2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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4.事情聴取

 かの有名な「生き残った男の子」が入学するより99年も前、1892年のホグワーツ。この年にも後のハリー・ポッターに勝るとも劣らない知名度と実績がある1人の偉人が他ならぬこのホグワーツ魔法魔術学校に入学していた。

 

「ウィーズリー先輩、いらっしゃいますか………あ居た。お2人とも」

 

 同級生と比べても明らかに背の低い男の子が、己の寮の談話室に入るなり言った。

 

 アルバス・ダンブルドア。20世紀末に亡くなった人物でありながら、21世紀の現在も未だに「今世紀で最も偉大な魔法使い」と称され続けている彼はしかし、まだ当時は11歳の小さな男の子だった。そして、ダンブルドアやハリー・ポッターとは比ぶるべくもないほど知名度も世に広く知られた功績も無い「前世紀で最も偉大な魔法使い」だと晩年のダンブルドア当人にだけ思われていた1人の魔法使いもまた、そこに居た。

 

 彼とも彼女ともハッキリしないその魔法使いは当時ホグワーツの7年生だった。

 

 パチパチと音を立てる暖炉や寮の色である赤を基調とした内装に、幾つものソファに大量のクッション、そして同じく寮の色があしらわれた制服に身を包む生徒たち。そこに在る全てが暖かみを感じさせるグリフィンドールの談話室で、その7年生は友人たちによって床に座らされていた。

 

「今回のはちょっと配慮が足りないと言わざるを得ないよ」

 

 燃えるような赤毛の男子生徒がそう言い、隣の女子生徒が「アンタがそれを言うの」と呆れている。目の前に立つ友人2人に説教されているその7年生は、説教されている事自体にいまいち納得していないらしく、反省するふりすらせずに頬を膨らませて横を向いている。

 

「オナイ先輩、ウィーズリー先輩。この人は何をやらかしたんです?」

 

 談話室に入ってきたばかりの後輩の質問に赤毛の男子生徒はニッコリ笑って答える。

 

「さっきの占い学の授業終わりにね。僕らが一瞬目を離した隙にスリザリンの談話室の入り口前に『✿よおこそスリザリンへ✿』『☆なかよし☆』って飾りつけしてたんだよ。もちろん勝手にね」

 

 それを聞いて呆れ果てるダンブルドア少年に、燃えるような赤毛のウィーズリー先輩の隣に立つナツァイ・オナイ先輩も続いて言う。

 

「で、他のスリザリンの奴らが通りがかる前に私らが見つけて即撤去したの」

「一緒に居たのがオミニスとセバスチャンで良かったよホントに。マルフォイとかが知ったらなんて言ったやら。それかもしブラック校長に見られてたら――」

 

 ギャレス・ウィーズリーのそんな言葉に続いて壁際のソファに座る生徒たちの中から飛んできた「またマルフォイ坊っちゃんの眉間のシワが深くなっちまうぜ。そろそろあそこに自分の杖を隠しとけるだろうさ」「そりゃ敵の虚を突くのに便利そうだな」という軽口に、何人かのグリフィンドール生が笑う。

「スリザリン寮は誤解されていますーぅ。みんな友達だもん」

 そう言って更に頬を膨らませるその7年生に、ダンブルドア少年が歩み寄っていく。

「先輩が『レイブンクローの談話室で』って仰ったから僕、ウィーズリー先輩にレイブンクローの談話室の場所と入り方訊こうと思ってここに来たんですけど」

 

「やあアルバス。ごめんねえナッちゃんとギャレスが解放してくんなくてね」

 ダンブルドア少年は「そりゃそうでしょうよ」と嘆息する。

 

「ルーカンも、リアンダーも!」ぐりんと首を動かして、今しがた軽口を飛ばした壁際の友人たちに頬を膨らませた7年生が声をかける。

「マルフォイとお茶した事ないからそんな風に言えるんだよ!もうね、超カッコイイんだから!それにマルフォイの作るチョコレートケーキすっごく美味しいんだよ!」

 

 その言葉によって少なくない衝撃が走ったグリフィンドールの談話室で、ギャレス・ウィーズリーの脳内にもまた電撃が閃いていた。

「そうか、マルフォイ。彼几帳面だもんな。テンパリングとか得意そうだよね………今度魔法薬の実験ご一緒できないか誘ってみよう」

 

