OWN MOTIVES
神経接続系(プロテージス)コントロールシステムとは、パイロットの神経と機体を直接つなぐことで反応速度や柔軟性を高めた次世代型の操縦システムだ。機体が受けたダメージはパイロットにも跳ね返ってくる諸刃の剣。最悪の場合ショック死してしまうこともあるらしい。
私はそのシステムとの親和性が高く、誰よりも扱いが上手く、誰よりもダメージが大きいと言われた。もっとも、現在となっては機体の主要箇所にのみそのシステムを利用し、装甲を貫かなければダメージは届かない。
そのシステムを真に生かすためには精密操作を行うことだ。そして親和性が高い私は針の穴に糸を通せるレベルの精密操作性を持っていると自負している。その中から選んだ末のスタイルは超遠距離からの狙撃……スナイパーだ。
“フェイド”の中でも狙撃を嗜んでいるのは私だけ。何故なら、傭兵育成機関“フェイド”の中に狙撃を教えられるレベルの人材がいないからだ。それに最近の機体は機敏で動きが速いため狙撃は静止している相手を狙うのがセオリーなのに狙撃対象が高速で動いている相手に限定されてしまう。相当な腕がなければ当てに行くことは難しいだろう。
『咲良・ランディール、聞こえてますか?』
サポートの女、レイチェルが通信回線越しに話しかけてきた。私たちは基本的に三人一組で行動することを原則としており、アタッカーの私とサポートのレイチェルそしてもう一人のアタッカー、ルガーで行動している。
もちろん全員人型汎用兵器フェーデに搭乗しており、その目的は戦争である。
「聞こえてます。それと、通信越しに話すときは敵に傍受される可能性を考えてコールサインで呼んでください」
『まだ接敵まで時間がある。初戦だからって固くなってはだめよ、ライト1』
レイチェルの言うとおりだ。と、深呼吸して私は息を落ち着けさせる。この三人一組の仕事が私の初めての仕事となる。普通なら最初は一人で護送車襲撃などの簡単な任務を請け負うのだが、フェイドの長ライズベルトの命により三人で敵フェーデの破壊任務となった。前戦で先輩たちが戦い、後方の私たちが先輩たちの撃ち漏らしを片付ける。
言ってしまえば弱った敵との交戦だが、それでも初めての対人戦並びに初めての任務だ。緊張もする。
「ごめんなさいレフト2。緊張してるみたい」
『ライト1、お前は狙撃しているだけでいい。そこまでは俺が通さない』
『レフト1、貴方も少し気張りすぎじゃないかしら。ここにいる三人みんなが対フェーデ戦初経験なのよ。私たちもライト1より少し経験があるだけで毛が生えた程度。大丈夫、教え通りにやれば勝てる』
私はスナイパーライフルの調子を確かめ、射線の開ける高台に身を潜める。そろそろ先輩たちが戦闘を始める頃合いのはずだ。
今では希少になってしまったスナイパーライフル、遠距離からの攻撃は誘導ミサイルのみになってしまった。当てにくく、正面装甲を容易に貫けるような威力は遠距離からだと出しにくいからだ。
そこで登場したのがスナイパーライフルでありながら砲のような大口径を持つ、AtomicValue社のAV-50S。取り回しがしづらく弾の大きさから単発式で発射ごとにリロードが必要となる。普通なら考えもつかない武器。値段は高めだ。
安定射程距離は2㎞、安定射撃距離は当たったら正面でも装甲を貫通・破壊できる威力を持つ威力保障距離であり、安定した狙撃もできるととって差支えない。狙撃主の腕が試されるピーキーな武器だ。
「スターツフルト」
恩師、ライズベルトに与えられた機体の名前を呟く。二年前に戦災孤児として拾われた私は言葉が不自由で、共通言語がわからなかった。もともと私が使っていた言語は日本語というものらしく、国交を断ってからは島が特殊なフィールドに覆われて中がどうなっているか確認できないらしい。近辺を飛んだ飛行機も墜落しているらしく、魔の海域などとも言われているらしい。
生きるための術と言葉を教えてくれたあの人には感謝をしてもしきれない。
