2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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32.家に帰る

「さてみなさん、いいかしら?本日取り扱うこの植物は、どこかの誰かさんのように植わっているものをそのまま何鉢も食べたりしない限り危険はありません。まあ、あの子は土ごと食べていましたから、この植物のせいでお腹を壊したとは言えないかもしれませんが」

たくさんの植物が育てられているホグワーツ城の温室で、午後からの薬草学の授業に同級生たちと一緒に挑んでいる1年生のアルバス・ダンブルドア少年は、その「どこかの誰かさん」が誰のことなのかがあっという間に察せてしまい、呆れ果てる。

「誰がそんなことしたんですか?ベルせんせ」

「あなたがさっき魔法薬学を助けてもらった首席の先輩よ、ミス・スターキー」

ガーリック先生が「首席」と言った事でその場の1年生たちの殆どが候補を2択まで絞ったが、ヘクター・フォーリーがそんな真似をするわけがないという事に皆、すぐに気づいた。

ということはつまり。

 

「なにしてんだあの人……」

「まあでも、やりそうではあるぞ」

 

スリザリンのブルストロードとクラウチがそんなふうに囁き合っているのが聞こえてしまったガーリック先生は苦笑しながらも、すぐに皆の意識を授業に引き戻す。

「さあみなさん、この植物が何か、わかるかしら?」

確信を持っているらしいダンブルドア少年の対面で自信なさげに手を挙げていたそのグリフィンドール生を、ガーリック先生は指名した。

「はい。ミスター・ロングボトム。遠慮しないで言ってみて」

「ユリ!ユリの………仲間の何か……。だと思う……何かはわかんない……」

わからないなら何故手を挙げたんだと思ってしまったエルファイアスをよそに、ガーリック先生はその回答を大いに褒めた。

「正解とは言えないけど、不正解でもないわよロングボトムくん。凄いじゃない!確かにこれはユリの仲間だけど、どうしてそう思ったのか、もしよければ教えてくれるかしら?」

あまり積極的な方ではないロングボトム少年は、恐る恐る口を開く。

 

「葉っぱと茎の感じが、ユリっぽいなって………」

 

ガーリック先生が「グリフィンドールに3点!」と宣言する中、エルファイアスを始めとする周囲の1年生たちの心には雷が落ちていた。

「葉っぱと茎……葉っぱと茎??」

彼ら彼女らの多くが植物のそんな地味な箇所になど、今まで興味を向けた事すら無かったから。

 

「今ロングボトムくんが示してくれたのは薬草学、どころか植物学においてとても重要な視点よ。いい?どんな風に根っこが伸びてるのか。葉っぱはどんな形か。茎はどんな形か。表面はザラザラしてるのか、つるつるしてるのか。薬草学の授業に真剣に取り組めば有益な薬草を適切に取り扱えるようになり、それによって魔法薬学の成績も上向くことが考えられるけれど、正直、皆が植物を好きになって、もっと興味を持ってくれさえすれば、私はそれだけですっごく嬉しいのよ」

 

そして、年若い薬草学教授ミラベル・ガーリックは本題に入る。

「今日扱うこれは『アスフォデル』。ミスター・ロングボトムが見事に言い当てたとおりにユリの一種で、ギリシャのマグルの古い伝承ではエリュシオンの野、つまり『死後の世界』に生えているとされているけれど、実際にはここにあります。ついでに言うとそんなに高価でもないわ。さて、この中にアスフォデルの根の粉末にヨモギの葉を加えるとどんな薬ができるか答えられる人は―」

1人の生徒がすぐ手を挙げた事に、ミラベル・ガーリックは内心大いに驚いていた―その質問に答えられるだけの知識を授業で身に着けるには、6年生になるまで待つ必要があるのだから。

 

「どうぞ、ミスター・ダンブルドア」

 

「『生ける屍の水薬』です、先生。とんでもなく強力な睡眠導入薬で、使用する量を間違えるとそれっきり目覚めない事すらある危険な薬です。僕らはこれを、『O.W.L.』をパスできればですが、6年生の魔法薬学の授業で作る事になります。……それまでにカリキュラムが変わらなければ」

 

ガーリック先生は心底びっくりしているのが表情に全部出ている一方、エルファイアスら一部のグリフィンドール生たちは、あんまり驚いていなかった。ひとつには1年生がそれを知っているのがどれだけ凄いことなのやらイマイチ理解できていないからというのもあったが、「ダンブルドアならそのくらい知ってるだろう」という彼ら彼女らの中で醸成されつつある共通認識も原因だった。