 自分に説教していた友人の意識が僅かに余所事へ逸れた瞬間を、その7年生は見逃さない。

 

「僕アルバスとレイブンクローの談話室でお話するって約束だから行ってくるね!」

 

 そう宣言して瞬く間にダンブルドア少年を抱え上げ、風のようにグリフィンドールの談話室から飛び出ていったその後で、ナツァイ・オナイが呆れて笑う。

 

「まったく、もう」

「次見つけたらお説教の続き、するのかい?」というリアンダー・プルウェットの問いに、ギャレスもまた笑いながら返答する。

「しないさ。僕らに怒られてたって事なんかもう忘れちゃっただろうからね」

 

 その発言を冗談だと捉えたグリフィンドール生の何人かが笑ったが、件の7年生と特に仲がいい同級生たちの表情を見て静かになった。

 

「はい。ここがレイブンクロー寮の談話室の入り口だよアルバス」

 

 そう言った7年生の先輩がサッと杖を一振りして目の前の大きな扉に何やら飾りつけを施すのを見たダンブルドア少年は、それが「☆おいでませレイブンクローへ☆」「✦すごくかしこい✦」と象られているのを確認しながら思わず苦言を呈する。

 

「さっきの今で何してるんですか、先輩。」

「いいだろうこれ!」

 

 しかし得意げに胸を張るその先輩の背後からレイブンクローの男子生徒が2人、螺旋階段を登って談話室入り口の扉の前までやって来た。

 

「あ、やあアミット。それにヘクターも!どう?いいでしょコレ!」

 

 レイブンクローの7年生の中でも特に優秀なその2人は何のことかをすぐに察したものの、目の前でこちらを見ている共通の友人の「褒めてもらえる」「喜んでくれる」と信じて疑わないその太陽の如き笑顔に照らされて、お説教する気にはなれなかった。

 

「………入り口を装飾しに来ただけなのかい?」

 アミット・タッカーがそう訊くと、その生徒は笑顔のまま否定した。

「ううん、この子。アルバスにね、レイブンクローの談話室の場所と入り方教えてあげるんだよ」

 その言葉を聞いて、レイブンクローの7年生2人は揃ってダンブルドア少年をじっと見つめた。

 

「いいんじゃないかい?きみ、こないだの組分けで、あのエルファイアス・ドージって子と握手してたよね。グリフィンドールのテーブルの1年生で彼を避けなかったのはきみだけだった。見てたよ。あの時は良く冷静に判断したね」

 

「龍痘に感染した人間は肌が緑色になって紫色の腫れ物が全身にできて、くしゃみの度に鼻から火を吹く。火花どころか煙も出なくなってくしゃみもすっかり治まったらもう感染力は無いけど、たまに肌の症状だけもうしばらく治まらないって事があるんだよね。そしてそれを知らなくても『校長が入学を許可したからホグワーツに居る』ってのはちゃんと考えればわかる事だ。きみはちゃんと考えた。そうだろう?」

 

 見るからに優秀そうな2人のレイブンクロー生にそう褒められたダンブルドア少年は、難しい顔をして眉間にシワを寄せた。

 

「……………そうか、そうですね。………言われてみればアレ龍痘か。全然気にしてなかった。僕ただ『いいヤツそうだな』『友達になれたらいいな』としか」

 そしてダンブルドア少年は、彼なりの結論に辿り着く。

「結果友達になれたんだし、実際エルファイアスはいいヤツだったんだから………別に龍痘だろうがなんだろうが治ってようがどうだろうがそんな事は問題じゃないな」

 

 それを聞いていた2人のレイブンクローの7年生は、一気に笑顔になった。

 

「きみが今示したそれこそまさに他ならぬグリフィンドールの美徳だ」

「きみ、レイブンクローに欲しかったよ」

 

 そしてダンブルドア少年の目を暫し真っ直ぐ見つめたヘクター・フォーリーは、生徒の中では首席と監督生だけに許された特権を発動する。

 

「グリフィンドールに5点!勇気、良識。ゴドリック・グリフィンドールその人でもきっと同じようにきみを褒めただろう」

 

