2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
その日のほぼ全ての授業と、2人の交換留学生の歓迎会も済んだ夜中のホグワーツ城。
その一角にある本来は首席と監督生、それに各寮のクィディッチチームのキャプテンしか入ることを許されない特別なバスルームで、学年の違う4人の女子生徒が仲良く入浴していた。
「ねえねえ、ホグワーツって全部でどれだけお部屋があるの?」
ハッフルパフの1年生の女の子が、浴槽に浮かぶ大量の泡で遊びながら訊く。
「あ、それはウチも気になるわ。階段もなんか気まぐれやし、談話室の入り口は壁やったし」
マホウトコロからの交換留学生の1人、スリザリンの3年生ミス・リュウサキも髪を洗いながら、それを知っていそうな2人の先輩に訊ねた。
「私この前、秘密の通路見つけたの。……ギャレスが通ってるの見ちゃっただけだけれど」
「それもしかして『隻眼の魔女』の像?」
肯定の返事をしたハッフルパフの4年生の女子の髪を洗っている7年生の女生徒は「ホグズミードのハニーデュークスっていうお菓子屋さんに繋がってる隠し通路だよ」とさらりと答える。
「後を追いかけようとしたんだけど、通りかたが解らなかったの」
「ああ、あそこは呪文が必要だからね。後で通りかた教えてあげるよ。それと君の質問だけどね」
7年生の女生徒は、浴槽でくったりと寛いでいる1年生の女の子を見る。
「ホグワーツに全部でどれだけのお部屋があるかを、知っている人は居ないよ。だってレイブンクローとグリフィンドールとハッフルパフとスリザリンと、あとホグワーツの最初の校長と、ホグワーツ城の設計者か。この『たぶん6人』がこの城を作ったわけだけど―城の仕掛けの大部分はレイブンクローかな―各々他のみんなに内緒で勝手にいくつも部屋や仕掛けを作り足してるんだ。そうさ、スリザリンは内緒で、自分だけの部屋をホグワーツ城内に作った。これをやったのがスリザリンだけだなんて僕は思わない。それこそ気まぐれで『あ、ここの壁の裏に1部屋隠せるな』とか思ったら他の誰かに相談もせず即実行しながら城を作っていった筈だ。つまり僕が思うに、この城が完成した時点で、もう既に誰にも全容は解らなくなってただろう。だから僕だって、生徒の中じゃ色々知ってるほうだろうけど、もちろん全容なんて知らない。そしてだからこそ―このホグワーツ城に於いて『飽きる』って事は絶対に無い」
魔法史の授業は例外だけどね!と締めくくった女生徒に、ミス・リュウサキは訊いた。
「そんなになん?ホグワーツの『魔法史』って。なにがアカンの?」
その質問に、そこにいる学年の違う3人のホグワーツ生は声を揃える。
「「「授業受ければわかる」」」
愚問やったんやな、とだけは理解したミス・リュウサキはそれ以上この話を続けるのは、恐らく愚痴を聞き続ける羽目になるだろうから得策では無いと考えて、大きく話題を変えた。
「そや、あのウチらと闘ったもう1人の、あのほっぺたふくふくの可愛らしいちみっこ。あの子ぉもなかなかに物凄かったけども、あの子はなんやの??」
「アルバス・ダンブルドア。グリフィンドールの1年生だよ。アルバスはねえ、天才だよ。それも魔法史に名を残す天才。ホグワーツが生んだ最高の魔法使いだ。あの子はきっとそうなる」
7年生の女生徒が不思議な表情で即答したその評価が正しかった事をイギリス魔法界が認識するのは、この女生徒がホグワーツを卒業した後の事だった。
「もちろんきみたちもすばらしい魔法使いだけどね!」
「きゃあ!」
いきなり抱きしめられたハッフルパフの4年生の女子は「びっくりするじゃないの!」と抗議しているが、そこに浴槽から飛び出てきた妹が「私も!」と大喜びで突撃してくる。
「………仲良しやな」
そう呟いたミス・リュウサキは、このスキンシップの多さについてはもう思考を止めて、ありのままを受け入れようと決めていた。―いちいちツッコミ入れてたら喉裂けてまうわ。
そして、姉の脇腹の肉をつまむ隙を伺いながら1年生の女の子が訊く。
「そういえば、ダンブルドアくんはまだ授業があるのよね?」
