2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「おはよう………?…………ああ、そうかそうだ。……みんな、まだ寝てるか」
まだ日も昇らないうちに目を醒ましたギャレス・ウィーズリーは、そこが我が家の自室のベッドではない事に束の間戸惑った後、そういえば数日前からホグワーツの新年度が始まってたんだった、と寝ぼけた脳に情報を刻み直した。
「んん…………???」
グリフィンドール寮の男子寝室、見慣れた内装、いつものルームメイトの見慣れた寝顔。それらを見渡したいギャレスはベッドの縁に手を置き、右手3本で体を支えると左手も何本か使ってベッドから起き上がる。
「んーーー??????」
見慣れたグリフィンドール寮の見慣れた寝室の風景。そのどこからこれ程の違和感が湧いてくるのかと暫し考えたギャレスは、視界が360°あるのはおかしいという事にやっと気づいて自分の頭部を両手で触ろうとし、同時に動かそうとした左手5本がぶつかり合うのも普通ありえないと思い至った。―僕はどうなってる?
「手首をちょっと動かすだけなら、問題無い………ね」
数秒苦労した末、杖を取り出す事に成功したギャレスは明らかに昨日より重量が増している身体をどうにか両足で支えると、ベッドの傍の自分のトランクケースの上に折り畳まれた羊皮紙を見つけてそれを手に取り、談話室へと降りていく。
「おや、もう起きてたのかいナツァイ、クレシダ。おはよう」
「「おはようギャレス」」
ギャレスと同じグリフィンドールの7年生、一足先に起きて談話室へと降りてきていた2人の女子ナツァイ・オナイとクレシダ・ブルームは、ピッタリ揃って挨拶を返した後、そのまま硬直した。
「………今日はまた、随分ごきげんね、ギャレス…………」
「今度は何に失敗したの?……何、違うの?自分の身体で実験したわけでもない?」
身振りで無実を訴えたギャレスが杖で操ってよこした羊皮紙をナツァイが開き、クレシダが横から覗き込む。そこには、予想通りの内容が記されていた―ギャレスの身に起きた異変が本人の薬に依るものでないなら、犯人は1人しか居ないのだ。
”僕の新作だよ!後で感想聴かせてね♥♥”
「あのおバカ………」
そのヘタクソな筆跡が誰のものなのかを良く知っているナツァイとクレシダは、同情的な視線でギャレスを見つめ、その身体を改めてよくよく観察した。
「………アイガイオンね」
クレシダが呆れて呟く。ナツァイが何度数え直しても間違いなく、現在ギャレスの身体には頭が50、腕が100本あった。
「ほー。こりゃすごいや」
談話室の壁に飾られている肖像画の中の御婦人に鏡を見させて貰いながら、ギャレスは自分の身体を興味深げに観察していた。
「………普通、もうちょっと取り乱すもんなんじゃないの?」
ゆったりとソファに腰を降ろしたギャレスを見て、ナツァイが呆れ半分に感心した。
そんなグリフィンドールの談話室の外、そこへの出入り口である「太った婦人」の大きな肖像画の前に、1人の生徒が来ていた。
「アナタはどこのどなたで、ご要件は何?」
グリフィンドール生に対応する時よりも少々よそよそしい態度の「太った婦人」が訊ねる。
「レイブンクローの7年生、ヘクター・フォーリーです。友人のギャレス・ウィーズリーくんに、魔法薬学の課題について相談したくて来ました。提出期限と僕の手際から逆算すると、進捗は順調ではありません。通行を、許していただけませんか」
「太った婦人」はヘクターを見て、溜め息をついてから言った。
「合言葉は?」
「『中国火の玉種』………ありがとうございます、マダム」
そうして「太った婦人」に道を開けてもらい、グリフィンドールの談話室へと辿り着いたヘクター・フォーリーの目に飛び込んできたのは、驚愕の光景だった。
「おや、おはようヘクター。どうしたんだい?」