 生徒の中で監督生と首席だけは、先生方と同じように他の生徒に対して寮の得点を差配する権限を持つ。しかし監督生が減点ならともかく加点するというのは滅多にある事ではなかった。

「あー、ヘクターずるい!僕が昨日ハッフルパフの女の子に10点あげようとしたらダメだって言ったくせに!」

 そう言って頬を膨らませた友人に、ヘクター・フォーリーは冷静に言い返す。

「『可愛いから』じゃ理由として不充分なんだよ。あの子は可愛いけどさ」

 それを聞いたダンブルドア少年は急に大きな声を出した。

 

「先輩が『10点あげようとした』って、先輩も監督生なんですか??こんな人が?」

 

 その物言いに笑いを堪えられずに顔を逸らすアミット・タッカーを横目に、ヘクターはまた落ち着いて説明する。

 

「コイツは首席なんだよ。監督生は毎年度の始めに5年生から各寮2人ずつ選ばれて、1回選ばれたら卒業するまで監督生だから、つまり常に各寮6人ずつ監督生が居る事になるけど首席は違う。首席は毎年、7年生の中から男女1人ずつ選ばれる。つまりこのホグワーツに2人しか居ない『全生徒の模範にして代表』の片方がコイツ」

 

「…………この先輩のせいで例年より遥かに大変な重責を担っておられるのであろうその『もうひとりの首席』はどなたなんです?」

 ダンブルドア少年にそう訊き返されて、ヘクター・フォーリーはほんの少しはにかみながら自分の制服の胸の辺りを示した。

 

「何を隠そうこの僕がそうさ」

 

 お疲れ様です……と労いの言葉をかけるダンブルドア少年のすぐ隣では、同じくレイブンクローの監督生であるアミット・タッカーが友人の頬を両手で引っ張っていた。

 

「きみ、自分が『ホグワーツの全生徒の模範』であるべき職責を担ってるってホントに判ってるのかい…………?」

 割と強めに力を込めているらしいアミットに、その7年生は痛い痛いと訴えつつも抵抗しようとはしない。

 

「全生徒の模範たるべく僕ちゃんと心がけてるもん。いろんな授業を積極的に受けてるし、朝だって毎日すっごく余裕持って起きてるしさ!」

「先生方みんな優しいから減点だけで許してくれてるけど、自分が受講してるやつ以外の授業に勝手に参加しちゃダメなんだよホントは。きみ今日もハッフルパフの3年生の呪文学とグリフィンドールの1年生の『防衛術』に紛れ込んでたろ」

 

 その7年生の両頬をますます強く引っ張るアミットに、ダンブルドア少年が横から話しかける。

 

「あ、いえ。僕らの『闇の魔術に対する防衛術』はヘキャット先生のご指名で、お手伝いしていただいてたんですこの先輩に、………その、僕が」

 

 どこか負い目があるかのように難しい表情になってそう言ったダンブルドア少年を見て、ヘクター・フォーリーはその原因を察した。

 

「ああ、もしかして今日のあの、僕らレイブンクローの7年生が魔法薬の授業受けてた時に響いてきたものすごい音と震動、きみだったりする?」

 

 それを聞いて、やっとアミットに解放された7年生が自分の頬をさすりながらダンブルドア少年よりも先に横から肯定する。

「そうさ!それにねえ、アルバスほんとにすごいんだよ。基礎呪文であんな音出してたのにさ、ちょっとの練習ですぐ出力調節できるようになったの!密猟者は飛び散っちゃったのに、僕はこの通りなんともない!」

 

 レイブンクローの最優秀生2人、一を聞いて十を知るヘクターとアミットは、その説明だけで何があったのかを全て理解した。

「ああ。で、『詳しく説明してあげるから後でレイブンクローの談話室に』とか言ったわけか。ここはホグワーツでも早めに知っといたほうがいい場所のひとつだしな」

「じゃそろそろ入ろうか、いつまでも扉の前で喋ってちゃ他の生徒に迷惑だし。ダンブルドアくん、もう2歩前に。扉に鷲の形のドアノッカーがついてるだろう?ドアノッカーの使い方はわかるね?ノックするんだ。1回だけ」

 

 アミットに言われるがままダンブルドア少年はドアノッカーのすぐ前まで歩み出るが『2歩』はアミット基準であり、同級生と比べてもさらに小さいダンブルドア少年が所定の位置まで移動するのには5歩を必要とした。

