2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「ステューピファイ!」
「チィェェェェ ェ エ エ ア ア ア ア ア !!!! 」
女生徒が放った失神呪文を刀身で弾き飛ばして、マホウトコロから来た男の子はホグワーツでも特に優秀なのだろうその南蛮人の胴を両断しようとする。
「デ ィ フ ィ ン ド ! ! 」
白く光る靄のような姿に一瞬だけ変わってその攻撃を回避した女生徒はしかし、とんでもない轟音を立てた背後の壁にまるでドラゴンが突撃したかのように大規模な爪痕が残っているのを見てより一層笑顔になった。
マホウトコロからやってきた交換留学生2人とホグワーツ代表の7年生と1年生2人による、壁際に並んだ皆が見守る中での大広間における「親善試合」は度を越した声量で叫び続けるマホウトコロから来た男の子の猛攻によって幕を開けたのだった。
「デ パ ル ソ ァ ! ! 」
咄嗟に展開した盾の呪文の上から刀の鍔でぶん殴られた女生徒は、盾の呪文を維持したままで素早く飛び退いて身を躱す。
「ひゃー、君すっごいねえ!」
飴細工のように叩き割られた盾の呪文の残滓とまたしても粉砕された床を見ながら楽しそうにそう言った女生徒は、矢継ぎ早に呪詛を連射し始める。
「フリペンド!ステューピファイ!ミューカス・エノージアム!デパルソ!コンフリンゴ!―」
次々放たれる呪詛を躱せるものは躱し、躱せないものは刀で弾きながらもマホウトコロから来た男の子は一切退こうとせずに、ずんずん歩いて女生徒に近寄っていく。
「デ ィ フ ィ ン ド ! ! ! 」
振り下ろされた刀の軌道の延長線上にあった壁と天井と床が叩き割られ轟音が響くが、女生徒は少し姿勢を変えるだけでさらりと躱していた。
「フラグランテ!」
その「火傷呪文」はマホウトコロから来た男の子が持つ刀に命中し、その刀はみるみる内に赤熱していく。しかし、男の子にとってはその程度、普段の鍛錬で毎日やっている事だった。
「おい、嘘だろ?!さっさと離せって火傷じゃ済まないぞ!!」
壁際に並んで座りその親善試合を観戦している生徒たちの中の1人、スリザリンの1年生ブルストロードが心配そうに大きな声を上げている。
「 ィ イ ン セ ン デ ィ オ ァ ァ ァ ァ ア! ! ! 」
男の子がまたもとんでもない叫び声とともに刀を振り抜き、それに伴って撒き散らされた猛火が女生徒を襲うが、それを女生徒は避ける様子もなく炎に呑まれて姿が見えなくなった。
「マホウトコロの皆さんって、みんなああなんです?」
「あんなんと一緒にせんといて!あんなんと一緒にせんといて!」
ダンブルドア少年とマホウトコロから来たもうひとりである女の子は、凶悪な笑顔のまま至近距離での戦闘を続ける2人に気持ちの面でついていけず、その光景を眺めながら歓談していた。
しかしそんな2人の間の空中が突如燃え上がる。
「わあ、何やの急に!」
「なーに『僕ら関係無いんで』みたいな顔してんのさ!」
その女生徒が不死鳥を伴っている事に女の子は驚くが、男の子はそんな事一切気にしていない。
「 コ ォ ン フ リ ン ゴ ァ ァ ァ ア ! ! ! ! 」
ダンブルドア少年は反射的に盾の呪文を唱えてマホウトコロから来た女の子を庇い、7年生の女生徒は白く光って身を躱した後、マホウトコロから来た男の子に杖を向けてケラケラと笑っている。
「エクスペリアームス」
ダンブルドア少年は予想外の方向から突如飛来した武装解除呪文の出処を見て目を丸くしている。
「ん?なんやの。ええやないのウチら決闘中なんやから」
マホウトコロから来た女の子はダンブルドア少年を見て、楽しそうにケラケラと笑っている。
「ああ、アレはスリザリンだ」
「だねえ」
7年生のセバスチャン・サロウとルーカン・ブラトルビーはそう言って笑う。
「「エクスペリアームス!!」」
ダンブルドア少年とマホウトコロから来た女の子が同時に撃ち合った武装解除呪文が空中で正面衝突する。が、しかし。
