2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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29.「生涯で最も楽しかった依頼について」―ある画家の手記より

昼食を終えてハッフルパフの談話室まで帰ってきたポピー・スウィーティングは、ねだられるがままに1年生の女の子を膝に乗せた。

するとその女の子の4年生の姉も同じソファに、ポピーの隣に寄ってきて座る。

「ねえねえポピーちゃん、あたしあの本読ませてほしい!あの動物の図鑑!」

すぐに理解したポピーの横で、妹がどの本の話をしているのか4年生の姉にはピンと来ない。

「ああ、去年皆で作った『アイツが飼ってる魔法生物図鑑』ね。いいよ。アクシオ!」

「それなんなのポピー先輩?」

女子寝室に繋がる扉を跳ね除けるように押し開けてすっ飛んできたその分厚い本を見ながら4年生の女子が訊き、ポピー・スウィーティングは杖をひょいと振って本を自分の眼前で急停止させると、ニッコリ笑ってその質問に答えた。

「去年ね。アナタが3年生だった時。この子が入学する前の年。今7年生の私達が6年生だった時。アイツが急に言い出したの。『魔法生物の図鑑作りたい』って」

「『アイツ』って、あの人よね?ポピー先輩と同じ7年生の、あのおかしな人」

4年生の女子が確認し、ポピー・スウィーティングはそれを肯定する。

 

「そ。去年はね、色々あったの。アイツのお蔭でね……その1つがこの『図鑑』作り。アイツが『友達』に片っ端から『一緒にやろうよ!』って声をかけたから、私はギャレスとかアミットとかセバスチャンとかと仲良くなれたの。マルフォイたちが純血家系以外とも気さくに関わるようになったのもこれがきっかけなの。アイツ、皆がずーっと変えられなかった事を何もかも混ぜっ返して、全部変えちゃった。アイツをきっかけに友達が増えたの。私だけじゃなく、皆がお互いに」

 

それは、1891年の12月頃の事だった。

 

「ねえねえポピーちゃん!僕やりたい事があるんだけどさ、手伝ってくれないかな!」

5年生の時に仲良くなったこの友人が何かを「やりたい」と提案してくる時、それは本人の中では既に「やる」と決定されていて、実質的に今の発言は「もちろん手伝ってくれるよね!」という意味である事を、ポピーは最近理解し始めていた。

「何を手伝ってほしいの?」

「えっとね、僕ね。魔法生物の図鑑作りたいの!それも『僕が直接見て触れた事がある魔法生物』の図鑑を作りたいんだ。でね、ここからがお願いなんだけど、僕はそれを、大好きな友達みんなとやりたい。だからポピーちゃんとも一緒にやりたい。もしよかったら参加してくれないかな?」

 

「それ最高じゃない!」と二つ返事で了承したポピー・スウィーティングが連れてこられたのは、8階。天文学の教室に行く途中の廊下、「バカのバーナバス」がトロールにバレエを教えているタペストリーの正面の壁の前だった。

「順番に誘って連れてくるからさ。ここで待ってて」

「ここで???別に良いけど、廊下よここ?」

ポピーがそう疑問を呈すると、その友人は笑った。

 

「あ、そっか。普通は、噂自体は知ってても『ここがそう』だってのは知らないんだっけ」

 

目の前の壁に浮かんだ模様が広がっていき、染み渡るようにして扉が現れるのを呆気に取られて見ていたポピーは「この中で待っててね」と言われてやっと理解した。

「ディーク~、ポピーちゃん連れてきたよー」

「はい。ディークが『必要の部屋』をご案内します」

「じゃあ僕スリザリンの談話室に行ってくるね!」

ポピー・スウィーティングは屋敷しもべ妖精にその知る人ぞ知る部屋の使い方などを教えてもらいながら、視線の端にちょくちょく入り込む、燃えるような赤毛のグリフィンドール生に意識が向いていた。それはこの頃のポピーにとって特別親しくはない相手だったが、それでも流石に彼ともなれば、名前は覚えていた。なにせこの男子生徒は、この部屋に連れてきてくれたあの友人に次ぐくらいにはホグワーツの有名人なのだから。

「こんにちは。ミス・スウィーティング。1年生の時からおんなじ授業を幾つも受けてるのに、じっくり話したこと無かったよねそう言えば。僕はギャレス。ギャレス・ウィーズリー」

