。砲口径は小さいようだがそれでもこれは……
更に驚いたのはブーンと重苦しい音を立てて映像の中に飛び込んできた物の存在。間緑の体躯にパーパルディア皇国の紋章が入ったそれが、数十機単位で飛んでおり。
機銃掃射、爆弾の投下など持ちうる手で次々と廃艦という名の戦列艦を沈めていく。ラ・カサミの様な軍艦もドォンっと主砲弾を発射し、戦列艦を処分していく。
ものの十分ほどだろうか? 戦列艦の処分は終わってしまった。
「え、え、え、エルト殿ッ、あの戦艦はッ! あの戦闘機はなんなのです!?」
「北側、正確には日本からただで供与されたおもちゃです。ですがあのゼロ戦という航空機は巡航で600㎞、最高で700㎞の速度が出るそうです。我が国は陸上型・海上型含め600機供与されました」
「な、ななひゃッ!? ろっぴゃッ!?」
マリンの最高速度が380㎞その倍近い速度だと。あり得ん、あり得てはならんことだ。そんな、たかがパーパルディア如きが!
それも600機。もしそれが本当ならば我がムー国はパーパルディアに、パーパルディア如きに負けてしまうぞ?!
「あ、あの戦艦は!?」
もう一つ尋ねておかなければならないことがあった。あの戦艦の性能だ。どこから手に入れたのかも。
「あれは戦艦ではありません。巡洋艦です」
「ばッ、馬鹿なッッ! あれだけの巨体で巡洋艦の筈がッッ」
「いえ、確かに巡洋艦です。ですがあれも北側諸国にとっては紙っぺらだそうです」
自嘲気味で、それでいて爽快に笑うエルト殿。
「あれだけではないのです。他に2,200t級の駆逐艦が16艦と、先日連絡が入りましたが本日あたりでしょうか? レミール様がお土産を持って大日本帝国より一時帰国為されるようなのです」
他にも16艦の近代艦艇らしき物が有るということにも驚いたが。
「お土産?」
「何でも満載排水量76,800tの巨艦4艦と、満載排水量1,300tほどの、戦艦でも無力化できる兵器を搭載したコルベット艦12艦、ゼロ戦よりも強力な戦闘機を1,500機、浮遊航空艦旧式の物ですが全長190m級の物を3艦、我が国の争乱を終わらせたナイトメアフレームという鉄のゴーレム1000騎、これの運搬手段としてVTOLというものを500機、戦車揚陸艦満載排水量17,000の全通甲板を持った艦を4艦。60式主力戦車を1,000両、全て無料で戴きました」
「は、排水量76,800t……ッ!?? 航空機1,500機に空飛ぶ軍艦??!」
もしも見返りを求められたら怖いですねと言うエルト殿が窓の外を指さし、見たことも無い様な高倍率の望遠鏡ならぬ両目で見る双眼鏡を私に貸してくれた。
クリアな視界の中に映るのは1艦の巨大な戦艦。あれと酷似した物を最近本国からの写真で見たことがある。だが、あれではない。あれよりも若干大きいと思われる。
それが視界に4艦、常識がガラガラと音を立てて崩れていくのが分かる。
戦艦の周りに戦車揚陸艦とか言う艦種なのだろう船が4艦、その周りを12艦の小型艦艇が護衛のように付き従い、更に後方には目を疑う巨船が2艦こちらへ進んでくる。
ふとエルト殿を見ると先ほどのノートPCの画面を見て手を振っている。気になり覗き見ると、そこには、ストレートロングに降ろした長い銀髪を風に靡かせながら手を振るレミール皇女のお姿が。
撮影? されているのは後ろの背景に映り込んだ巨大な砲塔から見て、あの巨大戦艦のどれかだと分かった。
元々美しい女性であったが、その美しさに磨きが掛かっている。彼女の心からの微笑みなど見たことが無かった私は、一瞬見惚れてしまう。
だが、そんな場合では無い。遂に視界には伺っていた空飛ぶ戦艦が3艦まで現れたのだから。どうやって飛んでいるのか? その原理は? 全てが何も分からない。
ただ一つだけハッキリした。
「1,500機の航空機は海南島と台湾島から直接飛んでくるそうです。その為に北側諸国より我が国の三大基地と皇都の基地を拡張して頂いておりましたので」
ムー国は列強第二位の座からこの日を以て転落したと言うことだ。
以上です。
日本国召喚原作ではレミールが狼狽するところを、こちらではムーゲ大使が狼狽するといった塩梅です。
(どんな傾向かを知りたいのもありまして
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ミリシアル好き
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ミリシアル嫌い
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グラ・バルカス好き
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グラ・バルカス嫌い
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ロウリアは徹底的にやっちまうべき
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ロウリアにも救いを