ギャレス・ウィーズリーの50ある頭が一斉に笑顔になり、その中の1つがヘクターに挨拶した。
「どうしたって…………どうしたんだお前の方こそ………」
右手を10本ほどヒラヒラと振りつつ別の手で杖を振って魔法薬作りの道具一式と材料を準備しているギャレスを見つめたまま、ヘクターはポカンと口を開けて硬直している。
そんなヘクターにクレシダが例の羊皮紙を渡し、その内容をひと目見て全てを理解したヘクターは、ギリギリと眉間にシワを寄せてそれを睨みつける。
「すぐにアイツを連れてくるよ。今ちょうどレイブンクローの談話室でオリバンダーくんの仕事ぶりを皆で見せてもらってるんだ。そこにアイツも居る………お説教が必要だね」
そう言うなり踵を返して今入って来たばかりの談話室から出ていったヘクターの背中を見届けると、ギャレスはクスクス笑いながら言った。
「ヘクターも、結構面白いヤツだよね。生真面目なのは良い事だけどさ」
「なんでそんな平然としてられるのよ………」
「慌てれば解決するってんなら慌てるさ。けど、そうじゃないだろう?」
50ある頭をそれぞれに動かし、100ある腕の内いくらかを持て余しながらも、ギャレスはいたって落ち着いていた。「アグアメンティ」と唱えて大鍋に水を注ぐと、材料を吟味し始める。
「ねえナツァイ」
「な、なんでしょうか………」
ギャレスと特に親しい友人のひとりであるはずのナツァイ・オナイは、ちょっと怯えていた。
「これって『双子呪文』の応用だよね?」
たくさんの腕をわさわさと動かしながらそう訊ねたギャレスの姿を改めて観察してみれば、確かにその推察は正鵠を射ているだろうとナツァイにも思えたが、「では解毒薬にはどういう材料を用いるのがよいか」は、ナツァイには検討もつかない。
しかし、ギャレス・ウィーズリーは違った。
「不死鳥の涙とすり潰したベゾアール石を混ぜるって手もあるけど、それじゃつまんないしな」
ギャレス・ウィーズリーは大鍋の前に立ち、楽しそうに笑っている。
「えーと、『父親の骨、知らぬ間に、与えられん……』いやアレは駄目だ。僕には召使いも仇敵も居ないし、父さんが寝てる間に骨をちょっと貰ったりしたら、起きた時ビックリするだろうし。それにたぶんアレ美味しくない。あんなイカれた薬作るやつの気が知れないよ」
頭を振ったギャレスは数秒の沈黙の後に考えを纏めたらしく、本格的に作業を開始した。
「妖精の羽を3………いや4枚。で、朝露を、こんなもんかな」
大鍋の中身を入念に撹拌したギャレスは、ここで初めて大鍋の下に設えた台に点火した。
「バラの種が確かまだ残ってたよね……ハービヴィカス!……よし。花びら7枚有ればいいから、残りの2輪は、はい。クレシダとナツァイにあげる」
ニッコリ笑ったギャレスはそう言って、呪文で出現させた真っ赤なバラを2人に手渡す。
「え、あ。ありがとう………」
「まあ、貰っとくわ……ありがとギャレス」
困惑しつつも嬉しそうなグリフィンドールの女子2人の表情はしかし、他ならぬギャレスの行動に依って直ぐに一変する。
「で、すりおろしたハゴロモグサと、赤ワインとオリーブオイル」
「急に何してんの????」
ボトル2本の中身を大鍋にドボドボ投入したギャレスを見て、クレシダが声を上げた。
「ここから少々煮込むー、あ。そうだ唐辛子と粒胡椒もちょっと入れよう。牛肉あったっけ……」
「ホントに何してんの????」
そして何本かの左手といくつかの頭で大鍋を世話しながら、ギャレスはナツァイの目を見つめる。
「ねえナツァイ、ナツァイの唾液が欲しいんだけど、いいかい?」
「急に何言い出すの?????」
ナツァイは頬を染めて戸惑い、クレシダは警戒を露わにしてスッと杖をギャレスに向ける。
「意図を説明しなよ。意図を。じゃなきゃギャレス、様子のおかしい奴よ」
ギャレスの視線を遮るようにナツァイの前に進み出たクレシダが問いただす。