 

「素晴らしいわミスター・ダンブルドア!グリフィンドールに10点!そう。作り出せる物の方は強力で、中には『生ける屍の水薬』のように危険な物もあるけれど、アスフォデルという植物自体は別に噛み付くわけでも火を吹くわけでもないわ。だから手が汚れるのが気になるなら別だけど、ドラゴン皮の手袋もいらない………もっとも、私はさっきまで毒触手草の植え替えをしてて、これから腫れ草のお世話をするのよね、で、アスフォデルを扱うからって今だけ外す理由もないからこれ、つけたままやるけど気にしないで……さあ、アスフォデルを収穫してみましょう。『もう魔法薬の材料として使える株』と『まだ収穫するには早い株』の見分け方を教えてあげるわ。そして、魔法薬の材料になるのはアスフォデルの『根っこ』よ。球根部分だけじゃなく、そこに繋がってる糸みたいな根の先の先まで全てちゃんと有る事が望ましいわ。だからくれぐれも雑に引き抜いたりしないこと!根っこを千切ってしまわないように!」

 

ガーリック先生は杖を持っているのとは逆の手でアスフォデルの鉢植えを1つ持ち上げると、それに杖を向けて気軽に一振りする。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!見える?こんな風にうまく鉢から抜ければアスフォデルの根っこに、それが植わっていた土も全部着いてきてくれる。『浮遊呪文』でこれをやるコツはアスフォデルのシュート系と根系を……失礼、土の下に隠れてる部分まで含めた全体がどんな形、伸び広がり方をしてるのかを正しく理解し、できるだけハッキリ思い浮かべる事。その上で、茎のてっぺんから根っこの端までのアスフォデル全体とそれに抱え込まれてる土を『まとめて1つのもの』として考える事。そしてこの『まとめて1つ』にアスフォデルが植わってる鉢を含まない事。いい?『アスフォデル』と『土』を一緒に持ち上げる。けれど『鉢』は持ち上げない。いいかしら?これは呪文学じゃなく薬草学だから、目的はあくまでも『アスフォデルの収穫』よ。自信がなければ『レヴィオーソ』でもいいし、杖をしまって手でやったっていいわ。大事なのは『アスフォデルに傷をつけない事』よ。さ、初めて!」

 

1年生たちはガーリック先生が語る「収穫していい育ち具合とはどのくらいか」の説明を聴きながら一斉に作業に取り掛かり、ダンブルドア少年も目の前にたくさん並んでいるアスフォデルの中から一番良く育っていると判断したものを手に取り、それに杖を向ける。

 

「……ウィンガーディアム・レビオーサ!」

「素晴らしいわミスター・ダンブルドア。グリフィンドールに3点!ではミスター・ダンブルドア。その桶の水を使って、根っこについた土を全て落としましょう。これも杖でやってもいいし、手でやってもいいわ。大事なのは『アスフォデルを傷つけない事』。さあどうぞ!」

 

ガーリック先生が杖を振ると水の張られた大きな桶が皆の傍の空いていたスペースに幾つも現れ、ダンブルドア少年は言われたとおり「次の作業」に取り掛かるべく空いた鉢を置き、引き抜いたアスフォデルの根っこに大量に着いてきた土の部分を慎重に持ち、一番近い桶の水に杖を向けた。

そしてまたハッキリとした発音で「浮遊呪文」を唱え水の塊を持ち上げると、その中にアスフォデルの根っこを突っ込んで手で慎重に揉みほぐす。

しかしそこでガーリック先生が別の生徒に声をかけた事で、ダンブルドア少年が作業を進める手は束の間停止した。

 

「ミスター・ロングボトム、ミスター・ロングボトム!」

 

そのグリフィンドールの男の子はビクリと反応し、怒られると思っているらしい悲壮な表情でガーリック先生を見る。

「ああ、違うわ。違うの怒ってないの。ただ、アナタがそのままのペースで作業を進めると、他の子の分が無くなっちゃうのよ………そんなに上手な子が居るなんて、私思ってなかったのよ。アナタは間違いなく、薬草学の才能があるわ!だって、そんなに速いのにすごく丁寧にアスフォデルを取り扱ってくれているのが見ててわかるもの!だから叱るなんてとんでもない!グリフィンドールに10点!アナタは素晴らしいわミスター・ロングボトム!」