「よく知ってるねえ。そうだよ。グリフィンドールとレイブンクローの1年生は今日まだ1つだけ授業が残ってる。ハッフルパフとスリザリンは明日だね?」
ハッフルパフの姉妹と共に浴槽へと移動しながらそう言った7年生の女生徒に、ミス・リュウサキは自分も浴槽へ移動しようとして、まだ体を洗っていない事に気づいて引き返しながら訊ねる。
「こんな夜中に授業あんの?マジで?………なんすんの?」
「よく晴れた夜中にしかできない授業が、ひとつだけあるだろう?」
質問に質問で返されたミス・リュウサキは、眉間にシワを寄せて唸る。
「…………なんやろ、肝試しか……??いや肝試しの授業てなんやねんわけわからんやろ。えー、夜行性の妖怪、妖怪て言わんのやったか、なんて言うんやっけ、ああそう『魔法生物』の観察とか……あとはー、あとはー……ああ!」
ミス・リュウサキは、7年生の女生徒を見る。
「天文学の実技、天体観測か!」
ホグワーツ城で最も高い天文台の塔のてっぺんで、11歳のダンブルドア少年は同級生たちと共にその授業に挑もうとしていた。
「おい、ダンブルドア。大丈夫か。おいダンブルドア!」
挑もうとは、していた。
「シャー先生、ダンブルドアが眠そうです」
すぐ隣のエルファイアスがそう言った通り、ダンブルドア少年はこっくりこっくりと船を漕いでおり、いつ熟睡してもおかしくない、むしろよくこんな状態でなんの支えもなく立っていられるものだと周囲の皆に関心すらさせるほどの有様だった。
「ねむくありません。シャーせんせ。めルファイアス、てきとうなこといわないで……」
クニャクニャになったままギリギリ意識を保っているダンブルドア少年をエルファイアスが肩を貸して支える様を見て、天文台の担当教授サティヤバティ・シャー先生は溜め息をついた。
「ミスター・ドージ。アナタはダンブルドアと同室でしたね?」
「そうですシャー先生。……ダンブルドアはいつも大広間で夕食を食べ終えた頃には既に眠そうにしていて、そのまま談話室に戻ったらだいたいいつも誰より早く寝てしまうんです。朝起きるのもすごく早くて、どうも宿題は朝起きてすぐにやってるらしいんです。だよなダンブルドア?」
頑張って友人を擁護しているミスター・ドージを、シャー先生は見つめている。
「まあ、減点するのも酷ですね……ミスター・ドージ。ミスター・ダンブルドアをこっちに」
「はい、シャー先生。ほらダンブルドア。歩けるか?」
「ばかにしてるのかいヘルファイアす。あるけるに……きまってるだろ………」
歩けると主張しながらも一歩進む毎にどんどん体が右に傾いているダンブルドア少年を、エルファイアスは必死に支えている。
普段「ダンブルドアこそ我ら1年生の星」と思っている周囲のグリフィンドール生たちが他ならぬそのダンブルドア少年の思わぬ弱点を目の当たりにして苦笑している一方で、一部の女の子たちは何やら色めき立っていた。
「なにあれ……かわいい………」
「ダンブルドアくんかわいい……」
女の子たちが口々に言うそれは、決してシャー先生が表情にすら出さない、ダンブルドア少年からさっき減点する気になれなかった本当の理由だった。
「ほら、ミスター・ダンブルドア。休んでいても咎めはしませんが、どうしますか?」
「へんなこといわないでよ、ねるファイアス……僕は授業受けなきゃいけないんだかぁ………」
「今お前に話しかけたのはシャー先生だぞダンブルドア……」
シャー先生は、当然ながら、その天文台に集う1年生の生徒たちと同じ結論を導き出した。つまり、ダンブルドア少年は授業を受けられる状態ではないと。
しかし、当のダンブルドア少年自身だけは違った。彼はもはや自分が眠くて眠くて今にも寝そうになっているということ自体を自覚できないほどに熟睡一歩手前の、もはや「もうすぐ寝そう」というより「もうすぐ起きそう」という表現が適当ではないのかと思える状態にも関わらず、あくまでもこの天文学の実技の授業を他の皆と同じように完遂するつもりでいるらしかった。
「しゃーせんせい………今日は…………どのほしぉ……みるんですか………」