仮に魔法について何も知らないマグル、例えばウィーズリー家の古い友人であるフランスのウォルト爺さんなどがこの光景を見たとしても、どちらが優勢かは一目で判っただろう。
それほどまでに、明らかに光量が違った。
今度はミス・リュウサキが目を丸くする番だった。
「嘘ぉ?!!」
マホウトコロから来たミス・リュウサキは、自分が放った決して貧弱ではない筈の武装解除呪文を糸くずか何かのように吹き飛ばした強力無比な閃光を、必死の形相でしゃがんで躱す。
「どんな魔法力やの………」
「レダクト!!」
「ひぇぁゴメンて!!ウチかて年下相手に不意打ちしたんはちょい良ぉなかった思てるて!」
「キィィァァァァァァ ァ ァ ア ア ア ! ! ! ! ! 」
「あっはははは!インセンディオ!」
自然にそれぞれ1対1の決闘が2組という形に移行したその親善試合を、大広間の壁際に並んだホグワーツの面々は大いに興味深く観戦していた。
「どんな喉してるんだあの子……」
「なんであの剣から魔法が出てるんだろ」
生徒たちの興味の向く先は主に、1人だけ明らかに戦闘スタイルが違うそのマホウトコロから来た男の子だった。レイブンクローの7年生アミット・タッカーと、その隣の3年生の女子ゼノビア・ノークも両手で自分の耳を塞いだまま何やら話している。
「あら、いらっしゃい。アナタ参加しなくていいの?」
マンドレイクを扱う時用の耳あてを装着しているハッフルパフの7年生ポピー・スウィーティングは、自分の膝に飛来した不死鳥に話しかけている。
「あー、そういう事か!なーるほど面白いことするなぁ!」
その横に座っているギャレス・ウィーズリーが声を上げ、「どういう事?」とミラベル・ガーリック先生が杖を振って左右の生徒たちにお菓子と軽食を配りながら訊ねる。
「日本の、刀の鍔、あの握る部分と刃の部分を隔ててる円盤みたいな部品。3つ穴が開いてるものなんですよ。ひとつは刀身を、つまり刃物本体を通す穴。その左右に開いてる比較的小さな穴はそれぞれ『小柄』と『笄』っていう、まあ言うなれば日常で使用する小道具を収めておくものなんですけど、あの2人の持ってる刀の鍔はその、『小柄』と『笄』どっちかの代わりに杖を差し込めるようになってるみたいなんです。たぶんマホウトコロでは、というか日本ではそれがスタンダードスタイルなんでしょう。………いやー、聞くのと実際見るのとは違うなぁー!」
魔法薬学の授業を受けている時と同じ笑顔でそう言ったギャレスに、ガーリック先生は自分もクッキーを食べながら「よく知ってるのね」と言って感心している。
「叔母の友人が日本魔法省に大勢居まして」
そう言ってギャレスは大広間の対面の壁、戦闘を続ける4人越しに笑っている変身術教授にして副校長のマチルダ・ウィーズリー先生を指し示す。
「ぇ ぇ ゑ ぁ ぐ ず ぱ る ぞ ぉ ! ! ! ! 」
女生徒が辛くも躱したその「発破呪文」を運悪く着弾地点に居たリアンダー・プルウェットとその他5人ほどの生徒たちはどうにか一斉に唱えた盾の呪文で防いだものの、その末恐ろしい威力を体感して一様に目を丸くしている。
「ステューピファイ!」「エクスペリアームス!」
男の子を狙った女生徒の失神呪文とダンブルドア少年を狙ったミス・リュウサキの武装解除呪文が空中で交差し、狙われた2人はそれぞれに防御する。しかし必死に杖を振るっているダンブルドア少年に対して、刀を振るっている男の子はとてもとても嬉しそうに笑っていた。
「ディフィンド!!……ねえ君、名前なんて言うんだい?」
女生徒にそう問われた男の子は刀を構えたまま急停止し、まっすぐに7年生の女生徒を見つめる。
「島津家当主島津忠義が一子、島津忠宝」
「日本ってファミリーネームを先に名乗るんだよね?……ただとみ………、ただとみ……」
「なんちな」
「……じゃあトミーくんだね!よろしくねトミーくん!」
ダンブルドア少年は眉間にシワを寄せ、ダンブルドア少年と呪詛を撃ち合っているミス・リュウサキは吹き出すようにして笑う。
「おはんが名乗れぇ言うたっで名乗ったんにないごてそげん言い草すっとか!!」