ダンブルドア少年はそこで初めて自分以外の作業状況を見、自分を含めた殆どが未だ1鉢目と格闘している中、ロングボトムだけは既に10鉢近く引き抜いた上に2株洗い終えている事、そして土まみれの手に杖を持っていないのを見るに、どうやら一連の作業に魔法を一切使用せず全て手作業でやっているらしい事を見て取り、大いに驚いた。

 

「そっか……そうか……。それはそうだ……。なんで気づかなかったんだろう……」

「魔法を使わない方が早くて確実」というのは、ダンブルドア少年にとって目から鱗だった。

 

「ん?……こんなに根が広がっているものなのか。土の上に出ている部分より大きいじゃないか」

ずっと「なんで僕がこんな事しなきゃいけないんだ」と顔に書いてあった純血家系出身のスリザリン生ブルストロードはどうやら少し興味を惹かれたらしく、アスフォデルを取り扱う手付きと目つきが変わったのがガーリック先生には判った。

 

そして、ダンブルドア少年が必死でガーリック先生の事前説明や以前本で読んだ知識を脳内で反芻しながら、エルファイアス・ドージが完全にヤマ勘と勢いのみで、ロングボトム少年は自信を持って、やりがいを見出したらしいブルストロードは割と楽しげに、その傍のスリザリンの何名かは心底不愉快そうに収穫作業を終えた頃、ガーリック先生から、そこにいる全ての生徒にとって寝耳に水の宣告がなされる。

「さ、授業はここまで。皆が収穫してくれたアスフォデルはシャープ先生が明日魔法薬学の7年生の授業で使うそうです。みなさん、もちろん作業は丁寧に注意深く行いましたよね?シャープ先生は規格外品は受け取ってくれませんよ?」

それはもっと早く教えてほしかったと言いたげな1年生たちの中にあって、その女の子たちの態度は周囲の面々とはまるっきり異なっていた。

 

「えー、じゃあ私たちが採ったやつをギャレスが使うの?!!やったあ!!」

「えっあっそういう事?!ギャレスが???じゃあサチャリッサも?」

「アミくんも?ホントに??わーい!」

 

授業中ずっと仲良く一緒に作業していたハッフルパフの女の子とグリフィンドールのミス・ブラウン、そしてレイブンクローのヘスパー・スターキーや数名の女の子たちは飛び跳ねて喜び、暫くきゃあきゃあと騒ぎ続けていたが、ガーリック先生は最後まで「静かに」などとは言わなかった。

 

「………あれ?次の授業ってなんだっけ?」

 

ひとしきり喜び終わって冷静になってみたらなんにも覚えてなかったハッフルパフの女の子は、「まあ同じハッフルパフ寮のみんなについて行けばいいか」とすら思い浮かばないらしく斜め上を見つめたままポカンと口を開けて動かなくなった。

 

「……きみはこれから僕らと一緒に変身術の授業だよ」

「あ!そうだった!ありがとうダンブルドアくん!」

 

そっと教えてくれた優しくてなんでもできるダンブルドアくんに駆け寄って、その女の子はスキップなどしながら変身術の教室に向かうのだった。

 

「グリンゴッツでもとびっきり古い金庫だって言うから、何があるのかと思ったけど」

ダイアゴン横丁グリンゴッツ銀行の最下層。数百年前の創業者グリンゴットの時代からある12番金庫に足を踏み入れたポピー・スウィーティングは、専属の担当職員だという気のいいゴブリンと、この金庫の正式な所有者にこの度やっとなれるのだという友人が手続きを進めるのを尻目に、好奇心の赴くまま、その思っていたよりずっと広い金庫の中をあちこち見て回っていた。

(入り口からすぐのところがちょっとだけ『それっぽかった』けど―1クヌートすら無いんだ)

ポピーがそんな印象を抱いたとおり、そこが「数百年前の金庫」というイメージのままの内装だったのも、多少の貴金属類が積み上がっていたのも扉の傍だけで、奥に進んだ今ポピーの周囲に広がるのはむしろ「遺跡」と表現するべき空間だった。

 

「広いけどあんまり遠くに行かないでね」と釘を刺されていた事を、ポピーは向こうの方の暗がりに歩みを進めようとした瞬間に思い出し、足を止める。

「もう一歩先に進んでみて、ポピー」

いつの間にやら背後に来ていた青年にそう囁かれて、ポピーはよく分からないままそれに従う。

 

「ルーモス」

 