ぺっちゃりと天文台の床に座り込んでしまったダンブルドア少年は、しかし意気軒昂ではあるらしくシャー先生に早く授業を始めるように促す。まだ授業が始まらないのは他ならぬ自分の状態が原因だと判断することすらできないらしいダンブルドア少年を、グリフィンドールとレイブンクローの1年生の女の子たちはクスクス笑いながら見ていた。
「まあ、本人がこう言っているのですから。授業を始めましょうか」
そう言ったサティヤバティ・シャー先生は、ちょっと楽しそうに微笑んでいる。それはシャー先生が先日、大きく年の離れた同僚である薬草学のミラベル・ガーリック先生に地元の伝統菓子である「ルクマト・アル・カーディ」のアレンジレシピをイタズラ半分で振る舞った時と同じ表情だったが、その顔をそうだと判別できる唯一の生徒は今、6階の監督生用の浴室で後輩の女子3人と共に頭のてっぺんまで湯に浸かって1000数えていたのでこの場には居ないのだった。
「さあみなさん、望遠鏡を覗いてみましょう。せっかくこのホグワーツの素晴らしい星空を眺められるのですから、少し見つけづらい星座を探す練習をしましょう。……ほらミスター・ダンブルドア。あなたも星を見るんでしょう?頑張りなさいな」
立とうとして立てずにモチモチと這って移動しているダンブルドアを見て、シャー先生は今やクスクス笑っていた。
「さあ、ケルベルス座を探してみましょう。全天のどこにあるのかは教科書に載っていますよ。見つけたら挙手して教えて下さいね。最初に見つけた人に5点差し上げます」
シャー先生のその言葉を合図に、そのホグワーツ城で最も高い天文台のてっぺんで、グリフィンドールとレイブンクローの1年生たちは各々、教科書片手にその、実は「少し見つけづらい」どころかあまり明るくない上に今の季節は空の西の端にある「ケルベルス座」を探し始める。
1人を除いて。
「ミスター・ダンブルドア?……ミスター・ダンブルドア?……アルバスくん?」
教科書を開いたつもりらしいダンブルドア少年が無をめくりながら何も情報など記されていない床を凝視して「ケルベルス座は今の時期は空のどこにあるのか」に関する記述を探そうとしている様を目の当たりにしたシャー先生は、思わず素の口調で呼びかける。
「えー、これじゃないなあ、あった。このページだケルベルス座。えーっと?………暗いな!見えるのかこんな明るさの星!………少なくとも真上ではないな。端の方だこれ」
普段自分が如何にダンブルドアに頼り切っているかを、11歳のエルファイアス・ドージは実感していた。いつもはあれほど優秀な無二の友は、尊敬するアルバス・ダンブルドアが、自分と同じ11歳とは思えないほど如何な教科でも素晴らしい成績を収めると思っていたあいつが、今や望遠鏡を取り出す途中でガクリと沈黙し、ハッと起きてまた望遠鏡を構えたかと思えばまたガクリと力尽きるという無力極まる状態になっている。
「『特別明るくて見つけやすい星座』とはとても言えませんが、充分肉眼で確認できる星座ですよミスター・ドージ。……そうでなければ星座にはなっていませんからね」
背後から飛んできたシャー先生の指摘にそりゃそうかと返事もせず納得したエルファイアスは望遠鏡を覗き、教科書を見て少し望遠鏡の角度を変え、を繰り返しながら徐々に正解に近づいていく。
しかし、エルファイアスが西の空のかなり端の方だと理解した直後、少し離れた位置の女の子が嬉しそうな声を上げた。
「見つけた!見つけましたサティ先生!」
「おや、早いですねミス・スターキー。ではどこにあるのかを説明してくれますか?………他の皆に聞こえないようにこっそりと。自力で見つける歓びを知ってほしいですからね」
そう言ってミス・スターキーの方へと歩いていくシャー先生を尻目に、あるいは横目に。クソ見つけづらい「ケルベルス座」を教科書と格闘しながら探しているグリフィンドールとレイブンクローの1年生達のいくらかは「大きなお世話だコンニャロ」と心の中で呻いていたが、チラチラとダンブルドア少年の様子も気にしながら望遠鏡を覗いているせいで他の皆より少し遅れているエルファイアス・ドージは違った。
「……違うな。右隣の星だ。でもうひとつがあのへんに………あった。この星どもを最初に結んで『ケルベルス座』って名付けたやつ、まさか肉眼じゃないよな……?」