名前を略された事で気を悪くしたらしいその13歳の島津忠宝くんだったが、当の目の前の女生徒が「トミーくんはすっごいねえ!どれだけ訓練したんだい?」と言って嬉しそうに笑っているのを見て、悪気は無いのだと理解したらしく、大きく息を吐いて気合を入れ直す。
それを見て女生徒もまた恭しく一礼し、自分の名前を名乗った。
「―じゃあ、やろうか?」
「ああ。西洋人もやるもんだな」
そんな2人を見て、ダンブルドア少年と対峙しているミス・リュウサキが日本語で呟く。
「タダちゃん英語やと訛りぜんっぜんあらへんらしいの腹立つわー………ウチは先生ぇにいっつも『カタカナ発音』やーゆうて叱られとったのに……」
そしてミス・リュウサキは目の前のえらい可愛らしいちびっこと交流するべく、脳を英語に切り替えて杖を構え直す。
「こちらもよろしくおねがいします。リュウサキ先輩」
「え、えーっと。『こちらこそよろしく。1年生が相手かいなて思てたけど、気合入れ直すわ』」
ミス・リュウサキもまた、鍔に杖を差し込んで、刀の柄に手をかける。
「ステューピファイ!!」
「オラァ!!」
ダンブルドア少年が放った赤い閃光を、ミス・リュウサキはひらりと躱して斬りかかる。
「ねえポピーちゃん、ダンブルドアくんがスライスされちゃうわ!」
ハッフルパフの1年生の女の子が心配そうに言うが、ポピー・スウィーティングは気楽に観戦しながらその女の子の頭を撫でる。
「大丈夫よ。ほら、先生たちみんな杖持ったままでしょ。ウィーズリー先生もヘキャット先生もシャープ先生も他の先生達もみんな、危なくなったらすぐ止めに入るつもりなのよ」
そう言ったポピーも、大広間の壁際に並ぶ他の7年生たちの大半も同じように杖を手にしたまま観戦していたが、一方でギャレスやルーカン、セバスチャンなどは軽食片手にリラックスしていた。
杖を自分の顔の前で立てたまま何もしてこない女生徒を見て、13歳の島津忠宝は何か集中力が必要な事をやろうとしていると察し、刀を構えたままその時を待つ。これがすぐ隣でダンブルドア少年とやりあっているミス・リュウサキならば遠慮なく女生徒に攻撃をしたのだろうが、彼は違った。
(邪魔すっは女々ぞ)
彼の脳裏に浮かぶ父も母も、たまにしか会えない弟や妹たちも、そして彼が誰よりも尊敬しているかの惟新斎さぁもそう言っただろう。
「ヴォラーテ・アセンデリ!!」
「プロテゴ!!」
案の定横槍を入れて女生徒の邪魔をしにかかったミス・リュウサキの呪詛を体ごと割り込んで阻止したダンブルドア少年だったが、どうやらそれは思う壺だったらしく、危うく斬られそうになって慌ててしゃがんで身を躱した。
「ただでさえ的がちっこいのにしゃがまれたら当たらんやんかちみっこ!」
「当たったら死ぬじゃないですか!」
「死なへん死なへん。体真っ二つになるだけやディフィンド!」
「うわあエクスペリアームス!」
先程までとは対象的にミス・リュウサキとダンブルドア少年が激しくやり合い、島津少年は7年生の女生徒が集中力が要るらしい魔法を行使し終わるのをじっと待っている。
「ん?あ、ああ~そっかそっかそうでした!これ皆どうも見えてないらしいんでした!!」
そう言った女生徒が気楽に「レベリオ」と唱えて杖を一振りすると「それ」は現れる。
そして姿を表したのは、ホグワーツ中にいくらでもありそうな騎士の石像だった。が、それはすぐ内側から水色に光り始め、その姿を大きく変える。
倍近く大きくなったその水色に光る騎士像と同じものが普段どこを守っているのか、見当がついたのは一部の先生たちだけだった。
「わっぜおもしとか!!」
島津少年は満面の笑みを顔に浮かべ、待った甲斐があったと心を躍らせる。
「途中で邪魔してこなかったのは意外だったな。待ってたのにー」
7年生の女生徒もまた嬉しそうに笑い、水色に光る巨大な騎士像は立ち上がって剣を構える。
「はえー3対2になってしもた。そんなんアリかいな………まあアリか……」
「ステューピファイ!!」
ミス・リュウサキにダンブルドア少年が失神呪文を放つが、躱される。
「ゑぇぇぇぐずぺりぃぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ゛ む゛ ゛ ゛ ! ! ! ! 」