「「ああいや、必須じゃないから嫌ならいいんだけどね。アニメーガスの唾液が薬の効果をより高めると思うんだ。で、オナイ先生のところまで行く余裕は今ちょっと無いから」」
ギャレスの頭の内2つがそう言い、クレシダはナツァイを見つめる。ナツァイがぐるぐるぐねぐねと身悶えして悩み葛藤している間も、ギャレスは50の頭と100の腕でいくつもの作業を同時並行して薬を作り続けていた。
「ギャレス、むこう向いててくれる………?」
すごく小さな声でそれだけ言ったナツァイに、厳しい現実を突きつけたのはクレシダだった。
「今のギャレスに『見ちゃいけないものを見ないように視線逸らす』なんて、不可能よ」
「………!!!」
ギャレスの50ある頭がおよそ全ての方向への視界を確保している事にそう言われて初めて気づいたナツァイは、ますます小さな声になってクレシダに「ちょっと隠して……」と懇願する。
「よっし牛肉焼けた。タマネギとブボチューバーの膿を入れて………反時計回りに4回撹拌」
その大鍋の中身の色が次から次へと変化し続けているのはどうやら想定通りの事らしく、ギャレスの頭のうち12ほどがそれを見てうんうんと頷いている。
「でまたちょっと煮込む―あ、やあリアンダー。おはよう」
そこで寝室から談話室に出てきたリアンダー・プルウェットは見慣れたいくつものギャレスの顔に微笑まれ、暇している左手4本をヒラヒラと振りつつ挨拶されて、持っていた本を床に落とした。
「ギャレスお前………とうとう……」
友人の変化を受け入れるべく心を整えているらしいリアンダーを見ながらクスクス笑っているクレシダの後ろから進み出たナツァイが、真っ赤になった顔を逸らしながらギャレスに小瓶を渡す。
「ありがとうナツァイ。大切に使うよ」
「………ーー~@h(&%Д°###??!!!!!」
ギャレスにお礼を言われた事で遂に爆ぜてしまったナツァイは談話室の隅まで逃げていき、ソファに飛び込んだきり動かなくなってしまった。
「ナツァイは、どうしたんだ?」
「そっとしといてあげてリアンダー」
クレシダが友人を気遣ったその時、まだ朝早いグリフィンドールの談話室に何人もの生徒たちが連れ立って入ってきた。
「来い!」
「ゴメンナシャイ………」
ヘクター・フォーリーに首根っこ掴まれて連行されてきたその7年生の女生徒を囲んでいる同級生の友人たちと、その間をかき分けて最前列に出てきた小さな1年生の男の子は、変わり果てたギャレスの姿を見て唖然とする。……1人を除いて。
「あー!僕のヘカトンケイル薬ちゃんと効いてる!やっったぁ!!」
一気に元気になった女生徒はギャレスの傍に駆け寄る。
「ねえねえどうだいギャレス!便利?便利?」
「ちゃんと作用する確証が無いものをギャレスに飲ませたのか?!何考えてるんだきみは!」
ヘクターに叱りつけられた女生徒は、ビクゥ!と竦み上がった。
厳しい表情で大きな声を出したヘクターと同じ顔をして自分を見ている同級生たちにも睨まれて再び萎んでしまったその女生徒に、当のギャレスだけがいつも通りの気軽な笑顔で声をかける。
「トマト持ってるよね?少しわけてもらえるかな?」
「ナンニツカウノ……?」
「ん。味付けだよ」
「アルヨ……」
女生徒が服のポケットから「呼び寄せ」た大ぶりなトマトを受け取るギャレスの傍に、ハッフルパフの7年生サチャリッサ・タグウッドが寄ってくる。
「………ドクツルヘビの皮は?そろそろ入れなきゃいけない頃合いよね?」
大鍋の中身を一瞥しただけでギャレスのプランを理解したらしいサチャリッサはそのままスルリと作業に加わり、ギャレスの腕の1本に渡された蛇の脱け殻を手際良く刻み、タイミングを見て大鍋に投入する。そして、それによって大鍋の中の液体の色が変化する頻度が劇的に早くなったのを確認したギャレスがサチャリッサに笑いかけた。
「ありがとうサチャリッサ。助かるよ」
大鍋に艶やかな白い毛を数本投入したギャレスが言う。