普段から割と独り言の音量が大きいエルファイアスに、またシャー先生の声がかかる。
「ケルベルス座を見出した17世紀ポーランドの天文学者ヨハネス・へヴェリウスは仰るとおり望遠鏡を使用していたけれど、魔法なんて1つもかかっていない品だったという点を差し引いても尚、アナタが今使っている望遠鏡よりも鈍重で低性能な物を使っていましたよミスター・ドージ。最もそれは彼が生きた時代に於いてはかなり意欲的な設計かつ彼の自作の品で、可能な限りの性能を追求した45mもある巨大な物でしたので単純に比較はできませんが」
割と面白そうな話をさらっと聞かされたせいで意識がいくらかそちらに持っていかれたグリフィンドールとレイブンクローの1年生たちは再び内心で己を律する必要に駆られるが、そこはグリフィンドールの談話室だとか例のあの7年生が居るとかでもない静かな真夜中の天文台なのもあって、皆すぐにまた天体観測に集中し始める。
そして、サティヤバティ・シャー先生はその女の子に告げた。
「レディ・ヘスパー・スターキー。あなたは今レイブンクローに5点を齎しました」
飛び跳ねて喜ぶ女の子はしかし、すぐに何かに気づいて自分の望遠鏡に背を向けると、トコトコと天文台の反対側の端へと歩いていく。
「………ドアくん?……授業中だから寝ちゃダメなのよドアくん?」
そこでは11歳のアルバス・ダンブルドアが、自分の望遠鏡を抱えて床で丸くなっていた。
レイブンクローの1年生女子ヘスパー・スターキーは寝息を立てているダンブルドア少年を揺すり起こそうとしてみるが、ダンブルドア少年は何やらムニャムニャ言うばかりで起きる気配は無い。
一方エルファイアスは、ケルベルス座を構成する星の残り1つがどれなのか判断がつかず苦しんでいた。―ホグワーツ領内から見上げる星空は、綺麗すぎるのだ。これがマグルも住む市街やダイアゴン横丁であれば街の灯りに邪魔されて「肉眼で見える」とされている星々の内の暗めのいくらかは確認できないだろう。しかしホグワーツはそうならないように魔法がかかっているのか単に地上の光量が少なめだからか、満天の星空がそれこそ観測者の視力の限り隅々まで見えてしまうのだ。
「…………どっちだ?…………多少明るい方かなやっぱり………」
教科書の星図を睨み苦戦しているエルファイアスの周囲や背後から、次々と「見つけた!」という喜びの声が上がり始める。
「あった!……すごい端っこのを指定してくれたんですねシャー先生……」
じっとりと睨むレイブンクローの男子にシャー先生は「探す楽しみがあったでしょう?」と笑う。
「見つけた!私、自分で見つけられたわ!」とグリフィンドールの女の子が喜んでいる隣では、その友人なのだろう別の女の子が「ヒント頂戴、ヒント!」と近道しようとしている。
そしてほとんどの生徒が空の西の端っこにあるケルベルス座を見つけて、もっと見つけやすい別の星座や、逆にもっと見つけづらい別の星座を思い思いに探し始めて暫く経った頃。
もう明日の朝まで起きないだろうダンブルドア少年を別とすればたった1人まだケルベルス座を探していた、厳密にはケルベルス座を構成する星々の最後の1つを「あのへんのあれとあれ」から絞りきれていなかったエルファイアス・ドージ少年が遂に大きな声を上げた。
「判った!………たぶん!シャー先生、合ってるか判断してください!」
「はいはい。ではどの星たちなのか説明してもらいましょうか、ミスター・ドージ」
そして、シャー先生はエルファイアスの説明を聞き終えると、ニッコリと微笑んだ。
「お見事。合っていますよミスター・ドージ。根気強く、良く作業を続けましたね。『諦めない』というのは天文学以外でも役立つ素晴らしい美徳ですからミスター・ドージ。アナタにも5点差し上げます。その調子で頑張ってくださいね」
褒められたのもみんなより時間がかかったとは言え自力で見つけられたのもとても嬉しくて、それこそあのレイブンクローの無邪気なスターキーのように飛び跳ねたい気分だったエルファイアスだったが、自分のすぐ隣から聞こえてくる安らかな寝息を聞いて気付く。
(ダンブルドアの助けを全く借りずに俺が課題をやり遂げたの、これで何回目だ?)