「それもう武装解除呪文とは別の何かですって!」
ダンブルドア少年が思わず叫び、島津少年が鋭い突きと共に放った武装解除呪文は巨大な騎士像に防がれ、大広間中を轟音が揺らす。
「何よそ見しとんの遊んでぇやちみっこ!」
ミス・リュウサキが飛ばした呪詛とそれに続いて振り下ろされた刀も躱し、ダンブルドア少年は基礎呪文の赤い光を次々放ちながら応戦する。
「その呼び方やめてください!僕は確かにチビですけどちみっこじゃなくてダンブルドアです!」
そしてまた、ダンブルドア少年とミス・リュウサキの呪文が空中でぶつかる。
「「ステューピファイ!!」」
そしてまた、ダンブルドア少年の失神呪文はミス・リュウサキのそれをあっさりと弾き飛ばす。
「自信のうなるて!ウチかて別に魔法力貧相やないのに!ほんまとんでもないな!!」
「キィエエ エ エ エ ア゛ア゛ ! ! ! 」
「アグアメンティ!」
「ステューピファイ!」
4者4様の声が響き、巨大な騎士像に真正面から突撃し続けている島津少年のずっと赤熱していた刀をダンブルドア少年の杖の先から湧き出た大量の水が島津少年ごと飲み込んで冷やす。
そしてジュウウウ……という音と共に立ちこめる蒸気越しに失神呪文をミス・リュウサキに放った女生徒は杖を持っていない方の手でその大量の水を操り、島津少年をその中心に据えた巨大な水の球体を形作ろうとする。
一方、己の躰の周囲を取り囲むように水がその流れを変え始めるのを見るや島津少年は杖を刀の鍔から引き抜いてただ呟くように「ウィンガーディアム・レビオーサ」と唱え水の流れに干渉する。
「あ、普通に唱えることもできるんですね……」
ダンブルドア少年のその発言を受けてミス・リュウサキは思わず笑いを零す。
「ぶっ!ふふふ………まあ気持ちはわからんでもないわ……」
そして、やりたい事やらせたほうが楽しいだろうと考えた女生徒は水を制御する主導権をあっさりと明け渡し、その代わりに呪詛で島津少年を狙う。
しかし島津少年はまた杖を刀の鍔に差し込んで周囲の水ごと大きく刀を振り上げる。
「ぐぅぅぅれぇゐしぁぁぁ ぁ ぁ あ あ あ あ゛あ゛ ゛ ゛ ! ! ! ! ! 」
大広間の壁際に並んで座り観戦している生徒たちが、それが氷結呪文「グレイシアス」だと察したのは、島津少年の刀に追従している大量の水が一気に凍ったからだった。
「オパグノ!」
女生徒が気軽にそう唱えると水色に光る巨大な騎士像は緩慢に剣を振り上げ、振り下ろす。
島津少年が操るいくつもの氷塊はその騎士像の胴体に直撃するが、一瞬動きが止まる程度で特に効いている様子が無い。
「キ ィ エ エ ア ア ! ! ! 」
そして振り下ろされた巨大な剣をスッと躱した島津少年はまたも凄まじい叫び声を上げてその水色に光る騎士像へと真正面から突撃した。
「如何な魔法で動いているのかわからないモノを打倒する必要がある時にどういう手段を採るか」というのは大いに個人個人の考え方や育った環境の違いが出る問いだろう。ダンブルドア少年ならとりあえず「レダクト」「エバネスコ」「ステューピファイ」のような「妥当な選択肢」を端から試していくだろうし、2年前のセバスチャンならとりあえず即「アバダ・ケダブラ」をぶつけただろう。先生方ならもしかすると「何が効くのか調べる呪文」みたいなものを使えるのかもしれない。しかし島津少年が採った手段はそのどれでもなく、対峙している7年生の女生徒すらもが思いつきもしない方策だった。
「プ ぅ ろ゛テ ゴ ・ マ゛ギ ジ マ゛ァ ァ ァ ア ア ア ! ! ! 」
ありったけの気合いを込めて唱えた最大限の盾の呪文と共に、島津少年は全身の全ての力を乗せて自分より倍以上大きいその水色に光る騎士像を刀の柄で思い切り殴りつける。
「ゐ ぃ ぃ ぇ ぇ え ゑ ぐ ず ぱ る ぞ ぉ ぁ ! ! ! 」
とんでもない叫び声と轟音を響かせ水色に光る巨大な騎士像に猛攻を加える島津少年を、ダンブルドア少年がミス・リュウサキの呪詛を防いで反撃しつつ横目で眺めている。