青年の杖灯りに照らし出されたのは、金属製にも見える見上げるほど大きな騎士像が今まさに剣を両手で振り下ろそうとしている姿だった。

「わああーー!!」

悲鳴を上げて逃げたポピーが元いた場所に、つまりは自分の頭上に振り下ろされるその大きな剣を青年は避けも防ぎもせず、ただ杖を気軽にクルリと回す。

大きな剣がそれを持つ巨大な騎士像ごと溶けるようにして形を失い地面に広がって薄くなり消えていく様を、ポピーは呆気に取られて眺めていた。

 

「今のって……」

「この12番金庫のセキュリティは僕が掌握してるけど、あんまり遠くに行っちゃダメだって言ったでしょ。危ないんだよ、ポピー」

「……ごめんなさい」

 

普段とは立場が逆になってしまった事が心に刺さっているのか、ずいぶんと声が小さくなってしまったその小柄な友人の顎に手を添えてムリヤリ上を向かせた青年は、その目をじっと見つめる。

「えっ、あっ。あ、あの」

状況が理解できず心も身体も言うことを聞いてくれないポピーは、2年前に人生で初めてできた人間の友人に至近距離で見つめられて、目を逸らすこともできずにどんどん顔が赤くなっていく。

 

「あーだめだ。ダメダメ。ポピーちょっと可愛いすぎる」

 

しかしその青年はすぐに大きく一歩後退してポピーから距離をとり、頬を染めて目を逸らした。

「ごめんねポピーこれ僕前から1回やってみたかったんだけど恥っずかしいんだねぇギャレスはよくもまあこんな事照れずにできるよね流石だよもうあー可愛いかった―」

なんか早口になった青年を見ているポピーは、自分の顔から湯気が立ち昇っている気がした。

 

「よそでやってくれねえかな」

 

提出期限が昨日だった白紙の重要書類を見つけた時の顔をしているそのゴブリンに心底うんざりした口調で声をかけられて、お年頃の2人は一気に正気に戻った。

「ほらこれ『控え』だ。実質的には今この瞬間から、手続き上はさっきお前さんが署名した瞬間から、この12番金庫の所有者は『パーシバル・ラッカム』からお前さんに変わった。正直この仕事暇過ぎるから頻繁に利用しに来てくれると俺が助かる」

差し出された箔押しの豪奢で大きな羊皮紙を受け取りながら、青年はそのゴブリンに微笑む。

「うん。『僕の次の子』がいつか現れた時のために保全しときたい場所だから、唯一まだ生きてる僕が所有権を持っときたかったんだけどまあ、普通に金庫としても使うつもりだよ」

 

そのゴブリンは青年の言葉を数秒かけて咀嚼し、口を開く。

「それも、誰にも言っちゃいけない話だな?」

「うん!あ、そうだ。これきみに渡そうと思ってた僕の記憶。ペンシーブ使わなくても、この小瓶の中身を直接目に滴らせればいいから、よかったら後で見て」

ゴブリンは手渡された小瓶を受け取り、訊いて当然の質問をする。

「……いつの記憶だ?」

「2年前。僕が初めてグリンゴッツに来た時。つまり、きみのお父さんが死んだ時の記憶。今すぐにそこのペンシーブで見せてもいいけど、僕はこの記憶1人で見たいから、君もそうかと思って」

ゴブリンはその小瓶をじっと見つめた後、また青年の目を見る。

 

「……感謝する」

「それ見たら、たぶん訊きたい事ができると思うから。そしたらふくろう送ってね」

 

まだこれを見ていないのに、終業時刻まで何時間もあるのに、もう涙が止まらなかった。

自分を育ててくれた父が死ぬところをこれから見るのだという辛さと、それを見られるのだというそれまで経験したことがなかった種類の嬉しさが、その年若いゴブリンを包んでいた。

2年前というのは、つまり昨日のようなものだった。

 

「僕もまだね、フィグ先生が死んじゃったの、1時間前くらいなんじゃないかって気がするんだ。変だよねえ。あれからみんなといっぱい幸せな思い出ができたし、毎日楽しいのにさ。なんか、心のどっかでさ。『それとこれとは別』なんだよね。どれだけ幸せでも、ずっと寂しいんだ」

穏やかに微笑みながらそう言った青年は、繋いでいる右手を握り返してくる力が強くなったのを感じて、隣を見る。

 

「……なんでポピーちゃんが泣くのさ」

「そんなの、私にだってわかんないよ……」

 

しかしそこで12番金庫専属職員を務める年若いゴブリンは、その青年の顔を見てしまう。

そして彼は、たまらず口を開いた。

 

