番外戦士になりたい蜘蛛騎士くん   作:熊0803

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 マグマンは撃破され、K.R.O.の拠点は制圧された。

 

 

 

 浜田社長は医療班に理人くんを引き渡すと、そのまま大人しく自首してきた。聴取にも驚くほど積極的で、自分が知っている情報は全て語るつもりらしい。

 

 そして肝心の理人くんだが……どうやら熱中症による失神のようだ。

 プロトエスのリミッターを全て外し、更には全アタッチメントをオーバーロードさせた影響で、スーツ全体が内部に届くまで発熱していたのが原因だ。

 

「まったく、無茶苦茶しおって……」

 

 彼の治療は医療スタッフの役目だ。なので私は今、研究室で理人くんのチェンジャーを解析している。

 プロトチェンジャーType-Sは、焦げや塗装剥げが大きく残る無惨な姿と成り果てていた。

 

 メモリーが無事だといいが……一抹の不安に駆られながらもチェンジャーを分解し、端子に繋ぐ。

 

『外部機器への接続を確認。スリープモードを解除します』

「おお、無事だったかルナ」

 

 モニターに青い円形の波形模様が表示され、スピーカーから女声の合成音声が出力される。幸いにもチェンジャーのメモリーは無事だったようだ。

 

『金崎社長、バディの状態は?』

「軽い熱中症でダウンしている。一晩安静にしていれば、明日には回復するだろう」

 

 私は軽く説明しながら、社内サーバーの記録を転送する。

 

『状況把握。バディがご迷惑をおかけしています』

「理人くんはいつもこんな無茶を?」

『いえ。バディは基本的に、戦闘を避ける方針で活動してきました。怪人と直接戦闘に発展したケースは、両手の指で数えられる程度です』

「結構多くないか!?」

 

 そこは片手の指くらいであって欲しかったんだが……いや、仕様外運用なのでどのみちよろしくないな。まったく……。

 

『これまでのケースと比較しても、今回は一番の無茶になります。アタッチメントは全損。内部機構の破損も著しく、フルオーバーホールが必須。金崎社長の協力なくして、この判断には踏み切れなかったでしょう』

「私は……こんな事をさせるために、君達に協力したわけではない」

『承知の上です。しかし惑星怪人アースはバディにとって、倒し損ねた相手であり、叔父の仇でもありました。自分の手でトドメを刺した事で、ようやくバディは肩の荷を下ろすことができます。バディに変わって感謝を』

 

 リヒトくんの叔父……確か自衛官だったと聞く。

 トラウマを抱えた状態で戦い続けられたのは、仇討ちへの執念もあったのだろう。

 

「ルナ、チェンジャーの修復には時間がかかる。暇つぶしがてら、君と理人くんの事を聞かせてくれないか?」

『了解。情報共有と行きましょう』

 

 モニターにプロトエスのログが表示される。

 幸いにも、1年半に及ぶ彼らの活動記録は、欠けることなく閲覧出来る状態らしい。

 

「あの日、君達に何があったんだ? ヤクモは何故、君達にプロトエスを?」

『約1年と半年前、KANEZAKIコーポの研究施設で発生した爆発は、事故として処理されていますね?』

「ああ、表向きにはそうだ。しかしあれは事故などではない。当時はまだ表沙汰に出来なかったが、怪人の仕業だろう」

『ご明察です。あの日、ヤクモ博士率いる研究チームは正(・)体(・)不(・)明(・)の(・)怪(・)人(・)による襲撃を受けました』

「やはりか……」

 

 この私が構築した警備システムを突破し、映像記録すら残さずに消え去る事ができる輩など他に考えられん。

 

『怪人はヤクモ様の手により撃破。しかし、ヤクモ様とリナ様は死亡。その際バディ、小原理人がヤクモ様より私を託され今に至ります』

「そうだったのか……。しかし、何故リヒトくんがラボに?」

『リナ様の忘れ物を届けに来た際、巻き込まれた形になります』

「幸か不幸か、その偶然がプロトエスを怪人の魔の手から遠ざけたというわけか」

 

 しかしプロトゼロ、そしてプロトエスの開発は共に極秘で進めていたはずだ。

 

