2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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20.道無き未知を啓く

 ホグワーツの生徒たちにその事が広く周知されたのは、常に誰かが見ててあげなきゃいけない方の首席が1年生をひとり攫ってパリへと出発してしまった直後の事だった。

 マホウトコロから交換留学生が来る。それも今日。

 その情報は瞬く間に全ての生徒の耳に届き、ホグワーツ中がその話で持ちきりになった。

「え、ギャレス知ってたの?」

「うん。だって僕『交換留学でマホウトコロに行かないか』ってマチルダおばさんに夏休み中持ちかけられたからね。おばさんたぶん冗談で誘ったんだろうし、見ての通り断ったけどね」

 ナツァイ・オナイとそんな会話をしながら、ギャレスはマグル学の授業を右から左に聞き流していた。マグル学は「なんで魔法使えないのにマグルは社会を維持して生きていけてるんだ?」という主題に挑む学問であり、ギャレスにとっては「なんでそんなわかりきった事ばかり訊くんだ」と言いたくなる退屈な科目だった。ならばなぜこの授業を選択しているのかと問われれば「職業選択の幅が広がるから」という実利優先の単純な解答になる。現にギャレスのマグル学の成績は優秀そのもので、他の生徒とトップ争いを常にしているほどだった。

 一方、当のマグル生まれの生徒の一部は「魔法使いがマグルをどのように見ているのか」を学べるとても興味深く有意義な分野だと捉えてこの授業に熱心に取り組む者も少数ながら居た。

 

 一心不乱に先生の発言をノートに書き取っているレイブンクローのマヘンドラ・ペルワーンもそんな熱心なマグル生まれの1人だった。

「そんな面白いかい、この授業」

 ギャレスが小声で訊き、マヘンドラは「もちろんさ」と返す。

「魔法族とマグルの違いは『魔法が使えるかどうか』だけだ。……こんな事言ったらスリザリンの奴らがご機嫌斜めになりそうだけど。魔法族の方が賢いなんて事は無いし、逆にマグルの方が賢いなんて事も無い。だからさ、魔法族がやらかした失敗はマグルもいつか必ずやるし、逆も然りだ………マグルについて理解を深めるって事は、自分たち魔法族についての理解を深めるって事にもなると思うよ。だから、むしろ古い純血家系の人間こそマグル学を履修するべきで、もしそうなれば大いに有意義な学びがある、と。思うんだけどな」

 マヘンドラとギャレスの私語を遮りもせず聞いていたマグル学の先生は、自分が受け持つ7年生たちの顔を眺めている。そこに居る中でマヘンドラの言う「古い純血家系」に当てはまるのは3人。ギャレス・ウィーズリーとスリザリンのマルフォイ、そしてオミニス・ゴーントだけだった。これでも例年より3人も多いのだから、マグル学という科目は純血家系出身のホグワーツ生にとって、決して魅力的な選択肢だとは看做されていないと言えるだろう。

 

「父上の前ではこんな事口が裂けても言えんが」とマルフォイが口を開く。

「魔法族とマグルの違いが『魔法が使えるか否か』だけだというのは事実そのとおりだ。マグルの中にも『血統』を重んじる奴らは居る。『王族』を自負する奴らも居る。……血統を重んじるあまり自ら滅び果てた『貴き血の一族』もな」

 マルフォイは、隣に座る友人を見ている。先生もその生徒を見ている。

 

「スペイン王カルロス2世ね。彼、他人とは思えないな」

 

 オミニス・ゴーントが静かに語り始める。

「兄たちや、父も母もだね。ゴーント家以外の人間に対して腹を立てた時によく言うんだよ。まあそもそもあの人達はいつだって機嫌が悪いんだけど……『お前なんかよりよっぽど純血だ』って。確かにそれはそうだ。マルフォイよりも、ノットよりもレストレンジよりもブルストロードよりも他の純血を標榜するどの家よりも、俺のほうが純血だろう。そしてだからこそ俺は目が見えない。俺にはオナイ先生のような才能は無いけれど、これだけは断言できる。確実にそうなると『予言』できる。ゴーント家は、遠からず滅びるだろう。他でもない『誰よりも純血』であるが故に」

 まあ滅びるだろうね、とギャレスが気軽に言う。

「でもゴーントの奴らが『純血』にあれほどまでこだわってたからこそ、僕はきみに会えたんだよね、オミニス。きみという人間を僕らに齎してくれたという一点だけは僕、『ゴーント』に感謝しなきゃいけないよね。………ゴーントに感謝だなんて喉から糞爆弾が出そうだけど」

 マルフォイはこのギャレスの発言に内心かなり動揺させられていた。―なんてこっ恥ずかしいことを平然と言うんだコイツは。

 

「昔は『ああ目が見えなくてよかった』って思った事もあるんだ。けど俺、ノクチュアおばさんの顔も、君たちの顔も知らないんだよね。今更目が見えるようになっても困るけどさ、それでもちょっとは思うよ、ギャレス。君の顔、見てみたい」

 オミニスのその言葉を受けて、ギャレスはいつもどおりの気軽な笑顔で言う。

「そりゃお互いさまだろう。僕だって目の見えない君に世界がどんなふうに『見えてるのか』って思った事、1度や2度じゃない。………今この場にアイツが居なくてよかったね、オミニス」