「な、なんで明らかに発音違うのにちゃんと呪文が発動してるんだろう………?」
ダンブルドア少年が気圧されつつも呟いたそれは、壁際に並んで座り観戦しているホグワーツの面々の大半に共通する疑問でもあった。
「ステューピファイ!!」
「わあこっち来よった!」
ミス・リュウサキは島津少年の相手をしていた筈の女生徒がいつの間にやらターゲットを自分に変えていたらしい事に気づき慌てて身を躱す。
「ルーモス!」
「何をしてんの?!!」
そしてまた呪詛を飛ばしてくるかと思った女生徒の杖の先が光ったのを見てミス・リュウサキは拍子抜けするが、女生徒はケラケラと笑っている。
「ふふーん。光ってたら目で追っちゃうでしょ?ステューピファイ!!」
「ウチは猫かいな……ステューピファイ!!」
2本の失神呪文は正面衝突し、ほんの数秒だけせめぎ合う。
そしてまたいくつもの呪詛が目まぐるしく飛び交い始めた。
「やるねえあの3年生2人。マホウトコロの生徒ってみんなあんなふうに戦い慣れてるのかな?」
「ま、そりゃあ地球の反対側にある魔法学校に生徒を送るとなれば、選りすぐりを送りたいよね」
レイブンクローのアンドリュー・ラーソンは、スリザリンのオミニスと話している。
「そういえば、ホグワーツからも2人行ってるんだよね?マホウトコロに」
「ああ。3年生が2人行ってるよ」
「生きて帰ってくるといいけど。なにせその2人はあんなのを醸成する教育を体験してくるんだ」
コイツは一体何を考えているんだ冗談のつもりかと困惑したミス・リュウサキだったが、7年生の女生徒が得意気に言った「光ってたら目で追っちゃう」というのは確かにそのとおりだった。
「エクスペリアームス!!ああ゛もーチラチラチラチラ鬱陶しいなぁそれ!!」
「でしょー?いいアイデアだろうこれ!」
そして戦っていた相手を取られたダンブルドア少年は、数秒どうしようか迷ってから、水色に光る巨大な騎士像に猛攻撃を加え続けている島津少年に横槍を入れる。
「エクスパルソ!」
「ゑぇぐずぱ る゛ぞ ぉ ぁ! ! ! 」
島津少年はダンブルドア少年の方を見もせずに刀を振り抜いて同じ呪詛で迎撃し、それは空中で衝突して大きな音を立てる。
傍目には気が違ったようにすら見える島津少年の頭の中は至って冷静で、目の前のこの金属の巨人には自分が使える呪文はどれも効かないのであろう事、しかし強い衝撃や大きな質量などをぶつければ一応揺らぎはする事などを勘案してこれを打ち倒す方策を、とんでもない叫び声とともに猛攻撃を続けながら考え続けていた。
目の前のこの水色に光る騎士像は障害物だと割り切って無視し女生徒だけを狙うのが良いのだろうとは思いつつも、島津少年はその方針を採用することはない。
(そげんすっとは女々ぞ)
頭の中で父も母も、故郷薩摩の友人達もそう言っている。正面からブチ転がしてこそ薩摩ん兵子ぞ!と声など聞いたことも無い惟新斎さぁが島津少年の脳裏で笑っている。
「キィィィィエエエア ア ア ア ア゛デ パ゛ル゛ソ゛ァ゛! ! ! ! 」
失神もせず武装解除呪文も効かず燃えも斬れも砕けもしないその水色に光る騎士像だったが、どうやら空を飛んだりはせず、2本の足で立っているのも見かけだけの演出ではないらしかった。
僅かによろめいたその水色に光る騎士像の右膝に、島津少年は跳び上がって両足を乗せる。
「アセンディオ!!」
その水色に光る騎士像の足が乗っている床のほうに呪文をかけた島津少年は勢い良く隆起した床の石材に乗って騎士像の顔の高さまで跳び上がった一方、足を乗せていた床がいきなり大きくせり上がったその騎士像はさらに体勢を崩す。
「チィィエ ア ア ア ! ! ! 」
島津少年は即その床の盛り上がった部分を粉砕し、刀の切っ先を床に向ける。
「グレイシアス!グリセオ!」
島津少年によって大広間の床が広範囲に凍結し、さらにその上から「潤滑魔法」が施される。
そうなればただでさえ巨大で鈍重な水色に光る騎士像は、既に大きく崩している重心と体勢を立て直すことなど、まるで不可能だった。
「ご ん゛ぶ り゛ん゛ご ぉ ぁ あ゛あ゛! ! ! ! 」