 

「………で、ここからどうすれば」

 

 ドアノッカーを鳴らしたダンブルドア少年の疑問は、すぐに解消された。

 

「巨人とオカミーはどちらのほうがより大きいか?」

 

 目の前の鷲を象ったドアノッカーがいきなりそう問うたのを受けてダンブルドア少年はギュッと唇を結んで数秒、難しい顔で床を見つめた後、視線をドアノッカーに戻して回答する。

 

「巨人です。オカミーは通常15フィートほどですが、巨人は平均20フィートくらいあると本に書いてありました。そしてオカミーは自分が今いる空間の広さにあわせて大きくなったり小さくなったりすることができます。が、開けた屋外に居るオカミーが無限大の大きさになったという話は読んだことがないので、おそらくこの能力には、少なくとも「大きくなる」方向に於いては限度があり、それは成体の体長つまり概ね15フィートから大きく逸脱しないと………予想します。なのでオカミーが巨人より大きくなる事は……………ない、んじゃ………ないかなあと…………思います」

 

 オカミーについても巨人についても本で読んで知っていたダンブルドア少年だったが、回答している内に、背後で見つめている3人の7年生の内の1人はおそらく巨人もオカミーも生きた現物を観察した経験が豊富にあるのだろうと思い至って、本で得た知識しかない自分の推論にみるみる自信が無くなっていったらしく最後の方は聞き取るのが困難なほどの小声になっていた。

 

「良く考察しましたね」

 

 鷲の形のドアノッカーがそう称賛して通行を許可するのと、ダンブルドア少年の懸案事項だった7年生が「異議あり!」と声を上げたのは殆ど同時だった。

 

「僕のヘクターはそのへんの巨人なんかよりおっきくなれるよ!」

 

 それをすぐ横で聞いたヘクター・フォーリーは思わず声を上げる。

「まーたお前はそうやってひとの名前を勝手につける…………」

「ごめん。コイツのオカミーに『ヘクター』って名前つけたの僕なんだ」

 友人であるアミットの申し訳無さそうな告白はヘクター・フォーリーを驚愕させた。

 

 そして鷲の形のドアノッカーは「異議申し立て」に対する回答を行う。

 

「最も強力な毒薬と、最も強力な治療薬。より強いのは?」

「あー、第三者による異議申し立ては受け付けない。と………いいさいいさ。で、その質問の答えはー、えーと、えーと『人の探求心に限度は無い』」

 

「さあダンブルドアくん、いいかげん中に入ろう。歓迎するよ」

 そう言ったヘクター・フォーリーに誘われて、ダンブルドア少年は他2人の7年生の先輩方とともにレイブンクローの談話室へと入って行った。

 

「グリフィンドールの談話室とは、ぜんぜん違うんですね…………」

 

 入るなり立ち止まったダンブルドア少年はゆっくりと周囲を見渡しているが、そのダンブルドア少年をここに連れてきた当人は「わーいゼノビアだー!」と大きな声を出して談話室の端にいるレイブンクロー生の女の子たちの中へと飛び込んで行った。

 

「おっ、降ろしなさいよ!後で、後で遊んであげるから!」

 

 3年生のゼノビア・ノークを誰が止める間もなく両手で高々と頭上に掲げたまま逃げ回る7年生とそれを追いかける下級生の女の子たちというレイブンクロー寮にあるまじき光景は一切無視して、ヘクターはダンブルドア少年に語りかける。

「いいだろう?ここ。……あ。今『僕はグリフィンドールの談話室の方が好きだな』って思ったろう、きみ。顔に出てるよ~」

 

 申し訳無さそうに言い淀むダンブルドア少年だったが、その懸念や配慮も全て見透かして7年生のヘクターは笑っている。

 

「僕もグリフィンドールの談話室は素晴らしいと思うけど、いいかい?ホグワーツの生徒は皆きみと同じ事を思ってるのさ。『自分の寮の談話室こそ1番』ってね。けどここは、静かに宿題に集中したい時、特にエッセイとかレポートとかをやるのには最高の環境だよ。その点じゃ負けない。それにほら、外が見渡せるだろう?アイツがおかしな事始めてたらすぐ気付ける―ほら、そのへんにしときなさい。―静かに!」