「よろしくね。私ポピー・スウィーティング。アナタもアイツに誘われたの?」

 

一方、当のその「アイツ」は、スリザリンの談話室から、まず1人の友人を連れ出していた。

「オミニスこっち。着いてきて」

「どこに行くんだ?」

「言えない。誰かが聞いてるかも知れないから。そこがどういう場所かも教えられない。それを条件に、オミニスをそこへ連れて行くことを許してもらったから」

「つまり、そこには誰か居るのか?」

「………『そう』とも『違う』とも言いづらいけど、厳密には違う。つまり、肖像画がある」

そしてオミニス・ゴーントは、思いがけない言葉を聞く事になる。

 

「僕ね、オミニスにずっと謝りたかったんだ」

 

「なんだい急に。俺は君に、どれだけお礼を言っても言い尽くせないと思ってるんだけど」

「去年の今頃。会ったばっかりの頃にさ。セバスチャンが僕を連れてったでしょ『地下聖堂』に。オミニス、ショックだったでしょ。……僕ずっと考えてたんだ、そのこと。だから『おあいこ』にする事にした。ここに君を連れてくるのは、君がオミニスだからだよ。君がオミニスだから、誰より優しくて『魔法』の怖い部分をよく知ってる君だから、先生たちは最初の1人を君にすることを許してくれたんだ。ここに来たことあるのは僕以外だと、フィグ先生だけなんだよ?」

 

今まで歩いた道順と降りた階段の数からしてそこが地下のかなり深いところで、そしてとても広い空間だということだけは、目が見えないオミニス・ゴーントにも察せた。

 

「オミニス・ゴーント。君の話は聞いているよ。私はサン・バカー。地図の間へようこそ」

 

その声に、オミニス・ゴーントは全く聞き覚えが無かった。いつも幾つも聞こえてくる城の肖像画たちの声の中にも、その声が混じっていた事は無いようにオミニスには思えた。

「じゃあ、サン・バカー『先生』とお呼びするべきなんですね?コイツが言っていたのはアナタの事、いいえ『あなた方』の事なんですね?………去年コイツがフィグ先生と一緒にやってた事は、それで多分ランロクがホグワーツを脅かした理由も、この部屋にあるんですね?………そして俺はその事を、探らないと期待されている」

サン・バカーも他の3人も、このゴーント家の青年の利発さと、何より滲み出る誠実さに驚いていた。それが予め聞いていた通りだったからこそ、驚かずには居られなかった。

 

「仰る通りだ、オミニス・ゴーント。我らが永く守ってきた秘密がある。申し訳ないがそれが何かは教えられない。しかし『隠すから暴かれる』というこの子の意見にも一理ある。ここが他ならぬホグワーツであり、好奇心旺盛な子どもたちが大勢居る学び舎だからこそだ………『何かすごい秘密があるんだ』と思ったらそれを探らずには居られないのがホグワーツ生だからね。学生というのはそういうものだからこそ、ホグワーツの校訓は『眠れるドラゴンをくすぐるべからず』なんだ。意識して戒めていないと、みんなどうしてもくすぐってしまう」

 

「危険極まるモノだが、既に作り出されてしまった。破壊してしまうべきものなのに、そうする方法が見つからない。だから良からぬ輩の手に渡らないように、そのためには誰にも知られないように、我らは守護している。と、これだけなら君に伝えられる。だからどうか、我らの若き友人であり君にとっても大切な友であるその子に、『我らが守る秘密』の事を訊かないでくれ。この子はきっと君に教えてしまうだろうから」

パーシバル・ラッカム先生の、ともすれば信頼を欠くとも捉えられかねない言い方に、しかしその6年生はこくこくと頷いた。

「僕絶対言っちゃう。オミニスに訊かれたら絶対教えちゃう。自信ある」

ていうかオミニスに頼まれたら僕なんだってしちゃうよと口走る友人の声を聞きながら、オミニス・ゴーントは肖像画なのであろう声の主たちと会話する。

「俺に『一緒に守ってくれ』なんて言えないくらいには、危険なものなんですよね?だったら訊きません。そういうものに軽率に興味を持ったらどうなるか、俺はよく知ってる。あなた方がずっと守ってきた秘密がどんなものなのか、俺には『薄々察する』事しかできないけど、そういう『口が裂けても言えない秘密』が、俺の家には幾つもある……尤も、父と母や兄たちがそれを漏らさない理由は『言うべきじゃない』からじゃなく『滓共に教えてやるなど』って侮蔑が理由だろうけど」