 

 ギャレスにそう返されたオミニスも、マルフォイもマヘンドラも、マグル学の授業を共に受けている他の7年生たちも皆、ギャレスの言わんとしている事を察して笑う。

「確かにね。アイツが今の話聞いてたら絶対『見えるようにしてあげるからね!』って言いながら泣くんだろうな。………目に浮かぶよ」

 オミニスが嬉しそうにそう言った後で、マグル学の先生が教室全体に向けて確認する。

 

「……非常に興味深いお話をありがとう。授業を続けて構いませんね?」

 はい、先生。と全員の声が揃った。

 

「君たちは『ディリコール』って魔法生物を知っていますね?ホーウィン先生の授業で既に習っている筈ですし、あの困った子が飼育している個体と触れ合った事もありますね?」

 マグル学と魔法史と魔法生物学の座学は、取り扱う内容が被る事が時々あった。魔法族の歴史とマグルの歩みは表裏一体であり、魔法生物の生態研究や保護の歩みを学ぶ上で「ヒトの歴史」は無視できない。そして、そういう場合、普段あまり生徒たちが心躍らせない「座学」は、いつもよりいくらか面白い授業になるのだった。ホグワーツ唯一のゴーストの教師であるカスバート・ビンズ先生が受け持つ魔法史はまた事情が少し異なるが。

「『ディリコール』について、ここがマグル学の教室であるという事もふまえて説明してくれる者は誰か………よろしい。ではミス・デール。お願いしますね?」

 先生に指名されて、サマンサ・デールが記憶から参照して喋り始める。

 

「ディリコールは、嘗てマグルが『ドードー鳥』と呼んでいた自在に『姿くらまし』する事ができる魔法生物です。しかしマグルはこの事実を知らず、自分たちが乱獲したせいで『ドードー鳥』が1681年の目撃報告を最後に絶滅してしまったものだと信じています。また各国魔法省並びに国際魔法使い連盟はこの誤解を『マグルが野生動物の保護に関する認識を改めるいい機会』だとして今日まであえて、自分たちはディリコールと呼びマグルはドードーと呼んでいたこの鳥が、本当は『絶滅などしていない』という真相をマグルから隠しています」

 

 サマンサ・デールのその回答を肯定して5点を与えた先生は、次の質問を投げかける。

「素晴らしいですよミス・デール。では『オオウミガラス』という生き物について説明できる者は居ますか?オオウミガラスがどのようにしてその姿を消したのか。誰か答えられますか?」

 

 ただ1人手を挙げたのは、ギャレス・ウィーズリーだった。

「オオウミガラスは北極圏からスカンジナビア半島、及びイギリスと、北大西洋の広範囲に棲息していた大して珍しくもない非魔法の飛べない鳥です。飛べないにもかかわらず別に地上で俊敏というわけでもないため、卵や脂を欲した者たちによって狩猟対象とされて次第にその数を減らしていきました。そしてマグルたちが『減っている』と気づいた時には絶滅寸前であり、同時期にマグルの生物学者たちは『由々しき事態』に気づきました。あまりにもありふれた生き物だったので、だれもわざわざそんなどこにでもいくらでも居る生き物のサンプルを保存しておこうと思わなかったらしく、マトモな標本がどこにも無かった。絶滅してしまっては標本など作りようがないですし、マグルの生物学者たちにとって精巧な標本はその生き物の研究に欠かせないものです。なので学者たちは人を雇って大急ぎでオオウミガラスの個体を確保し標本を作るべく動き始めました。そして、他ならぬこの事が決定打となって今から48年前の1844年にオオウミガラスは絶滅しました」

 

「そのとおりです。ギャレス・ウィーズリー。グリフィンドールにも5点をさしあげます。インセンディオ、ラカーナム・インフラマリ、ルーモス、ルーモス・マキシマ。火を熾すにしろ明かりを確保するにしろ、我ら魔法族は魔法を使います。しかしマグルはそうは行きません。ガスや油はある意味では、限定的ですが『魔法力』の代替品と言えるでしょう。夜の街を照らすのに、火を灯すのに必要不可欠なのです。そしてその一部は、動物の脂を使用しています。その内の1つがオオウミガラスの脂でした。クジラやアザラシなどもターゲットにされていますね。悪い事だとは言えません。生活のために必要なのですから」

 マルフォイもマヘンドラも、難しい顔で聴き入っている。

「そしてオオウミガラスが絶滅寸前になると、数多く居た頃は無に等しかったオオウミガラスの標本の需要と市場価値が跳ね上がりました。一攫千金を狙う者たちが、数少なくなったオオウミガラスを狩ります。1844年6月。最後に見つかったオオウミガラス2羽は即刻殺され、残った卵は割れていたそうです。さて。この一連の出来事の当事者ではないと自らを定義する我らから見て、これは愚行に思えるでしょう。ここで、皆さんに最後の質問です。『魔法族は同じ過ちを犯さない』と、断言できますか?」

 

 誰も、何も言わない。マグル学の教室に集う、「防衛術」などの人気科目と比して決して多くはない人数の7年生たちは皆、マグル生まれも純血家系出身者も等しく眉間にシワを寄せて深く考え込んでいた。彼ら彼女らの共通の友人である1人の生徒が日常的に「掃除」しているにも関わらずその数を減らす兆しすら見えない密猟者たちと、それを容赦なく殺戮する時のあの7年生の恐ろしさを、全員が思い浮かべていた。

