年末年始の明城学院。アスカとシンジの二人きりのクリスマス。

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クリスマス短編2023 2人きりの夜に

 

 明城学院に冬が来た。学生達の待ち望んだ冬休みである。

 

 この時期、学生の大半、というかほとんどは実家に帰る。

 

 学生寮に残ることもできるが、そんな事をする生徒はほとんどいない。

 

 むしろ学生寮に残れば、それはそれは寂しいクリスマスと大晦日、正月を迎えるだろう。

 

 そんな物好きはいない。少なくとも、よっぽどの事情がない限り。

 

 それは例えば、実家に戻ると居心地が悪いとか、そんな理由だ。

 

 そして、それに当てはまる人物が2人。

 

 惣流・アスカ・ラングレーと碇シンジ、であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『2人きりの夜に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇシンジ」

 

「ん・・・?なぁにアスカ?」

 

「あんたさ、帰んなくてよかったの?実家にさ」

 

「それ、前にも言ったじゃないか。帰ってもいいんだけど、居心地が悪くてさ。僕はこっちの学生寮でのんびりする方が楽だよ」

 

「ふーん・・・・・・そんなもん?」

 

「うん、そんなもん」

 

 シンジとアスカがいるのは学生寮の食堂だった。冬休みという事で、職員の方々も帰省中である。

 

 自然、残っているのはシンジとアスカだけということになる。

 

 がらんとした食堂。普段は賑やかな食堂も、こうも人気がないと寂しいものがある。

 

 だが、シンジとアスカはこの寂しさを心地よく思っていた。

 

 お互い向かい合って席に座り、シンジは本を読んでいる。アスカがチョイスしてくれたモスグリーンのタートルネックがよく似合う。

 

 反対側の席に座ったままのアスカは、そんなシンジをなんとはなしに見つめる。

 

 心地良い沈黙が辺りを満たしていた。

 

「そういやさ」

 

「うん?」

 

「今週末、クリスマスよね?なんか雪降るらしいわよ?」

 

「え?ここ、東京だよね。珍しくない?」

 

「ホワイトクリスマスだーって、喜ばないわけ?」

 

「あはは。僕、雪国育ちだからさ。雪は珍しくないし、積もったら面倒なんだよね・・・」

 

「情緒のかけらもないわね」

 

 赤い毛糸のセーターに身を包んだアスカは、少しだけつまらなそうに机に突っ伏した。

 

 2人の関係は微妙だ。親友以上、恋人未満。そんな距離感にやきもきする気持ちが無いわけではないが、この距離感が、今の2人にはちょうどいいのだろう。

 

「暇ね。アタシの部屋でゲームでもする?」

 

「寮管さんに怒られちゃうよ」

 

「あんたバカぁ?この寮にアタシ達以外の人間なんていないじゃない。別に咎められないわよ」

 

「ん〜、それもそっか。じゃあもう一杯だけコーヒー飲んだらお邪魔しようかな」

 

「オッケー」

 

 ある意味では悪友。男女で別れた作りとなっている学生寮において、2人は普段からお互いの部屋を行き来していた。慣れたものだった。

 

 2人の関係が始まったのは、入試の合格発表の時。人混みにもみくちゃにされていたアスカをシンジが助けたことがきっかけだった。

 

 そこから同じクラス、隣の席と偶然が重なり、なんだかんだで気が合う事もあって、学生たちの間では「史上最速のカップル」などという噂も上がったりした。

 

 まあ、本人たちにその自覚はないが。

 

 まるで熟年夫婦のような、自然な2人。その様子を周りの人間のほうがヤキモキしながら見てきたが、関係が進展するような事はない。

 

 そんな2人が、初めて2人きりで過ごす冬休み。

 

「アスカはさ、帰らなくていいの?」

 

「んあ?ああ、あんたと理由は一緒。こっちのが気楽だわ」

 

「そう。よかったね」

 

 本に目を通しながらのシンジの曖昧な返事に、アスカはむっとする。

 

 アスカは立ち上がるとシンジの本を乱暴に引ったくった。

 