そしてオミニスは、ずっと気になっていた事を質問した。

 

「ここ、本当はもっと片付いてるんですよね?ベッドも、ソファも棚も食べかけのお菓子も山積みの本も鉢植えもカーペットも。本来ここには無いはずのモノですよね?なんていうか、階段も床も『そういう部屋』じゃないって感じがしたものですから。全部、コイツが持ち込んだんですね?」

一斉に聞こえてきた4人分の苦笑を、オミニスは肯定と受け取った。

「ここの床には、ホグワーツとその周辺の地形が映し出されている。だからここを『地図の間』と呼ぶんだ。なのにこの子はカーペットを敷き、本棚を置きテーブルを持ち込みソファに寝そべって宿題をやった挙げ句にジュースをこぼすのだ」

「僕もラッカム先生も、上に何が置いてあったって光はしっかり見えるんだからいいでしょ」

横から反論を投げてきたその子に、守護者パーシバル・ラッカムはキッパリと言う。

「それはそうだが、だからといって『こぼしたジュースを拭き取らなくていい』とはならない」

「アッ………ソッチカ……ソレハァ……ゴメンナサイ……」

 

4人の守護者とオミニスにも次から次へと日々の生活態度の雑さを指摘されてその6年生がどんどん萎んでいっている頃。8階の「必要の部屋」ではポピー・スウィーティングが、新しい友達を作ろうと頑張っていた。

「あの。ねえ、私あなたの話をアイツからいっぱい聞いてるんだけど。多分、お互い様よね?」

「………アイツは僕に、君の話をたくさん聞かせてくれるよ」

「ど、どんな話………?」

ポピーがそう訊くと、その燃えるような赤毛のグリフィンドール生はクスクス笑った。

「『ジェラルド』の話を僕にしてくれた今さっきの君と、僕に君の話する時のアイツは、おんなじ顔してるよ。すごく嬉しそうに笑うんだ」

ポピーはそれを聞いてなんだか暖かい気持ちになったものの、ギャレス・ウィーズリーの言葉の続きを聞いて、ポピーの表情は一変する。

「『ポピーちゃんすっごくカワイイんだよ!!』って。アイツ、君のこと大好きなんだね」

 

「ㇸえ?」

 

硬直したポピーは、言われ慣れていない言葉を脳が処理するのに時間がかかったらしく、十数秒を要してゆっくりと赤面していく。

「いや私、わたしはそんな………」

しどろもどろになったポピーに、背後から聞き覚えのある声がかかる。

 

「何言ってるのポピー。アナタはかわいいのよ」

 

部屋の奥の階段を登った上階、ポピーとギャレスが居る位置を見下ろす高さからそう言ったのは、ポピーが普段、その振る舞いや美意識などに密かに憧れは抱きつつも「ちょっと話しかけづらい」と感じている、同じ寮の女子生徒だった。

「………サチャリッサ・タグウッド、さん……あの、ホグワーツ薬草学賞受賞おめでとう……」

自分の方をまっすぐ見据えて階段を降りてくるその姿に、ポピーは少し気圧されていた。

「あら、ありがとう。サチャリッサって呼んでいいわよ。私もアナタのこと名前で呼びたいから。けどアナタ、今の本気で言ってるのよね?『謙遜』じゃ、ないのよね?……来なさい」

 

棚が並んでいた壁の一部が引っ込んでウォークインクローゼットらしき空間が現れ、カーテンで隔てられ扉が出現して、そこにポピー・スウィーティングがサチャリッサ・タグウッドによって有無を言わさず連行されていくその光景を、ギャレス・ウィーズリーはクスクス笑いながら見ていた。

「僕には挨拶してくれないのかい、サチャリッサ・タグウッド?」

「アナタは後!自分の魅力に気づいていない女の子って、私我慢ならないのよね!」

興味の向く先、そして何より人並み外れた才能を発揮した分野が共通しているので以前からお互いに「もし仲良くなれれば有意義だろう」と考えてはいたギャレスとサチャリッサは、この頃はまだ「顔と名前と優秀さを知っている」程度の、知り合い以上友人未満の間柄だった。