「私だっていつも散々アナタを助手扱いしてるんだから、お互い様よ」
そう言いつつ微笑むサチャリッサは、ギャレスがカットしたトマトを投入した直後その大鍋に杖を向け、なにやら呪文を唱え始めた。
「一体何をしてるんです、ウィーズリー先輩?」
大鍋の傍まで来てそう声をかけたダンブルドア少年に、ギャレスはいくつかの頭と手で対応する。
「僕は今見ての通り。で、こうなった原因の薬の、解毒薬を作ってるんだよ」
「そうは………見えませんが………」
ダンブルドア少年のすぐ目の前では、サチャリッサが大鍋にカットしたジャガイモと生姜を投入していた。
「魔法薬を別の飲み物や食べ物に混入して服用するのはよくある事。で、ギャレスは『じゃあ最初から魔法薬入りスープを作ろう』って考えたのよ。普通そんな事したら薬効がダメになっちゃって単に美味しくない汁ができるか、それか毒を作るかだけど。ほら、ギャレスはギャレスだから」
テキパキと手を動かしながらそう言ったサチャリッサは、そのギャレスに声をかける。
「ねえ、寝室に行かなきゃいけないでしょ?今のうちに行ってきたら?私が鍋を見ておくから」
そう言われて即サチャリッサに礼を言って寝室へ消えて行ったギャレスが残した大鍋とそれを世話するサチャリッサを、スリザリンのセバスチャン・サロウも見つめていた。
「つくづく、よくそんな器用な事ができるよな、きみもギャレスも……オリジナルの薬なんてさ」
「アナタが決闘強いのと一緒よ?セバスチャン。『好きだから』。どういう効果が欲しいのかを整理して、材料を吟味して。レシピを思い浮かべて。それで狙い通りの出来栄えなら最高!」
サチャリッサは大鍋をかき混ぜる。
「そして、もし。まるっきり予想外の結果になったら、それは―」
「「「もっと最高!!」」」
サチャリッサとその横の今回の発端である女生徒、そして寝室から戻ってきたギャレスの3人が声を重ね、ずっと厳しい顔をしていたヘクターまでもがとうとう笑顔になった。
「……敵わないよ。ホントに」
そしてサチャリッサは大鍋の世話をギャレスと交代し、未だソファに臥しているナツァイの傍に寄っていき、声をかける。
「ねえナティ、アナタの唾液が欲しいんだけど。いいかしら?」
「急に何言い出すんです?????」
大困惑しているダンブルドア少年をよそに、ギャレスが「もう貰ったよ」と小瓶を示すとサチャリッサは、「ああそうなの。ありがとナティ」とだけ言って大鍋の傍に戻っていく。
そしてナツァイはソファの上でより一層ギュッと身を縮め、耳も首も真っ赤に染めて小刻みに震え始めた。
「寝室に何を取りに行ってたんですか?」
「僕の髪の毛だよ。……こうなるより前のね。ベッドに1本くらい落ちてると思ってね」
ダンブルドア少年の疑問にそう答えたギャレスは懐から取り出した小瓶にその「こうなるより前の僕の髪の毛」をもう一度よく確認してから投入し、小瓶の中の液体の色が変わったのを見て、それを大鍋に注ぎ入れた。
「『本人の髪入りポリジュース薬』の次はアニメーガスの……もうちょっと煮込むべきねこれは」
「うん。もう少し反応が激しくなってくるはずだよ」
「ねえねえ僕もやりたい」
「じゃあ人参の端っこ食べるかい?」
「食べる!!あ、そうだグラップホーンの角の粉末も入れる?」
「そうね。でも………」
「うん。ほんのちょっとで良いね…しょうがねえ量るか……メンドクセ」
いつも目分量で材料を投入しているその女生徒も、今回のように誰かと一緒に新作のレシピを確立させる際だけはちゃんと真鍮の秤で計量するのだった。
「普段からちゃんと量るべきよ。目分量で失敗しないのなんてギャレスとアナタだけなんだから」
当然の忠告をしつつも2人を褒めたサチャリッサは大鍋の中身を注意深く観察し撹拌する向きを逆回しに変更する。ギャレスは50の頭と100の腕を存分に活用してもう1つ大鍋を用意しそちらにも水やら刻んだ野菜やら投入しており、その2人の間ではニッコリ笑顔の女生徒が人参を齧りながら変な色の肉に指先を向け「ディフィンド」と何度も唱えサイコロ状にカットしている。