 

 走り回るアホの友人と下級生たちを最低限の声量でピシャリと窘めたヘクターこそまさに「全ての生徒の模範」だとダンブルドア少年は思った。それにひきかえ。

 

「先輩は…………この2人と同じ7年生とは思えませんね」

 

 つい数時間前に『闇の魔術に対する防衛術』でお世話になった事や、森の中でその先輩の卓越した実力を目の当たりにした事などを全て勘案しても、それがダンブルドア少年の結論だった。

 

「僕に言わせればアイツこそ『全ての生徒の模範』だよ。今のあの振る舞いもね」

 ヘクターがダンブルドア少年にそう小声で囁いた事に、他のみんなは気づかない。

「アレのどこがです………?」

 ゼノビア・ノークを肩車したままレイブンクロー生の女の子たちが取り組んでいた宿題を見ているその先輩をじっとりと睨みながらダンブルドア少年が訝しむ。

 

「あの子。ゼノビア・ノークって言うんだけどね、あの肩車されっぱなしで降ろしてもらえてないあの子。一昨年は独りぼっちだったんだよ」

 ヘクター・フォーリーはより一層声量を落とす。

「あの子にも問題はあった。でも周囲の僕らにも問題はあった。それをアイツ去年、ひと冬まるまる使って解決しちゃった。丁度あんな風に皆を振り回してね。ゼノビアにも何か言ったみたいだけど―それはまあ僕らが囃し立てて良い事じゃないよね」

 

 何があったのかに思いを馳せる事しかできないダンブルドア少年の視線の先では、その当人たち、7年生の先輩と3年生のゼノビア・ノークが魔法史のテキストの穴埋め問題の見解が食い違って言い争いに発展している。

 

「だから『悪人エメリック』じゃなくて『奇人ウリック』だってそこ!」

「『奇人ウリック』は単にヘンテコだっただけの人で魔女狩りには関係無いわよ!」

 

 そんな2人の周囲の女の子たちの何人かが呆れ顔で笑っているのと同じく、ダンブルドア少年も遂に我慢できなくなり、言い争いに割って入る。

「もしかして『変わり者のウェンデリン』の話してます?」

 それだわ!と大きな声を出したゼノビアの表情が面白くて、周囲の女の子たちは更に一層笑顔になった。

 

「一応言っとくけど『奇人ウリック』は我らがレイブンクローの大先輩だよ」

 向こうのソファに座って読書を始めていたアミットから補足が飛んでくる。

「それにきみ、魔女狩りの話は一昨年の『編入生の為のO.W.L.試験集中対策会』でやっただろう?また忘れちゃったのかい?」

「その節は大変お世話になりました…………」

 

 そこでゼノビアと友人の女の子たちが取り組んでいた「3年生の魔法史の宿題」を見せてもらっていたダンブルドア少年の興味が、先輩たちの会話へと移った。

 

「編入生?ホグワーツに編入生が居たんですか?どんな人なんです?どちらからいらっしゃったお人なんですか?」

 

 ダンブルドア少年がそう言った瞬間、レイブンクローの談話室に居る大多数が―3年生以上の生徒は全員が―ある者は読書を中断し、ある者は宿題を進める手を止め、ある者は友人との会話を中断して、皆が一斉にダンブルドア少年を見つめる。

 

「えっ、え?僕なにか、………おかしな事を言ってしまったんでしょうか?」

 

 視線を注ぐ皆が皆、同じ事を思っていた―そうか、そりゃそうだ。知らないよな。

 

 狼狽えるダンブルドア少年は、ヘクター・フォーリーと目が合って視線を逸らし、アミット・タッカーと目が合って視線を逸らし、未だゼノビアを肩車したままの7年生と目が合った。その先輩は何がそんなに嬉しいのやら、ニッコリと笑っている。

 

「編入生ってのはコイツの事さ。コイツは一昨年、5年生として編入してきた。それも『転校してきた』んじゃないよ。一昨年の始めに、若しくはその前の年の終わり頃かな。とにかく僕らが15歳だった時に、コイツに魔法力が備わっていると発覚した」

 