「あんたね、こんな美少女と2人きりで冬休みを過ごすのよ?もっと感激して涙でも流すのがフツーなんじゃないの?」

 

「いや、でもアスカとは四六時中一緒だし、あんまり特別感はないよ」

 

「はぁあ!?」

 

 そのシンジの何気ない一言が、アスカのハートに火を付けた。

 

「・・・・・・決めたわ」

 

「え?何を?」

 

「あんた!デートをセッティングしなさい!12月24日!クリスマスイブ!」

 

「へ?だってその日は雪が降るかもって・・・・・・」

 

「それでもアタシを楽しませるプランを考えなさい!まだ時間はあるんだから、男でしょ!?」

 

「な、なんだよ、いきなり。別にいいけどさぁ、デートったって何するのさ」

 

「そ!れ!を!あんたが考えんのよ!」

 

「なんだよ、それ。もう勝手なんだから」

 

 シンジも立ち上がり、優しい手つきでアスカに引ったくられた本を取り返す。その仕草を肯定の意ととったアスカは腰に手を当てて満足げだ。

 

「ちゃあんとエスコートできたらご褒美あげる♪」

 

「なんだろ・・・・・・怖いなぁ」

 

「なんでよ!?」

 

 こうしたやり取りを経て、2人はデートの約束を取り付けたのだった。アスカにとっては一世一代の賭け。このデートで、2人の関係を決定づけてしまおうという魂胆があった。

 

 

 

 

 12月23日。デートの前日である。

 

「ごめん・・・・・・ごほ、ごほ」

 

 シンジが風邪をひいた。

 

「・・・・・・この間抜け」

 

「か、返す言葉もございませ、ごほごほ」

 

 39.0度の高熱。もしかしなくてもインフルエンザかもしれない。

 

「節々が痛いんだ。これ多分インフルだよ。アスカも部屋に帰ったほうがいいよ」

 

「バーカ。そうしたらあんた、ご飯どうすんのよ?」

 

「テキトーに何か食べるよ。ゼリーとかでもいいし」

 

「そんなんじゃ治るもんも治らないわ。・・・・・・しょうがない。冷蔵庫、漁るわよ」

 

 アスカは遠慮なく、シンジの部屋にあった冷蔵庫の扉を開けた。たまごと味噌、後は最低限の調味料しかない。

 

 普段は学生寮の食堂で食事をするのだから当たり前だが、それにしても物の少ない冷蔵庫だ。

 

「シンジー」

 

「なにー?」

 

「あんた炊飯器はある?お米は?」

 

「あるよ・・・・・・ってアスカ?もしかして」

 

「たまにはアタシが手料理振る舞ってあげるわよ。まぁ、ものすごく簡単な料理しかできないけどね」

 

 そういって、アスカは米櫃から一合、米を取り出す。それをお釜に入れて水で軽く洗い、炊飯器にセット。

 

 米が炊けるまでの間、アスカは小さな鍋に水を貯めて火にかけた。冷蔵庫から取り出したるは卵を二個と味噌。それと鰹節をひとパック。

 

 お湯がグラグラと沸騰し始めたところで鰹節を投入して弱火に変える。ゆっくり、じっくり、ご飯が炊けるまでの時間を使って出汁を取る。

 

 ピピピーという音とともにご飯が炊けた。アスカは炊飯器からご飯をよそうと、そのまま鍋に米をダイブさせた。

 

「あっつ!」

 

「アスカ!?大丈夫!?」

 

「平気平気!ちょっと、お湯が跳ねただけ」

 

 アスカは軽く負った火傷を気にせず、味噌をお玉ですくって鍋に溶かしていく。ご飯と味噌がいい感じに混ざり合ったところで、卵を割って鍋に投入。それをお玉でかき混ぜていく。

 

 お椀にかるくよそって味見。まあまあ、悪くはないんじゃない?