 

「あの子はきっと、卒業するまでに森から密猟者を駆逐してしまうでしょう。ですが、それは根本的な解決にはならないでしょう。なぜなら別の場所で密猟をするだけでしょうから。取締りや警備の強化はもちろん必要ですが『なぜ密猟をするのか』という問いに対して常に一定割合ある回答『他に生きる術を知らない』という深刻な問題に目を向けなければ、密猟者を減らす事などできません。これはマグルと魔法族に共通する問題です。………そうする他に最低限の生活環境を確保する術が無ければ、善人も法を犯すのです。そして善人は悪人になり、最終的にはあの子のような者に『掃除』されます。そうならない為に必要なのが『社会福祉』ですね。生活困窮者に『社会』が救いの手を差し伸べる。では次はこれについて学びましょう。かつてエリザベス1世は―」

 

 そしてまた滔々と話し始めたマグル学の先生の目の前で、ギャレス・ウィーズリーとオミニス・ゴーントは急激に襲ってきた眠気に耐えていた。同じ話題でも談話室などで友人たちと集まって話せばきっと楽しく有意義だろうに、授業だと何故こうも眠くなるのかというのが、彼らの常々からの疑問だった。

 

「オミニス、起きろオミニス。授業終わったぞ」

 

 マルフォイにゆすり起こされて、オミニス・ゴーントはぼんやりと杖を手に取ってマグル学の教科書等々をしまい、友人たちと共に次の「闇の魔術に対する防衛術」の教室へと向かう。

 そこで待っていたヘキャット先生の隣には、見知らぬ2人の生徒が立っていた。

 

「お、来たね。ほら、この子たちがホグワーツで一番優秀な7年生たちだよ。最も、その筆頭はパリに出かけたから今居ないけどね」

 その2人に大雑把な紹介をしたヘキャット先生に、ギャレス・ウィーズリーが訊く。

「その2人が例の『交換留学生』ですねヘキャット先生?」

「そうだよ。予定より早く到着したんで、授業を見学してもらおうって事になってね」

 ギャレスはマホウトコロの制服なのだと思われる見慣れない民族衣装を着た2人に、いつもの気軽な笑顔で寄っていく。

 

「『こんにちは。僕はギャレス。ギャレス・ウィーズリー。よろしくね』……合ってた?」

 

 まさか日本語を話せる生徒が居るとは思っていなかったマホウトコロからの交換留学生2人は驚いた後、表情が明るくなり喜びと安心が全身から立ち昇ってくる。

「こっちがミスター・シマヅ。でこっちがミス・リュウサキ。……ほら、授業を始めるよ!」

 ヘキャット先生はさらっと紹介を済ませると杖を取り出し、皆にも杖を取り出すように促す。

「さ。せっかくマホウトコロからお越しの2人が見てるんだ。ちょっと難しい事やろうかね。ディメンター、そしてレシフォールド。これらに対抗するための唯一の呪文が何か、知ってるね?」

 手を挙げたポピー・スウィーティングが指名されて発言する。

 

「守護霊呪文です。この呪文は最高の幸福感で心を満たした時にのみ効果を発揮し、ディメンターやレシフォールドに対しては通常、この呪文以外の対抗手段がありません」

 

 そのとおり、と肯定したヘキャット先生は、ハッフルパフに5点を与えて説明を引き継ぐ。

 

「守護霊呪文は、本来ホグワーツで教える呪文じゃない。理由は単純。難しすぎるからだ。守護霊呪文を満足に行使できるなら、否、実体を伴うしっかりとした形を持った守護霊でなくその前段階、霧か煙か蒸気かといった不定形の守護霊でも出現させられるなら、それだけでソイツは『特に強力な魔法使い』だと言えるだろう。……今私、もしかしなくても自画自賛したね?こりゃ失敬」

 7年生の生徒たちは笑い、マホウトコロからの交換留学生2人は一瞬遅れてヘキャット先生の言葉の意味を理解したらしく、お互い見つめ合いながら戸惑っている。

「ミス・スウィーティングが説明してくれた通り、この呪文は『最高の幸福感で心を満たした時にのみ』効果を発揮する。これだけでもう難しさがわかるだろう?1片たりとも負の感情があっちゃいけないんだ。とりあえずまあ、見本を見せなきゃね―エクスペクト・パトローナム!」

 

 ヘキャット先生ならできて当然だと思っていた7年生たちも、度肝を抜かれた。

 魔法生物が守護霊だというのがどれほど珍しい事なのかを知っていたから。

 

 大きく腕を回して呪文を唱えたヘキャット先生の杖の先から吹き出た白く光る濃い霧のようなものはドラゴンの姿を象って吼えるような動作をした後、ほどけて消えた。

 そのドラゴンの種類までもわかるような気がして、7年生たちは天井を見上げる。

 

「…………お見事でした、ヘキャット先生。随分大きな、守護霊。ですね……」

 