 アミット・タッカーがその場の上級生全員を代表するかのように解説した。それが、「15歳で魔法力が発現する」というのが記録的な遅さである事は1年生のダンブルドア少年にも理解できた。だからこそ、開いた口が塞がらなかった。

「そんなにビックリしなくてもいいじゃん………」

 ダンブルドア少年の直ぐ側にいるその当の本人は、そう言って尚も楽しそうに笑う。

 

「じゃあ、先輩は、『7年生』だけど……『3年目』だって事ですか??それで………なのにもうあんな風に………?……そんなバカな」

 

 ダンブルドア少年は、数時間前に森で目撃した、密猟者の集団相手の戦闘ですらない「掃除」を思い起こしていた。大人でもあそこまで戦える魔法使いは稀だろう、と。しかも自分という足手まといを庇いながらの「掃除」だったのだ。

 

「僕ら7年生はね」アミットは話を続ける。「昨年度の終わり、『さあ今度の年は僕らの中から首席が2人選ばれるぞ』って時にね、皆が皆こんなふうに思ってたんだ。『誰が残りの1枠なんだろう』って。だって、誰がどう考えたって、2枠ある内の片方はコイツだ。首席を選ぶのがあのブラック校長だって事を勘案してもね。『もう1枠は古い純血家系から選ぶんじゃないか』とか『アイツとのバランスを考えて座学の成績と品行方正さで選ぶんじゃないか』とか去年の終わり頃色々噂が立ったけど、首席の片方がこのおバカだってのは誰も疑ってなかった」

 

 気恥かしさで挙動不審になり始めたその7年生を、まだ肩車されているゼノビアが頬をつついてからかっている。

 

「魔法について学び始めたその年に、どころか自分の杖をオリバンダーの店で買ったその日にそのままトロールと戦闘して勝っちゃった奴なんて、コイツ以外には聞いたことないね。サロウとオナイから聞かされても僕、暫く信じなかった」

 ヘクターもそう言って笑い、その7年生はもはや嬉しいやら恥かしいやらで表情も態度もドロドロにとろけてしまっている。

 

「まあでもあの時はホラ、勝てなきゃ死んでただろうし」

 

 とろけきった笑顔のままそう謙遜した7年生を見つめていたダンブルドア少年が、何かに気づいてその7年生に寄っていく。

 

「ん?なんだいアルバス」

「先輩の首席バッジ、『HEAD GIRL』なんですね」

 

 その7年生の先輩、たった今髪がブロンドの直毛から軽くウェーブした黒髪に変わったその背の高い筋肉質な青年にダンブルドアが問う。

 

「ああこれね。首席も男女1人ずつで、これ貰った時は僕、女の子だったからね」

「昨日から思ってたんですけど、どうなってるんですか先輩は。それにさっきの森でのアレも、説明してくれるって仰ったからここに来たんですけど僕」

 

 ダンブルドア少年に催促されて、やっと本来の目的を思い出した7年生の青年はゼノビアを降ろすと『HEAD GIRL(首席)』のバッジの隣に『HEAD BUTT(頭突き)』と刻印された模造品を追加してから、制服のズボンのポケットに片手を突っ込む。

 

「アクシオ!」

 

 取り出した旅行カバンを開いた青年は「ちょっとカバン見ててね!」と言ってダンブルドア少年の手をサッと掴むと旅行カバンの中に吸い込まれていった。

 

「アイツ今、杖無しで『呼び寄せ呪文』使った……?」

 開けっ放しの旅行カバンを閉めながら、ゼノビアが感嘆して声を上げる。

 

「あれ、見たことなかったっけノーク。去年他ならぬアイツと、それに触発された6年生と7年生の何人かで練習したんだよ。ほとんどの奴は結局できなかったけどね」

「アイツだけは杖無しで、百発百中でできるようになった。たった数日の練習でね」

 

 アミットとヘクターがそう言うと、談話室に居る他の7年生たちの一部も「そうだったそうだった」と頷く。そのまま「アイツ」の話題で7年生たちが盛り上がり、興味深げな下級生がそれに耳を傾けること数分。

 

 賑やかな談話室にもう1人、レイブンクローの7年生が入ってきた。

「我らがレイブンクローの談話室の入り口をごきげんに飾ってくれたのは誰だい?」

 声を荒らげるアンドリュー・ラーソンに、ヘクターが言う。

 