「お前、そんな心に突き刺さるようなこと、『そんなもん』咥えたまま言うんじゃねえよ……どんな顔すりゃいいんだ…………」

 

未だ思い出の底から溢れてくる涙を止められず、さりとて湧き上がる笑いも止められないそのゴブリンは、自分で自分を制御できずに腹を抱えて笑いながら泣き続ける。

「ん?なんだいポピーちゃん」

「ぶっ、ふふふふふふ………ダメこっち見ないで……」

そして見つめているのを青年に察されて振り向かれてしまったポピーもまた、その青年の目ではなく口元のおしゃぶりに注目してしまい、吹き出すように笑い始めるのだった。

 

一方。変身術の授業を終えたダンブルドア少年は、ウィーズリー先生に褒めてもらえたのがよっぽど嬉しかったらしくいつもよりさらに上機嫌なハッフルパフの女の子に呼び止められた。

「ねえねえ、あのおねーちゃんもうすぐ帰ってくるんでしょ?私お出迎えしてあげたいの!」

そう言われて初めて、ダンブルドア少年は「まあそのぐらいしてあげるか」と思い、そこからさらに数分後、「どこで待ち構えていればいいのか」を判断できそうな7年生の先輩を見つけたところでやっと、そもそもあの「先輩」は「みんなはきっとお出迎えしてくれるはず」と思い込んでいるであろう事、そしてその「みんな」には恐らく自分も含まれているであろう事に気がついた。それ即ちお出迎えしてあげなかった場合、大いにグズるであろう事が容易に推測できる。

「ウィーズリー先輩、心当たりありません?あの先輩がどこから帰ってくるのか」

「ああ。グリンゴッツの12番金庫から帰ってくるんだから、まあ去年と同じあそこからだろうね―きみたちも一緒に来るかい?」

ギャレス・ウィーズリーは、自分の周囲にどんどん集まってきている下級生たちに呼びかける。

 

「ギャレスどっか行くの?私も一緒に行く!」

「ギャレスが行くなら僕も行きたい」

「あー!私だってギャレスの隣がよかったのに!」

 

どっちが手を繋ぐのかで言い争い始めたグリフィンドールの1年生の女の子2人を諌めるウィーズリー先輩を見ながら、ダンブルドア少年の心の中には感心と呆れが同居していた。

 

(この人の周りも、いつも賑やかなんだよな)

 

自分が7年生になった時、果たしてここまで後輩たちに慕ってもらえるような先輩になれているだろうかとダンブルドア少年は想像してみるが、7年生になった自分よりも4年生になった弟アバーフォースを先に想像してしまい、喧嘩っ早いあの子が4年生になんかなってしまったら僕じゃ太刀打ちできないんじゃないかと「その時には自分は7年生になっている」という事すら頭から吹き飛んだまま戦々恐々とするのだった。

「どうしたんだいダンブルドアくん」

結局左右の手を2人の女の子とそれぞれ繋ぐ事で納得してもらったらしいウィーズリー先輩に話しかけられて、ダンブルドア少年は内心を吐露する。

 

「いえ……弟のアバーフォースがホグワーツに入学したら、あの子も魔法を使えるようになってしまうんだなと思ってしまいまして」

「どんな子なんだっけ?」

「妹思いの優しい子なんです………けど、喧嘩っ早いんです。それもものすごく」

「それは心配だねえ。僕も兄とか弟とかいっぱいいるけど、妹も居るんだ」

 

危うく「まあウィーズリー先輩のお宅ならそうでしょうね」と言いそうになったダンブルドア少年は、ウィーズリー先輩を見ていると何故か少し気が楽になる事に気づいた。

 

そして場所が場所なので自分1人ではこの人数の後輩たちの安全を保証できないとすぐ判断したギャレスは、一切迷うこと無く的確に友人たちを見つけ出して一緒に来るよう誘っていった。

 

「え、ホントにこんなところなんですか?まだ森の奥に入るんですか?」

「そうだよダンブルドアくん。去年僕と一緒に行った時と同じ方法で帰ってくるならだけど」

「私、森に入るの初めて!」

「まあ、本来生徒は立入禁止の場所だからな。……お手数おかけしますローネン先生」

セバスチャンがスリザリンの寮監にして呪文学教授を務めるその先生に声をかける。

「構わんとも!」

「私も、森に入るのはすっごく久しぶり!」

「入った事があるのかサロウ。立ち入り禁止なのに」

「あっ、あっ。そっか。なんでもないです初めて!わーすごいこんなところなのね!」

マルフォイの鋭い指摘に慌てるアン・サロウの声を聴いて、その隣を歩くオミニスが笑う。

「授業で入った事があるということにすればいいだろうに」

ローネン先生は何年も前の規則違反を咎めたりはせず、ただそう言って笑っていた。

 