島津少年はありったけの気合を込めて巨大な騎士像の、まだ地面についている方の足を爆破呪文で横から弾きにかかった。
そして、水色に光る巨大な騎士像はついに凍結した床に倒れる。
「すごいじゃないか!!」
壁際で見物している皆が大歓声を上げた。
「グリセオ」が効いた床の上で立ち上がる事ができずにもがくその騎士像に、完全に高みの見物をしていた女生徒が杖を持っていないほうの手を向けてくるりとその掌を返す。
それによって目の前で溶けるように消えていく騎士像を見て、島津少年はすぐに振り返った。
「なぜ邪魔をしなかった。お前が横槍を入れれば俺を『武装解除』くらいはできただろう」
「アルバスと、そこの女の子と一緒だよ。『見惚れてた』!いやーお美事でした!」
そう言って笑っている女生徒と島津少年はスタスタ歩いてお互いに近寄り、鼻が触れそうな距離で視線をぶつけ合う。
「ほんとに凄いね。きみ。杖十字会に入らないかい?」
ルーカン・ブラトルビーとセバスチャン・サロウが「賛成!」と声を揃えて叫んでいる。
「お前ほど戦える奴は魔法処にもなかなか居ない。そちらこそ美事だ」
一言ずつ言葉を交わした7年生の女生徒と3年生の島津少年は、凶悪な笑顔で睨み合う。
「ウチらホンマにあれ参加せなあかんのかな」
「……もう騙されませんからね」
ダンブルドア少年とミス・リュウサキはその光景を眺めながらも、お互いに杖を下ろそうとはせず、油断なく隙を伺い合っている。
「わかった!あれは『無言呪文』だ!」
そう声を上げたのは、呪文学教授にしてスリザリン寮監のエイブラハム・ローネン教授だった。
「無言呪文??あのマホウトコロから来た男の子のアレがですか?」
横に座っているマルフォイが疑義を差し挟む。
「そうだ。まあ仮説だが。例えば今そのミスター・シマヅと至近距離で睨み合っているあの困った子が時々やるだろう?口では『インセンディオ』と言いつつ無言で失神呪文を放つ、という器用な真似を。あれはそれだ。呪文を行使するプロセス自体は無言呪文のそれで、あの凄まじい叫び声は後から乗っかっているに過ぎんのだ!…………と、愚考してみたがどうだろうか」
マルフォイは、ローネン先生のその言葉を受けて考え込む。
「ある程度の説得力を感じますが、ここはあえて僕は僕で別の仮説を立てたい………ですね。えー、えーー。ホグワーツで教えられている呪文の多くはラテン語由来であり、それはダームストラングでもボーバトンでも、国際魔法使い連盟に加盟している各国の魔法族は皆、同じ呪文を唱えて同じ効果を発揮する事ができます。英語を母国語とする者とフランス語を母国語とする者とショナ語を母国語とする者では同じ呪文を唱えても微妙に発音が異なるにも関わらず、です。これは、つまり………その範疇なのではないでしょうか?つまり彼の呪文の唱え方はさも滅茶苦茶なようでいて、その実『力強く声を出している』以上でも以下でも無い、という推論はどうでしょうか?」
ローネン先生はマルフォイのその推測を聴いて、同じように深く考え込んだ。
「決してありえなくは無い、が。我らが今立てた推測のどちらかが当たっているならば、彼のあの凄まじい呪文の威力は生来の魔法力のみに依るものという事になるが、君は……そう思うかね?」
2人して眉間にシワを寄せてうんうん唸っているローネン先生とマルフォイを、すぐ隣でその会話を聞いていたレストレンジが見つめている。
(そんな難しい事ばっかり考えてて疲れないんだろうかねこの2人)
やたら美人のスリザリン生レストレンジは、「魔法理論」という科目が大の苦手だった。なにせ魔法史もかくやと言わんばかりに眠くなってしまうから。
(ダンブルドアくんホントに可愛いな。アタシもほっぺた触らせてもらいたいんだけどな)
(そういや魔法史のレポートまだ真っ白なんだよね……まいっかこの後は何して遊ぼうかな)
レストレンジの頭の中は、常日頃からそんな感じの事でいっぱいで。より度を越して能天気な女生徒の影に隠れているだけで、この純血家系出身でやたら美人のスリザリン生もなかなか暢気な奴だということを、彼女と特に親しい一部の7年生たちだけが知っていた。