 レイブンクローのアミットだけが、どうにか褒め言葉を紡ぐだけの落ち着きを保っていた。

「私が言っても説得力無いかもしれないけど、守護霊が如何な生き物なのかと、その守護霊の強さは全く無関係だと証明されているよ。魔法省の記録に残ってる中じゃ………『イリーウス』って魔法使いについて、私の代わりに誰か説明してくれる者は居るかい?」

 手を挙げた数人の中からヘキャット先生に指名されて、グリフィンドールのルーカン・ブラトルビーが眉間にシワを寄せて必死で脳の引き出しを開けながら口を開く。―どうやら、まさか自分が指名されるとは思っていなかったらしい。ルーカンに救いを求めるような視線を向けられたレイブンクローのヘクター・フォーリーは「知ってるはずだぞ」と口の形で伝えて笑う。

 

「えぇーー~……っと。イリリュ?じゃない。イリーウスは、えーっと。ある村の孤児だった。で、その村はある時から、ある闇の魔法使いに脅かされていて、その魔法使いがとんでもない数の吸魂鬼を伴っていた為に、その村では成人した奴と既に成人してる奴に片っ端から守護霊の呪文を教えてた。で、なんだっけ。ああ成人したんだイリーウスが。でイリーウスも守護霊呪文を習って、見事に成功させたんだけど、イリーウスの守護霊が小さなネズミだった事で誰もが彼を笑った。そして村の長老はイリーウスに『2度とその呪文を使うな』と指示した。まあ村の恥だとでも思ったんだろう。この事から考えるに、村の誰もが守護霊呪文を使えたわけではなかったんだろうけど、村には常に、その闇の魔法使いの吸魂鬼たちに対抗できる程度の数の守護霊が居た」

 

 ルーカン・ブラトルビーはまた、不安そうにヘクター・フォーリーを見る。

 

「で、その闇の魔法使いがある村娘に目をつけて『あの娘をよこせ。さもなきゃ吸魂鬼だぞ』って脅した。けど村人たちは要求を拒否した。すごい。守護霊がネズミじゃ役に立たないだろうと思われたイリーウスは――たぶん本人が生来から内気な性格だったのもあって―その村娘と一緒に引っ込んでいるように指示された。で。案の定、とんでもない数の吸魂鬼が村に押し寄せてきた」

 ヘクター・フォーリーが「合ってるぞ」とルーカンに表情で伝えている。

「で、村人たちは当然守護霊呪文で対抗するんだけど、いくらなんでも吸魂鬼の数が多すぎた。村人は倒れる。守護霊は次々消えていく。その光景を見ていた村娘に要請されて、イリーウスは勇気を振り絞って守護霊呪文を唱えた。そして、そして…………吸魂鬼は撃退された。1匹残らず。イリーウスは村の英雄になった。今じゃホグワーツに肖像画がある」

 

 ルーカン・ブラトルビーは尚も自信なさげにヘキャット先生を見ている。

「そんな顔しなくたって、それで合ってるよ。ミスター・ブラトルビー。5点やろう。そうさ。小さなネズミの守護霊がたった1匹で、恐ろしい数の吸魂鬼を退けた。じゃあその『闇の魔法使い』ラジディアンがどうなったかを、ミスター・フォーリー。説明してくれるかい?」

 ヘキャット先生に指名されたヘクター・フォーリーは、落ち着いて口を開く。

 

「ラジディアンは、イリーウスのちっぽけなネズミが自分の吸魂鬼たちを尽く撃退せしめたのを見て腹を立てて、自分も守護霊呪文を使おうとしました。しかしラジディアンは忘れていました。若しくはそもそも知らなかったのかもしれない。心清きものだけが守護霊を呼び出せるという事を。そして、『闇の魔法使いが邪な精神で守護霊呪文を唱えるとどうなるか』が魔法史上初めて明らかになった……ラジディアンは自分の杖の先から吹き出てきた夥しい数の蛆虫に全身を食い尽くされて滅びた。そんな目で見ないでよセバスチャン。2年前ならともかく、今の君なら大丈夫さ」

 

 ヘクター・フォーリーにも5点を与えたヘキャット先生は生徒たちに杖を出すように促す。

「あんたたちはどうだい? 守護霊呪文使えるのかい?」

 ヘキャット先生に急に話を振られたマホウトコロからの交換留学生2人は揃って首を横に振る。

「そうかい。じゃ、あんたたちも杖を出しな。せっかく居るんだ。一緒に練習しよう」

 その言葉に、交換留学生2人の内の女の子の方が慌てて口を開く。

「ウチら3年生やで? できるわけあらへんやないのそんなクソむつかしい呪文!」

 地方の訛りが全面に出た日本語だったにも関わらず、すんなりと聞き取ったらしいヘキャット先生は流暢な日本語で返答する。

 

「できるかどうかはやってみなきゃわかんないだろう?それに、あんたの先祖がどんな奴だろうが、それとあんたとは関係が無いさ。だろう? ミスター・シマヅ」

 話を振られたマホウトコロの男の子は、首を縦に振る。

 

「わっざいわるこっぼじゃっどん、おどもんでんけしんぼでんなか!」

 

 未知との遭遇にちょっと目を白黒させたヘキャット先生はしかし、その男の子が言わんとしている事は察して「あんたはイイヤツだって、この子も言ってくれてるよ?」と17世紀のとある不届き者を先祖に持つミス・リュウサキに微笑みかける。