「訊かなくたってわかってるだろう。アンドリュー」

「『消失』させようとしたら文字が『♡♡やさしくして♡♡』に変わった!片付けるの手伝ってくれヘクター!」

 

 アンドリューに連れられて出ていったヘクターが座っていたソファの空いたスペースと、その隣に置かれた「旅行カバン」をゼノビアが見つめている。

 

「フォーリーったら全く、『見てて』って言われたのに」

 その場を立ち去ってしまったヘクター・フォーリーを責めるゼノビアに、アミットが隣まで寄ってきて声をかける。

「さっきのあれは僕らに言ったんじゃないんだよ。ほら、見ててごらん」

 アミットは向こうのソファで何やら話していた女の子たちに断って、彼女らが食べていたクッキーを1枚貰う。そしてそれを「旅行カバン」の傍の空中に差し出した。

 

「あ、知ってる!私知ってる!なんて言うんだったっけ………本で読んだのに……」

 

 空中に浮いたクッキーが欠けていき、無くなるのを見届けながらゼノビアが唸る。そして姿を現した白い毛並みに大きな目の猿のような生き物に、アミットは屈んで視線の高さを合わせてから優しく声をかける。

 

「やあギャレス。今日もお手伝いご苦労さま」

 

「ああ、ソイツが噂の『問題起こさない方のギャレス』か。確かに賢そうだ」

 傍のソファに座っている7年生の女子生徒がそう言い、アミットが肯定して笑った。

 

「たっだいまー!」

 

 そう言いながらカバンから出てきたのは、3年生のゼノビアより少し背が低いプラチナブロンドの女の子だった。しかし1年生を除いた談話室に居る皆の大多数は、その胸のバッジ以外には面影すら残っていない大きな変化に、驚きもしない。

 

「あら『問題起こす方の首席』が帰ってきたわ」

 

 続いて出てきたダンブルドア少年に「カバンの中で何の話をしていたのか」を聞き出そうとしているアミットを尻目にゼノビアがそう言うと、そのプラチナブロンドの女の子は頬を膨らませた。

 

「僕問題起こしたりしないも………!!……あんまりしな………今日はしてない!」

 

 言ってる途中でその言い分は通らないと自分で気づいたプラチナブロンドの女の子は声量が尻すぼみになり、モジモジくねくねと狼狽え始めた。

 

「したろ。これ」

 

 そこに戻ってきたアンドリューとヘクターに扉から撤去された装飾を差し出された、その「7年生の女の子」が自分の行いの何がいけなかったのかを理解するのには、アンドリューとヘクターとアミット、そしてダンブルドア少年の4人による根気強く順序立った説明を必要とし、結局その「7年生の女の子」が納得する頃には消灯時間が間近に迫って来ていた。




Q.ダンブルドアくんナゾナゾにマジレスしてない?
A,してるね。でもオカミーの特徴について正しく把握した上で考えて答えたのでセーフ

※首席が加減点できるかは公式で明言されていない。けど監督生が減点するシーンはあるし、首席は監督生を統括する係なんだから首席にもその権限あるでしょ(妄想)

Q.なんでレガ主ともうひとりの首席がヘクター・フォーリー?
A.だって魔法大臣になる(公式設定)から、じゃあ首席にくらいなってるだろう成績もトップクラスだろう、って思った

※首席=7年生から男女1人ずつ。生徒全ての代表にして規範。(公式設定)
※監督生=5年生時に各寮男女1人ずつ。一度選ばれると6年生になっても7年生になっても監督生であり続ける。つまり常に各寮6人、合計24人監督生が居る。(公式設定)

Q.つまり監督生24人と首席2人で合計26人?
A.いいえ。首席と監督生は兼任できるので総数は「24~26人」です。首席だし監督生でもあるという優等生の例が複数あります。

悪人エメリック=ニワトコの杖をかつて所有していた人。「極悪人エバラード」に負けた。公式設定それだけ。
奇人ウリック=文字通りのお人。レイブンクロー出身だそうな。
変わり者のウェンデリン=魔女狩りが吹き荒れている頃、好き好んで何度も何度も火炙りされた変態。「炎凍結呪文」の感触が楽しいらしい。
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