「ドラゴンの肉を何に使うつもりだアイツら………??」
魔法薬学の成績上位3名による共同作業をグリフィンドールの談話室に集った全員が呆気にとられて眺め続ける。3人に次ぐ成績のマルフォイは先程からなにやらブツブツ言いつつずっと羊皮紙にメモを取り続けており、その隣のオミニスは杖の先を赤く光らせながら嬉しそうに微笑んでいる。
「タッカー先輩タッカー先輩」
ダンブルドア少年は、アミット・タッカーの服の裾を引っ張る。
「ん。なんだい?」
「ドラゴンの肉って食べてもいいんですか?」
「たぶんね。ドラゴンの肉は外傷の痛みを軽減する貼り薬として使えるんだけど、まあ……火を通すだろうし…………あ。生で食べたよあのおバカ」
アミットとダンブルドア少年が見つめる先では、女生徒が大鍋を見つつ変な色の肉を一切れ口に入れたのをサチャリッサが見咎めて注意している。
「サッちゃんサッちゃん、舌がピリピリしてきたよ」
ドラゴンの肉をくっちゃくっちゃ噛みながら女生徒が言う。
「そりゃあそうでしょうよ。吐き出せって言いたいところだけど、今ちょっと好奇心が勝ったからそのままよく噛んで飲み込みなさい。そして詳細を報告してほしいわ」
「ウッス………」
女生徒は難しい表情になって、覚悟を決めるのに数秒使った。
そして女生徒がドラゴンの肉を飲み込むのと同時に、ナツァイが提供した小瓶の中身を大鍋に入れて注意深く撹拌していたギャレスが手を止めて、大きな声を出した。
「よーし、完成!」
グリフィンドールの談話室に居る全員が、わらわらと2つ並んだ大鍋の傍に寄ってくる。
「これは何が………完成したんだい………???……ギャレス…、サチャリッサ………」
2つ並んだ大鍋の片方、野菜とお肉がゴロゴロ入った虹色のスープが次から次へとどんどんその色を変え続けているのを見つめながら、ヘクターは天文学の授業でシャー先生に「コラプサー」なる理論上の天体についての難解極まる説明をされた時と同じ表情をしている。
「僕のこれの……なんだっけ」
「『ヘカトンケイル薬』!ヘカトンケイル薬と言います!!かっこいい名前だろう!!」
女生徒がギャレスに大きな声で主張する。
「そうそれ。それの『解毒薬入りスープ』。でこっちは普通のスープ。みんなどうせまたパンだけで朝ごはん済ませようとしてるんだろう?だめだよ野菜も摂らなきゃ」
普通の色をしている方のスープを、女生徒がいつの間にやら取り出した人数分の深皿にサチャリッサが取り分けていく。そしてただ1人ギャレスだけは、虹色の方のスープを深皿によそった。
「さ、て。ちょっとお話しようか」
宙に浮遊させたまま放置されていたジャガイモの皮や芽を食べ始めた女生徒に、ギャレスが言う。
「なあに?ギャレスも食べる?美味しいよ?」
ジャガイモは皮にも芽にも毒があるからやめたほうがいいというポピー・スウィーティングの指摘は、女生徒の心には響かない。なにせここに集う皆は魔法使いで、魔法に加えてウィゲンウェルド薬という強い味方もいるのだから。
「なんで僕にこの薬を飲ませたのか、教えて欲しいな?」
お肉や野菜がゴロゴロ入ったスープをおかわりしながら団欒し始めた友人たちをよそに、虹色のスープを手に持ったギャレスは、残りの99本の腕を蠢かせつつ50ある顔の内、女生徒の方を向いている全ての頭で女生徒をジッと見つめニッコリと笑う。しかしその笑顔が放つ迫力とピリッとした雰囲気に、当のジャガイモの芽と皮を食べ尽くした女生徒だけが気づいていなかった。
「えっとね、あのね。ギャレスいっつもすごくいろんな薬作ってるから、手と頭がいっぱいあったらもっと色々作れるようになるかなあー、って思ってさ!」
「それは、理由の半分だろう?」