「どうだい、ホグワーツは!」
「古くて良い城だ。魔法処にも負けないカッコいい城だ。それ以外のことは、まだわからん!」
7年生の女生徒と島津少年はお互いの足を踏んでしまいそうな至近距離で語り合いながら戦っている。女生徒が島津少年の鼻先に杖を突きつけて放った呪詛を島津少年は凄まじい反射神経で躱し、島津少年の刀の一振りもまた女生徒に回避される。2人共、決して距離を空けようとしない。
「ステューピファイ!!ねえアルバス!」
「なんですか今忙しいんですけど!!」
急に話しかけられたダンブルドア少年は、ミス・リュウサキを呪詛で牽制しながら叫び返す。
「アルバス前から思ってたけどさ!戦い方が堅っ苦しいよ!もっと自由にやって良いんだよ!」
「今ですかその話!!―プロテゴ!僕これでも必死にやってるんです!!」
「そういうとこだよー。周りで見てるみんなに怪我させないようにとか、このマホウトコロから来た2人に怪我させないようにとか、壁とか天井とか壊さないようにとか、色々つまんない事考えてるでしょ?それはアルバスの心の中の素晴らしい部分だけど、もうちょっと好きにやったって良いんだよ。なんたってここはホグワーツなんだから。ほら。思いっきりやってみな」
ダンブルドア少年はミス・リュウサキの呪詛や刀を躱し防ぎながら、そんな事言われたってどうしろって言うんですかと必死に考えていた。
「ステューピファイ!!手ぇ止まっとるで?エクスパルソ!」
「プロテゴ!」
そして、ダンブルドア少年はヤケになって考え方を一変させた。どうせならこのいつも僕を振り回す困った先輩に、思いっきり迷惑をかけてやろうと。
後に「史上最も偉大なホグワーツ校長」と呼ばれる事になる、かの有名なアルバス・ダンブルドアが、初めて本当の意味で全力を出して戦ったのが、この時だった。
「エイビス!」
ダンブルドア少年が杖を一振りすると数十羽のワタリガラスが出現し、一斉にミス・リュウサキと島津少年に襲いかかる。ダンブルドア少年がついに自分から「1対1が2組」という構図を崩したのを見て、7年生の女生徒は歓喜した。
「それでいいんだよアルバス!きみは何だってできるんだ!エクスペクト・パトローナム!」
女生徒の杖の先から噴出した白く光る霧のようなものは瞬く間に大広間全体を覆い尽くし、そこに居る殆どの人間から視界を奪う。
「へぇー。面白い使い方するね。君がそこら中に居るみたいに感じるよ」
杖の先を赤く明滅させているオミニスが、そう言って嬉しそうに微笑んでいる。
「クッソ何も見えへん!光っとる分ほんまもんの霧よりよっぽど見辛いやないのこれ!」
四方八方から襲いかかるワタリガラスを迎撃しながらミス・リュウサキは唸る。
「いゐゐぃんせんでぃお お お゛お゛お゛あ゛ぁ ゛ ゛! ! ! 」
視界を覆うワタリガラス共を刀の一振りで纏めて斬り捨て焼き払った島津少年だったが、守護霊呪文には炎も斬撃も当然効かず、なおも視界を塞ぐ白く光る霧をそれでどうこうする事はできない。
「うわ『噛み噛み白菜』かこれあっぶな!!」
ミス・リュウサキが悲鳴を上げて杖を振るうが、そこにダンブルドア少年の呪文が飛来する。
「ボンバーダ・マキシマ!!」
大広間の壁際に並んで座っていた全員が反射的に杖を取り出し、盾の呪文を使える6年生以上の皆が一斉に己と周囲の人間を守り、先生方は床や天井も保護するべく杖を振るう。
とんでもない轟音が大広間を揺らし、ハッフルパフの1年生の女の子は気づいたら目の前で不死鳥がその翼を広げていた。
「まもってくれたのね!ありがとう!あなた………お名前はなあに?」
すぐにその女の子の興味は目の前の綺麗な鳥さんへと移った。
「わろどけ行ったっとな!!」
島津少年がワタリガラスを迎撃しながら叫び、ミス・リュウサキも叫び返す。
「わからん!カラスと守護霊呪文の光る霧しか見えへん!」
2人が落ち着くより先に勝負を決めなければいけない事が、普段のダンブルドア少年になら判っただろう。しかしこの時のダンブルドア少年は、何も考えていなかった。ただ使いたい魔法を使い、やりたいように杖を振る。
(ステューピファイ!!)