 

「で、ここがそうか」

 

その「必要の部屋」の扉が現れた壁の前には、オミニス・ゴーントを筆頭とした古い純血家系出身のスリザリン生たちがやってきていた。

「まさか、君たちが了承してくれるとは思わなかったよマルフォイ」

「気乗りはせんとも。アイツやお前らだけならともかく、他の寮の奴ら……それも穢れた、ああいや失敬、『マグル生まれ』とすら共同作業というのはな。しかしまあ、我らスリザリンは1人残らず、アイツに大きな借りがある。サロウの事と、この僕の事でな」

これまでの半生で醸成されていた差別意識を最近自覚し、それを払拭しようと頑張っている最中のマルフォイが口走った差別用語を自己訂正した。

「お前の事ってもしかしてクィディッチか?あれもアイツなのか?」

すぐ察した上で疑問が残ったらしいノットに、オミニスが答える。

「こないだの夏休みに魔法生物規制管理部の部長と面会した時にその話になって、そしたらその部長さんが魔法ゲーム・スポーツ部の部長に話して、その部長が今のウィゼンガモット首席魔法戦士の、あのお婆さんに話したんだってさ……後は想像つくだろ」

 

ノットは、それだけの説明で理解した。

「ああ、あのウィーズリーの老いぼれか……あの婆さんが相手じゃ、校長も折れるしかないな」

「もしかして、ノットのところにも毎年あのウィーズリーのお婆さんからセーター届くのかい?」

レストレンジが全然関係ないことを訊き、ノットは「クリスマスにな」と肯定する。

 

「『ウチの家族』にも毎年届くらしいんだよ。あのウィーズリーのお婆さんの手編みのセーター」

 

オミニスがそう言った事で、マルフォイもノットもレストレンジも目を丸くした。

「父は即刻燃やそうとしたけど焦げもしなかったんだとさ。ブラック校長経由で聞いた」

「流石だな、あの婆さんは………」

感心半分呆れ半分のマルフォイが呟き、レストレンジが「復活してよかったねえクィディッチ」としみじみ言ったところで、4人のスリザリン生は「必要の部屋」へと入室していく。

 

「なんだ、お前しか居ないのかウィーズリー」

「おやマルフォイ。怪我はもう良いのかい?」

 

昨年。5年生の時にクィディッチシーズンが中止になっていた原因の「怪我をした純血の生徒」であるマルフォイに、ギャレスは笑顔で嫌味を言う。それは古い純血家系だと認識されていながら純血至上主義を毛嫌いしているウィーズリー家の面々に共通する振る舞いで、純血主義者と相対した時に表面化する発作的反応とも言えた。

しかし、返ってきた反応は、ギャレスの予想と違っていた。

 

「……その事は、すまなかった。みんなに迷惑をかけた。……本当に」

 

自覚して発した意地悪な言葉に誠実な謝罪で返されては、ギャレスに立つ瀬は無かった。

「いや、こちらこそごめん。今の発言は意地悪だった。アイツが見てたら嫌がりそうだ」

「『みんな友達だから仲良くするの!』って、ほっぺた膨らませて言うだろうね」

レストレンジが気軽な口調でそう言った事で、その場の空気はいくらか和らぐ。

「あ、そうだ。きみ、レストレンジだよね?ちょっとあっちの扉のむこう、今女子更衣室になってるんだけど、ちょっと見てきてくれないかい?ポピーとサチャリッサが居るんだけど、流石に様子を見に行くわけにもいかなくてさ」

いいよー、と気楽に言って扉の向こうに消えて行ったレストレンジの背中を見送ってから、マルフォイとノットはギャレスに向き直る。

 

「要件は、聞いてるんだよな?アイツから」

「うん。『魔法生物図鑑を友達みんなと作りたいから手伝って』って。わかってるだろうけど、大事なのはたぶん『みんなと』って部分だ。アイツは僕らにも、お互い友達になってほしいのさ」

そう言ったギャレスとマルフォイは、お互いの目を見て、その奥にお互いの「家系」を見る。

 

「無理な相談だよねえ」

「全くだ」

 

血を裏切る者と純血主義者は、お互いの見立てが全く同じだと理解して笑い合った。

そこで「前から思っていた事があるんだ」と、オミニスが口を開く。

 