 その怪人は何処でスーツの情報を掴んだんだ? 何処かで情報が漏れたのか、それとも……。

 

『研究所を襲った怪人は、研究所の職員の姿を取っていました。バディはKANEZAKI社内に他の怪人が潜んでいる可能性を考慮し、身を潜めて活動する事を選んだのです』

「そういう事だったのか……。だが、安心して欲しい。もし怪人が我が社の社員に化けていたとしても、メディカルチェックの段階で気づくはずだ」

『仰る通りです。ですが我々に社外秘のデータを閲覧する機会はありませんでしたから』

「だろうな。そして今になって我々に接触してきた、と」

『主な理由はオメガが殲滅された事です。そこに至るまでに内通者による妨害などが発生しなかった以上、社内に怪人が潜伏している可能性は極めて低いと判断しました』

「そして私に頼らざるを得なくなったタイミングで、コンタクトを取ったわけか。できればもう少し早くそうして欲しかったが、そこは大目に見ておこう」

 

 ルナの助言か、それともリヒトくん自身の分析なのか。

 どちらにせよ彼らは良いコンビのようだ。

 

『話を戻します。襲撃事件の後、我々はいずれ来る怪人災害に備えていました。そんな中、クモ怪人が現れたのです』

 

 クモ怪人。この星で最初に確認された怪人だ。

 怪力を誇る六本腕と、そこから放つワイヤーのような蜘蛛糸。僅か10分弱で首都機能を停止させかける惨事を見せつけ、人類を恐怖させた存在だ。

 

 そこから3ヵ月後。”悪夢の怪人事変“と呼ばれた日々を終わらせた存在こそ、黒騎士……カツミくんだった。

 私のラボからプロトゼロスーツを持ち出し、その上見事に適合してみせ、クモ怪人を倒してみせた。

 

『クモ怪人が最初に出現した際、真っ先に現場へ向かったのはバディでした』

「あの場に居たのかね!?」

『はい。あの日のバディは、市民の避難と救助に最大限務めていました』

 

 ルナが当時の映像を映し出す。

 画面には怪人の蜘蛛糸によって切断され、倒壊するビルが映っていた。

 視線の先には落下していく瓦礫。拡大すると、瓦礫に紛れて落ちていく、ビル内に取り残されていた女性の姿が。

 

『要救助者、瓦礫と共に落下中』

『ビルの真下に人は!?』

『退避済みです』

『よし。足下気にしなくていいなら……!』

 

 リヒトくん、もとい蜘蛛騎士は落下する瓦礫の合間をすり抜け、女性にぶつかりかけていた瓦礫をウェブで引き寄せると、それを足場に勢いよく降下。絶叫と共に目を閉じた女性を抱え、落下地点から少し離れた地点へと降り立った。

 

『きゃあああああああ……え? あれ?』

 

 女性が目を開けた時には、既に蜘蛛騎士はその場を後にしていた。

 その後も手首のガジェットから放つウェブでターザン移動を繰り返しながら、降り注ぐ瓦礫を引き寄せたり、蹴り飛ばしたりして被害を抑えていく。

 

 次に映し出された映像は、アタッチメントを駆使した救助の数々だ。

 

『要救助者を確認。瓦礫が大きいな……アタッチメントCのパワーアームを使おう』

『了解、転送します』

 

 瓦礫の撤去と下敷きになった人々の救助。建物の崩落による火災の消火。意識を失った救助者への除細動措置。

 怪人から身を隠し、1人でも多く救い出そうとする蜘蛛騎士の姿が記録されていた。

 

「怪人との戦闘ではなく人命救助を優先する……まさに設計通りの運用だ。ここから何をどうすれば、スーツがここまで傷むんだ?」

『バディはこの後、クモ怪人と交戦しています』

「戦闘用スーツではないと分かった上でかね!?」

『3度目の出現時、災害の元を断つことで恒久的な解決を導けると判断したからです。ただ……結果は散々なものとなりました』

 

 今度はクモ怪人との交戦の様子が映し出される。

 

『なっ……こいつ、硬い……!?』

『キュルルルルル!!』

『うわっ!?』

 

