2話『Record 2032』で黒沢ともよさん演じる「猫好きの同級生」(以下、通称「E子さん」)の一人称です。
2023年12月24日に行われた「字書き60分一本勝負企画」(ワンドロ)にまったく間に合わなかったのですが、まあ、あの流れで何も書かないのも申し訳ないので一応書いてはみました。
とはいえ60分では全然書けなくて、書くだけでも120分くらい使ってしまってますので、完全にレギュレーション違反であり、ワンドロになっていません(それでも普段よりは異様に急いで書いたのですが)。アンフェアですが何卒ご容赦ください。
ワンドロのお題は「E子さんのクリスマス」です。
え。ちょっと。マジありえない。
いないじゃん! カタガキくん、来てないじゃん!
わざわざ土曜に研究室に来たってのに。絶対ここにいると思ってたのに。
ていうか、何なの、この部屋。なんでサーバラックにイルミネーションついてんの!? なんで光学実験台にオーナメントが配置されてんの!? 今日って臨時のゼミじゃなかったの?
「ほ〜ら、みんな。ローストチキン焼けたよ〜」
「……
チキンの香ばしい匂いと共に、真っ赤なサンタ服に身を包んだ千古先生が奥の実験室から登場した。似合いすぎてる。悪夢かな。その後ろで、
だいたいさあ、うちの研究室の人達、今日が何の日かわかってるわけ?
12月24日だよ。24日。しかも、土曜の午後。
そんな日にゼミとかありえないって思ったけど、研究室でクリパはもっとありえない。どんだけみんなぼっちなわけ!?
——そう、今日はさすがに研究室に来てるかなって思ったんだよね。
だってさ、やっぱ。今日くらいは、さ。
会って、話とかしたいじゃん。
なのに、来てない。壁の名札は裏返ったままだ。
「……てかさー、今日ってゼミじゃなかったっけ」
紙皿に割り箸で、元はケーキだったらしい何かをつついてる同期の一人に、聞いてみる。
「いやー、俺もそう思ってたけど、来たらこれだし」
「ふーん。……てかカタガキくんとか来てなくない?」
なんとなく早口になった。
「あー。……まあ、わりといつも来てねーし」
それはそうなんだけどさ。もしかして、まーた倒れてたりしないよね。それとも、誰かと一緒に……いやいやいや、それはない。それは絶対ない。ない……はず。うん。ないね!
カタガキくんはいない。ゼミもない。そして今日は12月24日、土曜日だ。なんか、めっちゃバカみたいじゃん。
そうと決まったら、もうここに用はない。結局バッグも置かずコートも脱がずに、千古サンタがずだ袋から電子部品をみんなにばら撒いてる隙に、そっと退散した。滞在時間40秒。どうせあと三ヶ月で卒業だし、千古研にそこまでの忠誠心はないかなあ。
* * *
うん。そう。何はともあれ、ヤタにクリスマスプレゼントをあげないとねってことで。それが目的。
そんで、まあ、せっかくだし? 激混みケンタッキーは諦めてセブンでチキン二本と、あと
ふふ。やば。なんかちょっと楽しくなってきちゃった。ゼミで会うよか全然いいじゃん。むしろめっちゃラッキーじゃん、これって。
だってさ、やっぱ。今日くらいは、さ。
このくらいしたっていいよね。
* * *
もうすっかり日が落ちた西の空を見ると、細い三日月が懸かってた。アパートの前で、いつもの窓をそっと確認して、カーテン越しの灯りにちょっとほっとする。底冷えする廊下で、両手にはずっしり重いビニール袋、頭にはサンタ帽。
コンコン、とノックを二回。
少し待つ。
いち早く気づいたヤタの、にゃあ、という声が聴こえて、思わず頬がにんまりと緩む。ありがと、ヤタ。こんなささやかな幸せを味わわせてくれて。
でも。
うれしいけど、そうじゃないんだ。そのために来たんじゃない。
事情は知らないけど、いっつもバカみたいに必死にベンキョして。この世に幸せなことなんて何もない、みたいな思い詰めた顔して。
それでもさ、やっぱ。今日くらいは、さ。
カタガキくんにも少しでも、ごく普通の幸せを味わってほしいんだ。
……そのくらいしか、できることがないから。
ね、今日くらいはちょっとだけ、幸せになってみなよ、バーカ。
足音に続いて、がちゃりとドアが開く。驚いた顔がそこに立っている。
さ、テンション上げてくよ。
「カタガキくんっ。やっほ。メリークリスマース!」
【あとがき】
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・クリスマスっていうとどうしても似たような話になりますが、「課題曲」と思って心の平安を保っています。ヒネリもオチもありません。
・一通り書いた後、TLで「千古サンタ」「サンタコスE子さん」を見かけました。まあ、自分の想像力はその程度ということで、一応知らずに書いていたのでご容赦を。
・月世界のナオミを絡めてもう少し複雑な話にしたい気持ちもあったのですが、ワンドロ(になってませんが)的に無理でした。この検討だけでも1時間くらい使ってしまってました。
・過去作(https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=326198)とは違う世界線です。彼女は千古研にいて、千古研は吉田キャンパスにあります。たぶんB世界です。彼女の性格も少し違いますね。百万遍、いろいろあってありがたい。
・このワンドロは企画も参加も完全に想定外で、完全にその場の勢いの産物です。自分でも驚いていますが、多少速く書く練習にはなったかもしれません。
Pixivにも同時投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21262513
PDF・EPUBダウンロードはこちら:
https://a-out.booth.pm/items/8163259
(参考)今回のワンドロの他のエントリー作品を、把握している範囲で紹介します(発表順)。
・井守千尋さん:https://twitter.com/igami_tefly/status/1738866839105753322
・沖黍州さん:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21257785
・ゆりさん:https://twitter.com/riyulloo8/status/1738879929503424957
・なる10さん:https://twitter.com/naru_t_o/status/1739659967270174865