「先生、今のわかったんか……? ウチらの間でもわからんて言うやつめっちゃおんのに……」

「言いたい事はわかるさ。あんただってそうだろう?」

 そしてヘキャット先生は「ほら、杖を構えて!」と教室全体に呼びかける。

「守護霊呪文を唱えるのに必要なのは『幸福感で心を満たす事』! お前さんたちが思う『最高に幸せな光景』をハッキリとイメージしな! 過去の思い出でもいいし、空想でもいい! とにかく最高の幸福感で心の中を満たすんだ…………さあ、始めた始めた!」

 

 そして「エクスペクト・パトローナム」と唱える声が教室中を満たし始め、皆杖の先から煙とも霧ともつかないものをささやかに噴出し始める。

 

「…………お前、一体何を想像してるんだレストレンジ」

「べっ、別になんだって良いだろ!」

 

 あまりにもだらしなくとろけた表情をしていたやたら美人のスリザリン生レストレンジにマルフォイが訊き、レストレンジは耳まで真っ赤になって慌てる。

 そんなやりとりを嬉しそうな表情で聴いていたオミニスもまた、杖を構えた。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 オミニスの杖から現れた白く光る霧のようなものは大きな蛇の姿を象って、オミニスを守るようにその長い胴体で取り囲み、空中を這うように揺蕩っている。

「素晴らしい! スリザリンに30点!」

 ヘキャット先生が称賛するが、当のオミニスは複雑そうな顔をしている。

「オリバンダーくんに要請されて杖を試した時に薄々気づいてたけど。……もしかしなくても、やっぱり蛇か。まあ、そんな気はしてたさ…………」

 否定しようがどうしようが俺がゴーント家の人間なのは事実だなどと考え始めたオミニスに声をかけたのは、ポピー・スウィーティングだった。

 

「やっぱりすごい! 前見た時も思ったけど!それアナタにピッタリじゃないオミニス!!」

「……それはどういう意味だい、ポピー」

 声色に不穏なものが混じっているオミニスに、しかしポピーは大喜びで言う。

 

「だってニシキヘビって毒もないしすごく温厚なんだよ! それにカッコいい! それって正にアナタの事じゃないオミニス!」

 思わぬ褒め言葉を受けて柔らかい表情になりながら戸惑うオミニスを激賞しているポピーの、そのすぐ隣で苦戦しているナツァイ・オナイに、順番に生徒たちの様子を見回っていてちょうど傍に来たヘキャット先生が声をかける。

 

「なんだい、お前さんらしくもない。ディメンターが目の前に迫ってる時に学校の言いつけなんて気にしなくていいんだよ。ほら。一番やりやすい方法でやってみな」

 

 そう言われたナツァイ・オナイが杖をしまうのを見たマホウトコロからの交換留学生2人は目を丸くしている。ナツァイの周囲の友人たちも、練習は続けながらも意識はナツァイに向けている。

 

 最も幸福な記憶を思い浮かべろと言われて、ナツァイが思い起こすのはいつも同じ光景だった。

 

(さて、何が出るかね)

 ナツァイ・オナイが成功する事を全く疑っていないヘキャット先生は、守護霊呪文に関するひとつの「仮説」をかつて同僚だったエリエザー・フィグ教授に聞かされた時の事を思い出していた。

 

「その話、信用できるのかい?サンプルが少なすぎやしないかい、エリエザー?」

 2人のホグワーツの教授は、授業が終わったばかりの魔法理論の教室で話をしていた。

「仰る通り。あくまで仮説だ。しかし個人的には一定の信憑性があると思うね」

 そう言いながらフィグ先生はヘキャット先生にクッキーを勧める。

「『動物もどきが変身した姿と守護霊呪文で呼び出す生き物は基本的に同じ動物』だって?」

 フィグ先生の手作りだというそのクッキーの美味しさに内心驚きながら、ダイナ・ヘキャットは訊き返す。その仮説は少し前まで神秘部に勤めていたヘキャット先生にとっても、真とも偽とも判断のつかない難解な問題提起だった。

 

「私が気になるのはここからなんだ、ダイナ。仮にこの説が正しかったとして、守護霊呪文にはもうひとつ、こちらは仮説ではなく実在の現象だという証拠がいくつもあるが、興味深い点がある。それは、人によっては、極稀にだが『守護霊が変化する』という事象が報告されているんだ。他ならぬ不変の愛によってね。『運命の人に出会った』とかそういう理由だ」

 ヘキャット先生はフィグ先生の言いたいことを察して、2人とも相手の目は見つつも同じように考え込みながら会話を続けている。

「アニメーガスが何に変身するのかが、どういう基準で決まっているのかは不明だ。そして守護霊呪文で現れる生き物も、どういう基準で決まっているのか不明だ。しかしどちらについても一般には『精神の深い部分』を参照しているのだろうと言われている。仮にこの2つが同じプロセスで決定されるとして。1人の魔法使いがアニメーガスとして変身する先と守護霊呪文で呼び出す生き物が基本的に同じだ、という仮説が事実に即していたとして。そのアニメーガスが、他ならぬ『不変の愛』によって守護霊を変化させた場合、アニメーガスとして変身する生き物もまた同じように変化するのか?これが、気になるんだ。自分で確かめるには年を取りすぎた……」