「え、わあ!」

 

ガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえてきたから警戒していた一行の前に暗がりから姿を現したのは、全身血まみれどころか肌も衣服も髪も隙間も無く赤茶色の血に染まったマホウトコロからの交換留学生にしてグリフィンドールの3年生、遠くニホンはサツマ出身のシマヅ少年だった。

 

「こんにちは、ローネン先生」

シマヅ少年は流暢なイギリス英語で話しかける。

「ああこんにちは。稽古だね?」

「はい。ここにはちゃんとした武道場や稽古場がありませんから、なにか良い練習場所は、できれば実戦形式で、それも杖のみに限らない訓練を積める場所は無いかとヘキャット先生にお伺いしたら『それなら森にいくらでも居る』と」

「ねえ血だらけよ!すごい血だらけ!大丈夫?」

「ああ。心配いらない。全部返り血だから。心配してくれてありがとう」

「……密猟者たちは?」

「首から下は簡単な塚を作って、そこに。動物はこの中に」

シマヅ少年は、ウィーズリー先生もしくは屋敷しもべ妖精のディークから渡されたのだろう大きな茶色いかばんを取り出して見せる。

「首は?」

「魔法省の、こっちじゃ魔法法執行部と言うんだったか。そこにフクロウで送る。手配犯かもしれないから。もしそうなら死人をいつまでも手配してたってリソースの無駄だろう」

そこまで聞いてやっと彼が今までこの森で何をしていたのかを理解したらしいエルファイアス少年が大きな声を出した。

 

「まさか、1人でやっつけたのか?密猟者って大勢でたむろしてるんだろ?」

「まあ人数は多かったが、連携ってやつがお粗末だったな。ところで皆はここで何を?」

あの先輩ならともかく3年生でそんな、と驚愕しているエルファイアス少年や他の1年生たちをよそに、オミニスは平然とシマヅ少年の質問に答える。

「外出してた友達がもうすぐ帰ってくるんで、迎えに行くのさ。一緒に来るかい?」

「ああ。せっかくたまたま出くわしたんだ。そうしよう」

 

そして新たに1人を加えた一行は、道中見つけてしまった密猟者の野営地を大きく迂回して回避しようとしたら抜刀突撃していったシマヅ少年が密猟者たちを殲滅するのを1年生を庇いつつ離れた位置からこっそり見物したり、いきなりローネン先生と7年生の先輩たちに視界を塞がれたせいでほとんどなんにもわからなかった事への不平を訴える1年生たちをローネン先生と一緒に宥めたり、帰って来たシマヅ少年に「ミス・リュウサキと刀の使い方がまるで違うのは何故か」と訊いてみたりなどした後、ついにその場所までやってくる。

 

「え、まさかここなんですか?なんですこの……遺跡というかそれ未満の残骸というか」

「待ってればわかるよ。ダンブルドアくん」

 

ダンブルドア少年が、わけもわからず言われるがまま待つこと数分。

 

「「え、あ、あれ?!!」」

 

その一部分だけ崩れずに残っている石造りの壁の前にいきなり現れたポピー・スウィーティングと、瞬きしたらもう居たようにしか見えていないダンブルドア少年が同時に困惑の声を上げた。

 

「やあアルバス。……出迎えに来てくれたのかい?それにギャレスも!アンもセバスチャンもオミニスも!それに皆も!ローネン先生まで!ありがとね!」

そこにいる全員をひとりひとりハグし始めた7年生の女生徒よりも、ダンブルドア少年は、その魔法生物好きなハッフルパフの7年生の先輩の事の方がどうしても気になっていた。

 

「あの、スウィーティング先輩。なんでおしゃぶり咥えてるのか訊いてもいいですか」

「反省って、行動で示すものだと私は思うんだ」

「そのよだれかけもですか」

「そう。笑っていいよ……」

 

自分は今見てはいけないモノを見ているのだと確信したダンブルドア少年をよそに、周囲の7年生の先輩方は皆、その程度いつもの事だと言わんばかりにワイワイガヤガヤと歓談を始めていた。

 

 





私の妄想の中で11歳のエルファイアス・ドージ少年がどんどん脳筋になっていく

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