指折り数えてみたら片手で足りてしまったエルファイアスは、これからはもっと自力で頑張ろう、そしていずれはダンブルドアを助けられるようになろう、とひとり志を新たにするのだった。
「………例のあの7年生のド派手なメガネに見えてきたな、あのへんの星」
やっと最初の課題を達成したエルファイアスは次の星座を探すのではなく、あの星とあの星を結ぶとアレに見えるな、等とオリジナルの星座を思い浮かべて遊び始める。
しかしそれも立派な天体観測だと、シャー先生は考えていた。
そして天文学の実技の授業が終わり、二手に分かれて各々の談話室へと帰っていく生徒たちの片方、グリフィンドールの1年生たちの列の先頭に、シャー先生の姿があった。
「あ、シャー先生!授業終わったんですか?」
6階の廊下の向こうからそう声をかけてきたのは、マホウトコロから来たスリザリンの3年生ミス・リュウサキとハッフルパフの姉妹と共に入浴を終えたばかりの「例の」7年生の女生徒だった。
「おや、こんな時間に廊下で何をしてるんですか?見回りでもないでしょう?」
「リュウサキさんに監督生のお風呂の場所を教えるついでに皆でお風呂入ってました!」
あっけらかんと言った女生徒は、シャー先生の姿が目に入った瞬間から気になっていた事を訊く。
「で、アルバスはどうしちゃったんです?」
「ミスター・ダンブルドアが星を見るには、今日はちょっと時間が遅すぎたみたい」
そう返したシャー先生は、熟睡中のダンブルドア少年を抱っこしていた。
「あー………いつも早く寝てるもんねぇアルバス。………ふふふ。さ!後は僕が連れてきますから、シャー先生はどうぞお部屋に戻ってください」
「そう?じゃ、お願いするわね。みなさんお疲れさまでした。また明日」
シャー先生おやすみなさい、と一同が声を揃え、女生徒にダンブルドア少年を託したシャー先生は自分の私室へと帰っていく。
「さ、君たちもハッフルパフとスリザリンの談話室まで送っていくよ。けどまあこれは流石にグリフィンドールが先になっちゃうけど」
自分の腕の中で眠っているダンブルドア少年のまんまるの頬を見つめながらそう言った女生徒は堪えきれずにクスクス笑い出す。
「そっかぁ………天体観測中に寝ちゃったかぁ。アルバス」
母親のような表情でニッコリしている女生徒は皆と共にグリフィンドールの談話室へと歩きながら、自分の物なのであろう望遠鏡をしっかりと抱きしめたまま寝息を立てているダンブルドア少年を見つめ続けるのだった。
そして一行は4階の廊下にやってきた。実は先頭を歩く7年生の女生徒は少々遠回りをしてわざわざここを通っているのだが、他の皆、グリフィンドールの1年生たちとホグワーツに来たばかりのミス・リュウサキ、そしてハッフルパフ生の姉妹は揃って「他でもないこの7年生が案内してくれているのだから近道なのだろう」と素直に信じていた。
「この像、誰か知っているかい?エルファイアスくん」
「知らないよ。……そんな有名な人なのか?」
怪訝そうな表情でそう答えたエルファイアスくんに、女生徒は告げる。
「僕も去年何回も教えてもらってやっと名前覚えたんだけどさ、君はきっとこの人の名前と功績を一発で覚えられるよ、エルファイアスくん。このお婆さんは『ゴースムーアのグンヒルダ』。龍痘の治療法を最初に編み出した癒師さ」
まだ肌がうっすら緑がかっている11歳のエルファイアス・ドージは、その像を他のグリフィンドールの1年生たちに声をかけられるまで数十秒間瞬きもせず見つめ続けるのだった。