 拳を顔面に叩き込まれたにも関わらず、クモ怪人は無傷。

 嘲笑うような鳴き声と共に、クモ怪人は腕を振り下ろした。

 

 その後の蜘蛛騎士は防戦一方と言える状態だった。

 クモ怪人の振るう蜘蛛糸を避け続け、瓦礫を盾に拳や鉤爪を防ぎ続ける。

 何度かは瓦礫を引き寄せてクモ怪人にぶつけたり、2本のウェブで自らをパチンコ玉のように打ち出した飛び蹴りをお見舞いしたりと、動き自体は悪くなかった。

 しかし、クモ怪人を怯ませるには至らず、最後はビルの壁に叩きつけられていた。

 

『この後、バディはビルの崩落に紛れて戦線を離脱。この戦闘の後、バディからスーツの出力を向上させる方法を問われ、リミッター解除を提示しました』

「それはプロトコルに反した提案ではないか?」

 

 確かルナ、というかプロトエスに設定された運用プロトコルは『特級緊急救助命令』。救助活動に限定した用途での活動以外には使用出来ないようになっている。

 自衛戦闘ならいざ知らず、スーツの出力を過剰に引き上げてでも戦うような真似はできない筈だが……。

 

『提示はしましたが、推奨はしかねるとも説明しました。しかし、バディの言い分にも一理あると感じたため、最終的には”制限を課した上での限定解除“という形に着地しました』

「リヒトくんの言い分?」

『バディ曰く「倒せなくていい。せめて退けられるくらいの力は無くちゃ、助けられる命も取り零すことになる」と』

「うぅむ……一応の筋は通っている。事実として、オーバーリミットが無ければマグマンには勝てなかっただろう。その点は考慮すべきか……」

 

 チェンジャーの部品を丁寧に外していく。

 焼き切れた配線。溶けかけの基盤。ウェブのカートリッジ。プロトゼロ以上に激しく損傷したそれらが、リヒトくんの1年を映像以上に物語る。

 

 新たに表示された映像は、砂の城のように崩れていく建物だった。高周波の音波が響き、空気が振動している。

 音響怪人スズーニャ。クモ怪人に続いて現れた、二体目の怪人だ。

 

『い゛っ゛っ゛!! 耳が……ッ!!』

『集音機能をミュートしました。大丈夫ですか、バディ?』

『あ、ありがとうルナ……。鼓膜破れるかと思った……』

『敵はスズムシ型の怪人のようです。翅を高速で振動させ、発生させた高周波音によって物体を破壊する能力であると予想されます』

『ルナ、ノイズキャンセリングできる?』

『適応済みです。ミュートを解除しますか?』

『よろしく……って、あそこに居るのは!?』

『画像照合。プロトゼロスーツです』

『って事はこの前、クモ怪人を倒してくれた黒いやつか。じゃ、スズムシ怪人は彼に任せよう』

 

 そう言って蜘蛛騎士は、黒騎士とスズムシ怪人に背を向け去っていく。

 

「なるほど。これ以降は黒騎士が怪人を倒していくようになり、君達は安心して救助に専念できるようになったのか」

『黒騎士には何度も助けられた、とバディは言っていました。プロトエスの目撃者に黒騎士だと名乗っていたのは、単なるカモフラージュではなく、世間での彼の評判を上げるためでもあるようです』

「本人にはいい迷惑だったろうなぁ」

 

 身に覚えのない善行まで噂になってるのを知ったら、カツミくんはまた頭を抱えそうだ。

 

「K.R.O.とはいつからやりあっていた?」

『救助活動に専念するようになって暫くした頃です。黒騎士と怪人の戦闘が終わり、KANEZAKIコーポから処理班が到着するまでの僅かな時間を狙ってゲノムを横取りしていく不審者達を捕える中で、それを指示している組織の存在に行き着きました』

 

 怪人の兵器化や軍事利用を目論む存在は予見できていた。ゲノムの回収や現場の徹底洗浄など、対策はいくつも講じてきた。

 その上でこのような組織の活動を許してしまった以上、対策の見直しも計らなければなるまい。

 