「………『ギャレスをビックリさせてやるぜウヘヘヘヘヘひゅーんドカーン!!』って思って」
「………、………。『ひゅーんドカーン!!』って思ったのかい?」
「うん!」
サチャリッサもマルフォイも、アミットもリアンダーもセバスチャンも、オミニスもスープに舌鼓を打ちながらクスクス笑っている。一方でダンブルドア少年とポピーとヘクターはみるみる厳しい表情になっていく。
「アナタねえ―」
お説教が必要だと考えたポピーを制止したのは、他ならぬギャレスだった。
「いいんだよポピー。それにみんなも。僕のためにありがとね。だけど、コイツはいっぱい褒めてのびのび育てるべきだって、一昨年みんなで話し合ったろう?それにさ」
やっと不穏な雰囲気に気づいてオドオドしだしたその女生徒を、ギャレスは撫でた。
「「「「………ぅふふっふふふ……!!あっはははは!!!」」」
発言を中断し複数の頭で笑い始めたギャレスを、ポピーとヘクターは呆気にとられて見つめる。
「どうしたんですウィーズリー先輩」
「―ははは!!……いやあ、こんな身体じゃきみを抱きしめてあげることもできないな、って思ったらちょっと面白くなっちゃってね。大真面目にそう思ってる僕と『絵本の怪物みたいな台詞だ』とか思ってる僕が頭の中でケンカしてるんだ今」
スープを食べ終えたオミニスが、そう言ったギャレスの傍に寄ってくる。
「ねえ。今のもっかい言ってくれないかな。思いっきりカッコよく」
「ん?いいよオミニス。……あ、きみじゃなくてコイツに?わかった」
オミニスのリクエストに答えて、ギャレスは100ある腕のいくつかを女生徒の顔に添えた。
「こんな身体じゃ、きみを抱きしめてあげることもできないね………」
過剰なまでにカッコイイ表情と声を作ってそう言ったギャレスに、談話室のみんなが笑わされる。
しかし、ただ1人。それを最も至近距離でくらった当の女生徒だけは違った。
「………うぅ゙ぅ゙えぇ゙えぇぇ~~……ごめ゙ん゙ね゙ギャレズぅーー!!!」
滂沱の涙を流し始めたその女生徒を、ギャレス・ウィーズリーは末の妹を見守る時と同じ穏やかな笑顔で見つめている。
2本の右手でそんな女生徒の頭を撫でながら、ギャレスは別の手に持った虹色のスープを、女生徒に優しく語りかけているのとは別の頭で食べ始めた。
「どう?ギャレス」とサチャリッサが真剣な顔で訊く。
「美味しいよサチャリッサ」
ギャレスのその答えを聴いた瞬間、サチャリッサがグッと小さく拳を握り締めて喜びを発散したのを、ダンブルドア少年は目撃した。
「味なんですね気になるのは……」
自分とその7年生たちのあまりの技能の差に感心を通り越して呆れているダンブルドア少年が察した通り、サチャリッサもギャレスも号泣している女生徒も、作った薬スープの効能については想定通りだという確信を持っており、それ故に一切話題にしていなかった。
「もうちょっとお肉入れてもよかったかしら」
「そうだねー。そうすると生姜とドクツルヘビの皮もちょっと量を変えないとねぇ」
「撹拌する回数とタイミングも調節する事になるわよね」
その時、ずっとソファに顔を伏せて羞恥に打ち震えていたナツァイが突如グワッと起き上がり、ズルズルと歩いてギャレスの目の前まで来た。
「ど、どうしたのナティ……?」とサチャリッサが恐る恐る訊く。
まだものすごいお顔をしているナツァイは、ギャレスを見ている。
「………ちゃんときくのよね、それ」
「すぐにハッキリするよ。それは」
とてもとても恥ずかしい思いをして提供した材料が含まれている以上は「効く」と断言してほしい、というナツァイの心根を察せないギャレスではなかったが、それでも魔法薬学に対する姿勢と信条だけは翻すわけにはいかなかった。
そして虹色のスープを1人前完食したギャレスの身体に、変化が訪れる。