ダンブルドア少年は、無言呪文というものを試みる事自体、これが初めてだった。
「わあプロテゴ!」
突如跳んできた赤い閃光にミス・リュウサキは盾の呪文で対抗するが、その背後からスライディングしてきた女生徒に足を掬われてスッ転ぶ。
「うぅわ!痛ぁどこにおったんやアンタ!!」
「うふへへへ捕まえた!ねえこの服どうなってんのねえねえこの結んであるの解いていい?」
「ええわけあるかいこのアホ!あかんよ?あかん言うてるやろ!あかん放して!たすけて!」
島津少年は同級生の嬌声を平然と無視して、備える。
「インセンディオ!!」
「いぃぃんぜ ん゛で ぃ お お ぁ ぁ あ あ゛あ゛ あ゜あ゜! ! ! 」
ダンブルドア少年の杖の先から噴出した恐ろしい勢いの猛火と、島津少年が薙ぎ払った刀から撒き散らされた凄まじい炎が正面からぶつかってせめぎ合う。
「チィィェェ ェ ェ ヱ ア ア ア ア゜ア゜ア゜! ! ! 」
島津少年は即座にその猛火の只中に正面から突っ込んでいき、その奥に居るであろうダンブルドア少年に全霊を込めて斬りかかる。そんな、炎の中を何の対策もなく突っ切ってきた島津少年を見てダンブルドア少年も流石に驚き、その杖捌きが一瞬止まる。
その瞬間島津少年が振り上げた刀に雷が落ち、島津少年の動きもまた一瞬だけ止まる。
「「 コ ン フ リ ン ゴ ! ! ! 」」
ダンブルドア少年と島津少年の爆破呪文が空中でぶつかり、2人はそれを最小限の動きで躱す。ダンブルドア少年は横に大きく一歩退き、島津少年は思い切り姿勢を低くする。
いつの間にやら守護霊呪文の光る霧はミス・リュウサキと7年生の女生徒の周囲だけに集まっており、2人の姿を覆い隠している。
「うふへへへやらかいねえ君ふうへへへディセンドぶゅへへへ………」
「あ。そこはそっち引っ張るとすんなり解けますそうそっちですやさしくしてください」
完全に諦めているミス・リュウサキの上に覆いかぶさって思い切り抱きしめたり深呼吸したりしながらその女生徒はしれっと片手の指先を島津少年の方に向けて横槍を入れる。
「ぐぅっ、ディフィン―」
「エクスペリアームス!!」
島津少年の動きが鈍ったほんの一瞬に、ダンブルドア少年は武装解除呪文を命中させた。刀とその鍔に差し込まれた杖が、いっぺんに島津少年の手を離れる。
しかしそれで戦意喪失するような者は、彼の故郷には居ない。
「ゔぉぉぉぁぁぁぁぁ ぁ あ あ あ あ ! ! ! 」
凄まじい雄叫びを上げて、島津少年は目の前の小さな男の子に殴りかかる。
「うえぇぇデパルソぉ!」
そのあまりの迫力で極限の集中状態が吹き飛び平常心に戻ってしまったダンブルドア少年は慌てて呪文をぶつけ、島津少年は当然防ぐ術などなく、あえなくそれを喰らって吹っ飛ぶ。
しかし吹っ飛んで床を転がりながら、島津少年は刀と杖を拾ってその手に取り戻した。
「ステューピファイ。」
「プ ロ テ ゴ !!」
女生徒がまたも狙う方向を見もせずにしれっと飛ばした失神呪文を島津少年は刀を振って弾く。
「ステューピファイ!!」
「でぃふぃんどぉぁあ゜あ゜あ゜! ! ! 」
「あトミーくんこれあげるね」
ダンブルドア少年の強力無比な失神呪文を島津少年が刀を振り抜いて迎撃した瞬間、2人の間に何か植物らしき塊が投擲される。
「ソノーラス。」
それは、完全に成熟しきったマンドレイクだった。
「「「「「「「「 エ バ ネ ス コ ! ! ! ! ! 」」」」」」」」
壁際で見学していた先生達と一部の7年生たちが条件反射で一斉に同じ呪文を唱えて即そのマンドレイクを「消失」させた直後、ヘキャット先生の「そこまで!!」という声が響き渡った。
※薩摩弁にもしおかしなところがあっても許してほしい
島津少年とミス・リュウサキの方言で喋る量の差は、そのまんま私の方言理解度の差です。
薩摩弁にもしおかしなところがあっても「すいませんゆるして」としか言えませんが、関西弁に関しては「方言監修:自分」と言い張れるので気が楽なんですね。
何?関西弁がおかしい?そら関西言うたかて広いしウチとアンタで住んでるとこちゃうんやない?
島津忠宝(しまづただとみ)
薩摩藩最後の藩主島津忠義の嫡男。しかし生後3ヶ月で夭折している。(史実)
つまり生後3ヶ月の時点で魔法力を発揮し、国際魔法使い機密保持法を遵守する為
日本のマグル界に於いて公には死んだ事になり魔法界の住人になった(私の妄想)
かつて某スレにこの人とレガ主が決闘するSSを投げましたが、あれ前からもっかい
書き直したかったし続き書きたかったんだよね。
「忠宝」の正確な読みは調べても出てきませんでしたが、こう書いて「ただとみ」
と読む日本の歴史上の人物が複数人居たので「ただとみ」だろうと判断しました。
違ってたらすいません島津忠宝さん。
リュウサキ
「ダイ・リュウサキ」がホグワーツ・ミステリーに名前だけ出てくる。
17世紀マホウトコロのやべーやつ。研究→発覚→逮捕→投獄。
社会的立ち位置は原作のシリウス・ブラック3世。(つまりnotクソ外道)
やらかしの方向性は腐ったハーポ。
まあ子孫の1人ぐらい居るでしょ(妄想)