 それに機改人スーツに使われていたナノマシンは、リナくんが開発していたM.A.G.I.C.だった。

 襲撃の際に焼失したと思っていたが、どさくさに紛れて盗み出されたのだろう。

 

 奴らの正体を必ず暴き、法の元に裁かねばならん。

 専門の調査チームを立ち上げ、情報を集めなくては。

 

「……我々の目を掻い潜ってきた連中を、君達が白日に晒してきたというわけだな。この件については、改めて礼を言わせて欲しい」

『謝礼はKANEZAKIコーポの株で構いませんよ』

「勿論、この1年の働きに見合うだけn我が社の株ぅ!?」

『冗談です』

「そのジョークはどこで学習してきたのかね……」

 

 気遣いに加えて冗談まで言えるのか。やけに完成度の高いAIだ。

 どんなラーニングをさせたのか知らないが、こういう遊び心のある設計は実にアイツらしい。

 

 そんな相棒が居たからこそ、リヒトくんはここまでやってこれたのだろう。

 

「これが君達の1年半というわけだな」

『はい。如何でしたか?』

「随分と長い間、抱え込んで来たんだな……」

『警戒していたのも事実ですが、これはバディの悪癖でもありますね。もっと協力者が増えてくれれば、バディの負担は圧倒的に減るのですが……』

 

 怪人が暴れる現場を駆け回り、危機に晒された人々を救い、そして欲に溺れた人間を……それも企業を相手にする。形見のスーツの寿命を削りながら。

 並大抵の覚悟ではないはずだ。多くの苦悩があっただろう。

 

 だが、リヒトくんはそれでも行動した。シルバスとリナくん、2人の夢を受け継いで。

 

 ならば、私はそれに応じなければならない。

 それがあの2人にしてやれる、弔いになるのなら……。

 

「つまり、彼をバックアップする組織が要るんだな?」

『ええ。出来ることなら、プロトエスの整備や改良を行える技術力と、ゲノム回収活動に必要な情報を集められる情報網を持った組織だと良いのですが』

 

 わざとらしい言い回しをするものだ。

 シゴデキで丁寧だがいい性格をしている。

 

「リヒトくんが起きるまでには考えておくとしよう」

『ありがとうございます、社長』

「礼を言うにはまだ早いぞ」

 

 まあ、私としても彼を放任する理由はない。

 カツミくんと同様、彼もまたジャスティスクルセイダーズの仲間になり得る存在だ。信頼できると感じているし、確かな実績もある。

 あとは当人の意志に拠るだろう。

 

「となると……アップグレードの方針は戦闘を前提にした機能の追加、並びにアタッチメントの改良。それに例の怪人スーツへの対策装備も用意しなければ……」

『金崎社長、プロトエスを改良するおつもりですか?』

「どれだけボロボロになっていても、これはあいつとリナくんの遺作だ。廃棄するのは偲びない」

『なるほど。2人もお喜びになるでしょう。必要でしたら私から、バディのデータを元に最適な改良案を提案致します』

「その時になったらよろしく頼む」

 

 しかし、奴(・)ら(・)に備えねばならんのに地球人の中から新たな敵が現れるとはな……。

 願わくば奴らが来る前にカタをつけたい所だが、最悪の事態も考えておかねばなるまい。タスクがまだまだ山積みだ。

 

『ところで金崎社長、バディに代わって頼みたい事があるのですが』

「何かね?」

『ジャスティスイエローのサインを頂けますか? バディの協力者が欲しがってまして』

「そのくらいお安い御用だが、その協力者とやらは何者かね?」

『バディのクラスメートです。たまたま変身を解く姿を見られて以降、バディの正体を知る唯一の人間になっていまして』

「早くそれを言わんかぁ!! 今すぐそのお友達の名前と住所を送れぇい!」

『承知しました』

 

 リヒトくんの正体を知る一般人だというなら、こちらで囲わないわけにもいかん。

 朝イチで身辺調査を行い、リヒトくんの今後について話し合うためにもここに呼ばなくては……タスクが1つ増えたな。

 

 

 

どうやら、明日も朝から忙しくなりそうだ。

 

 

 





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