「サラザール・スリザリンとゴドリック・グリフィンドールがなんで仲違いしたのか、みんな勿論知ってるよな?『ホグワーツの生徒を純血家系出身者だけに限定したい』ってスリザリンが主張し始めて、グリフィンドールを筆頭とした面々がそれを受け入れなかった事が原因だ。………けど、けどさ。『純血主義』も『マグルびいき』もそんな、ある日突然いきなりなるものじゃないよな?『育ち』ってやつによって、長年かけて醸成されるよな?それが良い悪いは置いといてさ」

そりゃまあ周知の事実だろうと、ギャレスもマルフォイもノットも頷く。

「だからさ、スリザリンは、グリフィンドールと出会った時点で既に純血至上主義者だったろうし、グリフィンドールもスリザリンと出会った時には既にマグルびいきだっただろう。なのに2人は、仲違いするまでは仲良くやってたんだ。それこそ一緒に学校なんて作っちゃうくらい。2人が仲違いしたのは『教育方針の折り合いがつかなかったから』だ。『マグルに関する認識の違い』は、実は原因じゃない。『それを教育方針にまで反映させて子供たちに押し付けようとしたから』グリフィンドールとスリザリンの関係は破綻したんだ。俺の言いたい事、わかる?」

ギャレスもマルフォイもノットも、黙ってオミニスを見ている。

「スリザリンはグリフィンドールに、というかグリフィンドールとレイブンクローとハッフルパフに『お前らの勝手なマグルびいきを子供にまで押し付けるな』と憤ってた事だろうし、グリフィンドールにしてみれば『お前の純血主義を子供にまで押し付けるな』とスリザリンに言っただろう。どっちの意見が正しいかって話をしたいんじゃないよ………『そうなるまで』は、仲良くやれてたんだよ。スリザリンとグリフィンドールは。純血主義者とマグルびいきなのに。だからさ、君たちだってきっと仲良くできるよ。お互いの考えは考えとしてさ。やろうよ。『折衝』ってやつを」

 

オミニス・ゴーントのその言葉は、ウィーズリーとマルフォイに、そしてノットにも。態度を改めようという気にさせるだけの、深く響いてくる何かがあった。

 

「無二の親友になれとは言わないからさ。仲良くやろうよ、それなりに。考えの合わない奴と仲良くするってのは、気の合う仲間ってものからは得られない収穫があるって、俺は思うんだけどな」

そしてオミニスは「俺が言い出したんだから俺が最初」と言って、赤く明滅する杖の先をギャレスの顔に近づける。

「しっかり話した事、あんまり無かったよね。俺はオミニス。オミニス・ゴーント。よろしく」

「……ああ。僕はギャレス。ギャレス・ウィーズリー。こちらこそよろしくね」

ギャレスはオミニスを見る。そして、気になっていた事を切り出した。

「………本当に、目が見えないんだね」

「ああ。でも君の髪がどんな色かは見えなくてもわかるよ?」

オミニスのその発言に、ギャレスは思いがけず笑わされた。

「そりゃまあ、ウチはみんなおんなじような髪の色だからね」

 

そこに、また何人かの6年生が「必要の部屋」に入室してくる。

「おや、君たちはスリザリンの。これは頼もしいね」

その言葉が嫌味でもなんでもない本心ありのままだという事を声色から察したマルフォイは、その男子生徒の方へと向き直る。

「お前も呼ばれたのかタッカー。……まあ、アイツがそれを望んでるんだから仲良くやろうか」

「そっちは、アンドリュー・ラーソンと、ダンカン・ホブハウス……で合ってるよな?」

「それで合ってるよ。そういうきみはノットだよね?よろしくね」

お互いの顔と名前がギリギリ思い浮かぶかどうかという薄い認識を改めるべく自己紹介を続けていた男子たちのところに、ずっとウォークインクローゼットに居た女子3人が戻ってきた。

 

「あら、増えてる」

「ほらポピー。似合ってるから出てきなよ」

 

勇気を出すのに1分弱を必要としたポピーがおずおずと皆の前に出てくるのと、そこに皆を集めた「編入生」が何人もの追加人員とともにその部屋に戻って来たのは同時だった。

キョロキョロオドオドと挙動不審になっていたポピー・スウィーティングは、その姿を見るなり駆け出して行き、去年初めてできた同年代の人間の友達の背中に隠れてしまった。

「どしたのポピーちゃん………サッちゃんポピーちゃんに何したの?」

「ヘアアレンジして髪飾りを選んであげただけよ。あとちょっとメイク」

その生徒は振り返って、自分の背中に隠れていた小柄な友人を見つめる。

 

