ただそれだけ
「そういうの、よくないと思います!」
リーグ部室にその声が響いたのは、昼休みのことであった。
声の主はブルベリーグ四天王、コーストエリア担当のタロである。彼女はかわいいを追い求め、自然と強くなった経歴を持つ。そのかわいいの求道者たるタロにとってかわいくない出来事があった。
「リーグ部室に昼寝スペースを作るのはツバッさん的にはありだと思うんだがなぁ」
その非難の声に対するは同じくブルベリーグ四天王、ポーラエリア担当のカキツバタである。彼はバトルの腕前は非常に高いながらも、あまりの怠け癖から座学の成績が非常に残念なこととなり、三回も留年した経歴をもつ。そのケッキングのようなアンバランスさを持つカキツバタは不満げな顔をしてタロのほうを向いた
「昼寝スペースといったって、限度があります。部屋の中にキャンプセットなんてありえません」
「いやいや、部屋の中にキャンプセットなんてガラルじゃ当たり前だぜ。この間だってガラルチャンピオンと特別講師のナンジャモがバトルタワーでキャンプ配信してたんだぜ」
「なっ……!?」
カキツバタはスマホロトムでその配信の様子をタロに見せた。
そこには、笑顔でカレーを振る舞うガラルチャンピオンのグローリアと、ドン引きしているナンジャモの様子が映されている。
それは、危険なワイルドエリアで育ったいつでもどこでもキャンプをする戦闘民族ガラル人と、すこし地面が傾いているだけでピクニックができなくなる軟弱なパルデア人との間の大きな溝を表しているかのようにタロは感じた。
なお、ガラルチャンピオンのグローリアはガラル人ではないし、パルデアのチャンピオンランクネモは戦闘民族のような無二のバトル好きである。
形勢有意とみたカキツバタはさらに畳み掛ける。すべてを支配するために。
「それによう、新チャンピオンの出身地であるパルデアにはシエスタっていう文化があるらしいじゃねえか。ただの昼寝じゃねえぜ。シエスタだ。午後に向けて活力を養う高尚なものだ」
「くっ……」
カキツバタの新チャンピオンを盾にした攻撃!
きゅうしょにあたった!
そのときだった。後ろからパチパチと弾ける音が聞こえた。振り返るとプラスルとマイナンが火花のボンボンを出しながら応援しているのが見える。
タロはプラスルとマイナンをかなしませまいともちこたえた
タロは全身にかわいいが満たされていくのを感じた。プラスルとマイナンからかわいいが送られてくるのだ。
ならば照明しなければならない。かわいいが最強ってことを。
「カキツバタ。さきほどはパルデアにシエスタの文化があると言いましたね。確かにその通りです。パルデアにはシエスタの文化があります。しかし、カキツバタには致命的な見落としがあります。それは……」
「……それは?」
「……オレンジアカデミーにはシエスタはないってことです!」
そのときだった。
「美術部でーす」「チャンピオンからの依頼で模様替えをしにきました」「お疲れ様です」「あ、邪魔なので一旦キャンプセット片づけますね」「あ、ここらへんのものも撤去してもいいですか?」「あ、全然大丈夫ですよ」
突然現れた美術部員たちは他のリーグ部員たちと共に次々と模様替えを進めていった。あっけにとられるカキツバタたちをおいて。
「たしかに、部室の模様替えは部長の権限ですからね。最初から新チャンピオンの希望を聞けばよかったです。さぁ、わたしたちも片づけましょうか。まずは、このへんのお菓子を捨てるところからですね」
「ちょっと待って!このお菓子はまだ食べれるから!賞味期限は過ぎてるけどまだ食べるから!」
カキツバタは思い知らされた。この部屋の支配者が誰であるかを。そして……
「見苦しいですよカキツバタ。そういうのよくないと思います!」
かわいいは最強ということを。