「エルファイアスくん、どうしちゃったの?」
ハッフルパフの1年生の女の子が小さな声で7年生の女生徒に訊く。
「ゴースムーアのグンヒルダにお礼言ってるのさ、エルファイアスくんは。だって今彼がここに居られるのは他でもないこのお婆さんのお蔭なんだから」
その説明を聞いて、ハッフルパフの1年生の女の子はまじまじとその石像を見る。
「これ、お婆さんだったのね………」
「なんだと思ってたんだい?」
「………じごくのおばけ…………」
7年生の女生徒が思わず吹き出した一方で、その女の子の姉は「ちょっと!」と妹を咎める。
そして一行はグリフィンドールの談話室の前まで来ると「デ・ミニミス」と合言葉を言って、談話室の中へ、ひいてはその奥の各々の寝室へと帰っていくグリフィンドールの1年生を見送る。
「あー、その、ダンブルドアを返してはくれないんだな?」
「僕もうちょっと抱っこしてたい気分だからね!先に寝ててエルファイアスくん。……まあ先も何もアルバスはもうとっくに寝てるわけだけど」
「……今度の天文学の実技でダンブルドアが同じ轍を踏まないように、何か考えないとな」
安らかな寝顔を見ながらそう言って笑ったエルファイアスは、自分もそろそろ眠くなってきてはいたのでそのままダンブルドア少年を7年生の女生徒に託したままグリフィンドールの談話室へと帰っていった。
「さ。さっきの話だけど」と7年生の女生徒は、その場に残っているハッフルパフの姉妹とスリザリンのミス・リュウサキに向き直る。
「さっきの『ゴースムーアのグンヒルダ』像の背中にコブがあったの、覚えているかい?」
ハッフルパフの姉妹とミス・リュウサキは揃って頷く。
「あのコブを杖で叩いて『ディセンディウム』って唱えるんだ。そうするとハニーデュークスの倉庫に繋がってる通路が開く」
流石にグリフィンドールの1年生全員に教えるのはマズイと判断して今まで黙っていた女生徒は、「じゃ、今度はスリザリンの談話室まで行こうか」と言ってまた先頭で歩き始める。
「ところでさ」とミス・リュウサキの方を向いて女生徒は訊く。
「明日の最初の授業はなんだい?」
「魔法史やけど。…………すこぶるおもんないという理解でおうてますか」
そのミス・リュウサキの質問に、7年生の女生徒とハッフルパフの姉妹はまた声を揃えて答える。
「「「授業受ければわかる」」」
どないやねんなと疑問に思いつつもクソつまらんらしいということだけは察したミス・リュウサキだったが、翌日実際にそのビンズ先生の魔法史の、それこそなんかの魔法のような授業を受けて、授業が終わり目を覚ました後で疑問がいくつも浮かんできて大困惑する事になるのだった。
そしてミス・リュウサキの後で、ハッフルパフの姉妹もハッフルパフの談話室の前まで送り、3人で心ゆくまでダンブルドア少年の頬を指で突いてからおやすみなさいと言い残して別れた後。
ダンブルドア少年をグリフィンドール寮の寝室に帰してあげる気は、女生徒には無かった。
「思わぬところに苦手が潜んでたねぇ、アルバス?」
自分の腕の中で望遠鏡を抱えたまますやすや眠っているダンブルドア少年を、その女生徒はニンマリしながら見つめる。普段から気の向くままに友人たちのベッドに潜り込んで勝手に一緒に寝たりしているこの困った7年生は、今日はアルバスと一緒に寝よう、とシャー先生が抱きかかえて運んでくるのを見た瞬間から決めていた。