スターツフルトは狙撃特化というよりは射撃特化であると言える。標準装備の右腕スナイパーライフル、近接用左腕ガトリング、肩部CIWS(ミサイル迎撃システム)、脚部ハイスピードミサイル、左腕の隠しブレード。狙撃スタイルに合わせたシュナイデンの模倣機体。重量のためホバー移動はできないがホバーのような一時的な浮遊は可能である。もっとも、射撃の衝撃を殺せないホバーは元より狙撃という戦闘スタイルに向いていない。
「あなたの痛みは私の痛みよ」
そして、プロテージスコントロールシステム、PCSを積んだプロテージス機体でもある。PCSの恩恵を受けてこそ始めて正確な狙撃は可能となる。
『来たわよ』
レフト2、レイチェルの言葉と共に三機のフェーデが姿を現した。狙撃用望遠カメラから見る三機は皆、大したダメージを受けてるようには見えない。先輩たちが自分たちを試している。そう確信した。
「真ん中を私が仕留めるわ。レフト1、レフト2は散開した二機を各個撃破して」
右腕の神経接続を最大にすると、感じたのは金属の感触だった。自分の命じるとおりに指が自由に動く。スターツフルトと私の右腕は今や完全に同化していた。
真ん中を狙う理由としては、一番重装甲で動きが鈍そうだったからだ。仲間二人の武装を考えると重装甲にはダメージが通りにくい。よって最優先は重装甲機になるだろう。
「射程距離まで300」
相手は常に一定のスピードで移動している。そしてこちらの弾速、射角から照準を微調整。
じっと息を止め、手の震えを落ち着ける。
「3・2・1……」
射程圏内に入ったその瞬間、私は引き金を引いた。強烈な爆発音とともに、音速を超える大口径弾が重層型のコックピットに向かって一直線の軌道をとるはずだった。
しかし、敵は回避行動を取っていた。いや、違う。かなり前方に大きな岩が道をふさいでいる。回避を取るにはまだ早いはずだが、それでも重装型は偶然にもその軌道を、スナイパーライフルの銃弾の軌道から逸れるようにずらしていた。
重い金属音と共に、重層型の左腕が吹き飛ぶ。
「外したッ!?」
次弾装填し終わったときには敵の機体は木々を縫うようにジグザグな動きをしていた。私のミスで三対三、付け加えるなら経験不足な私たちと疲労してはいるが私たちより経験を積んだ相手が交戦状態に入った。
『おい、このままじゃ三対二で数でも不利になる。ライト1合流しろ』
『違うわ。まだ私たちの存在は知られていないはず。だとすると敵は逃走するかスナイパーを狙ってくる。逃走するにはスナイパーは邪魔だからスナイパーを狙うでしょうね』
「ごめんなさい……私が外したばっかりに」
胴体を狙って狙撃をするが、当たらない。これが実践の厳しさなのかあの三機の実力なのか、それとも私に才能がないのか。距離はもう1000に差し掛かろうとしていた。
『自分の尻拭いは自分でしなさいって先生の言葉、忘れた?』
『俺たちが横から奇襲する。ライト1は回避行動を取った敵を狙撃しろ。次は粗撃じゃなくて狙撃をしろよ』
「ええ、ありがとう」
次弾装填し、私は仲間の奇襲をじっと待つ。敵三機は横に移動しながらも私に対してジグザグに進んできた。そこに横槍が入るのを見逃さない。
敵の三機は横からの銃撃に驚き、散開する。私から見て重装型は斜め右後ろ、残る二機のうち一機は真後ろに、もう一機は奇襲をしてきた二機に距離を詰めるため左手前に。
そこで、真後ろに跳んだ一機に照準を定め、着地地点を予測し、狙撃。ある程度距離が離れているため、あちらにとっては横からの襲撃を避けるために横に揺さぶりをかけたかったのだろうが私から見たら少し的が小さくなっただけで動いているようには見えない。
十字砲火(クロスファイア)は今も昔も使われる戦術だった。
引き金を引くと爆音が聞こえた少し後に、敵フェーデのコックピットに穴が開く。ちょうど中央にスナイパーライフルの口径ほどの穴が開くのがしっかりと見えた。
これが私の最初の人殺しだった。
「一機撃破」
『よくやったライト1。一人一機のノルマ達成だな』
『何よそのノルマ、そんな威力のある武装積んでないわよ』
重装型の機関銃も仲間の連携が途切れた今、脅威ではなかった。ノロノロとした動きで狙撃を躱そうとするが、コツをつかんだ今それは無駄に等しい。
装填が終わると照準を定め、引き金を引く。衝撃が腕に走り、衝撃の余韻も時間が経つと時期に消えていった。