 フィグ先生が言い、ヘキャット先生が続く。

「それか『守護霊と動物もどきとしての変身先が異なる』という事例が起こりうるのか。確かにちょっと興味あるね。でも単に『別に動物もどきの変身先と守護霊は常に同じ動物とは限らない』というだけの可能性も――」

 ヘキャット先生はそこまで言って、対面の同僚を見つめる。

「もちろんあるとも。ひとつの因果関係も無いかもしれない」と言って、フィグ先生は笑った。

 

「ところで随分美味しいじゃないかこのクッキー。どこのだい」

「妻に習ったレシピさ。また今度教えるよ」

 

 ヘキャット先生が守護霊呪文を使う時に思い出すのはいつもそのような、親しい友人との他愛もない会話だった。そして今、他ならぬヘキャット先生の教室で、かつて亡き同僚が興味を持っていた「仮説」に、ひとつの実例が示されようとしている。

 

 ナツァイ・オナイは自分が動物もどきになったばかりの頃の事を思い浮かべている。父と母と共にサバンナを駆け、自分だけ変身を解いて父の長く逞しい首に飛びついた時の事を。

 その力強さも暖かさも、美しさも顔に当たる熱い風も全て、全てハッキリと思い出せた。

 そして、ナツァイ・オナイは杖どころか腕を振る事すら無く、祈るように両手を組んだまま目を閉じ、ただ静かに呪文を唱えた。

 

「エクスペクト・パトローナム……」

 

 ナツァイ・オナイが目を開けると、白く輝く霧は立派なキリンの姿を象り、ナツァイの顔を覗き込んでいた。そしてナツァイと目が合うとその守護霊は顔を上げ、悠然と教室内を歩く。

 

「そうだ、素晴らしいよミス・オナイ! グリフィンドールにも30点!」

 ヘキャット先生がそう言って労う一方、7年生たちはその友人の異変に気づいた。

「ちょっと、どうしたのよナティ」

 キリンの姿の守護霊が消えると同時に泣き崩れてしまったナツァイを見てサチャリッサが戸惑いながらも慰めようとしている横で、ギャレスはナツァイに正面から歩み寄り、末の妹を寝かしつける時と同じ優しい微笑みで、ただ一言声をかけた。

 

「………きっと、褒めてくれるさ。そうだろう?ナツァイ」

 ナツァイ・オナイは返事をしようとしたが、声にならなかった。

 

 やがてナツァイが泣き止むと他の7年生たちも練習を再開し、マホウトコロの2人も霧か煙か程度のものは安定して出せるようになり、7年生たちの内の何人かは実体のある守護霊を出す事に成功して、その日の「闇の魔術に対する防衛術」の授業は終わった。ぞろぞろと教室を後にする友人たちに続こうとしたナツァイ・オナイに、ヘキャット先生が声をかける。

 

「ちょっといいかい、ミス・オナイ」

 泣き止みこそしたもののまだ目の周りが真っ赤なナツァイ・オナイに、ヘキャット先生は個人的な興味を遠慮なくぶつける。

「気が進まなきゃ別にいいんだけど、ちょっと変身してみてくれないかい?」

「別に、構いませんけど………」

 ナツァイは戸惑いながらもスルリとその姿を変える。

 

 そしてヘキャット先生は、目の前のガゼルを興味深げに観察し始めた。

 自分がガゼルの動物もどきだという事を知っているはずのヘキャット先生にまじまじと全身を観察され、俄に恥ずかしくなってきたナツァイに、ヘキャット先生が告げる。

「グリフィンドールに5点。ありがとうミス・オナイ。もう結構だよ」

「なん、何だったんです……?」

 加点された理由がわからず、ナツァイ・オナイは戸惑うのだった。

 

「ミス・オナイ。……クッキー食べるかい?」

「それ、アイツがいつも盗もうとしてるやつですよね」

 そのクッキーのレシピが元々誰が考案したものなのかを、件の「アイツ」は知らない。

「そうさ。……全く。欲しいならそう言えばいいのにあの子は」

「遊んでほしいんですよ」

 ナツァイにそう返されたヘキャット先生は、遠くを見ているような不思議な表情で微笑む。

「あの子は『フィグ先生に』もっと遊んで欲しかったのさ」

「それはそうでしょうけど、その言い方はアイツが悲しみますよヘキャット先生。アイツはヘキャット先生の事も間違いなく大好きなんですから……ホントに美味しいですねこのクッキー」

 ナツァイはそう言ってもう1枚クッキーを食べ、ヘキャット先生に質問する。

 

「そういやあのバカはどこに行ったんです?」

「パリさ。フランス魔法省の査察受けるついでにニコラス・フラメルに会いに行ってる」

「…………ああ、アンの事の報告」

「そう。そのへんにしときな。夕飯入らなくなるだろう?」

 母さんみたいなこと言いますね、と言ってナツァイは笑った。

 

 そして真夜中に行われる天文学の実技以外の、その日の全ての授業が終わり、すべての生徒が大広間に集う。年度初め以外で校長室から組み分け帽子が持ち出されるのは、極めて稀な事だった。

 