ギャレスの50ある頭と100ある腕の全てがてんでんばらばらに蠢き始め、全ての目が左右別々にぐるぐると動き続けるの見て、「うおぉ………」とマルフォイが思わず声を漏らした。
ギャレスの腕は次から次へとポロリポロリとこぼれ落ちて床に散らばり、頭も次々落ちてゴロゴロと絨毯の上を転がる。
数十秒後には、左右1本ずつの腕でひとつしか無い頭をペタペタ触っている、元通りの姿のギャレス・ウィーズリーがそこに居た。
「じゃあ、僕らはそろそろ失礼するよ。さあみんな、ガーリック先生に会いに行こう!」
「それはいい考えだね!」
49居るギャレスの生首たちはそんな会話をしながら床を転がり、98本のギャレスの腕も慣れた動きで床を這い、ぞろぞろとグリフィンドールの談話室から出ていった。
「ふう。よーし戻ったぞ」
ギャレスは大きく息を吐き出す。
「今度ガーリック先生に、何か美味しいものをプレゼントしてさしあげるべきよね………?」
「そうだな……朝一番に見る光景としちゃかなり刺激的な部類だ」
ポピーとセバスチャンがお互いの顔を見合わせている隣で、サチャリッサの服の裾を泣き止んだらしい女生徒が引っ張っている。
「サッちゃん、サッちゃん」
「何、どうしたの?」
「おなかいたい」
案の定の報告を受けたサチャリッサはすぐに女生徒の面倒を見始め、ギャレスは両肩をぐるぐる動かして身軽さを堪能している。そんな光景を見ながら、ダンブルドア少年は1人だけずーっと上機嫌なオミニス先輩に話しかけていた。
「楽しそうですねオミニス先輩。……あの、もしよろしければ理由をお伺いしても?」
「んー?幸せを噛み締めてるのさ」
嘔吐した女生徒にサチャリッサが薬を飲ませ、ポピーがお説教し、マルフォイは絨毯に杖を向けてキレイにする。アミットとヘクターは大鍋からスープを再度おかわりしつつ、隣の大鍋の虹色のスープを観察している。リアンダーはソファに座って自分のペースで食事をしながら、ギャレスに魔法薬学の宿題の相談をする。そんな賑やかでいつも通りのグリフィンドールの談話室で嬉しそうに笑っているオミニスの顔を、窓から差し込み始めた朝日が照らしていた。
「そうですか………あの、そう言えばオミニス先輩」
ダンブルドア少年は、ずっと気になっていた事を勇気を出して質問した。
「オミニス先輩って、ファミリーネームは何なんですか?」
周囲の7年生の先輩方が皆ほんの僅かにピクリと反応したのが、ダンブルドア少年にはわかった。
「あそっか、そりゃあ聞いたことないよね。みんな俺の事ファーストネームで呼んでくれるし」
当の本人であるオミニスだけが、まったりと寛いだまま笑っている。
「いい機会だしちゃんと自己紹介しとこうか。俺の名前は、オミニス・ゴーント」
ダンブルドア少年の、表情が凍った。
「そう。その『ゴーント』だよ。俺の親も兄弟も、マグルに『磔』かけるのが好きでね―」
オミニスの赤裸々な身の上話をそのまま最後まで聴いたダンブルドア少年が涙を流しながら謝るのを、他ならぬオミニス・ゴーントは優しく微笑みかけながらいつまでも受け止めていた。
【コラプサー】
この話の38年後にマグルの天文学者スブラマニアン・チャンドラセカールが
理論的計算で「実在する」と示した事で「空想上の概念」ではなくなり
さらに40年ほど後にアメリカで「ブラックホール」という新しい名前を貰う。
【ヘカトンケイル】
ギリシャ神話に出てくる頭50腕100の巨人。
「そこまでじゃなくてよくない?」ってくらいハチャメチャに強い。
3人兄弟で、アイガイオンはその内の1人。
※「ヘカトンケイル薬」は、もちろん私の妄想なので誤解なきよう。
公式設定にはそんなもん無いよ。
※この話書いてる間しばらく、ギャレスに飲ませる(公式設定に無い)レガ主の薬
どんなのにしようか2択で悩んでいましたが、ボツにした方が次話でチラッと
登場します。………R15タグつけてるし大丈夫でしょたぶん……。
ごめんねギャレス迷惑かけるね(予告)