そしてこの7年生は「これが母性って奴なんだろうな」と直感で自己判断していたので、その光景が傍から見て如何にいかがわしいかなど全く考慮していなかった。まあ、気づいていたとしてもどうせ、そんなことを気にするような繊細さは持ち合わせていないのだが。
そして、翌朝。
「おふぁよございます………あれ?」
10秒ほどぼんやりした後で、ダンブルドア少年はそこがグリフィンドールの自分のベッドではない事に気づき、さらに数分を要して「昨日の夜天文学の授業に向かっている途中から記憶が無い」という事に思い至った。
もしかして僕は昨日天文学の授業に出席していないのではないかと急速に不安になり始めたダンブルドア少年は、ふと隣を見る。
「え゛ぇっ?!!!」
そこですやすやと寝息を立てている知らない先輩女子が素っ裸だと気づいたダンブルドア少年は、大慌てでベッドから飛び出す。
自分が制服を着たまま、どころかローブまで羽織ったままだと理解してダンブルドア少年はいくらかパニックが軽減されはしたものの、尚も大混乱したまま急いで昨日の夜の記憶を思い出そうと頑張り始める。しかし何度確認しても天文学の実技のためにエルファイアスと一緒に天文台へと「向かおうとした」というところまでしか思い出せずにますます混乱を深めていく―僕、何した??
「えっと、えっと!そもそもどこだここ?!!」
全身を忙しなく動かしながら部屋中見渡したダンブルドア少年は、部屋の隅の豪奢なとまり木の上に佇む不死鳥と目が合った事で一気に沈静化した。
ダンブルドア少年は、ベッドで眠りこけている何故か全裸の女生徒をじっとりと睨む。
「もーーーー。もーーーーーーーー!!!先輩!!!!!」
単に気まぐれを起こして自分を抱きかかえたまま寝ることにしたこの先輩が、さらに気まぐれを起こして「今日はなんにも着ないで寝よう!」と思い立っただけだということを、ダンブルドア少年はあっという間に察していた。
そして、ここは先輩のあのカバンの中だなとも察したダンブルドア少年は、心に決める。
「スウィーティング先輩にこの事言いますからね!!」
憤懣遣る方無いダンブルドア少年の視線の先で、その困った7年生の先輩は暖かい布団に包まったまま尚も幸せそうな寝息を立て続けていた。―素っ裸で。
ケルベルス座
言わずとしれたギリシャの地獄の番犬、三頭犬ケルベロスを象る星座。
けど星図では3つ首の蛇。
1900年代初頭に「いくらなんでも星座多くね?みんな勝手に考え出しすぎじゃね?」
と気づいた国際天文学会が行った星座の整理に呑まれてヘルクレス座と
合併させられた事により星そのものはともかく星座としては消滅した。
この時生き残ったのが今の全天88星座。
※尚コレはマグル界の話で魔法界の天文学にこの整理が反映されているかは不明。
ルクマト・アル・カーディ(のアレンジレシピ)
ペルシャ圏(だったと思う)ではこう呼ばれている物とよく似たお菓子が
インドでは別の名前で呼ばれています。
「グラブジャムン」。そう。世界一甘いとすら呼ばれるアレ。
グラブジャムンには色々種類があって、中がスパイス効いてるもの(マシ)
中に更に甘いのが封入されてるもの(当然上記スパイス版に輪をかけて甘い)
など色々あります。あくまでもルクマト・アル・カーディとは地域も別で
たぶんレシピも別だろうなと考え、現在のクソ甘いレシピのグラブジャムンが
果たしていつからあるのかよくわからんかったので
「ルクマト・アル・カーディのアレンジレシピ」という表現にして
己の逃げ道を確保しました。