 全校生徒とその奥の教職員たちの視線が自分たちに注がれているのを感じながら、2人のマホウトコロから来た交換留学生は大広間を見渡している。

「タダちゃんタダちゃん」

 女の子が、隣の男の子に小声で話しかける。

「なんちな?」

 男の子は正面を向いたまま応答し、女の子がさも大弱りといった声色を作って言う。

「どっち向いてもえらいべっぴんさんばっかでウチげぇ吐きそうや」

 戯言と判断したのか、男の子は返事もしない。しかし返答が無いと察するや否や、女の子はスッと平然とした表情に戻った。

 

「さ。始めようか」

 

 そんな2人の傍に立つウィーズリー先生がそう言い、改めて「組分けの儀式」の説明をした後で、先に名前を呼ばれた男の子の頭に「組分け帽子」が被せられる。

「グリフィンドール!!」

 即宣言した組み分け帽子のその決定を受けてグリフィンドールのテーブルが喜びで爆発し、他3寮の生徒たちは少々残念そうに歓迎の拍手を送っている。

 

 次いで名前を呼ばれた女の子は、自分の頭に被せられようとする組み分け帽子を、好奇心旺盛そうな目でまじまじと見つめていた。

「ホンマもんの『組み分け帽子』や………」

「顔に被せる事になってしまうよ、ミス・リュウサキ?」

「あっ、えらいすんません」

 そして組み分け帽子は考え込み、何やらブツブツ言った後沈黙してしまった。

「う、ウィーズリー先生!この帽子寝とらへんか?!ええの?普通やのこれ?」

「考えてるんだよ。………なかなか珍しい長さだけど、例が無いわけじゃないさね」

 ウィーズリー先生は小声でそう言い、女の子を落ち着かせる。

「勇敢な子だが………同じくらい狡猾でもある………」

 そして4分半ほどブツブツ言ったり沈黙したりを繰り返した後、組み分け帽子は答えを出した。

 

「スリザリン!」

 

 スリザリンのテーブルの面々が湧き、他3寮が拍手を送る。たった2人だけの組み分けの儀式が終了すると校長がそれなりの挨拶をした後で「食べ始めても良い」と宣言がなされる。

 そして「食べながら聴いておくれ」と言ったウィーズリー先生が、交換留学生2人は3年生に編入する事、2年間ホグワーツに在籍する事、ホグワーツ生が校内で杖を持ち歩けるのと同じように2人には帯刀が特別に許可される旨などを自分の首に杖を当てて「拡声」したまま説明していく。

 

 そして幸運にも2人が近くに座ってくれたグリフィンドールとスリザリンの3年生たちと、少し離れた位置から身を乗り出している2年生と4年生たちは興味津々で自己紹介し、マホウトコロから来た2人もまた勇気を出して交流を試みながら、予めさんざん練習した、かなり文化の違う「夕食」を堪能する。

「この、これは何だ。どう食べるんだ?」

 英語には驚くほど訛りが無い男の子が、隣のグリフィンドール生に訊く。

「スコーンだよ。どう食べるって、好きにしたらいいよ。作法なんて気にするのはスリザリンの奴らくらいさ……そんな堅っ苦しい場じゃないでしょ夕食って」

「あなたはもう少しお行儀よく食べるべきよブキャナン。叔父さんに笑われるわよ」

「アンガス叔父さんはそんな事気にしないさ!」

 仲良さげなその会話の輪に入ろうと頑張るマホウトコロから来た男の子を、チヨ・コガワが大広間の端から見守っていた。

 

 夕食の時間が終わっても、誰も席を立とうとしない。下級生は「まだ出てっちゃだめなのか?」と戸惑い始め、7年生たちは杖を取り出して何やら準備を開始した。一部を除いて食事がテーブルと共に消え、席に座ったままの生徒たちは椅子ごと壁際に並べられる。

「なんやの?なに始めんの??」

 周囲の同級生たちも自分と同じように戸惑っているのを見て、マホウトコロから来た3年生のミス・リュウサキは大いに困惑していた。

 

「さて。マホウトコロからお越しのお2人さん。食後の運動、したくないかい?」

 

 そう言ったのはヘキャット先生だった。

 そして、その表情だけで意図を理解したらしい男の子が、一気に嬉しそうな顔になって立ち上がる。それを見て何をするのか薄々察した女の子も立ち上がり、机と食事と生徒が退けられた事でその広さが露わになった大広間の中央へと進み出る。

「相手は誰だ?あんたが相手してくれるのか、先生?」

 男の子の流暢な英語に、ヘキャット先生もまた流暢な日本語で返す。

 

「そろそろ帰ってくる頃さ。まあ、ちょっと待ってなよ」

 

 言われるがまま、刀に手をかけている2人が壁際に並ぶホグワーツの面々の視線を一身に集めながら待機すること数分。大広間の中央、空中が突然燃え上がった。

 

「まー……にあっ、てない!たぶん間に合ってない!!あ、ヘキャット先生だ!わーいヘキャット先生!お土産受け取ってください!あ、君たちがマホウトコロから来た交換留学生の子だね?こんにちは!君たちにもお土産あるんだよ!ハイこれエッフェル塔柄のティーセット」

 

 ああこらご丁寧にどうもえろうすんません、とありがたく受け取りつつも、マホウトコロから来た3年生のミス・リュウサキは内心困惑の極みだった。―なんやコイツは。

 