「……よかったねえポピーちゃん」

「なっ、何が。私こういうの似合わないしそれに―」

いつもよりかなり早口なポピーに、その6年生は穏やかに笑う。

「お友達になったんでしょ?サッちゃんと。それにレストレンジとも。……それにさポピーちゃん、セストラルみたいですっごくきれいだよ?」

それを聞いていたマルフォイもノットもオミニスもアミットも「それは褒め言葉なのか?」と内心で疑義を差し挟む。しかし、その言葉を受け取った当人の反応は違った。

「………本当?」

「ホントさ。その髪飾り、似合ってるよ」

ポピーが恐る恐るながら自分の陰から出たのを見守ったその生徒は、「一緒に課題に取り組む」には少々多すぎるのではないかとすら思える、集めに集めた「友人たち」に宣言する。

 

「さ!僕の友達を紹介するよ!着いてきて!」

 

その後に引き合わされた「友達」を、そしてそれを見るみんなの目を、ポピーは丸一年経った今でも昨日のことのように思い出せた。

 

「グラップホーンも不死鳥も、私あの時初めてあんな近くで見たんだ。すっごくカッコいいの!」

自分たちが知らなかった「去年」の話を、その成果物である魔法生物図鑑をめくりながら聴いていた1年生と4年生のハッフルパフ寮の姉妹は、2人揃ってその7年生の先輩の頭を撫でる。

「なあに?」

嬉しそうにしつつもちょっと戸惑ってぎこちなく笑うポピーに、その姉妹は言う。

 

「お友達いっぱいできてよかったねポピーちゃん……」

「ポピー先輩やっぱりかわいい………」

 

そして同じ頃、グリフィンドールの談話室を出た1年生のダンブルドア少年も7年生の先輩方と、偶然というべきか、ポピーたちと同じ話をしていた。

「それじゃあ、去年までは皆さん、今ほどには仲良くなかったんですか?」

「うん。皆基本的にはコイツを間に挟んで『友達の友達』。あんまり話したことも無かった。リアンダーと僕は寝室一緒だから例外だけど。でもポピーとサチャリッサなんかさ、信じられるかい?あの2人だってルームメイトなんだよ。なのにさ。去年コイツに引き合わされるまで殆ど話もしなかったらしいんだよ。信じられるかい?『おはよう』『こんにちは』『おやすみ』だけだったんだって。もうちょっとお互いに興味持ってもいいと思わない?」

ウィーズリー先輩のその言葉にダンブルドア少年は驚きつつも納得する。

「まあ、お2人とも、自分の好きな分野に一直線に情熱注いでらっしゃいますもんね……」

「『そんなことより』だったんだろうね。お互いに」

去年皆を引き合わせて「みんなで友達」と言い放った当の本人である7年生もそう言って笑う。

 

「で、さっき先輩が仰ってた『地図の間』ってなんなんです?」

「今度連れてってあげるよアルバス。教えてあげられない事も多いけど、それでもよければ。……そう言えばギャレスも来たこと無かったよね?ていうか話したことも無かったよね?」

「うん。初めて聞いたよ。けどそれって一昨年の事に関係有るんだろ?だったら君の気が向いた時でいいし、話したくないならそれでもいいよ。けど、知っておくべきだと思うから言うけどさ。『色々噂は流れてるよ』。秘密、なんだろ?誤った情報が流布するのは別にいいのかい?」

「……それホント?」

「あれだけ大きな事があったんだから、そりゃ『なんで来たんだろうランロクは』って思うさ。『きみに一目惚れしてたから』なんて説で盛り上がってる女の子たちも居たよ」

あまりにもあまりな珍説に、その生徒はもう逆に嫌悪感すら抱けなかった。

 

「………ランロクが悪いんだからね」

ゴブリンのナショナリズムを極端に先鋭化させていたその危険な敵を思い起こして嗤うその生徒は、しかし内心で謝罪もした。いくらなんでもそれは故人の名誉を毀損しているだろうと。