 

 アスカは出来上がった料理を椀によそうと、音を立てないように静かにシンジのベッドに近付いた。

 

 いつのまにか、シンジは寝ていたらしい。その顔はリンゴのように真っ赤で、熱の辛さを物語っていた。

 

(ほんと、この、間抜け)

 

 アスカは心の中で小さく悪態を付いた。これじゃあ折角のデートが台無しじゃないのよ。

 

 それでもアスカはゆっくりとたまご粥の入ったお椀をベッドの脇に置き、優しい手つきででシンジの額に手を当てる。

 

(これ、熱また上がってんじゃない?)

 

「シンジ」

 

「・・・・・・ん。アスカ?」

 

「起きれる?お粥つくったよ。食べれそう?」

 

「あ・・・・・・ありがとう。いただくね」

 

 そう言って無理に体を起こそうとするシンジを、アスカは両手で優しく押し留めた。

 

「こーら。無理しないで寝てなさい。病人なんだから」

 

「いや、でも折角アスカが作ってくれたんだし」

 

「それくらい、食べさせてあげるわよ。ほら・・・・・・あーん」

 

「あ、あーん」

 

 なんとなく気恥ずかしい気持ちもするが、シンジはアスカの言う通りに口を開けた。

 

 口の中にゆっくりとスプーンが入っていく。たまご粥は、暑すぎず冷めすぎず、ちょうど良い温度でシンジの舌の上に乗った。

 

「ふあ・・・・・・おいしい」

 

「トーゼンでしょ?ほら、あーん」

 

 ゆっくりと、しかし次々と粥がシンジの口に運ばれていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってアスカ・・・」

 

「あん?何よ、美味しくないってーの?」

 

「そうじゃないよ。ただ、もうお腹いっぱいで・・・風邪引いてるからそんなに食欲ないんだよ」

 

「あら、そう。それじゃあしょーがないわね」

 

 アスカは手にしたたまご粥の皿をベッドの横のサイドテーブルに置くと、そのままベッドの横に座り込み、雑誌を手にした。

 

「ありがとう、アスカ。ご馳走様」

 

「どーいたしまして」

 

「あの、アスカ・・・?ここにいると、アスカにインフル移しちゃうから、さ」

 

「別にいいじゃない。移せば」

 

「はぁ!?」

 

 思わず起き上がりそうになるシンジの身体を、アスカが布団にのし掛かることで押し留めた。

 

「あ、アスカ!?」

 

 風邪のせいではない。シンジの顔は恥ずかしさから赤くなっていた。

 

 上に乗ったアスカはイタズラっぽくニカッと笑う。

 

「あんたが風邪ひいたんなら、どーせアタシもどこにも出かけないわよ。年末年始は2人して部屋でゆっくりしてればいいわ。あ、もちろんアタシが風邪ひいたら、シンジがご飯作ってよね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 シンジは呆然としてしまった。この目の前の美少女は、この年末年始で四六時中自分と一緒にいると言う。

 

 デートのセットができなかった後ろめたさと申し訳なさは、いつの間にかシンジの中から消えていた。

 

「わかったよ。お姫様」

 

「よろしい。従僕」

 

「従僕!?」

 

 イタズラっぽく笑ったアスカはそのまま、シンジの上に完全に乗っかってきた。

 

 なんだよ、従僕って。

 

 シンジは思わず彼女を抱きしめてイタズラしたくなる気持ちをグッと抑えると、再び目を瞑った。

 

 シンジの部屋か、アスカの部屋か。それはその時々によるだろうが、お互いの部屋を行き来して過ごす。それだけの年末年始。

 

 それはそれで、とても良いのかもしれない。

 

「健やかなる時も」

 

 突然、シンジの上に乗っていたアスカが小さな声で呟いた。

 

 シンジはふっと笑って「病める時も」と続けた。

 

 アスカはシンジの上で嬉しそうに身を捩らせる。

 

「「真心を尽くす事を誓いますか?」」

 

 2人の声が重なる。そして、2人して満足気に笑った。

 

 時刻は夜の7時30分。

 

 窓の外には、雪がチラつき始めていた。

 

 

 

終劇


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