「ヘキャット先生ヘキャット先生この子たちが交換留学生なんですよね!」

「そうだよ。おかえり。パリはどうだった?」

「たのしかった!!!」

 

 マホウトコロから来た3年生のミス・リュウサキは、ヘキャット先生に日本語で問う。

 

「先生、先生!このアホボンは誰やの!」

 

 その質問に答えたのは、その急に現れた女生徒当人だった。

「僕アホじゃないもん!」

 他の生徒と共に壁際に座っているギャレスが「君はアホだよ」と呟いて笑っている。

 一方、目の前のアホっぽい上級生が流暢な日本語で抗議してきたのを目の当たりにした女の子は大いに驚いていた。

 

「お前が対戦相手という理解でいいのか」

 

 会話の流れを無視して流暢な英語でそう問うたマホウトコロから来た男の子に、何も状況説明を受けていない筈の女生徒はすんなり順応して言う。

「そうだけど、僕だけじゃないよ……アルバスー!いつまでカバンの中に居るんだいアルバス!」

 持っていた旅行カバンを開いてその中に呼びかける女生徒を押しのけるようにして出てきたのは、グリフィンドールの制服を着た小さな丸っこい男の子だった。

「片付けもせずに出ていく先輩が悪いんですよ。自分のパーソナルスペースくらい自分でキレイに保ってくださいよ………まったく、もう」

 

「えらい可愛らしい子やな………ちっっっちゃ……ほっぺたふくふくやんか……」

「はい?………あ、どうも。アルバス・ダンブルドアです。1年生です。ようこそホグワーツへ」

 

 聞き取れない言語に対して普通に英語で挨拶してから大広間を見渡して数秒硬直し、そして状況を理解したらしいダンブルドア少年は、ヘキャット先生に恐る恐る問う。

「ホントに僕で良いんですかヘキャット先生」

「嫌なら無理にとは言わないよ?」

 ダンブルドア少年は、マホウトコロから来たのであろう2人を見る。

 

「僕やりたいです。ヘキャット先生」

 

 そしてダンブルドア少年は7年生の女生徒の隣に立ち、ホグワーツ中が見守るなかでマホウトコロから来た3年生の交換留学生2人と向かい合う。

 

「さてみんな、この2人が『マホウトコロからの留学生と勝負するホグワーツの代表』って事で異論は無いね?挨拶代わりの親善試合だ!」

 そう言ったヘキャット先生は大広間を揺らす大歓声を聞きながら、また日本語でマホウトコロから来た2人に言う。

「みんな、お前さんたちがどのくらいやれるのか見たいのさ。……見せつけてやりな」

 

 男の子がその言葉を受けて刀を抜いたのを見て、女の子は指で両耳を塞ぎ唇をキュッと結んで覚悟を決める。しかし、その動作の意味を理解した者はただ1人チヨ・コガワだけだった。

 そして、ひとつ咳払いをしたブラック校長が号令をかける。

 

「オホン。では、…………始め!」

 

「キェェェエエエエエエエエエエアアアアア ア ア ア ア ア!!!!!!!!」

 

 この男の子の雄叫びと比べれば、マンドレイクの植え替え実習などそよ風も同然だった。

 大広間中がマホウトコロから来た女の子のポーズの意味をやっと理解し、同じように必死で耳を塞ぐ。薬草学のミラベル・ガーリック先生などの数人はマンドレイクを扱う時用の耳あてを装着してすらいるが、マホウトコロの卒業生であるチヨ・コガワだけは、故郷の音楽でも聴いたかのような表情で微笑んでいる。

 

「デ ィ セ ン ド !!!!!」

 

 咄嗟にダンブルドア少年を突き飛ばした女生徒は自分も即飛び退いて避ける。

 いきなり突撃してきた男の子が刀を振り下ろした大広間の床は、大きくひび割れていた。

 一撃でも浴びたら死ぬと理解したダンブルドア少年は肝を冷やすが、一方の女生徒はダンブルドア少年が見たこともないほど凶悪な顔で、笑っていた。

 

 




Q.前回の後書きで言ってた内容と違わない?
A.前置き部分で………めっちゃ筆が乗って………スンマセンホンマ……
 史実をハリポタ世界観にねじ込んでロアフレンドリーな解釈をひり出すのが楽しいんです許しておくれ

「動物もどきが変身する動物と、そいつが守護霊呪文唱えて出てくる動物は一緒」
ってのは公式設定では「おそらくそうだと思われるが実例が足りない」となっており
(動物もどきも守護霊もクソムズいので兼ね備えてる奴があまりにも少ない)
唯一、ゲーム「ホグワーツミステリー」の主人公だけが
「動物もどきで変身する動物と守護霊呪文で出てくる動物が違う」実例で
なおかつこのゲームにも原作者JKローリングは関わっていない。
なのでこれに関しては「こうだったらいいな」を全面的に反映することにしました。
ナツァイ・オナイもヘキャット先生もオミニスも守護霊が何なのかは私の妄想です。

ヘキャット先生はどれだけ強そうに描写してもいいと古事記にも記されている。

「愛によってのみ守護霊は変化しうる」は公式設定。
あとオオウミガラスの絶滅理由は事実まんま。

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