「そう言えばランロクは、『ドラゴンを近くで見てみたかった』だけなんだよねそもそもは。そして仲間に入れてもらおうとして、手酷く拒絶されて。それで極端なナショナリズムに目覚めて『ゴブリンはもう誰にも従わない』なんて唱えて、結果他ならぬゴブリンを大勢殺してたんだから世話ないけど……それでも僕ね、ちょっと思ったんだ。で『じゃあ僕はどうするか』を決めたんだよ」

 

ハッフルパフの談話室で、ポピー・スウィーティングはそのページを2人に見せる。

「アナタは習ったんだよね?この子たちの事」

「ムーンカーフ。満月の夜に踊る、だっけ?けど『仔牛のような』っていう表現はちょっと『そうかなぁ?』って思っちゃう」

「これムーンカーフって言うの?かわいい!」

 

「ちょっとした事からなんだ」と、その7年生は廊下を歩きながら言う。

「本人にとってはちょっとしたことじゃないんだけど、当事者以外から見ればちょっとした出来事。それでランロクは兄弟を殺すまでになっちゃって、僕はガーナフと友達になった。ムーンカーフのページにどんな文章を載せるか、かき集めた参考資料の記述に間違ってる部分は無いか。ガーナフとも一緒に作ったんだよ。だからガーナフもこの図鑑と同じものを持ってる。変幻自在呪文をかけた遠隔相談用の『草稿版』をね。それに、この図鑑の挿絵を描いてくれたのはアーンだ」

そこでダンブルドア少年は、当然の疑問を訊ねる。

「あの、すいません。話の流れから大体察してますけど、誰ですその2人?」

 

「あ、そうだよね。ガーナフもアーンも僕の友達のゴブリンだよ。ガーナフは『ビスケット』って名前のムーンカーフをすごく大切に飼ってるんだ。それでアーンは画家なの。2人共、一昨年仲良くなったんだ。けど、ゴブリンと魔法族じゃあ『所有権』に関する考え方が違うだろう?だから、将来的なトラブルを避けるために、例えばお互いにこれを子へ孫へと受け継いでいった果てに、それこそランロクがそうしたような『奪還』で血を見るのをどう回避するかって擦り合わせを皆で、グリンゴッツのゴブリン達に意見聞いたりもして、ガーナフとアーンと僕らとで話し合ったんだよ。自分の子供と友達の子供が殺し合うなんて嫌なのは魔法族もゴブリンも一緒だからね………それで『皆で一緒に作ったってしっかり書いとこう』『別口で制作記録もちゃんと残しとこう』って結論になった。ゴブリンと魔法族が協力して、お互いに心血注いで仲良く作ったものだって事をね。制作に参加した全員が1人1冊ずつ『草稿版』を所有するって事でお互い納得して、ガーナフとアーン抜きでこっそり話し合って、完成品の内2冊を『信頼の証』としてガーナフとアーンに贈ろうって事になって、実際にそうした。ありがたいことに、2人ともすごく喜んでくれた」

 

ダンブルドア少年は、目から鱗が落ちたらしかった。

「人間とゴブリンって、友達になれるんですね………」

「そりゃあなれるさ。だってお互いが、友達になりたいと思ったんだから」

そしてダンブルドア少年と2人の7年生は、時間から考えて既に皆居るのであろう魔法薬学の教室の前まで到着した。

 

「あ、やっぱりもう居たんだね皆。それにシャープ先生。よろしくね」

 

そして一部の1年生に向けた、残念ながら毎年恒例となりつつある「特別授業」が幕を開ける。

 

 





ホグワーツ・レガシー本編ではクィディッチシーズンが中止されています。
(おそらくはゲーム制作上の都合とかそういうメタい理由で)
しかしこのブラック校長が言っていた「今年は中止」は、それこそあの1年間だけ中止されて翌年以降はまた再開されるということが、公式設定を参照すると確定しています。なにせ「賢者の石」で「1年生のシーカーは100年ぶり」と言われていた、そのジャスト100年前がホグレガ本編の翌年、レガ主とご友人方が6年生だった1891年の事なので。

あとすごく今更ですが、「学年が名言されていないが1年生とかではなさそうなホグレガ名有りキャラ」は、だいたいみんなレガ主と同級生って事にしています。なにせそうしないとダンブルドアくんが来る前に卒業しちまうから。


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